ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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第二章最大の山場かな?ちょっと尺も長めです。

重いですがその分楽しんで頂けたら…。


第十四話   闇の底より

「あい~、ドコ行ってたの~?」

 

夏妃(なつき)達が大きなお風呂に入りたいって騒いでたから…」

 

「……ごめん…」

 

「いいの、それで凜々子(りりこ)が大洗の西住隊長にお願いして私達の貸し切りにして貰ったって」

 

「え!?でも……」

 

「私達しかいないわ、スーパースタリオンも準備してるから恋も仕度して」

 

「うん…うん!」

 

 

 愛がラブを巧く大洗に入浴に行くべく誘導していた頃、一行は既に大洗の学園艦に到着しており、愛に連絡を入れ警戒されてもまずいので、一番落ち着いていそうな鈴鹿(すずか)に到着したむねのメールを送っていた。

 

 

「みんな…ありがと……」

 

「いや、アタイもいい加減広い風呂入りたかったし」

 

「ウチの大浴場いつになったら使えるようになるのかしら?」

 

 

 凜々子(りりこ)の疑問にラブも難しい顔で答える。

 

 

「ん~、亜梨亜ママはあとひと月位掛かるって言ってたけど…」

 

「この学園艦小さいのに色々詰め込み過ぎよね」

 

「そだね…まあ色々前倒しして見切り発車だったしねぇ」

 

 

 凜々子の指摘にラブも困った笑みで答えるしかない。

 ああだこうだ言いながらAP-Girlsのメンバーもスーパースタリオンに搭乗し、一路大洗の学園艦に向け夜空に舞い上がって行った。

 一方アンチョビも離艦した旨のメールを受け取ると、自分の両頬をピシャリと叩き気合を入れる。

 

 

「ラブ達も艦を離れた、もう直ぐにも到着するぞ、我々も仕度をしよう」

 

「大丈夫かな…?」

 

「みほ?」

 

 

 不安になって来たのかみほの小さな呟きにまほが励ます様に言う。

 

 

「一刻も早く私達の手でラブの心を解放してやるんだ、みんなでやれば必ず出来る!」

 

「その通りですわ、必ずやり遂げて見せますとも!」

 

 

 ダージリンもみほの肩に手を置き力強くそう言った。

 

 

「…ハイ!」

 

 

 やっとみほも元気を取り戻し笑顔で返事をする。

 その後脱衣所で仕度をしていると到着を知らせる鈴鹿からメールが届く。

 

 

「来たぞ!我々の荷物は隠したな?OK?ヨシ、それじゃあ中で待機だ!」

 

 

 皆が浴室の見え難い場所に進んだ頃ラブ達も脱衣所に入って来た。

 

 

「わ~!中々凄そうなお風呂じゃな~い♪」

 

「西住隊長が自慢するだけの事はありそうね」

 

「さっさと入ろうよ~!」

 

「あい~、おねが~い」

 

「っていつ見ても……」

 

「またデカくなってる様な…」

 

「もうブラというより帽子みたいなんだけど…」

 

「んも~、みんな止めてよね~」

 

 

 何とも身も蓋も無い会話が響く中、愛に髪を結い上げて貰ったラブが真っ先に仕度が出来た。

 

 

「みんな準備は~?」

 

「直ぐ行く…」

 

「じゃ、いっちば~ん♪」

 

 

 ラブは嬉しげにドアを開くと浴室に進んで行く。

 

 

「わお♪本当に凄いじゃな~いって、エ…!?」

 

 

 湯煙の向こう九つのシルエットにラブは気付く。

 

 

「や、ヤダ!うそ…!だ、ダメ!な…何で!?」

 

 

 慌てたラブは急いで脱衣所に戻ろうとするがつっかえ棒が掛けられそのドアは開かない。

 

 

「な!開かない!何で!開けてお願い!お願いよ!愛…アイ!!!」

 

 

 ラブが必死にドアをガンガン叩くが、擦り硝子の向こうの愛は決してドアを開けようとはしない。

 

 

「愛!愛!なんで!?」

 

「ダメっ!!」

 

 

 今までに聴いた事の無い愛の大声にラブも一瞬硬直する。

 

 

「いつまでもこのままではダメ…恋姉様もちゃんと自分と向き合わなきゃダメなの!」

 

「そんな…無理よ……お願いよ…ここを開けて……」

 

 

