ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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遂にまほチョビ♡


第二十一話   カレーの王女様 まほの細やかな願い

「そうよ~カレーの王女様、あなたの大好物の香りよ♪笠女の金曜日のお昼は自衛隊同様カレーに決まってるの。地元横須賀の町興しの海軍カレーならぬ学園艦カレーよ。横須賀地方総監部と第1護衛隊群各艦の協力の元で笠女独自の味を創って貰ったの、だから味の方もバッチリ保障するわ」

 

「何をボヤボヤしてるんだ!早く行こう!」

 

 

 大好物のカレーの良い香りを嗅いだ瞬間に、いきなり跳ね上がったまほのテンションに皆呆れつつも、その香りに誘われ自然と足の運びも速くなりやがて大食堂に到着した。

 

 

「野菜サラダと牛乳が付くんですのね」

 

「そう、横須賀の飲食店ではそれが付かないと海軍カレーとして公認が取れないのよ」

 

「あら、そうでしたの」

 

「うん、でもまあ屋外イベントなんかだとカレーのみになっちゃうけどね~」

 

 

 ラブとダージリンの会話を耳に入れつつも皆のカレーを食べる手は止まらない。

 

 

「でも細かい事抜きにしてもこのカレーは美味しいわ!」

 

 

 口の周りに付いたカレーをノンナに拭いてもらいつつもカチューシャも満足の笑みを浮かべる。

 周りが会話も楽しみつつ学園艦カレーを堪能する中、まほだけが黙々とカレーの王女様の名に恥じぬ勢いで次々とカレー皿を消費している。

 

 

「ふう!いやぁ実に旨い!さてもう一皿おかわりしよう♪」

 

「お姉ちゃん!それもう五皿目だよね!?調子に乗って食べ過ぎだよ!少し自重しようか!?」

 

 

 放って置けばどれだけ食べるか解らないまほに、みほが咎める様に声を上げる。

 

 

「えぇ…だってなぁ……」

 

 

 不満そうに口を尖らせたまほは、みほの背後のテーブルに視線を向ける。

 みほがその視線を追って振り向くと、その先には華がカレー皿でバベルの塔を築きつつあった。

 

 

「私こんなに美味しいカレーは初めてで何杯でも行けますわ~♪」

 

「やだも~恥ずかしいから止めてよね~!」

 

「華さぁ~ん……」

 

 

 ガックリと肩を落としたみほが向き直ると、まほは既に六皿目のカレー皿を手にしていた。

 

 

「もう!お腹壊しても知らないよ!?お母さんに言うからね!」

 

「そんな事言ったって美味しいんだもん…」

 

「だもんって、これじゃどっちが姉だか解らんなぁ」

 

 

 アンチョビも苦笑しつつおかわりを頼んでいるが、見れば食堂中に居る者は皆おかわりしていて、その光景にラブも満足げに頷いていた。

 

 

「この学園艦カレーもレトルトにしてもう間も無く販売を始めるわ。市内のアンテナショップを始め店頭販売の他にネット販売もする予定なの。丁度私達のCDデビューと同じ頃になるわ」

 

「Oh…この商魂逞しさが厳島なのね……」

 

「私が直接やってる訳じゃ無いわよぉ」

 

 

 ケイにそう言われたラブは苦笑しつつもそう答えた。

 だが皆の食べっぷりからも、これなら問題無く売れるだろうと考える辺りは、間違い無く商才に長けた厳島の者の証であった。

 

 

「CDといえば昔からピアノ弾いたり歌ってたラブはともかく、AP-Girlsのメンバーは聞かされた境遇から考えるとレッスンとか受けたのは笠女に入ってからだろ?よくこの短期間であれ程まで歌えるようになったなぁ。ダンスにしても全然解らない私が見ても凄いレベルが高く見えたし」

 

 

 まほはスプーンを咥えたまま何の気無しに呟いた。

 それを聞いたラブはあ~っと言う表情をするとぽつぽつと説明を始める。

 

 

