ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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エリみほ♡

ノリノリに見えてやっぱりAP-Girlsも重かった…。


第十三話   Tears

 信号弾の炸裂と共にみほはパンツァーフォーの号令を下し、確かに大洗チームは迅速且つランダムな動きで行動を開始した。

 だがしかし──。

 

 

「ウソ!あんこう以外全車に命中弾!?」

 

 

 あんこうは麻子の感の冴えかギリギリの処で被弾を回避していた。

 しかしそれ以外の車両は全て初弾命中の憂き目に遭い無線で悲鳴が飛び交っている。

 

 

『や~ら~れ~た~!』

 

 

 会長のお馴染みの一言に始まりそれぞれどこかで聞いた様なセリフが無線から溢れていた。

 

 

「どういう事?ラブお姉ちゃん以外の砲術手もノックが出来るの!?」

 

「西住殿、ノックとは一体?」

 

「有効打にならない距離でも、挨拶代わりに初弾を当てて来るのを私達はノックって呼んでたの、だからラブお姉ちゃんの事をLove The Knockerって呼ぶ人もいたんです!」

 

 

 みほは再び全車に無線で指示を飛ばす。

 

 

「各車とにかく今は動いて下さい!止まっていれば次が来ます──」

 

 

 みほがそこまで言い掛けた処で辺りに突如間のぬけた騎兵隊の突撃らっぱが鳴り響く。

 メジャーリーグのスタジアムなどでもお馴染みのアレが。

 

 

「え?なに!?」

 

 

 戸惑うみほの耳にその突撃らっぱに続いてラブの声が飛び込んで来る。

 

 

「み~ほ~♪なにのんびりやってんのよ~!全開でって言ったじゃな~い!」

 

 

 どうやら最短距離を突っ走って来たらしいラブがコマンダーキューポラから身を乗り出し、学校名の入った拡声器片手に叫びながら突進して来た。

 突撃らっぱの方は車体に括り付けられたスピーカーから今も鳴り響いている。

 そしてその後方からもAP-Girlsの面々が一斉に突撃して来た。

 

 

「ウチの吶喊は知波単仕込みよ~!」

 

 

 ラブは実に嬉しそうに拡声器で叫んでいる。

 そしてあっと言う間に戦術もへったくれも無い大乱戦に突入してしまう。

 

 

「くぉら~にしずみー!コレの何処が得る物が多いだー!構わん撃て撃てー!」

 

「桃ちゃん味方撃ってどうするのー!」

 

「超根性!」

 

「こんなの校則違反よ!」

 

「ちょうちょ…」

 

 

 もう無茶苦茶だった……。

 

 

「見たか…?」

 

「ああ、ラブだけじゃなくAP-Girls全車がノックしていた……」

 

「でもラブは自分で砲撃はしていなかったぞ」

 

「メンバー全員がアレを修得しているという事か?」

 

「何とも言えん…」

 

 

 手元のモニターで生中継だけでなく、その場でリプレイも出来る事に驚きつつ、アンチョビとまほは分析を交えながら戦況を見守っていた。

 

 

「しかしそのなんだ…やっぱり盛大に揺れているな……」

 

「よせ…そこしか見られなくなる……」

 

 

 そう言った今もラブのたわわなシロモノがモニターの中で激しく踊っている。

 それをつい食い入るように見てしまう二人の頬は赤い。

 暫くそんな状況が続いた後タイムアップとなり両軍パドック前に戻って来たが、全車ペイント弾塗れで完全に元の色が解らない状態に成り果てていた。

 途中ランチ休憩を挟みつつメンバーや戦車を入れ替えながら全試合が終了してみれば、結果はアンツィオの圧勝であった。

 

 

「フハハハハ!済まないな諸君!」

 

「さすがにK()V()()()は無茶ぶりし過ぎではなくて、カチューシャ?」

 

「うるさいわね!でも面白かったからいいでしょ?」

 

「Yes!タンケッテに当てたのには驚いたわ!」

 

「一発で全部色変わるんだもん……」

 

「ウチもⅡ号を連れて来るべきだったなぁ…」

 

「Ⅱ号!懐かしいな~♪まだ熊本の実家にあるんでしょ?」

 

 

 Ⅱ号の名にラブが目を輝かせてまほに問う。

 

