ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

291 / 309
試合前からエリカに翻弄されるラブは果たして16号戦で勝利出来ますかね……?


第三十二話   Surprise

『それにしても昨日は本当に驚いたわねぇ…まさかエリカさんが、まさか黒森峰があんな手を使って来るなんて夢にも思わなかったわ……』

 

 

 約四年の歳月を経て遂に復活した16号戦の試合開始直前、丁度エリカが考えなしなまほからの迷惑電話にキレていたその時、ラブもまたLove Gunのコマンダーキューポラ上で前夜エリカが仕込んで来た一連のサプライズに思いを巡らせていた。

 

 

『何だろう…今回はずっとエリカさんに振り回されてるように感じるのは気のせいかしら……?』

 

 

 過去散々彼女を振り回して来ただけに完全に自業自得だが、対戦申し込みの段階から主導権を握るエリカにラブはどうしたものかと戸惑うのだった。

 

 

 

 

 

 一足先に下艦しラブの下へと赴いたエリカに遅れる事暫し、小梅を始めとする幹部クラスを先頭に上陸した黒森峰の選手達は、出迎えるAP-Girlsとの挨拶もそこそこに彼女達の為だけに作られた活動拠点専用アリーナへと移動すると、翌日の試合に備え両校合同の全体ブリーフィングを行っていた。

 

 

「──と、まぁルールに関してはざっとこんな感じで……あ、けどその辺はウチよりそっちの方が知ってる選手は確実に多いわよね~」

 

 

 ラブを除いた全員が16号戦未経験者なAP-Girlsと違い、黒森峰の現三年生と極一部の二年生には中等部時代に出場経験者がいるので、ラブはそれをネタに自虐気味な冗談で黒森峰の古参兵達から乾いた笑いを取りに行く。

 

 

「ま、冗談はこれ位にするとして、後は互いにオーダーの交換でいいかしら?」

 

 

 対戦すれば双方一歩も引かず激突の名に相応しい試合展開になるにも拘らず、そんな気配など一切感じさせない和やかな雰囲気でステージ前に集まる両校の選手達を見渡したラブは、彼女と共にステージに立ちルール確認を行っていたエリカにお伺いを立てる。

 

 

「そうですね、基本的な部分は昔のままですしそれで構わないと思います」

 

 

 初めてAP-Girls専用アリーナに足を踏み入れた当時は、そのあまりの広さに圧倒され只々息を呑む事しか出来なかったが、短期間の間に何度も足を運ぶうちにそれにもすっかり慣れ、『慣れって怖いわ~』などと頭の片隅で考えていたエリカは、ブリーフィングの進行で同意を求めるラブに答えながら懐から取り出した封筒を手渡した。

 

 

「うふふ♡この封筒まだエリカさんの温もりが残ってるわぁ♪」

 

「だからそういうのはいいから!」

 

 

 ところが受け取った封筒を開封するより先に、ラブが愛おし気な表情で頬に当てスリスリし始めると、エリカはそれがデフォと言われる怒り顔に豹変し目の前の変態を怒鳴り付けていた。

 

 

「も~、ちょっと位いいじゃないよケチ~」

 

「誰がケチですか!ったく……や~っと手間の掛かる先輩が卒業したってのに、これじゃ何にも状況変わらないじゃない!」

 

「ちょ、エリカさん!?私をあのポンコツ(まほ)と一緒にしないでくれるぅ!?」

 

 

 隙あらば下らない事を言ってはやりたい放題やる癖に、エリカに手間の掛かる先輩(まほ)呼ばわりされた途端ラブは口を尖らせて食って掛かる。

 

 

「大して違いありません!あんま下らない事ばっかやってると、そのうち夜中にみほを枕元に無言で立たせときますよ!?それより!」

 

「う゛……」

 

 

 ジト目の上目遣いで恨めしそうに自分を睨むラブを最終兵器の名を出して黙らせたエリカは、畳み込むように右手を突き出しサッサとオーダー表を寄こせと迫った。

 

 

「…それだけは止めて……はい、コレ……」

 

 

 例の鬱な表情のみほが無言で枕元に佇む姿がリアルに想像出来たのか、げ~っと嫌そうな顔をしたラブは胸元に手を突っ込むと、たわわの谷間から無造作に封筒を引っ張り出し渋々エリカに手渡す。

 

 

「…またそんな下らない仕込みをして……」

 

 