「ええとアメリカに向う頃からレッスンは始まっていたけど、ヤキマで訓練始めるのと同時にブロードウェイからボイストレーナーやらダンスレッスンのプロに来て貰ったのよ。まあこちらもベース指令のキャンベル少将に仲介して頂いたんだけどね、勿論どのレッスンもとても厳しかったわ。でも特に飛び抜けて厳しかったのがダンスレッスンだったのよ…私の場合身体の状態が状態だけに特にね…」

 

 

 ラブはそう言うや嫌な事を思い出した様に冴えない表情になる。

 その後ろでも凜々子が呻く様に弱々しく声を漏らす。

 

 

「うぅ……キャシディ先生のダンスレッスン…思い出しただけで気分が……」

 

「うわぁ!凜々子こんなトコで食事中にヤメロ―!」

 

 

 夏妃はそう叫ぶや否や凜々子を小脇に抱え慌てて大食堂を飛び出して行く。

 それを呆然と見送った後、まほはやや遠慮がちにラブに尋ねた。

 

 

「その…凜々子君が言っていたキャシディ先生とは一体…?」

 

「うん…私達のダンスレッスンを受け持ってくれたプロダンサーなんだけど、元海兵なのよね……リアルで返事をする時はYes, ma'am!だったし…とにかくレッスンプログラムが桁外れに厳しくて、あの頃私達全員毎晩夢にまで見てうなされてたわ。正直海兵のブートキャンプでもあそこまで厳しくないと思うもの……」

 

 

 そう言ったラブの語尾は震えており、それがその厳しさを物語る様で一同食事の手が止まる。

 

 

「そ、それじゃあヤキマにいた頃はひたすら戦車とレッスン漬けだったって事か……」

 

「まあ…概ねそれで間違いないわ。でもプラス通常授業もちゃんとあったのよ……」

 

 

 想像するだけで嫌になりそうな話に皆ゲンナリした顔になるが、なおもラブの話は止まらない。

 

 

「それでも学園艦内のコンビニに物資があった頃は精神的に持ち堪えられたわ…でもアメリカまでコンビニ定期船は来てくれないし段々物資も底を突いてそれからが真の地獄だったわ!コンビニスイーツもスナック菓子も無くなっちゃって、仕方無く向こうのコンビニ船手配して補給受けたけどね…。知ってる!?向こうのジャンクフードってその名の通りジャンクなのよ!酷いのよ!もうみんなして泣いたわ!戦車の格納庫でもこの食堂でも隅っこに集まって座り込んで泣いたわ!コンビニのおにぎりが食べたい!生クリームたっぷりのプリンが食べたいって泣いたわ!やっと横須賀に帰って来た時は、速攻で周辺のコンビニ絨毯爆撃で襲撃してコンビニスイーツ食べ尽くしてやったわ!!」

 

 

 段々と興奮してチョビひげの閣下の様に腕を振り上げ熱弁するラブに一同ドン引きするが、ただ一人狂気じみたラブの演説に同調する者がいた。

 

 

「分かる!分かるわラブお姉ちゃん!コンビニに何もない世界で人間は生きて行けないもの!」

 

 

 オマエ何を言ってるんだという視線で皆がみほを見るが、みほはラブに駆け寄ると二人滝の様に涙を流しながら熱くお互いの手を握り合う。

 

 

「みほ!あなたは分かってくれるのね!」

 

「当然よ!」

 

 

 展開に誰も付いて行けないが、まほがふとラブの後ろを見れば戻って来た凜々子と夏妃も含め、AP-Girlsのメンバー全員がさめざめと泣いている。

 特に愛の悲しみ様は見ている方まで悲しくなる様な痛々しさで、その背中をさすって慰める鈴鹿の姿も相まってまほまで何故か物悲しい気分になって来た。

 

 

「お、おう…大変な思いをしたんだな」

 

 

 何とかそんな気分を振り払おうとまほは口を開くがそう言うのがやっとであった。

 

 

「そ、それでだな…午後もアレの続きをやるつもりなのか?」

 

 

 アンチョビがまほをフォローする様にラブに声を掛ける。

 

 

