ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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済みません、今回はお風呂回だけどえっちなお話じゃありませんw


第二十二話   ナイショ♪

「それではこちらがルームキーと三名様分の入浴セットでございます、本日は恋お嬢様以外個室のご予約は入っておりませんので時間制限はございません、どうぞごゆっくりご利用下さい」

 

「あら、そうなんですか?ありがとうございます」

 

 

 エキシビションマッチの際にも利用した笠女の生徒専用の大型入浴施設に、煤塗れでまほとアンチョビを引き連れやって来たラブは、チェックインカウンターでレンタルのバスタオルを始めとするアメニティグッズの詰まった手提げのバッグを受け取ると、貸し切りの個室が自分達以外予約がない事に少し驚いたように目を丸くしていた。

 

 

「あぁ…よく考えたらまだ春休み中だし空いてて当たり前よね……」

 

 

 フロントスタッフの説明を受けながらルームキーを受け取ったラブは、その時になってまだ春休み中の事なので帰省先から戻って来ている生徒も少なく、艦内の各施設がガラガラに空いている事に思い至ったのだった。

 

 

「個室って……さっき携帯で何やら予約してたのはここの貸し切り風呂だったのか」

 

「何だ、わざわざそんな事しなくてもよかったのに」

 

 

 ラブの後ろで彼女が入館手続きするのを待っていたアンチョビとまほは、ラブが貸し切り風呂を予約していたと知ると、何もそこまでしなくてもと顔を見合わせ恐縮していた。

 

 

「別にそんなんじゃないわ、単にここの広さの問題よ」

 

『広さ?』

 

「そ、広さよ…ここのお風呂の広さは二人も知ってるでしょ?のんびりやってると移動するだけでも無駄に時間消費するだけだから小さい貸し切り風呂を借りたって訳よ……別にアンタ達二人の為に貸し切り風呂を予約した訳じゃないわ」

 

 

 エキシビションマッチに参戦した全選手が同時に入浴しても、余裕があり過ぎな程広大な入浴施設の様子を思い出した二人は、ラブの言う広さの問題が直ぐには理解出来なかった。

 だが顔を見合わせる二人に施設の広さを思い出させたラブは、時間節約の為に貸し切り風呂を予約しただけである事を念押ししていた。

 

 

「そ、そうか……」

 

「色々スマン……」

 

 

 改めて忙しい彼女の貴重な春休みを浪費させた事を強調され、入浴セットの入った手提げのバッグを手渡された二人は、勘違いするなと睨むラブの前でヘコヘコと頭を下げる事しか出来なかった。

 

 

「あら厳島隊長、それにお二人も」

 

「へ?アレ?結依ちゃんもう帰ってたの……?」

 

 

 受付カウンターの前で済まなそうな二人を相手にツンデレなセリフを吐いていたラブだったが、背後から笠女最強の才媛の誉れも高い初代生徒会長木幡結依(こはたゆい)の声がすると、それまでの険しい表情から一変キョトンとした顔で結依の登場に驚いていた。

 

 

「はい、昨日の夕方には戻ってましたよ…今日の朝から本格的に入学式の準備を始める事になってましたからね……それでAP-Girlsのステージの準備の方は如何ですか?」

 

「う゛…セトリの細かいトコがまだ……で、でも絶対式には間に合わせるから大丈夫よ……と、ところで結依ちゃんはこんな時間に何故ここに?私はこの二人がLove Gunに乗りたがったから、仕方なく演習場で試し撃ちさせてその煤を流しに来たんだけど……」

 

 

 思いがけぬ場所で遭遇した結依に今一番聞かれたくない事を容赦なく聞かれたラブは、新入生歓迎の為のステージは必ず間に合わせると確約したがやはり動揺を隠せなかった。

 

 

「私ですか?私も細かいトコで煮詰まっちゃって気分転換に来たんですよ~」

 

 

 しかし結依はラブの動揺など全く気にする事もなく口元を右手の指先で隠しながら、困ったもんですと笑って現実逃避に来た事を白状していた。

 

 

