ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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投稿ペースが落ちたままで、読者の皆様には本当に申し訳ございません。
腰の状態は相変らずで、仕事で消耗する分投稿はこれが限界です……。

笠女の新一年生、AP-Girlsのルーキー達の登場はもう少し先。
でもその前にまずはエリカに暴れて貰いましょうw


第三十話   Route16

 桜舞い散り春霞漂う浦賀水道。

 観音崎灯台の後衛、小原台の頂にそそり立つ厳島の城も朧にかすみ、中空に浮かぶ幽玄なその姿はさながら西洋のお伽話に登場する浮遊城のようだった。

 もしその幻想的な光景だけを見ていたのであれば、自分がファンタジーの世界に迷い込んだと妄想に浸る事も出来ただろう。

 だが突如として辺り一帯の空気を震わせる程力強く鳴り響く轟音が、そんな夢か現な雰囲気を瞬く間に吹き飛ばし全てを現実へと引き戻していた。

 それは汽笛、例え予め教えられていたとしても直ぐにはそう認識出来ない程の重低音。

 耳を弄する雷鳴に勝るとも劣らぬ暴力的な汽笛が、堅牢を誇る厳島の城の城壁を叩き窓という窓が共鳴しカタカタと小刻みに鳴動する。

 

 

「う…ん……」

 

 

 突然の音の暴力、城全体を呑み込む音圧に翻弄され震える窓枠の立てる音に、上層の海に面した一室の天蓋付きの寝台で規則的な寝息を立てていたラブは、心地の良い眠りを妨げられ軽く眉を寄せると微かに呻きながら寝返りを打った。

 入学式から数日経った新学期最初の週末、多忙な亜梨亜に代わり城の雑務を片付ける為に単身帰宅したラブは、書類仕事が深夜まで及んだ分寝坊して疲労回復に努めていた。

 しかしいくら熟睡していたとはいえ城全体が震えるような汽笛の重低音が響けばさすがに目が覚めるというものだが、それでも暫くは虚ろな目で天井を見上げ自分が何処にいるのかを考えていた。

 

 

「そっか…城に戻ってたんだっけ……」

 

 

 ぼんやりと眺めていたのが入寮から既に一年経過しすっかり見慣れた寮の天井ではなく、幼い頃から使っている自室のベッドの天蓋だと気が付いたラブは、緩慢な動作で身を起こし大きな欠伸をしながらグッと伸びをする。

 

 

「…にしてもあのファイルの山は一体何なのかしら……?パーツのリストなのは間違いないと思うけど覚えのない型番が大半だし、何より相当古い物みたいだから今更あんなものに何の価値があるのか私にはさっぱりだわ……」

 

 

 伸びをしても依然として彼女の眠そうな表情に変わりはなく、虚ろな目をしたまま呟く独り言も意味不明だった。

 

 

「眠い…けど亜梨亜ママもいきなりあんな物を私に整理しろだなんて何考えてるのかしら……?ってうるさっ!こ、この重低音は寝不足の頭に酷過ぎる……」

 

 

 一度目の汽笛で目覚め城に戻っている事を何となく思い出し、何やら寝惚けた頭でブツブツと呟いていたラブであったが、二度目の汽笛に寝不足の脳を揺さぶられあまりに強烈な音圧に頭を抱えると、そのまま前のめりにベッドの上へと倒れ込んでいた。

 

 

「うぅぅ…ハードな頭脳労働明けにこの仕打ちはあんまりだわ……ん?けどこの汽笛は……」

 

 

 もう少し寝ていたかったのにと頭を抱え泣き言を零していたラブであったが、城と疲れた脳を揺さぶる重低音に心当たりがあるらしくのろくさと頭を上げた。

 

 

「か、身体が重い……」

 

 

 いつ頃からそれが習慣になったのかは不明だが、外泊時以外、余程特別な理由でもない限り就寝時に何も身に付けぬラブは、寝起き特有の倦怠感を引き摺りながら一糸纏わぬあられもない姿でのそのそとベッドの端目指して四つん這いで進んで行った。

 

 

「ハァハァ…ええと、取り敢えずこれだけ羽織ればいいか……」

 

 

