ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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どうにか予告通り週中で一話お届けです。

今回はかなり激しくなってると思います。
そんな中またしてもダー様に災難が♪


第十三話   Blitzkrieg

「やってくれたなオマエら!今度はアタイが相手だ!」

 

 

 牙を剥き絶叫しながらボート置場に突入する夏妃とブルー・ハーツの姿に、完全に気圧されたマチルダ四両の車長達は対応が遅れその間に一気に間合いを詰められてしまう。

 恐慌に駆られもたつくうちに四両の中間点で夏妃はブルー・ハーツをドリフト旋回させると、その旋回中に一番至近に居たマチルダに向け砲撃を敢行、撃ち出された徹甲弾はスカートの僅かな隙間から見事に起動輪を直撃粉砕し、その一撃であっさりと白旗を揚げさせてしまう。

 

 

「こんな狭いトコは性に合わねぇ!オマエら付いて来やがれ!」

 

 

 完全に火が付いた夏妃は鼻息荒くボート置場からブルー・ハーツを飛びださせると、シーサイドラインの高架下を進み暫く行った処で左前方を指示し砲撃命令を下す。

 

 

「左手のゴルフ練習場にヤツらを引き摺り込むぞ!砲塔10時方向に旋回!榴弾装填!撃て!」

 

 

 撃ち出された榴弾がゴルフ練習場の目隠しの立木とフェンスを薙ぎ払う。

 ここに来て三両となったマチルダ隊も我に返り、慌ててブルーハーツの追撃を開始する。

 

 

「ヨシ!付いて来たな!もう一発行くぞ!同じく弾種榴弾装填!撃て!」

 

 

 再び榴弾で次のフェンスを吹き飛ばしブルー・ハーツは広々とした人工芝のゴルフ練習場に侵入し、際奥まで進むと後に続くマチルダ三両を待ち構える。

 その頃八景島内でLove Gunと対峙していたダージリンも、ラブ達の歌った童謡と砲撃音にラブが意図した事に漸く気付くと、その無謀さと大胆さに愕然とさせられた。

 

 

「あなた自分で何をやったか解っているの!?」

 

「んふふ♡ダージリン、Shall We Dance?(さあ踊りましょう)

 

 

 ゾクリとさせられる程に妖艶な笑みを浮かべると、ラブはダージリンに向け左手を胸に当て右手は誘う様に差し伸べる。

 

 

「クッ…最初からそういうつもりで…私達がまんまとそれに乗せられたという事なのね!いいでしょう、その覚悟が出来ているというのなら、私も全力でお相手をするまでです!全車前進!」

 

 

 ダージリンがそう叫んだ瞬間に、Love Gunもまた蹴飛ばされた様に急発進すると一直線にブラックプリンス目がけ突進をしてくるが、ルクリリがその間にマチルダを割って入らせるべく前進し掛けた時にはクルリとドリフトターンで180度転進し榴弾を発砲、再び前方に植わっている松を吹き飛ばすと一目散にイベントスペースから離脱して行く。

 

 

「やっと来たか!纏めて相手してやらぁ!かかって来い!」

 

 

 ゴルフ練習場を自身の決戦の場と定めた夏妃はマチルダ三両が到着すると、待ちかねた様に声を上げ右腕を大きく振るう。

 その猛々しい姿はまほの言うとおりさながらグラディエーター(剣闘士)の様であり、広々としたゴルフ練習場はまるで闘技場の如き錯覚を覚える。

 夏妃の迫力に怯んでいた三両のマチルダの車長達も、気を取り戻したのかブルー・ハーツを三方向から包囲するべく動き始めるた。

 

 

「上等だ!行くぞ!」

 

 

 夏妃の上げた怒声に合わせブルー・ハーツも包囲せんとする三両のマチルダの中に飛び込んで行き、ここにその差三対一の激しい砲撃戦が幕を開けた。

 マチルダ三両は互いに連携し三方向から時間差の砲撃を加えるが、その尽くを見切っているかの様に余裕で躱し逆にカウンターを撃ち返して来る夏妃のブルー・ハーツ。

 そのカウンターの一発のうち、練習場の打席を背にしていたマチルダにあたった徹甲弾は、跳弾して打席に大穴を開けると、大量に吹き飛んだゴルフボールが雨の様に跳弾したマチルダに降り注ぎゴツゴツという音と共にその装甲を叩き続けた。

