ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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この雪のせいで午後の打ち合わせがキャンセルになって、
原稿校正する時間が出来ました…いいのかこれで?
まあこの天気で東京から横須賀なんか来たくないよね。

今回は恐るべしドゥーチェという展開かな?


追記

第七話の海獣においてS-LCACに戦車を積載する場面で、
「六号艇に大洗と残りの支援車輛で」の部分で肝心の大洗が抜けていました。
修正致しましたので宜しくです。


第十話   ドゥーチェがドゥーチェたる所以

「あの…今度こそもういいよね……?」

 

 

 そう言ってラブは立ち上がり掛けたが、ダージリンによってパンツァージャケットの裾を掴まれて強引にソファーに座らせられる。

 

 

「ま・だ・一・番・大・事・な・話・が…残ってますわ!」

 

『一番大事じゃね~だろ、この色ボケ女……』

 

 

 全員そう思いはしても決して口には出来ない…口にすれば面倒な事になるのが解ってるから。

 

 

「えっと…なんだっけ~?」

 

『だからお前も火に油を注ぐな!』

 

 

 なおもシラを切ろうとするラブに皆の心のツッコミは止まらない。

 案の定ダージリンの目じりはつり上がりラブの襟元を掴み前後に揺さぶり噛み付いた。

 

 

「あの()()()()との気安い挨拶は一体なんですのと聞いてるんです!」

 

「あ、あぁ、アレ?き、絹代ちゃん良い子よね~♪」

 

()()()()()!?()()()()()ですって~!?」

 

「あ……」

 

『学習しろよ……』

 

「いい加減白状しなさいな!それに東京湾の雷鳴!あれはあなたの仕業でしょ!?」

 

「東京湾の…何ソレ?」

 

 

 ここで溜め息を吐いたアッサムが口を挟んだ。

 

 

「知らぬは本人ばかりなりですわね…ラブ、あなた達は大学選抜戦が終わった頃から人目に付かぬ時間帯に東京湾をS-LCACで行き来していたでしょう?私達も横浜に帰港した際に、一度あの轟音を聴いているの。かなり噂になっていたのよ、それにあれは今日搭乗したS-LCACの音にとてもよく似ているわ。東京湾の雷鳴と知波単、何か関係があるのではなくて?」

 

「やっぱりアッサムは手強いなぁ……」

 

「何か言いまして?」

 

「いえ別に…」

 

「それで?」

 

「えっと……」

 

 

 そこで言い淀んだラブはチラリとアンチョビに視線を向けたが即気付かれる。

 

 

「私がどうかしたか?」

 

「あのね、怒らないで聞いてくれる?…千代美」

 

「アンチョビだ!」

 

「ううん…出来れば千代美として聞いて欲しいの」

 

「なんだそれは?」

 

 

 少し俯いたラブは若干気まずそうに話し始めた。

 

 

「確かにその…東京湾の雷鳴だっけ?それはウチのS-LCACの音だと思う。時期も間違いないわ、ちょうどその頃私達だけ先に日本に戻って来たから。S-LCACの航続距離ギリギリまで学園艦で来て夜間にベース入りしたのよ。さっきも言った様に文科省の履修許可が下りていない以上、あまり大っぴらに動くのもまずいと思ったからね。」

 

 

 ここで顔を上げ一同を見回すと皆真剣に聞く姿勢を見せている。

 

 

「戻って来た理由はいくつかあって、これはその事とは関係無いんだけどね。それでその時に後から社用機で戻って来た亜梨亜ママと久しぶりに横須賀市街に出た時にね…千代美本当にごめんなさい…偶然にもお会いしちゃったの……横須賀警察署の……敷島(しきしま)さんに……」

 

「英子姉さん!?」

 

 

 敷島英子(しきしまえいこ)、嘗て榴弾暴発事故が起きた際に捜査を担当し、横須賀に駆け付けた千代美と不思議な縁で結ばれた横須賀警察署の切れ者で、更には高校時代は知波単戦車隊の隊長として上総(かずさ)の大猪、鬼敷島と呼ばれ勇名をはせた人物である。