 その規格外の特大サイズ故に四つん這いでハイハイすると、一歩前に進む毎にむにゅむにゅとベッドに押し付けられるたわわの重みに加え、反発し合うたわわとベッド双方の弾力に翻弄され無駄に体力を使ったラブは、肩で息をしながらベッドサイドのハンガーに掛けてあったシルクのガウンに手を伸ばした。

 榴弾暴発事故で深手を負い肩に障害の残るラブは悪戦苦闘の末ガウンに袖を通すと、素足のまま部屋を横切りバルコニーに面した大窓に歩み寄り、勢い良くレースのカーテンを払い除け立て続けに凝った意匠の硝子戸を開け放った。

 

 

「あ~やっぱり……」

 

 

 大窓を開け放ち吹き込んだ風にレースのカーテンが踊り、バルコニーに一歩足を踏み出したラブは陽光の眩しさに僅かに目を細める。

 そしてひと呼吸分間を置いてから大きく目を見開いたラブは、視界を塞ぐ巨大な鋼鉄の浮島にやはりそうかと頷いていた。

 建造当初の三段甲板空母であった頃の航空母艦赤城を原型とする知波単学園の学園艦が、威風堂々白波を蹴立ててゆっくりと浦賀水道を進んで行く。

 

 

「知波単は今日出航だったのね」

 

 

 笠女開校当初に文科省の眼鏡の働いた悪行と不手際の積み重なった結果、AP-Girlsは戦車道の履修許可が下りず一切の対外的な練習試合などが出来ずにいた。

 そして厳島親子がお忍びで横須賀に戻った際、偶然遭遇した知波単戦車隊のOGである英子の口利きで現隊長の絹代の協力を得て国内で訓練を行っていた経緯もあり、バルコニーから知波単の学園艦の船出を見送る事になったラブは、当時を思い出して感慨深げに目の前を歩くような速度で進む巨艦の威容を眺めていた。

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

 東京湾最大の難所である浦賀水道の速力制限は12ノットで時速に換算すると約22km/hだが、学園艦の場合はその巨体故に船足は一層遅くパッと見には全く動いているようには見えなかった。

 暫くの間その光景をぼんやりと眺めていたラブはいきなり何かを閃いたようで、バルコニーから室内に取って返した彼女は様々なアンティークが並ぶ飾り棚に駆け寄った。

 

 

「え~っと…これまだアセチレンガス残ってるかしら……?」

 

 

 飾り棚の上段に手を伸ばし彼女が手にしたのは何やら無骨な印象の金属の塊で、その全体的に煤けた黒塗りの代物をラブは怪しむ表情で軽く振った。

 

 

「って、ずっとほったらかしだったからさすがに残ってるワケないか……」

 

 

 彼女が手にしたのは旧帝国海軍が使用していた亜式信号灯と呼ばれる信号灯で、後部のタンクに充填したアセチレンガスをノズルから噴射し、種火で点火したガスを電鍵で調整してモールス符号を送信出来る携帯式の信号灯であった。

 何故彼女がそんな物を所有しているのかは不明だが、新年度最初の航海に出る知波単学園の学園艦に発光信号を送ろうと思い付いたラブは、アンティークと呼ぶにはあまりにも優雅さに欠ける軍用品を前に少し考え込んだ。

 

 

「…となるとやっぱこっちっていうか、最初からこっちを使えばいいだけの事よねぇ……」

 

 

 そもそもがそんな物を持っている事自体がおかしい訳だが、亜式信号灯が使える状態にない事を確認したラブは、今度は少し屈んで同じ飾り棚の一番下の段から彼女が試合中に()()する拡声器に似た形状の物を引っ張り出した。

 

 

「こっちは大丈夫よね?確か40,000時間くらいバッテリーが持つって話だから……」

 

 

 ハンドガンのグリップのような持ち手部分を握り締め彼女が操作方法を確認しているのは、LEDを使用した長寿命のバッテリーを内蔵した最新型の携帯式信号灯であった。

 

 

「うん、大丈夫そうね…さて、それじゃやるとしますか……いくら厳戒態勢で最微速航行とはいったって止まってる訳じゃないんだから、あんまのんびりしてたら行き過ぎちゃうもんね……」

