ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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これにて第二章も終了です。

AP-Girlsも遂にメジャーデビュー。
今後彼女達がどんな活躍をするのか私にも解りません。
何しろ主役はあのラブですからねぇ♪


第二十六話   Full Throttle Girls

 まほの来襲から休む間もなくハードな日々は続く、それもCD発売日まであと数日ともなれば当然であり、発売当日の地元横須賀でのキャンペーンイベントのリハーサルもかなり熱が入っていた。

 何しろ特別開放日となるベース内をパレード後、横須賀中央からメインストリートを通り再びベースに戻り、学園艦内のAP-Girls専用アリーナで一般向けの初のライブを行うとなれば緊張感が高まるのも当然だった。

 今もステージ最後で行うメンバー全員によるエレキ同時演奏のリハーサルを行っているが、エレキ以上に当の本人達の方が遥かに喧しかった。

 

 

「また1弦が切れた……」

 

「愛は切り過ぎ!この馬鹿力!」

 

「うるさい…自分は6弦切るクセに……」

 

「んだとー!」

 

「あー!ソコ!もうやめ!それよりこのアンプ音出てないわよ!」

 

「やっぱコレ弦高低過ぎ!直ぐに音がビビる!」

 

「単に鈴鹿が下手過ぎんのよ!」

 

「何ですって!?もういっぺん言ってみなさいよ!」

 

 

 日頃は結束力が高く見えて、実際はこうして結構ケンカも多いのが彼女達であった。

 しかしそれは戦車道もステージも、より完成度の高いものを求めるが故であり、普段の仲の良さは本当の姉妹でもそこまでではないであろう程だ。

 まあ全員終わればケロっとしているし、これも一種のスキンシップなのだろう。

 現に今もダージリンとアッサムから差し入れの横浜銘菓の詰め合わせが届き、ステージ隅っこでメンバー一同集まって座り込み、即席のお茶会を始めている。

 

 

「はぁ♡ミルフィユおいし~♪」

 

「私にもレーズンサンドちょ~だい」

 

「はいよ~♪」

 

「ダージリン先輩もアッサム先輩も美人だし優しいよね~♡」

 

「うふふ♪私の自慢の友達よ」

 

「でも二人共かなり変だよね……」

 

「それ言ったらラブ姉のお仲間はみんなねぇ…」

 

「あはは…まあそう言わないであげてよ。身内のまほとみほ以外じゃ、ダージリンとアッサムが一番付き合いが長いんだから」

 

「え?そうなの?」

 

「うん、横須賀と横浜で近いでしょ?小学校戦車道の頃からだからねぇ」

 

「そうだったんだ~」

 

 

 他愛も無い話をしながらの息抜きタイム、こんな時にラブはふと不思議な笑みを見せる。

 

 

「あ、ラブ姉またその顔してる」

 

 

 Love Gun砲手の瑠伽がレーズンサンドを頬張りながらそう指摘すると、他のAP-Girlsのメンバー達もそう言われれば確かにと頷き合う。

 

 

「え?どんな顔だろ…?」

 

「ん~、何て言うのかな?嬉しそうな悲しそうな…ゴメン上手く説明できない」

 

「こうやってみんな揃っておやつ食べたり他愛も無い話してる時とかするわよね」

 

『あ、そうそう』

 

 

 答えに困った瑠伽に続いて凜々子が言った事に一同相槌を打つ。

 言われたラブはそういう事かと気付き打ち明ける様に話し始めた。

 

 

「ああ、そうか、そういう事ね…みんなも知っての通り、私は中学三年の夏前に事故に遭ってそこから約三年学校に行ってなかったでしょ?その間は色々な人に勉強は見て貰えたけど、普通の学生の生活って出来なかったの。みんなもう卒業しちゃって周りには誰も友達も居なかったし…だから何て言うかな?みんなと過ごすこういう何でもない時間がとっても嬉しいのよ」

 

 

 ラブの話を聞いた一同は少し俯きしゅんとしてしまう。

 

 

「あ、ゴメン、みんなそんなにしょんぼりしないで。言ったでしょ?みんなとこうしていられるのが嬉しいって。遠回りした分こんな素敵な仲間に出会えたんだもの、今は最高に幸せよ♪」

