コロナとインフルエンザで立て続けにダウンした自分以外の家族も漸く回復し、
相変らず仕事が馬鹿みたいに忙しい以外は通常に戻りました。
大分間が空いたので約二話分を一話にまとめ今回で16号戦は決着です。
「成程そう来たか…やっぱあの
16号戦の田浦側折り返し地点、田浦郵便局前に停車した黒森峰のフラッグ車のコマンダーキューポラの上、我が身に何が起きたか理解したエリカは天を仰ぎぼんやりとそう呟いたのだった。
「花楓、各車に状況を報告させて」
周回を重ねながら会敵する度に激しく撃ち合うも双方未だリタイアはゼロ。
両チーム共に高い命中精度で確実に徹甲弾を相手にヒットさせてはいるが、残念ながらそれが即致命弾とはならず撃破には至っていない。
しかしこの白熱した状況に目の肥えた地元観戦客の間でも、これは過去に例のない16号戦史上最長試合になるのではとの声も上がり始めていた。
そしてこの時ラブはLove Gunのメンバー達からせっつかれたのもあったが、自力で現状を打開すべく行動を起こし始めていたのだった。
「へぇ…思ったより分散してるわね……」
各車から続々飛び込んで来る現在の状況と位置情報に聞き耳を立てていたラブは、頭の中に精細に描いた地図にそれらの情報を書き込んだ後に、追加で未来予測を付け加えながら思案顔でこの先どう動くべきかを模索していた。
「う~ん…やっぱいっぺんはエリカさんと直接手合わせしときたいけど、今日のエリカさんは一味も二味も違ってちょっとやそっとじゃ倒せそうにないし、さてどうしたもんかしらねぇ……」
アンツィオのノリと勢いではないが波に乗った相手が一筋縄で行かない事をよく知るラブは、大波に乗るエリカの足下を如何にして掬うかに頭をフル回転させていた。
「あのさラブ姉」
「何よ……?」
「何か思い付く前に一言言っとくけど、ドMな発想で作戦立てるのだけは止めてよね?」
「やんないわよ!」
周回コースのような設定の交戦エリアの特性上取れる手立ても限られているので、ただでさえ仕事量の多い操縦手の香子は毎度ハードワークを要求するラブに嫌味交じりの牽制を入れる。
するとどうも痛い処を突かれたらしいラブはキッと牙を剥いて強い口調で言い返したが、実際選択肢の少なさは覆しようもない為にあっという間にトーンダウンしていた。
「…とは言ったものの今日のエリカさん相手じゃ使えそうな手もそう多くないし、ここはガチで体張らないとこっちの誘いに乗って来ないだろうなぁ……」
まほとそのオマケのみほの巻き添えで中等部時代散々酷い目に遭わされて来た分、現役選手の中ではエリカが最もラブの手口を知っていたので、彼女も安易な手段でエリカを釣るのは難しいであろう事は解っていた。
「はぁ~、結局最後は無茶振りされんのは解ってんのよ……何でもいいからサッサと指示出してくんない?こうして只走り回ってても時間と燃料の無駄なだけで経験値の足しにもならないのよね」
「ぐ……」
啖呵を切った割に尻すぼまりなラブに盛大に溜息を吐いた香子は、そのまま開き直ったセリフで一気に畳み込んでラブに反論の余地を与えなかった。
「そりゃ確かに今回は色々と出遅れたし後手に回りっぱなしなのは事実だけどさ…でもだからといって何もそこまで言わなくたっていいじゃない……えぇいやるわよ!やればいいんでしょやれば!?全員ガッツリ働かせるから覚悟しときなさいよね!」
『いつもの事じゃない……』
香子の嫌味に助けを求めるようにチラリと車内を覗き込んだラブだったが、誰一人として目を合わせようとはせず、味方がいないと悟った彼女は開き直って指揮を執り始め、Love Gunのメンバー達はいつもと何が違うのだと同時に肩を竦めていた。
「ざっけんなラブ姉!これじゃさっきからやってる事となんも変わんねえじゃねーか!」
『夏妃煩い!アンタは直姉の相手だけしてりゃいいけど私は単騎で二両も相手しなきゃいけないのよ!?』
それは作戦が開始されて早々、各車割り当てられた役割をこなす為に行動を開始した直後の事だった。
相変わらず直下に追い回されていた夏妃は咽頭マイクを押さえる独特のポーズのまま、怒りに任せた大声で悪態を吐いていた。
それもそのはず、彼女に与えられた任務は現状の維持であり、作戦が終了するまでの間撃破される事なくただ延々と直下から逃げ続けろという消極的なものであったからだった。
試合開始後に直下と会敵して以降ずっと逃げ回っていた夏妃としては堪ったものではなく、納得の行かない彼女はストレートに不満を爆発させていたのだ。
そして当然のように彼女に噛み付く凛々子もまた自分に与えられた無茶振りオーダーにキレていたので、八つ当たりするその声はいつも以上に刺々しかった。
何しろ凛々子のイエロー・ハーツは単騎でパンター二両を相手に、他に目移りさせず最後まで釘付けにせよという無理難題が課されていたので、現状を維持すればよい夏妃が騒ぐのが気にらなかったのだ。
