結果は最初から分かっているだけに、
果たしてその内容が満足頂けるかも気になる処です。
それではラブの狂気のステップをお楽しみ下さい♪
「そうは言ってもどちらかのフラッグ車が白旗揚げなきゃ終わらないからなぁ……」
ラブに散々振り回されその度キレるダージリンを諌めつつここまで戦っては来たものの、さすがに疲れを自覚せざるを得ないこの状況に、ルクリリの口からも思わずぼやきが零れてしまう。
「ルクリリ…このままでは埒が明きません、あなたはマチルダ三両を連れLove Gunを追いなさい。私は反対周りで周回し挟撃態勢を築きます」
「…畏まりましたダージリン様」
無線越しにも地の底から響く様なダージリンの声にルクリリはそれ以上何も言えなかった。
ルクリリの指示で後続のマチルダ二両が動き出したのを見て、ラブも再び動き始め反転すると目の前の海に向かう緩い坂を下って行く。
「美衣子!榴弾装填!通過直前にあのレールを撃つよ!」
Love Gunの進む先には、道路を跨ぐ形で海に向かい真っ直ぐ伸びるゴンドラで海に飛び込むアトラクションの橋梁が見えている。
ラブが指示を出す間にも後方のマチルダからの砲撃も始まり、疾走するLove Gunの周囲に弾着すると石塊を撒き散らしながら地面を深く抉る。
「加速しろ香子!瑠伽!砲撃用意…撃て!」
榴弾を撃ち込まれ構造材がバラバラと落下し始める下をギリギリでLove Gunは通過、後に続くルクリリもまた増速を指示し前の二両は降り注ぐ鉄骨やレールを弾き飛ばしつつ通過したものの、最後尾の一両は不運にも踏み付けた鉄パイプが原因でスピンを喫し、独楽の様にクルクルと回りながら滑って行きその先にあったタコの形の回転遊具の券売機に激突、砲撃直前であった為に激突の衝撃で主砲が暴発し飛び出した砲弾はタコに直撃、八本の足をバラバラに吹き飛ばしてしまう。
そして後退で脱出を試みたマチルダも噛み込んでいた券売機に気付かず駆動系を破損、あえなくその場に擱座して戦線離脱の憂き目に遭う。
「またしても間接攻撃でやられたか。砲が効かない相手なら搦め手で…あれ程戦い方を知っている人は他には居ないだろうな」
後続を確認しまたもトラップにやられた僚車を視界に捉えたルクリリは、もうさして驚く事も無く視線を戻すとLove Gunの追撃を続ける。
「ありゃ?予想外の処で戦果が上がっちゃったねぇ」
こちらも後方を確認していたラブだがこれは完全に予想外であったらしく、最後尾のマチルダが白旗を揚げた事に気付くと目を丸くして驚いていた。
「それでこの先どっち行くのよ?」
通信手の花楓はラブにそう聞きつつ、事前に作成しておいた島内マップに破壊箇所を書き込んでおり、それを元に操縦手の香子のナビゲーターを務めている。
「コースター過ぎたらそのまま道なり!その先のゲームコーナーの向こうでダージリンが待ち構えてるはずだから建物越しに撃ち込むよ!」
背後のルクリリ達からの砲撃を躱しつつ、今度は緩い坂を駆け昇って行く。
そして左手に円筒形のオレンジ色のゲームコーナーが見えて来たその瞬間、その背後から建物を突き抜け次々と徹甲弾がLove Gun目がけて飛んで来た。
「うっは~!今度ばかりはダージリンに先越されたわ~!香子!スピンターンで180度回頭!右にある枝道に飛び込め~!」
追っていたLove Gunがスピンターンで戻って来てルクリリの目の前で枝道に飛び込んで行き、ゲームコーナーの建物の陰からダージリン達が出て来るのも視界に入る。
ルクリリは再び溜め息を吐くとダージリンに無線を繋ぎ追撃は自分がする旨連絡を入れる。
「本当に忙しい人だなぁ…ダージリン様、この道は狭いのでブラックプリンスには無理です。我々が追いますのでダージリン様はこのまま下って海沿いに出て下さい」