 ドアの前に力無く崩れ落ちるラブ、そしてそこでいつの間にか一同が近付いていた事に気付く。

 

 

「…!い、いや!来ないで…ダメ…お願いだから見ないで…イヤ…イヤ…イヤ──ッ!!!」

 

 

 嫌々をする幼子の様に泣きながら必死に後ずさろうとするラブだが、その手足の動きはちぐはぐでその場からほとんど動く事は出来ず慌てて両手でその身を抱く様に隠そうとした。

 傷……その美しい肢体に惨たらしくも刻み付けられた夥しい数の悪意の爪痕。

 必死に隠そうにも隠しきれないラブの心を蝕む消せない過去の悪夢の象徴……。

 すっかり錯乱状態のラブの元に進み出たまほがラブの肩を押え声を掛ける。

 その押えられた左肩にも貫かれた様な無残な傷痕が残っていた。

 

 

「ラブ!落ち着け!私の話を聞いてくれ!」

 

「イヤ…見ないデ…ソンナメデミナイデ……イテイカナイデ…ヒトリニ…ナイデ…イッショニ…サビシイノ……イヤ…ワタシハ…ワタシ…ワタシ…ワタシ……」

 

 

 完全に目は虚ろで壊れた機械人形の様にうわ言を繰り返すラブ。

 

 

「イ…アアア…ア……ア……」

 

「ラブ!しっかりしろ!!」

 

 

 そう声を張り上げたまほの右手が一閃し浴室に乾いた音が響く。

 左の頬を押えハッとした表情のラブがまほを見上げる。

 

 

「ウぁぁ…!だ、だめぇ!」

 

 

 そう叫んで再び逃げようとするラブ。

 まほは逃がすまいと力強くラブを抱きしめ声を上げる。

 

 

「ラブ!落ち着いてくれ!お願いだから私の話を聞いてくれ!」

 

 

 更に力を籠め抱きしめるまほの瞳からも涙が零れ落ちている。

 

 

「お願いだ…頼む…頼むよ……ラブ…」

 

「ま…ほ……?」

 

「そうだ!私だ!私の目を見ろ!」

 

 

 抱きしめる力を緩めると顔が見える様少しその身を離す。

 

 

「ラブ、直ぐに気付いてやれず済まなかった…許してくれ」

 

「う…あぁ…」

 

「愛君達からも聞いた、ラブがあの日からずっと独り苦しみ続けている事を」

 

「あ…い……」

 

「そうだ、彼女達も苦しむラブを助ける事が出来ず、ずっと悲しんでいる。そんな彼女達が私達に必死に懇願して来た、オマエの心を救ってくれと。私達の心を救ってくれた、女神の心を暗闇から解放してくれと!だから私達も応えた、私達はその為にここに来たのだと」

 

「ワタシ…ハ…」

 

「目を逸らさないでくれ!心を開くんだ…お前は独りじゃないんだよ!」

 

 

 ラブの瞳にほんの微かに光が揺れる。

 

 

「ワタシ…私は……コン…ナ姿…こんな姿…私は…もう嫌われ……気持ち悪がらレルト…ミンナそんな事…無い…解ってる……ケド…私…怖かった…ずっと…置いて行かれ…寂しかっ……た…ひとり…もう…いや……」

 

 

 とめど無くラブの瞳から流れる涙。

 

 

「私達がラブを嫌いになる訳が無い!その美しさは昔と何も変わらないよ…いや、前よりももっと美しくて優しくて、だからあの子達もあんなにもラブの事を慕うんだ。そんなラブの事を私達が嫌いになる理由が何処にある、私達はずっと待っていた…待っていたんだよ!」

 

 

 背中からラブを抱きしめアンチョビも涙を流す。

 

 

「ち…よみ……」

 

「ああ、そうだ千代美だよ!」

 

「ま…ほ…ちよ…み……」

 

「ラブ!帰って来てくれ!私達の元に!」

 

「あ…アアアアアァァ──!!!」

 

「ラブ!」

 

 

 その場に頭を抱え蹲るラブ、アンチョビとまほが必死に抱え起こす。

 

 

「千代美…まほ…みほ……ダージリン…アッサム…ケイ…ナオミ…カチューシャ…ノンナ……」

 

 

 今度は一同がラブを囲み支える。

 

 

