ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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最近すっかりお待たせし過ぎな状態が続いて本当に申し訳ないです。

兎角奇行の目立つラブは今回も全力でおバカです。


第四十九話   転・校・生

「厳島恋さん」

 

「ハ~イ♪」

 

 

 私立三笠女子学園芸能科歌唱部2年A組の教室に、朝のショートホームルームで出席を取るクラス担任にその名を呼ばれたラブの能天気且つ元気なお返事の声が響く。

 

 

「逸見さん……逸見エリカさん?」

 

「…はい……」

 

 

 五十音順に出席を取って行くクラス担任にラブに続いてその名を呼ばれたが、冷凍された魚より目の死んだエリカは直ぐに返事をせず、改めて問うような声音で名を呼ばれて漸く重い口を開き沈鬱な声で返事をしたのだった。

 だがそもそも何故三年生の彼女が黒森峰ではなく笠女の制服を着た上、まだ二年生のAP-Girlsが属する芸能科の教室でラブの隣で机を並べているのか。

 普通であればこの不条理な状況にヒソヒソ声の一つも聴こえて来そうなものだが、彼女以外この教室にいる者達が極自然に振る舞っていたので何故このような事になったのか一切が不明だった。

 

 

「…どーしてこーなった……」

 

 

 超ご機嫌なラブとは対照的に能面のような表情の欠落した顔でぼそりと呟きを洩らしたエリカは、緩慢な動作で首を振り教室内に視線を彷徨わせている。

 本来最上級生として黒森峰の隊長を務める彼女が笠女の桜色のブレザーに袖を通している理由。

 それを知るには前日の夜まで時間を遡る必要があった。

 

 

 

 

 

『…ホント私ら呑気にこんな事やってていいのかしら……?』

 

 

 新曲あり新衣装あり新演出ありで至れり尽くせりなAP-Girlsのライブ終了後、いくらそれが洩れなく付いて来るのが最初から解っていた上で自ら仕掛けた試合とはいえ、いざラブ達の過剰なまでの接待攻勢を受けるとさすがのエリカも何とも言えぬ心苦しさを感じていたのだった。

 だが目玉であるライブの舞台がハネればイベントの全日程が終了した事になるので、漸く好き放題するラブから解放されるとエリカは安堵もしていた。

 とはいえ迂闊にそれを口にすればロクな事にならないので表向きは平静を装ったエリカは、チームメイト達と共にAP-Girlsの楽屋を訪れ出港前に別れの挨拶を済ませようとしていた。

 

 

「それじゃラブ姉また────」

 

「イヤイヤイヤ!何言っちゃってるのエリカさん!」

 

「…今度はなんです……?」

 

 

 16号戦の為に急遽予定を変更し強行軍で横須賀に進路を取ったエリカは、全てのイベント終了後は早々に出港して本来の航路に復航し遅れを取り戻すつもりだった。

 横須賀に進路を取った当初からそう予定していたエリカが出港前の挨拶を口にしかけた途端、速射砲トークでそれを遮ったラブは昨夜と同じセリフを吐きエリカの眉間に深い縦皺が入った。

 

 

「なにってエリカさん、新任の隊長を集めて新年度のルールとレギュレーションの説明会を兼ねた顔合わせがあるのは次の週末よ?ど~せ東京の連盟本部に行かなきゃいけないのに、何もわざわざ今直ぐに横須賀から離れなくてもい~んじゃない?後何日でもないんだから週末までここにいて、当日は私と一緒に行きましょうよ♪」

 

「ハァ…あのですねラブ姉……」

 

 

 確かに連盟本部で戦車道を履修する全ての高校の隊長が一度に会し、新年度のルールとレギュレーションブックの配布及び説明会が次の週末にある事はエリカも当然承知していた。

 そして彼女達にとって隊長に就任後初となる顔合わせの場であり、ライバル校同士水面下での戦いが始まる舞台である事も充分に理解していた。

 しかし次の寄港地に向けて航行する間は普通に授業もあるし、寄港先での練習試合に向けて準備を始め隊長としてやらねばならぬ仕事は山程あった。

 なので当然彼女も出港後は学業と隊長の職務をこなしつつ、当日間に合うよう自らドラッヘの操縦桿を握るつもりでスケージュールを立てていたのだ。

 ところが残念ながらがそんな彼女の思惑などお構いなしなラブは、このままエリカのみを横須賀に留め置き当日までキャッキャウフフな時間を過ごす気満々だった。

 そんなラブのニコニコ顔とお花畑なオツムが生み出したロクでもない思い付きに頭痛を覚えたエリカは、その痛みを堪えて子供にでも解るよう噛んで含めるように説明しようとした。