実はこの役割は彼女が独断で当面秘匿する予定の奥の手使った事に対する罰ゲームであったが、ラブも単にそれだけの理由で割り当てをした訳ではなかった。
チーム内で最も辛抱強く、忍耐力を要求される場面にあっても着実に与えられた任務を完遂する能力が高いのが凛々子であり、その彼女の実力を理解しているからこその割り振りであったのだ。
とはいえ例えそれが解っていたとしても感情面は別問題だったので、こうして溜め込んだヘイトを自分の爪研ぎ板の夏妃にぶつけていたのだった。
「ねぇ凛々子、アンタも充分煩いわよ?もうとっくに作戦は始まっているんだから無駄に電波飛ばすのは止めなさい」
夏妃と凛々子の無線越しの夫婦漫才はいつもの事だったが、ここから先は一気に無線の使用量が増大するので、鈴鹿は騒ぐ二人に冷めた口調で釘を刺していた。
「これは本来ラブ姉のやるべき事よね……」
毎度お馴染みな夫婦喧嘩を仲裁する一方で愚痴る鈴鹿は、再び咽頭マイクに手を添えると尚も騒ごうとする二人に念を押したのであった。
「二人共解ってるとは思うけど、もしエリ姉相手に少しでも不自然な動きを見せたら直ぐに何か裏があるあるんじゃないかって勘繰られるわよ?だからアンタ達もバレたりしないよう慎重に行動しなさい」
すると少し間を置いて二人から不承不承ながらも了解の声が返って来たが、当然そのやり取りを聞いていたはずのラブと副長の立場にある愛は何も反応せずだんまりを決め込んでいた。
「…
ラブには一言二言処か言いたい事が山のようにある鈴鹿だったが、何か問題があっても割り切るのが早い性格故に即座に頭を切り替えると、ターゲットとなる小梅を捉えるべくべくテキパキと指示を出してブラック・ハーツを走らせるのだった。
「…よし見付けた……さあ香子!望み通り存分に働かせたげるから覚悟なさい!」
「ったく相変わらず人使いが荒い!ホント乳一杯に悪意を溜め込んで質の悪いったらないわ!」
「聞こえてるわよ!」
「聞こえるように言ってんのよ!」
作戦行動が始まって暫く後、一見闇雲に走り回っているように見えて黒森峰側の位置関係を正確に測っていたAP-Girlsは、作戦の最終段階に向けて動きが活発になっていた。
中でも直接エリカと決着を付けようとフラッグ車の位置情報に聞き耳を立てていたラブは、遂にその時が来たと鼻息も荒く香子に檄を飛ばしていた。
しかし当の香子はラブの騒ぐ声に耳を貸さず、操縦桿を操作する片手間に辛辣な嫌味のカウンターを返したのだった。
「ぐぬぬ香子…後で覚えてろよ……」
「もう忘れたわ!下らない事言ってないでサッサと指揮執んなさいよ!」
「くっ!つ、次のトンネル抜けたらショートカットで逆走コースに入れ!」
徹底的に香子にやり込められ薄っすら目尻に涙を浮かべたラブは、悔しそうに口元を歪めて声を震わせ次の指示を出していた。
『ちょいまっ……!ヤバヤバヤバ!』
大型液晶画面の中を、コマンダーキューポラ上で大騒ぎするラブを乗せたLove Gunが右から左へと脱兎の如き勢いで一気に駆け抜けて行く。
それは一見するとここまでの延長線上にあるドタバタ劇であった。
敵を求め時計回り周回からショートカットで逆走に入った途端、不運にもエリカの騎乗するフラッグ車の前に飛び出してしまったLove Gunは大慌てでその場を逃げ出していた。
「あれはラブのヤツが何か仕掛けたな……」
「ふむ、言われてみれば確かにそのように見える……」
たまたま運よく午前中の講義が休校となり、二人で暮らすマンションのリビングで試合を観戦していたアンチョビとまほは、香子に煽られて動き出したラブの様子に彼女が何か始めた事に気付いていた。
しかし彼女が何を始めたかまでは見抜く事は出来ず、中継映像の中で騒ぐ姿を胡散臭いものでも見るような目で見ていたのだった。
「オイ西住、オマエはラブのヤツが何を始めたのか予想が付くか?」
「私にあの怪獣が何考えてるかなんて解る訳ないだろ……?」
遠縁ながらも姉妹のような親密な関係であり、実際短期間とはいえ一緒に暮らした時期もある二人だったが、それでも彼女が何を考えているかなどまほには到底理解出来なかった。
「ま、そりゃそうだわな…私もアイツのぶっ飛んだ発想には付いて行けんからなぁ……」
アンチョビのエクスキューズに無茶を言うなとまほが難しい顔をすれば、問いを発したアンチョビもこれは愚問であったと腕を組み深く頷いていた。
「…私にすりゃ安斎も似たようなモンだがまぁいいや……今問題なのは果たしてエリカがそれに気付いているかどうかなんだが……」
「イヤ、あれは現場で気付けってのは無理だろう…こうして中継で見ていれば何となく解るがな、それだって散々やられた我々だから辛うじて解るってだけで、コレがもし単に中継を見ているだけの戦車道ファンや並の選手じゃ多分気が付かんだろうよ……」
「そうなんだよなぁ…アイツの馬鹿騒ぎは本気と小芝居の差がないから厄介なんだよ……」