きついRを大回りに回り込むと、二両のマチルダは再びLove Gunの追跡を始める。
試合開始から間もなく四時間に達しようとしており、初めは二十両いた聖グロ戦車隊も残るは五両まで討ち減らされており、ルクリリは改めてラブの怪物ぶりを実感させられていた。
その後Love Gunは枝道を登り切ると、榴弾で八景島突入ポイントである国道357号線の終点に出るゲートを吹き飛ばし、その先の最初に破壊した場所から再び島内に戻って行く。
「ラブ姉、ぼちぼち履帯が限界だよ」
芝の斜面を駆け下りるLove Gunを操りつつ操縦手の香子が何でもない事の様に言う。
「そっか~、後どれ位行けそうかな~?」
「派手にやるなら後
「それじゃあそろそろ仕掛けるとするか~」
重大な局面に来ているにも拘らず、誰一人として慌てた素振りは微塵も感じさせる事無く、淡々とそれぞれの役割をこなしている。
「で、ラブ姉は最後のステージはどこがいいのよ?」
通信手の花楓は、まるで八景島に遊びに来たかの様にマップを確認しながらラブに聞く。
「ん~、そうねぇ開けた場所も限られてるし花楓のお勧めは~?」
「お勧めも何も最初のイベントスペース位しか無いじゃん、それにあそこなら
「だよね~」
至ってお気楽に会話しながら最終決戦の場を品定めするラブ達だが、背後の斜面をルクリリ達も駆け下りて来ており最早のんびりそんな事をする時間も残されていなかった。
「それじゃまあ始めよっか、ダージリン達が来たらさすがにあそこでも狭いからねぇ」
ラブの指示に従い香子は最初に対峙したイベントスペースにLove Gunを乗り入れると、奥まで進み反転しルクリリのマチルダが付いて来るのを待ち受ける。
「よ~し来たよ~、美衣子榴弾装填!瑠伽はマチルダがスペースに侵入すると同時に砲撃、足元狙って一瞬足止め!後もうちょい…撃て!」
イベントスペースに侵入し掛けたマチルダの鼻っ先で榴弾が炸裂し地面を抉る。
上がる爆炎と降り注ぐ土塊に、目論み通りマチルダが急停車した。
「今だ香子、全速前進!マチルダの3m手前で右ドリフト旋回!花楓はスモーク用意!合図と同時に散布で視界を奪え!」
急発進したLove Gunは、こちらも再び前進しようとしたマチルダに急接近すると、指示通り3m手前で流れる様に右旋回のドリフトに移行する。
「花楓今よ!」
ラブの指示と同時にドリフト旋回するLove Gunの車体後部の発煙装置から、ピンクのスモークが噴き出し瞬時にルクリリの視界を奪う。
「美衣子榴弾装填!目標前方のフードコート!瑠伽今よ!撃て!」
榴弾の一撃で粉砕されたフードコートの外壁のコンクリートの破片は、直ぐ傍まで迫っていたダージリン達に容赦無く雨あられとなり降り注ぐ。
「砲塔左旋回!目標左上の展望タワー!基部右側面を撃ち抜く!徹甲弾装填!」
操縦手の香子がLove Gunを左に振り砲塔の旋回を最小で済むようにアシストし、主砲軸線上に展望タワーが来た瞬間ラブはすかさず砲撃命令を下す。
「撃て!次弾装填弾種榴弾!」
「装填完了!」
「よし撃て!」
徹甲弾と榴弾の電光の二連射で、その高さ90mを支える基礎付近の右側を貫かれ抉り取られ、一気にバランスを崩し倒壊を始め、その直下に居るブラックプリンスに襲い掛かる。
寸での処でダージリンが後退を指示し危うく難を逃れたものの、もし間に合わなければ位置的にその長大な主砲をへし折られ、フロント部分も大破し白旗を揚げそこで試合は終わっていただろう。
ブラックプリンスの露払いで前を走行していたマチルダの車長も激しい衝撃の後に振り返り、視界を塞ぐ鉄の柱にぎょっとした顔で硬直している。