 撃てども撃てども躱され弾かれ、その戦力差にも関わらず目の前のブルー・ハーツを仕留める事が叶わず、逆に幸い有効打にはならぬもののブルー・ハーツが放つ砲弾は、その全てが自分達のいずれかに必ず当たっておりそれぞれの車長はそれに対しイライラと恐怖心がピークに達しつつあった。

 今もまた市大病院を背にしたマチルダの車長は、一つ間違えば市大病院敷地に弾が飛び込み交戦規定により即失格となるにも関わらず、躊躇なく自車に徹甲弾を撃ち込んで来るブルー・ハーツの砲手の腕と度胸に戦慄を覚えるのだった。

 

 

「あの子達反則負けになるかもしれないのに怖くないの!?」

 

 

 もはやパニックに近い精神状態であり、既に何発もの直撃弾を喰らい満身創痍の装甲同様に後一発でも直撃を受ければ心の方が先に白旗を揚げそうな処まで追い詰められている様だ。

 

 

『こうなったら全車で体当たりしてでもアイツを止める!』

 

 

 そんな時僚車から飛び込んで来た無線の声に何を言い出すかと反駁の声を上げようとした瞬間、更に畳み掛ける様に追い打ちの声が無線から響く。

 

 

『これ以上無様な処を晒せないわ!』

 

 

 この一言でそれに同意してしまう程に彼女達はブルー・ハーツに追い詰められ、最早他の選択肢を考える余裕も失ってしまっている様だった。

 そして三両は円を描きながらブルー・ハーツを軸に周回し、徐々にその方位の輪を狭めて行くが、皮肉な事に事ここに至って今までで一番三両の連携が取れている様である。

 円運動をしつつじわじわとその位置をずらしブルー・ハーツを打席の付近まで追い詰めると、正面から三両横並びの形振り構わぬ突撃を敢行、三両のうち真ん中にいたマチルダは集中砲火で撃破されるもそのまま惰性でブルー・ハーツの正面から衝突し、身動きを出来なくした処で両側のマチルダが一斉砲撃し遂にブルー・ハーツも力尽き白旗が揚がった。

 しかしその白旗が揚がる直前に最後に放たれた徹甲弾は、左隣に居たマチルダの履帯を粉砕しておりμの低い人工芝の上で制御不能のスピンに陥ると、そのまま打席に飛び込みそれでも止まれず更にその奥のクラブハウスまで突っ込み漸く止まった瞬間にあえなく白旗を揚げる事となった。

 残った一両もまたその外見は既にボロボロでいつ止まってもおかしくない様に見えるが、それでも未だ交戦中であるはずの仲間に合流すべくゴルフ練習場を後にして行く。

 

 

「全く忙しい人だなぁ……」

 

 

 Love Gunを追ってイベントスペースからマチルダを進めたルクリリは、前方に見えるラブの風に靡く美しい深紅の髪を見つめながら小さく溜め息を吐いた。

 

 

「それにしても何処に行く気…ってうわわ止まれ止まれー!」

 

 

 海沿いに飛び出したLove Gunは、そのままフードコート沿いのウッドデッキをバキバキと音を立ててすっ飛んで行き、それに続いて進み掛けたルクリリはLove Gunが通り抜けた後のウッドデッキが次々崩れ始めたのに気付き慌てて停止の指示を出した。

 何とかルクリリのマチルダはギリギリで停止したものの、後に続いていたブラックプリンスが止まり切れず追突し、押されたマチルダは転落するかしないかの処まで押し出されてしまった。

 

 

「ルクリリどうしたのです急に止まって?」

 

「うわあ!お願いですダージリン様!下がって下がって!」

 

「何ですの大きな声で…?全車後退」

 

 

 いぶかしげな顔で後退するダージリンにホッとしつつ、ルクリリは青い顔をしている自車の操縦手にも後退の指示を出した。

 

 

「い、いいか、そ~っとだぞ、そ~っと下がるんだ」

 

「ハ、ハイ……」

 

 

 微妙なバランスでユラユラする状態から、途中海に落下して水音を立てる木片に冷や冷やしつつもどうにか脱出に成功するとルクリリ以下マチルダの搭乗員は一斉にその場で脱力する。

 

 

「い、今のは本当にヤバかった…なんか八景島全体がラブ先輩のトラップに思えて来たぞ……」

 

「ル、ルクリリ様怖い事言うの止めて下さい!」

 

 

 真っ青な顔でそう言う砲手の言葉に、ルクリリも慌ててブンブンと首を振り頭の中からその恐ろしい考えを無理矢理に追い出した。

 

