衝撃の試合結果はやはり各方面に大きく波紋を広げたようです。
「え?ヤダちょ!うわわぎゃ────────────っ!」
ベキバキと嫌な音を立てて足場に利用した元民家だった瓦礫の山が遂に圧壊する。
いくら高射砲紛いの仰角を稼ぐ為とはいえ、ごく一般的な住宅建材に積載した砲弾等諸々を含め45tを超えるパンターG型を支えられるだけの強度はなく、ましてそこに砲撃が生み出した衝撃が加われば木材が中心の住宅建材が耐え切れるはずもなく、一気に限界を超えた即席の足場があっという間にペシャンコになる事など子供でも容易に想像が付く事だった。
「ゲホ!ゴホ!…し、死ぬかと思った……」
引っ繰り返る事はなかったものの階段を踏み外した時などに感じる嫌な浮遊感の後に、地面に叩き付けられたLove Gunが盛大に巻き上げた埃に咽ながら、ラブはコマンダーキューポラにしがみ付いた姿勢のまま冷や汗を掻いていた。
「…まさか新年度早々あんなとんでもない大技繰り出して来るとか夢にも思わなかったわ……そもそもが何をどうやったらあんなデタラメな攻撃が当たるのか私には皆目見当が付かないし……」
手元のノートパソコンに黒森峰のフラッグ車の撃破判定が表示された直後、試合の審判長を務める亜美はマイクに向かっていつものように勝負ありのコールをしていた。
そしておもむろにマイクのスイッチをオフにすると、すっかり気の抜けた顔でいきなりラブが発揮した規格外の怪物ぶりに思ったままに呟きを洩らしたのだった。
「あ~あれな~、おひいさんのアレはさすがに私も理解不能だわ~」
臨海中学出身でラブの先輩にあたり知波単時代は上総の大猪やら鬼敷島などと恐れられ、現在は警察組織内部で厳島家専属刑事を始め厳島家お抱え刑事だの厳島家御用達刑事などと囁かれる英子は、誰憚る事なくラブをおひいさまとかお嬢呼ばわりしているのでぼやく亜美への返しも身も蓋もなかった。
「しかしなんだ、黒森峰の
「だからそういう言い方止めなさいよ……」
「イヤイヤ、あのエリカって嬢ちゃんも
「……」
中等部時代ラブと西住姉妹相手にエリカが手を焼いて来た事は英子も話に聞いていたので、その経験が今日の試合にも生きているだろう事は想像に難くなく、改めて経験値の重要性を説く英子に教導教官の職にあるの亜美は色々と思う処もあったが何も反論出来なかった。
「…にしてもアッチはエライ騒ぎになっとるな……ま、一部そうでない連中もいるようだが……」
黒森峰のフラッグ車走行不能のコールに一般観戦客は一体何が起こったのか直ぐには理解出来ず、観戦エリア全体にザワザワとどよめきが溢れていた。
だがリアルタイムの中継映像に代わりリプレイで高射砲状態でLove Gunが発砲する場面と、直上から降り注いだ徹甲弾に機関部を撃ち抜かれ白旗を揚げるエリカのパンターG型の姿が大型モニターにアップで映し出されると、それで漸く事態を理解した一般観戦客が一斉に歓声を上げ観戦エリアは騒然となったのであった。
ところが蜂の巣を突いたような騒ぎとなった一般席とは対照的に、みほ達の陣取ったスタンド全体が不気味な沈黙と緊張感に支配されていた。
「…まぁあそこにいる大半の子は中学の頃恋お嬢さんに痛い目に遭わされてるから……」
中等部時代ラブに目を掛けられ教えを受けた者は同時に彼女の恐ろしさも思い知らされていたので、今日の試合の結末はそれのトラウマを思い出させるのに充分効果があったのだ。
「ハッハッハッ♪何とも懐かしい話だな……さて、昔話はこれ位で私はまたお仕事の時間だ」
亜美もラブの常識外れな大技を初めて目撃した当時を思い出したのか浮かぬ顔だが、警備責任者として運営本部に詰めている英子の仕事はこれからが一番忙しかった。
「配置に着く各員に通達、試合も終了し皆が帰路に就く頃合いだ、まだ当面交通規制は続くから注意して観戦客の誘導に当たれ……尚AP-Girlsの帰投後のライブ目当ての観戦客の移動もそろそろ始まる、メイン会場への誘導はいつでも規制が掛けられるよう準備を怠るな」
無線のマイク片手に警備用の監視映像に鋭い視線向ける英子は、ラブ達の帰投後のイベントが滞りなく進行出来るよう警備主任として万全の体制を布いていた。
