ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回もチョビ子がやりたい放題のたわわ祭りです♪

無限軌道杯ネタの回避方法がやっと出ました。


第八話   火の国の耐久ガールズトーク

『え?何の事かしら?』

 

 

 ハモって答える英子と亜美だが、今時そんな事で誤魔化される現役女子高生はいない。

 気が付けば完全に包囲され退路を断たれた二人は、この窮地を如何にして脱出するかに頭をフル回転させていたが、二人を包囲する中心にあって最初に質問を投げ掛けかけたアンチョビは、その手にいつの間にかいつものメモ帳とペンを握り締め、ネタを見付けた芸能レポーター宜しく好奇心いっぱいに目を輝かせ二人の言葉を待っている。

 その好奇心丸出しの視線に耐えかねて、若干噛みつつ亜美が口を開いた。

 

 

「ええと、犬猿の仲かしら?ホラ!現役時代この吶喊馬鹿には散々苦労させられたし」

 

「そ、そうね!何度も苦しめてやったわ!」

 

 

 亜美に脇を小突かれ慌てて追従する様に英子も言うが、そんな戯言には誤魔化されぬとばかりにアンチョビは、手に持つペンを左右に振りつつチッチッチっと舌を鳴らし畳みかける様に言った。

 

 

「イヤイヤイヤ~、そんなはずはないでしょう?三年前英子姉さんのお部屋に泊めて頂いた時、亜美姉さんまで何の躊躇も無く泊まっていらっしゃいましたよねぇ?そ・れ・に、あのお揃いのキャミソール、私はもうサイズアウトしてしまったので着られませんが、普通おふざけでも犬猿の仲ならあんな事はしないですよねぇ?連携して私を身包み剥いで、あっと言う間に着替えさせた手並みも、一朝一夕のものではないと思うのですがその辺はどうでしょう?あ、あのキャミは記念に今も大事にとってありますよぉ♪」

 

 

 ニコニコと、しかし強い押しで切り込むアンチョビと既に防戦一方な英子と亜美。

 何とか話を逸らして現状から脱しようと亜美が目配せをしたその瞬間──。

 

 

「ホラ!ホラホラホラ!今もアイコンタクトのみで意思疎通しましたよねぇ?普通友達同士でも中々そこまでは出来ませんよ~?まして犬猿の仲であれば尚更でしょう?」

 

「ち、千代美ちゃん取り調べの才能あるわ~♪しょ、将来は刑事かしら~?」

 

 

 英子も誤魔化そうと必死に口を開くが、セリフが見事に棒読みで役に立たない。

 

 

「で?お二人は一体どんな()()()なんでしょう?」

 

 

 アンチョビの再度の質問と共に、包囲陣が更にずいっと二人に迫る。

 二人は正座の状態でピッタリ寄り添う処まで追い詰められ、ふと一同の顔を見回せばその目は完全に色と欲に支配されてギラギラと輝き、ラブなどは自らのたわわを抱き締めながらユリユリな妄想でも膨らませているのか、時折その身をくねらせていた。

 

 

「ええとその…うん!勿論清い交際よ!親友だもの、ねえ英子?」

 

「え?ええ、そうよ!その通りよ!」

 

「はて?先程は犬猿の仲と仰っていましたが…で?」

 

『クッ…!』

 

 

 何とか退路を見出そうと二人の目が泳ぐが、先回りするかの様にアンチョビがズイっと身を乗り出すと、下から覗き込む様な体勢でニッコリと微笑みながらもねめつけて来る。

 

 

「あ、アンチョビさん?」

 

「千代美ちゃんでいいですよ、で?お二人はやっぱり?」

 

 

 敢えてアンチョビと呼んで話を逸らそうとした亜美であったが、無駄な努力でありペン先でメモ帳をトントンしつつアンチョビの追及の手は一切緩む事は無い。

 他の者もピッタリと密着する程身体を寄せて来ており、英子と亜美も最早完全に退路は無く詰んでいる事を自覚せざるを得なかった。

 

 

『聞きたいなぁ♪お二人の恋・バ・ナ♡』

 

 

 現役女子高生が一斉にダメを押す。

 

 

「…でした……」

 

