ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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大変お待たせ致しました、漸く本編の投稿も再開です。
改めて本年も恋愛戦車道を宜しくお願い致します。


第二十一話   アリガトウ

「本来なら監督教員不在で動かすのはマズいって知ってるわよね?まぁウチの場合は私が厳島流の家元で指導員資格があるからいいんだけどさ……」

 

 

 旋回式ペリスコープを使わずに操縦席を上げてハッチから顔を出したラブは、ブツクサと文句を言いながら操縦桿を操りLove Gunを演習場に向けて走らせていた。

 本来の遊びに行く予定を変更しまほのLove Gunを見たいという希望を優先したまではよかったが、いざLove Gunを前にすれば当然見るだけでは収まるはずもなく、再び折れて乗る気満々なまほの願いを叶えてやったラブは不満タラタラで操縦桿を握っていたのだ。

 

 

「それぐらいは解ってるよ……」

 

 

 いつもであればラブにこの手の嫌味を言われれば、まほも即座に言い返していただろう。

 しかし今日に限っては無理を言ってLove Gunに乗せて貰っているので、コマンダーキューポラに収まるまほもあまり強い事を言えないようであった。

 

 

「う~む…走行中である事を差し引いても砲塔の旋回速度が随分早くないか……?それとさっきから見てて思ったんだが、操縦桿一つとっても動きがえらいスムーズだよな……いや、より厳密に言うならスムーズなのは砲塔だけじゃない、ありとあらゆる稼働パーツの操作性が普通では考えられない位軽くなってるじゃないか……何をどうやったら戦車の操作性がこんなに軽く出来るのか、私には全く想像が付かんぞ……?」

 

 

 まほの足下で砲手席に収まるアンチョビは、射撃演習場の射点に向かう道中で砲塔の旋回運動を始め各部の点検がてら動作確認を行っていたが、力任せが基本な戦車でありながらこのLove Gunに限っては一切負荷らしい負荷が掛からない事に舌を巻いていた。

 

 

「…その辺は注ぎ込む金額に左右されるわね……」

 

「…そうか……」

 

 

 先立つモノで苦労して来たアンチョビには申し訳ないが、少数精鋭の厳島流にとっては神速に例えられる程の高速機動こそが最大の武器であり、パンターのカスタマイズに当たりラブが最も重視したフリクションロスの低減による操作性の向上を実現する為に、資金を惜しまなかった事を言い難そうにしながらも認めていた。

 ラブが工科校に依頼して技術的に何をやったかまでは解らないが、それを実行する為には多額の資金が必要であろう事は予想していたアンチョビは、返って来た答えにやはりそうかと苦い顔で頷いたのであった。

 

 

「見えて来たわ…あれがウチの射撃演習場よ……」

 

「あれが……」

 

「凄いな……」

 

 

 

 黒森峰やアンツィオに比べ艦のサイズ自体が遥かに小さいのでその規模もずっとコンパクトなものだが、丘を越え長い下り坂の先に見えて来た射撃演習場は遠目にも設備が整っているのが解るらしく、アンチョビとまほも期待感に胸躍らせるのであった。

 

 

 

 

 

「初めに言っておくけど、今日使えるのはペイント弾だけだからね……?」

 

「ああ、撃たせて貰えるだけで充分だ…無理を言って済まなかった……」

 

 

 いくらラブが家元で指導員資格保持者とはいえ、学校側にほぼ無断で設備を使用している事に変わりはないので、まほも一切不満を言ったりするような事はなかった。

 

 

「しかし本当に凄いな…そのタブレット一つで設備が全てコントロール出来るとは……」

 

「普段この手の手間の掛かる事は、設備課の子達が全部やってくれるんだけどね…基本的に人手不足な学校だから可能な限り機械化と自動化しておかないと、とてもじゃないけどやって行けないってのがこの学校の実情よ……」

 

 

