ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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本当にお金持ちのやる事はもうね…。




第十一話   洋上の女帝

 アンチョビの決意に皆が賛同し想いを新たにした時、艦内にサイドパイプの音が鳴り響くと共に艦内一斉放送が流れた。

 

 

「達する、こちら艦長の黒姫だ。本艦はこれよりその態勢を歓迎態勢に移行、総員全力を以ってこれに当れ…手ぇ抜いたら相模灘(さがみなだ)にたたっ込むよ!者共!祭りの準備だ!」

 

 

 艦内のあちこちから一斉に歓声が上がる。

 それを待ち構えていた様に迎えに出ていたスーパースタリオンも帰投して来た様だ。

 

 

「何だか一癖も二癖もありそうな艦長殿だなぁ…うん?ウチのドラッヘも一緒に飛んでるな、どういう事だろう?全員は乗り切れなかったかな?」

 

 

 まほがそう疑問を口にしている間にもスーパースタリオンと黒森峰のドラッヘが、宿舎のラウンジから見えるヘリデッキに次々着艦すると、機内から続々と隊員が吐き出されスーパースタリオンは再び離艦して行ったがドラッヘのみデッキに残っている。

 そのドラッヘに隊員達が駆け寄るや機内からいくつもの樽が運び出され始めた。

 

 

「そういう事か、ウチの艦長も中々粋な計らいをするじゃないか」

 

「どうしましたの?」

 

 

 ダージリンの問い掛けにまほは苦笑交じりに答える。

 

 

「いや、何ね、どうやらドラッヘで黒森峰名物の麦ジュースを樽ごと空輸して来たらしい」

 

「まあ」

 

「そういう事ならウチも抜かりは無いぞ」

 

「Hey!サンダースだって負けてないわよ!」

 

 

 口々にそう言い始めた処を見ると、どうやらそれぞれ自慢の逸品を持ち寄るらしい。

 そんな中ダージリンとアッサムの二人だけが微妙に悔しそうにしている。

 

 

「せ、聖グロだって…」

 

「いやいやいや!」

 

「気にするな!」

 

「むしろ何も気にしないでくれたまえ!」

 

 

 やはり一同聖グロの英国面な飲食物には何がしか思う処がある様だった。

 その後スーパースタリオンが帰投する度人員と物資が大量に降ろされ、ヘリデッキはちょっとした物資の集積所の様相を呈する程となっていた。

 そして漸く学園艦で埋まる駿河湾を脱した各校の学園艦が、更に沖合に轡を並べたのは陽も完全に没し暫く経った頃で、結局その殿(しんがり)は最後まで足止めされたアンツィオとなった。

 

 

「ささーげー!銃!」

 

 

 号令と共にらつぱ隊による吹奏が始まり、乗艦して来た各学園艦の艦長が特別儀仗隊による栄誉礼を受礼しているがその表情はどこか緊張と笑いを堪える様な雰囲気が浮かんでいる。

 

 

「いやあ、栄誉礼なんてウチ(黒森峰)でも滅多にやりませんよ」

 

「サンダースに儀仗隊なんていたかしら?」

 

 

 そんな会話に苦笑しつつ笠女学園艦艦長の黒姫は答える。

 

「ホント申し訳ありません、儀仗隊の連中がどうしてもやらせろと聞かなかったもので、でもこの後はもう堅苦しい事は一切ありませんので存分に楽しんで行って下さいね」

 

「それにしても一年生で艦長職とは恐れ入りますわ」

 

「いやまあ笠女はまだその一年生しかおりませんので」

 

「そういえばそうでしたわね、相当訓練もなさったのでしょう?」

 

「最初の頃は毎晩泣いていましたよ、でも一応最新鋭ですので大分楽はさせて貰っています」

 

 

 そう話す黒姫の表情に来春には卒業する先輩艦長達は何処か懐かしいものを感じていた。

 かくして役者も揃い七校合同の大晩餐会はもう間も無くその幕を開ける。

 

 

「なんなのよこの広さは──っ!!」

 

 

 カチューシャの絶叫が響くその空間は確かに広い、大量に並ぶテーブルと料理の山、集まった七校の隊員を収容してもまだ余裕があり、前方にはステージも組まれている。

 

 

「あ、ここはね~、私達AP-Girls専用のライブアリーナなのよ~♪」

 

『ふぁっ!?』

 

 

 そう聞かされた一同の顔は完全に目玉ドコ?