 

 

 携帯式信号灯のグリップを握りシャカシャカと数回トリガーを引き、正常に信号灯が発光する事を確認したラブは再びバルコニーに舞い戻ると、浦賀水道を慎重な動きで抜けようとする知波単の学園艦に向けモールス符号を用いた発光信号で通信を送り始めた。

 

 

「う~ん、難所を航行中で忙しいでしょうし、ここはあまり凝った事はしない方がいいわよね…けど大分霞んでるし果たしてこの視程でホントに届くのかしら……?」

 

 

 春霞の洋上特有の見通しの悪さに、携帯式の信号灯の光がどの程度視認出来るものかと不安に駆られながらも、他に代わりの利く通信手段もなくラブは諦めてトリガーに指を掛ける。

 

 

「え~っとそうねぇ…チハタンガクエンノコウカイノブジト、ニシタイチョウオヨビセンシャタイノゴブウンヲオイノリシマス……ま、こんなもんかしらね……?」

 

 

 送信する内容を口にしながらトリガーを引きモールス符号で続けて二回程通信を送ったラブは、暫く経って反応がなければもう一度試すかと考えながら知波単学園艦の様子を窺う。

 

 

「さすがにスルーかしら?丁度ウチの城の前って一番の難所だからな~」

 

 

 自宅前が浦賀水道でも難所である事が解っているだけに、ラブも端から返信など期待していなかったのでもう少し様子を見てから諦めようと思ったその時、まるでそれを見越したように短く一度汽笛が鳴り、次いで明らかにラブに向けて知波単の学園艦の艦橋付近で回光通信機が明滅し始めた。

 

 

「あら?お返事が来たわ…えぇと何々……遠く肥後の国の黒き森より攻め来る、鉄猪を迎え撃たんとZ旗を掲げ立ち向かう戦乙女達に栄光あれ……」

 

 

 ラブとしては迷惑を掛けぬようあくまで形式的な短文を送るだけに留めたが、知波単の学園艦の艦長と絹代の連名での発光信号による返信は、同じ短文ながらも相当に凝った内容のものであった。

 

 

「もう…絹代さんったら日曜とはいえ出航ともなれば忙しいはずなのに、この短時間でこんなに凝った返信文を捻って……けど絹代さんも耳が早いわね、一体何処から黒森峰との試合の事を嗅ぎ付けたのかしら……?」

 

 

 入学式当日にエリカから叩き付けられた果たし状(試合の申し込み)を受理したラブは、早速母であり笠女の代表である亜梨亜と航路科にその旨連絡を取り出航予定を変更していた。

 そしてそれと同時に彼女は連盟にも審判団の派遣を申請し、黒森峰との練習試合の日程はその日のうちに連盟のホームページにも公表され、マメにそれをチェックしている者達には両校の対戦は即座に知る処であったのだ。

 絹代もおそらくは事前に連盟の公式ページで各校の動向は掴んでいるはずなので、返信にその旨折り込んで来たであろう事はラブにも予想は出来た。

 だがそれが解っていても尚、敢えて絹代の素早い対応に驚いて見せたラブであったが、その口元には微かながら楽し気な笑みが浮かんでいた。

 

 

「それにしても絹代さんも結構なロマンチストなのね…ダージリンの耳元にもこんな詩的なセリフを囁いてその気にさせてるのかしら……?」

 

 

 幼少期に英語を学ぶ過程で一々和訳する事が面倒になったラブは、最初から英語で考えればよいという極論に達し脳ミソアメリカ人となった結果、母国語たる日本語が第二言語となりその代償として国語が一番の苦手科目なっていた。

 故にどちらかと言えば檄文に近い絹代からの返信に、彼女は相当に的の外れた寸評を口にする。

 しかし彼女自身は自分の感覚がおかしいとはこれっぽっちも思ってはおらず、返信を送った後に超長音と呼ばれる長めの汽笛を三回鳴らしラブに別れを告げる知波単の学園艦を、優雅な所作で手を振りながら見送ったのだった。

 

 

「さて、それじゃあ私も帰ってエリカさん達を出迎える準備をしなきゃね~」

 

 