 

「ああ、あるぞ、今も帰省した時ちょっとした足に使ってるよ。お父様が時間がある時にマメにメンテしておいてくれるので昔のままだ」

 

「大学選抜戦の前に帰省した時、私も久しぶりにお姉ちゃんと乗って懐かしかった」

 

「いいなぁ、私も乗りたいなぁ」

 

「それじゃあ今度熊本に来る時休みを合わせて昔みたいに一緒に乗るか?」

 

「あ♪私も!」

 

「ホント!?いいの?」

 

「勿論さ、また三人で乗ろう!」

 

「まほ♪ありがと~!」

 

 

 そんなやり取りを周りも微笑ましく見守っている。

 ただ、ひとりエリカだけがその光景を複雑そうな表情で見つめているのを除いて。

 しかしそんな様子のエリカを目敏いラブは見逃さなかった。

 

 

「そう言えばさぁ、あの頃何度か一緒にⅡ号に乗った子が居たの覚えてる?ホラ、とっても素敵なドレス着た綺麗な子が居たじゃない」

 

「あ?あぁ、思い出した。確かに…でもあの後一度も姿を見なくなったなぁ」

 

 

 ここでラブはワザとらしくエリカに視線を向ける。

 

 

『この人気付いてる!?』

 

 

 エリカは視線を逸らすがラブの視線を追ったみほはハッとした表情で何かに気付いた様だ。

 一方のまほはと言えば全く理解出来ないらしくただ懐かしがるのみ。

 そこでラブは大袈裟に溜め息を吐くと誰にともなく一言。

 

 

「ハァ~、エリカさんも大変ね~」

 

「ここで何でエリカが大変なんだ?」

 

『まほの朴念仁ぶりも筋金入りよね…』

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ~何にも~」

 

 

 そう言う視界の隅でみほがエリカの手を引き脱兎の如き勢いで何処かに消えて行く。

 その背中を見ながら腕を組みその下で親指を立てたラブは心の中で独りごちる。

 

 

『ヨシ!私ぐっじょぶ♪』

 

「あの二人は一体どうしたんだ?」

 

 

 さすがに事態を察した周りに居る者は皆ジト目でまほ見つつこう思った。

 

 

『ダメだこのポンコツ』

 

 

 その後二人が戻るまでかなり時間を要したが、戻った二人の着衣と髪は若干乱れ、何故か二人共咽頭マイクを付けて戻って来たのであった。

 何処かでR-15指定に抵触する()()があったんじゃないかな…多分……。

 

 

『これは今夜から部屋割り変えた方が良さそうね~。あの二人はそのままにするとして、まほはどうするかな…?ダージリン辺りも()()()()だけどここはやっぱ千代美よね~♪」

 

 

 このラブという少女は果たして天使なのか悪魔なのか……。

 

 

「さて!今日はこれ位にして続きはまた明日にしましょ、戦車はこのままパドックに格納してもらって構わないわ。そしたら宿舎に戻ってシャワーを浴びて、一休みすればそれで夕食に丁度良い時間だと思うから♪」

 

「それなんだけどね、ラブお姉ちゃん。またスーパースタリオン出して貰えないかな?みんなで大洗の学園艦にお風呂入りに来ない?ウチの学園艦お風呂だけはいいんだ♪」

 

「西住ちゃ~ん、お風呂だけはないっしょ、お風呂だけは~」

 

 

 ニヤニヤ笑いながら杏がツッコミを入れる。

 

 

「あ!会長さんごめんなさい!…でも…いいですよね?」

 

「いいよ、いいよ~、早速手配しておくよ。お~い!か~しま~!」

 

「ハッ!」

 

 

 このやり取りにも周りからは笑いが起こる。

 

「あ~、みほ~、そしたらね~先に行っててくれる~?」

 

「ラブお姉ちゃんどうして?」

 

「私隊長の書類仕事ちょっと溜めこんじゃってるのよ~、さすがにこれ以上は怒られる~」

 

「しょうがないヤツだ、終わらせたらすぐ来いよ」

 

「解った~」

 

 

 アンチョビにそう言われたラブは右手を上げ愛を伴い去って行く。

 しかしその後ラブと愛は結局大洗の学園艦に現れる事は無かった。

 それから暫くして大洗の大浴場を堪能し、笠女学園艦に帰投する為一同が再び搭乗し発艦を待つスーパースタリオンの機内では──。

 

