ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

271 / 309
少々酷い腰痛でダウンしてました……。

物事は準備している時が一番楽しいなんて意見もありますが、
それはやっぱり好きな事や趣味に限った事じゃないかと思います。



第十二話   Preparation

「雪緒さん、ちょっといいでしょうか?」

 

 

 季節の花が咲き乱れる庭園の散策から城に戻り、途中立ち寄った温室で摘み取ったばかりのハーブで淹れたお茶で喉を潤した三人は、その夜の晩餐の仕込みでそろそろ本格的に忙しくなり始めた厨房から、仕事の邪魔にならぬよう退去しようとしていた。

 しかしその途中不意に足を止めたアンチョビは一人厨房に戻ると、料理長と打ち合わせ中であったメイド長の雪緒と暫くの間何かを相談するように話し込んでいたのだった。

 

 

「千代美何やってるのかしら?」

 

「さあ……」

 

 

 厨房を出ようとしたところで回れ右したアンチョビの背中をポカンと見送ったラブとまほは、これまでほぼ接点が皆無であった二人が話し込む姿にどういう事かと顔を見合わせていた。

 

 

「さあってまほ、アンタ何も聞いてないの……?」

 

「聞いてないよ、聞いてたら私だってこんなに驚きはしないさ……」

 

「そりゃあそうだろうけどさぁ……」

 

「解ってるんだったら言うなよ、面食らってるのは私も一緒何だから…あ、そうか……」

 

 

 アンチョビの突然の謎行動に怪訝な顔をする二人であったが、雪緒相手に身振りを交えて話す彼女の背中を見るうちに、まほも何か思い付いたのか少し考え込んだ後に真顔でラブに向き直った。

 

 

「あのなラブ…何と言うか、ちょっと頼みたい事があるんだがいいか……?」

 

「アンタまで何?急に改まった顔をして……?」

 

 

 アンチョビに続いてまほまでもが不審な行動を取った事で、二人揃って何なんだと訳が解らぬラブは彼女達の顔を交互に見比べ訝し気な表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「これが噂に聞くラブのピアノだったのか……」

 

「ちょっと千代美…なんかその言い方引っ掛かるものがあるんだけど……?」

 

「ああスマン、他意はないんだ…確かピアノのストラディバリウスだったよな……?熊本でお前からそう聞かされてただろ?実はあの後誘惑に負けてネットでどれ程の物か検索したんだ……」

 

「そっか…見たんだ……でもベヒシュタインにも色々あるわよ?」

 

 

 雪緒と何やら話し込んでいたアンチョビが戻った後、夕食までのひと時をのんびり過ごそうと三人はつい先程亜梨亜と面会した広間へ戻っていた。

 そこで初めて広間の片隅のピアノの存在に気が付いたアンチョビは、メーカーの名を確認してそのピアノが以前話に聞いた物である事を知ったのだった。

 

 

「こういう表現もどうかと思うが、そのベヒシュタインにもピンキリがあるのは解ってるよ…けどお前のピアノがピンなのは確実だろ?だから最上位らしいモデルの価格を見たら……」

 

「何でピンが確実なのよ…まぁそれはいいわ……で、価格を見たらどうだったのかしら?」

 

「解ってるクセに…そうだよ、価格は空欄でお問い合わせ下さいとだけ記されてたよ……」

 

 

 アンチョビが言うようにピンキリという言葉が果たして適切であるかどうかは別にして、実際に生前の両親から彼女に贈られたピアノは特注で作られた最上位に位置する存在であった。

 だがそれは単なる金持ちの思い付きや過ぎた親馬鹿が発露した訳ではなく、彼女の両親が娘の秘めた才能が只事ではない事を見抜き、その才能が存分に発揮出来るよう熟考しての事だったのだ。

 

 

「なんだ知ってたのか…価格が表示されているモデルですら思わず桁数を数えるぐらいに、ゼロがいっぱい並んでたからな……だから私も数えてる途中で恐ろしくなって、そっとメーカーのホームページを閉じたんだよ……」