 まあそうなるのも仕方がない広さを誇る空間であった。

 

 

「だってこれから私達はこの艦で全国回るでしょ~?その時試合とかするのに合わせてライブ活動もするの~。寄港中はね学園艦も開放して来艦して頂いた方達に楽しんでもらえる様、都市部や艦内もね一部は云わばテーマパークになってるのよ~。私達のライブ活動やテーマパークから上がる収益が、この学園艦を運用する資金の一部にもなるのよ~」

 

「この商魂の逞しさが厳島か……」

 

 

 アンチョビは自身のアンツィオでの苦労を考えガックリと肩を落とす。

 

 

「でもみんなからお金なんか絶対取らないわよ。それとこれから戦車道で対戦する相手からもね、お相手してもらった感謝の気持ちとして私達の歌を聴いてもらうんだ~♪尤もそういう時に歌うのも授業の単位になるんだけどね」

 

「太っ腹なのかセコいのかよく解らん…」

 

 

 まほも呆れ顔で周囲を見回しながらブツブツと呟くが、軽く四桁を超える人数に豪華な晩餐を無償で提供する厳島の財力には脅威を感じざるを得ない。

 そして程無くして集まった者達の手にグラスが行き渡った頃合いを見計らい、第1種礼装に身を包んだ艦長の黒姫が自身もグラスを手に正面のステージに登壇した。

 

 

「お集まりの皆様、高校戦車道観閲式並びに大戦車行列、大変お疲れ様でした」

 

 

 この黒姫の第一声に会場からも笑いが起き、それに黒姫も笑顔で応える。

 

 

「本日は三笠女子学園学園艦に御来艦頂き誠に有難う御座います。私が本艦の艦長を務めさせて頂いております黒姫小町(くろひめこまち)と申します、以後お見知り置きを。っとまあ堅っ苦しい事は抜きにして存分に楽しみましょう!グラス、行き渡ってますね?有難い事に黒森峰の艦長殿より名物の麦ジュースを御提供頂きましたのでそれで乾杯と行きましょう♪他にも各艦よりご自慢の品々が届き一層豪華な晩餐となりました、誠に感謝の極みです。それでは不肖私黒姫が乾杯の音頭を取らせて頂きます──」

 

 

 その瞬間ラブとそこに集う一同にスポットライトが当てられる。

 ここで改めて会場を見渡した後黒姫はグラスを掲げこう続けた。

 

 

「我らが笠女戦車隊の厳島隊長とその素晴らしき御友人達の再会を祝して乾杯!!」

 

『カンパ~イ!!!』

 

 

 グラスの合わさる音が鳴り響きここに空前の規模の戦車乙女の宴が幕を開けた。

 

 

「も~!小町ちゃ~ん泣かさないでよ~♪」

 

 

 周りの皆も照れた様に頬を赤らめつつも微笑んでいる。

 しかし一様にその瞳は少し潤んでいた。

 ここに至るまでの道程を思うと胸に込み上げて来るものがありそれもまた無理からぬ事だろう。

 お互いにそれを茶化しつつも再びグラスを合わせているのだった。

 

 

「このローストビーフ美味しいですわ~♪」

 

「うおっ!五十鈴殿もう五枚目でありますかぁ!?」

 

「あれがあんこうチームの強さの秘訣なのか!?」

 

「やだも~!華!恥ずかしい~!!」

 

「私も負けていられませんわ!リミッター外しちゃいますわよ!」

 

「こら!ローズヒップ止めんかこの馬鹿!」

 

「ルクリリ様ももっと淑女らしくして下さいまし…」

 

「いやおもしれ~からやらしてやれって~」

 

 

 あっと言う間に所属や学年の垣根に関係無く隊員達が交わりグラスを交し合い、どのテーブルも実に賑やかで会場中至る所で笑いが沸き起こっている。

 その様子をラブも実に嬉しげに眺めつつ自分も会話に花を咲かせていた。

 

 

「どうした?お前あまり食べてないじゃないか」

 

「あ、まほ大丈夫よ、まだこれから一仕事あるから今は控えめ。勿論後でいっぱい食べるわよ~」

 