「そ、そうだったんだ……あ、そうだ!私今日は貸し切りの個室風呂を予約してあるんだけど、もし良かったら結依ちゃんも一緒にどう?」

 

「あら?貸し切りの個室ですか?私もまだ入った事ないんですよね…でも三人でゆっくりするつもりだったんでしょ?私が混ざると気兼ねしてご迷惑になるんじゃないですか……?」

 

 

 これが同じ笠女の生徒であるAP-Girlsと一緒というのであれば結依も遠慮はしなかったが、まほとアンチョビが相手となると少々話が違うようで、あからさまにそれを表情に出すようなヘマはしないがやんわりとラブの誘いを断ろうとしていた。

 

 

「そんな事ないわ、アンタ達も結依ちゃんが一緒でも構わないわよね?」

 

 

 如何にもよく気の回る結依の気の使い方にラブは即座にそう切り返すと、ぼんやり突っ立っている二人にも何とか言えと鋭い視線を突き付けた。

 

 

「あ……あぁ、私達は一向に構わないよ」

 

「わ、私達でよければ是非一緒に」

 

 

 自分達の気の利かなさを暗に責めるラブの視線に泡食った二人が慌てて首を縦に振ると、その慌てぶりが余程可笑しかったのか結依もクスクスと笑いながら誘いに乗ったのだった。

 

 

「いいんですか?それじゃ遠慮なく」

 

 

 笠女の生徒会長という相当にハードな要職にありながらお堅い印象はなく、屈託なく笑う結依の笑顔に釣られアンチョビとまほもすっかり緩んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「えへへ、お相伴させてもらっちゃった♪」

 

 

 立ち込める湯煙の中、藤色の髪を器用に棒簪で纏め上げた結依は、ほんのりと朱に染まった頬を弛緩させ屈託なく笑っている。

 

 

「フム、さっきもこの個室風呂はまだ使った事がないと言っていたようだが、もしかするとここは中々予約が取れないのか……?」

 

「イエイエ、人気があるのは確かですけど、ここって単に広いってだけじゃなくて色んなお風呂があるじゃないですか?まだ出来て日も浅いし、とてもじゃないけど全ての施設を制覇するなんて出来なくて、個室まで到達してないだけの事なんですよ~」

 

「あぁ、成程そういう事だったのか……」

 

 

 初対面ではない上に気さくで話し上手で聞き上手な結依相手に、アンチョビもまほも湯の中ですっかり打ち解けて雑談に興じていた。

 

 

「う~ん、しかし意外といえば意外だったな……」

 

「何がですか~?」

 

 

 身体が程良く温まった事で大分リラックスした表情のまほは、結依の話に相槌を打つ合間に個室風呂といいながらも相当に広い浴室内をぐるりと見回しながらポツリと呟きを洩らした。

 

 

「何と言うかな…この施設全体のイメージからすると、この個室風呂の純和風な造りはちょっと予想外だったんでね……」

 

 

 まほが見回す浴室内は個室である事を考えると相当に広く、彼女達が湯に浸かる浴槽からは檜の良い香りが漂い、その雰囲気はスパリゾートなどとは明らかに違う高級な温泉宿の趣があった。

 

 

「あ~その事ね……私もまだ一部しか知らないけど、ここの個室風呂は全て部屋毎に違うコンセプトで内装を変えてあるみたいよ」

 

「また手間も金も掛かる事を……」

 

「そういう事は私じゃなくて亜梨亜ママに言ってくれる?」

 

「……」

 

 

 まほは身内という事もあり、亜梨亜のきっぷの良さと神がかった資金運用の上手さを知っているので、彼女がその桁外れの財力で何をやっても他人より驚きは小さかった。

 しかしまだそれに慣れ切っていないアンチョビはそうも行かず、ラブに突き放すような事を言われると何も言い返す事が出来ずにいた。

 

 

「うふふ♪まぁさすがにこれだけ広いと全て制覇する頃には卒業してるんじゃないかってのが、大方の在校生達の予想なんですけどね……けどこうして最高の設備を提供して貰っているお陰で、私達もストレスを溜める事なく学園生活を送れているのでとても感謝しているんですよ」

