ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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紅白戦もこれでいよいよ決着です。
今回はいつもより大幅に尺が長くなりましたが、
その分激戦の様子が伝わると良いのですが…。


第十八話   Girls・Girls・Girls!

「そんな事があったんだ……」

 

「ああ、昔から集中力と記憶力はずば抜けていたが、少なくともアレはもう私達の知っているレベルじゃなかったな」

 

 

 まほとみほは並んでお弁当を食べつつラブのノックに関して話し合っていた。

 そこにそれまで黙々とおにぎりを頬張っていた麻子が、ほっぺにおベント付けたまま口を挟んだ。

 

 

「あの時私は躱せたと思ったんだ、だがその躱した方向にペイント弾が飛んで来た。まほさん、あの厳島さんという人は本当に人間なのか?」

 

「ちょっと麻子!いくらなんでも失礼よ~!」

 

「いや、いいんだ、今回はさすがにそう思われても仕方が無いと私も思うから。戦闘開始直前にダージリンも言っていたが、この事は後で皆で話し合う必要がありそうだ」

 

「うん…私もそう思うよお姉ちゃん…」

 

「スマンみほ、休憩中とはいえ対戦相手に不安になる様な話をしてしまった」

 

「ううんいいの、あんこうを撃って来たのは間違い無くラブお姉ちゃんだと思うから。あの時の感覚は今までにノックされた時の感覚と全然違っていたから」

 

「私も砲手としてここまで色々と貴重な経験を積ませて頂きましたが、どうやったらあの高みまで登る事が出来るのか想像も付きませんわ」

 

「華さん、君も砲手としてのキャリアで考えたら普通ではあり得ない存在だよ。だがラブのあれが尋常ではないのも確かだ」

 

「ですが姉上殿、ハンデキャッパーになられた方が特異な能力を発揮するという話も聞きますが」

 

「うん、それは私も知っているがアレはちょっと異質に過ぎる気がしてね。まあ今ここでアレコレ詮索しても始まらないからこの話はここまでとしよう」

 

 

 まほがそう話を切り上げそれぞれ残りのお弁当を食べ切った辺りで、沙織があんこうの車内から籐編みのバスケットを持って現れた。

 

 

「えへへ~、昨日の夜宿舎の厨房を借りてチョコチップクッキーを焼いて来たんだ~、食後のデザートにと思って。さ、お姉さんと黒森峰の皆さんからどうぞ~♪」

 

「え?いいのかい?それじゃあ遠慮無く頂くとしよう……うん、これは!」

 

「お味の方はいかが?」

 

「あぁ…口の中がとても幸せだ♪」

 

 

 まほはそう言いながらうっとりと両の頬を押える。

 

 

「え!そんなに?隊長私達にも下さい!」

 

「沢山焼いて来たからみんなで食べましょ♪」

 

 

 集まって来た黒森峰の隊員達に沙織がバスケットを差し出すと、皆目を輝かせてそれぞれがクッキーを口にすると一斉に沙織へ称賛の声を浴びせ始める。

 

 

「沙織さん、明日から副隊長扱いで黒森峰に来ないか?」

 

「お姉さんやだも~♪」

 

「ダメ~!沙織さんは私のです!」

 

 

 このやり取りで笑いが起こり重くなりかけていた空気も一気に和らぎ皆の表情も和らいだ。

 通りの向こうのラブ達も盛り上がっているのか笑い声が聴こえ、まほとみほも少しホッとした表情で残りの休み時間を過す事が出来た。

 

 

「いいか!もう間も無く試合再開だ、気合を入れ直せ!」

 

『jawohl!』

 

 

 まほの飛ばす檄に既にエンジンを始動し待機している隊員達からも鬨の声が上がる。

 判定用ドローンも既に上空に舞い戻っており、全てのフィールドでも同様に試合再開の信号弾が打ち上がるのを今や遅しと待っている。

 そして待つ事暫し、遂に上空で信号弾が炸裂し一斉にエンジンが唸りを上げ戦闘が再開された。

 主戦場では力押しの一進一退の攻防に前衛はどの車両も既に無傷の車両は居なくなっており、それまで以上に緊張感も高まり始めて双方砲撃はより苛烈になっているのであった。

 

 