「あ、亜美!?」

 

 

 先に白旗を揚げてしまった亜美に英子が思い止まらせようとするが、時既に遅く自棄になったのか亜美はペラペラと自供を始めてしまう。

 

 

「私と英子はそう言う関係でした!」

 

「あ、亜美!やめ…!」

 

 

 慌てた英子は亜美の口を塞ごうとするも、素早くみほとエリカに動きを封じられる。

 

 

「な!ちょっと…!」

 

「まあまあまあ♪英子姉さんにも後程た~っぷりとお聞きしたいので、今はお待ち下さい…それで亜美姉さん、もっとこう具体的にはどういう?」

 

 

 言葉攻めのアンチョビのフォローをする様に、ラブは絶妙なタイミングで亜美の背中にパジャマのみでノーブラのたわわをムニュっと押し付け、耳元に熱い吐息をほわっと吹き掛けたりする。

 

 

「…!R-18指定の…いけない関係でしたぁ……ああん♡」

 

「あ…終わった……」

 

 

 遂に陥落した亜美がゲロ(自白)った瞬間、英子はガックリと項垂れる。

 そしてそこから自棄になったか、亜美と共にアンチョビの質問にペラペラ答えて行くのだった。

 

 

「ええと…出会いは何時頃?」

 

「高1の梅雨入り前に知波単と練習試合をした時に……」

 

「ふむふむ、それでそれはどちらから?」

 

「それはお互い意識しちゃって…亜美がとっても可愛くて……」

 

「私も英子が凛々しくて素敵だなって……」

 

「わお♪相思相愛♡」

 

 

 ノリノリでアンチョビは二人からどんどん自供を引き出して行く。

 

 

「ファーストキスは?」

 

「全国大会の抽選会の後に戦車喫茶の化粧室で…亜美の唇が魅力的過ぎて……」

 

「おお、ルクレールですか!それで肝心なその先は?」

 

「それは…初戦敗退してチハの中で隠れて悔し泣きする英子を慰めたくてそのまま……」

 

「うおぉナント!そのチハはもしや…?」

 

「ええ…今も絹代が隊長車として乗ってるわ……」

 

『コイツ鬼だ……』

 

 

 あっと言う間に二人の関係を聞き出しては、手は休む事無くメモ帳に書き付けて行くアンチョビに呆れつつも、大好物なお話に全員その耳はダンボになっている。

 その後も暫く質問を浴びせ続け余す事無く吐き出させたアンチョビも、漸く満足したのか手帳を閉じると満面の笑みで二人に声を掛けた。

 

 

「ふう、実に参考になりました。でもお二人共お似合いだしとっても素敵ですよ♪」

 

 

 だがしかしやっと解放された二人は、そのまま力無く布団の上に倒れ込む。

 

 

『恐るべし千代美ちゃん…恐るべし現役女子高生……』

 

 

 驚いた事に後日これを元にアンチョビが書いた戦車道恋愛小説は、好評を博し書籍化までされ、それ以降アンチョビは戦車道選手と小説家の二足のわらじを履く事となるのだが、この時はそんな事になるとは本人もまだ露程も思わぬのであった。

 

 

「それにしてもアナタ達もこういう話ホントに好きね……」

 

『そりゃあ私達は現役女子高生ですから♪』

 

 

 倒れたまま呟く様に言う亜美の言葉に全員でニコニコ顔で答える。

 特に最近カップリングが成立したばかりの二組は鼻息が荒い。

 

 

「まあ私らの頃もそうだけどさ…年頃の女の子を学園艦なんかに纏めて閉じ込めておけば、こうなるのも当たり前っちゃ当たり前よね……」

 

 

 英子も亜美に続き投げやり気味に言うが、再び耳聡いアンチョビが質問をした。

 

 

「知波単ってその辺かなり厳しそうだと思うんですけどねぇ?」

 

「いや、厳しいからこそ余計によ。現に今も絹代と聖グロの紅茶娘が、暇さえあれば行ったり来たりしてるみたいだし」

 

「絹代さんって素敵よね~♪もし私が絹代さんといい仲だったら身も心も捧げちゃうわぁ♡」

 

 

 ラブは妄想に浸りきって一人身悶えている。

 