するとラブとアンチョビの奇策に散々手を焼いて来たまほは渋い顔をしたが、昔の話を蒸し返しても仕方がないとエリカの身を案じていた。
「…私らも簡単に釣られて踊らされてたからな……それに何度も巻き込まれて来たエリカの経験が生きればいいが、西住の言う通りアレはマジで区別が付かんからなぁ……」
『アダダダダ!揺れる揺れる揺れる──────っ!』
「言ってる傍からこれだ……」
周回を重ね履帯に削られた挙句に徹甲弾に抉られた路面も荒れ始め、ハイスピードでその上を駆け抜けるLove Gunも上下に激しく揺れ、コマンダーキューポラからその身を晒すラブも同様に揺さぶられる。
「…そのなんだ、改めてこう言うのもなんだが、真横から見るとまた凄まじいな……」
「……」
エリカの猛追を受け逃げるラブを地元ケーブル局の中継用ドローンが並走するように追い、路面の凹凸に合わせて暴れるラブのたわわの姿もお約束のように大映しで中継される。
いつもの事と言えばそれまでだが画面越しに冷静な目で見るその光景の破壊力は凄まじく、ついアンチョビも素直な感想を口にしてしまう。
その光景にアンチョビがボケた感想を漏らす間も、彼女達の視線は振り落とされぬよう競馬の騎手宜しく前傾姿勢でコマンダーキューポラの縁にしがみ付くラブの姿に釘付けだった。
そしてあれだけ派手にお尻を突き出していれば、追走するエリカはラブのミニスカートの中をモロに見ているはずで、例え見せパンであっても生で直視させられているエリカをアンチョビは気の毒に思っていた。
「エリカも気の毒に……」
「目の毒の間違いじゃないか……?」
「…誰が上手い事を言えと言った……」
すると彼女の隣で似たようなアホ面晒して画面に見入っていたまほの無意識の呟きに、そんな返しなど予想していなかったアンチョビの顔は何処か悔しそうに見えた。
「あーもうホントにあの人は!アレは絶対わざとやってるわよね!?」
突然目の前に飛び出したかと思うと全力で逃げ出したラブを追っていたエリカは、フラフラと不規則に蛇行するLove Gunの上でお尻を突き出しミニスカートをヒラヒラさせるラブの姿に赤ら顔でキレていた。
黒森峰のエース格にこれだけ至近距離で追撃されれば大抵の相手はパニックを起こすが、元々大袈裟に騒ぐ質のラブ相手だとそれが本気かわざとなのか判別は非常に難しい。
そのラブに目の前でやれ右だ今度は左などと大騒ぎしながら盛大に乳を揺らし尻をシェイクされると、プロポーションが破壊力抜群なだけに追う者は地獄を見る事になるのだった。
「徹甲弾装填用意!次のトンネル出た所で仕掛けるぞ!」
直視していれば鼻の奥がツーンとなるので微妙に視線を逸らしながら、それでもエリカは何とかラブを仕留めようと追撃の手を緩める事なく次々と攻撃を仕掛ける。
しかし後ろに目が付いているかのようにエリカが放った徹甲弾を尽く躱しながら、尚もラブは大騒ぎで逃走を続けていた。
「うひ~!やっぱエリカさん容赦の欠片もないわ~!」
「アホか!そんなん最初っから解ってる事でしょうが!」
「誰がアホよ誰が!?」
「ラブ姉の事に決まってんでしょ!」
視界確保の為ハッチから顔を出して操縦する香子は頭の上で無駄に大騒ぎするラブを罵倒し、それに反論する彼女に更なる罵声を浴びせている。
「一体いつまでこんなまどろっこしい事続ける気!?」
「しょーがないでしょ!中々ドンピシャな条件が揃わないんだから揃うまで続けるわよ!ハイ右!」
「えぇい!帰ったら必ず埋め合わせさせるからねこの乳デブ!」
「何て事言うのよ!香子だって人の事言えないクセに!」
「誰のせいだ!?」
いくらエリカを確実に釣り上げる為とはいえ、試合中平気で自らを
しかしラブもただ闇雲に無茶振りしてハードワークを強いている訳ではなく、彼女達に出来る事しかやらせていないのはメンバー達も承知していた。
とはいえ毎度毎度馬鹿騒ぎに付き合わされては堪ったものではないと、こうして遠慮なく彼女に罵詈雑言を浴びせていたのだ。
「…何騒いでんだか……徹甲弾装填!」
Love Gunを追走するエリカがラブが大騒ぎする訳を知るはずもないが、それがどうせロクでもない理由であろう事は容易に想像出来たので、彼女はアホくさそうな顔で淡々と次なる一手の指示を出していた。
「まだよもうちょい……よし撃て!」
「ちょー!そこで撃つぅ!?」
まるでエリカの存在を忘れたかのように騒ぐラブだが、それでも自らに向けられた
「これだけタイトに狙っても避けるか……けどまだ主導権はこっちにある!徹甲弾装填準備!」
渾身の一撃を躱されさすがにエリカも悔しそうに歯噛みしたが、それで全てを諦めた訳ではなく次なる一手を打つべく揺れるラブの裏乳を睨み付けていた。
「はぁ~、あのタイミングで撃つとかエリカのヤツもいい度胸してるなぁ……」
