ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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明日は夜まで忙しいので今日のうちに投稿です。
どうにか修正が間に合って良かった…。




第十一話   狩る者 狩られる者

「ふう…それにしてもLove Gunの操縦手は凄まじい技量だな、一年生であのレベルとは末恐ろしいものだがさすがはラブ先輩の仕込みという事か」

 

『どうしましたルクリリ?』

 

「申し訳ありませんダージリン様、挟撃は今一歩の処で間に合いませんでした」

 

『そう…仕方ないわね。まあいいわ、ここで隊を二手に分けましょう。ルクリリ、あなたはマチルダ隊の半分を連れてこのまま直進、海沿いからこちらに向けて交差点毎にジグザグに威力偵察を行いなさい。どうやらラブはこの福浦周辺を主戦場にしたい様ですから』

 

 

 ダージリンからの無線呼び出しを受けたルクリリが状況を報告する。

 無線越しのダージリンの声も冷静さを取り戻しつつある様で落ち着いていた。

 ルクリリがそれに安堵し、引き続き聞こえて来る作戦指示に耳を傾けた瞬間、辺りに複数の砲撃音がほぼ同時に轟き渡り、その直後無線の共用回線から信じ難い凶報が舞い込んで来た。

 

 

『聖グロリアーナ、クルセイダ―三両走行不能!』

 

「チッ!ローズヒップめ!ドジったな!?」

 

 

 思わず毒づいたルクリリだが、そのポジションからは何が起こったのかは確認する事が出来ず、ルクリリはダージリンに改めて無線でどう対応すべきか指示を求めた。

 

 

『これは冷静さを欠いてローズヒップを先行させた私の判断ミスです…ルクリリは当初予定通り行動を開始しなさい。但しくれぐれもラブの奇襲には注意するように、我々も現状確認後こちら側から索敵しつつ前進します』

 

「了解!」

 

 

 交信を終えるとルクリリはマチルダ隊の半数を引き連れその場を離脱する。

 ちらりと振り返った視界の中で、クロムウェルのコマンダーキューポラ上のニルギリが、不安げな面持ちで自分を見送っているのが見えた。

 

 

『ニルギリ、ダージリン様の護衛は任せたぞ』

 

 

 心の中でそう呟いたルクリリは前に向き直ると、鋭い視線で前を見据え部隊に増速の指示を出す。

 試合開始からここまでラブに翻弄され続け、自軍が一発も発砲せぬうちに三両のクルセイダ―が討ち取られた事実が、ルクリリの心の中の焦燥感を掻き立てる。

 やはりラブ先輩は恐ろしい、改めてそう痛感させられたが、ここで焦っては駄目だと自分に言い聞かせルクリリは周囲に警戒の視線を巡らせるのであった。

 だが、果して一体ローズヒップ達クルセイダ―隊に何が起こったのか?

 上空からの空撮映像でそれを見ていた特設スタンドの観戦客達からは、その瞬間アイドルユニットとしてはその名が売れつつあるとはいえ戦車道の世界では新設の無名校が、全国大会常連であり地元横浜の人気高である聖グロから、同時に三両もの戦車を討ち取った事実に悲鳴と歓声の両方が同時に上がり、その後はAP-Girlsの連携と手際の良さに感嘆と称賛の声が溢れている。

 

 

「いやいや面白い位見事に決まったわねぇ♪」

 

 

 アンチョビが出店から出前させたピザに舌鼓を打ちつつ戦況を見守っていた英子は、ノンアルスパークリングワインで喉を潤した後、クルセイダ―隊が討ち取られる瞬間のリプレイが流れる大型モニターを見ながら愉快そうに感想を口にしていた。

 

 

「だけどダージリンもダージリンよ、まんまとラブのやっすい挑発に乗っちゃって、引きずり回された挙句あのザマじゃとんだ赤っ恥じゃない!全く何やってるのよ!」

 

 

 いつもの調子でそう言うカチューシャだが、ピザで口の周りをベタベタにしているのをノンナに拭って貰っているので小さな暴君の迫力は全く感じられないのもいつもの光景。

 