 

『姉様!』

 

 

 穏やかで優しい笑みを浮かべたラブの言葉に、少女達が一斉に寄りそう。

 

 

「あはは♪みんな苦しいって~、こんなに可愛い妹達がいっぱい居てホント幸せよ♡」

 

 

 それぞれが抱えた事情は様々でも、そこに救いの手を差し伸べ惜しみなく愛情を注ぎ続けるラブは少女達にとっては姉であり女神であり、そんなラブの細やか過ぎる幸福感に少女達は胸を打たれる。

 この人となら何処までも、この人の為ならどんな事でも、それこそが彼女達の結束力の高さの源であり強さの元となっているのだろう。

 

 

「さあ!もうひと頑張りしよっか!」

 

『ハイ!』

 

 

 それからAP-Girlsデビューの日まで、それまで以上の熱心さで練習が繰り返されたのだった。

 そして迎えたCD発売日は朝から快晴に恵まれこれ以上は無い晴れの日となり、戦車の格納庫で最終点検を行うAP-Girlsのテンションも相当に高くなっている。

 

 

「各車履帯は問題無いね!?パレード中の戦闘機動で切れたら大恥だからね!」

 

「全車問題無し!」

 

「紙吹雪弾と特殊スモーク弾の数も間違い無いね!?」

 

「大丈夫!」

 

 

 ラブの確認の声に全員がテキパキと応える。

 全車既に何時でも出られる状態になりラブもまた満足げに頷く。

 

 

「厳島隊長!時間です、メイク入って下さい!」

 

「了解、今行く!」

 

 

 学園艦内でのイベントに備え、格納庫併設のメイクルームに一同が向かう。

 待ち構えていたメイク学科の各部の生徒達が、一斉にラブ達にステージ用メイクを施し始める。

 メイクを終え格納庫に戻ると笠女映像学科のカメラと地元ケーブル局、更に民放各社のカメラが待ち構えており、新聞雑誌のカメラマン達のフラッシュが激しく光を放つ。

 

 

「なあ?アタイら今日が芸能界デビューの新人だよな?」

 

「それが何よ?」

 

 

 何処か腑に落ちない顔でそう言った夏妃に凜々子が逆に聞く。

 

 

「いやさ、アタイもよく解んねえけど新人のライブとかいきなり生中継とかすんのかな?普通歌番組とかにちょこっと出たりする程度じゃね?」

 

「何言ってんのよ…私達のバックは厳島よ?普通な訳無いじゃない」

 

「まあそうだけどさ……」

 

「何よ?今更スケールに怖気付いたの?」

 

「いや、そういうのはとっくに慣れた。ラブ姉と一緒に居ると何やっても桁外れだから」

 

「まあそうなるわよね……」

 

 

 そう言っている間にも、テレビで見た様な芸能レポーターやらが彼女達を取り囲み矢継ぎ早に質問を浴びせて来て、暫くはそれぞれがそれに応えるべくアイドルの顔になっていた。

 

 

「それでは時間です!報道の方は格納庫の外に退去願います!」

 

 

 教員や警備員達に促され報道各社の記者やカメラマン達が、トラロープで仕切られた規制線の外に退去させられるとラブ達はいつもの様に円陣を組み始める。

 

 

「みんな、いよいよだね。私も今日は多くは言わない。言わなくたって大丈夫なのは解ってる。みんなそれだけの努力をして来たんだから。それじゃあ行くよ……」

 

 

 ラブの言葉に皆一斉に腰を屈める。

 

 

「AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 いつもの掛け声に円陣が崩れるとそれぞれの乗機に駆け寄り搭乗して行く。

 点検も既に終えており全車万全の態勢でその時を待っている。

 Love Gunのコマンダーキューポラに収まったラブが左右を確認し、瞳を閉じると静かに右手を掲げ親指を立てる。

 

 

「ready…Shout of starting the engine!(目を覚ませ!雄叫びを上げろ!)