 学園艦としての規模が最小に近いからという訳ではなく、その高度な教育カリキュラム故に笠女へ入学する為のハードルも非常に高く学校自体が生徒数の少ない少数精鋭のエリート校だったので、必然的に笠女の設備は最小限の人員でも運用出来るよう徹底的な機械化と自動化がなされていたのだ。

 

 

「生徒数もだが、艦内人口自体がまだ少ないよな?」

 

「見切り発車で開校したのが影響している事は否定しないわ……」

 

 

 あの事故さえなければラブはまほと共に黒森峰に入学し、本来なら当初の計画通り笠女の開校はもう少し先の事になるはずであった。

 しかし失意の底から立ち上がり厳島流の家元を襲名した彼女が闘う舞台作りの為に、母である亜梨亜は全ての計画を大幅に前倒して笠女の開校を急いだわけだが、その結果として笠女学園艦は未だ未完成な部分も多く人員も揃い切っていなかったのだ。

 

 

「ま~アレだ…厳島の運営する学園艦に乗艦するんだから、人員の選考基準のハードルだってそれなりに高そうだしなぁ……」

 

「…会社の求人とはちょっと違うと思うんだけど……」

 

 

 グループ全体で見れば毎年新規で採用する人数は相当な数に上るが、応募者に求められるスペックも非常にレベルが高く、そのオーダーを満たして難関を潜り抜けられる者はそう多くはなかった。

 とはいえアンチョビの当てずっぽうに近い発言もあながち外れでもなく、ラブも彼女の予想をあまり強く否定する事が出来ずにいた。

 

 

「さ、これでいいわ…それでどうするの?撃つのは千代美からでいいのかしら……?」

 

「ああそれで構わない、最初は私が装填手を務めるよ」

 

 

 操縦席からタブレットを操作して標的のセッティングを終えたラブが砲塔を見上げれば、コマンダーキューポラから装填手席に移動していたまほがそれに答えた。

 

 

「了解よ…で、距離はどうする……?」

 

「500mから頼む…私はオマエら程射撃が上手い訳じゃないんでな……」

 

 

 慣れぬパンターの砲手席で射撃手順を頭の中でおさらいしていたアンチョビは、パンターが装備する70口径7.5㎝ KwK 42戦車砲であれば大概の敵を葬る事が出来る距離を指定していた。

 

 

「フン、よく言うよ…あれだけデタラメに走り回りながら相手に機銃を浴びせといて、射撃が上手くないとかどの口が言うんだ……?」

 

 

 高校に進学してからは対戦する事が叶わなかったが彼女の闘いぶりは常にチェックしていたし、中学時代も戦績こそ一方的な結果ながら楽に勝てた記憶など皆無なまほは、両手をグーパーさせて自前の皮手袋の感触を確かめながら自らを低く評価するアンチョビに鼻を鳴らした。

 

 

『何でコイツはこんなモンまで持って来てんだ……?』

 

 

 小馬鹿にするもの言いに腹を立てるより先に、まほが装填手用の皮手袋を持って来ていた事に呆れたアンチョビは、直ぐに何かを言い返す事が出来なかった。

 

 

「あんなの下手な鉄砲だ…当たったって効果がなきゃ何も意味がないだろうが……とにかくそういう訳だから500mの射点にLove Gunを移動させてくれ……」

 

「了解……」

 

 

 多少険のある口調で愚痴を零したアンチョビの指示にラブは気のない様子で短く答えると、軽くアクセルを吹かしスムーズな動きで操縦桿を操りLove Gunを射点に向けて前進させたのだった。

 

 

 

 

 

「全くオマエというヤツは……」

 

 

 操縦桿を握るラブが標的から500mの射点にLove Gunを停車させると、一旦コマンダーキューポラから顔を出したまほは、大分あちこちでオリーブドラブの塗装も剥げ使い込んだ感のある距離計内蔵の双眼鏡を覗き込み、砲口から標的までの距離がピタリ500mである事に気付き化け物を見る目でラブを見ていた。

 

 

