「ちょっ!何よコレ!?怖いんだけど!?」
事ある毎に調子に乗りラブがいじけるまでいらん事を言う凛々子を黙らせるべく、アンチョビが取った手は非常に子供じみたものながらそれなりの効果があった。
「あのさぁ、私達の事よりそっちの方こそ大丈夫なの?」
漸くパンターが5両揃ったとはいえ、新一年生も然程多くはなさそうなAP-Girlsの新体制を不安視するアンチョビとまほであったが、ラブは逆に二人が大学で取り組む難題の事を心配していた。
アンチョビとまほが進学する名城総大は近年小型化が進む新興の大学と違い、学部数も理系文系共に多数存在するマンモス大学であった。
そしてそれに付随するようにクラブ活動の内容も多岐に渡り、中でも体育会系はどのクラブも実績がありプロアマ問わず多くの優秀な選手を輩出していた。
しかし戦車道に関しては創部以来実績らしい実績を残しておらず、中部地区の大学戦車道では万年二部リーグのテールエンダーと呼ばれる最下位争いの常連だった。
「大丈夫かって何がだ……?」
「とぼける気?大学の事に決まってんでしょ~が」
別にとぼけた訳ではなかったが彼女に話した処でどうなる事でもなかったので、呆れて探るようなラブに敢えてそんな答え方をした。
するとその態度に目が据わったラブがジトッとアンチョビを睨み付けたが、その程度の事で彼女も動じるはずもなく軽く肩を竦めてから漸く問いに答え始めた。
「別にこれといった問題はないさ…まだちょっと引っ越しの荷解きが終わってないが、まぁそれも大した事はないし入学式までにカタは付くだろ……そもそも本当にヤバかったら、こうしてのんびり横須賀になんか来てないって」
「だからそういう事じゃなくって!」
しかしこの期に及んでわざと的外れな事を答えるアンチョビに苛立ち、ラブもつい声が大きくなり柳眉を逆立ててしまう。
「解ってるって、お前に言われるまでもなくちゃんと準備は進めてるよ」
自分がAP-Girlsの今後の事にアレコレ口出しした事は棚に上げ、言外にお前に出来る事は何もないぞといったニュアンスを含んだ声音でそう言うと、自分を睨むラブをアンチョビは軽く受け流す。
「けど大学でチームの立て直しとなると規模はアンツィオの比じゃないんじゃないの……?」
「確かに高校と大学を比べれば、例え弱小でも所帯が大きくなるのはお前の言う通りだ…だがアンツィオの時みたいに限りなくゼロに近い処から始めるのと違って、れっきとした戦車道のチームが存在しているんだからアンツィオでチームを作った時よりやる事は格段に楽だよ……それに今度は西住や……西住もいるから特に不安に思う事もないしな」
「西住や……?」
アンチョビが大学でのチーム作りに不安を抱いていない事は理解出来たが、彼女のちょっとした言い間違いとそれを訂正した時の表情の変化に違和感を感じたらしく、ラブは直ぐにその事について様子を窺うように問い質していた。
「お前ホントそういうトコ細かいな…あ~アレだ、私はオファーを頂いた後に学校見学に行ってだな、その時と後に何度かチームの隊長や主だった幹部クラスの先輩達と顔合わせしてるんだよ……で、その先輩達がまるっきり実力がない訳じゃない事も解ってるから、西住以外にも頼れる人材がいるって事を言いたかっただけだ……けどそれは別に今言う程の事でもないと思ったから言い直したんだ」
「そっか…でも言っちゃ悪いけどそれだけの人達がいるのに、何でそんな弱いワケ……?」
アンチョビとしてもまだ隠しておきたい事も当然あったので、ラブがすんなり納得した事には正直ホッとしたが、やっぱりそれを聞くかと面倒そうに顔をしかめていた。
「コイツはまた言い難い事をハッキリ言いやがって…けどまぁいい……あのな、私達の進学する名城総大の戦車道チームは、言わば偏差値の高い理工学系が強い大学の体育会系のクラブによくあるパターンとでも言えばいいかな?とにかくそんなチームなんだ……」