「うん…けどあれを避けるラブお姉ちゃんがやっぱり普通じゃないんだよ……」
「まぁあの状況でもあんなに騒げるのは確かに普通じゃないかもね……」
「ハッハッハッ!厳島殿も逸見殿まだまだ元気が余っているようですな、イヤ実に結構♪」
『
観戦エリアに設置された大型モニターで試合の行方を見守る者達の思いはそれぞれだが、ラブとエリカの肝の太さに関する評価は概ね一致しているようだった。
「え~っとあの二人は取り敢えず置いといて他の交戦状況はどうなってる?何しろ16号戦でこれだけ時間が経過して撃破ゼロってのは私も記憶にないからなぁ……」
ラブとエリカの追いかけっこはまだ当分決着が付かないだろうと踏んだルクリリは、他の車両は何処にいるのかと分割画面に表示されているまるでサーキットの俯瞰図のような交戦エリアの略図へと目を向けた。
「現在交戦中なのは夏ちゃんのブルー・ハーツと直下さんの5号車、それと鈴ちゃんのブラック・ハーツと赤星さんの2号車ね…後は凛々ちゃんのイエロー・ハーツが4号車とやりあってますね、そして愛ちゃんのピンク・ハーツだけが索敵中であぶれたって感じかな……?」
「あ…でもこのまま進むとじきにイエロー・ハーツは逆走して来る3号車に挟み撃ちにされるかも……」
「え?ありゃ本当だ……」
すると補足するようにマップを確認したカルパッチョが交戦状況を確認し、彼女と一緒にマップを見ていたみほは間もなくイエロー・ハーツが窮地に立たされる事を予見していた。
「フム…この様子だと
「清澄殿…あぁ凛々子の事か……普段みんな名前呼びしてるせいか苗字で言われると一瞬誰だか解らなくなるなぁ…っと、話が逸れた……確かにあの辺逃げ込める場所は西さんの言う通りだが、もし田浦駅前に逃げ込んだらあそこは袋小路で相当不利な事になるぞ?」
「ん~、凛々ちゃん辛抱強い子だけどさすがにあそこで二両相手はちょっときついかな……?」
両チーム各車の位置情報から予測出来るこの先起こり得る状況に絹代がやや難しい顔をすると、ルクリリとカルパッチョも田浦駅前の狭さを思い浮かべ、凛々子に迫る危機的状況に表情が曇っていた。
だが現在の状況は全てラブの意図したものであり、彼女の指揮の下地道に進められている作戦の前段に過ぎなかったが、みほを始め観戦エリアにいる後輩達にそれを見破る事は出来なかった。
そしてこの辺りが彼女達とまほやアンチョビ達との埋め難い差であったが、これは単に学年が上な分酷い目に遭わされた経験が勝っているだけで、それを指摘してもまほ達は誰一人として喜びもしないだろう事は確実であった。
「どうだ西住、今のこの状況お前はどう見る?」
「どうって言われてもなぁ…ラブが何を企んでるかなんてサッパリ解らんが、AP-Girlsの行動は全てアイツの仕込みなんだろ……?さっき凛々子君が見せた機力があるなら夏妃君だって直下を振り切る位は造作ない事なはずなのに、ああして延々と追いかけっこを続けているのも不自然だしな。そしてその凛々子君にしたってまた後ろを取られたのに逃げずにいるのもおかしいじゃないか……それと小梅に奇襲を仕掛けた鈴鹿君だが、試合巧者な彼女が何処か攻めあぐねているように見えるのもらしくないよな」
「なんだ、サッパリ解らんとか言う割にはしっかり状況分析が出来てるじゃないか」
「からかうなよ……」
別にアンチョビもまほの事を試した訳ではないが、ぼんやりと中継を眺めているように見えて、実際にはしっかりとそれも極自然に試合全体を俯瞰している辺りはさすがたと内心で舌を巻いていたのだ。
「別に揶揄っちゃいないよ…だが西住も今のこの状況はラブが作り出したモノで、全てがヤツのコントロール下にあると踏んでるんだろ……?」
「も、って事は当然安斎だって解ってるんじゃないか……」
「そりゃ昔っからアイツにゃ何杯も煮え湯を飲まされて来たからな……」
『安斎だって同じぐらいアイツに煮え湯を飲ませてると思うんだけどなぁ……』
丁々発止、似た者同士の策士な二人が互いにやられたら心底腹が立つようなしょうもない手で散々やり合うのを見て来たまほとしては、昔を思い出して仏頂面になったアンチョビにそう言ってやりたかった。
しかし迂闊な事を言ってまたカレー抜きのペナルティを増やされたりしたら堪ったものではないので、自重した彼女は口から出かけた言葉をグッと呑み込んだのだった。
「どうした?」
「イヤ、何でもないよ…えぇと何だっけ?ああそうだ残る愛君の事だった……先程から彼女だけがあぶれて索敵しているようだが、私の目にはちょっと積極性に欠けるように見えるんだが安斎はどう思う?」
「え?愛か…ふ~む、そうだな……あ~アレは確かに獲物を求めて彷徨うというより、何かを待っているように見えるなぁ……う~ん、アイツめ一体何を企んでいるやら……」