その倒壊時の衝撃と風圧でピンクのスモークが覆っていた視界が晴れると、眼前でドリフト後タワーを破壊したLove Gunは再び広場の奥に陣取り迎え撃つ体勢を整えていた。
「全く次から次へとよく思い付くものだ……」
ルクリリが頬を伝う汗をタンクジャケットの袖で拭っていると、進路を倒壊したタワーで塞がれたブラックプリンスの17ポンドが炸裂し立木を薙ぎ払うと、クロムウェルを従えイベントスペースに強引に乗り込み始め、ルクリリもまたそれを見て一つ頷くと前進を指示、残る二両のマチルダも侵入を果たすと背後はもうマリーナのみでいよいよLove Gunには後が無い。
それでもなおコマンダーキューポラ上で笑みを浮かべるラブの姿に、包囲し始めたダージリンを始め聖グロの隊員達は全員寒気を覚える。
この目の前にいるのは果たして自分達と同じ人間なのかと疑問が浮かぶ。
「クッ…飲まれたらそこで負ける……マチルダ隊前進!」
ルクリリはローレライに魅入られるのに抗う船乗りの如く声を上げ、残存するマチルダ隊を前面に押し立てブラックプリンスの前に壁を作る。
「うふふ♪ルクリリさんさすがね…でもここからよ、さあ始めましょう……踊れ!香子!」
歓喜の笑みの叫びと共にLove Gunのマイバッハ生まれの12気筒が唸りを上げ、ペイント弾戦に於ける愛との戦いの際に見せた以上の激しい機動で暴れ始めた。
一発撃てば躱され二発撃ち込まれる、1対5の戦力差など気にする素振りも無く背筋も凍る様な美しい笑みを湛えたまま、その唇は味方を鼓舞する魔法の歌を紡ぎ出す。
「歌え砲弾踊れ履帯!これからが厳島だ!これこそが厳島!厳島は諦める事を知らぬ!」
最早狂気の領域にも達した様なラブの叫びに呼応してLove Gunの機動は増々激しさを増す。
数で勝るともその数が災いし、戦車には決して広くない空間故聖グロ側は機動面で積極性に欠け、その真逆の立場のLove Gunは嘲笑うかの如く踊り続ける。
そんな中動けぬマチルダ隊とブラックプリンスの背後に居たニルギリのクロムウェルは、十字砲火の陣形を築くべく独自判断で移動を開始、イベントスペース端にある高さ数十センチの円形ステージを確保しようと砲撃戦を左横手に見つつ前進をする。
そしてクロムウェルはステージまで距離はほんの数メートルまで辿り着いものの、間には無数の立木で塞がれており容易には近付く事は出来ない。
しかしニルギリも無駄弾は撃てぬとばかりに強引にクロムウェル押し進め、力任せに何本もの立木を力任せに薙ぎ倒しステージ背後の石段に辿り着く。
車体に無数の枝を絡ませ擦り傷だらけになりながらもクロムウェルは十字砲火の態勢に持ち込むべくゴリゴリと石段を登り始める。
だがしかしニルギリの思惑通りに行ったのはそこまでだった。
ラブがニルギリの行動を見落とすはずも許すはずもなく、またしてもドリフト旋回とスモークで文字通りマチルダ隊とブラックプリンスを煙に巻くと、クロムウェルがステージに登り始めた頃には正対し砲撃体勢を取っていた。
高さ数十センチとは言え石段を登れば僅かながらも底面を晒す。
だがラブにとってはその僅かな瞬間だけで充分であり、美衣子と瑠伽の連携により即座に撃ち出された徹甲弾は、浅い入射角でステージ床面のコンクリートで弾かれ一瞬とはいえ浮き上がり無防備に晒されたクロムウェルの腹に突き刺さった。
「え?なにっ!?」
下から突き上げる衝撃と共にクロムウェルがステージ上に登り切ると同時に揚がる白旗。
何も解らぬままに戦線離脱となったニルギリは呆然と白旗を見つめる。
クロムウェルのリタイアでその差いよいよ1対4、まさかの事態が起こるのか?アウトレットの特設スタンドでもモニターに釘付けの観戦客達が騒然となる。
ただ最上段に陣取る者達のみが無言で戦う者の鋭い視線をモニターに向け、その激しい戦いの行く末を静かに見守っていた。
