ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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以前も言いましたが学園艦のサイズを気にしてはいけません。

今回はラブの戦闘能力の一端も明らかになります。


第十二話   Nightmare

「またあのベッドで眠るのか……」

 

 

 大盛況の内に終わったパーティーから宿舎のあてがわれた部屋に戻るエリカの足取りは重い。

 これから再びあの天国と地獄を味わうかと思うと歓喜と憂鬱の板挟みも無理からぬ事。

 しかも明日から始まるイベントを考えると体力が持つか一層不安も募る。

 果たしてそのイベントとは一体何か?

 それは時間をほんの少し遡る事一時間程前の事。

 

 

「あのさ~、これだけ戦車が一ヵ所に集まってるからさ、横須賀に着くまでみんなで戦車で遊ばない?トーナメントでもいいしバトルロイヤルでもいいし何でも出来ると思うんだけど。弾はペイント弾使ってさ、それこそ学校に関係無く搭乗員入れ替えても面白いと思うんだけどどうかなぁ?」

 

「Oh!ラブ!それはナイスなアイディアね♪」

 

 

 真っ先にケイが喰い付き隣でナオミも親指を立てている。

 

 

「うん、それは隊員達にも良い経験になるな!」

 

「そりゃ~学校全体で交換留学する様なものだな、うん、面白いぞ!」

 

「休憩時間にはお茶会も宜しくてよ?」

 

「その時は取って置きのジャムを提供するわ!」

 

「うわぁ~♪楽しそう!」

 

 

 後に続く者達も大いに乗り気になってこの提案は即決定事項となり、その場で会場に居る隊員達にも通達されその提案は大歓迎されたのだった。

 パーティー終了後は各艦艦長始め居残り組だった隊員達も、再びスーパースタリオンでそれぞれの母艦に帰投し、エリカもまた宿舎に戻るのであるがその胸中は複雑だ。

 

 

「お願い…今夜は寝かせて……」

 

 

 どうやらエリカにとって今夜は長い夜となりそうであった。

 一方一同と別れたラブ達もまた自分達の寮に戻りそれぞれの部屋に入り明日に備えている。

 

 

「ん~♪今日のステージ完璧だったね~、愛!」

 

 

 隊長であるラブと副長の愛は同室である様だ。

 しかし部屋のベッドはと見ると、やはりこちらもキングサイズのダブルベッド。

 この学校はその辺一体どうなっているのであろうか?

 

 

「恋、シャワー」

 

「ん~?解った~」

 

 

 この愛という少女は表情が乏しいだけではなく言葉数も少ないらしいが、ラブもそれに対し特にあれこれ言わずコミュニケーションは成立しているらしい。

 ラブがパンツァージャケットを脱ぎ始めると愛が近付きその手伝いを始めた。

 その様はまるで女王とそれに仕える忠実な宮廷女官の様にも見える。

 そしてラブもまたそれを当然の様に着衣を脱いで行き、そのまま一糸纏わぬ姿となる。

 外されたブラは何と言うかもう異次元なサイズで、それから解放されたナオミ曰く17ポンドは抜群の破壊力を誇っていたが、愛は気にも留めず脱いだ衣服を片付けていた。

 その後愛もラブ同様の姿となると二人してシャワールームに消えて行き、暫くはシャワールームからの水音が二人の部屋に響くのみ。

 どれ位時間が経過しただろうか?二人が再び部屋に戻った時には同様のバスローブを身に纏い、ラブの長い髪は結い上げられタオルを巻かれていた。

 

 

「座って」

 

 

 愛の示す鏡台の前の椅子にラブが座り愛が頭に巻かれたタオルを解くと、垂れた赤く長い濡れ髪が妖艶な輝きを放つ。

 その髪を愛が丁寧にドライヤーで乾かして行くとラブから至福の笑みと共に呟きが漏れる。

 更に適度に乾いた髪を愛は緩く優しくおさげ髪に編んで行く。

 

 

「ん~、私女王さまだよね~♪」

 

「終わった」

 

「愛ありがと♪じゃ、今度は愛の番ね」

 

「私はいい」

 

「ダ~メ、ハイ、座って座って~」

 

「……」

 

 

 愛が無言で座ると今度はラブが嬉しげに愛のピンク髪にドライヤーの温風を当て始める。

 その手つきはまるで大事な宝物を扱う様で、されるがままの愛の表情も一見変わらぬ様に見えるがしかし、中々気付かない程ではあるがその表情はどこかはにかんだ様な微かな笑みが見えた。

 ラブも自分にやって貰ったのと同様に緩くお下げに編み上げると満足げに頷く。

 

 