今度は逆にまほから質問を返され、分割画面の一つに映る愛の駆るピンク・ハーツの動きを注意深く観察したアンチョビは、夏妃同様パワーファイターである愛の動きがまほの指摘通りやや積極性に欠けているように感じ、彼女はそれが意図的なものであると見抜いていた。
「やっぱり安斎にもそう見えるか…一見するとバラバラなんだがな、AP-Girlsの場合はそれが全くアテにならないし、そもそも総大将が
「ナニ?あぁ本当だ…そうだな、このペースだと丁度田浦駅の入り口辺りで挟み撃ちになるな…そうなるともう田浦駅に逃げ込むしか道は残されていないが、あの袋小路の駅前に逃げ込むという事は二両を相手に籠城戦をする事になる訳だ……」
まほに言われるまで凛々子の置かれた状況まで目が届いていなかったアンチョビは、まほの視野の広さと先まで見通す観察眼の確かさに再び舌を巻き、そんな彼女を
だが彼女が密かに悦に入っていたのも束の間の事、直ぐに現実に立ち返ったアンチョビはラブが使いそうな手口を指折り数えながら絞り出すように呟きを洩らした。
「しかしこれもやっぱラブの仕込みと見るべきだろうな…アイツは一体ナニを企んでいやがるんだ……?」
ここまでの処は確かに黒森峰が主導権を握りエリカの思惑通りに試合は展開していたが、最後の最後に思いもよらぬ一手で圧倒的不利を平気で覆すラブが相手だけに、何かエグイ手を使って来るに違いないとアンチョビとまほは揃って古い油で胸やけでも起こしたような顔をしていた。
「イヤ──────────ッ!今日はエリちゃんが全然優しくな──────────い!」
エリカの放った徹甲弾がLove Gunの砲塔右側面を火花を散らしながら掠め、そのまま浅い角度で進路を変えて右斜め前方の民家を一撃で倒壊させる。
そして破壊の衝撃が舞い上げた大量の粉塵と瓦礫の欠片が頭上から降り注ぎ、モロにそれを浴びる事になったラブは埃塗れで盛大に情けない悲鳴を上げた。
「ねぇまだ!?まだピースは埋まらないの!?」
「まだよ!今凛々子が二両目を釣り上げるタイミングを計ってるから無理言わない!」
如何にラブといえども片側二車線の狭い国道では自在に回避機動を取れるはずもなく、その状況でイケイケなエリカを相手にするのは相当に大変らしく彼女にしては珍しくガチの弱音を吐いていた。
しかしこの状況を作り出したのは他ならぬラブ自身なので誰一人彼女に同情する者はなく、中でも飛び交う無線に耳を傾け最新の位置情報の把握に努める通信手の花楓は、心底煩そうに砲塔上で大騒ぎするラブを怒鳴り付けていた。
だが大騒ぎで弱音を吐いたラブが花楓に怒鳴り付けられていたまさにその時、尻に喰らい付いた黒森峰の3号車から逃げ続けていた凛々子のイエロー・ハーツの進路上に4号車が立ちはだかっていたのだ。
そして如何にも切羽詰まった風を装った凛々子は、そのまま田浦駅へと続く道に逃げ込むよう操縦手の紗英に転進の指示を出していた。
すると当然黒森峰の二両のパンターG型もイエロー・ハーツを討ち取るべくその後を追い、袋小路の田浦駅前の狭い広場で2対1の激しい撃ち合いが始まったのであった。
「いっつもいっつも私にばっか面倒事押し付けて!オラぁラブ姉!こっちはもういいからサッサとやりやがれ!」
一見するとどこぞの清楚なお嬢様にしか見えぬ容姿の凛々子は、派手なAP-Girlsのパンツァージャケットより聖グロのタンクジャケットの方が似合うだろう。
しかし一端キレるとその毒舌ぶりは留まる事を知らず、例え相手がラブであろうともお構いなしに延々と猛毒を吐き続けるのだった。
確かに今回は勝手に奥の手を使ってしまった事への罰ゲームの要素もあったが、ラブが凛々子にこの手の役割を任せるのはAP-Girlsの初陣の聖グロ戦でみせた彼女の忍耐力を信頼しての事だった。
とはいえ毎度試合の度、ここ一番という局面で非常に忍耐力を必要とする任務を押し付けられては堪ったものではなく、二両を相手に籠城戦を強いられキレた凛々子は無線の向こうでドタバタを演じるラブに向かってフルボリュームで罵声を浴びせていた。
『…なんてガラの悪い……まさかこれが凛々子の地なのかしら……?』
状況の完成を今か今かと待ち侘びていたにも拘わらず、無線越しにいきなり罵倒されたラブはついそんな事を考えてしまう。
「ラブ姉!」
だがそれも一瞬の事、飛び交う無線に全神経を集中して状況の進捗状況をモニターしていた花楓の声で我に返ったラブは、作戦の最終段階に向けてGOサインを出していた。
「愛!行ける!?」
『いつでも……』
「よ~し!それじゃ行くよ!」
打てば響くでレスポンスは早いが相も変らぬ不愛想な声で応えた愛の声に、口元だけ僅かに微笑んだラブはそれをエリカに悟られぬよう取っ散らかったふりを続けながら状況を開始したのだった。
「ホンっと往生際の悪さは並ぶ者なしね!」
時間経過に比例して命中精度も上がり、エリカのモチベーションも俄然アップしている。
しかしそれでも簡単には討ち取れぬラブを相手に、口角を吊り上げた猛虎の笑みでエリカはついそんなセリフを口走ってしまうのだった。
