思ったより長くなりそうです。
でも大事な部分なのであまり削れません。
それにしてもチョビ子は本当に良い子だなぁ。
学園艦が母港に帰港し、久し振りに自宅に戻った週末。
昔馴染みの友人との電話中にそれは起こった……。
千代美がハッと我に返った時、既に外の日差しは大分傾き始めていた。
一体何がどうなっている?頭の中がシェイクされた様で考えが全くまとまらない……。
そうだ!あの時ラブはこの弾を撃っては駄目だと言った!
もし他でもこれと同じ事が起こったら?
千代美の思考回路が一気に加速する。
この事を連盟に連絡……駄目だ、今日は日曜日で誰も居ないはずだ。
それではどこに、誰にこの事態を連絡すればいい?
何となく手にした携帯の充電が残り僅かな事に気付き充電器に置いたその瞬間。
そうだ!この間学校に指導に来てくれた新任の教導隊の蝶野教官!
いつでも質問出来るようにとメアドと携帯番号を貰っていたじゃないか!
蝶野教官に電話すればもしかしたら!
直ぐにバッテリー切れしそうな携帯に充電ケーブルを繋ぐのももどかしく感じつつ、千代美は目当ての番号を呼び出し発信ボタンを押す。
お願いです、お願いですから出て下さい蝶野教官!
千代美の願いも虚しく呼び出し音は鳴り続ける、そして諦めかけたその時。
『ハイ、お待たせ、安斎さんね?お電話貰えて嬉しいわ♪元気だったかしら?』
蝶野亜美の快活な声が飛び込んで来る。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!ぎょ、ぎょ゛う゛がん゛~!!」
亜美の声を聴いた瞬間堪えきれずに泣き出した千代美。
『ど、どうしたの?一体何があったの安斎さん!?』
突然の泣き声に狼狽えつつも問い掛ける亜美。
『とにかく落ち着きましょう?まずは深呼吸よ、ハイ、吸って~、吐いて~』
そしてどうにか落ち着いた千代美から事のあらましを聞き出す亜美。
途中何度となく泣き出してしまう千代美をどうにかなだめつつ、時には語られる内容に息を飲みつつ状況を整理し、千代美に告げる。
『解りました、連盟、防衛省、文科省他関係各部への連絡は可及的速やかに私が行います、ですから安斎さん、今はあなたはゆっくり休むのよ』
「ハイ……」
『安斎さん、いえ千代美さん、本当によく頑張りましたね、ここまでのあなたの努力を決して無駄にはしませんからね』
「きょうかん……教官!」
『とにかく今はしっかり休んで恋さんの無事を祈ってあげてね、私は早速対応に移りますからこれで電話を切りますね』
「ハイ……ハイ!」
『あ、それからこれはとても大事な事なんですが、現段階でこの件に関して誰にも話をしない事。例えそれが大事なお友達であってもよ。こういった事が漏れ伝わると、尾ひれが付いて無用な混乱を引き起こしますからね。それは恋さんの為にも良くない事なのは解るわよね?それと何か連絡が入る可能性もありますから携帯にはいつでも出られるようにしておいて下さいね、それじゃあ切りますよ』
「ハイ……解りました……」
『あなたは本当に立派よ、それじゃあね』
そう言い残し亜美は千代美との通話を終了した。
蝶野教官はまだ誰にも話すなと言った。
それは私にも解る。
だけど…だけどもうこれで私に出来る事は無いのか?
アイツは、ラブはきっと今頃手術室で独りで闘っている。
それならば、それならばせめて私だけでも傍に居てやりたい。
そう考えるともう千代美は居ても立っても居られない。
横須賀へ…そうだ横須賀へ行こう。
行って少しでもラブの傍に居てやるんだ。
例え何も出来なくてもせめて私だけでも傍に居てやるんだ!
思い付くが早いか立ち上がった千代美は、学園艦からの帰省時に肩に掛けて来たサブバッグを引っ繰り返し必要になりそうな物を選んで詰め込み始める。
「ええと、携帯に充電器に…急速充電器は何処か途中のコンビニで買うか…あとは手帳にお財布に…お金!新幹線いくら掛かるんだ!?手持ちと後はCD機で下ろせば何とかなるかな?」
荷造りもそこそこに千代美は身動きのし易い服装に着替え始める。
今は出掛ける為にやらねばならぬ全ての事がもどかしい。
そしてどうにか身支度を整えバッグを掴み部屋を飛び出し掛けた時に思い出す。
「っと、その前に!」
今日は昼前から両親と弟は買い物に出掛けていた。
心配されるだろうが横須賀に行く事を伝えなければならない。
勿論蝶野教官に言われた事は守らなければならないが。
どう伝えるか考えつつ取り敢えずお母さんの携帯を呼び出す。
「あ、もしもしお母さん?私、あのね…」
名古屋駅に着いたバスを飛び下りた千代美は足早にみどりの窓口を目指す。
駅構内図を確認しながら歩いていると携帯が鳴る。
液晶画面を見ればお父さんからの着信表示。
「もしもし、お父さんどうしたの?」
『あぁ、千代美もうそろそろ名古屋駅に着いた頃かな?もし着いたら太閤通口の銀の時計の前まで来なさい』
「え?どうして?」
『いいから、待っているからとにかく来なさい』
「うん、解った……」
言われるままに銀の時計に辿り着いてみれば両親が揃って待っていた。
弟の姿が見えないのは何処かで待たせているという事か。
「お父さん、お母さんどうしたの?」
「千代美これを使いなさい」
手渡された封筒を見れば中には新幹線の指定券のチケット。
「お父さん!コレ!」
「千代美の電話のあと直ぐに駅に来たら幸い空席があったからね、品川まで買ってある、品川からは京浜急行を使いなさい、新横浜からだと乗り継ぎが悪い」
「お父さん!」
また千代美の目から涙が零れ落ちそうになる。
「今は深くは聞かない、さあ、まだ時間に余裕はあるが早めにホームに行きなさい」
「ありがとう…お父さん…」
お父さんに深く頭を下げると今度はお母さんが声を掛けて来る。
「それから千代美、これも持って行きなさい」
手渡されたのはデパ地下の小さな手提げ袋。
中に人気のパン屋さんのメロンパンと紅茶のペットボトル。
「電話で話した時の様子だと今はこういう物の方が口に入れ易いでしょう、例えひと口でもいいから必ず新幹線の中で食べるんですよ、それとバッグの口を開けなさい」
バッグを開くとお母さんがポチ袋を中のポケットに忍ばせる。
「お母さんこれは…」
「何処で入用になるか解りません、取られたり落とさないように気を付けて」
「有難う…お父さん、お母さん!」
改めて深く頭を下げる。
「さあ、早くお行きなさい、でも決して戦車道の様な無茶はしないようにね」
「…ハイ…じゃあ…行ってきます!」
両親の心遣いに感謝しつつ改札を抜けホームを目指す。
そして程無くしてホームに滑り込んで来た新幹線に乗り込み指定席に腰を下ろす。
待ってろよラブ!今そっちに行くからな!お前は独りじゃないぞ!
心の中で独り言ちる千代美を乗せた新幹線は、一路東京に向け力強く加速を開始した。
亜美さん登場。
しかし主人公とはいえ恋には色々背負わせ過ぎかなぁ?