「え~っとこれは何と言ったらいいか……」
「さすがはラブ姉とでも言えと……?」
試合序盤の景気付けや挨拶代わりにしか使われなかった大技で決着が付き、一般観戦客とは対照的に沈黙していたラブの
しかし試合結果の方はともかくとしてまさかの決着に一同顔色は冴えず、辺りに漂う空気の方もまるで葬式か何かのようであった。
「ラブお姉ちゃん…だから何でそれが当たるのよ……?」
「いやはや何とも豪快な一撃でありましたなぁ」
特に妹処か子分扱いされているみほなどは明日は我が身といつも以上に鬱な顔をしていたが、元々が動じない性格なのか絹代だけが唯一普段通りだった。
「豪快な一撃か、そりゃまた随分と控えめな評価だな…う~む、16号戦としちゃ長引いた方だけどそれでも普通の試合に比べりゃ早く終わったからな……さてこの後どうする?ラブ姉達が戻って来たら我々も帰投するか、それともミニライブ迄見て行くかだが?あんま呑気にここに居座ってると後でサボってるとか言われそうな気もするんだよなぁ……」
「もし見ないで帰ったらそれはそれでラブ姉からネチネチ色々と言われるんじゃないかしら?」
「う゛…それは大いに有り得る……つーか絶対言われるだろ?」
戦車道に係わる事は偵察や視察等の名目で授業の範囲内として校外活動も認められていたが、試合後にAP-Girlsが行うライブ活動は非常に微妙なグレーゾーンだった。
しかしこれに異を唱えるのは厳島に意見するのも同様の行為であり、例え厳島家がその事で何も言わなくとも自ら虎口に飛び込む愚を犯す学校は一校もなかった。
「事は厳島相手なんだからまぁ簡単に学校の方もサボり扱いに出来ないでしょ?ここはまずラブ姉の意向最優先が無難よね…尤もウチは笠女とコラボで出店を展開してるでしょ?だからその辺は端から問題にはならないんだけどね……」
AP-Girlsの試合観戦には付き物のミニライブは楽しい反面微妙に後ろめたさもあったので、あくまで偵察名目で書類を提出している各校の隊長達はルクリリの呟きに揃って目を泳がせた。
しかし唯一笠女と
「って言ってる傍からホラ……」
前年度の
その状況に曖昧な自虐の笑みを浮かべるカルパッチョが指差すスタンドの下段から、アンツィオが堂々とこの場にいられる理由がコック服を着て階段を登って来る姿があった。
「悪かったわねペパロニ、そっちの仕事全部任せちゃって」
「な~に全然構わね~って事よ……イヤ~そんな事よりさすがラブの姐さんだ、超スゲ~試合だったな~」
『
本来であれば二代目ドゥーチェを襲名したペパロニがスタンドにいるのが筋だったが、戦車道よりコッチが大事と言い切った彼女は偵察任務をカルパッチョに丸投げし、営業開始前の仕込みの段階からここまでずっとフライパンを振るい続けていたのだった。
「あんなに忙しそうだったのに中継見る余裕があったのか……?」
飲食物販売エリアの盛況ぶりは自分達の陣取ったスタンドからも丸見えだったので、忙しく立ち回るペパロニにとても試合の中継を見る余裕などないと思っていたルクリリは、さして疲れた素振りも見せずに清々しい笑顔で額の汗を拭うペパロニを驚きと呆れの目で見ていた。
「ん?仕事の合間にチラチラ見てたぜ~?そもそもあの程度じゃ忙しいウチに入んね~って」
「マジか……?」
アンツィオの生徒達が食に係わる事となると俄然勤勉さを発揮してよく働くのは有名だが、あれだけの客を前に動じる事なく出店を切り盛りして尚疲れた様子も見せぬペパロニに皆一様に驚いている。
「そりゃ確かに今回はこれまでを上回るハイペースで売れてっけどな~」
勝敗も決しラブ達が帰投するまでに昼食を済ませようとする観戦客も多く、飲食物販売エリアはそれまで以上に混み合い始め、その光景をスタンド上から俯瞰するペパロニは悦に入ったようにニヤニヤと笑う。
「まぁ今回はアレだ、手打ちパスタの実演と客からよく見える位置にピザ窯据えて焼いたのが大当たりだったな♪お陰で笠女とコラボした新メニューもバカ売れで売り上げ記録の更新も間違いなしだぜ~?」
笠女を運営する厳島家に負けず劣らずな商魂の逞しさを発揮するペパロニは得意げに胸を張り、展開に付いて行けぬ者達は説明を求めるように視線をカルパッチョに集中させた。