 

 

「なーに?何か問題ある?あぁ、当日の駐機場の事なら心配しなくてもいいわ、私説明会でちょこっと家元のお仕事もあるから関係者の区画に降りられるのよ。まぁそんな訳だからエリカさんは大船に乗ったつもりで私と一緒にオスプレイで飛んでけばいいのよ~♪」

 

「何が大船よ…どう考えたって戦艦大和サイズの泥船じゃない……」

 

「エリちゃん何か言った?」

 

 

 人の話を全く聞かず大風呂敷を広げるラブの勝手な振舞いにぼやくエリカだが、こういう時だけ耳が良くなる目の前の大乳女に彼女もいい加減苛立ちを隠せなかった。

 

 

「いーえなんでもないです!そんな事より他にも問題はいっぱいあるでしょうが!そもそもラブ姉は簡単に横須賀に残れって言いますけどね、笠女の学園艦だって出港しなきゃいけないんじゃないんですか?」

 

「なんだそんな事~?それなら全然平気よ、エリカさんだってウチの艦の船足の速さは知ってるでしょ?いざとなったら奥の手使ってパワーボートみたいにぶっ飛んで行けるからの~ぷろぶれむよ~♪」

 

 

 自分が16号戦の一番槍の栄誉を得る為に周到に準備をした上で奇襲を仕掛けた結果、笠女学園艦の出港が当初予定より遅れているのを棚に上げたエリカは、そんなにのんびりしている暇はあるのかと強い口調で呑気なラブ責め立てた。

 しかしそれでも一向に堪えた素振りも見せぬラブは、事も無げに危険極まりない乗り物を例えに出して問題なしだと言い張る。

 

 

「だからそういう事を言ってるんじゃありません!つーかそんな傍迷惑なマネは止めて下さい!引き波で辺り一帯航行不能海域にする気ですか!?」

 

 

 昨年度行われた六連戦の際に笠女学園艦が見せ付けた驚異の快速ぶりは、エリカ達当事者にとってはまだまだ記憶に新しい処であった。

 ところが事もなげに更に上があると言う間延びしたラブの声に、その化け物じみた船足の速さが引き起こすであろう天災レベルの恐ろしい事態にエリカは血相を変えた。

 

 

「人を台風みたいに言わないでくれる……?その手の問題もウチの艦は対策済みだから大丈夫よ?」

 

 

 現在就航している学園艦の中にあっても最新鋭の笠女の学園艦は、確かに他の追随を一切許さぬ比類なき化け物的スペックを誇っていたが、今のエリカには彼女の言葉を額面通りに受け取れる程精神的な余裕を微塵も持ち合わせてはいなかった。

 

 

「ったくああ言えばこう言う…いいですかラブ姉、私の言う事をよく聞いて下さい……まずですね、説明会までの間に私だって普通に授業があるんですよ。私ももう三年生で大学受験が控えてますから、新学期早々授業をサボる訳に行かないんです。それに何より隊長としてやらきゃいけない仕事だって山積みで……その辺の事情お解り頂けますか?」

 

 

 ここで隙を見せれば負けとばかりラブのエメラルドの瞳をキッと見据えながら、エリカは至極真っ当な理由を並べて横須賀に残れぬ事を説明する。

 

 

「またまたぁ、エリカさんの実力と学力なら何処の大学だって特待の推薦で余裕でしょ~?大体さ~、猛者揃いの黒森峰なら日頃の演習の指揮官役なんてそれこそゴロゴロしてるんじゃないの~?」

 

「だからそういう問題じゃありません!」

 

 

 まさに彼女のボヤいた通りああ言えばこう言うラブはヘラヘラと楽観的な事を言い、その態度にカッと来たエリカはつい声を荒げて目の前の厄介者を怒鳴り付けた。

 だが実際エリカの学力は常に上位をキープし続けていたのは事実であり、それに加えて戦車道でも隊長を任されるだけの実力を有しているので、進学先の選択肢はラブの言うように超売り手市場の選り取り見取りの選びたい放題だった。

