因み最初にお断りしておきますが私はダー様大好きですよ♪
「これより先は何時笠女…いえ、ラブの奇襲があるか分かりません。各車警戒を厳にして侵攻を続けなさい。クルセイダ―隊はシーサイドライン車両基地を超えた時点で先行、幸浦の流通団地及び卸売団地の索敵を開始しなさい──」
無線を介しダージリンがそこまで指示を出した処で、隊列先頭で解き放たれる瞬間を今や遅しと待ち受けていた、ローズヒップ率いるクルセイダ―隊の鼻っ先数十メートルの地点に二発の榴弾が弾着、激しく地面を叩き爆炎がその行く手を塞ぐ。
「な!何ですの!?」
「全軍停止!全方位警戒!」
出端を挫かれ狼狽えるローズヒップに対し、ダージリンはすぐさま次の指示を与えると、自身もコマンダーキューポラから険しい視線で辺りを見回す。
そして丁度そのタイミングで弾着から少し遅れた砲撃音が辺りに轟く。
「弾着から逆算して恐らく2,000mは離れた地点からの砲撃の様ですね」
アッサムは弾着後から砲撃音が聴こえるまでの秒数を測っていた様で、砲撃音が聴こえた瞬間には大凡の距離を割り出し口にしていた。
アッサムの指摘通り今の砲撃は産業振興センター周辺に展開したAP-Girlsのうち、ピンク・ハーツとブルー・ハーツの二両がLove Gunからの遠隔指示により実施した攻撃であり、その結果は見事聖グロ戦車隊を予定ポイントに足止めする事に成功していた。
そして弾着の爆裂音が轟いた瞬間、観測を続けていたラブは次にこの作戦の本命である目標に対してLove Gunへの攻撃指示のハンドサインを出した。
それを見た花楓は即Love Gunの砲手である瑠伽に対し砲撃を指示、装填手美衣子による驚異的な速度の連続装填により榴弾と徹甲弾をたて続けに撃ち放つ。
「な!?今度は何!?」
ダージリンが辺りを鋭い視線で警戒していた丁度その時、ダージリンから見て進行方向左手の施設内に続けて二発が弾着し破壊音の後にどす黒い何かが盛大に飛び散っていた。
「後方からの砲撃!ここで挟撃か!?何時の間に?でも一体何を狙って…?」
瞬時に様々な疑問がダージリンの脳内を駆け巡る。
時間にすればほんの数秒の事であったが、その数秒で地獄がダージリン達へ襲い掛かって来た。
まず最初にその恐怖の洗礼に悲鳴を上げたのは、クルセイダ―の砲塔上で立ち上がり、周囲を風見鶏よろしくグルグルと見回していたローズヒップであった。
「う゛ぉ゛ぇ゛ぇ゛!な、何ですのこの臭いは!って、うぉ!臭っ!」
口元を押えて砲塔上でのたうち喚くローズヒップの声を聴き咎めたダージリンは、叱責の言葉を与えるべく口を開きかけたが、そのダージリンの鼻にもローズヒップをダウンさせた原因が到達した。
「ローズヒップ、一体何を騒いで…うぶぉぇぇぇぇっ!」
言い掛けたダージリンもその臭いにローズヒップ以上の絶叫を上げた。
それを合図としたかの様に、戦車隊全体から一斉に獣の雄叫びの様な悲鳴が上がる。
「な!何コレ!?…おぇぇぇぇ!」
「く、臭っさ~!」
「目がぁ!目がぁ!」
「し、沁みるぅ!う゛ぇぇ!」
「ハッチ開けてぇ!」
「ば!バカ!そんな事したら余計に…!ぐぁぁぁぁ!」
ダージリンの日頃の薫陶も何処へやら、淑女の仮面は簡単に剥がれ落ち聞くに堪えない罵声と悲鳴が辺り一帯に響き渡っていた。
「…成功したわね、ここまで悲鳴が聞こえるわ。ヨシ!最終段階よ!花楓、愛達に聖グロの隊列前後への足止め威嚇の指示!香子、エンジン始動!威嚇終了と同時に飛び込んで徹底的におちょくるよ!総員マスク装着!突撃準備!」
矢継ぎ早に指示を出したラブは手にしたゴツいマスクを振りながらLove Gunに駆け戻ると、指示を出し終えた花楓の手を借り自身もマスクを装着する。
ラブの美しい顔を覆い隠すマスクは軍用のガスマスクではなく、有名メーカー製の大きなゴーグルとフィルターが目を引く物で、この金沢工業団地にある産廃処分業者でも滅多に見ない様なグレードの高い本格的な防毒マスクであった。