「そうね…そのつもりよ…午後からはまた続きをやるとしても明日にはいよいよ横須賀に着くわ。今のうちに説明しておくけど本艦は直接入港しない事にしたの。みんなにはもう一度S-LCACに戦車を積載した上で上陸して貰うね。そうすれば桟橋に二艦ずつ係留出来るから効率良く載せ替えが出来るわ。その時物資の補給も出来るよう手配してあるから、後はスタッフに任せて私達は横須賀の街に出られるわよ~♪」

 

 

 話すうちにそれまでの興奮が嘘の様に元に戻ったラブはケロッとした表情でそう話す。

 背後のAP-Girlsのメンバー達も何事も無かった様な表情をしており、その異常な切り替えの早さに皆暫し口をポカンと開けるのみだった。

 しかしやっと思考が追い付いたダージリンがラブの説明にどうにか反応する。

 

「そ、それでしたらグロリアーナは一番最後で宜しいですわ。母港も近いし皆を見送ってからのんびりとで構いませんから」

 

「うん、解ったわ」

 

 

 その後昼食を終え演習場のグランドスタンドに戻った後、さすがに食べ過ぎな全隊員達がやや長めの昼休みを過し、再びゲームを再開しようとした処、午前中のあまりの狂態ぶりに恥をかきたくない者達が出場を辞退をし始めた為、午後の予定はいきなり空白となってしまった。

 集まった隊長達が午後をどう過ごすか検討し始めた中、まほがラブに対し少し緊張を含んだ真剣な表情である提案をし始めた。

 

 

「な、なあラブ、もし良かったら、これから一緒に私のティーガーⅠに乗らないか?」

 

「な~に?突然また改まった顔してぇ?」

 

「いや、そのな…ラブもあの事故さえなければ黒森峰に来るはずだったろ?そうなっていれば当然一緒に乗る事もあったはずなんだ…だからその…せめて今日ぐらい一緒に乗って貰えないだろうか?」

 

 

 まほのその言葉に一同もハッとした表情になる。

 もう一つの、いや、あの悪夢が無ければ本来であればそうなっていたはずの未来。

 真摯な表情のまほの目じりには涙が浮かんでいる。

 思えばこれまでのまほの戦車道はひたすら我慢の連続であり、それを我儘と呼ぶにはあまりに細やかな小さなまほの願い、それを聞いた一同も思わず胸を打たれ手で口元を覆うのだった。

 

 

「そんな…嫌なんてないわ……私で良ければ…ありがとうまほ……」

 

 

 ラブもその先は言葉にならず両の手で顔を覆うと静かに涙を零す。

 これまでに失ったものの大きさを考えればあまりにも小さい、それでも古くからの仲間達にとってはとても大きな意義のあるまほの願いが今叶おうとしていた。

 

 

「それでしたらまほさん、後二人乗せなければいけませんわ」

 

「え?」

 

「みほさんと千代美を忘れてはいけませんわ」

 

「Yes!そうよ、その通りだわ!」

 

「わ、私もかぁ!?」

 

「そーよ!千代美を黒森峰に熱心に勧誘していた事は皆知っている事だし、ミホーシャだってウチとの一件がなければまた違っていたはずだもの!」

 

 

 カチューシャもまた心の奥底に淀んでいた想いを吐き出すかの如く叫ぶ様に言う。

 

 

「そうか…みんなありがとう!…そうだ!もう一人忘れてはいけない。エリカ!エリカ来てくれ!」

 

「は、ハイ!何でしょう隊長!?」

 

 

 駆け付けたエリカもまた話を聞くにおよび口元を覆い涙を零す。

 

 

「そうと決まったらまほさん、黒森峰全軍を率いて進軍なさい。私達が仮想敵を演じて差し上げます、そして勝敗に関係無く残りのペイント弾全て撃ち尽くすまで撃ち合いましょう」

 

「ねえまほ、AP-Girlsを黒森峰に加えてくれない?ずっと日陰で耐えていたあの子達に王道というものを体験させてあげたいの」

 

「お安い御用さ!西住流と厳島流は姉妹も同然だからな!」

 

「まほ!ありがとうまほ!」

 

 

 かくしてまほの小さな願いを叶えるべく全員が一致団結して再び大戦車戦の準備に走る。

 

 

「誰が何と言ってもまほが車長は絶対ね!」

 

「え?いいのかラブはそれで?」

 

「勿論よ~♪」

 

