ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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このタイトル大丈夫かな?


第二十四話   ケダモノフレンズ

「千代美さん、どうかこちらへ」

 

 

 少し戸惑いつつアンチョビが亜梨亜の傍までやって来ると、亜梨亜はその手を取り三年前のアンチョビの働きに対する礼と、その後の行動に対する詫びの言葉を語り出した。

 

 

「千代美さん、あなたが居なければ恋はこうしてここに立つ事も出来ませんでした。その千代美さんにあの時ろくに感謝を示す事をしなかったばかりか、親子共々何も告げず姿を消した事、その後も一切の音信を絶った事をお詫び申し上げます。本当に申し訳御座いませんでした。」

 

 

 そのまま土下座しそうな勢いの亜梨亜をアンチョビは慌てて押し止め被せる様に言った。

 

 

「どうかそれ以上はお止め下さい!お礼の言葉ならあの時確かに頂きました。それに私は…いえ、私達はこうしてラブが帰って来てくれた、それだけで充分なのですから。そうだろうみんな?」

 

 

 アンチョビが集まって来たもの達にそう問えば、皆がその通りとばかりに頷く。

 それを受けた亜梨亜とラブは一同に向かい改めて深々と頭を下げるのであった。

 

 

「ありがとう…本当に有難う御座います。皆様のお気持ち確かに頂戴致しました。そして大変厚かましくはありますが、これからも改めて恋を宜しくお願い致します。何かと至らぬ処の多い娘ではありますが、この日の為に耐え抜いて来たこの子をどうかお見捨てなきよう伏してお願い致します」

 

「亜梨亜おば様、安斎の言った通りこれ以上はもう。私達はこの日を信じて待ち続けました、そして願いはこうして叶ったのですからもういいんです。」

 

「まほさん…ありがとう……」

 

 

 亜梨亜は短く礼を述べ、まほとみほ、そしてアンチョビを始め一同とそれぞれ抱擁を交わす。

 ステージを降りたAP-Girlsの少女達もその光景にお互い支え合い静かに涙を流し、更にアリーナに集う全ての者達も同様に涙を流していた。

 特に勇猛果敢ではあるがこういう場面に滅法弱い知波単の隊員達は、隊長の絹代を始め整列し直立不動で滝の如く涙を流しているのだった。

 

 

「し、敷島殿ぉ!」

 

「い、言うな西ぃ!」

 

「英子さぁん…」

 

 

 感涙する西の呼び掛けに号泣寸前の英子はそう言うのがやっとで、この人もまた骨の髄まで知波単なのだと思わせる光景ではあったが、アンチョビは下がり眉毛で困った顔をするしかなかった。

 しかしこうして欠けていたピースがやっと揃い、新たな船出の準備が整ったのだ。

 その後は改めて再会を祝しての乾杯、AP-Girls同様ステージを降りた七艦バンドのメンバー達も交えてのパーティーは夜が更けるまで続き、英子や知波単の隊員達が学園艦からそれぞれ立ち去ったのは日付けも変わる頃であった。

 因みにこの日は亜美も招待を受けていたものの、観閲式の残務整理に追われ泣く泣く出席を辞退しており、後に英子から嫌味満載の自慢話をされ盛大にキレたのはまた別の話。

 

 

「それでこれから先ラブ達はどうするんだ?」

 

 

 ウェルカムパーティー終了後宿舎に戻った一同は、同行したラブと共に最上階のラウンジで笠女学園艦での最後の夜を少し夜更かしして語り合っている。

 そんな中アンチョビはラブ達の今後の動向について尋ねてみたのだ。

 

 

「うん、当面というかCDの発売予定日前後までは横須賀に居る事になるわ。何しろこの艦まだ未完成だし発売日には地元からテレビ中継の予定もあるから、それまでに少しでも遅れに遅れてる艦内工事を進める事になってるのよ。これまでの状況が状況だから、他校との練習試合の話しなんてのはまだ一切来てないし」

 

『それならウチと最初に!』

 

 

 その場に居た全員が同時に最初の練習試合の相手に名乗りを上げた。

 

 

「ちょっとぉ!プラウダ(ウチ)が一番に決まってるじゃない!」

 