 

「ねえ、このお嬢様って昔からこうなの?」

 

「ああ、ラブは昔から終始一貫このまんま、ブレてませんよ」

 

 

 最近会う機会も多く少しずつラブの人物像が見えて来て、その実態が自分のイメージするお嬢様とは異次元レベルでかけ離れたものである事に気付いた英子は、自分の質問に即答したまほの方が極普通にお嬢様に思えて来てそれはそれで複雑な心境になった。

 

 

「でも小さな頃ってお嬢様というよりお姫様だったよね。初めて横須賀のお城に行った時は、本当にお姫様にしか見えなかったもん」

 

「あ?ああ、あそこはなぁ、本当におとぎ話の世界そのままだからなぁ……」

 

 

 横須賀の走水(はしりみず)の海沿いの山頂に聳えるドイツの古城風のラブの生家は、横須賀に住む者なら誰でも知っている存在でありながら、その内部を知る者は極めて少ない。

 何故なら立ち入りを許されるのは極親しい者、或いは招待を受けた者のみで、それもラブの事故以降この三年は誰もこの城を訪れた者は居なかった。

 

 

「う~ん、私も横須賀の人間だからお城の事は知ってるけど、中ってそんなに凄いの?」

 

「ねえ、さっきから言ってるお城って一体何よ?」

 

 

 話に付いて行けない亜美が疑問符だらけの顔で口を挟む。

 

 

「アンタも小原台(防大)に居たなら知ってるでしょ、走水の山城は?大体防大からも思いっ切り見えてたでしょうに」

 

「え…?あのお城が恋お嬢さんのお家…?ホントに……?」

 

「ちょっと待て、ホントに知らなかったのか?」

 

「うん…地元の名士の所有としか……」

 

「呆れた…西住流と厳島流の関係は知ってたクセに……」

 

 

 地元では有名でありあって当たり前、故に聞かれなければ教えない。

 まあ意外と何処に行ってもローカルな有名物件などはこんなものなのかもしれない。

 

 

「いやまあその、無駄に広いばっかでそんな大した事はないですよ。でも長い休みには帰ろうと思うので、宜しかったらご連絡しますのでその時にでも遊びに来て下さい。尤もその時はAP-Girlsの娘っ子達も連れて行くので相当賑やかになると思いますけど」

 

『え!?ホントに?』

 

 

 ラブのその申し出に英子と亜美の顔がパッと輝く。

 しかしその横でやはり行った事の無いアンチョビとエリカが何か言いたげな顔をしている。

 

 

「その時は千代美とエリカさんもね♪みんなで集まって楽しみましょ!」

 

「ホントか!?」

 

「いいんですか?」

 

「勿論よ~♪」

 

 

 笑顔で答えるラブの言葉にアンチョビとエリカも夢見る様に瞳をキラキラさせている。

 その可愛い様にラブもクスクス笑っていたが、そうなると今度は具体的に何時頃がいいかなどといった話になり、何かと忙しい戦車道選手と公務員故に途端に全員難しい顔になった。

 

 

「ん~、年内はどう考えても無理よね~?」

 

「そうだなぁ、いくらなんでもちょっとなぁ……」

 

「笠女は年内に六連戦だろ?芸能活動もあるだろうしなぁ…」

 

 

 腕を組んで首を捻るラブにアンチョビとまほも同様に腕を組みつつ続く。

 

 

「冬休みは一応受験生だし、年明けは引き継ぎもあるし難しいか…」

 

「かといって春休みも退艦して直ぐ引っ越しだろ?大学行く準備でそれ処じゃないだろうな」

 

「う~ん…三学期から春休みにかけては私達は完全に無理なのよねぇ」

 

 

 卒業までのスケジュールを考えて更に首を捻る二人の後に、ラブが付け足す様に言う。

 

 

「うん?それはどういう事だ?」

 

「あ~、まほ達は知らなかったか~」

 

 

 ラブがそう言った後に亜美を見やると、亜美も一つ頷きラブの後を継ぎ説明を始めた。

 

 

「これは来年度からの事なんだけど、全国大会のシステムが変わる事はもう聞いてるわよね?」

 

 