「よくあるパターン?」
自らの進む大学の戦車道チームの状態を説明するにあたり、果たしてその例えが適切であるか彼女も少し迷ったが、他に上手い表現方法が見付からずアンチョビは言葉を選びながら話を続けた。
「う~ん…果たしてこれでオマエに上手く伝わるかは解らんのだが……なぁラブ、私もあまり野球は詳しくないのだが、学力勝負をしたら全戦全勝すら有り得る日本の大学の最高峰、旧帝大の大学野球でのチーム創設以来の戦歴は解るか……?」
「え?あ…あ~そういう事……」
事前に自らもあまり詳しくないと前置きした上で、ラブが関東の人間である事に期待したアンチョビの例え話は、僅かに考える時間を要したがどうにかラブに伝わったようであった。
「どうにか解って貰えたようだな」
「…まぁ何となく……でもだとするとやっぱりチームの再生って相当大変なんじゃないの……?」
さすがにラブもそれを言葉にするのは躊躇われたが、アンチョビの例え話から頭に思い浮かんだ名城総大戦車道チームの印象は、頭でっかちで実力の伴わぬ扱い辛い変わり者集団というものだった。
「お前の言いたい事も解るがそう悲観した状況でもないんだよ…さっきも言った通り決して腕は悪くないし、負け犬根性が染み付いた駄目チームって訳でもない……機械工学に精通した人が多いからどちらかと言うと技術者集団って印象で、雰囲気的にはそうだな……
「えぇぇ…大洗の自動車部に……?まさかチームメンバー全員があんな感じなの……?」
実質レオポンの強化に手を貸してしまったラブの自動車部に対する今の印象は、転んでも絶対に只では起きない抜け目のないちゃっかり者、何があっても全く動じない図太くモース硬度7.5を誇るタングステン並に硬い神経の持ち主であった。
「んなワケあるか、今も言った通り土地柄工業系が強いから、名城総大の戦車道チームも工学系の学部を中心にそっち方面の腕っこきが揃っててその分クセが強いって意味だ!」
「そ、そう…ならいいけど……」
自分が直接関わる事はないのに、あのレオポンチームみたいな連中が団体でいる事を想像したのか、ラブは心底不気味そうに顔色を変えた。
しかしアンチョビがお前アホかと言わんばかりにそれを否定するとラブも漸く安堵したが、彼女の嫌な予感は後に別の形で的中するのだった。
「ま、何と言うかな…整備やら改良なんかの技術的なトライ&エラーには熱心だが、その反面実戦の勝ち負けにはあまり拘りがないというか、寧ろそこに興味がないチームなんだな……」
「はぁ~成程ねぇ……」
甚だ大雑把ではあるが余計な情報がない分シンプルで解り易いチーム評価に、ラブもそれで理解出来たらしく溜息交じりながらも一つ大きく頷いて見せた。
そしてここまで一切口出ししなかったAP-Girlsも、メンバー同士顔を見合わせ変なチームなどと言いながら肩を竦めたりしていた。
「てな訳で整備状態も良く戦車自体は何の問題もないんだが、如何せん戦う為の頭がいない、著しくバランスを欠いた状態がそれこそチーム創設以来ずっと続いてるってのが実情なワケだ……」
「そうか、レオポン…自動車部に私が感じてた違和感ってそういう事だったのね……」
同族らしい人種達の話を聞くうちに、結構な修羅場にも拘わらずレオポンチームが撃破されてもあっけらかんとしていた理由の一端を垣間見た気がしたラブは、軽い頭痛を覚えこめかみの辺りを両手の人差し指でグリグリとやりながら目で先を促していた。
「そして戦車道が好きで自身も同校の出身者である今の学長がな、長年続くその状況を打破すべく改革に乗り出したワケなんだが……」
「そっか~、それで千代美に白羽の矢が立ったワケね~」
話を聞くうちに名城総大の校風やチームの体質が凡そ把握出来たラブは、何故同校の学長がアンチョビを選んだかを理解したのだった。
「白羽の矢って言われてもなぁ…正直今でも何で私なんだって思いも拭えないんだかな……」