 

 戸惑うまほにラブは色っぽいウィンクで答える。

 

 

「ならばラブ、オマエは砲手をやるんだ」

 

「え?だって私の右目は…」

 

 

 今度はラブが戸惑うがまほは気にせず快活に言う。

 

 

「今は細かい事は気にするな、撃って撃って撃ちまくればいいんだ!」

 

「…うん!分かった!」

 

「エリカ!エリカは操縦手を頼む!久しぶりにお前の手腕を見せてくれ!」

 

「ハイ!隊長!」

 

「それでは私が装填手を務めるとしよう」

 

「おい、安斎それでいいのか?っていうか大丈夫か?」

 

「フン、あまり私を見くびるなよ?何でもこなせねばアンツィオのドゥーチェは務まらん」

 

「そうか…そうだよなさすが安斎だ!」

 

「アン…まあいいそういう事だ」

 

 

 アンチョビがそう言ってニカっと笑うと最後にみほも笑いながら続く。

 

 

「そうなると私が通信手だね、隊長お手柔らかにお願いします♪」

 

「フッ、私の西住流は厳しいぞ!総員心して掛かれ!」

 

 

 まほがそう言うと全員が大きな声を上げて笑う。

 そしてコントロールタワーが上げてくれた信号弾を合図にまほの檄が飛ぶ。

 

 

「それでは行くぞ!黒森峰の恐ろしさを見せ付けてやれ!パンツァー・フォー!」

 

『jawohl!!』

 

 

 美しいパンツァーカイルを組み、颯爽と指揮を執るまほ率いる黒森峰が行く。

 そのまほの凛々しい目元からは時折光るものが零れ落ちる。

 この日笠女学園艦に集まった戦車達はダージリンの言葉通り、ペイント弾の最後の一発を撃ち尽くすまで縦横無尽に走り回ったのであった。

 

 

「まほ…今日は本当にありがとう」

 

「私が言いだした事で、ラブには付き合って貰っただけだから気にする事は何もないさ」

 

 

 笠女学園艦上での最後の戦車戦も終わり夕食も済むと、まほ達の宿舎に共に訪れたラブは最上階のラウンジで寛ぎつつ改めてまほに礼を言ったが、まほもまた自身の心の中にずっとあった願いが僅かながら叶い満足そうに微笑むとそう返した。

 皆もまた穏やかな表情で何をするでもなく、それぞれの手元のカップから立ち上る湯気をぼんやりと見つめている。

 暫し訪れた昼間の賑やかさが嘘の様な静寂の時間。

 それが照れくさい様な口ぶりでアンチョビが敢えて元気よく切り出す。

 

 

「いよいよ明日は久し振りの横須賀か!ベース前のアメリカンドックとか懐かしいなぁ!」

 

「うん!あれは美味かった♪」

 

 

 まほも思い出したのか嬉しそうに続くがまたみほに怒られる。

 

 

「お姉ちゃんまた昔みたいに何本も食べたらダメなんだからね!?」

 

 

 皆が笑う中まほはまた妹に怒られて口を尖らせブツブツ文句を言っていた。

 

 

「千代美はあれでしょう?素敵な()()()()()に会いたいのでしょう?」

 

「オマエなぁ!ってアンチョビだ!」

 

 

 ダージリンに茶化されたアンチョビは顔を赤らめながら抗議するが、その様子がまた一同の笑いを誘い図星である事を明確にする。

 

 

「ダージリンもそれ位になさいな」

 

 

 笑いつつもアッサムが助け船を出すとそれを潮にお開きの時間となり、ラブは寮に戻り一同もまたそれぞれの部屋に散って行った。

 

 

「全くダージリンのヤツめ~」

 

 

 まほと共に部屋に戻ったアンチョビはまだ少し赤い顔でブツクサ文句を言っていた。

 アンチョビのそんな様子にまほはクスリと笑った後、真面目な顔に戻り声を掛ける。

 

 

「なあアンチョビ…いや安斎……」

 

「ん~、どうした西住?」

 

 

 薄明りのみ灯した部屋のベッドの端に腰掛けていたアンチョビは、まほの声の様子に敢えて怒らず振り向いて、傍にやって来た顔を見上げながら答える。

 