 

「ラブのヤツとうとう来なかったな」

 

「ああ…」

 

「やっぱりそういう事か……」

 

 

 難しい顔をするアンチョビにどういう事かと皆の疑問が飛ぶ。

 

 

「…その……()として一番辛い事だと思う……顔の傷だけでも耐えがたい事だったはずだ…私は一瞬だけど手術直後のラブの姿を見ているんだよ…ラブはその全身に暴発した榴弾の破片を浴びているんだ…解るだろう……?」

 

 

 アンチョビが絞り出す様に言った言葉に全員の顔に暗い影が射す。

 

 

「これは…早く何とかしないといけないかもしれない……」

 

 

 その言葉を合図にスーパースタリオンは薄暮の空に舞い上がる。

 それぞれの鉛の様に重い胸の内を乗せて。

 

 

 

 

 

 

「このニューヨークステーキ美味しいですわ~♪」

 

「うおっ!五十鈴殿もう五枚目でありますかぁ!?」

 

「あれがあんこうチームの強さの秘訣なのか!?」

 

「やだも~!華!恥ずかしい~!!」

 

「私も負けていられませんわ!リミッター外しちゃいますわよ!」

 

「こら!ローズヒップ止めんかこの馬鹿!」

 

「ルクリリ様ももっと淑女らしくして下さいまし…」

 

「いやおもしれ~からやらしてやれって~」

 

 

 前夜と似た様な会話が飛び交うここは笠女学園艦の大食堂。

 昼間戦車で目一杯楽しんだだけあって今夜も皆旺盛な食欲を見せている。

 

 

「みんなホントごめんね~」

 

 

 そう言いつつラブは顔の前で手を合わせ一同に頭を下げる。

 

 

「書類溜め過ぎちゃって全然仕事終わらなかったのよ~」

 

「…程々にしろよ……」

 

「うん、わかった~」

 

 

 アンチョビの言葉に一応反省したふりをするラブは気を取り直した様に更に言う。

 

 

「今夜のメニューはどうかな?気に入って貰えた~?」

 

「ええ、とても美味しいわ。だってほら…」

 

 

 そう言うダージリンの視線の先では華が六枚目のニューヨークステーキに突入している。

 

 

「彼女凄いわね~!見ていて気持ちがいいわ~♪」

 

『そうか……?』

 

 

 一同既に見ただけでお腹がいっぱいになりそうになっていた。

 

 

「ところで明日なんだけどね、みんなはどうしたい?」

 

「そう言うところを見ると何か考えがあるのね?」

 

 

 問い返すカチューシャにラブは待ってましたと提案する。

 

 

「あのね、七校全戦車混合で二つに分かれて紅白戦するのはどうかな~?」

 

「大戦車戦ね、面白そうですわ」

 

 

 ダージリンとアッサムも頷き合う。

 

 

「それなら演習場全て使った方がExcitingになるわ!」

 

 

 ケイの提案に一同異議無しと頷く。

 

 

「それじゃあ決定ね~♪」

 

「振り分けはどうするの?ラブお姉ちゃん」

 

「それはね一両毎のカードを作って、両軍の総大将がくじ引きで取って行くと面白いと思うの」

 

「両軍の総大将はどうする?」

 

 

 まほの質問にラブは辺りを見回すと声を潜め一同を集めて行った。

 

 

「それはね、一年生にやらせたら面白くない?私のお勧めはね、みほの所の梓ちゃんとダージリンの所のオレンジペコちゃんがいいと思うのよ」

 

 

 その提案に全員の目が面白そうに輝き、アンチョビも乗り気で言う。

 

 

「いいねぇ!あの二人の成長は他校ながら目を見張るものがあるし面白い事になるぞ!」

 

「ええ、最近あの二人は仲も宜しい様ですしこれは楽しめそうですわ」

 

 

 ダージリンもとっても悪女な笑みを浮かべ二人に視線を送る。

 そして全員が身を乗り出したまま親指を立てこの悪巧みは決定事項となった。

 

 

「でも、あなたはそれで宜しいんですの?」

 

 

 少し真面目な顔でダージリンはラブに質問する。

 

 