 

「イカンイカン!これこそラブ先輩の思う壺だ…とにかく追撃を再開するぞ。ラブ先輩だって橋を落とした以上もう何処にも逃げられないんだからな」

 

 

 後退し再び隊列を組み直すと先頭に立ったルクリリは、迂回しつつラブを探して前進を始めた。

 ルクリリがそんな恐怖を味わっていたその頃、工業団地側に残っていたマチルダ隊の一隊が、イエロー・ハーツとブルー・ハーツによる柴航路橋攻略までの間、聖グロ側を足止めすべく哨戒の任に当たっていた愛のピンク・ハーツの強襲を受け乱戦に突入、応援を呼び残りの二両が駆け付けるもほぼ同時に鈴鹿のブラック・ハーツも応援に駆け付けた為、会敵ポイントとなった建設センター前交差点を中心に凄まじい砲撃の応酬を繰り広げる事となっていた。

 周辺の工場も流れ弾などで次々爆発炎上し倒壊する光景は、そのまま怪獣映画にでも使えそうな程であるが、よく見るとその流れ弾の殆どは聖グロ側が放った物であり、後日映像を見たダージリンが頭を抱え突っ伏すほどの破壊振りであった。

 だが実際マチルダ四両の砲撃を躱し続けるピンク・ハーツとブラック・ハーツの操縦手の技量は凄まじく、撃てども撃てどもまるで踊る様に飛び来る砲弾を躱し続け、マチルダの放つ砲弾は虚しく周囲の工場を破壊するのみで、逆にコンビネーションプレイの様に撃って来るピンク・ハーツとブラック・ハーツの砲弾は面白い程良く当たり、白旗は揚がらずとも四両のマチルダの装甲は、削られ凹み見るも無残にボコボコになる一方だった。

 だがしかし、ブルー・ハーツ撃破後にやっとの事で応援に駆け付けたマチルダが加わると、その均衡も若干崩れ始め、徐々に形勢も聖グロ側に傾き始める。

 それぞれが二両ずつ相手にする形で戦っていた処に加わった一両が、不規則に攻撃を加える様になった為それまでの様な連携が取り難くなり、それで若干余裕の出来たマチルダ隊の砲撃の精度が上がり始め遂に命中弾が出始めた。

 更にここまで来ると数の原理には勝てず、ピンク・ハーツとブラック・ハーツ双方共に残弾も僅かとなり攻撃の手数も減り始めここが勝機と五両のマチルダは、一気に畳み込むべく攻勢に出る。

 だが圧巻なのはここからで防御や回避行動を一切取る事を止めたピンク・ハーツとブラック・ハーツの二両は、ピタリと貼りつく様な併走状態になると包囲殲滅せんと接近しつつあった中で、一番突出していた一両の背後にパラレルドリフトで回り込むと、ほぼゼロ距離からの同一ポイントへの同時砲撃を行いこれを撃破、更に返す刀でぶった切るが如く後進からの左右逆回転の同時スピンターン後に、不用意に近付いていたもう一両に再度同時砲撃を行ない左右の履帯を切断した。

 加速にのったまま履帯切りを喰らったそのマチルダは、制御不能のままトレーラーヘッドから切り離されて路駐してあったカーキャリアに激突し、上向きに砲を捻じ曲げその場で息の根を止めた。

 しかしここで徹甲弾が尽きたブラック・ハーツの車長鈴鹿は、ブラック・ハーツを盾としてピンク・ハーツへの攻撃を徹底的に防御する構えを見せ、残存するマチルダ三両からの攻撃を全てその一身で受け止めつつ残っていた榴弾三発を、ブルー・ハーツ撃破後に駆け付けて来たマチルダを最後の攻撃目標と定め、全弾撃ち込んだ処で再び集中砲火を浴び遂に力尽きた。

 それでもその三発の榴弾が、ブルー・ハーツ相手にダメージを蓄積して来たマチルダにとっては決定打となり、最後はガタガタと身震いする様に進んだ後、ガクっと停止すると白旗が揚がった。

 もう一方のピンクハーツもまた、ブラック・ハーツの援護を受けつつ勇戦するも遂に残るは徹甲弾一発のみの処まで追い詰められており、それを悟ったマチルダ二両にジワジワと押されている。