「何を仰ってるの?聖グロこそが一番を飾るに相応しいですわ」

 

「No.No!ここはサンダースで決まりじゃない!」

 

「それを言うなら我がアンツィオこそが一番だと思うのだが」

 

「ここは血縁者である私のいる黒森峰が優先されるべきだろう」

 

「お姉ちゃん、それなら私のいる大洗だって同じだよ!」

 

 

 突如始まった論争にラブはポカンとした顔で口を挟めない。

 その間にも喧々諤々やり合って意見は一向に纏る様子は見えなかった。

 当事者であるはずが蚊帳の外に置かれたラブがどうにか声を掛けてみるも、誰一人それに応えずどの学校が最初にラブ率いる笠女と練習試合をするかで舌戦を演じていた。

 

 

「お~い」

 

「ですから伝統と格式、それを考えれば聖グロで決まりですわ!」

 

「あの~」

 

「それなら我が黒森峰も同じ事だ!」

 

「もしも~し」

 

「Wow!そんな古臭い!ここはやっぱりサンダースよ!」

 

「ハロ~ハロ~」

 

「だからプラウダだって言ってるじゃない!粛正されたいの!?」

 

「やっほ~」

 

「やはりラブを救った功労者の私のいるアンツィオだろう!」

 

「聞こえてますか~?」

 

「全国大会覇者の大洗が一番だと思うの!」

 

「……誰もおっぱいで私に勝てないクセに……」

 

『なんだとう!?』

 

「聞こえてるんじゃない…大体当事者の私を置き去りにして話し進めないでよ~」

 

「誰の為を思ってやってるとお思いですの!?」

 

 

 ダージリンはそう吠えるが本来の目的を完全に見失っているのは明らかだ。

 

 

「こうなったらジャンケンで勝負だ!」

 

『これアカンやつや…』

 

 

 拳を握って叫ぶまほの提案にラブはそう思ったが口には出さなかった。

 そして騒ぐ一同を余所にソファーに向かい、数枚の備え付けのひざ掛けとクッションで簡単に寝床を作ると一応皆に声を掛ける。

 

 

「決まったら起こしてね」

 

 

 誰もそれに反応しないが一応言ったわよといった風に肩を竦めそのままソファーに横になる。

 そしていまだ練習試合の相手が決まっていない笠女の練習相手になるという当初の目的を完全に見失い、何処が最初に対戦するかを争う深夜の不毛なジャンケン大会が幕を開けた。

 

 

「いいか?行くぞ!最初はグー!ジャンケンぽん!」

 

「あいこでしょ!あいこでしょ!しょ!しょ!しょ!────」

 

 

 まあご想像の通りのお約束で、それから小一時間経っても勝負は付かず、既に一同赤い目で肩で息をして睨み合っている。

 

 

 

「ううん……」

 

 

 ひざ掛けに包まっていたラブがソファーの上で寝返りを打つ。

 

 

「あ!コイツいつの間に寝てたんだ!?」

 

「今更何を言ってるんですの?」

 

「アナタ達がジャンケン初めてすぐからですよ」

 

「気付かなかったのか?」

 

 

 まほの叫びにこちらも延々待たされて目の赤いアッサムとノンナとナオミが答える。

 

 

「全く誰の為にみんなが苦労してると……」

 

 

 ツカツカと眠るラブに近付き起こそうとしたまほの動きがピタリと止まる。

 不審に思った一同が歩み寄りまほの視線の先を覗き込むと、同様に全員がその場で固まった。

 寝返りを打ちこちらを向いていたラブの寝顔、その頬には色っぽく後れ毛が掛かり少し開いた唇からは微かに寝息が聞こえ、その唇はグロスを重ねた口紅が艶めかしく淫靡な光を放っている。

 

 

 

 ゴクリ──。

 

 

 

 同時に全員が生唾を飲み込む音が響く。

 愚にも付かない論議の末延々と繰り返したジャンケンで深夜に無駄に体力を消耗し、血走ったケダモノの目で蠱惑的なラブの唇を凝視する少女達。

 全員すっかり思考力も低下しポンコツに成り下がったオツムに浮かぶ事といえば──。

 