「ん?私?私はいいの」

 

「あなたなりAP-Girlsなりから選出しても構わないのよ?」

 

「私はね~、未来が見たいの」

 

「未来?」

 

「そう、これから先二年間私達一年生は戦いを繰り広げて行くわ、これはあの二人だけではなく黒森峰にしてもサンダースにしてもプラウダもアンツィオも同じ。その中でも梓さんとオレンジペコさんは、三年になれば間違い無く隊長として私達の前にも立ちはだかって来るでしょ?違う?そんな未来のライバルをね、私は直接自分の目で見てみたいのよ」

 

「未来…未来か……」

 

 

 アンチョビの小さな呟きがラブ以外の面々の胸の内に重く響くのだった。

 その後食事を終え一同が宿舎に戻るとフロントで渡されたメッセージカードに揃って首を捻る。

 

 

『最上階のラウンジにお越し下さい』

 

 

 その短い一文と共に添えられた笠女戦車隊副長の名に、一同は更に首を捻るばかり。

 

 

「こうしていても始まらない、とにかく行ってみるしかないだろう」

 

 

 まほの言葉に皆が頷きエレベーターで最上階を目指す。

 エレベーターを降りラウンジを見渡すと、先日ラブを問い詰めた角の席の傍らに淡いピンク髪をルーズポニーで纏めた一人の少女が虚ろな表情で窓の外を見つめ佇んでいる。

 しかし一同の気配に気付くと表情こそ変わらぬものの深々と一礼するのだった。

 

 

「確か愛君だったな」

 

 

 まほが手を軽く上げつつ代表して声を掛けると愛は無言で皆に席に座るよう促した。

 

 

「突然お呼び立てして申し訳ございません…」

 

「いや、それは一向に構わないんだ、それより要件は一体何だろう?」

 

 

 まほも当りがきつくならないよう、務めて穏やかに話し掛ける。

 

 

「隊長の…恋の事でお願いがあってこの様な手を使わせて頂きました……」

 

「お願い?」

 

「はい…」

 

 

 そう言った愛は少し俯いた後意を決した様に顔を上げ話し始めた。

 

 

「彼女は…恋はずっと苦しんでいます…私と出会ってから…いえ、私と出会う前からずっと。いつもは明るく振る舞っているけど毎夜悪夢にうなされ続けています…決まってうわ言で『置いて行かないで、独りにしないで、そんな目で見ないで…淋しいのはもういや』などと言い続けています…毎晩、そう毎晩……来る日も来る日も!」

 

 

 ここまで話した処で耐え切れなくなったのか愛は両の手で顔を覆い静かに泣き始めた。

 その姿に驚きまほがオロオロしているとダージリンとアッサムが愛の両隣りにスルリと滑り込み、背中を優しくさすりハンカチで目元の涙を拭ってやる。

 暫くそんな様子が続いたがどうにか落ち着いた愛は再び語り始めた。

 

 

()は私達でも支えられる…でも過去の事はどうする事も出来ない、そこに居なかった私達では彼女の心を開放する事は出来ないの──」

 

「何でも一人で背負い込むな愛!」

 

 

 突然愛の話を遮る声。

 その声のした方を見やればいつの間にか他のAP-Girlsのメンバーが揃っている。

 

 

「みんな…どうして……?」

 

「これは私達姉妹の問題だろう!お前一人で苦しむな!」

 

 

 そう声高に言いながら足早に歩み寄る艶やかなロングの黒髪の少女、勝気な黒い瞳が印象的なその少女は愛に向かい少し語気を強め更に言った。

 

 

「言っただろう!私達は姉妹だ、愛が何を考えているか位解って当然だ!」

 

「君は?姉妹と言ったが…?」

 

「お騒がせして申し訳ありません、私はブラックハーツ車長の東雲鈴鹿(しののめすずか)です。私達AP-Girlsは、結成したその時から自分達は全員が姉妹だとそう誓い合ってここまで来ました」

 

 

 まほの問いにそう答えた鈴鹿は再び愛に向かいこう言う。

 

 

「何度も言わせるんじゃない、一人で抱え込むな!そう約束しただろう?」

 

「…ごめん」

 

「そうだぞ愛、また一人で突っ走りやがって愛の悪い癖だ」

 

 