 

「そうは言うけどアナタ達だって中学時代、そのやっすい挑発に乗って、あのお姫様に散々痛い目見させられていただろう?」

 

『うぅ…全く言い返せない……』

 

 

 面白そうに言う英子の言葉を否定出来ず一同恥ずかしそうに俯く。

 

 

「ですがカチューシャ様、あの厳島様という方はそれ程まで恐ろしい方なのですか?」

 

 

ラブとAP-Girls見るのはこの日が初めてであるクラーラは素直な質問を口にした。

 

 

「そうと気付かれないうちに相手を自分の術中に落し込み、疲弊して音を上げるまで掌の中で転がし続けるのはあのラブが尤も得意とする処です」

 

 

 ノンナはカチューシャに代わりクラーラの質問に答えつつ、何か過去を思い出したのか眉根を寄せ苦々しげな表情となる。

 

「全くもって厄介な女よ!」

 

 

 カチューシャもまたノンナと同様の表情で吠える様に吐き捨てた。

 

 

「ほら、もう一度リプレイが出るよ」

 

 

 英子は二枚目のカットピザを手にしつつ顎でモニターを指し示す。

 そのモニターの中では、丁度挟撃される形になったLove Gunが交差点に向けカニ走り状態で履帯から火花を散らし横滑りして行く場面から始まった。

 

 

「あのお姫様の慌てた素振りは大した役者だよねぇ──」

 

 

 細かな部分までよく見ている英子が解説する中、Love Gunはドリフト状態から交差点に到達した瞬間、蹴飛ばされた様に一気に加速し直線道路に消えて行く。

 

 

「──来たよ」

 

「来たね……」

 

 

 丁度Love Gunが交差点に飛び込んだその頃、キルゾーンに設定された市大病院前交差点の手前の一区画の工場建屋内に潜伏中のピンク、ブラックとブルー及びイエローの各車の乗員達は、その段階で耳聡くラブが聖グロを釣り上げ引き連れてこちらに向かっている事に気付いていた。

 それまで弛緩した表情で寛いでいたのが一変し、表情は俄かに戦闘中のそれになる。

 直線道路の両側、軒を連ねる工場建屋内に互い違いの形で市大病院方向に向け斜めに砲を指向、通り過ぎた瞬間にターゲットの後部に徹甲弾を撃ち込む。

 一つ間違えば市大病院を破壊し即反則負けとなる危険極まりないやり口だが、彼女達AP-Girlsのメンバーの表情には躊躇や緊張といった色は一切見えず、あるのは絶対の自信と高揚感、それは狩られる側ではなく完全に狩る側の猛禽の鋭い視線であった。

 各車装填手が徹甲弾を装填、閉鎖機が閉まり砲手はその瞬間を待つ。

 いよいよ履帯がアスファルトを削る響きが明確に聴き取れ始めたその時、騎兵隊の突撃らっぱが三連続で鳴り響く。

 ラブが釣り上げたターゲットの数は三両、遂に目の前をラブが拡声器で叫びながら通過して行く。

 

 

「AP-Girls!Go for it!」

 

 

 駆け抜けたLove Gunに続き、ローズヒップ車を先頭にクルセイダ―隊がAP-Girlsが待ち構えるキルゾーンに突入、その無防備な車体後部が長砲身50㎜の射角に入った。

 

 

『撃て!』

 

 

 無線など使わなくともピッタリ揃った各車長の号令一下、四両の50㎜が一斉に火を噴く。

 重なった轟音と共に撃ち出された徹甲弾は、狙い違わず吸い込まれる様に三両のクルセイダ―の後部を貫きその息の根を止めた。

 特に先頭を走行していたローズヒップ車はピンクとブラックの二両から同時砲撃を受けた為その衝撃は凄まじく、激しくシェイクされたローズヒップ達は暫く目を回す程であった。

 

 

「あ、あ……」

 

 

 コーナリング中にコースアウトし出遅れていたジャスミンは、それが幸いし僚車共々討ち取られる事を免れてはいたものの、その目の前で三両同時に撃破される場面を直視する事になった。