 

『Yeaaaah!』

 

 

 号令と同時にエンジンが目を覚まし咆哮を上げる。

 報道陣でも戦車に慣れない者はその激しい轟音だけで思わず後ずさり、カメラを構えていた者達もそれまでお嬢様然とした雰囲気だったラブが豹変し放つ迫力にゴクリと喉を鳴らす。

 ベテランの芸能レポーター達も彼女達AP-Girlsが、そんじょそこらのグループアイドルとは一線を画す事をこの瞬間理解した様だ。

 ラブはその光景を見て満足そうに頷くと不敵な笑みを浮かべ出陣の号令を下す。

 

 

「Tanks move forward!」

 

 

 号令が下ると深紅のハートのLove Gunに続き四色のハートが一列縦隊を組み前進を始め、格納庫から舷側のタラップに向かう沿道には、笠女全生徒が両側に並び祝福の敬礼を送る。

 その間を進む五両のⅢ号J型戦車からも、各コマンダーキューポラから顔を出す車長を始め手の空いている者は答礼を送りそれに応えていた。

 学園艦を降りれば既に解放されたベース内にも既に多くの見物客がおり沿道を埋めている。

 やがてAP-Girlsがパレードスタート地点となる色取り取りの生花で飾り付けられたアーチの下に到着すると、先導車両となる数台の警察車両が止まっていた。

 

 

「あれ?」

 

 

 Love Gunをその後ろに停車させると、打ち合わせ中と思しき警察関係者の中に見覚えのある人物を見付けたラブはLove Gunから飛び降りるとその人物の元に駆け寄った。

 

 

「敷島刑事!」

 

「あら、恋さんおはよう。先日は御招き頂きありがとうございました」

 

「あ、いえこちらこそ。それより今日はどうしてここに?」

 

「私が今日のパレードの警備主任なのよ、私が先導させてもらうからよろしくね」

 

「え?そうだったんですか…でもどうして?」

 

「ええ、パレードの許可申請の際に、お母様から直々にご指名頂いたのよ」

 

「亜梨亜ママから?」

 

「うふふ♪だから今日は役得」

 

「まあ♪それでは今日一日宜しくお願い致します」

 

「了解!」

 

 

 ラブが元気良くペコリと頭を下げると、英子もまた大仰に敬礼をして見せた。

 二人揃って目が合うと同時に思わず吹き出す。

 

 

「それじゃあ頑張ってね!」

 

「ハイ!ありがとうございます」

 

 

 先導する面パトの一両に英子が乗り込むと、ラブもまたLove Gunに戻り出発の合図を待つ。

 程無くしてパレードの出発を告げる花火が上がりいよいよその時が来た。

 

 

「AP-Girls!Go for broke!!(当たって砕けろ!!)

 

『Yeaaaaaaaah!!』

 

 

 ラブの号令と共にメンバー達から歓声が上がり、車載スピーカーと随伴する低床ローダーに搭載された大型スピーカーからはデビュー曲のキレの良いイントロが流れ、大型スピーカーと共に搭載されている大型モニターに前撮りされたステージの映像も流れ始めた。

 それと同時に英子にエスコートされた五両のⅢ号J型戦車も動きだし、沿道を埋める見物客から拍手と歓声が上がり、それに対し感謝の気持ちを表す様に最初の紙吹雪弾が発射された。

 舞い散る紙吹雪の中イントロも終わりラブ達が歌い始めると、見物客達からの拍手も一層大きくなり、ラブ達の歌にも一層熱がこもる。

 この日を目指し努力を重ねて来たAP-Girlsの檜舞台が今ここに遂にその幕を開けたのだ。

 ベースを出て市街地に入ると沿道の観客は更に増え、興奮の度合いも増して行く。

 それに応えるべく時に派手な戦闘機動を見せ、時に紙吹雪弾と特殊スモーク弾を織り交ぜ発砲し、その間も途切れる事無くその美声を市街地に響き渡らせている。

 最高のパフォーマンスを見せつつメインストリートを進み丁度歌っていた曲も終わり、折り返し地点である京急横須賀中央駅前の歩道橋、通称Yデッキ下でUターンを始めたその時、ラブは沿道に居る数十人の少女達の存在に気が付いたのだった。