「まだか?まだ動かん気か?いっそこちらから仕掛けるか?いや、ダメだダメだ、ここが我慢のしどころだ。ここで行って気付かれたら奇襲の意味が無い」

 

 

 アンチョビは自分の逸る心を諌めつつ前方の梓達の様子をなおも注意深く伺っている。

 市街地エリアでの戦闘も更に熱を帯び始め、Love Gun対AP-Girlsの戦いでは遂に愛の放った一撃がLove Gunにヒット、しかし返り討ちとばかりにピンクハーツにもカウンターが決まったものの、不利を悟ったかLove Gunは噴水広場より逃走を開始する。

 追う側のAP-Girlsは挟撃するべく二手に分かれ追跡を開始、Love Gunのすぐ後ろにはイエローハーツが付き追い込む様に行進間射撃で牽制を掛けていた。

 しかしその追跡劇が始まって50m程、倉庫を模したセットの前を通過した辺りでそれは起きた。

 二つの重なった砲撃音と共にイエローハーツの側面に二発のペイント弾が弾着、その直後に砲塔をこちらに指向していたLove Gunからも砲撃を受け、最初の乱戦で受けた一発も含め計四発を被弾した為に凜々子が車長を務めるイエローハーツはここで戦線離脱となった。

 

 

『イエローハーツ、四発被弾につき状況終了!』

 

 

 コントロールタワーからの共用回線のコールと共に強制的に白旗が揚げられ、イエローハーツはこの紅白戦に措いて戦線離脱第一号となってしまったのであった。

 それにしても最初の二発、一体何が起こったのか?

 状況が呑み込めず倉庫の奥の暗がり目を凝らした凜々子は、そこに居る者の正体に気付くと正面に向き直り走り去るLove Gun上で投げキスをしているラブに怒鳴り声を上げる。

 

 

「ラブ姉セコイ!!」 

 

 

 そのままラブは振り返ると笑いながら手を振り遠ざかって行った。

 イエローハーツに進路を塞がれる形でLove Gunを追跡出来なくなったブラックハーツの車長の鈴鹿は、ひとつ溜め息を吐くと通信手である焦げ茶の瞳と同色のセミロングをソフトウルフにした少女、伊澤芹香(いさわせりか)に他車への通信を促す。

 

 

「こちらブラックの芹香、凜々子のイエローが伏兵にやられたわ。こちらからは視認出来ず車種は不明、数は推定2両注意されたし。なおラブ姉もそのままとんずらしたから気を付けて、こっちは進路塞がれたから迂回して合流するわ、以上!」

 

 

 倉庫を塞ぐ形でイエローハーツが停車した為、中が確認出来ない鈴鹿は迂回を指示した後に悔しがる凜々子に声を掛けた。

 

 

「完全にやられたな、逃げ出した時に気付くべきだったわね。でもまあ仕方ないわ、先に戻ってケーキ食べながら観戦してて」

 

 

 振り向かずに手だけ振った凜々子とイエローハーツを残し、鈴鹿は再びラブを追うべくブラックハーツを後退させ遠ざかって行った。

 その後交戦エリアから外れたイエローハーツが倉庫の前から移動すると、その倉庫の奥の暗がり中からやっと奇襲を掛けて来た二両がその正体を現した。

 

 

「ごめんね~、でも昼休みもずっと隠れて休んでた甲斐はあったわ~♪」

 

 

 出て来たのはラブがケイから借り受けた二両のシャーマンであった、気を利かせたケイが三年生チームを回してくれた為その狙いも正確で見事伏兵の役割を果しイエローハーツは討ち取られたのだ。

 

 

「いえ、お見事でした。完敗ですわ」

 

「鈴鹿さんだっけ?彼女が言う様に先に帰って休んでてね。ってそうだ!笠女のケーキってそんなに美味しいのかな?」

 

「ええ、とっても♪適当にやられて食べに来ますか?」

 

「あ~、そうしたいけどそれやるとケイが激怒しそうだからね~」

 

「それもそうですね、それではお先に失礼します」

 

 

 そう言うと凜々子は二両のシャーマンの車長に敬礼しつつイエローハーツを後退させ、塞がれていない市街地エリアの出入り口から退場しパドックエリアを目指し走り去って行った。