 だが、それでも尚諦める事無く回避機動を取り続け最後のワンチャンスを狙う。

 ここまで見て来ても解る様に、とにかくこのAP-Girlsの少女達は何があっても諦めない。

 最後の最後、例え白旗が揚がり切る瞬間まで絶対に戦う事を止めようとはしない。

 それは厳島流が掲げる百折不撓(ひゃくせつふとう)という言葉を体現する様に見えた。

 がむしゃらに喰らい付き戦い続けるピンク・ハーツ、だが遂にドリフト旋回中に左側の履帯に直撃を受けスピン状態に陥り切られた履帯と転輪を撒き散らしながら滑って行く。

 やっとピンク・ハーツを討ち取ったと砲撃を加えたマチルダの車長が拳を握りしめたその瞬間、スピン状態にあるピンク・ハーツのコマンダーキューポラ上の愛が砲撃命令を下し、撃ち出された最後の徹甲弾はそのマチルダの履帯を粉砕する。

 それは笠女艦上で行われたペイント弾戦でラブがピンク・ハーツを仕留めた技であり、この窮地にあって愛は見事にそれをやってのけたのであった。

 更にそれに留まらずスピン状態のまま生きている方の履帯を使いブレーキングで軌道修正させ、止めとばかりに履帯を切られたマチルダに捨て身の体当たりを敢行、激突の衝撃で外部燃料タンクから漏れ出た燃料に飛び散る火花から引火し誘爆を起こしそれが致命傷になった。

 激しい激突の衝撃が収まり絡み合うピンク・ハーツとマチルダが停止したその瞬間、双方同時に白旗が揚がり、ここにあまりにも激し過ぎた金沢工業団地での戦闘は全て終了した。

 終わってみれば生き残ったのは聖グロのマチルダ一両のみ、たった四両にその倍の八両で当りながらこの結果は聖グロにしてみれば悪夢以外の何ものでもないであろう。

 

 

「う、うぅ…ちょっとアナタ大丈夫?」

 

 

 ピンク・ハーツに体当たりを喰らったマチルダの車長が、ショックから立ち直り頭を振ってふと横を見ると、対衝撃姿勢のまま顔を上げない愛の姿が目に入り怪我でもしたかと声を掛けた。

 

 

「……?ヒィ!」

 

 

 声を掛けられゆっくりと愛が顔を上げた瞬間、その顔を見たマチルダの車長は短く悲鳴を上げ腰を抜かしてしまうのだった。

 鬼、其処に居たのは鬼、地獄の業火に身を置きながら極限状態の戦いの中に喜びを見い出し、凄惨な恍惚の笑みを浮かべる鬼の顔。

 日頃表情に乏しく感情の起伏を見せない愛からは想像も付かないその表情は、笠女滞在時とステージ上で見せる笑顔しか知らぬ者を震え上がらせるには充分に過ぎる鬼の笑みであった。

 

 

「ありゃ~、あの愛って子もどうやら私と同族の様だねぇ」

 

『エ゛ェ゛!?』

 

 

 モニターに映る愛の鬼の笑みを見た英子の言葉に、英子の二面性を知るアンチョビ以外の者達の顔が一斉に強張る。

 

 

「まあそんなに嫌そうな顔しなさんな。何と言うかアレね、愛って子に限らずAP-Girlsのメンバーの子達はどうやら全員その傾向にあると見たわ」

 

 

『うえぇ……』

 

 

 英子の分析に一同一斉にうめき声を上げるが、英子は実に楽しげな顔をしている。

 

 

「しかしまあこれで残るはお姫様のLove Gunのみか。だけどあのお姫様を倒すのに必要なのは数じゃないからね…それはあなた達の方がよく解ってるか。いやあ今日は本当に来た甲斐があったわぁ♪亜美の間抜け面も拝めるわこんな面白い試合見られるわで最高よ、それになりよりこうして可愛い千代美ちゃんにも会えたしねぇ♡」

 

 

 言うなり英子は隣に座るアンチョビを抱き寄せ頬を盛大にグリグリとし始めた。

 

 

「うひゃあ!」

 

「あぁぁ……」

 

 

 くすぐったそうに悲鳴を上げるアンチョビを見て、まほは一人オロオロするばかり。

 違う方向に特設スタンド最上段で盛り上がる一同を余所に、孤島と化した八景島の戦いはいよいよ最終局面を迎えようとしている。

 

 

「いやぁ惜しかったねぇ、ウッドデッキトラップは不発だったかぁ。落っこちれば、浅瀬とはいえ上がって来れない場所だったのにな~。アレ先頭がルクリリさんのマチルダじゃなくてダージリンのブラックプリンスだったら、重くて止まれずに間違い無くドボンしてたよねぇ…いやぁ実に惜しかった惜しかった♪」