 砲撃音と爆発の衝撃に急停車を指示し巻き添えは回避したが、炎と黒煙を吹き白旗を揚げたその惨状を目の当たりにしたジャスミンは、言葉を失い暫し呆然とその光景を見つめていた。

 しかし前方の両側の工場から四両のⅢ号J型がその姿を現し、自分達に砲を指向している事に気付いた時やっと我に返ったが、それ以上に強力な何かを感じ視線を前方に移した。

 立ち昇る炎と黒煙の合間、その向こうに時折見えるLove Gunの姿。

 そのLove Gunのコマンダーキューポラ上でこちらを見据え嫣然と微笑むラブからは、まるで『今は見逃してあげる』とでも言っている様な無言の圧力の様なものを感じ、言い知れぬ恐怖を感じたジャスミンは慌てて撤退の指示を出す。

 

 

「さ、下がれ!後退だ!急げ!」

 

 

 その声に我に返った操縦手ももたつきながらも後退を始め、ここで第一ラウンドはAP-Girlsに軍配が上がる形で終了した。

 

 

「お姫様のお芝居もさる事ながらAP-Girlsの連携も大したものね。どれだけ訓練積んでも多少の誤差は出るものよ、一体何をやればあそこまで統制が取れる様になるのかしらね?」

 

 

 リプレイからリアルタイム画像に切り替わった処で改めて英子は感心した様に言う。       ()()…笠女学園艦滞在時、鈴鹿の言った言葉を思い出す一同。

 血は繋がらなくともその心の繋がりが、何ものにも負けぬ強さを生み出す。

 口には出さぬが皆胸の中でその姉妹という言葉を反芻するのであった。

 

 

「これで17対5、さて次は何をやるつもりなのかしらね?」

 

 

 英子は好奇心に目を輝かせモニターを見つめている。

 

 

「取り敢えず三両撃破は上出来、上出来♪それじゃこっからはみんな好きにやっていいよ~、但し最終段階まではやられちゃダメだからね?それまでに目標の残り二両は撃破するようやってみて。勿論それ以上やれるならやって構わないけど無理は厳禁、時間になったら担当ポジションに行ってタイミングを見て任務を遂行する事。それじゃそれまでみんな遊んどいで~♪」

 

 

 クルセイダ―三両を討ち取った後再集結したAP-Girlsは、ラブのふざけているとしか思えない指示を聞くと、それに何か不満を言うでもなく言われた通り好き勝手に散って行く。

 アウトレットの特設スタンド上から、モニターでその様子を見ていた観戦客達の間にもどよめきが起こり、当然その中にはまほ達も含まれていた。

 

 

「Why?どういう事よ?全車単騎駆け?あの子達全部でたった五両しかいないのに、揃いも揃って何考えてるのよ?」

 

「ラブの指示か?相変わらずふざけた事しやがる」

 

 

 ケイとナオミもピザをコーラで流し込みながらその行動に呆れている。

 

 

「でも…何だかラブお姉ちゃんは試合をしているというより、実験というか何かを試している様な…上手く言えないんだけど私はそんな気がする……」

 

 

 みほの思わぬ言葉に全員が一斉にみほの方に顔を向ける。

 

 

「ふえ!?い、いやただ何となくそう感じただけで──」

 

「試されているのはAP-Girlsなのかあるいはアナタ達なのか…はたまた彼女自身なのか……」

 

 

 狼狽えるみほを余所に英子の放った疑問が存外に一同に重く圧し掛かった。

 

 

「まあ私はあくまで部外者だから面白可笑しく見物させてもらうわ」

 

 

 続けて英子がお気楽に言い放つ言葉に当事者側は一斉にガックリと項垂れるのであった。

 モニター内では解き放たれたAP-Girlsの空撮映像を分割画面で映し始めている。

 

 

「ねえ愛、それでウチらはどうするつもり~?」

 

 

 愛が車長を務めるピンク・ハーツ車内では、操縦手を務める黒髪を前下がりショートにした焦げ茶の瞳の少女、月代菜々(つきしろなな)が楽しげにピンク・ハーツを操りつつ聞いて来る。