「何でって千代美、そりゃ千代美が誰より勝ちに飢えてるからに決まってるじゃない」
自らを過小評価する傾向にあるアンチョビとは対照的に、色々拗らせてラブは彼女を過大評価しがちだったが、当の本人達はあまり自覚していない上にそれが間違っているとは思っていなかったので、話がその事に及ぶとちょっとした言い合いになる事も少なくはなかった。
「はぁ?そこまで言うか?そんな事ないだろ?」
「呆れた…千代美がここまで自分の事を解ってないとは思わなかったわ……いい?常にババ札握らされた状態でもあの手この手で勝ちに行く…例えどんだけ叩きのめされても決してめげる事はなく、如何に相手が格上の強敵だろうがお構いなしに全力で喰らい付く……名城総大の学長もそんな千代美の戦車道に惚れ込んで、特待生として一本釣りしたんじゃないの?」
ラブとしては最上級の賛辞のつもりだったがその表現が誉め言葉には程遠く、アンチョビの表情も自然と渋いものへと変わって行く。
「オマエな…それ褒めてるつもりか?全然そうは聞こえないぞ?ったく人の事をダボハゼみたいに言いやがって……大体お前が今言った事はまんまお前自身の事だろ?これぞ自己紹介乙ってやつだな」
「誰がダボハゼよ!つかダボハゼってナニ!?」
中学時代から双方共に策士として知られ丁々発止やり合って来ただけに、こういった言葉の応酬も互いに一切容赦がなかった。
『何という五十歩百歩…けどこの二人は何でこう下らない言い合いになると途端にレベルの低いドングリの背比べを始めるんだろう……?』
こういう時に下手に口を挿んでもその口で敵う二人ではないし、もしそんな事をすれば飛び火して自分が火傷する事になり兼ねないので、まほも迂闊な事を言わないよう口を噤み嵐が過ぎ去るのを頭を低くして待っていた。
「知るかよ…お前ん家の目の前で釣れるだろうから自分で調べればいいだろうが……」
下らない処に喰らい付くお前こそやっぱりダボハゼだと思いつつ、一々相手をするのが面倒になって来たアンチョビは睨むラブを無視して話の軌道を元に戻す。
「えぇと何だ…とにかくそいう訳で作戦を立案してチームを指揮出来る人材が今までいなかったからな、その役割をこなしつつチーム全体の意識改革をするのが最初の仕事だろうな……」
「…とても一年生の仕事とは思えないわ……」
ラブもAP-Girlsのメンバー達をスカウトする処からチーム作りを始めていたが、彼女の場合厳島家の力を最大限使えたので、アンチョビと自分では条件が違い過ぎる事を解っている彼女は、それまでとは一変して難しい顔で考え込む。
「…アンツィオでも一年生の時から同じ事をやって来てるんだけどな……けどある意味アンツィオの時より楽だと思うぞ?何しろ全てがほぼゼロから始めたアンツィオと違って、名城総大にはれっきとした大学戦車道の現役選手が揃ってるんだからな」
「随分と楽観的ね……」
自らの戦車道と芸能活動の両立に加え通常の学業もハードルが高い事を棚に上げ、ラブはアンチョビが大学での新生活を楽観視している事がどうにも気に掛かった。
「別に私だって全面的にお気楽に構えてる訳じゃないさ…いくら推薦の特待生とはいえ門外に近い工学部に入学するのが条件だから、下手な成績を取らないよう今から緊張してるよ……」
「だから!」
「お前結構心配性だな」
「べ、別にそういう訳じゃ……!」
いくら厳島流の家元を襲名したとはいえラブはまだ高校生。
年齢的にはまほやアンチョビと同い年ながらやっと二年生になる彼女は、アメリカ暮らしのブランク分もあって日本の大学戦車道の選手層に関してあまり明るくはなかった。
「重ねて言うが名城総大に使える選手がいない訳じゃない…そりゃ確かにそんなチームだから、これまで高校戦車道の有力選手が進学して来た実績がないのも確かだ……だがどれだけ強豪校から駒を搔き集めても、それだけで勝てる訳じゃないのはお前だって解ってるだろう?」
