ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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月一投稿が常態化してしまいお待ちの読者の皆様には申し訳ない限りです。

上に立つ責任者は揃って悩みの種が尽きないようです。




第四十四話   it's a bothersome

 ラブの放った戦車道史上前例のない非常識な一撃で勝敗を決した16号戦。

 その衝撃的な結末に集まっていた観戦客は騒然となり、大型モニターに繰り返し映し出されるLove Gunが天に向けてウィニングショットを放った場面と、直上から降り注いだ徹甲弾が黒森峰のフラッグ車の機関部を貫いた瞬間のリプレイは場内の興奮に一層拍車を掛けていた。

 しかしその騒ぎもラブ達が帰還の途に就く頃になると徐々に落ち着きを取り戻し、昼時が近い事もあり飲食物の販売エリアが賑わい始めていたのだった。

 だがラブの後輩達が大挙して陣取るスタンドの一角だけは一般観戦客で埋まるスタンドとは違い、怒号と悲鳴が飛び交い騒ぎが一向に静まる気配がなかった。

 

 

「ぐぬぬ…ラブお姉ちゃんまた()()()()()()()に手を出してぇ……大体エリカさんもエリカさんだよ、ナニ嬉しそうに無駄にデッカイ乳押し付けられてデレデレしてんのよこの裏切り者ぉ!」

 

 

 機関部を撃ち抜かれ擱座した後、Love Gunに曳かれ帰投する黒森峰のフラッグ車の砲塔の上。

 自力走行が出来ずLove Gunに牽引されているとはいえ、車長であるエリカは試合中と変わらずそのままコマンダーキューポラに留まり続けていた。

 そして彼女が納まるコマンダーキューポラの縁に腰を降ろしたラブは、ピッタリとエリカに密着して上機嫌で全方位にユリユリなオーラを全力放射していたのだった。

 腕を絡めたり頬を寄せたりまるで猫がにおい付けでもするようにラブはその身を摺り寄せ、一方のエリカもまた満更でもなさそうに好きにさせていた。

 

 

「うき────────っ!私という者がありながらこの浮気者め!」

 

「うわ!?また西住さんが壊れたぞ!」

 

 

 ラブのお膝元横須賀での試合故に地元ケーブル局も彼女とAP-Girlsを常に追っていたので、試合終了後も彼女達のリアルタイムの中継映像が観戦エリアに流されていた。

 結果としてラブとエリカがフラッグ車の砲塔上でイチャコラする姿をみほも目の当たりにする事になり、密着状態で意味あり気に視線を交わす二人の姿に再び彼女は暴れ出したのであった。

 

 

「だ、駄目だ!完全にタガが外れてやがる!おらペコぉ!何お前だけ澤と一緒にコソコソ逃げようとしてんだ!?こっち来てサッサと手を貸さんかぁ!」

 

 

 近くに座っていたのが運の尽き、この日二度目のみほの暴走に巻き込まれたルクリリは、梓の手を引いてそっと戦線離脱を図るオレンジペコをどやし付け再び暴れ出したポンコツ怪獣を抑えにかかった。

 

 

「ぐぎぎぎ!またいやらしい流し目でデカ乳を押し付けてエリカさんをたぶらかす気ね!?」

 

「だぁ~!またなんちゅ~馬鹿力だ!私だけじゃどうにもならん!二人で早いトコ脚を押え込め!」

 

 

 みほ目線でなくともこれ見よがしに当て付けがましくユリユリする二人の戯れにまんまと乗せられ、完全に我を見失ったみほは鼻息も荒く嫉妬の重戦車と化し、もうウンザリだと思いながらもルクリリは隣で暴れ始めたポンコツを抑えに掛かった。

 

 

「おわ!?コラ!二人共もっとしっかりと抑えんかぁ!」

 

『何で私達が……』

 

 

 この機に乗じて二人だけの世界に逃避行(トンズラ)しようとした処を敢えなくルクリリに捕まった二人は、不満タラタラでドスドスと激しい震脚で床を踏み鳴らすみほの脚を抑え込む。