「一仕事?まだ何かあるのか?」

 

「まほ~、何の為にここを会場にしたと思ってるのよ~?私達の歌をみんなに聴いて貰う為よ~」

 

「お!ラブ、AP-Girlsが歌うのか!?」

 

 

 アンチョビが嬉しそうに首を突っ込んで来た。

 

 

「そうよ~♪全開で行っちゃうんだから~!」

 

「そうか!そいつぁ~実に楽しみだ!」

 

「うん♪それじゃ~そろそろいっちゃおか!」

 

 

 そう言うやラブが鋭く指笛を吹くと、会場中に散ってそれぞれ談笑したりしていたAP-Girlsのメンバーが一斉にステージに駆け上がって綺麗に整列する。

 ラブが後に続きステージに上がると一本のマイクスタンドがステージセンターにせり上がる。

 そのスタンドからラブは通称ガイコツマイクなどと呼ばれる銀色に光り輝くボーカル専用マイクを外すと優雅に一礼して挨拶を始めた。

 

 

「みんな~!楽しんで貰ってるかな~?笠女学園艦にようこそ~♪改めて自己紹介させて貰います。私が三笠女子学園戦車隊隊長、そしてボーカルユニットAP-Girlsのリーダー厳島恋です!どうぞよろしく~♪今日はこれまでの感謝の気持ちを込めて、私達の歌を聴いて貰おうと思います。だからみんなも精一杯楽しんで下さいね~!」

 

『Yeaaaaaaaaah!』

 

 

 沸き起こる拍手と歓声、それを受けてAP-Girlsのメンバーがステージ上で大きな円陣を組む。

 

 

「AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

「いちいちアレをやらんと始まらんのか~」

 

 

 苦笑するアンチョビの前でステージ上のメンバーがポジションに散って行く。

 アップビートなイントロにスモークにレーザーと派手な演出でステージが始まり、AP-Girlsのメンバーもいきなり全開で踊り始め、そのパワーにその場にいた者全員が圧倒される。

 しかしあっと言う間にテンションが上がり会場は大騒ぎとなった。

 このAP-Girlsというグループのメンバー達はとにかく歌が、そしてダンスが上手いのだ。

 それはとてもまだメジャーデビュー前とは思えないレベルの完成度で、およそ今売れている様なグループでも太刀打ち出来ないのではと思える程であった。

 そして何よりラブが観客を乗せるのが巧い、煽るタイミングがまた絶妙で会場全体をグイグイと牽引してどんどんボルテージを上げて行くのだ。

 

 

「Excellent!彼女達ハンパないわ!」

 

「え!?なんですの!?」

 

 

 ケイの声に自身もラブに煽られ拳を振り上げながらダージリンも大声で聞く。

 

 

「AP-Girlsは凄いって言ってんの!」

 

「そんなの見てれば解りますわ!もう最高ですわー!!」

 

 

 気が付けばステージ前のスペースに皆詰めかけノリノリで曲に合わせ踊っている。

 ステージセットもかなり大掛かりなもので、Love Gunがせり上がって来た時には皆度肝を抜かれていたが、それは精巧に造られたレプリカで、砲塔を旋回させたりしながら長砲身50㎜から紙吹雪やテープを発射し会場を更にヒートアップさせていた。

 そのLove Gunの砲塔上に登り歌いながら会場を煽るラブの姿はまさにステージの女王だ。

 また、途中MCを交えつつ十数曲を一気に歌い切ったAP-Girlsのタフさも特筆ものだろう。

 特にアンコール曲は圧巻であった、ステージ上にそれぞれオリジナルペインティングを施した25本のエレキギターがせり上がり、メンバー全員が横一線に並び一斉に激しくかき鳴らしたのだ。

 ステージ前の盛り上がりもこの時最高潮に達し、メンバーがステージを降りてなお、その拍手は暫く鳴り止まない程の盛り上がりを見せた。

 

 

「ふ~!どうだった~♪楽しんで貰えたかな~?」

 

「ああ!たまげたよ、実に見事だったぞ!」

 

 

 アンチョビがラブを抱き寄せると身を屈めさせ両の頬を交互に擦り寄せ称賛の言葉を掛ける。

 

 