 凜々子が戦線を離脱し丁度市街地エリアから出たその頃、その市街地のまほとみほの姉妹対決でも戦局に変化が出始めていた。

 まほに随伴していたⅢ号のうち一両が、ぺパロニとローズヒップの挟撃に遭い戦線離脱に追い込まれ、残り一両も防戦一方の展開になっていたのだ。

 これにより生まれた隙を突き機動力に勝るぺパロニのカルロベローチェは、主戦場側の出入り口の封鎖部隊の背後を突くべく、Ⅲ号の相手をローズヒップに任せると出入り口目指し転進して行った。

 

 

「ちっ!やはりこの条件タンケッテが強いな!やはり向かうのは主戦場側か、出入り口Bの封鎖部隊にタンケッテが向かったと伝えろ!」

 

 

 まほは通信手に指示を出しつつも、あんこうに対する攻撃の手は緩めず激しい鍔迫り合いが続いている、双方一発ずつ被弾しているが重戦車であるティーガーⅠは元から一発分有利であり、更にあんこうはラブのノックも受けていた為残り二発で撃破判定と追い込まれつつあった。

 

 

「西住殿このままではジリ貧です、一度距離を取った方が宜しいのでは?」

 

「そうしたいけどその瞬間をお姉ちゃんは見逃すはずがないから」

 

 

 みほも指示の合間に優花里に答えるが、何とか隙を作ろうとしてもまほも喰い付いて離れない。

 その状況にみほにも焦りの色が浮かび始めた頃、各戦線においても遂に大きな変化が起こり始めており、リタイアする車両が続出し始めていた。

 まず市街地出入り口Aを封鎖していた直下と牽制を続けていた小梅の部隊が、壮絶な撃ち合いに突入し、結果最後は双方全滅し通常弾であればその後舌戦にでもなりそうな展開だったが、両軍共ケーキが待っている事もあり仲良くサッサと撤収してしまっていた。

 ラブを追撃し再度合流を果たしたAP-Girlsもまた再びLove Gunとの乱戦に突入、ここでもまたラブが巧妙にシャーマン二両を介入させる為、そのうち一両を討ち取るも鈴鹿のブラックハーツが戦線離脱に追いやられ被弾総数で愛のピンクハーツと夏妃のブルーハーツは逆に窮地に立たされていた。

 それとほぼ同じタイミングでぺパロニのカルロベローチェがナカジマ率いる封鎖部隊を急襲、それに呼応する様にアリサが牽制から一転残存戦力による玉砕覚悟の突撃を敢行した為隙が生じ、そこを逃さず突入して来たぺパロニに市街地からの突破を許してしまった。

 

 

「西住のお姉さんごめんね~、タンケッテに突破されちゃった~。一応追うけどこっちは軒並み脚が遅いから追い付くのは無理だね~」

 

「そうか解った、それでもそのまま追撃して本隊と合流して欲しい」

 

「りょうか~い」

 

「ヨシ!ここが踏ん張り処だ!一気に勝負に出るぞ!」

 

 

 まほの檄にティーガーⅠの機動は増々激しさを増しジリジリとあんこうを追い詰め始める。

 すれ違いざまに双方が放った一撃はそれぞれ側面に直撃するが、ティーガーⅠがまだ残り三発に対しあんこうは残り一発で撃破判定の為いよいよ後が無くなった。

 しかしここに遂にⅢ号を討ち取ったローズヒップのクルセイダ―が介入し、ティーガーⅠに直撃弾を与え一気に形勢逆転かという事態になる。

 ローズヒップもここで一気に畳み込むべくティーガーⅠに喰らい付こうとしたまさにその瞬間、逆に側面からの砲撃をまともに喰らい、これまでのⅢ号との戦闘で残り一発となっていた為撃破判定を受けてしまった。

 何が起こったのかと弾の飛んで来た方向を見れば、AP-Girlsと追いかけっこ中のLove Gunが、通りすがりに行きがけの駄賃とばかりに一発お見舞いして来たのであった。

 そしてその瞬間を逃さずまほの命で放たれた一撃があんこうに直撃し、撃ち返した一撃も命中したものの、ここに姉妹対決はまほに軍配が上がりその幕を閉じた。

 

 