 いきなりブラウスのボタンを外して何をするかと思えば、まさかの場所からオーダー表を取り出したラブにエリカは肩を落とし深い溜息を吐く。

 しかし自分で要求した以上それを受け取らない訳にも行かず、エリカは疲れた顔でややよれた印象の封筒を受け取った。

 

 

「アンタ達も止めなさいよね…あ~、ラブ姉の乳圧と温もりを感じるわぁ……あら、でもちょっと湿ってるわ……空調はバッチリ効いてるのにおかしいわねぇ?ここに来る前に何か汗を掻く事でもあったのかしら……?」

 

 

 だが黒森峰入学以降ずっと西住姉妹に振り回されて来た彼女もこの程度でへこたれる事はなく、ラブの奇行を止めないAP-Girlsをひと睨みすると即座に反撃に転じていた。

 

 

「…私が悪かったからもう許して……」

 

 

 思いもよらぬ逆襲、日頃自分が使うような手口で責められたラブは、まるで自らの行いを客観視させられた気がして一気にトーンダウンしていた。

 

 

『うぅ…今回は何だかやたらやり難いわ……』

 

 

 エリカの痛烈なカウンター攻撃と彼女のにやけた半笑いに、すっかり調子の狂ったラブは途方に暮れ肩を落としたまま受け取った封筒を開封する。

 

 

「は?え…ちょっとエリカさんこれって……」

 

 

 ノンナを上回る事10㎝、彼女にとって最大のコンプレックスでもある高身長。

 その日本人離れした等身と人間離れしたたわわののサイズで注目を浴びるラブが、胸の柔らかアハトアハトの重みに負けたように背を屈めた猫背のまま、オーダー表に記された出場選手と使用車両の一覧に目を通す。

 そして彼女はオーダー表に連なる選手名と戦車の名に驚き、大きく見開いたエメラルドの瞳を丸くして絶句したのであった。

 

 

「ふふふ♪どうラブ姉?これがウチのベストオーダーよ」

 

「ね、ねぇエリカさん、このオーダーってまさか……?」

 

「ええそうよ、さすがラブ姉相変わらずの記憶力ね……今回の16号戦、出場する選手は全員中等部時代の経験者で揃えさせて貰ったわ!」

 

「やっぱり…け、けどエリカさんこの人数って事は……?」

 

「お察しの通りウチの参戦車両数はパンター5両、それに合わせた人数よ……そして今回はAP-Girlsのパンター5両と同数でガチンコ勝負をさせて貰うわに!」

 

「わに……?」

 

「始めに言っておくけど、AP-Girlsのパンター5両相手に同数で挑むんじゃ役不足とか思わないでね?私達だって何の勝算もなしに乗り込んで来たんじゃないだから」

 

 

 舌好調なエリカは意味不明に登場したわにで一層困惑するラブとは対照的に、勝ち誇った顔で胸を反らしてラブの反応を楽しんでいる。

 

 

「…待ってエリカさん!今AP-Girlsのパンター5両って言ったけどその情報を一体何処で……って、漏洩源はまほしかいないわよね……」

 

 

 まほとアンチョビには復活を果たしたLove Gunを見せてやった時に、同時に残る4両のパンターG型もお披露目済だったが、その事を特に口止めしていなかったのを今になって思い出したラブは、最初にエリカが既にパンターが5両揃っているのを知っていた事に素で驚いていた。

 

 

「ええ、横須賀から帰ったその日の夜に電話して来ましたよ?」

 

「ああ、そう……」

 

 

 確かに自分でも口止めはしなかったが、まほの行動の速さと口の軽さにすっかり呆れた様子で溜息を吐いたラブは、そのまま疲れた顔で項垂れ一層猫背になっていた。

 一方、手間の掛かる隊長(まほ)の面倒を見るうちに厄介な先輩の扱いに慣れてしまったエリカは、終始自分主導で議事を進め両校のオーダー交換を以って全体ブリーフィングを終えたのだった。

 そして堅苦しいブリーフィングが終われば、後は最早お馴染みなミニライブと交流会を兼ねた食事会に突入するだけだった。

 

 

 

 

 

「あれがAP-Girlsのルーキー(一年生)達ですか……」

 

「ええそうよ、見ての通り中々の粒ぞろいでしょ?」

 

 