「だから西住、何でオマエはそんな物まで持って来ているんだ……?」

 

 

 例え事故の影響により()()な視力を失っていても、持って生まれた超常的な距離感を発揮し標的までの距離を合わせるラブにすっかり呆れるまほであったが、皮手袋のみならず距離計付きの双眼鏡まで持参している彼女にアンチョビは呆れていた。

 

 

「ウム、これは高等部に上がった時お父様が贈ってくれたモノだからな」

 

「私が言ってるのはそういう事じゃねぇ……」

 

 

 まほから頓珍漢な答えが返って来るのはよくある事だが、こんな時までかよと言いたげアンチョビは砲手席で顔をしかめる。

 

 

「あのさぁ…時間がもったいないからそういうのは後にしてちゃっちゃと始めてくれる……?」

 

「あぁスマン……オイ西住!」

 

 

 ラブにせっつかれ本来の目的を思い出したアンチョビは、コマンダーキューポラに登ったままのまほを大声で呼び戻すと自分は砲手席に座り直し照準器を覗き込んだ。

 

 

「あ~あ…同じ75㎜ながらこの差はなんとも……せめてP40もこの砲を積んでりゃなぁ……」

 

 

 操作性一つとっても元々優れている上にラブが徹底してフリクションロスの低減を追及した結果、Love Gunは操縦系に限らずあらゆる可動部分が戦車とは思えない位に操作が軽くなっていた。

 やり過ぎレベルに手間も金も掛かっているLove Gunの主砲と、苦心して手に入れたP40の主砲を比べるのは自分でも酷だと解ってはいるが、最早別次元とも言える操作性の違いにアンチョビもつい溜息交じりのボヤキを洩らしていた。

 

 

『ん?何だコレ…もの凄く照準合わせが楽に感じるけど気のせいか……?』

 

 

 しかし照準器を覗いているうちに、あまり視力の良くない自分でも格段に照準合わせが楽に感じる事に戸惑いを覚えていた。

 

 

「千代美……?」

 

「え?あぁ、問題ない照準ヨシ!」

 

「ペイント弾装填完了!」

 

 

 だがアンチョビが戸惑いあれこれ考え始める前に操縦席のラブが彼女の名を呼ぶと、その声で我に返ったアンチョビは雑念を払うように頭を振り射撃に意識を集中させていた。

 すると打てば響くの絶妙なタイミングでまほが渾身の力を拳に籠めペイント弾を装填し、閉鎖機が閉まる音にLove Gunの車内は俄かに緊張感が高まる。

 

 

「撃て!」

 

 

 そして本来なら車長が下す砲撃命令を阿吽の呼吸のお手本のようなタイミングでラブが出すと、アンチョビも見事それに応え発射ペダルを踏み込み、辺り一帯の空気を激しく震わせてLove Gunに搭載されたラインメタル製70口径7.5㎝ KwK 42戦車砲が火を噴いた。

 

 

「初弾からブルズアイに当てるとはさすがだな安斎」

 

 

 ラブの指揮の下アンチョビが発射ペダルを踏み込み、Love Gunの主砲が耳を弄する轟音と共にペイント弾を撃ち出すと、それとほぼ同時に尾栓が開き空薬莢が自動的に排莢される。

 すると素早く装填手席を抜けだしコマンダーキューポラから顔を覗かせたまほは、500m先にある標的のど真ん中に咲いたけばけばしいピンク色の花を目視で確認しアンチョビを賞賛したのだった。

 

 

「オイオイオイ、ちょっと待ってくれ……」

 

 

 しかし当のアンチョビの方は標的を見直しながら、何やら腑に落ちぬ様子で首を傾げていた。

 

 

「ど~する~?もう一発撃つ~?」

 

「いや、次は1,000mで頼む……」

 

 

 いつも通りラブの日本語は妙に間延びしているが、それでいて何処か探るような彼女の声に思考を中断させられたアンチョビは、下手に時間を費やしてまたラブの機嫌が悪くなっては敵わないと射点を変えるよう即答していた。