 

『おいしそう……』

 

 

 そんな妄執に囚われた一同の中からすっと歩み出たまほが、ラブの傍らに片膝を突くと、ごく自然にラブの頤に手を当て顔を近付けて行く。

 今まさにラブ唇にまほの唇が重なろうとしたその瞬間、ガシっとナオミがまほの後頭部を掴むと一気にラブから引き離した。

 

 

「今何をしようとした?」

 

「何って、昔から眠り姫を眠りから覚ますのは王子の口付けと相場が決まって──」

 

「誰が王子ですってぇ!?」

 

 

 頭を掴まれたまま戯言を言うまほにカチューシャが噛み付くが、その隙に今度はダージリンがラブの唇を奪うべく跪き頬に手を添えようとしたが、背後に電光の勢いでアッサムが滑り込むと勢いのままダージリンにチョークスリーパーを敢行する。

 

 

「ア、アッサム…!?何を…!?」

 

「その言葉そのままお返ししますわ」

 

 

 本気で落しにかかっているとしか思えない勢いでダージリンを締め上げるアッサム。

 そこからはもう当初目的が完全に入れ替わりラブの唇争奪杯という、凡そ部下たちには見せられない実に馬鹿げたキャットファイトが展開され始めた。

 乱戦の隙に誰かが抜けだせば引き戻し、共闘したかと思えば裏切り見苦しい事この上ない。

 

 

「ノ、ノンナ!?」

 

「例えカチューシャ様でも抜け駆けは許されません」

 

「Heyラブ!私が良い事って…グハぁ!」

 

「さあラブお姉ちゃん、私と一緒に天国にいこ…おぶぅ!」

 

「全くみんな酷いよなぁ、こういう時は優しく…うああ!」

 

 

 着ている制服は乱れ、おパンツ丸出しで組んず解れつもみ合う少女達。

 そのいつ果てるともしれない戦いの最中に再び微かに漏れ聞こえたラブの声。

 

 

「う…ん…」

 

 

 その声に反応し一同が目を向けたその前で──。

 

 

 

 くるん──。

 

 

 

 なんとラブが再び寝返りを打ちソファーの背もたれの方を向いてしまう。

 

 

「あぁ!」

 

「なんて事!」

 

「千載一遇のチャンスがぁ!」

 

「あとちょっとだったのにぃ!」

 

「オマエ達が足を引っ張るから!」

 

「なんですってぇ!?」

 

 

 完全に理性を失ったケダモノ達は、今度は大声で罵り合いを始める。

 この時既に練習試合の事など完全にその頭の中からキレイさっぱり抜け落ちていた。

 そして更にエキサイトし一段と声が大きくなったその時。

 

 

「んも~、うるさいなぁ…なんなのよぉ~?」

 

『あ……』

 

 

 余りの煩さにとうとうラブが目を覚まし、起き上がると眠い目を擦りつつ不満を口にする。

 

 

「今何時よ~?順番は決まったの~?」

 

『あ゛……』

 

「もしかしてまだ決まってないの~?アンタ達バカじゃないの~?私もう帰って寝る~」

 

 

 そう言うとラブは立ち上がりひざ掛けとクッションを元に戻し、ふらふらと立ち去ってしまった。

 

 

『……』

 

 

 事此処に至って漸く当初の目的を思い出したおバカさん達だが、時既に遅くラブは寮に帰り残ったのは徒労感のみで、疲れ切った表情でトボトボとそれぞれの部屋に引き上げるしか出来なかった。

 

 

「うぅ…私達何やってたんだろ…それにしてもラブお姉ちゃん増々色っぽくなってたなぁ……」

 

 

 疲れ切って部屋に辿り着いたみほは薄闇の中に浮かぶシルエットを見て硬直する。

 

 

「みほぉ……」

 

 

 今夜もまたエリカがベッドの上で正座をしてみほの帰りをひたすら待ち侘びていたのだ。

 

 

「エリカさん!」

 

 

 その瞬間目が覚めたみほは、今の今まで自分がやろうとしていた行いに愕然とし、文字通り飛びあがるとその場で床のカーペットに頭を打ち付け土下座を始めた。

 