「ヨシ!出来たよ~♪」

 

「…ありがと」

 

「うん♪」

 

 

 この二人の短い会話の中には何か言葉など要らない強い信頼関係がある様に思える。

 

 

「それじゃあ寝よ~か~?」

 

「ええ」

 

 

 そう言うと再び二人は一糸纏わぬ姿となり揃ってベッドに潜り込む。

 

 

「お休み、愛♪」

 

 

 ラブは愛の額に自分の額を重ねると優しく言う。

 

 

「お休み……」

 

 

 愛の返事を合図に満足げなラブはその美しい双眸を静かに閉じる。

 そして暫くすると二人の部屋に微かな二つの寝息が重なり始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 ッテ……

 

 

 

 マッテ……

 

 

 

 

 オイテイカナイデ!

 

 

 

 

 

 ワタシヲヒトリニシナイデ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オイオイ、それは無理というものだよ』

 

『ウム、さすがにこれではな』

 

『うん、ちょっとないかな』

 

 

 

 

 

 ヤメテ……

 

 

 

 

 

『その有様で一体どうしろといいますの?』

 

『ですわね』

 

 

 

 

 

 ソンナコトイワナイデ!

 

 

 

 

 

『So tiresome.いい加減付き合い切れないのよ』

 

『自分をよく見るんだ』

 

 

 

 

 

 オネガイ…ソンナメデミナイデ!

 

 

 

 

 

『いい加減にしなさいよ!』

 

『もう…お諦めなさい』

 

 

 

 

 

 ワタシモイッショニツレテイッテ!

 

 

 

 

 

 ヒトリハモウイヤ…

 

 

 ミンナトイッショニ……

 

 

 サビシイノハモウイヤ!

 

 

 オネガイ…オネガイ……オネ……

 

 

 ワタシハ…ワタシモ…ワタシ……ワ…タ……シ……

 

 

 

 

 

 薄闇の中に荒い呼吸が響く、ラブの額には汗が浮かびその肢体は時々大きく痙攣を起こす。

 美しく整った顔立ちには苦悶の表情が浮かび、時々聞き取り難いうわ言が唇から零れ出る。

 そんなラブの様子を傍らに座り上から見つめる小さな影。

 その影はまた痙攣を起こすラブにそっとその身を重ね優しく手を握り締める。

 すると少し時間を置いて続いていたラブの荒い呼吸も自然と穏やかになって来た。

 その後も暫くの間身体を重ねていた小さな影も何処か安心した様子でその身を離し起き上がる。

 しかし僅かなカーテンの隙間から差し込む月明りが、その影の頬を伝うひと筋のものを照らし出しているのだった。

 

 

 

 

 

「気を抜くな!私に恥をかかせるなよ!」

 

 

 盛大なパーティーから一夜明けた笠女学園艦内の大格納庫では、朝食後に各校の隊員達がそれぞれ戦車の点検整備に勤しんでいる。

 そんな中に在ってまほが一見厳しく檄を飛ばしているがその顔はニヤけている。

 何故ならこれから七校合同の訓練という名の楽しい時間が始まるからであり、何と言っても三年ぶりにラブと砲火を交える事が出来る、これでニヤけるなと言われても無理というものだろう。

 隊員達もそれが解っているのでまほの声にも笑いながら応えているのだった。

 一方では夜明けと共に揃い踏みした七校の学園艦も艦隊行動を開始し、笠女学園艦を先頭に単縦陣を組み一路横須賀を目指し駿河湾沖を後にしていた。

 しかしその駿河湾内も未だ殆どの学園艦が動けずにおり、今回の高校戦車道観閲式からの撤収が如何に困難であるかを物語っていた。

 尚、横須賀を目指すに当り笠女艦長の相模灘にたたっ込む発言とは裏腹に、その巨大さ故艦隊を組んでの相模灘は航行の許可が下りず、大島を迂回する航路を取る事になっていた。

 そして今その七校艦隊の上空を六機のCH-53Eスーパースタリオンが働き蜂の様に忙しなく飛び回っている、笠女にはⅢ号用のペイント弾しかない為、各艦から集めて回っているのだ。

 その到着を以って一同が待ち望んだお楽しみの時間が幕を開けるのである。

 

 

「にしずみ~、随分気合が入ってるじゃないか~?」

 

 

 こちらもニヤニヤ笑いのアンチョビがまほの様子を茶化しつつ現れる。

 まほも全然怖くない怖い顔を作ってアンチョビに言い返す。

 

 

「煩いぞ、お前こそさっきから大騒ぎしていたクセに」

 

 

 そうは言ってみたもののそんな表情も長くは続かない。

 