「な!?くやっし~ですわ!」

 

「ローズヒップちゃ~ん!ケーキ、ケーキ~♪」

 

 

 すれ違いざまにラブは拡声器でそう叫びつつ、手をヒラヒラ振りながらシャーマンと追跡するAP-Girlsの二両を引き連れ走り去って行く。

 

 

「そうでしたわ!さあみほさん!何をボヤボヤしていますの?早くケーキを食べに行きましょう♪」

 

「プッ!ははは!さあみほ!ローズヒップ君を待たせては可哀想だ、早く行くのだ」

 

「うふふ、そうだね。あ~あ、負けちゃったかぁ、でも楽しかった~♪」

 

「ウム、私もだ。これはまたやりたいな」

 

「そうだね」

 

「さあ、早く行きなさい、ローズヒップ君がウズウズしているぞ」

 

「うん、それじゃあ先に戻ってるね」

 

 

 まほは走り去る二両を見送ると暫し考え込む。

 本体に合流すべきかそれともラブの加勢に加わるべきかと。

 

 

「フム…本隊はナカジマさん達が向かった事だし、ここはラブの様子を見に行くか…気になる事も多いしな。オイ、移動開始だ、ラブとシャーマンに合流するぞ」

 

 

 まほのティーガーⅠが移動を開始し始めた頃、主戦場では既に両軍の前衛部隊はほぼ戦線離脱し、主力部隊同士が激突する局面に達していた。

 いよいよその時が来た瞬間、ダージリン指揮する主力部隊後方である変化が起きた。

 市街地を脱出したぺパロニのカルロベローチェが、単騎駆けで部隊側面を急襲し、あっと言う間に三両程血祭りに上げた後に残弾を撃ち尽くすまで暴れ回った為、主力部隊の足並みが大きく乱れ始め一気にオレンジペコ大隊に押され始めたのだ。

 

 

「今こそ突撃のタイミングですね!」

 

「Yes!いよいよね、Hey!カルパッチョ聴こえる?いよいよ突撃するわ!」

 

「ケイ隊長了解です、ドゥーチェも大分焦らされてヤキモキしてますから良いタイミングです」

 

「OK!いい?ラビットよく聞いて、まず先頭でⅢ突を乱射させながら突入させてその両翼はシャーマンとマチルダで固める。その次に私のシャーマンとM3で突入、私達を弾除けにしてチャーチルに肉薄してラビット、あなた達が仕留めなさい」

 

「そんな!それじゃああまりに──」

 

「Stop!論議してる時間はないわよ、大将同士の一騎打ちよ!正々堂々撃ち合いなさい!」

 

「…ハイ、解りました!宜しくお願いします!」

 

「良い顔になったわ、存分に戦いなさい!」

 

「ハイ!」

 

 

 一方のアンチョビも俄かに動きが慌しくなった梓達を見ていよいよその時が来た事を悟る。

 

 

「フン!いよいよか目にモノ見せてやるぞ!大洗の諸君準備はいいか!?」

 

「はいよチョビ子いつでもいいよ~」

 

「だからチョビ子と呼ぶな!私の指示で砲撃開始だ!」

 

「りょうかい~」

 

 

 ケイは僚車に指示を出すフリをしながらカルパッチョに攻撃タイミングを指示する。

 

 

「いい?無線でラビットのパンツァー・フォーの号令のパンツァーで砲撃を開始してアンチョビの出端を挫いてやって。私達はそのまま突撃するから後は宜しく」

 

「了解です、目一杯ドゥーチェを驚かせてみせますね」

 

「任せたわ!」

 

 

 梓は号令を掛ける直前車内のメンバーを見やり檄を飛ばす。

 

 

「みんな!私達に出来る事を精一杯やろう!いいね!」

 

『お~!』

 

 

 これまでずっと一緒に戦って来た仲間達も力強く揃って応える。

 それを見た梓も頷くと右手を上げ声を限りに号令をかけた。

 

 

「パンツァー・フォー!!」

 

 

 その号令を待っていましたとばかりにアンチョビが攻撃命令を出そうとしたまさにその瞬間、その背後から猛烈な勢いの集中砲火を受け絶好のタイミングを失う事になった。

 

 

「ぬわぁ!?なんだなんだ~!?」

 