 交流会を兼ねた立食形式の食事会も宴半ば、ほぼ空腹も満たされ会話を楽しむ余裕が出来た頃、ラブとエリカは隊長同士両校の一年生達の様子を眺めながら雑談に興じていた。

 但し話題の大半はどうしてもAP-Girlsのルーキー達に関する事になってしまい、ラブもエリカに問われるまま答えられる事には何も隠そうとはしなかった。

 

 

『確かにどの子もビックリするような美少女ばかりよね…しかも全員どう見たってガッツリとラブ姉の趣味が反映されてるみたいだし……けど……』

 

 

 初々しさとぎこちなさは一年生らしいと言えば一年生らしいが、黒森峰の一年生達と交流するAP-Girlsの新メンバー達の容姿はやはり飛び抜けて可愛らしかった。

 話を聞く限りラブが直接スカウトした一期生とは異なり、AP-Girlsの二期生は推薦も含めて全員が超難関の入学試験を突破した云わば志願兵達であった。

 しかし選考の最終段階でラブの意向が介在しているように思えたし、長年の付き合いからラブの好みをよく知るエリカの目には、彼女の好みが大きく影響しているように見えてならなかった。

 とは言えエリカとて笠女の内情を把握している訳ではなく詳しい事は一切不明だが、AP-Girls入りする以上は全員少なくとも中学時代に戦車道を履修していたはずで、彼女達が只可愛いだけの美少女ではない事は確かだった。

 なのでエリカも彼女達がラブのお眼鏡に適うだけの実力を有し、且つ容姿にも恵まれた極めて貴重な人材であろう事は理解していた。

 だがそれだけの実力がありながら王道の黒森峰ではなく、異端の象徴たるAP-Girlsのパンツァージャケットに袖を通している以上はそういう事だと朧気ながらエリカは解っていたのであった。

 強大な黒森峰という名の群れに混じる事を良しとはせず、あくまでも孤高を貫き我が道を行く跳ねっかえりの一匹狼。

 確かに黒森峰に於いても一般受験生や推薦枠とも違うスカウト生は、中等部から生え抜きの内部生であろうと高校からの外部生であろうと他者とは一線を画するが、それでも自ら笠女に進むような跳ねっかえりと比べれば格段に大人しく感じられるだろう。

 恐らく笠女を選びZ旗を背負った彼女達がそういう存在である事を本能的に見抜いたエリカは、つい客観的な観察者の目でAP-Girlsのルーキー達を見てしまうのだった。

 ところが自分では冷静な観察者に徹しているつもりのエリカだったが、いつの間にか彼女の視線は同じ一年生同士黒森峰のルーキー達と打ち解けた様子の彼女達の特定の部分へと向けられていた。

 

 

「どうかしたエリカさん?」

 

「え~っとその…何と言うか……」

 

「何と言うか……?」

 

「…普通ですね……」

 

「何が……?」

 

「いえ別に……」

 

 

 話題がAP-Girlsのルーキー達である以上エリカの目が彼女達に向けられるのも当然だが、その視線の行き付く先が何処であるかを見抜いているラブは、美しく切れ長な目をスーッと細めてとぼけるエリカを真綿で首を締めるようにジワジワと追い詰めて行った。

 

 

『あ~もうこの(ひと)は本当にメンドクサイ…けど大洗と聖グロのチンチクリン三匹が短時間であそこまで膨らんだ事を考えれば、あの子達もじきにああなるんだろうけどさ……』

 

 

 AP-Girls一期生である現メンバーと比べても見劣りしない美少女揃いな一年生達であったが、その胸のサイズは年齢を考えれば大きい事は大きいが許容範囲な膨らみ具合だった。

 一体何をどうすればそうなるのかは到底理解など出来ないが、笠女に超短期ながら留学した梓とオレンジペコとローズヒップの三人が瞬く間にたわわ化した事を考えれば、AP-Girlsのルーキー達も次に会う時は膨らんでいるだろうなとエリカはぼんやりと考えていた。

 

 

「何か特別な膨らし粉でもあるのかしら……」

 

「何ですって……?」

 

「何でもないです…で、どうなんです?ひよっこ達の実力の程は……?」

 

 

 しょ~もない事でラブに睨まれるもそれを受け流したエリカは、一番気になっていたルーキー達の実力が果たして如何程のモノか探りを入れ始めた。

 

 

「ん~?そうねぇ…そっち(黒森峰)の一般受験で入学した外部生で、入学早々一軍入りして来る子達程度の実力はあるんじゃないかしら……?」

 

「隠す気ゼロだし……」

 

 