 

「ああもうダメだ!早くペイント弾が届かないものかなぁ!?待ちきれないぞ!」

 

「全くだ!私もこんなに戦うのが待ち遠しいのは久し振りだよ!」

 

 

 二人は大きな笑顔で嬉しげに語り合う。

 黒森峰の隊員達にしてみればこれ程までにはしゃぐまほの姿を見るのは初めてだろう。

 それ故に如何にこの時を待ち望んでいたかが窺い知れる光景だったのだ。

 

 

「Hey!二人共盛り上がってるわね!」

 

『当たり前じゃないか!』

 

「お待ちかねのペイント弾が届いたそうよ」

 

「おお!やっと来たか!」

 

 

 まほがそれを聞くや会心の笑みを浮かべアンチョビとハイタッチを交す。

 それを見たケイも大きな声を上げ笑った後二人に更にこう告げた。

 

 

「準備が出来た部隊から順次エレベーターで演習場に上げるそうよ」

 

「そうか、しかしこの学園艦の装備は本当に凄いな、正直私もかなり羨ましいと思うよ」

 

「ああ、アンツィオもそれなり古いから苦労は多くて同感だよ、ケイの所はそうでもないかな?」

 

「こっちも変わらない〈誤字ではありませんが直前のフレーズと丸かぶりで逆の意味のため〉わ、昨日ウチの艦長も羨ましいを連発してたもの」

 

「サンダースですらそうだったのかぁ」

 

 

 そんな会話をしている処に早速甲板員から移動開始を告げる声が掛かった。

 ここでもやはりこの艦は怪物ぶりを発揮し一同を驚愕させる事になる。

 何しろ一度に三十両程の戦車が昇降可能であり、黒森峰とサンダースを一緒に演習場のある第一甲板までリフトしてしまい、更に同様の物が艦の前部と中央部の計三基、それより規模の小さい物を五基備えているという。

 二番手で第一甲板に上がる聖グロとプラウダの隊長であるダージリンとカチューシャは、ブザーが鳴り回転灯が回るリフト上で若干青い顔で会話する。

 

 

「な、なんか上昇スピードも異様に速くありませんこと?」

 

「そ、そうね……」

 

 

 しかし最後に上がるアンツィオと大洗は若干様子が違っていた。

 

 

「いやあ、こういうの緊急発進みたいでなんか燃えるッスねぇ!姐さん!」

 

「アホぅ!はしゃぐなぺパロニ!」

 

「あはは……」

 

 

 第一甲板の演習場に上がった後の設備も整っており、サーキット並のパドックが連なりその上部には同じくサーキットの様なグランドスタンドになっていた。

 

 

「いやはやここに来てから驚く事ばかりだなぁ……」

 

 

 それを見上げ呟くアンチョビに合流して来たラブが声を掛ける。

 

 

「ここで練習試合や合同練習する時なんかに使うのよ、それにそのままライブも見て貰えるし~」

 

「徹底してるなぁ…」

 

「だって折角来て貰って不自由な思いして欲しくないじゃない」

 

「まあウチも他所の事言えない部分もあるか」

 

「そういう事♪」

 

 

 そうこうするうちに各校の準備も整い隊長と副隊長を交えたブリーフィングが始まった。

 

 

「で、最初は何から始めるかですわね」

 

「そうだなぁ…」

 

「私はね~、時間限定フィールド限定で総当たり戦からやりたいんだけどどうかな~?」

 

 

 ダージリンとアンチョビの会話にラブがプランを示す。

 

 

「具体的には?」

 

「うん、まほ、それはね、実弾使う訳じゃないから被弾失格じゃなくて、被弾した総数で勝敗を決めようと思うの。時間内全車が全力で最後まで撃ち合うのよ」

 

「ほう?でもペイント弾だと総数が解らなくなるんじゃないか?」

 

「それとウチのタンケッテはどうカウントするかだな」

 

「一応監視塔のカメラと何機かドローンを飛ばして上空からもカウントするわ、それとタンケッテは連射が利くから十発被弾でワンカウント位でど~お?」

 

「それ位が妥当かな?しかしドローンまであるのか~!?」

 

 

 アンチョビが羨ましげに声を上げるがラブは続ける。

 

 

「ウチはまだ人数が少ないから、そういう物も積極的に使わないとやって行けないのよ」

 

「それぞれそれなりに事情もあるもんだなぁ」

 

「さあ!それじゃあ対戦表作りましょ♪」

 

「それは良いけど一回の投入車両数と制限時間は?」

 

 

 成り行きを見守っていたカチューシャが横から尋ねる。

 

 