 少々はすっぱなもの言いで愛を窘めるのは青い髪をミディアムボブにした赤い瞳の少女。

 

 

「あ、名乗りもしねぇですまねぇ、アタイはブルーハーツ車長の鷹塔夏妃(たかとうなつき)ってんだ」

 

「先輩方に対して言葉使い!」

 

 

 夏妃の耳を引っ張りながらフィッシュボーンに編み込んだ金髪に榛色の瞳の少女が名乗る

 

 

「申し遅れました私はイエローハーツ車長、清澄凜々子(きよすみりりこ)と申します」

 

「凜々子痛てぇって!」

 

「黙りなさいこの粗忽者!」

 

「二人共そこまでだ」

 

 

 騒ぐ二人を制しつつ鈴鹿が再び一同に向かい頭を下げつつ口を開く。

 

 

「もうラブ(ねえ)の事は愛から聞かれたのですよね?」

 

「まあ大体は…」

 

 

 まほも成り行きに戸惑いつつもどうにか答える。

 

 

「ここに居る私達AP-Girlsは、ラブ姉にその心を救われた者達です」

 

「心を救われた?」

 

「アタイらは全員訳アリなんだよ。家庭の事、学校の事、それに戦車道の事…そりゃアタイらに悪い処が無いとは言わねぇよ。でもよ…家族にまで生まれた時から疎まれて、生きてる事をなじられてどうやって真っ直ぐ生きて行けってんだよ?だけどラブ姉は違う…そんなアタイらを全部纏めて受け入れて家族だと言ってくれた。そしてこんな処まで連れて来てくれた。望む事も出来なかった、望む事すら許されなかった世界にだよ!ラブ姉はアタイらの女神なんだよ…なのに…なのにアタイらはそんなラブ姉の苦しみの一つも背負ってやれねぇ!だから…だから頼むよ……」

 

 

 話に割って入った夏妃は、そこまで言うと大粒の涙を零しながら膝を突いて頭を床に擦り付け、涙声で一同に向かい哀願する様に声を上げる。

 

 

「ラブ姉…私達の恋姉様の心を救って下さい!お願いします!姉様の心を…!あの暗闇の中から助け出して!お願いだ!あなた達しか…あなた達にしか出来ないんだ…お願い……おねが……」

 

 

 夏妃はもう最後は号泣して言葉にならない、その隣で凜々子も跪き夏妃の肩を抱え同様に頭を床に擦り付け涙を流している。

 一同が慌てる中AP-Girlsの少女達は号泣しながら一様に跪き口々に懇願の言葉を口にする。

 

 

「み、みんな止めるんだ!頼むから頭を上げてくれ!」

 

 

 まほが駆け寄り夏妃の頭を上げさせようとするが泣きながら頑なにそれを拒む。

 他の者も同様にするが揃って頭を上げる気配は無い。

 

 

「お願いだよぅ…もう…姉様が泣くのは見たくないんだよぅ!」

 

 

 そう叫び夏妃がまほの脚に縋り付き泣き続け手が付けられない。

 

 

「愛、愛と呼んで構わないか?」

 

 

 その騒ぎの中アンチョビが片膝を突き愛の肩に手を置き静かな声で耳元に語り掛ける。

 一瞬その身を震わせた愛は恐る恐るといった感じで顔を上げた。

 その顔をアンチョビはこれ以上は無い優しい表情で覗き込むと、そっと親指で涙を拭ってやり視線を合わせながら話しを続ける。

 

 

「愛、落ち着いて聞いて欲しい。三年前私達は彼女を失った時から待ち続けた。彼女は必ず帰る、そう信じて待つ事を皆で誓った。あの時の悲しみと苦しみは忘れない、でも誓い合って信じ続けたからこそこうして再び巡り合えた。でもそのラブが今も苦しんでいるのなら、今度こそ私達が全力で支えてやる。その為に私達は今ここにこうして居るんだ、もうあんな思いをするのは私達も沢山だ。だから私達を信じて欲しい、もし信じて貰えるなら皆その頭を上げてくれ」

 

 

 そのアンチョビの言葉が皆の心に届いたのか、やっと落ち着きを見せ少女達が顔を上げた。

 

 

「さあ、立てるか?」

 

「はい…」

 

 