 知波単の学園艦が浦賀水道を通過するにはまだ相当時間を要するので、見送りの挨拶を済ませたラブは部屋に戻り内線でメイド長の雪緒を呼び、彼女の手を借りて着替えを済ませると帰艦に備え荷物を纏め朝食を取る為にEsszimmerへと向かうのだった。

 

 

「しっかし絹代さんもだけど、エリカさんは一体何処であの情報を掴んだのかしら?まだ私だって報告を受けたばかりで、学校のホームページにも記載してないし対戦の受付もしてないのに……」

 

 

 雪緒に続いて部屋を出たラブは大階段を下りる途中でふと足を止めると、高い天井に描かれた楽劇を題材とした絵画を見上げながら、新年度早々エリカが情報を掴んでいた理由を考えていた。

 

 

「恋お嬢様、如何されましたか?」

 

「あ、ごめんなさい雪緒ママ今行くわ」

 

 

 後に続くラブが足を止めた事を気配で察した雪緒が振り返りざまに声を掛けると、無意識のうちに立ち止まっていたラブは慌てて彼女の後を追い階段を下りて行った。

 

 

「ねぇ雪緒ママ」

 

「何でございましょう恋お嬢様」

 

「今日の朝ごはんの卵焼きなんだけど……」

 

「いつもより甘めにでございますね?そのように準備しておりますよ」

 

「やた♪」

 

 

 寝不足気味&疲れ気味なラブが頼むまでもなく、予め彼女の希望に沿うよう準備をしていた雪緒が先に答えると、ラブは子供の頃と変わらぬ屈託のない笑顔を浮かべ雪緒の笑いを誘っていた。

 

 

「さ、お早くこちらへ、午後には黒森峰の学園艦が入港するのでしょう?朝食が済みましたらヘリをご用意致しますのでお急ぎ下さい」

 

「は~い♪」

 

 

 出航した知波単の学園艦と入れ替わりに横須賀入りする予定の黒森峰の学園艦は、入港の順番待ちの為既に相模灘の辺りで待機しているはずなので、雪緒も早めに朝食を取るよう促しラブも素直にそれに従うのだった。

 

 

 

 

 

「ハイ♪ラブ姉お世話になるわ!いや~、けどこうも立て続けに横須賀に来る事になるとはさすがに私も思わなかったわね~」

 

「エリカさん……」

 

 

 黒森峰の学園艦が横須賀港に入港し、ベース内の笠女学園艦の専用桟橋に轡を並べるように接岸して早々、出迎えに来たラブの前に強行軍の疲れも見せず姿を見せたエリカは、らしくない程の軽さとハイテンションぶりでラブを困惑させる。

 

 

「それにしてもラブ姉、今日はお休みなんだからわざわざ制服着て来なくてもいいのに」

 

 

 出迎えたラブの一部の隙もない制服姿に、上陸して来たエリカは自身も制服を着用している事を棚に上げてラブの几帳面さに苦笑して見せた。

 

 

「うん、でも一応は校務だから…ところで他のみんなは……?」

 

「ウチは大所帯ですからね、後から来ますよ」

 

「そう……」

 

 

 苦笑するエリカに戸惑うラブは自分だって制服着てるクセにと思ったが、それ以上に彼女の視線の行き先が気になり話の合間についミニスカートの裾を抑えて内股でモジモジしていた。

 

 

「えっと、エリカさん……?」

 

「ふ~む…ラブ姉、今日はニーソじゃなくてタイツなんですね……」

 

「う、うん…けどそれが何か……?」

 

 

 何となくエリカが言いたい事は解っていたが、それでも敢えてラブはとぼけてみせる。

 

 

「割と薄手な感じに見えるけど30…いや、25デニールぐらいですか……?」

 

「え?えぇそうよ……」

 

 

 これまで制服着用時には絶対領域も眩しいオーバーニーソックスを穿いていたラブであったが、今日の彼女はほぼストッキング並みの薄さの黒いタイツを穿いていたので、エリカの視線も自然と足下に集中し遠慮なくガン見していたのだった。

 タイツとしては最も薄い部類でストッキングと変わらない数字を言い当てたエリカに、ラブは彼女の観察眼の鋭さにやや驚きながら慎重に頷く。

 

 