「ずっと…ずっと会いたかった……でも怖かった…こんな姿を見られたら絶対嫌われると思った……みんな…そんな事はしないって解ってる…でも…怖かった……ずっと寂しかった独りは嫌だったの…それでも怖かった…見られたくなかった…こんな私を見られたくなかった……私だって解ってる…でも……あの子達は私の希望…私があの子達を救ったんじゃない…あの子達が私を救ってくれた……だけどそれでも私は……私は──」

 

「もういい、もういいんだよ、もう苦しまなくていいんだ」

 

「そうだ、もう独りじゃない」

 

「私達はここにいるよ」

 

「私達の心はずっとひとつ」

 

「誰もそれを断ち切る事は出来ない」

 

「いつまでも」

 

「いつまでもずっと」

 

「私達の心の繋がりは」

 

「決して途切れる事は無い」

 

「みんな……」

 

『おかえり、ラブ』

 

 

 ラブの凍て付いた心に暖かなともし火が燈り、その瞳に光が宿る。

 

 

「う…うあぁぁぁぁぁ────っ!!!」

 

『ラブ……』

 

 

 今ここに、遂にラブは闇の底より皆の元に帰り着いたのだった。

 

 

「さあラブそうしていては身体に障ります、皆と一緒に暖まりましょう」

 

 

 ダージリンがその手を取りラブを湯船に導く。

 

 

「……いけない!」

 

 

 不意にみほはそう叫ぶと浴室のドアを叩き外に居る愛の名を呼ぶ。

 

 

「愛さん!ここを開けて!もう大丈夫よ!」

 

 

 擦り硝子の向こうに人影が近付きつっかえ棒を外すのが解る。

 みほはドアを開けると集まって膝を抱え声を殺して泣いている一同に声を掛けた。

 

 

「みんなもう大丈夫!早くこっちに来て!そんな恰好でそこにいたら風邪をひいちゃうから!」

 

 

 みほの声に少女達はよろよろと立ち上るとおずおずと浴室に向かう。

 

 

「本当にもう大丈夫だから!さあ!」

 

「みんな……」

 

 

 浴室に入って来た少女達にラブは俯きがちに声を掛ける。

 

 

「その…ごめんなさい…ずっと心配を掛けて…こんな私の為に……ありがとう」

 

「恋…姉様!」

 

 

 そう叫んだ愛は大粒の涙を零しながらラブに抱き付く。

 他の者達も一斉に泣きながらラブを取り囲んだ。

 

 

「みんな、本当にごめんなさい…」

 

 

 皆も何か言おうとするがもう言葉にならない。

 

 

「さあ、そうしていると今度こそ本当に風邪をひいてしまいますわ、こちらにいらっしゃい」

 

 

 再びダージリンが一同を導き掛け湯の後に全員が暖かい湯に浸かる。

 最初の内はそれまでの緊張から皆無言だったが、身体が温まれば徐々にその重かった口を開き始めて、それまでの胸の内をそれぞれが語り合っていた。

 

 

「正直当たって欲しくはなかったけどやっぱり私の予想通りだったか……」

 

「うん、千代美の目はごまかせなかったね…でも、いつから?」

 

「最初はお前が何かを見る時僅かに首を右に振るのに気が付いた時か…それとAP-Girlsが円陣を組んだ時だな。皆が肩を組む中お前は左手だけ愛のお尻に手を添えていただろ?その時だ」

 

 

 アンチョビのこの発言にAP-Girlsのメンバー達も絶句して彼女を見つめる。

 

 

「たったそれだけで……」

 

「いや、他にも気になった事はあったけど、どれも些細な事なんだよ」

 

 

 信じられないといった表情で呟く凜々子にアンチョビは事も無げに返す。

 

 

「さっきも言った様にアンツィオみたいな戦力じゃ、こうでもしなきゃ戦えないだけなんだよ」

 

「結局中学時代に私が勝てたのは単に装備に恵まれてたからに過ぎないんだ」

 

「そんなになのか!?」

 

「夏妃!言葉使い!」

 

 

 まほに質問するがまたも凜々子に口の悪さを窘められる夏妃。

 

 

「いや、構わんよ。実際対等の戦力だったら、きっと私は一つも勝ち星を上げられなかったと思う。それ程の戦力差でいつも互角以上に渡り合って、それで勝ってもその差は僅差だったんだから。つまりそれ程の実力の持ち主だという事なんだよ」

 

「にしずみ~、それはオマエ買い被り過ぎだぞ~」

 

「何が買い被りなものか、私はオマエを黒森峰の参謀にと思っていたのに」

 