 

「ゴメンナサイ!エリカさんゴメンナサイ!ゴメンナサイ!エリカさんという者がありながら私はとんでもない事をしようとしてしまいましたぁ!」

 

「み、みほ?一体何を言っているの?」

 

 

 みほにエリカが声を掛けるも、みほは床に頭を打ち付け続ける。

 

 

「何の事か解らないけどもう止めなさいよ。それよりこれでまた暫く会えないのよ?だから……」

 

「エリカさん!」

 

 

 みほの手を取り立ち上がらせたエリカは、そのまま二人今度はベッドに倒れ込む。

 

 

「あぁ、みほぉ…」

 

「エリカさん♡」

 

 

 こうして今夜もケダモノ達の夜は更けて行く。

 そして同時刻まほとアンチョビの部屋では──。

 

 

「済まない安斎!」

 

「済まない西住!」

 

『オマエという者がありながら私はとんでもない事をしようとしてしまったぁ!』

 

 

 部屋に戻り頭が冷えた二人はベッドの上で土下座合戦を繰り広げていた。

 

 

「あぁ!あんざいぃ♡」

 

「あぁ!にしずみぃ♡」

 

 

 まあその後結局はやる事やってる辺りはこちらもやはりケダモノだった。

 

 

 

 

 

 

 明けて翌朝、笠女学園艦で最後の朝食を取るといよいよ別れの時間が訪れる。

 笠女学園艦のヘリデッキには各校の隊員が集合し、スーパースタリオンで各艦に帰艦する前にそれぞれが別れの挨拶を交し合っている。

 結局昨夜決まらなかった練習試合の順番は、朝食後にラブが用意したホワイトボードを使い、あみだクジをやった結果たったの五分で決まるというオチが付いていた。

 

 

「う~ん…」

 

 

 皆が別れの挨拶を交わす中、ラブが独り腕を組み首を捻っている。

 

 

「どうしたラブ?何一人で唸ってるんだぁ?」

 

「ん~?あぁ千代美…」

 

「アンチョビだ!それより何考え込んでたんだ?」

 

「んっと…あのさ、ミカって子だけど今はムー○ン谷(継続)にいるんだよねぇ?」

 

「ムー○ン谷言うなぁ!で…そのミカがどうした?」

 

「あの子さぁ、今回の観閲式出てたよねぇ…?」

 

「あぁ、あれも変わってるが一応出てたぞ。なんか隅っこの方にいたがなぁ」

 

「それなのよぉ、あの子私の顔見るとすぐどっか行っちゃうのよねぇ…私嫌われてるのかなぁ?」

 

 

 ラブはそう言うと眉を寄せて再び腕を組み首を捻る。

 

 

「何でって…そりゃお前初対面であんなエグい悪戯されたらそりゃ避けるだろうに……」

 

 

 アンチョビは呆れた顔でラブにそう言い、一同もコイツ忘れてるのかとジト目でラブを見つつ更にヒソヒソ声で会話を交わす。

 

 

『それにあのアキとミッコってどう考えてもラブのどストライクゾーンよね?』

 

『ええ、100%間違い無く』

 

『昔から小さくて可愛いものに目が無いですもの』

 

『そんなラブの前にあの二人を晒したら…』

 

『まさにトンビに油揚げ』

 

 

 隊長達の様子を遠巻きに見ていた隊員達も、漏れ聞こえる会話に一斉にラブを白い目で見る。

 

 

『この人いったいナニやらかしたのよ!?』

 

 

 それに耐え兼ねたラブは慌てて声を上げた。

 

 

「な、なによぅ…みんなしてそんな目で見てぇ…っとそれよりみんなにお土産があるのよ~♪」

 

『あ…ごまかした』

 

 

 周りからの視線と心の声を躱そうとラブは必死にお土産のアピールを始める。

 

 

「今回の全試合とステージのDVDと学園艦カレーのレトルトよ~!全員分用意したからね~♪」

 

 

 あっさりとカレーに反応してしまったまほが最初に歓喜の声を上げてしまう。

 

 

「本当か!?あのカレーは本当に旨かったからこれは有難い♪」

 