 何でもない事のようにシレっととんでもない事を言うラブだったが、AP-Girlsの現メンバー達のデビュー当時を考えればそれ位は当然だろうとエリカも思い直す。

 

 

「けどさぁ、黒森峰ならそれでいいかもしれないけど……」

 

「けど……?」

 

 

 ラブが黒森峰を見下している訳ではないのは解っているが、彼女が何を言わんとしているのか見極めようとエリカの視線も自然と鋭くなる。

 

 

AP-Girls|(ウチ)の場合はさ、例え戦車に乗っている時でも歌って踊ってナンボじゃない?今のあの子らは芸能科の本分の方で手一杯で、毎日そっちのレッスンでヒーヒー言ってるわ~」

 

「あ~ハイハイ……」

 

 

 笠女の芸能科、AP-Girlsのメンバーになるからには戦車道選手としてそれなりの実力を有しているのは当たり前で、それが入学する一年生達にとっての大前提であった。

 しかしそれはあくまでも笠女入学の為の第一関門に過ぎず、目下彼女達はアイドルとしてデビューする為に各種の過酷なレッスンをこなすのに手一杯だったのだ。

 戦車道選手としては黒森峰でも通用する実力を持ってはいても、ラブが言う処の歌って踊る事に関しては素人な彼女達は、まだアイドルになる為のスタートラインに立ったばかりなのだ。

 ラブに言われるまでついその事を失念していたエリカは、聞いた自分が馬鹿だったと能面のような顔で話を聞き流していた。

 

 

「何よ~聞いたのはエリカさんのクセに~、それよりそっちこそどうなのよ~?」

 

 

 問われるまま答えられる事は全て答えたのに聞いたエリカの反応が面白くないラブは、不満そうに口を尖らせ黒森峰の方こそどうなのだと詰め寄った。

 

 

「ウチですか?ウチはそれこそ例年通りですよ……なんやかんや言ったってそこは天下の黒森峰、西住門下の者に限らず集まる選手はよりどりみどり、定員目一杯で困る事はありませんって」

 

「…そりゃそうよね……」

 

 

 過去の実績がものを言い一回や二回王座を逃したとて黒森峰の地位が揺らぐ事はなく、今年度も機甲科は全国から将来有望な選手が多数入学し、例年通りに人材で困る事はなさそうだった。

 愚問中の愚問に今更なに言ってんのと手をヒラヒラさせるエリカに、彼女と同様聞いた私が馬鹿でしたとラブは能面で頭を下げていた。

 思惑はそれぞれ、仲は良くともそこはライバル同士の交流会を兼ねた食事会は、互いに探りを入れ合いながらも盛況のうちにお開きとなったのであった。

 

 

 

 

 

「は~、しっかしまさかパンターG型5両で乗り込んで来るとは思いもしなかったわ……しかも出場選手も全員中等部時代の経験者で固めて来るとか恐れ入るわね~」

 

 

 前夜の全体ブリーフィングで明かされた黒森峰側のオーダーは、ラブにとっても完全に予想外の衝撃的なもので、一夜明け試合開始直前になってもその余韻は残っていた。

 

 

「しかもあのパンターG型、どう見ても黒森峰らしからぬカリカリチューンしてるっぽいし、エリカさんこの為だけに相当前から準備してたって事よねぇ…はぁ~それにしても随分と思い切った事するもんだわ、こんな驚いたのは一体いつ以来かしら……?」

 

 

 試合前の車検の際に聞いたエンジン音や動きから判断して、黒森峰のパンターG型5両が対AP-Girlsの為だけに仕立てられた特別仕様である事をラブは見抜いていた。

 

 

「あれって殆ど一発勝負の使い捨てチューンなんじゃないの?またエリ姉も随分と思い切ったもんよね……けどさすがは黒森峰、勝つ為には妥協なしって感じ?やっぱ黒森峰は戦車道に係わる事なら予算無制限って噂は本当なのかしら?」

 

 

 既に熱くなり始めた車内を避けるように、試合開始まで操縦席をリフトさせてハッチから顔を出し春風に当たり涼んでいた操縦手の香子は、ぼやくラブ相手に自分の感じたままの事を言い全てを否定し切れない彼女に渋い顔をさせる。

 

 

「いくら黒森峰でもさすがに予算無制限って事はないと思うんだけど……」

 

「でもさぁ、あのパンターG型が結構なカミカゼチューンなのはラブ姉だって解ってるんでしょ?」

 