「ニルギリ!チッ!止めるべきだった……」
瞬間的に放出されたスモークが晴れればLove Gunは再び海を背にこちらを向いて正対しており、ルクリリはその姿をギリギリと歯噛みしながら睨み付ける。
恐るべきLove Gun、恐るべき厳島、恐るべきラブ。
「ルクリリそこをどきなさい」
前面で盾になっているマチルダ隊を押し退ける様に、半ば強引にブラックプリンスが進み出る。
そして正対するLove Gun上でなおも不敵な笑みを浮かべるラブに対し17ポンドが火を噴く。
だがコンマ秒単位でタイミングを外しLove Gunも発砲し、最大に俯角を取って放たれた榴弾は両車の間の地面を抉り盛大に敷き詰められている人工芝を捲り上げた。
飛来する17ポンドは易々捲れ上がった人工芝を突き破ったものの、その狙いは大きくそれ海上に突き出たジェットコースターのレールの橋脚を破壊、支えを失ったレールは耳を塞ぎたくなる様な金属の軋む音と共に一気に崩壊し幾本もの水柱を上げ水中に没し去って行く。
高く上がった水柱はイベントスペースにほんの一瞬雨を降らせ、激しい砲撃戦で加熱したLove Gunを始め聖グロの戦車達の砲身から湯気を上げる。
砲身だけではない、その場にいる全ての者が激し過ぎる戦闘に加熱しきっていた。
「ラブ!」
ダージリンの叫びと共に再び両者は睨み合いつつ動き始めるが、ほぼ無傷なLove Gunに対し通用せずとも全弾命中させらているブラックプリンスの表面装甲は傷だらけで、それだけ見るとどちらが追い詰められているのか解らない程の状態だ。
更に不平や泣き言一つ零さず黙々と装填を続けるオレンジペコではあるが、やはり小柄な彼女に17ポンドは荷が重く徐々にその装填速度も落ちつつあった。
「ダージリン……」
「解っていますアッサム……ルクリリ!マチルダ三両でLove Gunを包囲、その活動範囲を狭め自由を奪いなさい」
「りょ…了解致しました」
人も戦車も既に限界に達しつつあった、少なくとも聖グロ側は誰もがそう感じていた。
そしてそれが聖グロとAP-Girlsの最大の相違点であり、この状況下にあってなおLove Gunの搭乗員は誰一人としてその士気を落とす者はいなかった。
「三方向から来るよ!一番近い左のマチルダに突撃して右側の履帯を狙え!砲撃直後にフェイントの360度ターン!その間に再装填して再度同一ポイントに砲撃して脚を砕くよ!ヨシ行け!」
自爆の道連れにでもするかのような勢いでLove Gunが突進すると、それに慌てたマチルダの車長はろくに狙いも定めぬまま発砲を指示、しかし見事に狙いは外れた2ポンド砲弾は逆にルクリリのマチルダを霞めると、遥か後方のヨットハーバーまで飛び数艇のヨットを木端微塵に粉砕した。
そしてその間に懐に飛び込んだLove Gunはラブの指示通りに右の履帯に一撃を加えると、綺麗にドーナツランを決め二の矢を撃ち込みマチルダは右前部を根こそぎもぎ取られその場に擱座する。
揚がる白旗を確認する事もせず、止まる事無くLove Gunは次の獲物を狙って走り始めたがここで明らかにその動きに異変が生じる。
ここまでの激しい機動によりいよいよ履帯が限界に近付きつつあり、その動きは目に見えて精彩を欠き今までの様な俊敏さは失われていた。
そしてそれはルクリリも即座に伝わり、ここが勝負の分かれ目と一気に間合いを詰める。
急接近するルクリリのマチルダを躱そうとまたしてもドリフトに移行しようとするが反応は悪く、その間に今度は逆に懐に飛び込まれ側面同士の体当たりによってその動きを封じられた。
「ダージリン様!」
ルクリリの声を限りの叫びと共にブラックプリンスから撃ち出された17ポンドが、その動きを封じられたLove Gunの後部を貫き爆炎を上げる。