 そしてその後も500m刻みで後退しながら距離を伸ばし、最大射程まで砲撃を繰り返したアンチョビは、結局全弾ブルズアイを射抜く弓道で言う処の皆中を達成していたのだった。

 

 

『これは一体どういう事だ……?』

 

 

 自ら射撃下手と言い切る気もないがやはり目の悪さは覆しようもなく、射撃精度がそれ程高くない事は彼女自身が一番良く解っているつもりだった。

 にも拘らず結果の方は出来過ぎ処ではない好成績であったので、さすがにこれはおかしいと疑問を抱き難しい顔をしていた。

 

 

「よし、それじゃあ今度は私の番だな」

 

 

 しかしそんなアンチョビの疑念を知ってか知らずか、砲撃前の高揚感に興奮を隠そうともしないまほは右の拳を左の掌に景気よく撃ち付けると、今度は握っていた拳を開いた右手でアンチョビに向かいやや一方的にハイタッチを求めていた。

 そしてやる気満々でアンチョビと入れ替わりで砲手席にまほが潜り込むと、それを待ち兼ねていたラブは早々にオーダーを求めた。

 

 

「で~?まほは何メ~トルから始めるのかしら~?」

 

「そうだな……私は1,000mから始めるとしよう」

 

「りょ~かい、1,000mね……」

 

 

 まほのオーダーを復唱したラブが操縦桿を握り直すと、Love Gunは戦車とは思えぬスムーズさで動き始め指定された射点に向け移動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

「フフッ♪さすがは()()()、パンターの扱いは慣れたものね」

 

 

 操縦桿を操るラブが標的からピタリ1,000mの射点にLove Gunを停車させると、目立つ微調整をする事なく照準合わせを行ったまほは、アンチョビ同様初弾から的のど真ん中にペイント弾を撃ち込み派手なピンクの花を咲かせていた。

 操縦手用のハッチから顔を出し目視でその全てを見ていたラブは、歌うような節回しでまほの手並みを賞賛する。

 

 

『フム…これは一体……Love Gunが元々ハイスペックなのは解っていた事だし、工科校で相当なカスタマイズを受けた事も織り込み済みだがそれにしても……』

 

 

 だが照準器を覗き込み発射ペダルを踏み込んだ姿勢のまま微動だにせぬまほは、戦車道の教材の映像に使えそうな程に完璧な射撃の腕前を披露したにも拘わらず、困惑とかそういった類の感情をその面に浮かべていた。

 

 

「ど~するまほ?次は2,000mでい~かしら?」

 

「あ、あぁそうだな…そうしてくれ……」

 

 

 しかし操縦席のラブは砲塔内で考え込むまほの様子など気にも留めず、一気にハードルを上げるような事を提案し少しぼんやりしていたまほは曖昧な返事でそれに了承していた。

 

 

「何だったら次の射点に到達するまでの間に行進間射撃に挑戦してもいいわよ~?」

 

「あ?何だって……?」

 

 

 ところがその直ぐ後にラブがついでのように付け足した提案に、何やら挑発めいたニュアンスを感じ取ったらしいまほはピクリと左の眉を吊り上げ、ドスの効いた低い声で短くどういうつもりだと問い詰めた。

 

 

「別に無理だと思うならやらなくてもいいのよ~?」

 

 

 だがラブがその程度でビビるはずもなく相変わらず間延びした口調のまま挑発を続け、その態度にカチンと来たらしいまほは知らぬ者が見れば腰をぬかす事請け合いな地獄の笑みを浮かべ、売られた喧嘩に言い値プラスご祝儀まで上乗せして買ったのだった。

 

 

「随分と見縊られたものだな…私を一体誰だと思っている……?いいだろう、そこまで言うならやってやろうじゃないか、全弾命中させてやるからその色ボケした目でよく見ているがいい……そういう訳で安斎には申し訳ないが最速で連続装填をお願いしたい」