 

 慌てて砲撃方向を見ると森の中の下草の間から、セモヴェンテを始めとする梓大隊側の混成部隊が砲撃を加えながら顔を出す。

 視界の隅では梓とケイの奇襲部隊が森の中から躍り出て突撃して行く姿が見えた。

 

 

「しまった~!カルパッチョ何時から其処に居た~!?」

 

「は~い、ドゥーチェのお相手は私ですよ~♪」

 

 

 カルパッチョは楽しげに言いながら装填を続ける。

 

 

「ええ~い!反撃だ~!」

 

 

 遂にそれまで唯一静かだった森の中でも激しい砲撃戦が開始された。

 主戦場が最終局面迎えたその頃、市街地でもまた最後の激しい戦いが繰り広げられており、まず巧妙にLove Gunの支援をしていた残りのシャーマンを愛と夏妃が連携で仕留めると、今度はそこにまほのティーガーⅠが絶妙のタイミングで乱入。

 その巨体に似合わぬ機動で連携する二両を分断すると、愛とラブ、まほと夏妃の対決状態へと持ち込みそれぞれこれが最後と激しい砲撃戦を開始した。

 まず一発不利な状態ながら、それを感じさせぬ大胆な機動でブルーハーツを翻弄したまほが一発撃ち込みイーブンにすると、夏妃の指示で懐に入り込み動きを封じようとするブルーハーツを今度は力押しで弾き飛ばす。

 フラットスピンに陥ったブルーハーツに止めとばかりにまほも砲撃を加えるが、これはスピン状態から巧みに挙動を立て直し回避機動を取らせた夏妃に避けられた。

 敵ながら見事な動きを見せるブルーハーツに、まほは称賛の不敵な笑みを見せると正面からの突撃を指示、その突撃する姿はまさに牙をむく虎の迫力で夏妃を圧倒する。

 それでも夏妃も怯む事無く戦いを挑み同じく正面から突撃を敢行、すれ違いざまにそれぞれ渾身の一撃を相手に向かい撃ち込むのだった。

 結果まほの放った一撃がブルーハーツ側面に弾着したのに対し、夏妃の一撃はその狙いが僅かにそれ、砲塔をかすめたペイント弾は背後の廃屋を模したセットに突き刺さっていた。

 撃破判定の白旗が上がりコマンダーキューポラ上の夏妃は悔しがるが、まほのティーガーⅠが戻って来ると背筋を正し敬礼を送る。

 

 

「西住隊長ありがとうございました!」

 

「夏妃君だったな、一年生で正面切って一騎打ちを仕掛けて来たのは君が初めてだよ」

 

 

 そう言うとまほは実に凛々しい笑顔で答礼するとその場を去って行く。

 

 

「カッコいい……」

 

 

 夏妃はその去り行くまほの背中を頬を赤らめぽ~っとした表情でその背中を見送るのだった。

 そのまほがラブと愛を見つけだしたのは、最初に双方が激突した噴水広場であり、丁度ラブと愛が噴水を挟み睨み合う場面であった。

 どうやら互いに一撃ずつ撃ち込み双方とも後一発で撃破判定が出る処まで縺れて、いよいよこれから最後の攻撃に出るという瞬間の様だ。

 愛はコマンダーキューポラの縁に両手を掛け、前屈みの姿勢でラブを睨み付けているのに対し、ラブはコマンダーキューポラに背を預け腕を組み、口元に微かな笑みを見せつつも瞳は挑発的な強い光を放っており思わずぞくりとする程に美しかった。

 その姿を見たまほは目まいにも似た懐かしさを覚え、快楽に打ち震える様な我が身を両腕で抱きしめると思わず呟いた。

 

 

「ラブだ…ラブがいる」

 

 