 

 

 正直に白状して肩を竦めたアンチョビにラブも思わず笑いそうになったが、そこは何とか噴き出さぬように堪えて口元に苦笑を浮かべるのに留めていた。

 

 

「まぁ楽器って値段イコール良い音とは限らないから怖いのよね…実際古道具屋で埃を被ってたりフリマで二束三文だったギターが、ちょっと手入れして暫く弾いてやったら大化けしたなんて話はざらにある事だから……」

 

「そういうものなのか……」

 

 

 メーカーのホームページで下手な高級車より高額なピアノを見ていただけに、アンチョビには何処か理不尽な話に思えるらしく、腕を組み難しい顔で考え込んでしまう。

 

 

「フム…その辺は戦車にも通ずるものがあるかもしれんな……」

 

「それはどういう事だ西住……?」

 

 

 ピアノと戦車、全くといっていい程に共通項のない存在だけに、一体何処に通ずる部分があるのかとアンチョビは腕を組んだままの姿勢で身を乗り出す。

 

 

「ん?解らないか……?」

 

「解らないから聞いてるんだよ」

 

 

 まほが意外そうな顔をする一方で、アンチョビはいつもこうだと若干苛立った様子で言い返し、その棘のある声にどう説明したものかとまほも少し考えてから口を開いた。

 

 

「そうだな…ウチには流派同士の付き合いの関係で、時々これはさすがにもうどうにもならないだろうって状態の戦車が持ち込まれる事があるんだが、大抵の場合その手のダメそうな戦車もお父様が何とかしてしまうんだ……」

 

「何とかって…増々話が解らんぞ……?」

 

 

 まだ彼女が何を言いたいのか先が見えないアンチョビの表情は硬いままだが、それでも喧嘩腰になる事なく話を続けるよう身振りで促している。

 

 

「安斎もウチのお父様が極めて腕の立つ技術者である事は知っているよな?」

 

「あぁ…ドイツ本国の技術者達からも一目置かれる処か、マイスターとして尊敬を集める存在だとオマエから何度となく聞かされているからな……」

 

 

 確認するような問いにアンチョビが頷きながら答えれば、まほも満足そうに大きくひとつ頷いてから話の先を続けた。

 

 

「そのお父様の手に掛かればだな、例えどんなに状態の悪い戦車であっても見事に生き返るんだよ…それも只使えるようになるだけじゃなくて、相当に状態の良い戦車として市場でも高値が付くようなレベルに生まれ変わるんだ……」

 

「…成程そういう事か、漸く何が言いたいか解ったよ……しかしな、楽器というのは修理……この場合修復って言うのか?その修復する事でそこまで変わってしまう物なのか……?」

 

 

 それまで身を乗り出して話を聞いていたアンチョビが、腕組みをしたまま今度は逆にソファーの背もたれに身を預けて考え込むと、彼女と一緒にまほの話に耳を傾けていたラブがそれに答えた。

 

 

「ええそうよ…勿論元の保存状態にも大きく左右されるけれど、それまでジャンク同然でそれなりの扱いを受けて来たシロモノが、ちょっとした修理をしただけでまるで別物のような音色を奏でるようになったなんて話は割とよく聞くわね……」

 

「そうかぁ…けど身近な戦車なら何となく想像も付くが、話が楽器となるといまいちピンと来んなぁ……そもそもがそう簡単に治せるもんでもないだろうし……」

 

 

 これが戦車であれば慢性的に金欠のアンツィオに身を置いていたが故に、あの手この手で辻褄合わせな修理をするのはお手のものなアンチョビであったが、相手が楽器となると全くの門外で知識もなく、専門の工房で職人が地道に黙々と作業をしているようなイメージしか湧かなかった。

 

 

「ま~確かに楽器によってはそうかもしれないけどね~」

 

「何だって?そうじゃない楽器もあるのか……?」

 

 