 事実彼女の下には全国の大学戦車道の有力校からのオファーが日を追う毎に増え始め、進路指導の教員からもその事で頻繁に声を掛けられていた。

 そして更に付け加えるなら、遂にスタートするプロリーグの参戦する各チームのスカウト達も当然のように彼女の動向を注視していたので、ラブの指摘通りエリカの進路は前途洋々と言っても差し支えなかった。

 尚、彼女のパートナーであるみほの進路問題に関して付け加えておくと、西住のネームバリューに加え素人集団&ポンコツ戦車しかない無名の大洗を率いて名だたる強豪校を立て続けに打ち破り、全国の頂点まで一気に上り詰めた実績と、その後の大学選抜戦でも見事金星を挙げた快挙は進路を選ぶ上で申し分のない切り札だった。

 確かにその点だけを見れば彼女の進路も順風満帆であったが、如何せん()()()()()であった事が災いし学力面でやや難があり、それがエリカとしほにとって頭痛の種であった。

 

 

「あ~それならな~んも無問題よ~、当日までウチに短期留学する事で話は付いてるからね~。それで出席日数も単位もおっけ~だって黒森峰の教務課の言質も取ってるから、エリカさんは安心して私と一緒にいればい~の♪」

 

「はぁ!?」

 

 

 これ以上は付き合い切れぬと強い態度で押し切り何としても帰るつもりのエリカであったが、ラブの放り投げたM24型柄付手榴弾(ジャガイモ潰し)の破壊力に彼女の顎はガクンと落ちていた。

 

 

「い、いいい今なんて言いました!?」

 

「え~?今言った通りだけど聞いてなかったの~?」

 

 

 幼少期に主言語が英語と日本語で逆転して以降、ラブの日本語は脳内で英語からの翻訳時間が発生する分タイムラグが生じ、その結果として話口調も何処か間延びしたものになっていた。

 その少々おかしな日本語は何でもない時なら面白く彼女のチャームポイントの一つになっていたが、状況によっては相手を苛立たせるだけのマイナス要素でもあった。

 残念ながら今回の場合彼女の変な日本語は間違いなく後者であり、エリカのこめかみの辺りには血管が浮かび上がり怒りにピクピクと脈打っていた。

 

 

「んな事解ってます!さっきも言った通り私は三年生ですよ!なのに何が悲しゅーて一、二年生しかいない笠女に留学せにゃならんのですか!?」

 

 

 これが後輩達の話であればいざ知らず、三年生である自分が()()()()()のラブと机を並べなければならないと知るや、そのあまりにもデタラメ過ぎる展開にエリカの堪忍袋の緒は千切れ飛んだのだった。

 

 

「私と一緒にいるの、そんなにイヤ……?」

 

「イヤです!!」

 

「エェッ!?」

 

 

 もし今ここで見え透いた小芝居に流されて少しでも甘い顔をしてしまえば、それは彼女の思う壺だと長年の経験で嫌という程身に染みているエリカは間髪入れずに即答でNoを突き付け拒否の姿勢を示し、断られるとは微塵も思っていなかったラブは激しくショックを受ける。

 

 

「あぁもう!ウチの教務課も教務課よ!一体何考えてんのよ!?」

 

 

 しかし少女漫画的に白目になってショックを受けるラブを無視したエリカは、その怒りの矛先を黒森峰の教務課に向け鼻息も荒くヘイトを吐き出していた。

 

 

「ヒドイわエリカさん…折角エリカさんの為にこうして制服とパンジャケ用意しておいたのに……」

 

「…いつの間に……」

 

 

 キレて取り付く島もないエリカに今度は得意の涙目でいじけたふりをするラブは、心底失望したような顔で笠女の制服とパンジャケを着たトルソーを引き寄せて見せた。

 一体何処に隠してあったのか突然出現した二体のトルソーに驚き呆れたエリカは、猫だましでも喰らったように怒りを忘れ自分用に仕立てられた制服とパンツァージャケットをぼんやりと眺めていた。

 だが直ぐにそんな彼女の意識を現実に引き戻すかのように癇に障る笑い声が響き、それで我に返ったエリカは声のする方へと鋭い視線を走らせた。

 すると声の主は待っていましたとばかりに大袈裟な身振りを交え、ジト目のエリカを煽り始めた。

 

 