 

 

「よ、よし今だ!頼む西さん!」

 

「かしこまりぃ♪哈っ!」

 

 

 少しでも気を抜けば手綱を解いて暴れ出しそうな(みほ)を渾身の力で抑え込むルクリリは、歯を食いしばりながら絞り出した声で絹代に火力支援を要請した。

 すると軽やかな身のこなしですっくと立ち上がった絹代は、抜く手も見せぬ電光石火の早業でみほの鳩尾に掌底を叩き込み、今にも大噴火を起こしそうな阿蘇山状態にあったみほを一撃で黙らせた。

 

 

「ありがとう西さん助かった…ハア、無駄に疲れた……ったく乗っかるエリカもエリカだが、あの人は最初からこうなる事が解っててやってるんだからホントに質が悪いよ……」

 

 

 白目を剥いて糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちたみほを一瞥したルクリリは、心底疲れた顔で大きく肩を落としたまま軽く手を挙げ絹代に礼を言うと、大型モニターの中で未だエリカ相手にイチャつくラブを恨めし気に睨み付けるのだった。

 

 

 

 

 

「一同、礼!」

 

『ありがとうございました!』

 

 

 試合の運営責任者の亜美の号令一下、総勢50名の両校の選手達が一糸乱れぬ動きで一礼し、観戦客達から彼女達に向けて惜しみのない拍手が贈られる。

 戦闘中は互いに一切手を抜く事なく全力でがっぷり四つに組み合う両校だが、結果がどうであれ戦いが終わってしまえば関係が良好な選手達は握手を交わし互いを称え労を労い合っていた。

 

 

「あ~あ、今回は行けるかもって思ったんだけどなぁ…にしても今日のアレは見事にしてやられました……けどまぁラブ姉と試合するのは楽しいしホント退屈しませ────」

 

『お姉様方お疲れ様でした』

 

「は?」

 

 

 ラブと握手を交わした後に改めて彼女の怪獣ぶりに言及したエリカは、深い溜息と共に大袈裟な身振りで肩を竦めたがその目は楽しそうに笑っていたのだった。

 それが証拠に呆れた風を装いつつ素直に負けを認めた彼女は、ラブと戦う事が如何に楽しく充実した時間であるかを語ろうとしていた。

 しかし彼女が賞賛の言葉を口にしかけた処で、それを遮るようにラブ達と同じAP-Girlsのパンツァージャケット身に纏った一団が現れ、彼女達が声を揃えて口にしたフレーズにエリカは思わず間の抜けた声を洩らしてしまったのだった。

 

 

「ラブお姉様お疲れ様でした、どうぞこちらをお使い下さい」

 

「ら、ラブお姉ぇ様ぁ!?」

 

 

 まるでエリカの話の腰を折るようなタイミングで現れたのは他でもない笠女芸能科の新一年生、ラブ達にとって初めての後輩となるAP-Girlsのルーキー達だったが、先頭に立つ彼女達のリーダー格と思しき少女が発した止めの一撃にエリカの声は完全に裏返った。

 

 

「あ、アンタ達ぃ!どこぞの歌劇団じゃないんだからそれは止めろって再三言ったでしょ!」

 

「そういう訳にはまいりませんわ」

 

「だから!その紅茶キノコ(ダージリン)みたいな喋り方も止めなさいっての!」

 

 

 亜美の仕切りで行われた恒例の両校の挨拶終了後、選手以外の両校関係者の立ち入り規制が解除されるなり乱入して来たAP-Girlsのルーキー達は、キレるラブにお構いなしで涼し気な笑みを絶やさずお姉様を乱発しながら試合に参加した選手達にスポーツドリンクとタオルを配って回る。

 一体何処で何をどう勘違いしたのか、彼女達はAP-Girlsの二期生としてチーム入りすると同時にラブ達をお姉様呼ばわりし始め、例えラブがキレようが怒髪天を突いた夏妃が怒声を発しようがそれら一連のお嬢様的行動を止めようとしなかったのだ。