 素人が迂闊な事をすれば、それこそまともな音が出なくなるであろう事ぐらいはアンチョビにも解っていたので、それを否定するようなラブの口ぶりに彼女もつい懐疑的なもの言いになる。

 

 

「そりゃ私のピアノやヴァイオリンなんかじゃそんな事したらそれこそ大惨事よ?けどこれがエレキギターになると話が違って来るわ…例えばジャンクをかき集めて正体不明な1本でっち上げるとかバンド組んでる子なら結構やってるし、楽器店に行けば交換用のパーツ類は当たり前に置いてるわね……他にもお茶の水の専門店には自作の為の素材も豊富だし、最近じゃ自作キットなんてのも売ってるから他の楽器と比べて自由度は高いかもね~」

 

「マジか……?」

 

 

 楽器の修理や改造などは専門の職人以外には不可能な事だと思っていただけに、思いもよらぬ話にアンチョビも妙な声と共に再びその身を起こしていた。

 

 

「こんな事で嘘を吐く理由が何処にあるの?私達のステージ用のメインエレキは各メーカーから専門スタッフが来ているからさすがにやらないけど、それぞれがプライベートで所有してるエレキなんか自分の好みに合わせて好き勝手に改造してるわよ?」

 

「全員がか……?」

 

「私も含めて全員がやってる事よ」

 

「全員がやってる事……」

 

 

 楽器以前に音楽に関する知識は一般程度しかないアンチョビにとって、たった今ラブから聞かされた話は全てが驚き以外の何ものでもなかった。

 

 

「エレキは楽器の中で一番ハードな使われ方をするから、その分トラブルも多いし消耗も激しいわ…だからある程度の事は自分で対処出来なければエレキの維持は難しいし、その辺を人任せにするようじゃ正直使う資格もないと思うわ……」

 

「う~ん…何だか話だけ聞いているとエレキギターというのは、どうにも壊れ易い物のように思えてならんなぁ……」

 

 

 戦車と同列視する訳ではないが、まほの目にはエレキギターが非常に脆弱で直ぐに壊れる物に見えるらしく、道具としてそれでいいのかと不信感を抱いているようであった。

 

 

「アンタね、何でも戦車基準で考えるのよしなさいよ…大体戦車道で使う事が出来る戦車だって、どれもこれもほぼ100%構造的欠陥を抱えててしょっちゅう故障してるんだからさ……けどまぁぶっちゃけエレキは……特に本場アメリカ製のエレキがぶっ壊れ易いのは確かね、実際私もステージで演奏中にペグ…つっても解んないわよね?弦を巻くのに使う部品の事なんだけど、そのペグが抜けちゃったりマスターボリュームのノブが転がり落ちた事もあったわね……」

 

「は?」

 

「何だってぇ……?」

 

 

 AP-Girlsのデビュー以降何度となくそのステージを見て来た二人は、これまでにそんなトラブルに気が付いた事はなく、彼女の告白に驚き言葉を失っていた。

 

 

「何て顔してんのよ?この程度のトラブルなんてステージに立ってりゃ日常茶飯事よ?これはアメリカ製に限った事じゃなく、張り替えたばかりの弦を切っちゃったりアンプに音を送るシールドが断線したり、それこそ細かいトラブルは枚挙に暇がないわ……でもこれは私達だけに起こる事ではなくて、この世界にいる者ならステージに上がる限り何度でも経験する事なのよね~」

 

 

 その派手なステージ上のパフォーマンスの影に、それ程多くのトラブルが発生していたなど思いもしなかっただけに、二人は事も無げに話すラブの顔を驚きの目で見つめていたのだった。

 

 

「あのさぁ…折角春休みで遊びに来てるんだから、こんなネガティブな話ばかりするのは止めにしない……?次のステージの準備もあるし、今からそんな事ばかり考えてると気が滅入るんだけど?」

 

「次のステージ……?」

 

「何処かの学校と対戦が決まってるのか?」

 

 