 ここに居る一同も浅からぬ縁があり決して忘れられぬ名前であろう。

 

 

「出会ったのは本当に偶然だったの。先に敷島さんが私達に気付かれてね、敷島さんも大変驚いてらして…私は初めてお会いしたのだけど、亜梨亜ママと二人当時の事をお詫びさせてもらったの。そしてその日の夜お食事をご一緒させて頂いたんだけど、その時に話の流れで履修許可が下りず国内で練習も試合も出来ない事を話したら、それなら知波単とやればいいと西隊長を紹介して下さったのよ」

 

「そんな…英子姉さん私には一言も……」

 

「何度も言うけど本当にごめんなさい、私達からこの件に関しては固く口止めさせて頂いたの。何故ならまだみんなを巻き込みたくなかったのよ…笠女はその時はまだ微妙な立場だったしみんなの所も大学選抜戦で色々あったでしょ?だからウチに関わってまた迷惑を掛けたくなかったのよ」

 

 

 そう言うとラブは千代美に、そして一同に深々と頭を下げるのだった。

 そんなラブの頭を撫でながらダージリンが優しく語り掛けて来た。

 

 

「本当に馬鹿な子ねぇ、そういう事なら直ぐ近くに居る私達(聖グロ)に声を掛ければ良かったのに。立場で言ったらそれは絹代さんだって一緒でしょうに」

 

「ううん、それは違うわダージリン、違い過ぎるのよ。みんな知波単と言えば吶喊のイメージばかり先行すると思うけどよく考えてみて。あそこに居るのは良家名家の御息女ばかり、その家柄だけではなく政界財界に官僚、特に防衛や警察なんかにも多くの人材を輩出しているの。だから学校としての政治力で知波単に敵う学校は無いわ、そういう意味で云わば知波単は不可侵の聖域なの。迂闊に介入すれば当人だけの首が飛ぶ位では済まされないのよ」

 

 

 日頃どちらかと言えば下に見ていた知波単や、豪快にカンラカンラとよく笑う絹代のイメージとあまりにかけ離れたラブの話に一同困惑の色は隠せない。

 

 

「それが解っているからこそ敷島さんも知波単の西隊長を紹介して下さったのよ、お会いした西隊長も快諾して下さって私達もやっと国内練習が実現したのよ」

 

 

 ここでラブは千代美を見つめると再び頭を下げ話を続けた。

 

 

「だからね、千代美もどうか敷島さんを責めないであげてね、悪いのは私だから」

 

「解ってるよ、だからもう頭を上げてくれ、英子姉さんは常に先を見越して動く人だから」

 

「でも一番の恩人の千代美を騙す形になって私……」

 

「いいんだよ、これまでお前がどれ程苦しんで来たかに比べりゃどうって事ないさ」

 

「…ありがとう……千代美……」

 

「しかしなぁ…」

 

 

 ここでまほが首を捻りつつ不思議そうに声を上げる。

 

 

「そんな知波単で隊長まで務めたあの敷島刑事と言う方は一体…?」

 

「え?みんなまだ気が付いてないの?ねぇ、今の警視総監の名前は?」

 

「そりゃお前……!!!」

 

『え?え!?え゛────────!!!!!』

 

「ホントに知らなかったんだ…敷島家も代々警官一家で上層部に多く人材を輩出されてるそうよ、あの方も今は地元で武者修行の身だと仰ってたわ。亜梨亜ママに後で聞いたら将来は初の女性警視総監になるのではという程の逸材でいらっしゃるそうよ」

 

「え、英子姉さぁ~ん……」

 

「し、心臓に悪いから…も、もうこの辺でこれ以上驚かすのは止めてくれないか……」

 

「さすがにもう無いわよぅ…」

 

 

 アンチョビとまほの言葉を合図に一同ぐったりとソファーに深く座り込むしか無かった。

 ラブはちょっと困った様な顔で一同を見ていたが、ここでラブが右脚のホルスターに入れている携帯が着メロのパンツァー・リートを奏で始めた。

 