 亜美の確認する様な発言にまほとみほ、アンチョビとエリカも頷く。

 これまで高校戦車道全国大会と云えば、暗黙の了解で新参者や弱小は出ないという前提で成り立っていたものの、大洗の登場でその様相も大きく変わったのは周知の事。

 しかしその大洗に続けとばかりに新規履修校と再履修校が増加し、これまで参加を控えていた学校も続々と全国大会への参加を表明し収拾が付かなくなりつつあった為、連盟も協議を重ねた結果幾つかのブロックに分けて地区予選大会を行い出場枠を増やす方針を取る事となった。

 但しこれまで全国大会に出場を続けていた学校に対しては全校予選シード権が与えられており、それがまた物議を醸しているのも事実であった。

 そしてここでまた一つ問題になったのは今年度開校した新設校の存在で、翌年度には新一年生が加わるにしても一般的に考えればハンデは否めず救済措置として新設校だけで総当たり戦を行い、その中で優勝校には全国大会出場のワイルドカードが与えられる事が決定していた。

 

 

「──っとまあこれが来年度の全国大会概要なんですが、これもあくまで試験的なもので問題が出た部分は都度変更を加えて行く事になると思うわ」

 

 

 ここまで説明し終えた亜美が一息つきラブの様子を見れば、これがまた実に面白くなさそうな顔で見事に口を尖らせ不満を顕にしている。

 亜美もそれを見て困り顔をすると、不思議に思ったまほがラブに問い掛けた。

 

 

「何だ?どうしたそんな顔して?」

 

「ん~?だって面白くないんだもん」

 

「子供じゃないんだからちゃんと説明しろよ。それじゃさっぱり訳が解らんじゃないか」

 

「……まほは今年度戦車道を履修してる新設校の数は知ってる?」

 

「いや…そこまではさすがに……」

 

「笠女を含めて全部で六校なのよ。それで総当たりは構わないわ、でもね…はっきり言ってレベルが違い過ぎなのよ。ウチにも一応情報部があるし各校の公式情報でも確認したけどあれでは相手にならないのよ、別に偉そうにする訳じゃないけどAP-Girlsの敵じゃないわ。これは厳然たる事実なの、覆し様が無いの。私達が新設校枠に出れば他の学校はその先に進めないわ。なのにいくら説明して資料提示してもウチを地区予選に回してくれないんだもん」

 

 

 いっそ傲慢なもの言いではあるが、実際ペイント弾とはいえAP-Girlsの戦いぶりをその目で見たまほ達にとってはラブの言う事も尤もな話であるものの、決めるのは主催する連盟であり、それを一参加校が言ってもどうにもなるものではない。

 実際まほが亜美に視線を向けても小さく首を振るばかりでこればかりはどうにもならない。

 

 

「…いいわ……こうなったら現実を見せ付けてあげる。春の新設校リーグ戦、待っているのは私達AP-Girlsによる一方的なジェノサイドよ。私達が全戦全勝するわ、それも全戦ウチからは一両も白旗の揚がらないパーフェクトゲームよ…見てらっしゃい、この世に地獄がある事を教えてあげる……」

 

「お、おい、いくらなんでもさすがにそれは……ラブ?」

 

 

 俯いて喋るラブの顔を覗き込んだ一同は、その表情を見た瞬間全員そのまま凍り付いた。

 吊り上がった美しい瞳に鬼火を宿し、裂けているのではと思う程瞳同様口角を吊り上げ、凄惨な笑みを浮かべる鬼が其処に居た。

 まほ達は知っていた、こういう時のラブは本気である事を。

 この状態のラブが言った事は、寸分の狂いも無く100%現実になる事をまほ達は知っていた。

 

 

『うあぁ…ヤバいって!』

 

『そんな事言ったってこの状態のラブを安斎は止められるのかよぅ!』

 

『イヤイヤイヤ!無理に決まってるだろう!』

 

『うえぇぇ……』

 

『怖い……』

 

 

 四人が小声で交わす言葉にタダならぬものを感じた英子と亜美だが、そこまで怯える理由を問い質す気にもなれない程にラブの表情は恐ろしいものがあった。

 夜叉姫の子はやはり夜叉姫、一同がそう思わずにはいられないラブの顔。

 しかしそう思わされたのもつかの間で、次の瞬間にはその表情が一変した。

 