「アハハハハ♪エリ姉、アナタは売られたのよ笠女に!明日からはソレを着て一兵卒として戦車に乗るの……そうAP-Girlsの新入りとしてね!エリ姉はもう黒森峰の隊長逸見エリカじゃないの、AP-Girlsの新入りメンバー逸見エリカなのよ!アハハハハ♪ホント傑作だわ!」

 

 

  窮地に陥るエリカの姿に茶々を入れたい衝動を抑え切れなくなったお調子者の凛々子は、ラブが黒森峰に放り込まれた際に放ったセリフをまんま使い回して彼女を煽っていたのだ。

 だがラブ程優しくないエリカは馬鹿笑いする凛々子の背後に素早く回り込むと、一切の手加減なしにフルパワーで彼女の頭を締め上げたのだった。

 

 

「イダダダダダ!何すんのよエリ姉!痛い!痛いからヤメてぇ!」

 

「雉も鳴かずば撃たれまいにって諺知ってる凛々子……?」

 

 

 身から出た錆といえばそれまでだが、ゴリゴリと頭にめり込むエリカの硬い拳に凛々子は悲鳴を上げる。

 しかしその程度でエリカが口の軽い凛々子を許すはずもなく、彼女がガチで泣きながら許しを請うまで拳による拷問は終わらなかった。

 

 

「バカだおめぇは……」

 

 

 凛々子が調子に乗るのはいつもの事だが相手がラブならいざ知らず、エリカ相手に馬鹿をやった挙句締め上げられて痛い目を見る彼女の愚かさに夏妃は只々呆れるだけだった。

 

 

 

 

 

「オホホ♪それじゃお話もまとまったようなので私達はこれで……」

 

「待てぃ!」

 

 

 ラブ相手に型に填められたエリカが詰んだと見るや、面倒に巻き込まれる前に速攻でケツを捲ろうとした小梅達であったが、怒り心頭なエリカがそう易々と彼女達の逃亡を許すはずもなく、クルリと回れ右をしてフェードアウトしようとする小梅の制服の襟をガッと掴み力任せに引き寄せたのだった。

 

 

「ざっけんじゃないわよ!面倒な事は全部私に押し付けて、自分達だけサッサとズラかろうとかいい根性してんじゃないの!」

 

 

 捕まえた小梅にヘッドロックを掛け逃げられぬよう締め上げながら、エリカはドスの効いた声でジタバタ暴れる小梅に脅し文句を叩き付けた。

 

 

「イタタ痛いよエリカさん!ちょっと落ち着いて私の話を聞いてぇ!」

 

「ハァ!?この期に及んでなんだってのよ!?」

 

 

 手加減なしに頭を締め付けられ痛がる小梅は、ギブアップの印にエリカの腕をトントンと数回タップして怒れる魔人の説得を試みる。

 

 

「…あぁ痛かった……」

 

「でっ!?」

 

 

 それから暫くして何とかヘッドロックの苦痛からは解放されたものの、今度は両手で胸倉を掴まれゼロ距離で凄まれた小梅は急ぎ取り繕うようにエリカを宥めようとした。

 

 

「まぁまぁエリカさん……」

 

「何がまぁまぁよ!あんな制服とパンジャケまで用意してあるって事はアンタ達最初っからラブ姉と結託してたんでしょうが!」

 

 

 昨夜の事だけならまだ突発的なラブの思い付きによる傍迷惑なアクシデントで済ます事も出来たが、こうして制服とパンジャケまで用意されている以上は、自分の与り知らぬ処で何がしかの密約が取り交わされいたであろう事は誰にでも容易に予想が付く事だった。

 つい今しがた締め上げた凛々子に言われるまでもなくその事に気付いていたエリカは、ラブに唆され言われるまま加担したであろう小梅を怒りに任せて責め立てた。

 しかし日頃は控えめであまり自分から何か意見する事のない小梅が、まるでエリカを丸め込もうとでもするように思いもよらぬ事を小声で口走ったのだった。

 

 

『ねぇエリカさん、これはAP-Girls内情を探るいい機会だと思いませんか?』

 

『何ですって……?』

 

 

 いつもなら気圧されて一歩引いてしまう小梅だったが、どういう訳か今日に限っては逃げる素振りを見せず、予想外の反応に戸惑うエリカもつい彼女の問いに小声で応じていた。

 

 