 

 

「最初にさっき逃がしたクルセイダ―を潰す……」

 

 

 表情も変えずぶっきらぼう且つ物騒なもの言いをする愛だが、菜々の方も慣れているのか気にも留めずに『あっそ』っと答えると淡々と操縦を続ける。

 その一方でサイドハッチを開け放ち、外の様子を眺めていたセミロングのオレンジの髪を左側でサイドポニーにした少女、澤嶺彩華(さわみねあやか)がその瑠璃色の瞳を見開き声を上げた。

 

 

「3ブロック隣にマチルダみっけた」

 

「どっちよ?」

 

 

 即反応したのは残弾を確認していた干し草色のブロンドを、アップできっちり編み込んだ淡い緑の瞳の装填手醍醐瑞希(だいごみずき)だ。

 

 

「右手側の工場同士の隙間から見えた」

 

「愛、どうする?」

 

 

 通信手である青み掛かった癖のある銀髪をセミショートにした少女、須郷霧恵(すごうきりえ)がフィールドマップを確認しつつ顔も上げずに聞いて来た。

 

 

「あっちには鈴鹿が行ってるから放っておく」

 

『あっそ』

 

 

 またも愛は素っ気無く答えるものの、今度は全員が一斉に同じ様に返す辺りこのピンク・ハーツの乗員達も相当に癖が強そうに見える。

 一方その頃隊を分け海側からの威力偵察を開始していたマチルダ隊であったが、それを率いるマチルダ隊隊長のルクリリはここに来て若干不安感が強くなり始めていた。

 

 

「隊を二つに分けたのはよいがこちらの行き脚ではあの速度に太刀打ち出来ん…全くローズヒップのヤツめ、あれ程言われていたのに飛ばす事ばかり考えてあのザマとは…いかんいかん、起きてしまった事は仕方ない。オイ!全車警戒監視怠るなよ!ラブ先輩は何処からでも来るぞ!」

 

 

 ルクリリもそうは言ったものの、今のマチルダ隊にラブと直接やり合った経験者はごく少数で、その真の恐ろしさは実際体験しないと解らないだろうといういうのが本心であった。

 内心そんな事を考えつつそれでも警戒を怠る事無く前進していた時フッと頭上を影が過る。

 通り過ぎざまに見上げてみれば大型のクレーン車がトラス構造のアームを道路上に突き出す形で止まっており、影はそのアームが作ったものであった。

 

 

「ん?何であんな物が…しまった!オイ!気を付けろ──」

 

 

 ルクリリが後続車両に注意喚起に声を上げたその瞬間、辺りに轟く鋭い砲撃音と破壊音の後に振り返った視界の中、支えを失ったクレーンのアームが三両後ろにいたマチルダの砲身の上に落下し、金属同士がぶつかる音と共にそのままマチルダの砲身を根元からへし折った。

 舞い上がった埃が収まって来ると砲塔部には白旗が揚がり、何が起こったのか解らぬ車長は呆然とした顔で宙を見つめている。

 

 

「聖グロリアーナ、マチルダ走行不能!」

 

 

 再び共用無線から流れるアナウンスに我に返ったルクリリが砲撃音のした方向に目を向ければ、破壊されたクレーン車の向こうに一両のⅢ号J型と、そのコマンダーキューポラ上にはルクリリに向け敬礼を送るブラック・ハーツ車長の東雲鈴鹿の姿があった。

 微笑んで敬礼を解くと、鈴鹿はロングの黒髪を翻しブラック・ハーツ共々重機と倉庫の隙間を通り抜けあっと言う間にその場を立ち去って行った。

 恐らくクルセイダ―隊襲撃後、今の様に工場敷地のショートカットを繰り返し、最短ルートで先回りをしてここで待ち構え攻撃を仕掛けて来たのだろう。

 見ればクレーンの下には力押しで向きを変えた痕跡があり、警戒しながらルクリリ隊が進む間にこのトラップを仕掛けたであろう事が見て取れた。

 

 