しかし彼女も説明が面倒なのか曖昧なアルカイックスマイルを浮かべると、柳に風で集まる視線を徹底的にスルーしたのだった。
「そんな訳で今日はウチのオゴリだから昼飯買うんじゃね~ぞ~」
『おぉ…なんと太っ腹な……』
何がそういう訳だか分からないが後で届けてやるからそれまで帰るなと言い置いたペパロニは、一層混み合い始めた職場に復帰すべく軽快なステップでスタンドの階段を駆け下りて行った。
「アイツめ…最後絶対笑ってたわよね……」
試合終了後走行不能となったパンターの回収待ちの間、コマンダーキューポラに腰を降ろして機関部に穿たれた大穴を眺めていたエリカは、ラブの放った一撃を喰らう直前の事を思い起こしていた。
追撃していたLove Gunとの間に無理矢理割って入った挙句、延々進路を塞ぐピンク・ハーツに業を煮やしたエリカは、まずは愛を黙らせるべく虎視眈々その機会を狙っていた。
そして田浦側の折り返し地点でピンク・ハーツが旋回するのを待っていたエリカは、満を持して砲手に砲撃命令を下そうとしたが逆に撃破されたのは自分の方で、難を逃れた愛のピンク・ハーツは黒煙と共に白旗を揚げたエリカのパンターの横を駆け抜けて行ったのだった。
しかしエリカもただ一方的にやられた訳ではなく愛の動きから目を逸らしていなかったので、彼女が自分の横を駆け抜けて行く際その口元に微かな笑みを浮かべていたのを見逃さなかった。
「は~こりゃまた見事にやられたわね……」
「なんつ~無茶苦茶な超高弾道……」
「ほぼ真上からドカンか~、ラブ姉ったら一体どんな態勢でぶっ放したんだか……」
「まさか今頃Love Gunごと引っ繰り返ってないでしょうね~?」
作戦成功を確信し思わず笑みを漏らした愛の横顔を思い出し、後でどうしてやろうかとエリカが爪を噛むかたわらで、フラッグ車に搭乗していた古参の隊員は総出で一発喰らった大穴を検分していた。
試合開始から終始主導権を握っていながら予想だにしない一撃で敗北を喫したにも拘らず、機関部に空いた大穴を覗き込む彼女達に悔しそうな素振りは見受けられず寧ろサバサバとした様子だった
そして全員がエリカと同様にラブが何をしてその結果何が起きたかを正確に把握していたようで、口々に呆れたような口調で状況分析をしていた。
但し中等部時代から頭角を現しラブに目を掛けられて来た分、彼女の趣味趣向もよく理解しているので愛とのコンビネーションプレイの背景も見事に見透かしていたのだった。
「けどピンク・ハーツを囮に使うとかラブ姉も随分思い切ったわね」
「やっぱアレは愛のなせる業ってヤツかしら?」
「愛だけに♪」
「誰ウマ」
「アンタ達いい加減にしなさいよ……」
エリカも彼女達と同意見だったが立場上それを口にするのはさすがに躊躇われるようで、お気楽に敗北の原因を笑いに換えるチームメイトに脱力して溜息を吐いた。
「…あの人の愛情は重過ぎて私じゃ胸焼けしそ…ん?迎えの、イヤこの音は……」
ラブが愛を溺愛しているのは
そんなエリカがつい愛のポジションに自分を置き換えた姿を想像してしまい、まるで油の戻った揚げ物でもうっかり食べてしまった表情で胸の辺りを摩っていると、背後のトンネルからエンジン音と履帯がアスファルトを削る音が響いて来た。
「エリカさ~ん♪一緒に帰ろ!」
「ラブ姉……」
噂をすれば影とはよく言ったものでエリカが背後から近付く走行音に振り返れば、そこにはトンネルが連続する16号戦という事で灯火管制下に使用するスリット入りライトカバーを外し、ノテックライトに変わって採用されたボッシュライトを煌々と点灯させたLove Gunの姿があった。
無邪気な笑顔のラブに何でこの人の笑顔はこうも子供っぽいのだろうとエリカがぼんやりと考えるうちに、トンネルを抜けたLove Gunはエリカの乗るフラッグ車の隣に轡を並べていた。
「瑠伽おねが~い…よっこいせっと……」
白旗を掲げて身動き一つ出来ぬエリカのフラッグ車にLove Gunを並べたラブは、エリカの返事も待たず瑠伽に砲塔を旋回させるとたわわを揺らしてコマンダーキューポラを抜け出し、両腕を左右に大きく広げて器用にバランスを取りながら綱渡りでもするように砲身を渡り始めた。