ラブはマスクの装着が終わるとコマンダーキューポラにその身を滑り込ませ、愛達による聖グロ戦車隊の隊列前後への足止め砲撃が終わるタイミングを計っている。
「ら、ラブ…よくも……とにかくここにいたら…ぜ、前進!」
息も絶え絶えにダージリンが前進の指示を出し隊列が動き出そうとしたまさにその瞬間、再びその前方に弾着しその動きを封じられた。
ならばと不本意ながら一時後退の指示を出せば、今度は隊列後方にも読んでいたかの様に時間差で弾着しまたもその動きを止められる。
先程同様ピンク・ハーツとブルー・ハーツに加え、ブラック・ハーツとイエロー・ハーツも参加しての絶妙なタイミングでの前後への時間差挟撃、その結果強烈な悪臭の只中に足止めされ、引くも進むも許されぬ地獄の中で全員涙を流し悶え苦しんでいるが、そもそもこのダージリン達を地獄に叩き込んだ悪臭の元は一体何なのであろうか?
それは特設スタンドで観戦するまほ達にも映像のみでは理解出来ず、しきりに首を捻っている。
「あっはっはっはっはっは!いや~、あのお姫様もよくもまあこんな手を考え付くもんだわ。さっきの亜美の様子といい聖グロの混乱ぶりといい、今日はコレだけでも来た甲斐があったわぁ♪」
豪快に笑った後も面白くて堪らないといった風に続ける英子に、疑問符だらけの顔でアンチョビが何が起こっているのか説明を求めた。
「あのう…英子姉さん、一体ラブは何をやらかしたんですか?」
「あ?ああアレはねぇ…千代美ちゃん達どうせ戦譜作るのに地図は持って来てるんでしょ?」
英子言われスタンドに並ぶ者達は慌てて地図を取り出し広げ始める。
「この会場の場所は解るかい?聖グロの連中は陣取っていた東京入管横浜支局前の交差点から、私達のいるこのアウトレット前を通過してその先最初の信号を左折して行ったよね?そしてその先で緑地帯を突っ切って一部並走する枝道に侵入してそのまま幸浦一交差点を通過。ここまではさっきまでモニターで見ていた通り、確認出来た?OK?そうしたらそのチョイ先、左手には何がある?」
手元の地図にルートを書き込みつつ、問われた一同が一斉に該当する施設名を読み上げた。
『南部汚泥処理センター……』
「はい正解、あそこ普段でも結構臭う事あるのよね~」
南部汚泥処理センター、それは隣接する水再生センターで発生した汚泥の有機物を分解し、ガス抜きをして汚泥の量を減量させる為の施設であり、ラブが砲撃を加えたのはその汚泥を溜め込みガスを発生させる為の、まるでラッキョウの様な形をした水色のタンクの一つであった。
「…じゃあラブがぶっ潰したタンクの中身って……」
「そう、処理中の汚泥がそれはもう
想像して吐き気を堪えて聞くアンチョビに一部誇張しながら英子も答える。
「しっかしこりゃキツイわ、今日は海風が結構強いからガンガン臭ってるでしょうねぇ…ねえ西住のお嬢さん達、あのお姫様の子供の頃悪戯ってこんな感じだったの?」
英子に突然質問されたまほとみほは、恥ずかしそうに俯きつつ同時に答えた。
『その…あれは概ね子供の頃の延長線上です……』
「あっはっはっはっはっは!そりゃ~いい!傑作だ♪お?噂をすればお姫様も動き出すみたいよ」
英子が指差すモニターの中にLove Gunを前進させるべく指示を出す姿が写っている。
「ヨシ!今よ全速で突撃!」
ラブが腕を振り咽頭マイクを押えつつ号令を下すと、香子操るLove Gunは潜伏していた工場敷地を飛び出しその先の幸浦一交差点を左折、そしてその先で足止めされ悪臭で悶え苦しむ聖グロ戦車隊の隊列に肉薄し、その間を車体に括り付けたスピーカーから騎兵隊の突撃らっぱを轟かせながら一気にぶった切る様に走り抜けた。
その際ダージリンの騎乗するブラックプリンスの横をかすめる様に通過する時には、毎度お馴染みの笠女の校名入りの拡声器を取り出しダージリンをおちょくる事も忘れていない。