「くそっ!まんまとしてやられた!オイ!この道は駄目だ、後続はワンブロック戻って回り込め!私達はこのまま前進して合流する!相手を一年だと思って舐めるな、古参の手練れと思って対応しろ!これ以上好きにさせるな!」

 

 

 ルクリリがそう檄を飛ばしたがこの砲撃音を合図にAP-Girlsの攻撃は激しさを増し、翻弄され続ける聖グロ側はいつ果てるとも知れぬ悪夢のような時間を過す事になる。

 

 

「あの音の方向からするとリサイクル業者が集まる区画だね。って事は鈴鹿があのトラップ使ったか。ねえ愛、あそこで使えるトラップは後二つだったけ?」

 

 

 相変わらずサイドハッチから顔を出していた砲手の彩華は、そのまま外からコマンダーキューポラ上の愛に向かって声を掛けた。

 

 

「あれを使ったら実質後一つね…捉えた…彩華、戻って。総員砲撃戦用意、目標敵本隊最後尾のクルセイダ―…今度こそ確実に潰す……」

 

 

 工場敷地内をショートカットして道路に出掛けた処で愛の視界の隅に聖グロ本隊の隊列が交差点を右折して行くのが見えた。

 再び物騒なもの言いで指示を出す愛は、いつも通りの無表情でその感情は見えない。

 しかしその一見眠たげにも見える瞳の先には、最後尾に回され警戒行動中のジャスミンのクルセイダ―をしっかりと捉えている。

 

 

「聖グロが交差点を完全に右折したら一気に間を詰めて後背を突く、行進間射撃で撃破後はそのまま全速力で隊列に割って入り挑発行動を行いつつ一気に離脱する。クルセイダ―を潰せば後付いて来られるのはクロムウェルのみ、ここで確実に聖グロの機動力を一枚削ぎ落とす。突撃用意!」

 

 

 ここに来て愛の言葉にも若干感情の動きが見え始めた。

 それは無謀極まりない作戦に見えるだろう、だがそれを実行する自信と実力が、この愛というAP-Girls一小柄な少女には備わっている。

 そうでなければラブの副長など勤まるはずもなく、その実力があるからこそ誰一人疑う事無く全員その指示に従い与えられた任務を遂行して行くのだ。

 

 

「Tank move forward!」

 

 

 愛の号令と共に工場敷地から飛び出したピンク・ハーツは、矢の様に加速し一気にトップスピードに到達すると、交差点を鮮やかなドリフト旋回で走り抜けあっと言う間に聖グロ本隊最後尾にいたジャスミンのクルセイダ―に肉薄する。

 しかし後方警戒の為砲塔を後ろに向けていたジャスミンも、ピンク・ハーツが交差点に飛び出して来た段階でそれに気付き攻撃指示を下しクルセイダ―の6ポンドが火を噴く。

 これがこの日初めての聖グロの砲撃であったが突然の事で照準も甘く、この一発は大きく的を外れピンク・ハーツ遥か後方に逸れ、一軒の工場建屋に飛び込み大穴を開け内部の工作機械を木端微塵に粉砕する結果となった。

 

 

「ウチの工場がぁ…!これで新型の工作機械を導入出来る!」

 

「縁起いいなぁ」

 

「ウチにも突っ込まねぇかなぁ?」

 

 

 アウトレットの観客席では、それをモニターで見ていたネクタイに社名入り作業服の上着を羽織った三人の工場経営者らしき男性達が、どこかで聞いた様な会話を交わしている。

 だがその一撃が当たらない事を見越していた愛は、回避行動を取らせる事も無く一直線にクルセイダ―の背後に迫りその距離が10m程に詰まった処で遂に砲撃命令を下す。

 

 

「撃て!」

 

 

 大気を震わす砲撃音と、生まれた火球の中から飛び出した徹甲弾は、狙い違わずクルセイダ―の後部を貫き爆発炎上を起こし、即座に揚がった白旗とアナウンスが聖グロ五両目の戦線離脱を告げ、これでダージリンは持てる戦力の1/4を失う事となった。