「スゲぇ……」

 

「夏妃といったか…本気にするな~」

 

 

 アンチョビの気の抜けたもの言いに周りからも笑いが起こる。

 やっと皆の張りつめた気持ちも落ち着き始めていた。

 

 

「そうは言うがアンツィオ行きを聞かされた日は私は眠れなかったんだぞ!」

 

「オマエ結構メンタル弱いよな」

 

「うるさい、大きなお世話だ」

 

「でもみほさんが黒森峰を去った時も随分荒れていた様に思えましたわ」

 

「そ、それは!」

 

 

 ダージリンのツッコミに思わず言い返すのにも言葉に詰まるまほ。

 

 

「あの時は私達も何とかみほさんを聖グロに引き入れられないかと画策しましたのよ」

 

「ふぇ!?」

 

 

 このダージリンの発言にみほも驚きの声を上げる。

 

 

「本当よ、折角ティーネームまで用意していたのに、全くあの頭の固いOG共と来たら……」

 

「Oh!本気だったの!?」

 

「ええ、ケイ、勿論本気でしたわよ」

 

「でも用意したティーネームって…?」

 

「アールグレイ……」

 

『うわぁぁ!!!』

 

 

 飛び出した聖グロ先代隊長のティーネームに一同が絶叫し、そして同時にこの女はやっぱり油断ならないとも思うのであった。

 

 

「ねえ…?聖グロに行ってたら私でもティーネームを貰えたかなぁ?」

 

 

 何の気なしにラブが呟いた言葉に、ダージリンの瞳が獲物を見付けた肉食獣の様に輝く。

 

 

「あら?あなたもティーネームが欲しいのかしら?それでは取って置きの名前を授けましょう♪」

 

「ホント!?」

 

 

 ダージリンは実に嬉しげにその青い瞳をぐるりと回す。

 横で湯に浸かるアッサムはヤレヤレといった表情で溜め息を吐く。

 

 

「そうですわねぇ…うん!これが良いですわ!」

 

「え!?なになに~?」

 

 

 ラブも嬉しげにその身を乗り出した。

 

 

「梅こぶ茶♪」

 

「え?」

 

「そう♪梅こぶ茶ですわ!これ以上ピッタリなものは他に在りませんわ!」

 

『ブッ!』

 

 

 そうダージリンが言い放った瞬間全員が一斉に噴き出す。

 

 

「あ~!みんなひど~い!」

 

 

 ラブはイヤイヤをしながら抗議の声を上げるが、ダージリンは手の甲を口元に当て、涼しくも実に嬉しげな表情でころころと笑っている。

 そして遂にはAP-Girlsの少女達も一斉に『梅こぶ茶さま』と掛け声を上げた。

 

 

「あ~!みんなもっとひど~い!」

 

 

 だがしかし、後にダージリンはこれが元で盛大に墓穴を掘る事になるがそれはまだ先の事。

 

 

「あの子もあんな風に笑えるんだな…」

 

「ん?何だ西住?」

 

 

 笑いながらじゃれ合うAP-Girlsの面々を見ながら呟いたまほにアンチョビが顔を向ける。

 

 

「いや、あの愛って子さ。ステージなんかでも笑顔を見せていたが、どこか作り物めいた感じがしてな。でもあんな風に屈託無く笑う事も出来たんだと思ってな」

 

「それオマエが言うかぁ?」

 

「な!どういう意味だよ!?」

 

「そのまんまだよこの朴念仁」

 

「ぐっ…この…!」

 

「まあいいや…それにしてもその……よく浮かぶな……」

 

 

 聞くともなしに二人の会話を聞いていた周りの者も、そう言ったアンチョビの視線を追ってある一点を凝視してその場で視線が固まってしまう。

 それまで騒いでいたラブとAP-Girlsもそれに気付き、全ての視線が集中したラブは隠しても隠しきれないたわわなアハト・アハトを手で覆い隠そうとしながら声を上げた。

 

 

「な、なによぅ……」

 

「いや…どうやったらそこまで育つのかと思って……てか何時から…?」

 

「ラブお姉ちゃん…幼稚園を卒園して、春休みに熊本に来た時にはもうブラしてた……」

 

『なんだと────────っ!!!!!』

 

 

 みほの投げた爆弾にみほとまほ、そしてラブ以外の全員がそう叫ぶや湯船に水没する。

 

 