『妙に間隔を開けて止まったと思ったらまたこんなマネを……』
その外見とは不釣り合いに彼女は行動の方も子供ぽかった事を思い出したエリカは、砲身で綱渡りをするラブの長い脚の動きを半口開けて観察していた。
「ハイ到着!」
だがそんな事をしているうちに砲身の先っちょに辿り着いたラブは、マズルブレーキを足掛かりに軽々と跳躍すると一層激しくたわわを揺らしてエリカの傍に着陸したのだった。
「…そんな曲芸披露してまたドゥーチェに怒られても知りませんよ……?」
以前も全く同じ事をやって後からアンチョビに危ない事をするなと説教されたにも拘らず、これっぽっちも反省していなかったらしいラブにエリカはチクリと針を刺す。
「う゛…も、もう千代美は高校生じゃないから関係ないもん……」
エリカの痛烈な一刺しにラブは強がりを言うが、その語尾と唇の端が完全に震えていたので彼女がすっかり動揺しているのはモロバレだった。
そしてエリカのご神託通り今の場面はそのまま中継にも乗っていたので、後日彼女はアンチョビからガッツリと説教を喰らう破目になるのであった。
「…ま、いいわ……それよりやられました完敗です、けどよりにもよって試合の最終盤であんな大技を喰らうとは思っても見ませんでしたよ……ですが試合開始早々ならいざ知らず、最後の最後でアレが出来るなんて聞いてませんでしたが一体いつの間に?後それ以外にもまだ何かあるんじゃないですか?」
素直に負けを認めるエリカはラブが何をやったかについても凡その察しが付いていたが、彼女がAP-Girlsに一体何をどれだけ仕込んだか興味があったので探るようにカマを掛けてみた。
「え~?さっきのはお試しでやったらたまたまよ~?大体アレは昔からやってた事をちょっとアレンジしただけで、エリカさんが言う程大した事じゃないと思うんだけどな~?」
終始主導権を握られ苦肉の策で繰り出した大技である事はおくびにも出さず、ジッと探るような目で見つめるエリカ相手にラブはいつも通りの間延びした日本語でとぼけてみせる。
するとエリカも端からどうせラブの事だからまともに答えるはずもないと解っていたのか、必要以上にニコニコ顔でとぼけるおっぱい相手にスッと一つ肩を竦めるのだった。
「ところでラブ姉、一緒に帰ろうはいいけど私ら全員でLove Gunに乗れとでも?そんな窮屈なマネしなくてもじきに回収車が迎えに来ますよ……?」
「あ、だいじょぶだいじょぶ、心配しなくてもLove Gunで引っ張って行くから問題ないわよ~」
「はぁ?」
コマンダーキューポラの端っこに腰を降ろしてピタッと密着して来るラブ相手に、彼女のこの手の行為に慣れっこなエリカはこの為だけにわざわざラブがやって来た事に気が付き只々呆れていた。
しかしそうしている間に横付けしていたLove Gunはフラッグ車の前に回り込むと、操縦桿を握る香子以外のメンバー達が車載工具とワイヤーで手際良く両車を繋ぎ始め、呆れるエリカをよそに黒森峰の選手達も作業の輪に加わっていたのだった。
『何なのかしら?この全然違和感のない連帯感は……?』
いくら西住流と厳島流の関係性をそのまま反映しているとはいえ、両チームの選手達が共同で行う作業には淀みがなく彼女達の手際の良さと相まって連結作業はあっという間に終わっていた。
「さ、それじゃ帰ろっかエリカさん♪」
「……」
エリカに寄り添いご機嫌なラブが能天気にはしゃぎながら彼女の腕に自らの腕を絡ませると、それを合図に香子の無駄のないアクセルワークで動き出したLove Gunに曳かれ、二人を乗せた黒森峰のフラッグ車も大きく揺れる事もなくゆっくりと帰途に就いたのだった。
「あのバカタレが性懲りもなくあんなマネしやがって…あんだけ説教されたのにどうやら全然懲りてないようだな……次に会ったら今度は折檻してやるから覚悟しとけよ……」
学習能力がないのかはたまたドMな体質のせいか、説教を喰らった事も忘れて砲身で綱渡りを演じたラブの迂闊さにアンチョビはこめかみに怒りのバッテンを浮かべていた。
『う~ん…私の目にはアンツィオも相当無茶苦茶やってるように見えたけどなぁ……』