 

 

「あ…!あれは!」

 

 

 ラブは慌てて緊急用に指定された周波数で先導する英子を呼び出す。

 

 

「敷島さん!止まって下さい!」

 

『え!?どうしたの恋さん?』

 

「お願いします!ちょっとでいいから止まって下さい!」

 

『え、ええ解ったわ』

 

 

 英子の指示でパレードはYデッキ下で弧を描く形で停車し、見物客達からも何事かと声が上がる。

 

 

「みんなゴメン!ちょっとだけ時間を頂戴!」

 

 

 言うが早いかLove Gunから飛び降りたラブは、沿道に居る少女達に駆け寄った。

 

 

「みんな!」

 

「ラブ!」

 

「隊長!」

 

「先輩!」

 

 

 そこに集っていた少女達もラブの呼び掛けに口々に応える。

 嘗てラブと共に戦った横須賀市立臨海中学校戦車隊の隊員達がそこにいた。

 

 

「みんな…ごめんなさい……勝手に消えて…私許されない事をした……もっと早く…一番に連絡しなければいけなかったのに…私勇気が出なくて……本当にごめんなさい…」

 

「大丈夫!」

 

「え…?」

 

「私達みんな解ってるよ!ラブこそ大変だったのに良く帰って来た!」

 

「うん!みんなで信じて待ってたよ!」

 

「お帰りなさいラブ先輩!」

 

「だけど私のせいでみんな戦車道続けられなくなって、私どうしたらいいか解らなくて……」

 

 

 当時ラブの事故後、臨中では生徒の動揺も大きく戦車道の履修は困難となり、以降無期限で戦車道履修は取り止めとなって今日まで来ていたのだった。

 帰国後にそれを知ったラブであったがどうする事も出来ず、それもまたラブの心に圧し掛かっている問題の一つであったのだ。

 

 

「それも大丈夫!あの頃は怖くなって私達も戦車道を止めちゃったけど、レコード店のポスターと観閲式を見て私達もまたやろうって決めたんだよ。私達三年は大学に行ってからだけど、一年と二年はこれから履修するって決めたからね!」

 

「それじゃあ…」

 

「うん、それに来年度からだけど臨中の戦車道も復活する事になったから!」

 

「!」

 

「…ラブ?」

 

「……よかった…本当に……」

 

「あ!今は泣いちゃダメだって!メイク流れちゃう!」

 

「うん…うん……」

 

 

 嘗ての仲間達が慌ててラブの目元にハンカチを当てる。

 

 

「さあ!もう行って!今日は大事な晴れ舞台の日なんだから。ステージは私達も行くから!」

 

「うん…ありがとう!」

 

「それでこそラブだ!頑張れ!」

 

 

 Love Gunに駆け戻って行くラブ、それまで事の成り行きを見守っていた周りの見物客からも拍手が起こり、臨中の元隊員達が会釈して頭を上げると、面パトから降りて様子を見ていた英子が彼女達に微笑みつつも敬礼を送っており、それに気付いた彼女達もまた英子に向かい一斉に答礼を送った。

 

 

「ヨシ!みんな行こう!」

 

 

 輝く様な笑顔でラブが号令を下すと再びパレードは動き出す。

 つめかけた沿道の見物客からはAP-Girlsのデビューと、ラブの帰還を祝う拍手と歓声がより一層大きくなり、ラブ達もまたそれに応えるべく全力でパフォーマンスを繰り広げ、最高の盛り上がりを見せ大成功の裡にパレードも無事終了し学園艦に帰艦したのだった。

 しかし帰艦後も休む暇は無く、記者会見にCD即売のミニイベントやサイン会、それらを全て笑顔で乗り切ればもう日も傾き初の一般客向けのライブの開始までもう僅かの時間になっていた。

 ラブ達は最後のリハーサルも終え、今は軽い腹ごしらえの為バックヤードで給養員学科が用意したケータリングの軽食に手を伸ばしている。

 

 

「うぅ…これからはこれが日常になるのか……」

 

「今からそんな事言ってたらこの先どうする気よ?」

 