 そう、嘗て何度と無く見たその姿、勝負を決めに行く瞬間にのみ見せる、いっそ妖艶とも言える程に美しい見る者を恍惚の中に引きずり込むその姿。

 これだ!これこそが自分が求めていたラブの姿なのだとまほの心は歓喜の声を上げる。

 体の芯が熱い、快楽に流されそうになる、その激流に耐え全てをその目に焼き付けようとまほはその瞳を大きく見開きその瞬間を待つ。

 ラブの口角が愛を更に挑発するかの如くきゅっと上がる、その瞬間を待っていたかの様に愛の乗機のピンクハーツが噴水を軸に時計回りに旋回を始める。

 それに呼応する様にLove Gunもまた時計回りに旋回をしつつ、砲塔も側面を向きピンクハーツを指向し砲撃のタイミングを窺う。

 やはりお互いの車長以外の技量は完全に互角、最後はラブが愛をねじ伏せるか、あるいは遂に愛がラブの喉笛に噛み付き師を超える事が出来るのかその瞬間はもう間も無く確実に訪れる。

 まず最初に瞬間的なブレーキングでピンクハーツがフェイントを入れるが、ラブはその程度はお見通しとばかりに微笑んで発砲しない。

 逆に今度はLove Gunが遠心力をそのまま活かしドリフト状態に移行、スピンターンよろしく逆回転でピンクハーツに肉薄するも、同様にターンし衝突寸前で併走状態に持ち込む。

 更にピンクハーツはフルブレーキングで急停車すると瞬間的にLove Gunの後ろを取るが、再び右方向にドリフトさせ射線を外すとそのままの勢いでLove Gunが突っ込んで来る。

 あわやそのまま激突かというタイミングでピンクハーツが急速に後退、Love Gunは勢いそのままにピンクハーツが居た場所をそのまま通過、その勢いは完全にぶつけるつもりだったのは明らかだ。

 後退したピンクハーツもその勢いを使いスピンターンで砲身をLove Gunに向けるが、その時には既にLove Gunも同様にターンし砲身がピンクハーツを指向している。

 それまで履帯が激しく石畳を削る音が響いていた噴水広場に訪れる静寂。

 正対した状態で再び睨み合う両者、ここに介入するのは無粋とばかりにまほを始めティーガーⅠの乗員達も、ハッチから身を乗り出しその激し過ぎる戦いの行く末を食い入る様に見つめている。

 愛のコマンダーキューポラキューポラの縁を掴む両手に力が入る、それと同時にピンクハーツも急発進でLove Gunに突撃、ラブもまた余裕の表情で迎え撃つべくLove Gunを急発進させると両車がすれ違う瞬間軽く接触したらしく火花が激しく宙に舞う。

 双方そのまま振り向きもせず前進し再び噴水を中心に、今度は反時計回りで砲塔は相手を指向しつつ旋回運動に入り互いに相手のすきを窺い合う。

 

 

「凄い……」

 

 

 特等席で観戦する形になったティーガーⅠの乗員の誰かの口から洩れた一言に、この戦いの凄まじさが集約されているといっても過言ではない。

 しかしその戦いにも遂に終わりの瞬間が近付いていた。

 それまで等速で旋回していた両車だがラブが徐々にその旋回速度を上げさせ始め、それに合わせるべくピンクハーツも加速を開始すると、じきに一定の旋回運動が出来なくなる速度に達する。

 双方遠心力に耐えつつ相手を見据え砲撃タイミング窺う中、突如限界速度を超えたLove Gunが石畳の上を滑りながらスピンアウトして行く。

 だがそれによりピンクハーツの射線からLove Gunは瞬間的に消え去り、急ぎ砲塔を旋回させるも追い付かない、そして砲塔を側面に向けたままスピンするLove Gun、そのスピン状態で砲身の射線上にピンクハーツが重なるその直前ラブの顔に会心の笑みが浮かぶ。

 

 

「しまった!」

 

 

 愛がそう叫んだ瞬間ピンクハーツの後部にペイント弾が直撃、それと同時に下った撃破判定によりピンクハーツの砲塔に白旗が揚がりこの息つく暇も無い激しい戦いもその幕を閉じた。

 愛が悔しさからかグッと俯き肩を震わせるその横に、スピンからそのままドリフトに移行したLove Gunが隙間もほぼ無い位置でピタリと止まる。

 

 

「愛♪」

 

 

 コマンダーキューポラから自身のたわわの重みと格闘しながら這い出したラブが、砲塔上に腰掛けると嬉しそうな声で愛に呼び掛ける。

 その声に愛も顔を上げるが瞳は俯いたまま視線を合わせない。

 

 

「こっちにおいで♪」

 

 