 

「って訳でぇ、時間が取れそうなのはそれ以降だからゴールデンウィークか夏休みかなぁ?」

 

 

 可愛く笑って小首を傾げるラブに全員布団の上に倒れ込む。

 

 

「オマエなぁ…!」

 

「ん~?何よ?」

 

 

 一番下で潰されたままアンチョビがラブをどやし付けるが本人は何も解っていない。

 

 

「あらあら、随分と楽しそうにしてますね」

 

「あ、亜梨亜ママ♪」

 

 

 ラブ達同様就寝前に温泉で暖まって来た亜梨亜達が、やはりフルーツ牛乳片手に色っぽく火照った顔で座敷に戻って来た。

 

 

「亜梨亜ママ♪やっぱり敷島さんと蝶野教官はラブラブだったんだって~♡」

 

「ちょ!それは!」

 

「れ!恋お嬢さん!?」

 

 

 いきなり躊躇なく剛速球でぶちまけたラブに狼狽える英子と亜美。

 しかし亜梨亜もまた何の戸惑いも見せずそれに応える。

 

 

「あらまあ、それではしほちゃんと千代ちゃんの若い頃と一緒ねぇ」

 

「ふぁ!あ、亜梨亜様!?」

 

「な、何でそれを!?」

 

 

 こちらもまた全く躊躇なく亜梨亜がほっぽり投げた爆弾に、しほと千代が真っ青になる。

 だがそれを聞いた瞬間ラブ達が一斉に電撃作戦を展開し、気が付けばしほと千代は完全に脇を固められ一切の退路を断たれていた。

 

 

『お話し、伺いましょう…聞きたいなぁ♪家元達の恋・バ・ナ♡』

 

 

 双眸をギラギラさせた恋愛ハイエナ達に取り囲まれた二人はすっかり怯え震えているが、その姿がより一層恋愛ハイエナの内なるケダモノを刺激し、その後の展開は想像に難くなかった。

 一方で平気で餌を放り込んだ当の亜梨亜はといえば、布団の上に正座して微笑みながら独りよく冷えたフルーツ牛乳の甘さを堪能している。

 思えばこの亜梨亜という人物もさすがラブをここまで育てただけあり、少々、いや、かなりおかしい人物であった。

 

 

「終わった…完全に終わった……」

 

「家元としての威厳も…立場も……」

 

 

 再びアンチョビがその手腕を如何なく発揮した尋問は苛烈を極め、結果洗い浚い白状させられたしほと千代は、力無く布団の上に突っ伏しその頭上には見えない撃破判定の白旗が揚がっている。

 

 

「そんな素敵な関係だったとは♪これは是非お父様にも!」

 

「うん♪今度会ったら愛里寿ちゃんにも!」

 

『やめてぇぇぇ!お願いだからそれだけはやめてぇぇぇぇ!』

 

 

 脳みそピンクのケダモノ姉妹が発した言葉にしほと千代の絶叫が重なる。

 その夜の煩悩ガールズトークは深夜まで及び、最後は一人また一人と倒れる様に脱落するまでピンク色の会話が続いたのであった。

 そして明けて早朝まだ外は薄闇に包まれている頃、旅の朝は例え夜更かしをしていても意外と早く目が覚めるもので、亜梨亜とラブとアンチョビの三人はまだぼんやりとではあるが目覚めていた。

 但し亜梨亜の両の腕にはしほと千代が絡み付き、ラブ程ではないものの年齢を一切感じさせぬ十二分に立派なたわわに張り付いている。

 アンチョビもまた三年前同様英子と亜美にサンドイッチにされ、二人のたわわに埋もれ諦め顔で天井をぼんやり見つめていた。

 そしてラブの状態はと見ればまほとみほが笠女滞在時の様に、ラブの腕に絡みつつそれぞれの秘密の場所にその手を押し当て熟睡している。

 更にラブの場合もう一つオマケがあり、エリカがラブの大事な秘密の場所に顔を埋め、伸ばした両手はパジャマの胸元をはだけダイレクトにアハト・アハトを鷲掴みにしていた。

 