 

「ったくつくづくタチの悪い女だよ、ウチのおっぱいは」

 

「なによ~!まだほんの軽いジャブ打った位じゃないよ~」

 

 

 ジト目で見上げる瑠伽にそう言われたラブは頬を膨らませながら言い返すが、既に全ての橋を落とさせておきながらまだそんな戯言を抜かすラブに他の者も容赦は無い。

 

 

「どこがよ、あんだけやっといてどこがジャブよ」

 

「だよね、ラブ姉ってこの調子でやるだけやっといてとぼけるよね」

 

「あのおっぱいって絶対悪意で膨らんでると思う」

 

 

 香子と美衣子に続いて花楓に止めを刺されたラブは更に頬を膨らませるが、背後から飛んで来たブラックプリンスの17ポンドが狙いを逸れ垂直落下型のアトラクションの基幹部に直撃し、激しい爆発音と共に傾き始めた。

 

 

「ほ、ホラ!来たよ来たよ!次行ってみよ~!」

 

『これで誤魔化したつもりか……』

 

 

 全員揃っておっぱいは大人、お頭の中身はAP-Girls一お子様なラブに呆れつつも、身体は戦闘に備えテキパキと役割をこなして行く。

 

 

「香子!この先のメリーゴーランドの裏に回り込んで!美衣子は徹甲弾装填用意!」

 

 

 図体が図体なだけに時々周りにある表示板などを引っ掛け薙ぎ倒し、踏み潰しながら追って来るブラックプリンスに合わせ速度を調整しつつ逃げまわるLove Gun。

 

 

「よ~し!反時計回りでメリーゴーランド外周をドリフト旋回!180度回ったら徹甲弾ぶち込むよ!徹甲弾装填!今よ!香子ドリフト行けー!」

 

 

 Love Gunはまるで線路の上を走る様にメリーゴーランド外周に沿った舗装路を綺麗にドリフトで回って行き180度旋回した辺りでメリーゴーランド越しにブラックプリンスと正対する。

 

 

「まだよまだよ…撃て!」

 

 

 撃ち出された徹甲弾はメリーゴーランドをぶち抜くと、ルクリリのマチルダをかすめる様に飛び抜けてブラックプリンスの砲塔に直撃した。

 

 

「おやりになるわね…ってヒィィィ!」

 

「ど、どうなされたのですダージリン様!?」

 

 

 直撃を受けた後コマンダーキューポラから顔を出したダージリンが盛大に悲鳴を上げ硬直する。

 悲鳴に驚いたペコも顔を出してみると、硬直しているダージリンの顔の前数センチの所にLove Gunの砲撃の副産物、ぶち抜かれたメリーゴーランドから飛んで来た馬の首が綺麗に乗っかっており、不幸にもそれと目が合ってしまったダージリンは白目を剥いて硬直していたのであった。

 ペコが顔の前で手をヒラヒラさせてみるも反応が無く、完全に気を失っている様で困り果てたペコがアッサムに助けを求めると、ひとつ溜め息を吐いたアッサムはダージリンをコマンダーキューポラから引き摺り下ろしペコに徹甲弾を装填させると、メリーゴーランドの向こうで反応が無いので様子を窺っているLove Gunに向けて発砲、さすがに17ポンドの発射音は凄まじく白目を剥いていたダージリンの目にもぐりんと黒目が戻って来た。

 

 

「ひゃ!え!な、何事!?……おのれラブ!また私に恥をかかせて!」

 

「こればかりはさすがに言い掛かりなのでは……」

 

 

 小声で呟くペコの肩に手を置いたアッサムは無言で首を振る。

 Love Gunとブラックプリンスの間に挟まれる形で事の成り行きを見ていたルクリリは、事態に大凡の見当が付いていた様でガックリと肩を落とし力無く呟いた。

 

 

「私はもう、今日は早く帰って寝たいよ……」

 

 

 ラブにしてもダージリンにしても、ルクリリから見ればどちらも規格外の似た者同士の宇宙人。

 付き合わされる側としては、一刻も早く終わらせて帰りたいと思うのも無理は無く、肩を落としたまま思わずそう呟くルクリリの顔には疲労感が色濃く滲んでいるのだった。

 

 

 




本当は聖グロ戦も前後編ぐらいで終わる予定だったのにどうしてこうなった……。

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