「そりゃまぁ…確かにあのチューンは魔改造って言ってもいい程度には弄ってると思うけど……」

 

 

 極僅かな情報でもその戦車のスペックを言い当てるラブだけに、香子の言う通りエリカが今回の対戦の為に用意したパンターG型のチューンの度合いをある程度把握しているのは事実だった。

 しかしあそこまでやるには手間もお金もそれなりに掛かるので、エリカがこのたった一戦の為だけにそれをやったのかと思うと、ラブは眩暈にも似た感覚を覚え香子の指摘にあまり明確な事を言えずにいた。

 

 

「でしょ?ま、黒森峰なら最初っから載せ替え前提で使い捨てエンジンの10基や20基程度は、平気ででっち上げられそうよね……なんならガラクタ置き場(バックヤード)でおねんねしてる余剰車両使って、試合が終わったら丸ごと入れ替える位の事は余裕で出来んじゃないの?」

 

「香子、アンタね……」

 

 

 あまりに無茶苦茶な言いように反論し掛けたラブであったが、昨年黒森峰に超短期留学した際わざわざ彼女の為にパンターG型を1両Love Gunに仕立てたり、エリカが引っ繰り返したバックヤードからしほが現役時代搭乗していたティーガーⅠが出て来たりと、香子の憶測を否定するには実績があり過ぎて彼女も言葉に詰まっていた。

 

 

「そんな事は試合の後でエリ姉に聞けば分かるんじゃないの?」

 

「だよね、エリ姉その辺の事は私達に隠したりしないし」

 

 

 答え難い事聞きやがってと口をへの字にするラブの足下では、香子と通信手の花楓が彼女の想いなどお構いなしに、試合前の緊張感を微塵も感じさせずにお気楽な調子で好き勝手な事を言ってはラブに一層渋い顔をさせる。

 

 

「ったくアンタ達は黙って聞いてればエリ姉エリ姉連呼して……」

 

 

 何かとラブの為に献身的な処を見せるエリカはAP-Girlsからも信頼が厚く、最近ではあまりいい顔をしない当人の意思に関係なくエリ姉の愛称も定着しつつあった。

 とは言え嫌がるエリカの反応をAP-Girlsは面白がっていたので、一番のお気に入りの後輩を困らせる怖いもの知らず共にラブも頭を痛めていた。

 

 

「けど実際問題エリ姉に聞くのが一番手っ取り早いでしょ?」

 

「瑠伽、アンタまで……」

 

 

 普段からラブが率先してふざける分、Love Gunのメンバーの中ではまとめ役に回る事の多い砲手の瑠伽までもがエリ姉呼びするので、ラブもさすがに困ったように眉を寄せる。

 

 

「お~いラブ姉~、ぼちぼち始まるみたいよ~」

 

「あ…え?もう……?」

 

 

 香子と瑠伽に手を焼いていたラブがどうしたものかと途方に暮れていると、香子の隣で彼女と同じくハッチから顔を出していた通信手の花楓が、コマンダーキューポラ上で困り顔のラブを見上げながらLove Gunの周りを指差していた。

 彼女にしては珍しく周囲への注意力が散漫になっていたのか、花楓に言われて初めて周りに目を向けたラブは、それまで試合開始直前の様子を中継していた地元ケーブル局のスタッフが、まるで潮が引くようにスタート地点から退去し始めたのに気が付いたのだった。

 

 

「やっとか…待ちくたびれたわ……」

 

 

 退去するケーブル局のスタッフの背中をぼんやり見送るラブの足下では、砲塔後部ハッチから身を乗り出し眠そうにしていた装填手の美衣子が緩慢な動きで砲塔内に引っ込んでいた。

 

 

「さて…それじゃやるとしますか……」

 

 

 表情は眠そうながらも最近新調して漸く手に馴染み始めた装填用手袋を填めた美衣子は、その感触を確かめるように数回両手を握り締めると、手近な弾薬ラックで鈍く禍々しい光を放つ徹甲弾をそっとひと撫でしたのだった。

 

 

 




夜中枕元に無言で佇むみほ……怖いですねぇw

16号戦の為だけにパンターをチューンして来たエリカ。
果たしてどの程度弄って来たかは試合が始まってのお楽しむですが、
対決の構図としては往年のヨシムラ対モリワキって感じかな~?

腰痛は相変らずで投稿ペースも回復せず申し訳ないです……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。