「う~ん…厳島流の礼装のバックシーム入りのパンスト程の破壊力じゃないけど、なんか今までのニーソよりもずっとエロくね……?」

 

「え、エリカさん!?」

 

 

 姿を見せるなりハイテンションでグイグイと押すエリカに圧倒されっ放しな処に、止めを刺すかのような一撃を喰らったラブは絶句して目を白黒させ、その様子にエリカは満足したのか口元に極め付きに質の悪い笑みを貼り付かせていた。

 

 

「冗談ですよ…けど何でまた今になって急にタイツを……?」

 

「そ、それは……」

 

 

 絶句するラブにエリカは特に悪びれるでもなく、彼女が突然タイツを穿くようになった理由を追及するが、明らかに誤魔化したそうな顔のラブは目を逸らして言葉を濁す。

 

 

「それは……?」

 

「ぐ……」

 

 

 あの榴弾暴発事故がなければラブも本来ならこの春で大学生になっているはずだったが、本人の意思で昨年開校した笠女に入学した彼女はやっと高二になったばかりで、当然後二年間は高校生として学校指定の制服を着て過ごす事になっていた。

 だが二年に進級する直前の春休み中にAP-Girlsのメンバー達の間で、彼女の年齢と容姿的にさすがにもうオーバーニーソックスは見ていて痛いという声が上がり、そのまま卒業まで行くつもりだったラブとかなり激しい言い合いになった事があったのだ。

 しかし最終的には客観的な目で自分を見ろというメンバー達の声に負けたラブが、通常の制服着用時はタイツの着用を選択し、パンツァージャケットを着用時のみロングブーツに合わせたオーバーニーソックス穿く事で漸く事態も沈静化したのだった。

 無論彼女自身が精神的に落ち着いて来たとはいえ、やはり事故で負った深い傷跡をあまり見られたくはないという気持ちは全員理解しているので、誰一人として彼女に生脚を晒せなどと言う無神経な者はいなかった。

 とはいえそれでも実年齢より遥かに大人っぽく色っぽいラブが、女子高の制服でオーバーニーソックスに脚を通すのはビジュアル的に相当にヤバいという思いが強く、メンバー全員が一致団結して圧力を掛け彼女にタイツを選択させたのだ。

 

 

『ま、大体察しは付くけど…でもこの人の場合オーバーニーソックスだろうがタイツだろうが、エロい事には大して変わりがないのよ……そもそもがラブ姉は股下比率が日本人離れしてるし、何やったらここ迄ラインが美しくなるのか小一時間は問い質したくなる程の美脚だしねぇ……』

 

 

 無遠慮に突き刺さる視線を避けるラブの背中に、ほぼ正確に裏の事情を察しているエリカはキュっと口角を吊り上げ獲物を見付けた捕食者の笑みを浮かべ、この機会を逃してなるものかとばかり一気に止めを刺しに行った。

 

 

「ま~どうせアレでしょ?あの小娘達がいい加減年を考えろとか言って、ラブ姉がオーバーニーソックス穿くの反対されたとかそんなトコなんじゃないの?」

 

「え、えええエリカさんっ!?」

 

 

 まさかのド直球、容赦の欠片もない強烈な一撃に、まるで一番信じていた相手からフレンドリーファイアでも喰らったような顔のラブが振り返ると、そこにはヘラヘラと馬鹿にしたような半笑いを浮かべ両の掌を肩の辺りで天に向けたエリカの姿があった。

 無論エリカもラブが生脚を晒せない理由は承知していたが、ナーバスな問題を下手に腫れ物扱いするよりも、いっそイジリのネタにしてしまった方が互いに気が楽だと考えての行動だったのだ。

 

 

「やっぱ図星ですか…けど実際ラブ姉の容姿でオーバーニーソックスはそろそろヤバいとは私も思ってましたからね……AP-Girlsのミュージックビデオなんかに映ってる制服姿も、一歩間違えればいかがわしい動画になり兼ねないギリギリな場面結構あったし……」

 

「ま、まさかエリカさん迄私の事をそんな目で……」

 

「だから冗談ですって」

 

「……」

 

 