「そりゃそうだけどさぁ……」

 

 

 取り留めもない話をしつつも食べ過ぎにならない程度にエネルギーを補給する少女達。

 ふと気付くとこんな時一番賑やかなラブが一言も発せずにいる。

 

 

「…ラブ姉?」

 

「……ダメ…無理……」

 

「は?」

 

 

 いつもと違うラブの様子に鈴鹿が声を掛けると何やら小声で囁く様に何かを言うラブ。

 

 

「え?ナニ?」

 

「ダメよ!私無理よ!」

 

『うわ!』

 

 

 突如そう叫んで立ち上がったラブは青い顔で手も細かく震えている。

 

 

「な、何よ突然!?」

 

「わ、わわわ私無理よこんなの!で、出来ない~!!」

 

「え?ま、まさか!?」

 

「今更ビビってるの!?」

 

「何で今になって!?観閲式だってその後だって余裕カマしてステージ立ってたじゃない!」

 

「だってそれとこれとは!とにかくむり~!」

 

 

 それまで見せた事の無い突然のラブの狼狽ぶりに唖然とする一同、その目の前で今度は頭を抱えて座り込みイヤイヤをする様に首を左右に振っている。

 予想外の事態にどうしたものかと顔見合わせる一同の中から愛がひとりラブに歩み寄ると、その小柄な身体からは想像も付かぬ力でラブの手を取り無理矢理立たせた。

 

 

「あ、愛…?」

 

 

 驚いた表情で愛を見つめるラブの前で愛はネクタイを解き抜き取り、躊躇する事無くパンツァージャケットの下のブラウスの胸元をはだけ、そのたわわな左胸にラブの手を取るとそのまま押し付けた。

 

 

「な!愛!?」

 

『わお♡』

 

 

 愛の突然の大胆な行動に一同から黄色い声が上がった。

 

 

「恋、解る?」

 

「愛……」

 

 

 掌から愛の胸の温もりと鼓動が伝わって来る。

 

 

「緊張しているのは恋だけじゃない。私も、そして他の皆もそれは一緒。だけど私は怖くない、何故なら私はもう独りじゃないから。恋が居て仲間が居て、だから私は何も怖くない。この日の為に皆揃って必死に頑張って来た。今日遂に恋の、私達の夢が叶う。今日から私達の夢が始まる。大変な道なのは解ってる、でもこの仲間が居るから私は何も怖くはないの」

 

「愛…ありがとう……」

 

 

 憑き物が落ちた様に落ち着いたラブは愛をそっと抱きしめた。

 

 

「ケっ!やってられっかバカヤロ~」

 

「ほんっとラブ姉ってメンドクサイ!」

 

「まったく付き合い切れないわ…さあお色直し行こ!」

 

「何よぅみんなして~!」

 

 

 これで重かった緊張も融けたのか、皆呆れつつもラブを笑いながら本番に備え楽屋に向かう。

 楽屋に入ればメイク学科や被服学科の生徒達が一斉にラブ達に取り掛かり、いつも以上に真剣な表情でAP-Girlsのメンバー達を変身させて行く。

 彼女達にとっても今日は大事な日でありその表情からもそれが窺えるのだった。

 メイクと衣装が仕上がると、両学科の生徒達も満足げな表情になりAP-Girlsのメンバー達とハイタッチをしながらステージに向け送り出す。

 AP-Girls専用アリーナの客席は既に満席となり、今や遅しと開演を待つ観客達のどよめきと熱気がステージの袖で待機するラブ達にも伝わって来ていた。

 

 

「恋、みなさん」

 

「あ♪亜梨亜ママ!」

 

『亜梨亜様!』

 

「遂にこの時が来ましたね。今日までの努力の成果を、あなた達の思いの丈を、全てこのステージにぶつけていらっしゃい。あなた達ならそれが出来ます、私はそう信じていますよ。さあ御行きなさい、私も最後まで見届けさせて貰いますから」

 

『ハイ!』

 

 

 少女達が力強く返事をすると同時に開演を告げるアナウンスが場内に流れ一瞬の静寂が生まれる。

 

 