 

「その…隣いいか?」

 

「あ?ああ、構わないよ」

 

 

 答えたアンチョビは自分の隣をポンと叩きまほに座る様促す。

 まほもまたありがとうという感じで一つ頷くとアンチョビの隣に腰を下ろした。

 

 

「で?話は何だろう?」

 

 

 何となく、ぼんやりとではあるが話の内容に察しが付いたアンチョビであるが、それは敢えて問わずまほに意識して穏やかに問い掛ける。

 

 

「そのな…今日ラブや安斎達と戦車に乗って思ったんだ…何と言うかその、私は不器用だから上手く言えないんだが……」

 

「進路の事か…やっぱりな、雰囲気から何となく察しは付いたよ」

 

 

 千代美の口から出た言葉にハッとしたまほはその瞳を大きく見開いた。

 

 

「黒森峰に誘われた時断ったのは本当に済まなかったと思う。だがあの時はアンツィオから寄せられた期待に応えたかったんだ…まあ結果はこのザマだが、それでもぺパロニもカルパッチョも他の者達も私を慕い付いて来てくれた。無に等しかった場所に小さいながらも芽を出す事が出来た。これは私にとって生涯忘れ難い大事な財産だよ。尤もそれを決意したのはラブの一件があったからなんだがな。ラブが帰って来た時、ラブと再会した時に誇れるものを持っておきたかった、これが自分の戦車道だと自信を持って言えるようにしておきたかったんだよ」

 

 

 隣で聞いていたまほはそこまで言った千代美の瞳を真っ直ぐ見つめながら口を開く。

 

 

「私は幼い頃からずっと西住流という名の敷かれたレールの上を歩いて来た。それが間違っているとは微塵も思わなかったし、将来はお母様の後を継ぎ西住流を引っ張って行くのは自分だと今も信じている。だが全国大会の後に聞いたみほの自分の戦車道を見付けたという言葉、大学選抜戦でたった一両のタンケッテで見せた安斎の戦い方、どれも私には眩しかった。そして気が付いた、ずっと私はみほや安斎に一緒に付いて来て欲しいと願っていたがそれは違う。私が付いて行きたかったんだ、私が知らない道を見たかったんだと。私は見たいんだ、安斎の戦車道…いや安斎をもっと近くで見たいんだ!一緒に居たいんだよ…安斎と一緒に……」

 

 

 最後はいつものまほらしくない程弱々しい声になりながらそこまで言うと、俯いてベッドに突いている千代美の右手に両の手を重ね、その重ねた手の隙間に熱いものがポツリポツリと落ちる。

 千代美もまたふっと小さく息を吐くとまほの方に向き直り、左手でまほの頭引き寄せると撫でながら優しい声で語り掛けた。

 

 

「にしずみぃ、オマエも馬鹿だなぁ。オマエは私なんかよりずっとしっかりした道を歩んでるじゃないか。それに比べたら私のやって来た事は本流とは随分とかけ離れたものだぞ?でもな、そう言って貰えて私も本当に嬉しいよ。だけど私と一緒に居ても、果たして西住に得る物があるかと問われたら正直自信は無いんだよ。何と言ってもオマエは西住流の後継者、私なんかとは立場が丸っきり違うんだからな。絶対それを忘れてはいけないんだよ」

 

「だ、だけど私は──」

 

 

 そう言い掛けたまほの唇に千代美は、頭を撫でていた手を止めそっと優しく人差し指を当てる。

 

 

「少し具体的な話をしようか、私の進路の事だ」

 

 

 千代美はそう言った処でまほの唇から指を離すとまほの瞳を見つめ話を続けた。

 

 

「有難い事にこんな私にもいくつかのオファーは来ているんだ。大学や発足間近で選手集めに奔走しているプロリーグのチームからもね。私としてもプロの話は魅力的だったよ、声を掛けて来てくれたのは実業団でも強豪と呼ばれるチームばかりだったから。でもね、そこで改めて私は考えたんだ。確かに強豪に行って勝利を掴むのも悪くない、でもそれは私の戦車道ではない気がするんだよ。私の戦車道は常に無い無い尽くしの道で、正直苦労の連続だから報われない事の方が遥かに多い。だけど私と共にその苦労を分かち合って、小さな勝利を掴んだ時の仲間の笑顔は私にとっては何物にも代えられない素晴らしいものなんだ。」