 

「相変わらず着メロはそれなんだな」

 

「あ、ちょっとゴメンね」

 

 

 懐かしそうにそう言ったまほに断りを入れラブは電話に出る。

 

 

「はい、あ、お疲れ様、うん、うん、了解よ~、今からそっち行くから~」

 

「どうした?」

 

「うん、私もそろそろパーティーの準備に入らないといけないの」

 

「そうか、でもあまり大袈裟な事はしなくていいからな」

 

「そうはいかないわよ~、今日はみんなに目一杯楽しんでもらわなくちゃいけないもの♪」

 

「張り切り過ぎるなよ」

 

「うん、まほ、ありがと。それじゃあみんなまた後でね」

 

 

 そう言うとラブは一同に手を振りつつラウンジを後にするのだった。

 

 

「疲れましたわ……」

 

「そう言わないでやっておくれよダージリン、言わせたのは我々なんだから」

 

「解ってますわよ()()()さん、それにしても英子()()()ねぇ……」

 

「あぁ!それは!!」

 

 

 一同アンチョビを人の悪い笑顔で見つめる。

 アンチョビは赤い顔をしつつ咳払いをして話題を変えた。

 

 

「オホン!まあアレだ、これで一先ず問題解決…と言いたいのだが、コレがそうも行かない」

 

「Why?どういう事よ?」

 

 

 ケイはソファーに預けていた身を起こすとアンチョビに問う様な視線を向ける。

 

 

「あのな、まず怒らず最後まで落ち着いて聞いて欲しい。私はラブのヤツは嘘は言ってないと思う、だが()()も言ってない気がするんだ」

 

「オイ!」

 

「西住、頼むから最後まで聞いて欲しいんだ」

 

「う……」

 

「済まない…ええと、それでだなどういう事かというと…まずひとつ目だがラブの右目の事だ。アレは恐らく全く見えていないか、良くて殆ど見えていないといった処だと思う。何故かと言うと僅かにだが顔を右に振る傾向があるんだ、気が付いて注意して観ていないと解らないレベルだが、昔はそんな癖は無かったしな。それに何よりあの傷だ、何も無い方がおかしいと思うのが普通じゃないか?それとな、東富士で蝶野教官が右目に言及し掛けたんだよ、その時ラブは言葉を濁してたのをみんなは覚えていないか?」

 

「そ、それは…だけど!」

 

「気持ちは解るが落ち着いてくれ西住。で、ふたつ目なんだがラブの左腕だ、最初におや?っと思ったのは例のAP-Girlsのメンバーと円陣を組んだ時なんだ。全員が隣りの者と肩を組んでいたのに、ラブのヤツは左腕だけあの愛っていったか?あの子の腰というかお尻の辺りに手を添えていたんだ。最初は私もしょうがないヤツだと思っていたんだが、その後の学校紹介で歌いながら突入して来た時に他のメンバーとラブだけが微妙に振付が違ったんだよ。それと歓声に応えるのに皆が両手を上げて振っていたりするのに、ラブだけが左手を腰に回して右手だけ大仰に胸に当ててお辞儀したりしてたんだよな。それにここまで観ていた中でラブが左腕を肩より上に上げた事は一度も無かったんだ」

 

 

 ここでアンチョビは目の前のすっかり冷え切ったエスプレッソで喉を湿らせると結論を言った。

 

 

「恐らく左肩に可動範囲制限があるんだと思う、このふたつに関しては私は確実だと踏んでいる。ただな、まだこれ以外にもラブは色々問題を抱えているんじゃないかとも私は思っているんだが……」

 

 

 このアンチョビの恐るべき観察力にこの場に居る者全員が内心舌を巻いていた。

 ほんの僅かな情報を掻き集め繋ぎ合わせ全体像に繋げて行くこの能力が、常に少ない手札、あるいは最悪ババ札しか手元にない状態でも強者と対等かそれ以上に渡り合って見せる、これがドゥーチェ・アンチョビの真の恐ろしさなのだと一同改めて思い知らされていたのであった。