『え~っと…短期とはいえ留学する以上は当然戦車道の訓練にも参加する事になりますよね……?多分ラブ姉の事だから例えエリカさんがいても、隠し事なんかせずいつも通り訓練するんじゃないかと思うんですよ……これまでAP-Girlsとの対戦データを収集する機会は何度かありましたけど、彼女達が日頃どんな訓練をしてるかまで探る事はなかったですよね?』

 

『……』

 

『それとあの相当クセの強そうな二期生の子達…彼女達の実力とか何もかもがまだ一切が不明……そういう意味でも今回のエリカさんの留学はですね、私達がまだ知らないAP-Girlsの真の姿を知る絶好のチャンスだと思うんですけどどうでしょう……?』

 

『小梅アンタ……』

 

 

 エリカにしてみればその提案ははあまりに想定外、驚きを隠せない彼女は無言で先を促し話を聞いて貰えると解りホッとした小梅は自らの思う処を語り始めた。

 すると小梅の目論見を知ったエリカは大人しい彼女らしくない腹黒さに険しかった目を丸くし、やはり何だかんだでコイツも黒森峰の人間だと妙な処で納得してしまったのだった。

 黒森峰を筆頭にラブと係わりのある者達の間では、例え戦車道のルール上認められているとしても笠女相手にスパイ活動を行うのは愚行であるというのが共通の認識だったので、短期とはいえ学校公認で笠女に潜り込めるのは小梅の言う通り絶好のチャンスであるのは間違いなかった。

 

 

『今年の全国大会、AP-Girlsは間違いなく上位に進出して来るとエリカさんだって思ってるんでしょ?なら尚の事この短期留学を承諾して少しでも多く情報収集して来て貰えませんか?』

 

『…それ本気で言ってる……?』

 

『勿論です』

 

 

 驚くエリカにここが勝負の為所とばかりに小梅がダメを押し、彼女の黒森峰的に見て至極真っ当な言い分に逆にエリカは不信感を抱いた。

 更には打てば響くで返ってきた答えがより一層怪しさを増し、すっかり疑い深くなったエリカは胡乱な目付きで小梅を睨み付けたが、彼女は尚も臆する事はなく負けじとダメ押しの上積みをするのだった。

 

 

『どうですエリカさん、エリカさん相手ならラブ姉も気が緩んで情報収集もやり易いんじゃないんですか?何しろエリカさんはラブ姉一番お気に入りの後輩でしょ?もうこればっかりは私達じゃどう足掻いても太刀打ち出来ないですからねぇ……♡』

 

『…ヤメて……』

 

 

 これまでラブの重過ぎる愛情を一身に浴びて来たエリカは、小梅にやたら調子よくヨイショされるとこれ以上何かされるのは御免だと顔に縦線を入れる。

 

 

『まぁ冗談はともかくエリカさんにAP-Girlsの裏側を探って来て欲しいのは本当ですよ?実際あの子達もエリカさんには一番懐いてますからね、だからこれは千載一遇の好機到来だと思ってまだ私達の知らない彼女達の一面を探って来て貰えませんか?』

 

『ああもう、そこまで言うならしょうがないわね…けどアンタいつからそんな腹黒くなったのよ……?』

 

 

 エリカとしては小梅に易々と丸め込まれるのは甚だ不本意だったが彼女の言う事は一理あり、渋々ながらも今回の短期留学という名目の生贄役を受け入れる事にした。

 

 

「話は纏まった~?」

 

「や…ラブ姉!暑苦しいから引っ付かないでって……嗅ぐなぁ!」

 

 

 二人のヒソヒソ話が終わったと見るやまだステージ衣装から着替えてもいないラブは、そっとエリカの背後に立つとそのまま彼女をギュッと抱き締めうなじの辺りをクンカクンカし始めた。

 

 

『そ、それじゃ私達はこれで────!』

 

「あ!アンタ達っやっぱり!待ちなさい!帰ったらマジ覚えときなさいよ!」

 

 

 ほぼ入れ食いで生贄(エリカ)に喰い付くと小梅達は即座にその場から逃げ出し、ラブの吐息に身悶えていたエリカは逃げるチームメイトの背中に罵声を浴びせた。

 かくしてこの瞬間なし崩しに笠女への短期留学が決定したエリカは、背後から抱き着くラブのたわわの感触に先が思いやられ目の前が真っ暗になっていた。

 

 

 

 

 