 AP-Girlsがステージに上がる事は即ち試合があると認識している二人は、ラブからステージの準備があると聞いただけで直ぐに彼女達が何処の学校と戦うのかと色めき立っていた。

 

 

「二人の母校だって今は新年度の隊員の受け入れ準備で忙しいでしょ?特に黒森峰なんて入隊予定者の事前選考で、今頃エリカさんだって大忙しで対外試合処じゃないはずよ?」

 

「それはまぁ……」

 

 

 自分も在校中は新年度にそれで散々苦労していたので、その事を指摘されたまほも少々バツが悪そうに言葉を濁していた。

 

 

「何処の学校だって大なり小なり似たような理由で忙しいはずよ?そんな時に試合申し込んだってそれ処じゃないし、そもそもがこの時期は学園艦を離れて帰省してる子が多い時期じゃない」

 

「確かに……」

 

「それじゃ今やってるステージの準備ってのは一体何の為に……?」

 

 

 ラブの指摘に仰る通りとぐうの音も出ないまほとは対照的に、試合がないのに何故ステージの準備が必要なのかとアンチョビは疑問を呈する。

 

 

「何の為って、新入生歓迎ライブの為よ」

 

「新入生?あぁそうか新入生ね…え?新入生……?」

 

 

 ラブの口から飛び出た新入生という単語に最初は曖昧に頷いたアンチョビであったが、ひと呼吸置いてその単語を反芻すると驚いた顔で目をパチクリさせたのだった。

 

 

「何よ千代美、何て顔してんのよ……?」

 

「いやだってオマエ…今新入生って言ったよな……?するとアレか?AP-Girlsもメンバーが増えるって事なのか?え…なんで……またどっかからスカウトして来たのか……?」

 

「千代美アンタねぇ…ナニ訳の解んない事言ってんのよ……?笠女だって高校なんだから普通に受験して入試にパスした子達が入学して来るに決まってるじゃない」

 

 

 開校から間もなく一年が経過する三笠女子学園も年度が替われば新一年生を迎え、ラブ達も二年生となり新体制で全国大会に臨む事になる。

 勿論アンチョビ達もその事は最初から解ってはいたが、如何せんラブが直接自分で秘密裏に集めたAP-Girlsの一期生達があまりに強烈過ぎて、これ以上の人材など集まらずAP-Girlsは彼女達一代限りの限定的なチームになるだろうなどと、頭の中で勝手に思い込んでいた節が見受けられた。

 

 

「受験…笠女に入試があったのか……」

 

「あのねぇ!れっきとした学校法人が生徒集めなくてどうするのよ!?」

 

 

 アンチョビに続きまほまでもが驚いた顔で間の抜けた事を呟くと、さすがのラブも腹立たし気に語気を強め目の前のおバカコンビを睨み付けていた。

 

 

「そ、それぐらいは解ってるよ…けど普通に募集を掛けて入試をやっても、今のAP-Girlsメンバーみたいな人材が集められるものなのかと思ってだな……」

 

『う~ん…それ以前に芸能活動はともかくとして、あのAP-Girlsの常軌を逸した強さを見てよく受験する気になるヤツがいたもんだな……』

 

 

 またもラブを怒らせてしまいまほは必死に言い訳をする一方、アンチョビはAP-Girlsのデタラメぶりに臆する事なく受験する者がいた事に驚いていた。

 

 

「ったく私らを何だと思ってるのよ……」

 

「悪かったよ…ただ笠女は特殊な学科ばかりだし、戦車道も実質厳島流の家元直轄の門下生チームな訳だろ……?更にこれはアッサムからの又聞きだが、短期留学したオレンジペコ君曰く笠女の授業内容は凡そ高一が学ぶレベルではないそうじゃないか?一体偏差値はどれ位なんだ?ラブのいる芸能科の受験者数がどの程度いたかは知らないが、合格者がそう多いとも思えないんだが……?」

 

 

 ラブがヘソを曲げた事でまほも釈明に追われていたが、それでも自分なりに気になっていた事を思い切って質問していた。

 