「それにしてもアレね、やっぱりパンターっていいわ…さすが最優良戦車と呼ばれるだけの事はあるわね……特にこの対ラブ姉仕様の機動力、正直この後またティーガーに戻るのがイヤになりそうなレベルね」
奇しくも遠く名古屋の地でスピードは麻薬とアンチョビが呟いた通り、16号戦でラブに勝つ為だけにカリカリチューンを施したパンターG型の高い機動力にエリカは酔いしれていた。
何しろ中等部時代ラブと彼女の愛馬Love Gunの俊足ぶりに翻弄されて来たエリカは、対等とは行かなくとも初めてLove Gunを追える脚を手にしたのでその気になるのも当然と言えば当然の事であった。
「ヨシ!次のトンネルを抜けたらもう一発行くわよ!徹甲弾装填用意!」
過去、主に西住姉妹のとばっちりで散々酷い目に遭わされたお陰で、ラブ相手の経験値は同期の誰より稼いでいたエリカは、彼女とここまで渡り合える事に精神的にかなり高揚していた。
「徹甲弾装填!」
トンネルに突入し視界が暗転しても前を行くLove Gunのシルエットから目を離さないエリカは、装填手に徹甲弾の装填を命じ次の攻撃のチャンスに備える。
「次も絶対当てる…今度こそ有効打にしてみせる……照準いいわね!?」
次の攻撃をクリティカルヒットにすべく自己暗示のを掛けるよぅに呟いた後、エリカが照準を覗き込む砲手に念を押せば、砲手は顔も上げずにただ右手の親指を立てて問題ないとそれに答える。
「ラブ姉…今日こそ積年の恨み晴らさせて貰うわよぉ……」
まほとみほの巻き添えでラブには散々苦渋を飲まされて来ただけにエリカも色々と溜まっているらしく、前を行くLove Gunのシルエットを見据える彼女の猛虎の笑みは一層凄みを増す。
「あとちょっと…もう少し……」
秒読みでもするようにLove Gunがトンネルを抜け切るタイミングをエリカは計る。
16号戦のルール上トンネル内からの発砲は可能だがトンネル内にいる車両への攻撃は御法度な為、エリカはLove Gunの車体が完全にトンネル外に出るのを待っていた。
「今よ!う……」
「エリカさん!」
そしてLove Gunがトンネルを抜けた直後エリカが攻撃命令を出そうとしたその時、国道沿いの倒壊した民家の瓦礫の山を蹴散らしてピンク・ハーツが二両の間に割って入った。
「愛!?」
突然のピンク・ハーツの乱入に一瞬何が起こったのか理解出来なかったエリカだったが、絶好のチャンスを不意にしたのが愛だと知ると口角を吊り上げ牙も剥き出しで咆哮を上げた。
「この!愛!邪魔よそこどきなさい!」
だが並の選手であればビビッて逃げ出す虎の咆哮も愛には通用せず、正面装甲と砲口をエリカに向けた彼女はこれ以上好きにはさせぬと進路に立ちはだかっていた。
「行った……?」
「みたいね……」
ピンク・ハーツの介入でエリカの駆るフラッグ車の追撃を振り切ったラブは、愛がエリカの頭を押さえているうちに倒壊した民家の陰に逃げ込み息をひそめて辺りの様子を窺っていた。
「…よし、それじゃ早速始めるわよ……香子、手筈通り頼むわね」
「了解」
通信手の花楓と一緒に周囲を警戒していたラブは愛とエリカが通り過ぎたのを確認すると、操縦手の香子に何やら含みのある指示を出した。
「時間ないからね、ぱっぱとやるよ」
「ならこんなタイトな作戦立てるなっての……」
出来る事しかやらせないと事ある毎にラブは言うが、そのハードルは高く設定されるのが常な為に、仕事量が最も多くなる香子は文句を言いつつLove Gunのエンジンを始動させたのだった。
「オイオイオイ……」
「…ラブのヤツ何を始める気だ……?」
「何ってオマエな…西住だって解ってるんだろ……?」
「それは……」
ややシニカルな芝居じみた口調のアンチョビに比べ、まほの返答はイマイチ歯切れが悪い。
だがアンチョビが顎でクイっと示した先、大型液晶テレビの分割画面の一つに映るLove Gunの姿を見れば、ラブがこれから何をやろうとしているかは彼女に目にも一目瞭然であった。
果たして最初からこれを見越して倒壊させておいたのかは不明だが、トンネル脇の急傾斜地に建っていた一軒家の残骸に力任せに乗り上げたLove Gunは、高射砲宜しく主砲を天高く振り上げていたのだ。
「まぁ信じたくない気持ちは解らんでもないがな……」
「…だってなぁ、試合開始直後や動きの少ない序盤ならともかくだ、こんな最終局面に来てあんな曲芸紛いの砲撃普通やるか……?」
親戚としては遠縁ながらも幼少期より姉妹同然な間柄なだけにその思考も読み易いらしく、一番その被害に遭って来たまほとしては、ラブがこれからやろうとしている事はあまり面白いものではなかった。
「やるんじゃないかぁ?アイツなら……」
「あのなぁ……」
おそらく西住姉妹に次いで被害に遭っていたであろうアンチョビが、投げやり且つ何処か面白そうに短く答えると、まほは疲れた様子で溜息を吐き大きく肩を落としていた。