 ラブの言葉に愛はLove Gunに飛び移るとラブの隣に座る。

 

 

「そこじゃなくてコッチ♪」

 

 

 ラブは嬉しそうに自分の膝を指し示すと愛を優しく抱き寄せ膝の上に座らせた。

 

 

「愛は本当に強くなったね~♪今日だって先に当てたのは愛だもの、あれがペイント弾じゃなくて実弾だったらやられていたのは私の方よ。愛が本当に強くなって私はとっても嬉しいのよ♪」

 

 

 ラブは満足げにそう言うと更に愛を抱きしめ、その頬に軽くキスをした後にスリスリと頬擦りを始め、始めはいつもの無表情に戻っていた愛も母猫に毛繕いをされる仔猫の様に目を細めた。

 

 

「だからラブ姉は愛を甘やかし過ぎなんだってば」

 

 

 Love Gunの砲塔サイドハッチから身を出し、頬杖を突いた砲手の瑠伽が上目使いでそうぼやく。

 ピンクハーツの乗員の少女達からも愛ばかりズルいと抗議の声が上がるもラブはお構いなしだ。

 その光景にティーガーⅠ上から観戦していた黒森峰の少女達もきゃ~♡と黄色い歓声を上げる。

 

 

「ねえ、まほはああいうご褒美はくれないの?」

 

 

 同じ三年生の乗員が敢えて隊長と呼ばずにまほに質問する。

 

 

「やって欲しいのか?」

 

「…やっぱいいわ……」

 

 

 無表情でまほに頬擦りされる場面を想像した少女は、一拍置いて嫌そうにそう返した。

 かくしてここに苛烈を極めた市街地の戦闘も終焉を迎えたのであった。

 

 

「行けおりょう!周りには一切構うな!」

 

「まかせるぜよ!」

 

 

 エルヴィンの飛ばす檄に応じおりょう操るⅢ突が、その名の通り一直線にオレンジペコの乗機であるチャーチルめがけて突撃をする。

 装填手であるカエサルも休む事無く装填し続け、砲手の左衛門佐は狙いを付ける事無く寄らば斬るとばかりに撃ち続けその激しさに相手も怯むほどだ。

 その後方にはケイのシャーマンと梓のM3が極端に車間の狭い一列縦隊で続き、両翼を固めるシャーマンとマチルダⅡの間隔も狭く、まるで一匹の獣の如く突き進んでいた。

 森の中でもアンチョビ達が何とか隙を見て梓達を追撃しようとするも、アンチョビの手を熟知しているカルパッチョの攻撃によりその場に釘付けされ最早完全に勝機を失っていた。

 

 

「今よ!押し返しなさい!」

 

 

 梓達の突撃に呼応する形でここが勝負処とばかりにエリカを中心に重戦車が反転攻勢に出て、オレンジペコの脇を固める本陣の防御陣を突き崩す。

 しかしこれにカチューシャやナオミとアッサムも黙ってはおらず、ダージリンやノンナも更に加わり主戦場中央では激しい砲撃戦が展開されている。

 全弾撃ち尽くす様な勢いで突進していたカバさんチームのⅢ突も集中砲火を浴び遂に戦線離脱、二の矢とばかりに今度はケイのシャーマンがM3の盾になりつつ突撃を続行、オレンジペコの周りを僚車と共に一掃するもここで遂に力尽きる。

 しかし両軍の大将車同士の間隔はお互いの姿を認識出来る距離にまで接近していた。

 

 

「Go!ラビット決めなさい!」

 

 

 ケイの拳を振り上げての声援に力ず良く頷いた梓は車内に再び檄を飛ばす。

 

 

「みんな!これが最後だよ!全力で行こう!」

 

 

 梓の声を合図にあやの副砲の37㎜とあゆみの75㎜の主砲が砲撃を開始、黙々と装填を続ける紗希の努力が実り三発目がチャーチルの捉えるがペコの放ったカウンターも決まる。

 

 

「まだまだー!」

 

 

 操縦手の桂利奈が絶叫しウサギは怯む事無く突進を続けるが再び砲塔基部に直撃弾を受ける、しかし梓は顔に浴びたペイント弾の飛沫を拭う事も無く突撃を敢行、今度はあゆみの放った一撃が転進したチャーチル正面装甲に直撃しペコもまたその飛沫を浴びる。