 

「あのな……」

 

 

 ラブの安い挑発にいとも容易く乗せられてしまうまほの事を、いつまで経っても成長しない困ったヤツだと呆れるアンチョビだったが、言い出した以上何を言っても聞かない事もよく解っていた。

 故に彼女も結局こうなると諦めの溜息を吐き、まほから借りた装填手用の皮手袋を填めた手を何度か握り直し、その感触を確かめながら連続装填に備え身構えていた。

 

 

 

 

 

「さすがは西住流次期家元といった処かしら?後退しながらの連続行進間射撃でこの命中率は見事と言う他ないわね~」

 

 

 初弾をブルズアイに命中させた後2,000mの射点まで移動する間と、Love Gunに搭載されている70口径7.5㎝ KwK 42戦車砲の射程限界まで移動する間の行進間射撃で、まほは最後の一発を残して残りの十数発のペイント弾を全て撃ち尽くしていた。

 行進間射撃射撃にも拘わらず彼女は放ったペイント弾の全てを的の中央部に集弾させ、これがもし実戦であれば的となった敵戦車の撃破は確実であり、まほは飛び抜けた集中力で驚異的な射撃センスの高さを見せ付けたのであった。

 しかしまほがこの短時間の間にこれだけ速く連射出来た陰には、意地を見せたアンチョビの超高速連続装填が少なからず寄与していた事も見逃せないだろう。

 だがそれを差し引いてもこの試射でまほが叩き出した驚異的な成績は、射撃の試験であれば試験官が手放しで絶賛し花まる付きの満点を与える好成績であった。

 ところがこれ程の好成績を出したにも拘わらずどういう訳かまほの表情は硬く、釈然としないという表現がぴったりな顔をしていた。

 

 

「…なあラブ、この照準器はOptical K'sの……K's製のType-TZF12aだよな……?」

 

 

 射程限界から最後の一発をブルズアイにヒットさせた後、やや揶揄い混じりにまほの射撃センスを称賛するラブに、彼女は何処か探るように慎重な口ぶりで戦車道で使用されるパンターG型に装備されている照準器と、それを製造する国内メーカーの略称を上げてラブの反応を窺っていた。

 多岐に渡る戦車道関連の光学機器を専門に製造するOptical K'sの製品は国内外で評価も高く、多数あるメーカーをその品質で凌駕しトップシェアを誇っていた。

 厳島と西住の両流派は黎明期からそのOptical K'sと契約を交わし、長年に渡り同社の光学機器を使用する戦車に搭載して来たのだ。

 

 

「…そうよ、ウチ(厳島流)は西住流と同じように昔からK'sと専属契約してるんだから当然じゃない、それはまほだってよく知ってるでしょ……?」

 

 

 まほの口調に何やら探りを入れて来ている事を敏感に感じ取ったラブの声のトーンが下がると、横から口こそ出さないがアンチョビも聞き耳を立て二人の駆け引きに意識を集中していた。

 

 

「だよな…ところでこの照準器がK'sの★Series(スターシーリーズ)なのは当然として、クラスはどのクラスを使ってるんだ……?西住流と黒森峰では全車ハイエンドのクラスⅢを使っているんだが、このLove Gunの照準器は黒森峰のパンターで使用しているType-TZF12aより、照準合わせが格段に楽に感じたのは私の気のせいだろうか……?」

 

 

 アンチョビのようにこの手の駆け引きが得意ではないまほであったが、それでも西住流と黒森峰で使用する慣れ親しんだメーカーの最上位モデルを引き合いに出しカマを掛ける。

 しかし駆け引きを仕掛けるまほの問いに操縦席から振り向こうともしないラブは、全身から不機嫌なオーラを発しながらその表情を険しいものへと変えていたのだった。

 

 

『コイツ…こういう事にだけはバカみたいに鼻が利くんだから……それに千代美も黙ってるけど、アレは絶対に気が付いてるわよね……』

 

 