 

「…また答え難い事を正面切って聞いて来るわね……」

 

 

 例えどれだけ亜梨亜とラブが先を見越して事を進める事に長けていたとしても、全てが二人の思惑通りに進む訳ではなく、笠女の開校前から状況に応じてプランに修正を加える事はこれまでに幾度となく経験していた。

 そしてたった今まほが突き付けた疑問は目下ラブにとって最大の懸案事項であり、その質問に自然とラブの表情険しくなるのだった。

 

 

「確かに生半可な学力じゃウチでは全く通用しないのは事実よ…でもね、それは私達の芸能科に限った事ではなくて、全学科に当てはまる事なの……だから入学希望者が果たして我が校のカリキュラムに付いて来られるか見極める為にも、入試のハードルも必然的に高くなるのも当然だわ……」

 

 

 昨年の秋に富士で再会を果たして以降何かと笠女と関わりを持つ事が多かっただけに、まほとアンチョビも笠女が超難関校である事はある程度把握していた。

 だが今改めてその事に言及するラブの声音は、落ち着いていながらも形容し難い凄みのようなものを内包し、それに気圧された二人も思わず息を呑むのであった。

 

 

「けれど現実問題としてその高過ぎるハードルがネックになったのは確かよ…それが原因で二期生の選考が難航したのもまた事実……」

 

「それじゃあ……」

 

 

 やはりその特殊性故に人材の確保で苦労し、戦力の増強は困難を極めるであろうという予想が的中したかとアンチョビとまほの表情に緊張が走る。

 

 

「あぁ、勘違いしないで…笠女の芸能科を受験する以上、受験生も相応の学力と戦車道選手としての実力は兼ね備えている子達よ……まぁ中にはかなりチャレンジャーな子もいて、そういう子は書類選考の段階で脱落したけどね……とにかく、いくつもの難関を乗り越えて合格した芸能科の新入生はちゃんと存在するし、その子達を含めた全ての学科の新入生を迎え入れるライブの準備で春休みもそれなり忙しいのよ」

 

「もしかして私達が部屋に行った時に、愛の姿が見えなかったのもその為か……?」

 

 

 自分達がラブの部屋を訪れた時、彼女の着替えを介助する為に一緒に部屋に引き上げたはずの愛の姿が見えなかった事を思い出し、アンチョビは何となく気になっていた事を聞いてみた。

 

 

「そうよ、まだセトリ…セトリって言うのはセットリストの略で、ステージで歌う曲の順番をリスト化した物の事ね……で、そのセトリも歌う曲順でもめて決まってないし、その他諸々春休み中にやらなきゃいけない事を副長の愛を中心に分担して片付けてるのよ」

 

「なんか増々忙しい時に済まないな……」

 

 

 今回の横須賀訪問が自分達の都合など一切お構いなしに決められていた為に、ラブ達の予定に影響が出たのではないかとまほは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「それは気にしなくていいわ、息抜きは必要だしあの子達も二人が来るのを楽しみにしてたのよ?」

 

「そうか…けどいいのか?忙しいのにお前だけ遊ばせてるみたいでな……」

 

「それこそいいのよ…何の為に愛を中心に準備させてると思ってるの……?何でも私が決めてたらあの子達の自主性が育たずに、あらゆる場面で全てを私に依存するようになるじゃない……もしそんな事になったら、個の判断力を重視する厳島流にとって最も好ましくない事態になるわ」

 

 

 AP-Girlsのリーダーであるラブは同時に厳島流の家元でもあり、彼女の下で厳島の戦い方をその身に叩き込まれている少女達にとっては、直接戦車道に関係なさそうに思える事ですら自己鍛錬の一環として課題を課されていたのだった。

 

 

「お前がそう言うなら…だが少しハードワーク過ぎないか?さっき私達が城に着いた時もロードワークやってたじゃないか……そりゃあ黒森峰も他校に比べれば確かに色々と厳しいかもしれんが、その黒森峰にいた私から見ても笠女の…AP-Girlsのカリキュラムは相当過酷に思えるんだが……?」