「現にホレ、ああして馬鹿みたいに仰角稼いでんだからそれしかあるまい?…ええと何だ、魔女の口付けだったか……?あの
「ハアァ…私にはオマエらが何を考えてるのか全く理解出来ないよ……」
「…あんな怪獣と一緒にするなよ……」
例え頭で解ってはいても、ラブがやろうとしている事を改めて言葉にされると彼女の非常識さが浮き彫りになり、戦車道の王道を行くまほには深い溜息を吐くしか選択肢がなかった。
そしてそれを淀みなく理路整然と言い当てるアンチョビもまたまほから見ればラブと同類だったが、深い溜息と共にその事を指摘されたアンチョビは不服そうに口を尖らせていた。
「…私から見りゃ似た者同士だよ……まぁ今はその件は置いとくとして、エリカの頭を押え込んでるピンク・ハーツの操縦手、
「
「ナポリターンだったか…P-40が来るまで固定砲身の車両しかなかったアンツィオじゃそうせざるを得なかったんだろうが、ちょっとやそっとで習得出来る技じゃないだろうに……」
必要に迫られて身に着けた技術であるということは理解出来るが、それは即ち装備の貧弱さを補う為の苦肉の策であり、まほにとっては如何に自分が戦力的に恵まれていたかを改めて実感させられる話であった。
「あ~やっぱりな…見ろ西住、ラブのヤツ射角の調整を始めやがったぞ……」
「本気でやるのか……」
横須賀ならではな谷戸の急傾斜に加え、家屋の残骸も利用して極端な仰角を稼いだLove Gunのコマンダーキューポラに納まるラブは、その瞬間に備えて射角の微調整に余念がなかった。
『それにしてもアレだな…ラブのヤツあの状態でよくコマンダーキューポラから転げ落ちないな……』
垂直には凡そ程遠いとはいえ、下手をすればバランスを崩して引っ繰り返り兼ねない程仰角を稼いでいるLove Gunから身を晒すラブは、コマンダーキューポラ上で自らの超重量級なたわわの重みに耐えながら、車外に転落せぬようエビ反り状態で必死に上体を支えていたのだ。
毎度の事とはいえラブの態度と同様にデカいたわわが巻き起こすトラブルは、目撃した者にとっては非常に目のやり場に困る逆羞恥プレイだったので、二人はほぼ同時に同じような事を考えていたのだった。
「邪魔よ!いーかげんそこをどきなさい!」
Love Gunの追撃中横槍を入れてからずっとエリカの前に立ちはだかる愛に向けて、エリカは身を乗り出してフルボリュームで怒鳴っていた。
だが愛もその怒声に屈する事はなく、射殺すような視線とセットでエリカの放つ圧を受け止めている。
そしてエリカを前に一歩も引かぬ愛の大胆さはそれだけに止まらず、車載スピーカーから自らがメインボーカルを務める曲を流し始めたのであった。
「な!歌い始めたぁ!?」
ハイテンポなイントロに続き愛が戦車搭乗時用の振り付けで踊りながら歌い始め、ピンク・ハーツもそれに合わせて右に左に過激なステップを踏む。
「そう…本気で私を殺ろうってのね……上等よ!返り討ちにしてやるから覚悟なさい!」
道を譲る処か突然歌い始めた愛に一瞬は面食らったエリカだったが、即座に我に返った彼女は阿蘇の噴火もかくやという勢いで感情を爆発させていた。
AP-Girlsが歌う時は怖い時、エリカもこれまでの経験上その事は心得ていたので愛の歌を本気の印と受け取っていたが、今回に限っては残念ながら完全に彼女の勘違いであった。
しかし一つ間違えれば追突事故を起こし兼ねない至近距離で、愛のピンク・ハーツと鍔迫り合いを演じるエリカにそれに気付けというのも酷な話で、その気になった彼女は行きがけの駄賃にピンク・ハーツも刀の錆にしてくれると乗騎に鞭を入れた。
だが愛が歌い始めた段階でラブの作戦はもう最終段階で、そうと気付かぬエリカは既に彼女の術中に嵌り、これが試合の行方を決定付ける天王山となったのだった。
「来た!キタキタキタぁ!愛が歌い始めたわよ!」
「ラブ姉煩い…この状態で大騒ぎして足場の瓦礫が崩れたらどうすんのよ……?」
瓦礫の山に乗り上げて無理矢理仰角を稼いだ状態でたわわの重みに耐えていたラブは、今や遅しと待っていた愛の歌声が無線の向こうから届いた瞬間、つい状況も弁えずはしゃいでしまい主砲をいつでも撃てるよう体勢を維持していた砲手の瑠伽に怒られ慌てて口を噤んでいた。
「これ外したら相当恥ずかしい事になるんだからしっかりしてよね……」
車内で下手に動けばいつLove Gunがバランスを崩して引っ繰り返るか解らないので、声を抑えた瑠伽の小言に彼女と同じように身体を支えるメンバー達は全員無言で小さく頷くのだった。
「わ、解ってるわよ…主砲発射まで後
瑠伽に睨まれて漸く気を引き締めたラブは、主砲を撃つまでの残り時間を小節数でカウントする。
『この足場それまで持つのかしら……?』