軽量なⅢ号J型にとって17ポンドの衝撃は凄まじく、ルクリリのマチルダから引き剥がされる様に半回転したLove Gunは、丁度ダージリンのブラックプリンスと正対する形になった処で静止すると、ワンテンポ置いて砲塔上に白旗が揚がりこの激し過ぎる戦いにも遂に決着が付いた。
「魔女が……!」
勝者であるはずのダージリンの歯噛みする口から苦々しげなセリフが零れ落ちる。
『三笠女子学園フラッグ車走行不能!よって聖グロリアーナ女学院の勝利!』
アウトレットの特設会場に響き渡る審判長の亜美の声は、無線の共用回線を通してラブ達の耳にも届いており、どうにか役目を果たしたルクリリはその声を聴くとコマンダーキューポラ上で力尽きそうになるが、黒煙を背に腕を組み不敵に笑うラブの美しさに思わず見惚れてしまう。
ルクリリにしてもラブにしても髪は解れ汗と煤に塗れボロボロだが、そうなってなおラブは光り輝く様な美しさを放っており、ルクリリは目の前に戦女神が舞い降りた様な錯覚に囚われた。
「美しい……」
思わずそう呟いたルクリリの声が耳に届いたのか、挑発的な笑みでダージリンを見据えていたラブの表情が一変可愛らしい笑顔になるとルクリリに向かい楽しげに話し掛けて来た。
「んふふ♪ルクリリさん来年一年間宜しくね~♪いやあ、これは楽しい一年になりそうだわぁ♡」
「がっ!」
それを聞いた瞬間ルクリリは思わず頭を抱え石化した。
『そうだった!私はこの人と一年間戦わなければならないんだ…しかも隊長として!』
心の中でそう叫んだルクリリはその場で突っ伏すと、頭を打ち付けた砲塔から鈍い音が響く。
ギリギリと歯を軋らせラブを睨み付けていたダージリンだが、ルクリリ相手にころころと笑うラブを見て盛大に溜め息を吐くとラブに向けて声を上げた。
「ラブ!随分と派手にやってくれたものね!」
「や~♪ダージリン、行けるかと思ったんだけどねぇ、今一歩力及ばずだったわ」
「あなたね…まあそれはいいわ……でもね、橋を落としてその後どうするおつもりですの!?しかもご丁寧に歩行者用の橋まで落としてどうやって
呑気にへらへらと笑うラブに、堪り兼ねたダージリンはそうどやし付ける。
「え~?あぁそれなら大丈夫よ、今迎えが来るから~♪」
一向に堪えた風も無くなおもお気楽にラブが答えるのに合わせた様に、辺りにダージリンも聞き覚えのある轟音が轟き始めた。
「…!あなたまさか!?」
「そうよ~、だって私達今回ベースの目と鼻の先だから学園艦動かしてないもの。今朝も海の公園に揚陸してそこから陣地展開したんだけど気が付いてなかったの?」
更にへらへらと答えるラブの背後の海上に、ダージリンも見覚えのあり過ぎる笠女が誇る超弩級上陸用舟艇S-LCACがその全長約90m、全幅も50m程ある巨体を現した。
「エ…S-LCAC……」
絶句するダージリンの前でラブの携帯の着メロであるパンツァー・リートが鳴り響く。
「はいは~い、あ、櫻♪うん、え?ここに?了解、ちょっと待っててね~」
通話の相手はどうやらまほそっくりなS-LCAC一号艇艇長の
「えっとね~、S-LCACでここに揚陸して私達を回収するからスペース空けて欲しんだって。だから申し訳ないんだけど、もうLove Gunは動けないから牽引してもらえないかなぁ?」
「ここにあのデカブツを!?回収と言ったって動けない車両はどうするおつもり!?」
我に返り捲し立てるダージリンにラブは下がり眉毛の困った表情で答える。
「いやだって櫻が半分も乗っかれば大丈夫だって言うし、回収車も持って来てるから。それより早く撤収してアウトレットに戻らないとライブ待ってるお客さんに申し訳ないわ…って事で動けない車両引っ張って端っこに寄せてスペース作りましょ」