 

 

 高校戦車道の頂点に君臨する黒森峰は学生の本分である学業も疎かにする事は許されず、それに付いて行ける者だけが生き残る事が出来る非常に厳しい環境であった。

 だがその黒森峰ですら息抜きをする時間はそれなりに設けられていたので、常に何かしらの課題に取り組んでいるAP-Girlsの日常はハードなものであるとまほの目には映っていた。

 

 

「そう見える?結構余裕あるんだけどな…実際放課後なんかは遊び歩いてたりするし……」

 

「あんま無理はするんじゃないぞ~?特にオマエはAP-Girlsのリーダーと隊長やってる上に、厳島流の家元なんて肩書背負って二足の草鞋処じゃない状況なんだからな」

 

 

 慣れもあるだろう事はアンチョビも何となく理解はしていたが、それでも事故の後遺障害という肉体と精神的なハンデを抱えるラブが、あまり無理をし過ぎないようやんわりと釘を刺した。

 

 

「チーム立ち上げの頃に比べりゃ今は遥かに楽よ?でも気を付けてはいるから安心して」

 

「お前がそう言うなら信用するが……」

 

 

 あまり心配性を発揮しても却って意固地になったラブの機嫌を損ねるだけなので、アンチョビもそれ以上の事を言わずまほも神妙な顔で二人の顔を交互に見比べていた。

 

 

「ええ大丈夫よ、ライブの準備だってああだこうだ言いながら楽しんでやってるんだからね」

 

「う~ん、新入生歓迎ライブねぇ…それってやっぱり観客は新入生だけなのか……?」

 

「そうね、後は入学式に列席した新入生のご家族だけでそれ以外の客は入れないわ、このライブの主役はあくまでも新入生であって来賓等まで招待するつもりはないの…けどそれが何か……?」

 

「そうか…そりゃあそうだよな……いやな、いつもなら後でネット配信とかあるから今回もそうなのかと思ってな……」

 

 

 信用すると言ったアンチョビに軽く肩を竦めたラブは、実際に何も問題はなくAP-Girlsのメンバー達も新入生達を迎え入れる準備を楽しんでいると言い切った。

 そしてそれを聞いたアンチョビも硬くなっていた表情を緩めたが、今度は少し様子を窺うようにライブが公開されるのかどうかを気にしていた。

 

 

「あぁ、もしかして見たいの?今回は完全にシークレットだからね…記録用の映像でよければ、後でDVDか何かに焼いて見せてあげようか……?」

 

「あ、いやいいんだ!変な事を言ってスマン!」

 

「一般公開するつもりはないけど、千代美達なら言ってくれればいつでも見せてあげるわよ?」

 

「ホントいいよ、最近すっかりそれが当たり前で図々しい事を言ってしまった!」

 

 

 ラブならそう答えるのが解っていたのに、つい厚かましい事を言ってしまったとアンチョビが慌てて両手を振りながら発言を撤回しようとする。

 

 

「うん、確かにそのライブも興味を引かれるな……」

 

「オイ西住ぃ……」

 

 

 しかしその傍からまほの空気読まない呟きが飛び出して、あまりのタイミングの悪さにアンチョビも思わず顔をしかめる。

 

 

「けど今はライブよりラブのピアノの方が聴きたいんだが…それでその、今日はラブのピアノは聴かせて貰えるんだろうか……?」

 

「アンタはもう……」

 

 

 何を言い出すのかと渋い顔をするアンチョビとは対照的に、自分に正直ながらそれを上手く言葉に表す事が出来ないまほの不器用さにラブはただ苦笑していた。

 

 

 




アンチョビとまほはそれぞれ何かサプライズの準備をしているようですが、
それが何かは次回という事でw

私も結構な数のジャンクなエレキギターを所有していますが、
時々適当に合体させて変なギターをでっち上げたりしてますww

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。