「ゲホっ!う゛ぅ゛…うげぇ、お、お湯飲んだ…ほ、本当なのかぁ……?」

 

「あ…あぁ、本当だ……」

 

 

 まほは思い出したくなかった事を思い出した様な苦い顔で答える。

 

 

「あれが人生で最初に味わった敗北感かもしれん……」

 

「おねぇちゃ~ん…」

 

 

 ガックリと項垂れるまほにみほも心底困った顔しか出来ない。

 ここまで来た処でどうやら遂に切れたらしいケイがラブのたわわを鷲掴みにして叫ぶ。

 

 

「このF●ckin breasts!半分寄こしなさいよっ!」

 

「や!ケイ止めっ!千切れちゃうって~!」

 

 

 それを合図に全員がラブに襲い掛かり、代わる代わるにそのラブのたわわな17ポンドを激しく揉みしだき、湯船の中は日本海海戦の如く波立っている。

 

 

「や!だ、ダメ!あっ!そ、先っちょ引っ張っちゃ!アン…ソコ違っ!入れちゃ!あぁ!!!」

 

 

 散々弄ばれ、結い上げた髪も解けたラブは逃げた洗い場に荒い息でへたり込み叫ぶ。

 

 

「も~!みんなしてひどい~!愛!お願い!」

 

 

 呼ばれた愛はいつもの無表情に戻り脱衣所に行くと、シャンプーボトルなどが入ったカゴを手に戻り、さも当然の様に無言で椅子に座ったラブの髪を洗い始める。

 ポニーに結わなければ軽く腿の辺りまで届くラブの深紅の髪を、自身も泡に塗れながら時々その身長に比して立派なたわわをラブの背に押し付けつつ、いっそ怨念でも籠った様に愛は丹念に洗って行く。

 その妖艶な光景に一同は思わず見とれ生唾を飲み込んだ。

 

 

「な、なあ…いいのかコレ……?」

 

「い、いやその…」

 

「ふ、ふわぁ!」

 

「イ、イギリス人は恋愛と戦争では──」

 

「ダージリン涎が出てますわ」

 

「じ、Jesus!」

 

「こ、今度アリサに…」

 

「子供は見てはいけません」

 

「ちょ!ノンナ!?誰が子供ですって!って目隠ししないで!見えないじゃない!」

 

 

 鼻の奥のツンとした感触で我に返ったまほがたどたどしくAP-Girlsに尋ねた。

 

 

「な、なあ君達…その、いつもこんななのか?」

 

「いや…アタイらもこんなマジマジと見たのは初めてで…な、なあ愛!たまにはアタイらに──」

 

「ダメ…これは私だけのモノ」

 

「お、おう……」

 

 

 殺気と優越が入り混じった表情で、話しを途中で遮り夏妃に短く言う愛に、夏妃もそう返事をするのがやっとだった。

 

 

「ん~、私女王さまだよね~♪」

 

 

 あっと言う間に機嫌が直りご満悦の表情で髪を洗ってもらうラブ。

 

 

「じ、事情は分かるがその何と言うか……」

 

 

 顔を赤らめ口元を覆いながらアンチョビがラブに何か言い掛けるが後が続かない。

 

 

「せめてもっと短くしようかと思ったんだけど──」

 

「ダメ」

 

「…こういう事情なのよ……」

 

 

 この間も愛は黙々とラブの髪をシャワーで洗い流しコンディショナーで仕上げると、器用にその長い髪を纏めるとヘアクリップで留めた。

 その後はどうにか落ち着いて皆で暖まり浴室を後にする。

 しかし脱衣所でもやはりと言うかラブのブラ(回文じゃないよ)のサイズを巡り騒ぐ一同。

 

 

「アレで私のブラが何着出来るだろう……」

 

「およしなさい!」

 

「もうイヤよ…」

 

「Hell no!」

 

「同じ生き物と思うな……」

 

「思いたくありませんわ」

 

「人外と呼ぶしか……」

 

「愛君の手付きが何と言うかその…」

 

「にしずみー!鼻血!」

 

『うわぁ…』

 

「な、長湯でのぼせただけだ!」

 

「なによ~、みんなして~!」

 

 

 そんな騒ぎの後、一同揃って無事笠女学園艦に帰艦し大団円かと思うとコレがそうは行かない。

 ラブ達と別れ部屋に戻ろうとすると少し部屋割りが変えられている。

 

 