「
「何言ってるか解らないわよおぇぇぇ!げっほげっほ!」
マスク越しの為くぐもって何を言っているかは解らないが、悪意だけは伝わった様でダージリンも怒鳴り返したが、盛大に悪臭も吸い込み涙を流し咽ていた。
「出た!拡声器!懐かしいわ~♪今日は本当に来た甲斐があったわ!」
馬鹿受けする英子だが中学時代散々やられた経験のある者達は、モニターの中で涙を流して悶絶する姿を我が身に置き換え想像し、いたたまれない気持ちでその光景を見ている。
「お…追いなさい……ぜ、前進!」
気が付けば足止めの砲撃も止み、Love Gunは挑発する様に蛇行しながら走り去って行く。
ダージリンが咽ながら指示を出すと、我先にその強烈な悪臭から逃げ出すべく聖グロ戦車隊は無秩序に動き出したがここでもまた一つの悲喜劇が発生していた。
足の速いクルセイダ―とブラックプリンス直衛のクロムウェルが真っ先に逃げ出すと、それに続きマチルダ隊まで、極めて鈍足なダージリンが騎乗しフラッグ車でもあるブラックプリンスを置き去りにして行ってしまったのであった。
「あぁ!待って!置いて行かないでぇぇぇうおぇぇぇぇ!」
後にこの時ほど、この脚の遅さを呪った事は無いと隊長車付きの乗員は語っている。
そして特設会場でダージリンの悲痛な絶叫を聴いた一同もまた、自分が対戦する時のフィールドは慎重に選ぼうと心の中でそっと決意をしたのであった。
「ぜぇ、はぁ…なんで私がこんな目に……うぅ…鼻に臭いが付いて……」
その後やっと悪臭地獄を脱したブラックプリンスであったが、その隊列は大きく乱れ試合開始三十分も経たずに聖グロの隊員達は体力的に激しく消耗し、精神的に削られそのモチベーションは著しく低下、結果として周囲への警戒もすっかり手薄になっており、如何にラブの仕掛けたタチの悪い嫌がらせ攻撃が効果的であったかを如実に物語っていた。
「しかしさあラブ姉、あんな物ぶっ壊してよかったワケ?」
這々の体で悪臭地獄から脱出し、何とか金沢卸売団地前の交差点で再集結を計っている聖グロの様子を、ラブ達は大胆にもそこから100m程しか離れていないコンビニの陰から伺っていた。
Love Gun砲手の瑠伽はしゃがみ込んで様子を窺う自分の頭の上に、ラブが乗っけたアハト・アハトをうっとおしそうにしながら自分が破壊した汚泥タンクについて問い質した。
「いいのよ、だって交戦規定の何処にもその記述は無かったんだもの。あったのは市大病院に対する記述だけでそれさえ守れば何も咎められる筋合いはないわ」
「それはそうかもしれないけどさぁ……」
瑠伽は今も鼻に残る悪臭で苦しむ聖グロの隊員達を気の毒に思いつつも、戦力差を気にも留めず相手を翻弄するラブが自分の敵でなくて良かったとしみじみ実感していた。
「それよりもね、ダージリン達には福浦橋を超えて貰わないと困るのよね~。だからそろそろ挑発を再開して何としても市大医学部前交差点の一本道に引きずり込まないとね。そうじゃないと待ってる愛達にも悪いじゃない、そうでしょ?」
「まあそうだけどさ……」
この人には何を言っても無駄だと改めて思った瑠伽は、目と鼻の先で止まってしまっている聖グロを、ここからどうやって愛達の待つキルゾーンまで誘導するかをラブに確認する。
「で?この先ラブ姉はどう動くつもりなのよ?」
「ん~そうねぇ…あのペイント弾使うか……アレをダージリンのブラックプリンスに一発撃ち込んで、その後は拡声器パフォーマンスで挑発すればキレて追っかけて来るんじゃないかな?」
「え~?アレ使うの~?」
瑠伽は露骨に嫌そうな顔をすると心底ダージリンとアッサムの事を気の毒に思うのだった。
「まさかさぁ、ラブ姉この為にあの色調合させたのぉ?」
「いや、別にそういう訳でも…あるかな?」
「ほんっとラブ姉って、その辺最低人間だよね。あの臭いの後にあの下品なピンクとかさぁ……」