 

『コイツら全然成長してないのね……』

 

 

 目が覚めている三人は一様に心の中でそう呟いているのであった。

 

 

『それにしてもエリカさんのコレは大胆かつ新しいわね…あ……寝息の刺激が……♡』

 

 

 ラブがそのアホな状況と快感に身を委ねたまま再び寝落ちしてから暫くの時が過ぎ、起こしに来た菊代の手により全員が引っ剥がされ、寝汗を流す為朝湯に浸かり座敷に戻ればそこには既に朝食の膳が並んでおり、若干気まずさもあったものの和やかな雰囲気で朝食を頂く。

 

 

「恋も忙しくなるでしょうが、くれぐれも身体には気を付けるのですよ。ここまで回復したとはいえ、やはり普通とは違うのですから」

 

「うん、ありがとしほママ」

 

 

 慈しむ様な表情でラブに声を掛けるしほに、ラブも快活な声で答えるがこの先のハードスケジュールを考えると、たった半年程とはいえ母親代わりにラブを育てたしほとしてはやはり心配が先に立つのは当然といえるであろう。

 

 

「聖グロとの試合は私達も応援に行くからな~」

 

「え~?偵察でしょ~?」

 

「まあな♪」

 

 

 自分の言葉にそう切り返したラブを見てアンチョビもニカっと笑う。

 

 

「私も横浜でやる聖グロ戦の日は何とか休みを入れてるけど、なんかデカいヤマがあると休みなんて一発で飛んじゃうからそれが不安なのよね……」

 

 

 英子は箸を止めると渋い顔でそう呟く。

 

 

「アンタここんトコ休み無しなんでしょ?大丈夫?」

 

「本庁経由で熊本行きの話が来なけりゃ、引き続き事件の捜査してたわね。でもまあ慣れっこだしこちらでいい湯に浸からせて貰ったからほぼ100%充電出来たわ」

 

「そう…ならいいけど気を付けてよね」

 

「ん、さんきゅ♪」

 

 

 少し不安げな亜美にそれを払拭する様笑顔で答える英子だった。

 

 

「そうそう、ラブお姉ちゃんが大洗に来る頃にはね、あんこうもとっても美味しくなってるから楽しみにしててよね♪」

 

「え♪そうなの?」

 

「うん、会長さんが作るどぶ汁はとっても美味しいんだよ♪」

 

「そっか~、それは楽しみだねぇ♪」

 

「今回はあまり時間も無かったけど、練習試合でこっちに来る時はみんなで太平燕(タイピーエン)を食べに行こうな。それ位の時間はあるだろ?」

 

「太平燕!随分長い事食べてないから楽しみだな~♪」

 

「それならアンツィオ(ウチ)は清水の海の幸を使ったイタリアンで歓迎するとしよう」

 

「な~に?アンタ達お嬢さんの事食べ物で釣ってるワケ?」

 

 

 英子のツッコミに皆一斉に笑うが、ラブはふと思った事をアンチョビに聞いてみた。

 

 

「でもいいの千代美?試合場所が本拠地の栃木じゃなくて?」

 

「ん?ああ、海無し県だから学園艦から戦車の搬送が大変だろ?だから母港の清水で試合をやる事はよくあるから気にしなくても大丈夫だよ」

 

「そっか、ならいいんだけど」

 

 

 朝食も終えお茶を頂きつつ雑談に興じていた処に菊代が現れ、ラブが予め注文していたお土産用のお菓子が届いた事を伝えて来た。

 

 

「配達の方がご指定の場所に降ろすとの事ですが如何しましょう?」

 

「あ、それならオスプレイの方に運んで貰ってもいいかなぁ?あ、蝶野教官の分はこっちに降ろして貰ってね」

 

「畏まりました、それではその様に手配致します。しかし私もさすがにあの様に大量のいきなり団子を見たのは初めてで御座います」

 

「ラブお姉ちゃん一体どれ位注文したの?」

 

「はあ、私が応対に出ましたらワンボックスが十台程来ておりましたが」

 

『ぶっ!』

 

 

 地元故いきなり団子をよく知っている西住親子とエリカ、頻繁に西住家に訪れる亜美と付き合いの長い千代がその数を聞いた瞬間一斉にお茶を吹いた。

 