「なんでみほとエリカ、私と安斎で二人部屋になったんだ?」

 

『このポンコツはどこまで鈍いんだろう……』

 

 

 首を捻るまほの隣で赤い顔をして俯くみほ。

 

 

「まほさん、アナタほんっと~にまだ気付きませんの?」

 

「何がだ?」

 

 

 ダージリンは心底ウンザリした顔で大きく溜め息を吐くと続けた。

 

 

「昼間のルクスの話ですわ。ラブが何度か一緒に遊んだ子の話をしていたでしょう?」

 

「それが部屋割りとどんな関係が?」

 

「全くこの朴念仁は…よいこと?その子はどんな子でしたの?よ~っく思い出してごらんなさい」

 

「何なんだ…ええとだな、ロリータファッションというのか?可愛いドレスを着てて……ちょっときついがとても綺麗な青い瞳で髪の色が銀髪…あれはシルバーアッシュだったか、そんな色でだな…そう!ちょうどエリカみたいな髪…ん?…エリカ?……エ…リ…カ?」

 

『やっと気付いたかこのポンコツ』

 

「あ…あ…あ───っ!?」

 

 

 ダージリンは眉間に指先を当てホトホト疲れた様に聞く。

 

 

「やっと気が付きましたのね?」

 

「あ、いや、だってアレは…えぇ!あれはエリカだったのかぁ!?」

 

「それで昼間あの話の後のみほさんの行動は?」

 

「それはエリカの手を引いて……お…お…おぉぉぉぉ──そういう事だったのかぁっ!!!」

 

 

 漸く事態に気付き絶叫するまほに堪り兼ね赤い顔を更に真っ赤にしみほは叫ぶ。

 

 

「お、おねぇちゃんのばか──────っ!!!!!」

 

「お、オイみほ!」

 

 

 みほはそう叫んだ後走ってフロントフロアを後にする。

 もうその場にいたアンチョビ以外の一同も付き合い切れぬとそれぞれの部屋に向かう。

 一方その頃当のエリカはといえば、新しい部屋で顔を赤らめ正座をしていた。

 膝の上で両の手の指をモジモジと絡め正座をしていた…キングサイズのダブルベッドの上で。

 その姿は何やら新婚初夜を迎えた花嫁の様に見える。

 

 

「あ、おいみんな!ってそれは解ったけど…それで何で私と安斎が……」

 

「オマエみたいな朴念仁は今まで見た事ないよ…それにしてもラブのヤツめ……」

 

 

 こちらも少々赤い顔をしたアンチョビがブツブツと言っている。

 

 

「みほとエリカ…私と安斎……あんざい…!あぁぁぁ!!!」

 

「アンチョビ!ってこんな時だけ気付くなこの超絶鈍感女!意識するな!私は今日は疲れたんだ!ぐっすり寝たいんだよ!」

 

「な、なあ、あんざいぃ…」

 

「変な声を出すな────!!!」

 

 

 アンチョビ達がそんな嬌態を繰り広げていたその頃ラブ達も自室に戻っていた。

 

 

「ん~!良い事した後は気分がいいね~♪」

 

「……」

 

「愛……ありがとう……」

 

「……服」

 

「うん…」

 

 

 一種の儀式の様に愛はラブが服を脱ぐのを手伝う。

 その後愛もまたラブ同様の一糸纏わぬ姿になると二人そろってベッドに潜り込む。

 

 

「愛…大好き……」

 

 

 ラブはそう言うと愛の小さな体を優しく抱きしめた。

 愛もまたラブの体に手を回す。

 

 

「……私も」

 

 

 愛がそう小さく返した時には既にラブは安らかな寝息を立てていた。

 

 

「あなたを愛しています……」

 

 

 愛はそう続けた後ラブの唇にそっと自分の唇を重ねた。

 

 

 

 その夜、二人が出会ってから初めて穏やかな眠りに落ちて行った。

 そう、優しい夢の中に。

 

 カーテンの隙間から射す月光は静かにそっと二人を照らしている。

 

 

 




重いけどサービス回にもしてみました。
そのサービス内容に喜んで頂けたかどうかも気になる処w

これで今後はポンコツ路線をひた走れればいいけどどうなる事やら。
エリみほ&まほチョビはどうなる?
いらん伏線まで張っちゃったしw

この先の話も修正が多過ぎて苦労してます。
更新ペースが落ち気味ですが気長にお待ち頂けると幸いです。

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