「ったくアイツらいつの間に私のスリーサイズ洩らしやがったのよ……」

 

 

 ショートホームルームの終了後一限目の授業が始まるまでの間、一応それに備えて筆記用具を用意していたエリカはジャストサイズの制服の着心地の良さに忌々し気に悪態を吐いていた。

 

 

「うふふ♡出席番号近いのね♪」

 

「ん?あぁ、そうですね……」

 

 

 昨夜の茶番に加えピッタリに誂えられた着心地の良い制服に苛立ちを募らせたエリカは、隣の席でご機嫌なラブの声にもどこか上の空で応じていた。

 

 

「逸見エリカさんかぁ……素敵なお名前ね♡」

 

「はぁ?ラブ姉今更何を言って────」

 

「私の名前は恋…厳島恋よ……クラスメイトからはラブって呼ばれてるわ、宜しくね逸見さん♪」

 

 

 彼女の奇行に慣れているエリカも突然何を言い出すやらと考え事を止めて口を挿みかけたが、それを遮るようにラブは今更な自己紹介を始めてエリカを不審がらせる。

 

 

「教科書まだ貰ってないのね、いいわ私の見せてあげるね~♪」

 

 

 だが一方的に喋り続けるラブはエリカの返事も待たずにガタガタと机と椅子を移動すると、並べた机の真ん中に開いた教科書を置いて自分の肩をエリカの肩にピタリと密着させたのだった。

 

 

『ダァァァ────ッ!メンドクセェ────ッ!何始めたかと思えばこのおっぱい、転校生と気さくなクラスメイトごっこ始めやがったわ!』

 

 

 今度は一体何を始めたのかと警戒したエリカであったが、それが実にしょうもない子供じみたごっこ遊びだと解った途端、心の中で悲鳴を上げながら抱えた頭を机に打ち付けゴンッと鈍い音を立てていた。

 

 

「あらどうかしたの?逸見さんって面白い人ね~♪」

 

 

 机に突っ伏し呻くエリカの背中に一人楽し気なラブはノリノリで能天気な声を掛け、その三文芝居に耐え切れなくなったエリカはガバッと跳ね起きるとラブの反対隣りに座る愛を何とかしろと睨み付けた。

 ところが彼女の視線を感じた途端愛はスッと顔を背け我関せずを決め込み、その態度に驚いたエリカは絶句してキョロキョロと教室中に視線を走らせた。

 するとそれまで何食わぬ顔で雑談に興じていたAP-Girlsのメンバー達は、一斉に回避機動でエリカの視線を躱して露骨に気付かぬふりをして彼女を見捨てたのだった。

 

 

「こ、コイツらぁ……」

 

 

 エリカがラブの隣にいれば自分達は面倒なおっぱいから解放される。

 鋭い嗅覚で敏感にそれを嗅ぎ付けた彼女達は、エリカが留学中ラブに関する厄介事一切合切を丸投げするつもりだったが、エリカもまたその目論見を見抜き怒りのあまり口元を引き攣らせていた。

 

 

「あ、先生が来たわ、今日の一限目は私の大好きなさんすうなのよね~♪」

 

「…算数……」

 

 

 AP-Girlsの非道ぶりに何か言おうと腰を浮かしかけたエリカであったが、ラブの能天気で間延びしたアホの子なセリフにガックリと肩を落とし再び机に突っ伏したのであった。

 

 

「やっぱり逸見さんって面白い人ね~♪」

 

「……」

 

 

 頭の上から降りかかるラブの猿芝居丸出しな声にエリカは言葉を失い、机に顔を埋めたまま虚しい気分で授業開始の本鈴を聴いていた。

 

 

 




手術後長時間座っていられない状態が続き執筆にも影響が出るのは避けられず、ソファ
ーに横になってタブレットでの執筆も試みましたが芳しい結果は出ませんでした。
やはりこういうのは日柄モノで気長にやるしかないんでしょうかね……。

エリカを笠女に放り込むのはいつがいいか連載開始前からずっと考えていましたが、16号戦の直後に決まったのはまほ達の卒業エピソードを書いていた頃でした。
あまり後にすると全国大会も始まるしこの後に続くネタとの繋がりから考えても、このタイミングが一番ベストだと思ってます。
エリカ留学編はアホなネタてんこ盛りなので、その辺楽しんで貰えたらいいのですが。
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