 微かな声でそう答えた愛の手をアンチョビは優しく取り支えてやる。

 他の者もやっと互いに手を取り合い立ち上がり始めた。

 安堵の息を吐いたまほはこういう処は安斎には全く敵わないとつくづく思うのだった。

 どうにかAP-Girlsの一同をソファーに座らせると、ダージリンとアッサムがラウンジのキッチンを拝借し、甘めのミルクティーを淹れそれを飲ませると、どうにか落ち着いて話す態勢が整った。

 

 

「さて、落ち着いた処で酷な様だが幾つか確認したい、いいかな?」

 

 

 アンチョビがAP-Girlsのメンバーに視線を巡らすとぎこちなくであるが一同頷く。

 

 

「愛、今日君たちが大洗の学園艦に来なかったのはそういう事なんだな?」

 

「…はい」

 

「やはりそうだったか…それとラブの右目、完全に失明しているのだろうか?」

 

「ほんの少し……ぼんやりとは見えているそうです……」

 

「もう一点、右利きのはずなのにステージのアンコールでラブはレフティと言ったかな?左利き用のギターを弾いていたね?あれもやはり左肩に可動範囲の制限があると見て間違いないのかな?」

 

「はい…ヘッドに近いフレットが押えられないのと、ギターそのものを振る事が出来ないので……物凄い練習量でした…でもそれだけで解ってしまうなんて……」

 

「ははは…他にも色々あったけど、無い無い尽くしのアンツィオの隊長なんかやってるとな…」

 

 

 アンチョビは少し恥ずかしげに頬を掻く。

 

 

「それと済まない、もう一つだけ…ラブが君達とウェアが若干違うのもやはり?」

 

「今の状態になってから出会った私達には大丈夫なんです…でも昔を知る人達には……不思議と顔の傷は直ぐに受け入れられたそうです、こんなものかと…でも、でも……」

 

「ああ、もういいよ、済まなかったな。愛、ありがとう」

 

 

 ここでアンチョビは愛を優しく抱き寄せあやす様に軽く背中を叩いてやる。

 

 

「さて諸君、聞いた通りだ。それでだな、これは荒療治になってしまうが私にひとつ考えがある」

 

「どういう事よ?」

 

 

 想像も付かないと言った表情でカチューシャは首を捻る。

 

 

「西住…あ~、みほ!済まないが大洗の大浴場はまだ使えるか?」

 

「え?あ…ハイ!直ぐに会長さんに確認してみます!」

 

 

 アンチョビの言う事を理解したみほは携帯で杏に連絡を取り始めた。

 他の者は事態が呑み込めず困惑の視線をアンチョビに向けている。

 アンチョビはそんな一同に向け自分の考えを披露した。

 

 

「いいか?まず私達はひと足先に大洗の大浴場に行って待機する。そこに貸し切りという事にして愛達がラブを連れて来るんだ。これは荒療治だがそれしか私は思い付かん、言い方はアレだがこの裸の付き合いに私は賭けたいと思うのだがどうだろう?」

 

 

 さすがにこのアンチョビの提案に、皆面食らった顔をするが他に考えが浮かばないのも事実。

 

 

「確かにとんでもない荒療治ですわね……」

 

「Hmm…でも確かに他に思い付かないわ」

 

 

 ダージリンとケイも難しい顔をするがそれを認める。

 

 

「ヨシ!それではコレで行くがいいな?」

 

 

 アンチョビの問いにその場に居る者皆同意と頷く。

 

 

「アンチョビさん!大洗の方はOKです、許可を取りました!」

 

「そうか!ならば作戦決行だ!愛、済まないがもう一度スーパースタリオンを出してくれ、我々が先行するからそうだな…我々が大洗の学園艦に到着後三十分ぐらいしたら、ラブを誘い出して後を追って来てくれるか?」

 

「ハイ!」

 

「では行動開始だ!各員入浴の支度をしてフロントフロアに集合してくれ!」

 

『了解!』

 

 

 かくして想いをひとつにした一同は一斉に行動を開始する。

 全ては皆の愛するラブを取り戻す為に。

 

 

 




この辺りはストーリーの大きなターニングポイントで、
その重さもあって正直書いてて自分でも辛い…。

先日の雪のしわ寄せで今週はあまり投稿出来ないかもしれませんが宜しくです。

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