「そうねぇ…数はウチが一番少ないからそれに合わせて貰って五両でいい?時間は色々やりたいからワンラウンド三十分、その分フィールドは狭くして遭遇確率を上げるってのはどう?ステージも市街地が良いと思うんだけど?」

 

「それいいじゃない♪面白くなりそうだわ!」

 

 

 周りの者も同意とばかりに親指を立て笑顔を見せる。

 これでいよいよ待望の時間がその幕を開ける。

 

 

「これは予想以上にタンケッテ有利なゲームですわ」

 

「ああ、こっちは全然当らないのに一方的に蜂の巣にされたよ」

 

 

 観戦スタンド上では一戦を終えたダージリンとまほが、今も一方的にサンダースを追い掛け回し蹂躙しているアンチョビの豆戦車軍団の戦いを、手元のモニターを交えながら観戦している。

 

 

「不本意ながら次はチャーチルは出しませんわ、良い的なんですもの」

 

「ああ、私も次はⅢ号にでも乗るかなぁ…?それにしても……」

 

「ええ……ほんっと~に楽しいですわ!」

 

 

 二人は破顔一笑し拳を合わせる。

 周りにいる各校の隊員達も笑いあいながら声援を送っていた。

 

 

「ほら!ケイ!もっと頑張りなさいな♪」

 

 

 ダージリンがそう声援を送るもラウンド終了を告げるブザーが鳴り、スタンド前に戻って来たサンダースは既に元の色が解らぬ程被弾しており、対するアンツィオの豆戦車軍団はほんの数発しか被弾しておらず結果はカウントする必要もなかった。

 その光景にはスタンドの控えのサンダースの隊員まで指を指して爆笑していて、より一層盛り上がりを見せている。

 

 

「しかしペイント落とすのどうするの?大変よ~!」

 

 

 戻って来たケイが絶叫するがすかさずラブが得意げにパドックの外れの方を指し示す。

 

 

「の~ぷろぶれむよケイ♪そのままあのゲートの下を潜ってね、ペイント弾は水溶性だからからあそこの高圧シャワーで大体落ちるわよ~。先に戻って来た組はもう浴びて来たわ~」

 

「Wow!至れり尽くせりね!」

 

「さあ!いよいよウチの出番よ~!みほ~、全開で行くわよ~♪」

 

「うえぇぇ…」

 

 

 ここまでの展開からみほ率いる大洗は、あんこうにカメさんとウサギさん、アヒルさんにカモさんチームの態勢で臨む事にしていた。

 

 

「こちらあんこう、各車戦闘開始前に聞いて下さい。ラブお姉ちゃん…いえ、三笠女子の厳島隊長は今までに戦ったどんな隊長とも違います。絶対油断しないで下さい、あの人は何処からでも撃って来ます、例えこちらが見えていなくても当てて来ます」

 

「西住ちゃ~ん、それどういう事~?」

 

 

 無線を通してカメさんの会長が聞いて来る。

 

 

「これが厳島隊長の一番怖い処、相手のポジションに対する予測射撃の命中率の高さなんです。厳島隊長は昔私にこう言っていました。その場所を頭の中に忠実に思い描けるなら、自分がそこに居るのも同然だと。つまりあの人は頭の中にフィールド全体を立体的に思い描くことが出来ます、そして相手になり切りどう動くかを考えそこに確実に砲撃を加える事が可能なんです。彼女にとっては射程圏内全てキルゾーンだと思って行動して下さい」

 

 

 このみほの言葉に各車から一斉に悲鳴が上がる。

 

 

「に、西住殿ぉ、あの厳島という方はそこまで凄い方なのでありますかぁ?」

 

「ええ、優花里さんそれ程の相手なんです」

 

 

 そう言うみほの顔を見た優花里はハッとして声を上げそうになった。

 話す内容とは裏腹にみほの表情には歓喜の色が溢れている。

 その表情は今まさに軍神西住みほが降臨しているに違いないのであった。

 

 

『嬉しい!私は今この瞬間が堪らなく嬉しい!』

 

 

 みほは再び咽頭マイクに手を当て交信を続ける。

 

 

「とにかく試合開始直後が要注意です、各車信号弾が上がると同時にランダムで構いませんから動いて下さい。そうしないと確実に初弾を当てられてしまいます。でも…でもこの一戦を皆さんも楽しんで戦って下さい。この一戦は得る物が多いのも確実です、それは必ず自分の成長の糧になる物です。それではみんなで頑張って戦いましょう!」

 

 

 それを最後に交信を終えみほはコマンダーキューポラ上で信号弾が上がるのを待つのだった。

 

 

 




サービス回になるはずがナニカガキタ……。

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