 

「いきなり団子がワンボックス十台分…信じられない……」

 

 

 エリカは呆然と呟くがラブは指折り数えながら説明を始める。

 

 

「え~?だってウチとみほと千代美のトコでしょ、敷島さんの職場に島田様の分に蝶野教官のトコもあるから纏めて頼んじゃったの。いいよね亜梨亜ママ?」

 

 

 そう振られた亜梨亜も当然とばかりに普通に頷く。

 

 

「まほのトコはさすがいいよね?」

 

「あ、ああ帰ればいつでも食べられるからなぁ……」

 

 

 まほも呆気に取られつつエリカと顔を見合わせながら答えるが、他の者達は慌ててラブと亜梨亜にどういう事かと問い質し始めたがそれは亜梨亜が全てピシャリと言い包めてしまった。

 

 

「今回は私共親子の事でお呼び立てしたのに手ぶらで返すわけには行きませんよ」

 

『はあ……』

 

 

 かくして土産の手配も済みそれぞれ身支度を整えるといよいよ出立の時間も近付いて、心の中に何処か名残惜しい気持ちが沸き起こる。

 それでも別れの時間はやって来て、まず西住家に直接降りていた亜美のOH-1に単独飛行なのをいい事に、亜美が呆然としている間に隙間という隙間に目一杯お土産のいきなり団子が詰め込まれ、引き攣り気味の顔の亜美は皆に見送られ飛び立って行った。

 

 

「それでは私はヘリポートまで皆を送りに行きますので後を頼みますよ」

 

「畏まりました奥様」

 

 

 しほと菊代が短いやり取りをした後玄関前に集まった者の中で、まずハグ大好きなラブが菊代に抱き付いて別れの挨拶を交わす。

 

 

「恋お嬢様のご活躍を菊代は熊本から応援していますよ、どうかお元気で。それと時々でいいですから以前の様に熊本にもお越し下さいまし」

 

「うん、ありがとう菊代ママ。必ず来るからね♪」

 

「菊代さん、本当にお世話になりました。これからも恋の事宜しくお願い致します」

 

 

 ラブに続き亜梨亜が頭を下げると菊代もまた胸を張って快活に答える。

 

 

「お任せ下さいまし、敬愛する恋お嬢様と亜梨亜()()の為ならこの菊代、例え火の中水の中で御座いますから」

 

「まあ♪」

 

 

 クスクスと笑い合う亜梨亜と菊代、その後もそれぞれが挨拶を交わすと菊代を筆頭に使用人達に見送られ西住家本宅を後にする。

 ヘリポートに付けば既に厳島家のオスプレイと、千代の乗って来たチヌークにいきなり団子が積み込まれており、後はもう飛び立つのを待つのみとなっていた。

 

 

「でも宜しいのですか、みほまで送って頂いて?」

 

 

 行きと違い帰路は亜梨亜の申し出によりオスプレイで帰る事となったみほだが、恐縮したしほは改めて亜梨亜に聞き直している。

 

 

「構いません、何より恋がそれを望んでいますから」

 

「そうですか、それでは宜しくお願い致します」

 

 

 しほもその言葉を聞きそれ以上は言わず一礼して任せる事にした。

 

 

「それにしても……」

 

 

 駐機されているオスプレイ厳島カスタムの機内を覗き込んだ一同は、そのいかつい外観とは裏腹な国際線ファーストクラス同様の内装に揃って息を飲む。

 

 

「この機体だけは厳島の社用機扱いなので、要人を乗せる事もありせめてこれ位はしておかないと使い勝手が悪いですからね」

 

『ハァ……』

 

 

 改めて自分達とは違い過ぎるスケールに、全員それ以上の言葉が続かず互いに顔を見合わせる。

 

 

「そ、それではお母様私達もこれで失礼致します」

 

 

 最初に気を取り直したまほがそう言うと続いてエリカも一礼した。

 

 

「じゃあなラブ。試合、楽しみにしてるからな!」

 

「うん♪」

 

 