「私達はね、作詞作曲にアレンジ、演奏も全て自分達でやってるのよ。舞台装置も音響にしても全てウチの生徒のみでやってるの、凄いでしょ!?」

 

「それは増々驚きだよ!」

 

 

 心底感心したアンチョビは再び頬擦りをしてラブを称え、ラブもまた嬉しそうに目を細める。

 

 

「CDの発売が楽しみね!買わないヤツは粛正ものだわ!」

 

 

 そう言うカチューシャの横でノンナも同意とばかりに頬を上気させつつ頷いている。

 周りの者も興奮の色を隠そうともせずラブに称賛の言葉を浴びせており、また他のAP-Girlsのメンバー達も同様に会場のあちこちでサインをねだられたり大勢の人間に囲まれていた。

 

 

「みんなに喜んで貰えて嬉しいな~♪これからも応援よろしくね~!」

 

「ああ!勿論だとも!」

 

 

 そう言うまほの頬も興奮で朱に染まっておりステージの熱狂ぶりが窺えた。

 

 

「あ~、喉が渇いたしお腹も空いた~!」

 

「さあ、たっぷりと召し上がりなさいな」

 

 

 席に着いたラブの両側からうっとりとした表情でダージリンとアッサムが甲斐甲斐しくドリンクや料理をお給仕し始める。

 

 

「ん~、私女王さまだよね~♪」

 

 

 そんなラブのセリフにまた一同から楽しげな笑い声が巻き起こるのだった。

 周りのテーブルでもさすが体力勝負の戦車道選手達、再び旺盛な食欲を発揮して食事を楽しんでいて、その姿にラブも満足げな笑みを浮かべ自分も料理に舌鼓を打っていた。

 その後食事も一段落した頃になるとラブの元にもサインを求める者が続々と集まり始め、その集まった者達は一様に頬を赤らめ目をハートにして熱っぽい視線でラブを見つめている。

 

 

「転ぶヤツ続出だなぁ……」

 

「昔もあったな、こんな事…」

 

「あ~、全国大会の時とかな~」

 

 

 アンチョビとまほがその光景をどこか悟った様な諦めた様な顔で見ながらぼやく。

 ラブは昔からモテる、特に年下の可愛い女の子に。

 その美貌と戦車道という女性社会故仕方ないといえば仕方ないが、ラブの場合そのモテ方がハンパなく、中学時代など他校の戦車隊にまで親衛隊が存在していた程だった。

 

 

「しかし今の一年生達は大胆だな…今の子なんかツーショットの写メのドサクサにラブのアハト・アハト触ってたというか揉んでたぞ」

 

「よく見ろ、あれ黒森峰の隊員じゃないか」

 

「何!」

 

「ああ、今度は聖グロの隊員だ…ラブ、オマエもさり気なくお尻を触るな…」

 

「そろそろ止めさせないと本気でヤバそうな気がして来たんだが」

 

「確かになぁ……」

 

 

 二人は頷き合うとラブとサインやら写メをねだる一年生達の間に割って入ると、そろそろこの辺りで開放してやれと言ったものの、目をハートにした子達もそうそう引き下がらなかった。

 

 

「西住たいちょー!それはさすがに横暴ですー!」

 

『そーだ!そーだー!』

 

 

 大洗連合以上の結束力を見せ各校入り乱れた一年生達が一斉に声を上げる。

 

 

「こりゃダメだ……」

 

「諦めるの早っ!」

 

「そうは言うがオマエはこのピンク色の集団に対抗出来るのか?」

 

「うぅ…それは……」

 

「ハイハイ!皆そこまでにしなさいな」

 

「これ以上は粛正するわよ!」

 

 

 ここで一年ズを持て余す二人にダージリンとカチューシャが助け船を出すが──。

 

 

「隊長達だけでラブさまを独占するのはズルいですぅ~!」

 

『なっ!』

 

「ですぅ~ってあのな……」

 

「頭が痛くなって来たぞ…」

 

「まあまあ、私は一向に構わないから~」

 

『おだまり!』

 

 

 綺麗にハモってラブを黙らせる隊長達に周りから一斉に笑いが起こる。

 こうして賑やかに祭りの夜は更けて行くのだった。

 

 

 




やっとAP-Girlsのメンバーの名付けは終わったけど、
どうやって出すかがまた大変…。

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