 

「そうか…やはり学園の運営にも人材と環境を第一に考える、亜梨亜おば様の経営理念がそのまま反映しているようだな……」

 

 

 結依が言葉にした亜梨亜に対する感謝の念は笠女の全生徒の総意らしく、彼女の言葉に嘘偽りがない事は充分に伝わり感銘を受けたまほは大きく頷いていた。

 

 

「尤もそれを理解するまではその尋常じゃない太っ腹さに付いて行けなくて面食らう事の連続で、

そういう方なんだって割り切って考えられるようになったのもつい最近の事なんですけどね~♪」

 

「そりゃまそうだろうな……」

 

 

 話が硬くならないようにという配慮か、最後は軽く笑いながら話にオチを付ける結依の話術の巧みさに、まほもアンチョビもつい釣られて苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

「ところで厳島隊長、その後調子の方は如何ですか?」

 

「ん?あぁ、そりゃもうバッチリよ♪ウチの子ら(AP-Girls)もあの仕上がりには予想以上だって手放しで絶賛してたもの」

 

「あらそれは良かった、問題なく使えているなら私もお手伝いした甲斐がありましたわ♪」

 

「うぉ~い、さっきから一体何の話をしてるんだ~?」

 

 

 いつものようにラブの髪を洗ってやったり思いがけぬ入浴を満喫していたアンチョビは、再び湯に沈みその心地良さに身も心もすっかり弛緩し切っていたが、彼女同様脱力していた結依がラブ相手に要領を得ないやり取りを始めると、つい横から間延びした声で探りを入れようとしていた。

 AP-Girlsの名が出る以上は戦車道か音楽絡みの話だと見当は付くが、二人が何を話しているのか推測出来るような単語を巧妙に口にしないので、さすがのアンチョビにも彼女達が何の話をしているのか皆目見当が付かなかった。

 

 

「ん~?ナイショ♪」

 

「オイ……」

 

 

 ちょっとした事でも妙に勘が働くアンチョビに、結依の方を向いていたラブは一瞬だけキュっと目を細め女狐の表情を浮かべたが、それを気取られるより先に含みのあるニコニコ笑いの仮面を被った彼女は、如何にも楽し気に実にふざけた事を言ってとぼけて見せたのだった。

 しかしその態度は当然アンチョビを苛立たせ、声のトーンを数段下げた彼女は自分を煙に巻こうとしているラブの背中を睨み付けていた。

 

 

「あのなぁ、いくら何でもさすがにそれはないんじゃないか……?」

 

 

 この手の子供じみた手口はラブがとぼける時などによく使う手だと知っているので、まほはやんわりと注意しながらアンチョビの援護射撃を行おうとした。

 

 

「けどナイショ♪」

 

「オイ、子供じゃないんだからいい加減そのふざけた真似は止め──」

 

「ふぅ♪さすがにちょっと熱くなって来ましたね~」

 

「うぉ!?」

 

 

 ラブが素直に言う事を聞かない事はまほも重々承知していたので、彼女がのらりくらり減らず口を叩くであろうとある程度予想はしていたが、まさか子供のようにナイショの一言だけで済まそうとするとは思いもしなかったので、まほも険しい表情で語気も強いものに変わっていた。

 だが彼女が強い口調でラブに苦言を呈しかけたその時、出端を挫くようなタイミングで可愛く吐息を洩らした結依が湯の抵抗にたわわをプルンと揺らしながら立ち上がると、檜の浴槽の縁に腰を降ろし左手でパタパタと扇いでみせたのだった。

 規格外のラブ程ではないにしても、ケイやアズミですら惨敗を喫するたわわ揃いの笠女の生徒の中にあって、結依は上位にランキングする結構なモノの持ち主であった。

 その結依の絶妙なフェイントに視線を誘導されたまほは、浴槽の縁に座る彼女の美爆乳を仰ぎ見て張りのある肌から滴る水滴も艶めかしい南半球の曲線に目を奪われていた。

 

 