ラブがそう言った瞬間洋上待機するS-LCAC一号艇の背後を、轟音と共に更に三艇のS-LCACが通過して行きそれと同時に再びラブの携帯の着信音が鳴った。
「あ、愛♡うん、お疲れ様、負けちゃった~、ごめんね~。うん、そう、私達はこれからだからもう少し時間掛かるわ。だから先にステージトレーラー展開して何か余興で時間繋ぎしてて欲しいの。うん、解ったわ、直ぐに行くからそれまでお願いね」
携帯を切ったラブはダージリンに向き直り状況を報告する。
「聖グロの行動不能の車両も含めて、全て
ダージリンは一つ溜め息を吐くと生き残った車両に牽引を指示、S-LCACが揚陸する為のスペース作りを始めたのだが、ここで一つのアクシデントが発生した。
ルクリリのマチルダがLove Gunの牽引を始めた瞬間、動き始めたLove Gunの履帯が軋む音と共に切れて一本の帯となり力無く地面に横たわってしまったのだった。
「あら~、ここで力尽きたかぁ。
Love Gunに近付いたラブは慈しむ様にその車体を撫でてやる。
「それに戦闘中に切れなかったって事はそれだけ香子の腕も上がったって事だねぇ」
そう言ったラブの表情は実に満足気だ。
それからどうにかイベントスペースをクリアにすると、揚陸ポイント手前にある小さな桟橋や立木をものともせず、楽々とS-LCACの巨体が陸に上がって来る。
そして正面ハッチが開くと異形の車両が二両S-LCACからエンジンを唸らせ降りて来た。
「こ、これは90式戦車回収車じゃない!こんなれっきとした現用防衛装備品を一体どうやって手に入れたんですの!?」
ダージリンが震える指で指差す先には、陸上自衛隊が90式戦車の導入と同時に採用した戦車回収車が、最早笠女の象徴とも言えるおっぱいの大きな美少女達に操られ、擱座した戦車の回収準備を始めているがその容姿と手際の良さのギャップは大きい。
「ん~、厳密には90式戦車回収車の強化改良型で、シュトルムティーガーも余裕で牽引出来るわ」
「そういう事を聞いてるんじゃありませんわ!」
ダージリンが的外れな事を答えるラブに切れかけた処で、アッサムがダージリンのタンクジャケットの袖をちょいちょいと引っ張りその耳元で囁く様に言うと小さくその首を左右に振った。
「どうやっても何も相手はあの
「これだから金持ちのやる事は……聞いた私が馬鹿でした!…ったく!こっちは陸路で鳥浜まで来るのにスキャメル パイオニアにダイアモンドT、サンダースからレンドリースしたドラゴンワゴンまで総動員して大騒動でしたのに!」
そんなやり取りの間にも回収作業は進んで行き、いよいよ八景島から撤収する時が来た。
S-LCACに乗り込む直前振り返ったダージリンはその惨状を見てガックリと肩を落とす。
「折角のクリスマス・イヴの予定が……」
「え?なあに?折角のクリスマス・イヴの
「うるさい!お黙りなさい!」
地獄耳の前で迂闊な事を言い掛けたダージリンはすかさず弄られ、耳まで赤らめ拳を振り回す。
毎度の事なのでほったらかしにするアッサムと、オロオロするオレンジペコ。
その馬鹿馬鹿しい騒ぎを傍から見るルクリリは、来年はその対象が自分になるかもしれないと思うと全くもって生きた心地がしなかった。
5月の連休に久し振りに久里浜からフェリーで千葉に渡って、
海沿いに大洗までいってみつだんごでも食べに行こう。
そんな事考えて午前中にガレージのバイクを見たら、
なんとオイルがダダ漏れになってましたw
まあ学生の頃から乗ってた古いバイクなんですけどね。
さすがに最近はパーツも手に入り難いしいよいよお陀仏か……。
オーセンティックのMT-25/03でも買うか…今からじゃ間に合わないか…。
第一今はそんなデカい買い物する余裕が無いww