 そしてこれこそがテレビ観戦中に映った彼女達にまほが抱いた違和感の正体であり、目下ラブが抱える最大の悩みと頭痛の種であった。

 

 

「紅茶…何ですの……?キノコって喋る物でしたかしら……?」

 

「だぁぁぁ!この話の通じんひよっこがぁ!」

 

「ですから私はひよっこではなくひよこです、そこの処はお間違えのなきようお願い致しますわ」

 

 

 ブチギレ状態のラブの怒声も何処吹く風で全く動じる事なく彼女と渡り合う少女は、光の加減で虹色の輝きを放つ腰まで届く癖のないバイオレットの髪を風に揺らしている。

 初めは何が始まったのか事態が吞み込めず騒ぎを傍観していたエリカも、二人のやや噛み合わぬ掛け合いがエスカレートするにつれ徐々にだが状況が見え始めていた。

 笠女入学前から新一年生達が殿上人なラブに些かおかしな幻想を抱いていたらしい事は、彼女達の会話の端々からエリカにも読み取る事は出来たが、さすがに目の前でクセの強いAP-Girls相手にお姉様を連呼されては腹筋の忍耐力も限界だった。

 無論エリカも一筋縄で行かない新兵相手に頭を抱えるラブの事を笑うのは躊躇われたが、この腹筋の罰ゲームにも等しい奇襲攻撃にそんな彼女の配慮は通用しなかったのだ。

 

 

「お、お姉様…ラブお姉様……ぶ、ぶはははは!ちょ、止めて!もう無理ぃ!お腹痛いぃぃ!」

 

「うぇ、エリカさん!?」

 

 

 ラブとしても出来ればこの事は隠しておきたかったようだが、試合終了後彼女達がこのような行動に出るとは想定していなかったらしく、涙を流して爆笑するエリカの笑い声に絶望的な顔をしていた。

 実は前日の食事会の後に彼女達と交流の機会があった黒森峰の新兵達から、入隊後話に聞いていたAP-Girlsとは大分印象が違うと報告は上がって来てはいたが、エリカもまさかこっちの方向性だとは思いもしなかったのでその破壊力は絶大だった。

 そして彼女の我慢した分威力を増した爆笑が呼び水となり、それまで笑うまいとどうにかギリギリ持ち堪えて黒森峰の選手達の腹筋も遂に決壊し、瞬く間に笑いの激流に呑み込まれて行った。

 だが彼女達が笑っていられたのもほんの束の間の事で、超の付く美少女達が配り始めたスポーツタオルやドリンクと共にお姉様の矛先が自分達に向けられると、この手の事に免疫のない黒森峰故に全員洩れなく悶絶する破目に陥ったのであった。

 

 

「…またなんか始まった……」

 

 

 試合終了の挨拶の後、いつもであれば時間の許す限り参加選手とのお喋りに付き合う亜美だったが、突然始まったお姉様のデフレ状態に恐れをなした彼女は、エリカ達が犠牲になっているうちにそそくさとその場から逃げ出したていた。

 何しろ教導教官の立場にある彼女は現役選手達から最も慕われている大人であり、万が一逃げ遅れれば確実に自分もお姉様のターゲットにされるという自信があったのだ。

 そして彼女が何よりその事態を恐れたのは、もしそんな場面を運営本部で警備の指揮を執っている英子に見られでもしたら後々その事をネタにイジられるのは確実で、それだけは何としてでも避けたかったからだった。

 

 

『失敗した…こんな事になるならコイツら艦内で待機させとくんだった……』

 

 

 後悔先に立たず、止まる事を知らぬ嵐のようなお姉様のバーゲンセールに翻弄され余裕のないラブは、亜美が面倒な事になる前にコソコソとトンズラした事にも気付かなかった。

 

 

「アンタ達ね!マジいい加減それ止めなさいよ!」

 