 ここまでで試合開始から二時間が経過、たった五両のAP-Girlsに好き放題に翻弄される聖グロの姿に特設スタンドにいる観戦客の間にも動揺が広がるが、その観戦客達の目の前でピンク・ハーツは更に信じられない行動に出るのであった。

 撃破され擱座したクルセイダ―の脇をすり抜けたピンク・ハーツは、速度そのままに二列縦隊で進行している聖グロ本隊の間に割って入ると、一気にその間を駆け抜けて行く。

 フレンドリーファイアを恐れて攻撃出来ない聖グロをいい事に、追い抜き様に旋回させた砲塔をダージリンのブラックプリンスに指向すると即座に砲撃を敢行、さすがにその厚い装甲は貫けないもののその衝撃は激しくブラックプリンスを揺さぶるのだった。

 

 

「スモーク!」

 

 

 聖グロの隊列をぶち抜いた処で、愛は車体後部の発煙装置からステージ用のド派手なピンクのスモークを撒き散らし、文字通り聖グロを煙に巻くとあっと言う間にピンク・ハーツは何処かへ走り去り後に残されたのは何も出来ずただ悔しがる聖グロの隊員達と、撃破され炎と黒煙を立ち昇らせるクルセイダ―のみであった。

 

 

「ダージリン……」

 

「ええ…私が甘かったですわ……認めます。ラブ相手に隊列を組んでの侵攻など、的を献上する様なものなのに私はその愚を犯してしまった……」

 

 

 アッサムの問う様な視線にダージリンは自分の非を認めると、立て直しを図るべく無線でルクリリを呼び出し部隊再編の為本隊と合流するよう命令を下す。

 だがしかしその命令を下す間にもAP-Girlsの奇襲攻撃の手は休まる事を知らず、今度はルクリリのマチルダ隊が単騎駆け中に意図せず邂逅した夏妃のブルー・ハーツと、凜々子のイエロー・ハーツによる連携攻撃を受け交戦状態に突入、ダージリンの意図は脆くも頓挫した。

 

 

「各車砲撃以外の間接攻撃に注意せよ!」

 

 

 道の両側に解体処理工場が立ち並ぶ一本道で、前方のスクラップの山を砲撃で突き崩された為に袋小路に追い込まれた状態のマチルダ隊は、背後を突くブルーハーツと側面工場建屋の間からのイエロー・ハーツの連携による疑似的な十字砲火に晒されまさに進退窮まる状況に落ちっていた。

 しかもその攻撃も直接砲撃をせずに、周辺に積み上げられたスクラップなどを狙って行なわれている為に、マチルダ隊は現在半ば屑鉄に埋もれながら防戦するのに精いっぱいであった。

 その砲撃音と破壊音は既にダージリンの耳にも届いており、部隊再編もならぬまま急遽本隊はマチルダ隊の救援に駆け付ける事になる。

 だが交戦エリアに辿り着いた時には、既にブルー・ハーツとイエロー・ハーツの両車は逃走しており、ダージリン達が目にしたのは無残にもスクラップに埋もれたマチルダ隊の姿のみであった。

 そのマチルダ隊もようやっとスクラップの山から這い出して来た時には傷だらけの満身創痍、それだけでもダージリンのプライドを傷付けるのに充分であったのに、埋もれていた一両のマチルダがスクラップの山から脱出する際、履帯と転輪の間に食い込んでいたスクラップで駆動系に致命的な修理不能の損傷を負いその場で戦線離脱の憂き目に遭い、これで聖グロの損失は六両を数えるに至った。

 14対4、数の上では未だ聖グロが圧倒的優位。

 だが、モニターを食い入る様に見つめる観戦客達の間にも、ここまでの展開からもしやという考えが浮かび始めたのも丁度この頃の事であった。

 

 

 




愛の戦闘中の気性の激しさは当初設定以上になってるなぁ。
もっとも全登場人物の暴走ぶりも全てそうなんですけどねぇ…。

もうお気付きかとは思いますがこの聖グロ戦は、
ルクリリを活躍させる為のお話しです♪

その為にノリノリで書いてたらまた長くなってますけどw

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