「それは解ってるけど……」
ラブが答え難そうにしている理由は彼女同様かそれ以上にアンチョビも解っているので、敢えてそれと分かるようにまほを一瞥してからアンチョビは先を続けた。
「とはいえ実力のある選手がいるに越した事はない…だからこそ私は名城総大入りの条件として、西住を最上級の特待生扱いで入学させる事を要求した訳だしな……ジャイアントキリングなんてのはどんな世界でも起こり得る事だ……確かに黒森峰での三年間は不幸の連続で不本意な結果かもしれんが、それで西住の選手としての評価が下がるとは思えんし、仮にもし大学で西住の事を過小評価して舐めて掛かってくれるなら、それこそ私の思う壺で願ったり叶ったりだよ」
「千代美……」
話の最後にはフフンと鼻を鳴らし、アンチョビはドゥーチェの不敵な笑みを浮かべて見せる。
「そういう訳でお前に心配されるまでもなく、進学後のロードマップはとっくに出来上がっている……今はまだ口外出来ないが、西住以外にも抜かりなく仕込みはしてあるから楽しみにしていろ」
そして畳み込むように話を締めくくるアンチョビに、ラブは彼女が既に自分とは違う次のステージに上がっている事を実感していた。
「う~ん…まぁ実際オファーが来るまでは漠然とだけど、普通に受験して進学するなら文系だろうと考えていたからなぁ……しかしそれが蓋を開ければまさかの工学部だろ?正直言えば自分でも不安だらけだから心配されるのも無理のない話だよな……」
端的に言えば他人事なアンチョビの進学に関する事で、空回り気味に独りヒートアップしていたラブの頭が冷えた頃、アンチョビは冗談交じりに改めて現在の心境を語っていた。
大学選抜戦に於いて大洗に加勢したアンチョビは、カール攻略の際とっさの単純計算でやらかした実績もあり、地元に限らず全国レベルでもトップクラスの工学部への進学はやはりというか不安要素だらけであったようだ。
「千代美は小説書いてるくらいだもんねぇ……もし大学始まって講義で解んない事があったら何でも聞いてね、私昔っから算数は大の得意科目だから!」
「算数ってオマエな……」
ラブの人間離れした計算能力はそれを知る一部の者達の間で、歩く関数電卓やら人間スパコンなどと評され化け物扱いされていた。
特に小学生の頃一時的に彼女と机を並べその異常性を誰より早く目の当たりにしていたまほは、これから大学で学ぶ事になる高等数学を算数呼ばわりするラブに呆れた目を向ける。
「オホホ♪本人もこう言ってる事ですし、このオッパイにはそれぐらいしか使い道がないんですから電卓代わりに使い倒してやればいいんですわ」
「凛々子ぉ!?」
現在のラブの学力がどの程度のものか正確な処は不明だが、恐らくは大学に進んだ自分達が悪戦苦闘するであろう理数系の難題ですらも、彼女ならば例の常軌を逸した方法で易々と全て同時に解いてしまうのだろうとまほは渋い顔をした。
だがこういう時黙っていられない凛々子がここぞとばかりに茶々を入れると、毎度の事とはいえあまりの言いようにまほは一層顔をしかめ、ラブが拗ねる前に釘を刺すかと口を開きかけた。
ところが彼女が何か言うより一足先に席を立ったアンチョビが、素早い動きで凛々子の背後に立つとその肩に腕を回しガッチリと押え込んでいたのだった。
「お前マジいい加減にしろよ?ったく毎度毎度ラブをいじけさせちゃ尻拭いを押し付けやがって」
「あらドゥーチェ、この程度で萎む程あのオッパイはやわじゃない事はご存じでしょう?」
既に涙目になりかけているラブを尻目に、凛々子は尚も減らず口を叩き続ける。
「コイツはぁ……オマエみたいなヤツはこうしてくれる!」
「ちょ!何するんです!?」
まるで反省する気のない凛々子の頭をヘッドロックの要領で抱えたアンチョビは、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべながら空いた片手で凛々子のデコに何かをぺたりと貼り付けた。