「ですから再三申し上げている通りそういう訳には行きません……そんな事よりラブお姉様、いつまでもこうしていてはライブの時間がなくなってしまうのではありませんか?何よりホラ、観戦客の皆様もステージが始まるのを今か今かと待ち侘びていらっしゃいますよ?」

 

「ぐぬぬぬぬ…やっぱ人の話全然聞いちゃいねぇ……」

 

 

 ああ言えばこう言うでお嬢様学校ごっこを止める気配のない一年生相手に怒り心頭なラブだったが、自らひよこと名乗った美少女の言う事も事実だったので、後で覚えてろと捨て台詞を残して彼女同様ブチギレ状態なAP-Girlsを引き連れステージへと向かったのであった。

 肩を怒らせズカズカと荒い足取りでステージへと進むラブとAP-Girlsだったが、その背中は嘗て誰も見た事がない程疲れを滲ませていた。

 

 

「さ、それでは皆さん、黒森峰のお姉様方をステージ前までご案内致しましょう」

 

『は~い♪』

 

「だからそういうのを止めろって言ってんでしょうが!」

 

 

 言ってる傍からラブに注意された事をまるっと無視したひよこの音頭で、一年生達がお姉様扱いに身悶えるエリカ達をエスコートし始めると、とっくに尾の切れた堪忍袋を破裂させたラブはひよこの背中目掛けて空になったペットボトルを投げ付けた。

 だが彼女はそれを予測でもしていたのかのように後ろ手でペットボトルをキャッチすると、何事もなかったように笑い過ぎと悶絶で過呼吸を起こしかけているエリカを支えて立ち去っていた。

 

 

「さあエリカお姉様、遠慮なさらず私にお掴まり下さいませ」

 

「…も、もう許して……」

 

 

 地獄の波状攻撃に晒されすっかりライフを削られたエリカは、成す術もなくひよこに拉致されるとステージ下の最前列まで引き摺られて行ったのだった。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃ今度こそ本当に帰るとするか…あんまのんびりしているとまたラブ姉に捕まって過剰な接待を受ける事になり兼ねないからな……」

 

「ですな……但し私は先輩にひと言ご挨拶してから帰りますのでここで失礼致します」

 

「先輩?あぁ、あの人か……」

 

 

 撃破されたのがエリカのフラッグ車のみで試合終了後は全車早々に帰投した為、前座のステージこそなかったがAP-Girlsのミニライブは今日も大盛況のうちに終了していた。

 一応試合の偵察という事で校外活動申請をしている手前、試合終了後のライブまで見ていく事に一抹の後ろめたさを感じていたルクリリは、これ以上ここにいるのは得策ではないと帰り支度を始めていた。

 するとまたやらかしてすっかり小さくなっていたみほを始め各校の選手達も席を立ち、各々軽い雑談交じりに挨拶を交わして観戦スタンドの階段を降り始めていた。

 そんな中ルクリリの撤収宣言に最初に同意した絹代は、周囲に10度の敬礼をするとそのまま踵を返してスタンドの階段を下りて行った。

 絹代が立ち去り後に残されたルクリリは先輩と聞いて始めは誰の事かと首を捻ったが、直ぐにダージリン達が苦手とする黒髪の女傑の姿を思い出して成程と頷いて絹代の背中を見送ったのだった。

 

 

「う~む…最初はあの面倒な人達がビビるんだからどんな猛者かと思ったけど、私の印象じゃ豪快だけど話の解るいい先輩って印象だよなぁ……」

 

「そうねぇ、ウチのドゥーチェ(アンチョビ)もお姉さんみたいに慕ってて会うといつも機嫌良いのよね……」

 

「うぅ……」

 

 

 ラブの復帰後ダージリンとアッサムのお供で英子と何度か対面しているルクリリは、自身が体育会系寄りなせいか英子の竹を割ったような性格に好感を抱き、アンチョビから中学時代の経緯を聞かされていたカルパッチョも同様であった。

