ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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聖グロ編もこれにて終了、次回からは大洗との対決になります。

今回はポイントはダー様のチャイナとラストで登場するあのお方♪


第十六話   祭りの後の後の祭り

 未だ朝霧漂う時間帯の横浜港。

 その横浜港に在って専用桟橋に係留され威容を誇っているのは、地元横浜で戦車道の強豪として高い人気を誇る聖グロリアーナ女学院のアーク・ロイヤル型学園艦である。

 現在その隣には轡を並べる様に一隻の学園艦が係留されているが、その全長は聖グロ学園艦に比べ半分にも満たず学園艦としては恐らく最小サイズの艦であろう。

 だがその純白に輝く学園艦は現在就役中の艦の中では最新鋭中の最新鋭、海上自衛隊が誇るおおすみ型輸送艦を模したその艦内には六艇の超巨大上陸用舟艇S-LCACを収容し、その他未だ明かされぬ性能面でもダントツの能力を誇る事は、桟橋に接岸するに際しタグボートの力を一切借りる事無くバウスラスター等をフル活用しいとも簡単に短時間で行った事から明らかだ。

 この驚くべき高性能を誇る、白亜の最新鋭学園艦こそラブ率いるAP-Girlsが所属する私立三笠女子学園の学園艦であり、前日の聖グロとの練習試合に引き続き対戦相手に敬意を表してのライブを行う為こうして横浜港に入港して来たのであった。

 

 

「あんなに速く接岸できる学園艦って他にあるかしら?」

 

 

 自身が艦長を務める聖グロ学園化に比べ、遥かに小さい笠女学園艦の接岸する光景をブリッジから見下ろす形で見物していた聖グロ学園艦艦長は、既に今日の夕方から行われるライブの為に学園艦の一般開放準備に入っている笠女の船舶科の生徒達の手際の良さに感心しつつ呟いた。

 

 

「ある訳無いですわ。先程接岸の際にも桟橋に居た港湾関係者の方達が、あまりに接岸スピードが速いので事故になると思って逃げ出したそうですから」

 

 

 傍らで一緒にその光景を見ていた副長は肩を竦めながらそう答えた。

 

 

「まあ観閲式の後艦隊組んだ時に隅々まで見学させて頂いたけど、あれは実際とんでもない艦だわ。この聖グロ学園艦の艦長を任されたのは私の人生最大の名誉だけど、正直言って笠女学園艦の艦長の黒姫さんの事が羨ましいもの」

 

「我が艦の倍とまでは行かない様ですが、相当な高速艦なのも確かな様です。アメリカまでの航行日数を聞かされた時には正直耳を疑いました。見せて頂いた以外にもまだ色々隠し玉がありそうですね、そしてそれに関してはGI6のグリーンも最初は興味津々で色々とやっていた様ですが、現在笠女に関する調査は一切中止したそうですよ」

 

「そりゃあ相手が悪過ぎですもの」

 

「ええ、どうもGI6(ウチ)に限らず有力校の情報部は全て同様に笠女に関する調査から手を引いたそうで、その情報部同士で『笠女には手を出すな』が合言葉の様に飛び交ってる様ですわ」

 

「笠女というより厳島ね…あんな世界的グループ相手に高校生風情が太刀打ち出来る訳が無い」

 

「その厳島は現在その本社機能をあの学園艦に移管しつつあるそうですよ」

 

「それはGI6の調査結果なのかしら?」

 

「いえ、これは厳島の企業HPで公然と発表されている事だそうです」

 

「あらまあ」

 

 

 二人は顔を見合わせ同時に苦笑しながら改めて異色の新設校の学園艦の姿に目を向ける。

 桟橋では既に来艦者を受け入れる為の受付が出来上がりつつあり、その窓口の数だけ見ても今日のライブと学園艦の開放に訪れる者の数が相当なものになる事が窺い知る事が出来るのだった。

 艦長は徐に上着の内ポケットから品の良い装飾の施された封筒を取り出すと、その中から一枚のチケットを取り出しうっとりとした表情で眺め始めた。

 

 

「でもいいのかしら?私達までライブにご招待頂いてるけど座席表見ると特等席よ」

 

「それが学校としての方針だそうですね。厳島隊長も、来て貰えないとそれが単位に反映されるからとても困ると仰ってるそうですし」

 

「なんにしても太っ腹な事に変わりは無いわね。一般販売のチケット倍率見たら、コレとんでもないプラチナチケットよ。手に入らなかった人の為の別会場のパブリックビューイングの整理券も、もう既に全部捌けちゃって更に屋外に会場増やすらしいわ」

 

「GI6の方では6万から7万人程が訪れると試算してるそうで……」

 

 

 艦長と副長の二人は、再びチケットを見つめると揃って溜め息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

「凄い凄いすご~い♪コレなら絶対ダージリンとアッサムも喜ぶのは間違いないわ!」

 

 