『うぅむ…この結依という子も実にけしからんスタイルだなぁ……これでまだ二年生にもなっていないのだから末恐ろしいというか何というか……』

 

『西住……』

 

『あ…イヤ、これは……』

 

 

 思わずツンツンしたくなる桃の実を前に思わず思考が駄々洩れになったまほの呟きに、隣で彼女と同様に視線を逸らせなくなったアンチョビが囁くようにその名を呼ぶ。

 

 

『…気持ちは解る……』

 

『え……?』

 

 

 またしても失態を犯したと身構えかけたまほであったが、返って来た予想外の答えに驚いた彼女はそこで漸く視線を逸らすと、隣で結依の程良く熟して食べ頃な桃の実を凝視するアンチョビの横顔をマジマジと見ていた。

 

 

『あれだな…ラブ相手なら諦めも付くが、彼女と比較すると我が身が情けなくなるな……しかし何と言うかあのメグミさんが陥落するのも解る気がするよ……スマン、自分でも何を言っているか良く解らないんだ……』

 

『なぁ安斎…結依君とメグミさんはもうそういう関係になっているのだろうか……?』

 

『今ここでそれ以上想像するのは止せ……』

 

 

 まさかのタイミングで自らの胸の内を吐露するアンチョビの顔を、信じられないと言った面持ちで暫しの間マジマジと見ていたまほは、自らも以前から抱えていた疑問を抑えられなかった。

 しかし本人を前にあまりに生な発言はさすがに憚られ、アンチョビも妄想を膨らませるまほに低い声でストップをかけた。

 脱いだら目測以上に凄かった生唾ゴックンな結依のけしからんプロポーションを前に、ポンコツ極まりない戯言を駄々洩れにしている自覚は彼女にもあったらしく、それ以上はダメだとまほだけではなく自分にも言い聞かせていたのだ。

 

 

「どうかされましたか?」

 

『イ、イエ!何でもありません!』

 

 

 筒抜けの丸聞こえなはずのヒソヒソ話になっていないヒソヒソ話を、敢えて聞こえていないかのように振る舞う結依に微笑まれ、二人はワタワタと狼狽え誤魔化すのに必死だった。

 

 

『コイツらも節操ないわね……』

 

 

 まほがポンコツなのは今に始まった事ではないが、アンチョビまでが割れ鍋に綴じ蓋の似た者同士な事にラブの二人を見る目はどこまでも白かった。

 

 

「こりゃあちょっと釘刺しといた方がいいか…オラ!そこのケダモノ共!いい?もし結依ちゃん相手に良からぬ事考えて手ぇ出したりしたらただじゃ置かないからね……?」

 

『やらないよ……』

 

 

 まるで他人事のようにあらまあとか言いながら、揃えた右手の指先で口元を隠すようにしてコロコロと笑う結依と違い、メドゥーサ宜しく自分達を睨み付ける恐ろしいラブの視線の前で、二人は消え入りそうな小声でそう言い返すのがやっとだった。

 

 

「あら残念♪」

 

『……』

 

 

 ラブの前で小さくなる二人の姿に結依は一層楽しげに笑い、彼女の揶揄うような一言に手玉に取れた二人は無言で湯に沈んでいた。

 

 

 

 

 

「は~い、今開けま~す……結依ちゃ~ん、お願いしてい~い?」

 

 

 入浴後の脱衣所でいつものように髪の手入れをアンチョビに任せていたラブは、突然目の前で鳴り出したインターホンの受話器を取り上げると、すぐ隣で髪を乾かし終えていた結依に鍵を開けるようジェスチャー混じりで頼み、結依も軽く手を挙げそれに応えるとバスタオル一枚巻いたままの姿で出入り口の扉を開けに行った。

 

 

「何だコレは……?」

 

 

 結依が鍵を開けた扉から施設のスタッフと共に、如何にもアパレルショップの店員風の女性達の手で次々と搬入されるキャスター付きのパイプハンガーに、訳が解らぬアンチョビはどういう事だとラブに振り返る。

 

 

「何って着替えに決まってるじゃないよ」

 

「いや、だから私が聞いてるのはそういう事じゃなくて……」

 