 だが暴走したまほが初対面の英子に一撃で伸された事件以降、まほ程極端ではないが彼女に対して未だ苦手意識を抱えるみほは一人だけ違う反応を示していた。

 

 

「っとイカン、こんなトコでいつまでもグダグダやってるとマジでラブ姉に捕まるからサッサと退散しよう」

 

「それじゃ私もペパロニの手伝いに行くからこれで……」

 

「タフだなぁ……」

 

 

 絹代に続いてカルパッチョが階段を降り始めると、それを合図に観戦に訪れていた全ての学校の選手達も帰途に付き始めたのだった。

 

 

 

 

 

「や、これは蝶野教官、先日は大変お世話になりました」

 

『少しやつれたか……』

 

 

 帰投前に英子の下にひと言挨拶をと訪れた絹代は、運営本部のある記念艦三笠の後部甲板へと続くラッタルを登り切った所で、おかしな事に巻き込まれぬようラブの前から逃げ出して来た亜美と鉢合わせするなり45度腰を折る最敬礼をしていた。

 それは傍から見ればやや大げさに過ぎる挨拶だった。

 だが絹代にすれば大袈裟でも何でもない至極当然な礼儀であった。

 何故なら昨年度末前代未聞の事態に直面し孤軍奮闘していた彼女を、英子の名を引き合いに出して救ったのが他ならぬ亜美であったからだった。

 全国大会の舞台で黒森峰相手に屈辱的且つ歴史的な大敗を喫し、その責任を問われた先代隊長辻つつじが任半ばで更迭されて以降、それを良しとせぬ旧弊な思考の彼女の一部シンパ達は事ある毎に陰で後任の絹代の足を引っ張り続けていた。

 そのシンパ達はそれでもへこたれずに改革を推し進める絹代に不満を募らせた挙句、よりにもよって自分達が卒業する直前に何を今更な失地回復を図り、武装蜂起も辞さぬ覚悟と気勢を上げ学園内には非常にきな臭い空気が充満する事態に陥っていたのだった。

 そしていよいよ武力による制圧もやむなしという危機的状況に絹代が追い詰められたタイミングで、英子の要請を受け単身知波単に乗り込んだ亜美が伝家の宝刀上総の大猪の二つ名を振るい、暴発寸前の跳ねっかえり達を一太刀で薙ぎ払ったのだ。

 事態の鎮圧後互いに忙しく顔を合わせる機会もなかったので、改めて最敬礼で礼を尽くす絹代と頼れるお姉さんらしく労を労う亜美。

 しかし亜美とにこやかに談笑する絹代の頬に僅かながら影が残るのを見逃さなかった英子は、自分が残して来た負の遺産が彼女を窮地に追いやった事に自責の念を抱いていた。

 だが一方で絹代からすれば英子は尊敬すべき偉大な先輩である事に代わりはなく、彼女の二つ名が軽挙妄動に出ようとする辻のシンパ達を抑え込み、クーデターを未然に防いだ事実は最敬礼でも足りぬ功績であったのだ。

 

 

「ご無沙汰しております敷島殿、話には伺っておりましたがこの16号戦というのは実に面白い試合でありますな……かく言う私も観戦しているうちにすっかりその気になってしまいました」

 

「そうかその気になったか…なんだかんだ言ってもやはりお前も根っからの戦車乗りなのだな……まぁその気持ちはよく解る……正直私も昔を思い出して血が騒いだからな」

 

「おお!そうでありましたか♪」

 

 

 彼女を苦境に立たせた主な要因が自分にあると内心後ろめたさを抱く英子に比べ、敬愛する先輩を前に絹代は屈託のない笑みを浮かべ嬉しそうにしている。

 

 

『全く…何故そうも笑顔でいられる……いっそ責められた方がまだ楽かも知れんな……』

 

 