 

 

 語り続ける千代美の瞳をまはも真っ直ぐ見つめ返し決して目を逸らさない。

 一言も聞き漏らすまいとするまほの瞳の輝きをを千代美はとても眩しく感じていた。

 

 

「丁度そう考えていた頃かな?地元の大学から声が掛かったのは。そこは大学自体も結構大きくて学力的にはそれなりレベルも高いんだ。まあ学校が大きい分各種スポーツやそれ以外の活動も盛んでいいんだけど、その分広く浅くで突出したものがないんだ。戦車道もちゃんと活動していていい加減な選手は居ないけど、やはり有力選手はそれなりの大学に行っちゃうだろ?だからリーグ戦でも戦績はパッとしないし大学選抜に強化選手が招聘される様な事も無い。でも大学としても最近の流れから戦車道のテコ入れはしたいらしく、たまたま大学選抜戦の私を見た関係者が、大学側に掛け合って私に白羽の矢を立ててくれたんだよ。何より私が地元というのも大きいんだけどね」

 

「な、ならば私も──」

 

「待ってくれ!西住、まず落ち着いて聞いて欲しいんだ。これはこの先人生を左右する大事な話なんだからもう少しだけ待ってくれ」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 逸るまほの気持ちを静める様、千代美が今度はまほの両手を己が両手でそっと包む。

 一呼吸置いた千代美は優しく微笑むと再び話を続けた。

 

 

「西住ありがとう、その気持ちは私もとても嬉しいよ。でもね、軽々しく私の進む道に西住を巻き込みたくはないんだ。何しろ大学の戦車道だ、そこでアンツィオでやった事と同じ事をしようとしたら、その大変さは今までの比ではないだろう。もしそこで西住が一緒に居ても、失敗すればそれは西住流の名に大きな傷を付ける事になる。私はそれが怖いんだよ、西住の将来に大きな影響を与えてしまうからね」

 

 

 少し俯いた千代美は両手で包んでいるまほの手を優しく撫でさする。

 伝わって来る千代美の温もりと優しさにまほの瞳が潤み始めた。

 

 

「安斎、私はもう自分で進む道を選ばずに後悔はしたくないんだ。自分で決めた道を進んで傷付く事があったとしても、それは自分の責任でそれもまた必ず自分の将来の糧になると私は思うんだ」

 

「だからだよ、だからこそ慌てずに考えて欲しんだ。幸いまだ時間はある、よく考えた上で決めて欲しい。何より西住には西住流後継者としての立場があるんだから。まず家元と…ご両親と落ち着いて話し合って欲しい、喧嘩腰になったりせず真摯に自分の気持ちを伝えるんだ。その上で決意が揺るがずにいるのであれば私も一緒に同じ道を進んでみたい。どちらかに付いて行くんじゃない、一緒に並んで手を取り合って道を進みたいんだ…それでは駄目だろうか?」

 

 

 顔を上げた千代美の瞳もまた潤み、唇は何かを求める様淡い光を放つ。

 

 

「ああ、それで構わない…いや、それこそが私の望む道なんだ。疾しい気持ちを抱えずに、その道を一緒に歩ける様ちゃんとお父様とお母様とも話をする」

 

「そうか…ありがとう西住…でも本当に私でいいのか?とても大変な道だぞ?」

 

「安斎と一緒なら私は何も怖くない、一緒に信じた道を進みたいんだ」

 

「西住…西住の瞳は眩しいな……」

 

 

 見つめ合う瞳と瞳には優しい光が溢れている。

 少し俯いた千代美は恥ずかしげに小さく言うと手を伸ばし部屋の灯りを更に暗くした。

 薄闇の部屋の中二つの影が重なり一つになる。

 まほと千代美、二人の優しい夜はゆっくりと静かに更けてゆく。

 

 

 

 




海自に結構知り合いがいるので、
何度となくカレーは御馳走になってますが本当に美味しいんですよ♪

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