 

 ラブが何も言わず一人勝手に事を進めるのはよくある事だが、何を始めたのかロクな説明もしないので周りが困惑するのもいつもの事だった。

 

 

「千代美は折角お風呂入ったのにまた煤けて火薬臭い服を着るつもり?あんなカッコじゃお昼食べに行く事も出来ないでしょ?あんなんじゃお店にも迷惑かかるから着替えの手配しておいたのよ」

 

「いつのまに…って、それじゃこの服は何処から持って来たんだよ?」

 

「何処って艦内のいつも行くショップに出張お願いしたのよ」

 

「あのな……」

 

 

 いくら着ていた服が汚れたからといって着替えを調達するだけの為に、お風呂に直接ショップを出張させてしまうラブの感覚をアンチョビは全く理解出来ずに絶句する。

 

 

「ホラまほ!コッチおいで、私が似合いそうなのを選んであげるから、気に入ったのがあったら着てみなさいよ」

 

「あ、あぁ解った……」

 

 

 アンチョビと違ってラブに逆らうという選択肢(コマンド)のないまほは、手招きされ言われるまま姿見の前に立つと、彼女が見繕った服を身に当て着替え選びを始めていた。

 

 

「ほ~ら~、千代美も早くコッチ来て好きなの着てみなさいって~」

 

「そんないきなり着てみろって言われてもだな……」

 

 

 非常識極まりない急展開に頭が付いて行かないアンチョビが、並べられたパイプハンガーの列を前に半口開けて呆けていると、まほに鮮烈な赤のインナーのセットを試させていたラブが彼女にも早くしろと急き立てて来た。

 

 

「そうそう、結依ちゃんも欲しいのあったらどんどん持ってっちゃっていいからね~♪」

 

「え~?でもこれってLove's Berryですよねぇ?私なんかに似合うかしら?それにもうお風呂をお相伴させて貰ってるのに、これ以上何かして貰うのも気が引けるし……」

 

「い~のい~の、無理言って付き合って貰ったのはこっちだし、このケダモノ共のお相手させたお詫びで奢るだけだから、結依ちゃんも気にせず持ってっていいわよ~」

 

「お詫びの奢りねぇ…いいのかしら……?」

 

 

 口ではいいのかしらと言いながらも、嬉しそうにパイプハンガーの間を巡り品定めを始めた結依の姿に、ラブもニコニコしながら嬉しそうにしている。

 

 

「オイ……今奢りと言ったが、まさか私達もそうなのか!?」

 

 

 お気楽なラブと結依の軽妙な掛け合いを見るうちに、漸く頭が回り始めたアンチョビはハッとした顔で大量に吊るされた春物に目を走らせながら叫びを上げた。

 

 

「何を今更……これは私からの入学祝みたいなもんよ、だから千代美も好きなの選んで黙って受け取ればいいんだってば」

 

「そうは言ってもだな……」

 

 

 パイプハンガーにズラリと吊るされた服はどれもブランドのタグこそ付いていたが、値札らしき物は見当たらず、明らかに安物ではない一目で高級品と判る品々を前に、アンチョビは背筋の凍るような恐怖すら感じていた。

 例え必要最低限の物を選んだとしても、まず確実に今の自分の持ち合わせでは到底足りないだろうだろうと予想したアンチョビは、改めてラブの金銭感覚が別次元であると痛感したのだった。

 

 

「あのね~、私は自分でガッツリ稼いでるんだから、アンタ達は気にせず持ってけばいいの!」

 

「稼いでるってオマエ……」

 

 

 AP-Girlsが学園にもたらす利益はその基本となる音楽関連以外のグッズ等も含め、昨今のグループアイドルの中でもダントツの数字を叩き出していた。

 その利益の中から彼女達にも相応の報酬が支給されていたので、ラブにしてみればこの程度の出費など大した問題ではなく、入学祝としてはえらく安いモノであったようだ。

 

 

「着てた服は特急でクリーニングに出して城に届くよう手配してあるから、この中から選んで着ないとすっぽんぽんで帰る事になるわよ~?」

 