 まほの問いに直ぐ返答しないラブは眉間に皺を寄せ、内心でそう毒づきながら如何にしてこの場を切り抜けるかに頭をフル回転させている。

 だがこの様子だとLove Gunに搭載されている光学機器の全てが既製品ではないだろうと、二人揃って完全に疑って掛かっているのは明白だったので、これはちょっとやそっとでは煙に巻く事は出来そうにないと一層眉間の皺を深くしていた。

 

 

『なんか段々腹立って来たわね…でも今キレても逆効果だろうし、さてどうしたものか……』

 

 

 彼女がそんな事を考えている間も、背後ではまほが早く答えろと催促するようにジッと視線を突き付けていたので、ラブはその視線を鬱陶しく感じながら取れる手段を模索した。

 

 

「ラブ……」

 

 

 すると先にしびれを切らしたらしいまほがコマンダーキューポラ上から、さあ何とか言えとばかりに追い撃ちを掛けて来た。

 

 

『ったくコイツは……』

 

 

 いつもであれば口八丁で丸め込んでまほを黙らせる処だったが、色々と面倒になったらしいラブは最も単純且つ幼稚な手段で封じ込めに掛かったのだった。

 

 

「ん…何だ……?」

 

 

 何かを隠しているのは間違いないと踏んだまほは、ジワジワとラブを追い込み包み隠さず全て白状させてやると意気込んで身を乗りだしたが、それにタイミングを合わせるように不意に振り返ったラブは、突然スイッチでも切り替えたように満面の笑みを浮かべて見せた。

 

 

「え……?」

 

 

 あまりに不自然過ぎる可愛らしい笑みをその顔に張り付けたラブは、色気のあり過ぎる整った唇の前に両手を持って来ると、そのまま人差し指を立て唇の前でクロスさせる。

 それが何を意味するか直ぐに理解出来ないまほが半口開けてアホ面を晒していると、やる事がなくなり装填手席を離れ砲塔上に這い出して来たアンチョビが、ラブが何を目論んでそんなふざけた行動に出たか見抜き苦々し気に顔をしかめていた。

 

 

「あ…オイ西住、コイツだんまり決め込むつもりだぞ……」

 

「何だってぇ……?」

 

 

 唇の前で両手の人差し指で小さくバツ印を作るポーズは可愛かったが、この状況では腹立たしいだけらしくイライラした様子のアンチョビは、笑みを浮かべたままそれは言えないと口を噤むラブの顔を指差していた。

 

 

「あのなぁラブ…子供じゃないんだからいい加減にしろよ……?」

 

 

 絞り出すような声のアンチョビの指摘にまほも漸くラブが何を意図しているか理解し、その行動の幼稚さに呆れ果てた顔で小言を口にした。

 しかしそれでもラブは決してそれは言えないポーズを崩す事はなく、その頑なさにどうしたものかとまほとアンチョビは顔を見合わせるのだった。

 

 

『コイツらもいい加減しつこいわね…アンタ達もそう遠からずその恩恵を受けるようになるんだから、今はネチネチ詮索しないで黙って見てなさいよね……』

 

 

 明らかに命中精度の違う照準器を前に詮索せずにはいられない二人だったが、静止画のように微動だにしないラブは微笑んだままで器用に件の二人を睨み付けていた。

 

 

「おいラブよ、いい加減そのふざけた真似を止めて何とか言ったらどうだ……?」

 

 

 このまま放って置いてはいつまでも口を割らず終いで埒が明かぬと、今度はアンチョビが砲塔上からラブを睨み付け白状するように迫る。

 

 

『…千代美こそいい加減空気読みなさいよ……私がここまでして何も言わないのはそれなりに理由があるって何で気付かないのよ……?こうなりゃいよいよ奥の手を使うしかなさそうね……』

 

 

 どうにも子供じみた手でしらを切ろうとするラブも大概だったが、何故彼女がそこまでするか考えようともしないアンチョビの執拗さにラブもさすがに腹に据えかねたらしく、二人を黙らせるべく伝家の宝刀を抜こうとしていた。