その妙な感触にさすがの凛々子も怯んだらしく、若干裏返った声を上げながらアンチョビの腕から逃れると、慌てた様子でデコに貼られた謎の物体を剥がし始めた。
「…何よコレ……うぎえ゛ぇ゛っ!?」
ブチブチと文句を言いながらデコから剥がした紙片を裏返した凛々子は、それが一体何であるか気が付いた瞬間口元を引き攣らせて奇声を発していた。
「
アンチョビが言う事を聞かぬ凛々子のデコに貼ったのは、まほが普通に笑顔を作れない事を逆手に取り生み出された世にも恐ろしい逸品、後にそれを目にした一部の者達から呪い札と称される事になるプリクラであった。
「ったく騒々しいヤツだ…一体何を騒いでやがる……?」
ラブ相手となると直ぐ調子に乗る凛々子が奇声を上げると、彼女の左隣にいた夏妃は喧しそうに右耳を人差し指で塞ぎながら凛々子の手元を覗き込んだ。
「ゲ…何だよこのDead or Aliveな手配書みたいなプリクラは……」
「夏妃…オマエも大概失礼なヤツだな……」
凶悪に笑う三人の写ったプリクラを見るなり、マカロニウェスタンでお馴染みな生死に拘らずの謳い文句にWANTEDと大書された手配書に例えた夏妃を、アンチョビは小言と共に横目で睨み付ける。
だが凛々子の手を離れ回覧板のようにAP-Girlsのメンバー達の間を巡ったプリクラは、アンチョビのお小言などお構いなしに彼女達に好き放題言わせていた。
「あら?まほちゃん、とても可愛いわ♪」
『え……?』
小言を言うアンチョビといじけるラブにどう反応してよいかまほが戸惑ううちに、巡り巡ったプリクラはいつの間にやら亜梨亜の手元に辿り着いていた。
AP-Girlsのような図太い連中ですら恐怖を覚えるプリクラを見てもなお、余裕の笑みでそれを可愛いと言ってのける亜梨亜の一言に、彼女達は唖然とした顔で耳を疑う。
『やっぱこの人も何処かおかしい……』
例え口が裂けても言えないが、それがその時彼女達が感じた偽らざる気持ちであった。
「プリクラか…懐かしいわね、私も昔結構撮ったわ……」
「ちょっと亜梨亜ママ!何ソレ聞いてない!」
泣いたカラスが何とやらで亜梨亜がプリクラを撮っていたと知ると、いきなりテンションが爆上げしたラブは血相変えて喰らい付いた。
「落ち着けラブ…それにしても亜梨亜おば様がプリクラですか?一体何処で……?」
「そうか…知らないのも無理ないわね……人気が下火になって撤去されてしまったけど、昔は連盟の本部と戦車喫茶ルクレールにも戦車道フレームのプリクラが置いてあったのよ?」
『ふぁっ……!?』
亜梨亜がプリクラを撮っていたというだけでも驚きだが、戦車道フレームのプリクラなどという物が存在しそれが連盟本部とルクレールに置かれていたという衝撃の事実に、全員が耳を疑い驚愕に大きく目を見開き顎を落としていた。
「そ、それでそれは一体いつ頃の話なんでしょう……?」
「私がまだ黒森峰に居た頃の話よ……講習会や全国大会の抽選会の時によく撮ったわ」
「成程…ですが戦車道フレームがどんなものかはちょっと想像が付きませんね……」
本当は何となく想像が付いていたがアンチョビは敢えてその事は口にせず、咄嗟の嘘で誤魔化した彼女はドキドキしながら亜梨亜の反応を窺っていた。
「そうねぇ…あれはディフォルメって言うのかしら?やたら大きなコマンダーキューポラとか寸詰まりな丸っこい戦車だったりしたわねぇ……」
『やっぱりな……』
返って来たのがほぼ予想通りだったので心の中でそう呟いたアンチョビは、開けてはいけない扉を開けようとしている事を自覚しながらも、自制心を上回る好奇心に負け更なる闇の中に一歩足を踏み入れたのだった。
「それでその…亜梨亜おば様は一体誰とプリクラをお撮りに……?」
「チームメイトや他校のお友達とよ……あ、勿論しほちゃんや千代ちゃんとも撮ったわ」
『やっぱりかぁ!』