 

 今までこんな派手なインナーを身に着けた事はなく、オロオロするまほの為にアウター選びを始めていたラブは、それでも尚躊躇するアンチョビに追い撃ちを掛ける。

 こんな事ならLove Gunに乗りたいとまほが言い出した時に、喜んで同調するんじゃなかったとアンチョビは後悔したが、それはあまりにも遅きに失した後悔でしかなかった。

 

 

「まさかこんな事になるとは…ん?あれ?ちょっと待て……なぁ木幡会長ちょっといいか……?」

 

「はい?結依でいいですよドゥーチェ♪それでご用件はなんでしょう?」

 

「私の事も千代美でいいよ…ええとな、さっき結依はLove's Berryとか言ったよな……?まさかとは思うんだがこのブランドって……」

 

「ええそうですよ♪」

 

 

 諦めて服を選び始めたアンチョビであったが、明らかに自分の髪色に寄せて来たとしか思えないブラとショーツのセットを手にした処で、ふとさっきから引っ掛かっていた事を直ぐ傍で彼女と同じようにインナー選びに夢中な結依に尋ねていた。

 まさかと思いつつ口元を引き攣らせ恐る恐る尋ねたアンチョビであったが、それとは対照的な実に良い顔で彼女が言い淀んだ一言を肯定したのだった。

 

 

「マジか…ん?何だ……?」

 

 

 まさかを肯定され愕然としていたアンチョビは、ニコニコ顔のまま結依が小さくチョイチョイと手招きしている事に気付くと、チラリとラブの様子を窺ってから手招きする結依の口元に耳を寄せた。

 

 

『ホラ、千代美さんもよくご存じの通り厳島隊長は既製品が着られないでしょ?』

 

『そりゃあまぁあのサイズだからな…お店で服を買えないのが昔からアイツの悩みだったよ……』

 

 

 中学時代初対面の段階で既に規格を激しく逸脱したサイズを誇っていたラブは、衣類に関しては全てがフルオーダーに近い事は聞くまでもなく解っていた事であった。

 そんな彼女の最大の悩みがお店で気軽に服が買えない事であると知った時は、何と贅沢な悩みだと思ったものだが、ラブにしてみればそれは実に切実な問題だったのだ。

 

 

『それでですね、学園艦暮らしでそれがストレスにならないよう代表が秘密裏に隊長の為のブランドを幾つか立ち上げ、艦内限定で数件のショップを展開させているんですよ』

 

『ちょ、ちょっと待て!それじゃ何か?ラブがお店で服を買えるようにする為だけに、亜梨亜おば様はファッションブランドを作ったって事かぁ!?』

 

『そうなりますね~』

 

 

 俄かには信じ難い話だったが、厳島の財力であればその程度の事は大した問題ではないだろう。

 とはいえ実際それをやってしまう感覚がアンチョビにはやはり理解出来ず、彼女は結依の軽い口調の説明にただ茫然としていた。

 

 

『そ、それでその事をラブのヤツは……?』

 

『はい、当然知りませんのでこの事は絶対にナイショですよ♪』

 

『マジか……』

 

 

 そんな馬鹿なとは思うがラブは自分でも既製品が買える店があると信じているらしく、この件に関しては本人に絶対知られてはならない最重要機密事項だったのだ。

 故に結依もアンチョビにも絶対口外無用であると、唇の前で両手の人差し指をクロスさせてバツ印を作って見せたのだった。

 自身も学生時代似たような悩みで苦労した亜梨亜は、娘の為に独自のブランドを立ち上げショップを展開させた訳だが、そのスケールのデカ過ぎる親馬鹿にアンチョビは完全に言葉を失っていた。

 

 

 




よく考えなくても生徒全員が爆乳な笠女って凄いですねw
しかし自分が着られる既製品があると信じてるラブってどうなんでしょう?
もしかすると信じたいだけで、実際には現実逃避なのかもしれませんけどww

色々謎な生徒会長の結依の正体もこれから徐々に明らかになりますが、
彼女は果たして何者なんでしょうねぇ……。
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