「いやあ、それ程でも~」
「褒めてないよ、それよりいつまで人の頭にそのデカ乳乗せてる気よ?」
さすがに重くうっとおしさも限界に来た瑠伽は、重量挙げの様にラブのたわわを押し上げた。
「ひっど~い!ちょっとしたご褒美じゃな~い」
「どこがよ!それより今度はどのタイミングで仕掛けるのよ?」
「そうねぇ、あまり早過ぎると間が空いちゃうからねぇ…再度進発する直前辺りが理想かな?そのタイミングで飛び出して福浦橋からブラックプリンスに一発かましてそのまま水路沿いに直進、その先の三本目の橋で水路を渡って化学団地前の交差点を右折、そして二つめの交差点を左折して市大病院前の直線に入るよ。その先の交差点に入る前、コンビニの辺りから打ち合わせ通り突撃らっぱ付いて来た数だけ鳴らして私達は一気にキルゾーンを駆け抜ける。そこまではとにかく如何にもおちょくって逃げ回ってる風に見せる事。多分ローズヒップちゃんのクルセイダ―隊が追って来るから大丈夫だと思うけど、市大病院前の直線がキルゾーンだと気取られない事が大事よ。ダージリン達が冷静な判断力を取り戻すまでが勝負、ここでどれだけ戦力削ぎ落とせるかでその先が大きく違うから」
「了解、それじゃ私は先に戻ってルートを香子に伝えとくわ」
「ん、おねが~い」
瑠伽はそう言うと立ち上がりLove Gunに駆け戻って行き、ラブはそのまま聖グロの様子を窺っているがその表情は人の悪い笑みを湛えこの状況を心底楽しんでいる様に見える。
この時点で時間の方は試合開始から丁度一時間が経過していた。
「うぅ…私の人望なんて所詮あの程度だったという事ね…ペコ、紅茶を淹れてちょうだい……」
隊長車を置き去りにして、皆サッサと臭い地獄から逃げ出した事にすっかり凹んだダージリンは、完全にいじけた弱々しい声音でペコに紅茶を要求した。
「お言葉ですがダージリン様、今の状態で紅茶を飲まれても、あの臭いの味の解らない液体を飲む事になるのでおやめになられた方が宜しいかと思いますが」
自身も未だ鼻に付いた臭いの不快さに眉間に縦皺を入れたまま、オレンジペコはダージリンの要求をやんわりと拒絶する。
「うぅ…ペコまで……」
「それよりダージリン、そろそろラブを追わないと時間ばかり無駄に浪費しますわ」
そう言うアッサムもまた表情、顔色共に冴えない。
「分かってますわよ!おのれラブ!目にもの見せてくれる!」
こめかみに怒り皺を浮かべ拳を握りそう叫んだダージリンは、再びブラックプリンスに搭乗すると全軍に進発を指示し、ローズヒップのクルセイダ―隊には先行し威力偵察を行なう様命令しようとしたまさにその時、突然目の前に躍り出たLove Gunから砲撃を受け、弾着と共に飛び散ったえげつないピンクの飛沫をダージリンはまともに浴びてしまう。
「な、な…こんな近くに……」
突然の事に口をパクつかせるだけで上手く言葉が出ないダージリンに向け、ラブはにへら~っと笑うと鼻をつまみ得意の拡声器を向け一言。
「臭っ!」
それを聞いた瞬間ダージリンの中で何かがブチっと切れた。
「行けぇ!行ってあの化け乳女を叩きのめせ!」
「ダ、ダージリンさま!?」
オレンジペコは突如怒り狂って喚き散らし始めたダージリンの姿に唖然とする。
ラブもまたダージリンのその様を確認すると笑いながらLove Gunを発進させた。
「あははははは~♪やっべ~!ダージリンがキレた~!全速力で逃げろ~!」
拡声器でそう叫びながらラブはなおも楽しげに笑い続ける。
「だからソレ煩いってば」
忌々しげに瑠伽はラブを見上げ言うがラブは一向に聞いちゃいない。
「手筈通り行くよ~!お?上手い具合にローズヒップちゃん達が喰い付いて来たよ!向こうの方が脚は速いからね、威嚇しながらキルゾーンまで逃げるよ!水路を渡ったら砲塔旋回!撃たなくてもいい、指向するだけで微妙に向こうの行き脚は鈍るから!」