 ラブとてエリカの行動が何を意図しての事かは凡そ理解はしていたが、それでもあまりの言いように絶句し半開きの口を閉じる事すら忘れていた。

 

 

「だからラブ姉、この程度でなんて顔してんですか…写メ撮っちゃいますよ……?」

 

 

 隙あらば自分達に下らない悪戯を仕掛けて来るラブのイジリ耐性のなさにエリカが呆れれば、彼女の写メを撮るゼスチャーにラブは慌てて口元を両手で覆う。

 

 

「今日のエリカさんは凄く意地悪だ……」

 

「何です……?」

 

「何でもない!そ、それよりエリカさん…まだ横須賀市でも工事が終わった事も発表してないし、対戦の受付もしてなかったのに一体何処から情報を聞き付けたの……?」

 

 

 つい口から零れた恨み言を聞き付けたエリカの目が鋭く光ると、慌ててそれを誤魔化そうとしたラブは彼女と顔を合わせたら真っ先に問い質そうと思っていた事を思い出し、腰の両側に手を当てわざとらしく自分を睨む彼女の顔色を窺っていた。

 

 

「はぁ?何言ってんですラブ姉……?」

 

「だから!国道16号のトンネルの補強工事とカーボンコーティングの施工が終わった事よ!まだ横須賀市の市議会での報告はおろか広報にだって乗ってないのよ?なのにエリカさんはそんな情報を一体どうやって入手したのか聞いてるの!」

 

 

 明らかにとぼけるエリカの態度にいつになく自分が手玉に取られていると感じたラブは、彼女にしては珍しくエリカに対して強い口調で再度質問を突き付けていた。

 

 

「何処ってラブ姉、極普通にネットでに決まってるじゃないですか」

 

「だからそんな訳ないじゃない!まだ市役所からだって何も発表してないって言ったよね?なのに何でそれがネットで調べられるのよ!?」

 

 

 ラブらしからぬ態度を面白いと感じつつ、それを面に出す事なくエリカは努めて呑気な態度で返したが、それが却って火に油を注ぎラブの表情は一層険しくなっていた。

 

 

「ちょっと待ってラブ姉、ラブ姉さっきから市役所の事ばっか言ってるけど、まさか国交省のホームページの事知らないの……?」

 

「国交省……?」

 

 

 いつものように相手を翻弄する処か逆に一方に的振り回されて感情的になっていたラブは、思いもよらぬ話に一変して間抜け面を晒してしまう。

 

 

「そう、国土交通省関東地方整備局の横浜国道事務所のホームページよ、ちゃんとそこに横須賀地区トンネル改修工事の情報は記載されてて誰でも閲覧出来るけど?」

 

「国土交通省……」

 

「ええ……」

 

「関東地方整備局……」

 

「そうよ……」

 

「横浜国道事務所……」

 

「横国が略称らしいですね……」

 

「……」

 

 

 虚ろな表情で呟くラブに律儀に付き合うエリカは、その様子からどうやら彼女が本当にその存在を知らなかった事に気が付くと、今にも吹き出しそうな顔でラブに止めを刺しに掛った。

 

 

「え?やだラブ姉、もしかして本当に知らなかったの……?」

 

 

 今にもプ~クスクスと笑い出しそうな表情でそう畳み込むエリカに、ラブは悔しそうに無言で頷き返す事しか出来ず、その滅多に見られぬラブのリアクションにすっかり気を良くしたエリカは、それだけでも横須賀に乗り込んで来た甲斐があったと会心の笑みを浮かべる。

 

 

「フフフ…16号戦、中々楽しい事になりそうね……」

 

 

 何もそこまで言わなくてもいいじゃないといじけるラブとは対照的に、エリカはここ最近で一番楽しそうで且つ生き生きとしているように見えた。

 

 

 




学園艦の浦賀水道通過は、例によってファンタジーという事でどうかひとつw

という訳で新年度最初の一戦は、エリカ率いる黒森峰との16号戦になります。
挑むエリカは事前に色々と仕込みをしているようなので、次回以降は色々とラブが驚くサプライズが用意されているようです。

年度が替わり進級するのに合わせタイツを穿くようになったラブですが、
結局はケダモノ達をハァハァさせて餌食になっちゃうんでしょうねぇww

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