 まほとエリカもまたその後それぞれと別れの挨拶を交わすと、黒森峰のドラッヘに乗り込み飛び立って行ったが、そのギリギリまでまほはアンチョビと、エリカはみほとかなり熱のこもった視線を名残惜しそうに交し合っていたのを他の者は生温い目で見守っていた。

 

 

「亜梨亜様、お会い出来て大変嬉しゅう御座いました。いずれまた横須賀にも愛里寿と共にご挨拶に伺います。恋お嬢様もどうかお元気で」

 

「はい♪ありがとうございます!」

 

「千代ちゃん、これからはしほちゃんと昔の様に仲良くね」

 

『ハイ……』

 

 

 真っ赤になって返事をして一緒に小さくなるしほと千代の姿に、昨夜の事もありラブとアンチョビにみほと英子はクルリと背を向け肩を震わせている。

 最後に亜梨亜にダメを押された千代を乗せたチヌークが飛び去ると、最後に残ったラブ達もいよいよ熊本を去る瞬間が訪れた。

 

 

「しほママ!」

 

「これこれ、なんですか?もうすっかり大きくなったのに」

 

 

 これが最後と抱き付いて来たラブを苦笑しながら抱き止めたしほは、あやす様に背中をポンポンと叩きながら優しい声で語り掛ける。

 

 

「全く中身はあの頃のままなのねぇ」

 

「だってぇ♪」

 

 

 その微笑ましいやり取りに皆で一頻り笑った後、別れの挨拶のを交わし互いに手を振り合う中オスプレイは熊本の天高く舞い上がって行く。

 ほんのひと時の安らぎの時間も幕を閉じ、ここより先はいよいよ本格的な戦いの日々が始まる。

 それがどれ程激しいものになるか、それはまだ誰にも解らない。

 だがしかし、百折不撓(ひゃくせつふとう)を旗印に突き進むラブとAP-Girlsの少女達の快進撃を阻む者は、全て全力で打ち倒すとラブの力強い光を放つ瞳は静かに語っていた。

 

 

 

 

 

 ラブ達が熊本を訪れてから数日後の事。

 西住家本宅の書斎の文机にて書状をしたためるしほの元に一本の電話が入った。

 

 

「ちよきち?」

 

 

 着信音を鳴らし続ける携帯の液晶に表示される発信者の名前を見たしほは、訝しみつつも通話ボタンを押し電話に出た。

 

 

「もしも──」

 

『ちょっとしぽり~ん!』

 

 

 話しかけたしほの声を遮る様に轟く千代の絶叫。

 

 

「うわ!って何よちよきち喧しい!?」

 

『ちょっと聞いてよ!先日そちらに伺った時に恋お嬢さんから私宛のサイン入りCDを頂いたでしょ?昨日久し振りに帰って来た愛里寿ちゃんがそれを見たのよ…そうしたら愛里寿ちゃんも既にAP-Girlsの…特に恋お嬢さんの熱狂的ファンになっていたらしくて、私だけ直接会ってサイン頂いていた事に怒って全然口をきいてくれなくなっちゃったのよぉぉぉ!』

 

「だから電話口で喚くな!で!?だから何!?」

 

 

 電話の向こうで泣き叫ぶ千代にしほはいきなり怒りMAXに達していた。

 

 

『お願いよぉぉぉ!私の可愛い愛里寿ちゃんが恋お嬢さんに会える様に取り計らってよぉぉぉ!』

 

「はあ!?何で私が!?」

 

『だってしぽりんは恋お嬢さんの親代わりも務めたんでしょう?こんなお願い私からじゃとてもし辛いもの…だからしぽりんから頼んで欲しいの!ねぇ頼めるでしょ?お願いよぉぉぉぉぉ!』

 

「知るかボケぇぇぇ!」

 

 

 しほは錯乱状態で喚き散らす千代に怒鳴り返すと、返事も聞かずに電話を叩き切ったのだった。

 

 

 




これにて長引いた熊本編も無事終了。
次回からは練習試合六連戦に突入します。
現在初戦の対聖グロ戦の見直しをしてますが、
これがもう初っ端からムチャクチャ過ぎて私が白旗判定出てます。

ただ一つ言えるのは、ダー様程いじって面白いキャラは他に見当たらないという事♪

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