 

 

「ねえ二人共…守秘義務って知ってる……?私にはAP-Girlsのリーダーだけじゃなくて、厳島流の家元として契約上口に出来ない事だってあるのよ……?」

 

「え……?」

 

「何だって……?」

 

 

 再びスイッチを切り替えたラブが可愛らしい笑みから一変し家元の顔で漸く口を開くと、その変化の速さと落差に付いて行けない二人は驚いた顔のまま口をパクパクさせる。

 

 

「それともナニ?二人揃って母校の為にスパイ活動でもするつもり?それならそれで私もスパイ相手の対応をするけどそれでいいのかしら……?」

 

「あ…べ、別にそういう訳では……」

 

「済まない…つい調子に乗って首を突っ込み過ぎてしまった……」

 

 

ここで漸く自分達が好奇心のままに詮索しラブを困らせていた事に気が付いた二人は、険しい表情を浮かべる彼女に慌てて非礼を詫びたのだった。

 

 

「…それじゃこれで帰るけどいいわね……?」

 

「あ、あぁ構わない……」

 

「無理を言って済まなかった……」

 

 

 積み込んで来たペイント弾も全弾撃ち尽くしこの射撃演習場にいてもやる事はもうないので、時計を一瞥したラブはそれだけ言うとLove Gunを反転させ、格納庫に戻るべくアクセルを踏み込んだ。

 

 

「あ~もう、こうも煤塗れで火薬臭くちゃ何処にも遊びに行けないじゃないよ~」

 

 

 Love Gunを動かすと決まった段階でこうなる事は解っていたが、それでも操縦桿を握るラブは聞こえよがしに砲塔上で小さくなる二人に嫌味混じりの文句を言った。

 

 

「ハァ…格納庫に戻ったら戻ったで最低限のメンテもしなきゃいけないし、いよいよ遊びに行く時間なんかなさそうよね……ちょっとまほ!アンタこっち来て操縦変わりなさいよ!」

 

 

 ペイント弾とはいえ砲撃を行った以上ただLove Gunを格納庫に戻して終わりという訳にも行かず、クリーニングロッドを用いての砲身の清掃を始めやらねばならぬ事は少なくない。

 時間がないからとそれを理由に決して手抜きなどしないラブは、使用後のメンテナンス項目を頭の中で数え上げると、不機嫌そうな声でまほを操縦席に呼び付けた。

 

 

「いい?普通のパンターのつもりでエンジン回したら直ぐにオーバーレブするわよ?だからくれぐれもアクセルワークには気を付けて操縦しなさいよね」

 

「わ、解った……」

 

 

 いきなり呼び付けたまほに操縦桿を預けたラブは、彼女の鼻先に右手の人差し指を突き付けピーキーなLove Gunを慎重に扱うよう言い置くと、自分はサッサと携帯片手にアンチョビのいる砲塔へと登って行った。

 

 

「お、おいラブ…お前今度は何を……?」

 

「ん~?手配しなくちゃいけない事が色々あるのよ……」

 

「手配……?」

 

 

 コマンダーキューポラの縁に腰を下ろし凄い勢いで携帯を弄るラブは、やや気まずそうに声を掛けたアンチョビの声に何処か上の空な調子で独り言のように答えていた。

 何を言っているのかさっぱり解らないアンチョビがラブの手元をチラリと覗き込むと、彼女はネットに繋いだ携帯で何処かのホームページにアクセスし何かの予約をしているようであった。

 

 

「そ、手配よ…このままじゃ帰れないのは千代美だって解ってるでしょ……?」

 

「何だって……?」

 

 

 携帯の操作に忙しいラブの返答が何を意味するのか理解出来ず、隣で彼女の手元を覗き込んでいたアンチョビはその困惑を隠せなかった。

 

 

 

 

 