 

 

「そしてだな、ここからがこの話の肝心な処なんだ…現状では、この先ラブには戦車道の選手としての将来は無いんだよ……」

 

「な…!オイ!いい加減に──」

 

「お願いだ西住!ここからが大事なんだ!頼むから最後まで言わせてくれ!」

 

「……」

 

「大声を出してスマン…それで…そう、高校時代はまだいいんだ、大学に行ったとしてそこもギリギリ何とかなるかもしれん。問題はその先、ラブがどんな方向に進むかは私にも解らない。家元として後進の指導に当たると言うなら問題は無いかもしれない、だが間も無く発足するプロリーグや世界大会の選抜選手となるとそうは行かん。確実にメディカルチェックに引っ掛かるだろう、私の言っている事はつまりそういう事なんだ」

 

 

 アンチョビが一同に視線を巡らすも俯いて言葉は無い。

 

 

「戦車道の選手にも僅かながらハンデキャッパーの選手は居る、だけど本当に極少数でそれだけでリーグや大会を開ける程の人数は居ないのが現実だ。これは世界レベルでも同じだと思う、戦車道ってそれだけ他の世界より厳しい世界だからそれは皆も承知しているだろう?それとね…これが一番言い難い事なんだけど、朝食後ラブがかなりの種類の薬を服用していたの覚えてるかな?多分ね…いや、絶対ドーピング検査にも引っ掛かると私は思うんだよ……カチューシャが言ったよね、あれは本当にラブなのか?って。確かに以前のラブとは違うと私も思う、元々騒がしいヤツだったけどあそこまで子供っぽかったり感情の振れ幅は大きくなかったはずだよ。そこら辺がラブの抱えてる一番重たいモノが起因してるんじゃないかと私は踏んでるんだ、あの服用していた薬の中には、その類の薬も含まれている可能性を私は否定出来ない」

 

 

 もう全員が硬直し顔を上げる事も出来ない、みほなどは青い顔で小刻みに震えている有様だ。

 だがここでアンチョビは声に力を籠め更に続けた。

 

 

「だからだ、だからこそなんだよ。ここから先、ラブの進む道の扉を我々が開いてやるんだよ。ラブが私達と対等に戦える事を周りに証明してやるんだ。環境が変わらないなら私達が変えればいい、私達ならそれが出来る。自分で言うのも何だが私達の世代は強いぞ、それは大学選抜との戦で十二分に証明したはずだ。幸いにというか皮肉にもというべきか私達はラブより二歩程先を歩いている、その私達がラブの進む道の地均しをしてやるんだ。何、ラブの事だ、直ぐに追い付いて来るさ。皆あの日誓ったのを忘れたか?ラブの百折不撓(ひゃくせつふとう)を信じると誓ったあの日の事を。私は忘れていないぞ。私はやる、たとえ一人でも必ずやって見せる!皆はどうだ!?」

 

 

 アンチョビのこの言葉に皆ハッと顔を上げる、その瞳には力強い光が宿っている。

 

 

「私は…いや、私達は一番大事な事を忘れていたな……」

 

「ええ、そうですわね…」

 

 

 まほとダージリンが顔を見合わせ力強く頷き合う。

 

 

「それでは皆私の考えに賛同してくれると理解していいんだな?」

 

「当然よ!そうでない者がいたら私が──」

 

「粛正ですね?」

 

「ノンナ!?」

 

 

 真っ先に立ち上がりいつものセリフを言おうとしたカチューシャだが、その後のセリフをノンナがどこか楽しげに遮ると、皆の顔にも笑いと共にその瞳には決意のこもった光が宿っていた。

 

 

 

 




一皮剥ける毎に小さくならず大きくなる話。
ラブの抱えるものも根が深そうだし…。

久し振りにその名が出た英子さんはまた成長してますw
それとお気付きでしょうが私は絹代さんも大好きですよ♪

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