「じゃあみんな行くよ!AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 お馴染みの掛け声と同時に激しいロックナンバーのイントロが流れ、少女達はステージに向かって一斉に走り出し、今ここに彼女達の光り輝く戦いの日々の幕が切って落とされた。

 この日、ラブ達の晴れ姿を見守る者は全国に居た。

 衛星中継やネット配信でライブの模様を、全国の戦車道の多くの仲間達が見守って居たのだ。

 それぞれの者がそれぞれの場所でモニター越しにラブ達に祝福の言葉を送る。

 余りにも重過ぎる苦しみを乗り越え、今眩く輝く少女達に惜しみない拍手を送る。

 それを追い風とするかの様にステージの勢いは更に加速し、客席の興奮も頂点に達していた。

 

 

「ラブ姉と愛がヤバい!酸素!」

 

「こっちに水ちょうだい!」

 

「私のヘッドセットのイヤホン音が出なくなった!予備を早く!」

 

 

 曲の合間のバックヤードもまた戦場であり、様々な役割を担う各学科の生徒達も鬼の形相で走り回り、裏側からステージを支えている。

 熱狂のステージもいよいよラストパート、電光の速さで衣装チェンジをしたラブ達がステージに躍り出て激しいダンスパフォーマンスを繰り広げ観客をグイグイ引っ張る。

 そしてダンスの終わりと共にLove Gunのレプリカが紙吹雪を発射、それと同時にステージ上に25本のエレキギターがせり上がって来た。

 AP-Girls全メンバーが横一線に並んでのギターパフォーマンス、全身を揺さぶる圧巻のプレイに会場に居る者全てが興奮に酔いしれる。

 曲のフィニッシュに投げキスと同時に放たれたギターピックを受け取れた者は、周囲から羨ましがられちょっとした優越感に浸る事が出来た。

 

 

「みんなありがとう!今日ここに私達AP-Girlsはメジャーデビューを果たしました!これから私達は、戦車道とステージで全国を巡りますが母港はここ横須賀です!横須賀に戻る度、私達の成長した姿を必ずみなさんにお見せしますので、これからも応援宜しくお願いします!」

 

 

 ラブの高らかな宣言と共に会場全体から拍手が沸き起こる。

 それに応えメンバー全員で手を振り深く頭を下げると、ラストを飾るラブバラードのイントロが流れ始め波が引く様に会場に静けさが訪れた。

 甘く切ない少女達の歌声は名残を惜しむ様に熱いライブの最後を締めくくり、感動と共にAP-Girlsのメジャーデビューのステージはその幕を閉じるのだった。

 

 

「……もう…ダメ…なんも残って無い……」

 

 

 ステージを降りた途端、AP-Girlsのメンバーは全員その場にへたり込んだ。

 これまで無類のタフさを見せて来た彼女達が、如何にこのステージに全力を注ぎ込んだかが解る姿だが、その表情には全てをやり切った者だけが見せる満足感が現れている。

 

 

「皆さん良く頑張りました。その覚悟の程、篤と見せて貰いましたよ」

 

「亜梨亜ママ……」

 

「さあ、立ちなさい、最後まで胸を張って行くのです」

 

「…ハイ!みんな!行くよ!」

 

 

 最後の力を振り絞ったラブの声に、少女達は互いに支え合い肩を組み立ち上がる。

 ゆっくりと、だが確実に歩みを進める彼女達に、集まっていた運営スタッフの生徒達から惜しみない拍手が送られると、彼女達もまた笑顔で手を振りそれに応える。

 AP-Girls完全燃焼、こうして彼女達は鮮烈な芸能界デビューを飾ったのだった。

 

 

 

 

 

 その日同時発売されたデビューアルバムとシングルCDは、高校戦車道履修者を中心に火が付き順調に売り上げを伸ばし、いきなり売上チャートのトップに躍り出た。

 そして戦車道と芸能活動、ラブ率いるAP-Girlsの快進撃は今ここに始まったばかりだ。

 

 

 




恐ろしい事に高校編がスタートしてから作中で進んだ時間は僅か半月…。
もうちょっとスピーディに進行させないとなぁ……。

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