 お互い前進しつつもその砲撃は途切れる事は無く、普段ほんわかした優季も引き締まった表情で装填を続けており、その気迫の一騎打ちで勝負を決める事を悟った様に周囲の激しかった砲撃戦も止み、其処に居る者全てが決着の行方を見守っていた。

 そこからなおも距離を縮める間にチャーチルは一発、M3は二発の直撃を受け双方残りのカウントは二発と並ぶ、もうお互いの距離もその表情が解るほどに接近し梓もペコも視線を逸らさず互いを睨み据え一歩も引かぬ構えを見せている。

 

 

「あゆみ!あや!これで決めるよ、よく狙って合図で同時に撃って!」

 

 

 全開走行で跳ねるも梓はペコから目を逸らさず砲撃タイミングを計る、ペコもまた同様に撃ち返すべく指示を出し続けチャーチルの75㎜がM3の正面装甲を直撃し再び梓はペイント弾の飛沫を浴びる。

 だがその瞬間に梓は目を逸らさず最後の砲撃命令を下す。

 

 

「今よ!撃て!」

 

 

 主砲と副砲が同時に火を噴く、周囲に居る者皆が息を飲む中撃ち出された二発のペイント弾は、吸い込まれる様にチャーチルを叩き飛沫を飛び散らせる。

 それと同時に砲塔上に白旗が揚がりコントロールより判定を告げるアナウンスが流れた。

 

 

「オレンジペコ大隊フラッグ車被弾数6カウントにより行動不能、よって梓大隊の勝利!」

 

 

 訪れる一瞬の静寂、そしてその直後に沸き起こる大歓声。

 それぞれの戦車を飛び下りると梓とペコの元に一斉に駆け寄って来る少女達。

 

 

「二人共良くやりました」

 

「久し振りにいいものを見せて貰ったわ!」

 

「Excellent!特等席でバッチリ見せて貰ったわ!」

 

 

 詰めかけた少女達から二人への称賛の声は止まない。

 先にリタイアしグランドスタンドでケーキを食べつつ大型モニターで観戦して居る者達も、その二人の気迫溢れる戦いぶりに称賛の拍手を惜しみなく送っていた。

 皆が二人を称え続けるその場所へ、戦闘終了のアナウンスを聞き森の中で激戦を繰り広げていたアンチョビとカルパッチョ達も揃ってやって来た。

 見ればどの車両もペイント弾で染められその戦いが如何に激しかったかを物語っている。

 

 

「いやぁ、今回は完全に読み負けてしまったなぁ」

 

 

 そう言いながら現れたアンチョビはイタリア式に梓に頬擦りをすると、その勝利を祝福した。

 

 

「私の企画は大当たりだったよね~♪」

 

 

 皆が振り返れば愛を伴ったラブとまほが市街地より到着し二人を称えにやって来た。

 

 

「ああ、まさかここまで面白くなるとは思わなかったな、だがそれもこの二人の奮闘あってこそだ。二人共本当によく頑張ったな」

 

 

 そう言うとまほは梓とペコとそれぞれ熱い握手を交わす。

 ここで目が合った二人も握手を交わすとお互いを称えあった。

 

 

「梓さんおめでとうございます。見事な作戦と戦いぶりでした」

 

「い、いえ!厳島先輩の技と最後は砲の数の差で勝てただけです」

 

 

 全力を尽くした二人はそう笑顔で最後を締め、ここに壮絶な紅白戦も全てが終了したのだった。

 

 

「さあ、二人共シャワーを浴びないと可愛いお顔が台無しですわ」

 

 

 ダージリンがそう促すとペコが恥かしげにこう切り出す。

 

 

「私お腹が空いてしまって先にケーキを頂きたいです……」

 

「わ、私もです!」

 

 

 梓がペコに続きそう言った後二人は揃って恥かしげに俯き、その可愛らしい姿に周りに居た者達から起こった心底楽しげな笑い声と笑顔が演習場に溢れていた。

 

 

 




もう書いてて途中で自分でも何度も訳が分からなくなりました。
戦車の数多過ぎ…もう二度とこんなに一度に大量に戦車出しませんw
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