 

 ヤレヤレといった顔のアンチョビだが、ふと思い出しニヤリとするとDVDについて聞いて来る。

 

 

「そうか、あの試合は色々収穫もあったしDVDは今後の演習の参考になるな。それに全試合という事は当然あの場面も収録されているんだろ?」

 

「あ…!ちょっと!ちゃんと編集であの場面カットしてあるわよね!?」

 

 

 アンチョビの言葉に顔に縦線の入ったラブは、お土産をセットにした校名入りの手提げ袋を配布する映像学科と給養員学科の生徒達に声を掛けるが、映像学科の生徒達は聴こえないフリしてそのまま手提げ袋の配布を黙々とペースを上げて続けていた。

 

 

「あ~!ナシ!お土産の配布はなし~!中止中止~!」

 

 

 ラブは慌てて叫ぶと手提げを配るのを阻止しようとするが、アンチョビ達が結束してそれを阻む。

 

 

「いやあ、これは良い土産が出来た!ありがとうラブ♪」

 

「ホントですわ♪」

 

「Yes!さすが厳島は太っ腹ね!」

 

 

 口々にわざとらしくラブを褒め称えながら腕を絡めたりしてその動きを封じる。

 

 

「イヤ~!みんないじわる~!」

 

 

 ラブの叫びが響きヘリデッキは大きな笑いに包まれる。

 その後は涙目のラブを笑いをかみ殺しながらも皆が優しく慰め、何とか納得させお宝映像の入ったDVDを無事確保するのであった。

 

 

「そんなに恥ずかしがる事はないわ!」

 

「ああそうだ、ラブが如何に愛君を大事に思っているか伝わる良い場面じゃないか」

 

「ホント…?ホントにそう思ってるの…?」

 

『ええ、勿論よ♪』

 

 

 今まで誰にも見せた事の無い様な誠実な笑みで一同が返事をする。

 

 

「なら…いいけど……」

 

 

 不承不承といった感じではあるものラブが納得すると、一同安堵の表情になった。

 但し揃って背中で親指を立てているのはかなりアレな気もするが。

 お土産の配布が終わると各艦へ向けスーパースタリオンによる隊員達のピストン輸送が始まる。

 最後まで残っていた隊長達ともいよいよ別れる時が来た。

 

 

「練習試合を楽しみにしてるわ!その時には本留学の手続きを終えたクラーラも、本国から戻って来るから紹介するわね!」

 

「くれぐれも身体を大事にするのですよ」

 

「うん、ありがとうカチューシャ、ノンナ」

 

「Hey!佐世保に来たらレモンステーキを御馳走するわ♪」

 

「またバラードで泣かせてくれ…」

 

「うふふ、解ったわケイ、ナオミ」

 

「熊本で待っているぞ、お母様と一緒にな」

 

「その時は私も熊本に行くからね」

 

「うん、必ず亜梨亜ママと一緒に行くから」

 

 

 ラブはそれぞれと別れの挨拶と共にハグを交わす。

 

 

「……」

 

「千代美?」

 

「…あの時これが悪い夢であればと、時間を巻き戻せるならとどれ程思ったか…。後になって気付いた…私が榴弾の事など言わなければ、ラブがこんなにも辛い思いをしなくて済んだのにと……結局ラブを酷い目に合わせてしまったのは私なんだと…再会してからここまで、言おうとしても言えなかった私は卑怯者だ…済まない…ラブ……」

 

 

 アンチョビは消え入りそうな声で、これまでずっと胸の内に抱えていた想いを洩らすと、ガクリと膝を突き両の手で顔を覆い静かに泣き始める。

 顔を覆う指の間から零れ落ちた涙は、降り始めの雨の様に飛行甲板に黒い染みを作って行く。

 其処に居る者皆、それまでずっとアンチョビが抱えていた心の葛藤に、誰も気付いてやれなかった事に深い後悔と自責の念で掛ける言葉を見付ける事が出来なかった。

 

 

 




もうチョビ子を泣かせるつもりはなかったのにまた泣かせてしまいました。

う~ん、しかしラブはミカに一体何をやらかしたんでしょうねぇ…?

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