ラブの指示通り決められた座標に向けて撃つだけなので照準器を覗き込む必要のない瑠伽は、発射ペダルに軽く足を乗せたまま時折聞こえる足下の瓦礫の軋む不吉な音にふとそんな事を考える。
「主砲発射後は足場がどうなるか私にも予想が付かないから各員衝撃に備える事……」
45t超えの重量を支える足場は軋みながらも今の処はどうにか持ち堪えていたが、さすがのラブも主砲発射の衝撃でどうなるかまでは解らないらしく瑠伽の不安を肯定するような事を言う。
「いよいよ怪しくなって来たわね…まぁいいわ、どうせ外しても恥を掻くのはラブ姉だし……」
ラブの無責任発言に呆れた瑠伽が思ったままの事を言葉にする間も、愛が開きっ放しで占有する無線からは彼女の歌声と時折それに被せて砲声が聞こえていた。
「主砲発射用意……」
そして遂に愛の歌も残す処後二小節となり、ラブは抑揚のなくなったハスキーボイスで必要最低限の指示を出す。
「…3.2.1……撃て!」
強敵黒森峰相手に紆余曲折を経ながらも最後はラブの思惑通りにお膳立ては整い、Love Gunは天に向け必中必殺の矢を放ったのであった。
「いつまでもそんなぬるい手が通じると思ったら大間違いよ……次の折り返しで仕留めるわよ!徹甲弾装填用意!」
防御重視でエリカに正面装甲を向けたまま後進を続ける愛のピンク・ハーツだったが、間もなく到達する田浦側折り返し地点ではどうしても側面を晒す事になり、後を追うエリカはそのタイミングで攻撃を仕掛けてピンク・ハーツを撃破するつもりだった。
「いっくら可愛い声だってトンネル内でフルボリュームじゃ煩いったらないわね…けどそれももうおしまいにさせてもらうわ……徹甲弾装填!」
折り返し地点手前のトンネルの出口付近でエリカは装填手に徹甲弾の装填を命じ、装填手の握った拳が徹甲弾を薬室へと押し込み閉鎖機が閉じる。
そして先を行くピンク・ハーツがトンネルを抜けると後を追うエリカはいつでも発砲可能となったが、彼女は逸る事なく目の前の獲物を確実に屠るタイミングを待っていた。
「何処まで行くつもり!?折り返し地点のオーバーランは即失格よ!」
ところが通常であれば折り返して対向車線に入る地点を過ぎているのに、ピンク・ハーツはドリフトによる旋回運動に入る素振りも見せずどういう事かとエリカは訝しむ。
しかしそうこうするうちにエリカの騎乗するフラッグ車もトンネルを抜けてしまい、その頃になってやっとピンク・ハーツもターンに入ろうとしていたのだった。
「right now!」
愛は自らがセンターを務める曲の最後のフレーズに合わせ右腕を横に大きく薙ぎ払う。
するとピンク・ハーツのテールにピタリと張り付き追撃していたエリカは、状況的にそれがターンに入る合図だと勘違いした。
「ターンを遅らせて今度は後ろを取るつもり!?でももう遅い!」
中々ドリフトに移行しないピンク・ハーツに焦りを感じたが、それでも冷静さを欠かなかったエリカはついにその時が来たと攻撃命令を出そうとした。
「よし今よ!う────」
満を持したエリカが攻撃命令を下そうとしたまさにその時、突然彼女の背後に雷鎚ミョルニルを叩き付けられたような衝撃が走り、あまりにも激しい一撃にフラッグ車のフロント部が一瞬浮き上がる。
「なっ!?」
突然の事に事態が呑み込めず何事かと驚くエリカだったが、それでも彼女は振り落とされぬようコマンダーキューポラの縁に前傾姿勢でしがみ付いて衝撃に耐えた。
しかし浮いた車体が地面に叩き付けられた激しい衝撃が収まると、エリカは上体を起こして周囲を見回し状況を確認し事態を察したのだった。
「い、一体何が…あぁ、そういう事……」
振り返った彼女の視線の先、車体後部の機関部にはほぼ直上から貫いたと思しき破孔が開きパチパチと爆ぜる音と共に黒煙を上げ、砲塔上には小さな白旗が射出されエリカに敗北を告げていた。
トンネル二つ越えの超高弾道でLove Gunから撃ち出された徹甲弾は、愛の歌に導かれてエリカの駆るフラッグ車の機関部を見事に貫き、ラブに復活した16号戦最初の勝利をもたらしたのであった。
新年度早々フライング気味エリカが仕掛けた16号戦も無事(?)に終わり、
彼女達もこれから先は全国大会に向けて本格的に動き出します。
ですがその前に小さなイベントが待ち受けていますので、
ラブも多忙な日々が続く事になるでしょう。
家族が全員ダウンする中なんとか自分だけは無事切り抜けましたが、
図らずもナントカは風邪をひかないというのを立証した気もします……。
今回は幸か不幸か仕事が忙しくて自宅敷地内の離れの仕事場に籠っている事が多く、私だけが感染を免れたようでした。
仕事と家族の世話に追われ執筆もままならぬ日々にストレスも相当溜まりましたが、
おにまいのまひろちゃんが癒しになってましたね。
あの最終回のエンディングは二期を期待していいのかなぁ……?
話は大分逸れましたがどうにかこうにか恋愛戦車道も連載再開に漕ぎ付けましたので、今後とも宜しくお願い致します。