「はぁ…ま、今日の処はこんなもんで充分でしょ……」

 

 

 射撃演習場から格納庫に帰投後、三人掛かりで砲塔を中心にLove Gunのメンテナンスを終えたラブは、砲身の清掃に使用したクリーニングロッドを車体側面に括り付けられたケースに戻すと、すっかり煤で汚れた着衣に溜息を吐きながら力なく作業終了を宣言した。

 まほにしてもアンチョビにしてもこの手の作業を厭う事はなく、むしろ積極的に手を動かす方なのでメンテナンス自体は比較的短時間で終了していた。

 

 

「メンテ一つとってもドイツ戦車はイタリア戦車と比べて合理的というか効率がいいな」

 

「そうか?これがヤークトティーガーやマウスになると最早お笑いレベルで手間が掛かるぞ?」

 

 

 せっかくの春休みに遊ぶ予定がほぼパアになってテンションの低いラブに比べ、Love Gunの試し撃ちが出来た二人は煤の汚れも気にならない様子で戦車談議に興じていた。

 

 

「…ったくコイツらは……さぁもういいでしょ?これ以上時間を無駄にしたくないから行くわよ!」

 

 

 このまま放っておけばいつまで経っても動こうとしない二人に痺れを切らしたラブは、満足気に磨き上げたLove Gunを見上げる二人に、まるで犬に向かってハウスと指示するように格納庫前に停めたままになっているケッテンクラートを指差したのだった。

 

 

「ス、スマン直ぐ行く!」

 

 

 これ以上彼女の機嫌が悪くなっては敵わぬとまほは命じられるまま泡食った様子で駆け出したが、隣にいたアンチョビは格納庫から出る直前ふと何の気なしに振り返ると、専用の区画で自分達を見送るように佇むLove Gunの姿に目を止めていた。

 

 

「良かったな……」

 

 

 四年前の榴弾暴発事故の後、臨海中学の演習場で自らも傷付いた姿のまま独りラブの帰りを待っていたLove Gunの姿を目撃していたアンチョビは、無意識のうちに当時の事を思い出し復活を果たしたラブの愛馬にそんな言葉を投げ掛けていた。

 

 

「千代美何やってんのよ~?シャッター閉めるから早く出てくんない!?」

 

「あ、あぁ今行くよ!」

 

 

 だがアンチョビが感傷に浸るのも束の間、ラブの催促の声に我に返った彼女が小走りに格納庫の外に駆け出して行った。

 

 

『アリガトウ……』

 

「えっ!?」

 

 

 ところがそんな彼女の耳元に不意に届いた一言に驚いたアンチョビは、一体誰がと声の主の姿を求めてキョロキョロと周囲を見回したが、その場には自分とラブとまほ以外の姿はなかった。

 

 

「ええと……」

 

 

 訳が解らず暫くの間キョロキョロしていたアンチョビが、多分こっちから声が聞こえたと思しき方に改めて目を向けると、そこにはたった今整備を終えたばかりのLove Gun以外誰もいなかった。

 

 

「ははは…まさかね……」

 

 

 その瞬間チラリと頭を過った発想にそんな馬鹿な事があるかとアンチョビが軽く頭を振るうちに、彼女が安全な場所にいる事を確認したラブが格納庫のシャッターを降ろし、Love Gunの姿はもう見えなくなっていたのであった。

 

 

 




光学機器というモノは、それが全てではないですがやはり値段なりです。
カメラレンズなどは松竹梅が存在しますし、プロが使用する超高額なレンズになると個人では中々所有出来ずレンタルや出版社などからの貸し出しとなり、動産保険などが掛けられていたりするから恐ろしい世界ですね。
レンズの価格差は主に使用されるガラス素材や加工技術にに左右されるようですが、設計は古くても現代技術で当時の照準器等を作れば当然精度も違って来るでしょう。
さて、Love Gunに搭載されている光学機器の秘密が何なのかは、
お話がもう少し進むと明らかになるのでお楽しみに。
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