初めから答えは解っていたがそれでも聞かずにはいられなかったアンチョビは、思っていた通りの答えを聞くなり心の中で叫び声を上げていた。
だが懐かしそうに思い出話を語っていた亜梨亜はそれで攻撃の手を緩める事はなく、間髪入れずに次の一手を放ちアンチョビに止めを刺しに来た。
「本当に懐かしいわ…あの頃撮ったプリクラは今も大事に取ってあるの……見る?」
「え゛……!?」
実年齢より見た目が遥かに若く見えるとはいえ、黒森峰を卒業してからそれなりの年数を経ているので、さすがにアンチョビも当時のプリクラがまだ残っていたとは思いもせず、驚きのあまりつい短く呻き声を洩らしフリーズしてしまったのであった。
「マジ!?ホントにまだ取ってあるの!?それ絶対見た──」
「え、遠慮します!」
しほ大好きなラブには黒森峰時代のしほのプリクラなど超の付くお宝アイテムだったが、まほにとっては恐ろしい事この上ない地雷以外の何ものでもなく、ラブが全てを言い切るより先に亜梨亜の申し出を固辞していた。
「そお……?」
何が何でもそんな恐ろしい物を見たくないそのまほの迫力に押され、ラブもそのまま言いかけた言葉を呑み込み、亜梨亜は笑みこそ絶やさぬがその表情は何処か少し寂しそうだった。
「…けどあのプリクラ、私は結構好きだったのに割と短期間で撤去されちゃったのよね……」
『そりゃあそうだろう……』
亜梨亜の話を聞いただけでも相当ダサそうな事は簡単に想像が付いたし、人気がなければ直ぐに姿を消すのは当然だと誰もが思ったが、誰一人としてその事を言葉に出来る者はいなかった。
おそらく戦車道フレームのプリクラの稼働率が上がったのは、全選手の憧れの的である亜梨亜が連盟なりルクレールに顔を出した時だけで、普段は見向きもされず利益が上がらなかったであろう事は容易に想像する事が出来た。
しかし連盟とルクレールに設置された筐体だけが、亜梨亜が顔を出した時のみ一時的に稼働率が上がっていたなどという事実を彼女自身が知るはずもなく、それ故に戦車道プリクラ自体がそのセンスのなさで不人気だった事も当然知らなかった。
「え~っとだな、エライ話がそれて何が何だか…あぁそうだ、お前さんは色々心配しているようだが大学の事なら何も問題ないから安心しろ……確かに文系に進むつもりだった私が理系でもトップクラスの大学に行くのだから心配かもしれん……だがな、顔合わせした先輩方も私がこれから何をやるか理解しているから、その分必要な学業の面での全面的なバックアップを約束してくれているんだ」
「そうなの……?」
人間スパコンの異名を取るラブとしては大学の高等数学の講義に興味津々であり、お手伝いする気満々だったがアンチョビはやんわりながらハッキリとそれは無用である事を伝えていた。
「名城総大は優秀な学生さんが多いからそれならば安心ですね…厳島のグループでも毎年何人かは名城総大出身者が入社していますし、これまでに入社して来た方達も各分野でエキスパートとして活躍しているから将来が楽しみだわ」
「あ、そうでしたか……」
亜梨亜としては暴走気味な娘を諫める為の助け舟を出したつもりだったが、アンチョビにはまるで一生懸命勉強して私の役に立ってねと言われたようで、背中を一筋の冷たい汗が流れ落ちる感触に肝を冷やしたのだった。
自宅で動けなくなって再入院となりましたが、手術してもそれで完全に回復するものでもないらしく、結局は今後も服薬やら注射やらで様子見となりました。
まぁ騙し騙しやるしかないようです……。
まほチョビのキャンパスライフに首を突っ込みたくて仕方ないラブですが、
やはりアンチョビはそれを全力で阻止したいようですねw
相変らず伏線は小出しですが、ボチボチそれが何かバレる頃でしょうか?
戦車道プリクラを大洗やさんふらわあ号に設置すれば結構利益出そうですが、
撮るのは多分私達のようなガルパンおじさんばっかかもww