戦車道の王道を行く黒森峰の元隊長にして西住流の次期家元たるまほにすれば、ラブのデタラメもアンチョビのドタバタも大差はなく、ラブのやる事に一々アンチョビが目くじらを立てるのもイマイチ理解が出来なかった。
「ん?何だ西住……?」
「あ、イヤそのなんだ…16号戦にしちゃ結構試合時間が長かったし、そろそろ私達も大学に行かんとマズくないか……?」
「お、おう言われてみれば確かに……」
似た者同士な二人に対戦する度苦労して来たまほは、あまり宜しくない目付きで睨むアンチョビに思っていた事をそのまま口にする事はせず、時計を指差し難を逃れる道を選択していた。
だが、その場しのぎの言であっても内容自体は紛れもない事実だったので、時計に目をやったアンチョビも憑き物が落ちたように素に戻ると飲み干したコーヒーカップを片付け始めた。
「出かける支度は出来てるからいいとして、オイ安斎今日のお昼はどうする……?」
「あぁそれなら問題ない、朝ごはん作るついでに弁当を作っておいたからな、キャンパスに行って午後の講義の前に戦車道チームのクラブハウスで食べるとしよう」
「そうだったのか、さすが安斎は抜かりがないな」
日常生活全般要領のいいアンチョビのやる事は無駄はなく、女子力低めで黒森峰時代はその辺の一切合切をエリカに頼りきりだったまほは素直に感心する。
「何を当たり前の事で感心してやがる……それより今日は持ち出す資料が多いから車の方頼むぞ?」
「ああ解ってる、資料は私が纏めて運ぶから大丈夫だ」
学園艦暮らしに加えて試合の遠征で旅慣れている彼女達は、あれやこれやと話しながらも手を止める事はなく瞬く間に外出準備を整える。
「お~い西住、中継はタイマーで録画してるからもうテレビ切ってくれ~」
「了解だ……」
キッチンに用意してあった二人分の弁当をバッグに詰めるアンチョビに頼まれ、まほが手にしたリモコンでテレビを消そうとしたが彼女はそのまま固まったように画面に見入ってしまう。
「ありゃ?おいどうした西住……」
いつまでたっても音が消えず不審に思ったアンチョビがキッチンカウンターの陰から顔を出せば、まほはリモコンを持ったまま彫像と化したようにリビングに立ち尽くしていた。
「西住……?」
「…改めて見るとつくづくとんでもないな……まさかアレで本当に試合を決めるとは思わんかったよ……」
「あぁ……」
消すつもりだったテレビの画面には繰り返しLove Gunがウィニングショットをぶっ放した場面が流され、実況と解説が興奮気味にそれが如何に凄い事かを論じ合っていた。
「…この試合全国を見てた
「さあな…現役の連中は授業中か練習試合中だったりするだろうし、そもそもいくら黒森峰の試合と言ってもローカル試合だからちょっと見当も付かんなぁ……」
「そうか…でももし見ていればこの先対戦する可能性もある訳だから、結構な騒ぎになってるんじゃないかと思ってな……」
「そういう事か、でもラブの…というかAP-Girlsのバケモノぶりも大分知れ渡ってるはずだからそれ程騒ぎにならない気もするが……イヤ駄目だな、我々はラブの常軌を逸した強さに慣れちまってるからついそう思うが、今日のアレは昔を知らない連中に衝撃を与えるのに充分な結果だわな……」
ラブと彼女の率いるAP-Girlsの化け物ぶりをよく知る自分達から見ても、今日の試合結果は充分インパクトのあるものだったので、彼女達の存在を映像でしか知らない者達にとってはそれ以上の破壊力があったはずだとアンチョビは眉間に皺を寄せる。
「全くアイツは新年度早々堅気の戦車道選手を脅すような真似をして仕方のないヤツだ……」
「堅気ってオマエ……あ、イカン!マジでもう行かんと昼めし食う時間がなくなるぞ!」
「わ!しまった!スマン早く行くとしよう!」
慌ててまほがテレビを消して必要な荷物を纏めて抱え上げると、アンチョビも右に倣えでバッグを肩に背負い二人揃って大慌てでマンションを飛び出して行ったのであった。
改めて浮き彫りになるラブの怪物ぶりですが、
でもそれだけでは勝てないのが戦車道なんでしょうねぇ……。
次回はAP-Girlsの二期生達もちょこっと顔を出しますが、
やはりといいますか相当にクセが強いようですw