 胸の内に抱えた思いを言葉にする事なく、英子はニコニコと笑みを絶やさぬ絹代の頭をひと撫でする。

 すると絹代は主に撫でられ尻尾を大きく振る忠犬宜しくニコニコをパワーアップさせ、その眩し過ぎる笑顔に英子も思わず苦笑を洩らすのだった。

 

 

「ふっ…お前には敵わんな……そういえば絹代、今日はジャイロ(カ号観測機)で来たようだがやっと直ったのか?確か交換部品集めに相当難儀していたはずだが……?」

 

「はい、何分古い機体な上需要もなくパーツも滅多に出回らないのはご存じの通りですが、中古市場を中心に片っ端から業者を漁り回って何とか…ただそれでもどうにもならないパーツも多々ありまして、その辺はジャンク品を切った貼ったで誤魔化しました……まあそんな訳で未だ完調には程遠く、お陰で今日も危うく江ノ島沖から遠泳する羽目になる処でした」

 

「そうか…ま~アレに乗ってると一回や二回は海水浴させられるからなぁ……だからカ号で出掛ける時は予め下に水着を着ておくと面倒がないぞ?」

 

 

 行き過ぎた質素倹約が原因で要らぬ苦労の経験値を稼ぐうちに、知波単の出身者はすっかりそれが当たり前の事だと思うようになるのか多少の事では動じない性格となり、時折耳を疑いたくなるような事を平気で口走る傾向があった。

 

 

「はっ!その辺は抜かりなくホレこの通りであります!」

 

 

 英子の話しぶりからどうやら知波単所有のオートジャイロが落っこちるのはよくある事のようで、彼女は事もなげに経験に基づくアドバイスを絹代に送っていた。

 するとそれを聞いた絹代もしゃっちょこばって敬礼したと思うと、突然制服の胸元をはだけてその下に着用していた水着を誇らしげに誇示していた。

 彼女の中々けしからんサイズに発育した胸の膨らみを抑圧するそれは、最近ではあまりお目に掛からなくなって来た些か古臭いデザインのスクール水着で、膨らみ部分に縫い付けられた木綿の白い布には油性ペンでデカデカと彼女のフルネームが書き込まれていたのだった。

 

 

「おお、中々用意が良いではないか」

 

「はっ!カ号の海ポチャは整備班の先輩方からよくある事だと常々聞かされておりましたので、搭乗する際は必ず水着を着用するよう心掛けております!」

 

「成程そうであったか、備えあれば患いなし、それは実に良い心掛けだ」

 

「は!お褒めに与り光栄であります!」

 

「ちょ────────っ!西さんダメ────────────っ!」

 

 

 初めのうちこそごく普通の先輩後輩のやりとりと暖かく見守っていた亜美であったが、例え水着を着用しているとはいえいきなり絹代が胸元を晒した挙句、英子と危険極まりない話を何でもない世間話のように始めた途端、我に返った彼女は慌てて自分の上着を脱いで絹代の上半身を覆い隠していた。

 

 

「英子────っ!アンタ何やってんの!このおバカ!」

 

 

 いくら勇猛果敢さで名を馳せる知波単とはいえ絹代は未成年の女子高生であり、その少女らしからぬ無頓着ぶりに仰天した亜美は彼女の奇行を止めもしない英子をフルボリュームで罵倒していた。

 

 

「な、ナニを怒っているのだ……?」

 

「さ、さぁ……」

 

 

 幸いな事に運営本部に彼女達以外の人影はなかったとはいえ、突然現役女子高生の絹代がストリップを始めた事に驚いた亜美は、呪詛のような呟きを洩らしながら苦しそうに肩で息をしていたのだった。

 

 

「こ、これだから知波単の脳筋体質は嫌なのよ……」

 

 

 




遂にAP-Girlsのルーキー達が登場しましたがやはり相当アクが強いようでw
今後もラブはこの問題児達に振り回されるんでしょうねww

何処かから絹代さんのスク水フィギアとか出ないかな?
私ももうさすがにフルスクラッチするような気力も時間もありませんw
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