ラブは指示を出しながらも後方の確認は怠らない。
実質左目しか見えないハンデがありながら、それを感じさせない視野の広さと持ち前の状況判断力の高さで、ラブは相手に隙を与える事無く作戦を展開する。
「お~ほっほっほ!このローズヒップ、スピード勝負なら決して遅れは取りません事よ!」
背後から聴こえたローズヒップの高笑いに、ラブもまた実に楽しげに笑いながら言う。
「いやあ、ローズヒップちゃんっていつも賑やかで楽しい子よね~♪」
『それラブ姉が言うか?』
Love Gunのクルー一同心の中でそう突っ込まずにはいられない。
そうこうするうちに水路沿いに進んでいたLove Gunは右折して橋を渡った。
「瑠伽、砲塔旋回!香子も適時フェイント入れつつ速度は維持するように!」
ラブの指摘通り自分に向かい砲身が指向してくれば、微妙に行き脚にも影響が出る上に距離も取るようになるので、結果として付かず離れずな程良い距離での追いかけっこの態勢が出来上がった。
「ヨシ、いいね!このまま愛達の待つキルゾーンまで引っ張るよ!」
Love Gunはその後も不定期にスラローム走行と砲塔を指向しての威嚇行動を行ないつつ、化学団地前交差点をドリフト気味に左折、直線道路に入ると目測で500m程先にはシーサイドラインの産業振興センター駅が見えて来て、目指すキルゾーンの直線道路に入る二つ先の交差点までは残り約200m。
そして一つ目の交差点を通過し残り100mの辺りで、前方の産業振興センター前交差点をルクリリのマチルダを先頭に本隊部隊が続々と左折して来るのが見える。
どうやらクルセイダ―隊からの無線連絡で、後を追わずに挟撃すべく福浦橋交差点をそのまま直進、目論み通りLove Gunの頭を押さえる形になり、その見事な連携にラブも目を丸くした。
「うっは~♪キレてもさすがはダージリン、こりゃ~チキンランだね~!お~い香子、最後の交差点ちょっと慌てた風に少し手前からカニ走りでドリフト旋回行ける~?」
「余裕で行けるわ!」
「それじゃソレでいってみよ~♪」
ラブがそう言う間にいよいよ最後の交差点は目前になり、香子はドリフト移行の為のカウンターを入れた後交差点に直交する形にLove Gunを90度左向きにスライドさせる。
履帯が火花を散らし横滑りするLove Gunを驚愕の目で見るルクリリの目の前で、交差点に到達したLove Gunはそのまま直進してルクリリの視界から消えて行った。
「な、何だ今のは……!」
呆然と呟くルクリリの視界に今度はローズヒップを先頭にクランベリーとバニラのクルセイダ―が続き、こちらは通常のドリフト旋回で交差点に飛び込んで行ったが、少し遅れたジャスミンだけが曲がり切れず意図しないカニ走り状態で側面からルクリリのマチルダに激突した。
「うわ!と、あいたたた…って、このバカモノ!何をやっておるか!」
「も、申し訳御座いませんルクリリ様!」
「いいから早くそこをどかんかぁ!」
「は、ハイ!ただいま!」
幸い双方大したダメージは無かった様でジャスミンは慌てて追撃を再開した。
ルクリリから叱責を受けたものの、ジャスミンにとってはこのミスが大きく幸いする事になったと解るのはこの直ぐ後の事であった。
「ラブ姉コンビニ見えたよ!」
狭い視界からも確認出来た操縦手の香子が声を上げると、後方を確認しつつラブもそれに応じて通信手の花楓に次の指示を出す。
「花楓、突撃らっぱ用意!しかし一両脱落して付いて来たのは三両か…今よ花楓!」
ラブの合図で花楓がホーンボタンを押すと、外付けのスピーカーから間の抜けた騎兵隊の突撃らっぱが工場地帯に鳴り響く。
愛達が待ち構えるキルゾーンはもう目前、しかしローズヒップ達クルセイダ―隊は、まだその罠の存在には全く気付いてはいないのだった。
臭い玉の中がどうなっているかは作者もよくは解りません(無責任)