 笠女学園艦AP-Girls専用アリーナの楽屋では、夕方から行われるライブに向けリハーサル前の衣装合わせが行われており、ラブ達の前には被服科謹製の新作衣装が人数分用意されていた。

 

 

「しかし昨日の今日でよく用意出来たものね、さすがだわ~♪」

 

 

 その衣装を前にラブは目を輝かせ両の手を胸の前で組み感動に浸っている。

 被服科の生徒達も気に入って貰えた事に満足の笑みを浮かべ互いにハイタッチを交わしていた。

 

 

「聖グロの凱旋が始まった瞬間に、デザイン部門の子が思い付いて即制作に突入しました」

 

 

 アームピンクッションと呼ばれる針刺しを腕に付けた被服科の生徒がそう答えながらラブの衣装を手にすると、ハンガーを外しラブに合わせてみるように促す。

 

 

「さあ、みんな一度試してみて下さい。微調整してリハ中に仕上げておきますから」

 

 

 AP-Girlsのメンバー達が早々に試着すると、それぞれの担当の被服科の少女達が取り付きマチ針を打ちピッタリと合うよう調整を加えて行く。

 見れば被服科の少女達は全員アームピンクッションを腕に巻いているが、どうやら針刺しはそれぞれのお手製らしくとても可愛いネコの顔だったりクマの顔だったりで、被服科の生徒らしい個性と主張が感じられるものだ。

 

 

「うん、概ねいいみたいですね。これなら大したお直しも必要無いから直ぐ仕上がりますよ」

 

 

 脱いだ衣装は被服科の生徒の手により完璧に仕上げるべく回収されて行く。

 それを見送ったラブ達がリハーサルを行うべくステージに向かうと、現在はステージ背後にあるスクリーンがテスト中の様で、CGと実写を取り混ぜた映像が映し出されていた。

 

 

「わお!こっちの映像も凄いじゃない♪」

 

「映像学科の方で聖グロからデータ貰って突貫で編集したらしいわよ」

 

 

 鈴鹿が腕のストレッチをしつつスクリーンを見ながら説明する。

 他の者達も同様にストレッチを行なっており、リハーサルの準備に余念が無い。

 

 

「さて、それじゃ一度全体の流れの確認から行こ~かね~?」

 

 ラブの言葉を合図にリハーサルが始まり最初は全体で、その後はパート毎と続きリハーサルが終わる頃には時間も昼近くなっており、問題も無しという事でラブ達は昼休みに突入する事にしていた。

 

 

「あっら~こりゃ凄い事になってるわね~!」

 

 

 桟橋が見える舷側を通ると、その桟橋にある受付には長蛇の列が出来ており既に乗艦している来艦者も含めると想定の半分は集まっている様に見えるのだった。

 

 

「さっきすれ違った船舶科の子に聞いたら10時の段階で3万人超えたそうよ」

 

「マジ!?」

 

「ええ、朝食から学園艦カレー目当てで来てる人達も多いらしくて、開放してる学食は勿論ケータリング班の野外炊具も、予備車両も含めて全車投入しても追い付かなくなってるらしいわ」

 

『うっそ……』

 

 

 凜々子の情報に一同唖然とし、次いで自分達の昼食をどうするか悩み始めた。

 

 

「う~ん、そんな状態の学食行って給養員学科の子達の手を煩わすのも気が引けるわよねぇ…どうする~寮に帰って自分達で何とかする~?」

 

「何言ってるのよ、今週は忙しくて冷蔵庫空っぽになってるの忘れたの?」

 

「あ…しまったそうだったぁ!」

 

 

 練習試合とライブの準備に忙しく、寮の共用キッチンの大型冷蔵庫もアイスクリームと調味料ぐらいしか入っていない事を、凜々子に言われるまで忘れていたラブは思わず頭を抱えて声を上げた。

 

 

「ステージバックヤードのケータリングも今私達が手を付けたらスタッフの子達に悪いしどうしよう……いっそみんなで艦外に食べに行く?」

 

「あの人混みの中をか?あんなトコにアタイらが出てったらそれこそパニックになるぞ」

 

「だよね……」

 

 

 アホかという様な口ぶりの夏妃に指摘されラブは項垂れる。

 まだ活動を始めたばかりの彼女達にとっての日常は想定外の連続で、常に手探りで一つ一つ解決して行くしかなく、これが地味に精神的に削られるのでそういう苦労が実は一番堪えていたのだ。

 

 

「う~ん、ホント困ったわぁ……」

 

 

 眼下の桟橋には途切れる事の無い人の列が港の入口まで出来ており、例え関係者用に仕切られた通路を通ったとしても、迂闊に自分達が外に出ればパニックが起きるのは目に見えていて、考えもしなかった問題にラブは真剣に頭を悩ませ始めていた。

 

 

「仕方無い…給養員学科の子達には申し訳無いけど、これじゃ学食に行って裏で何か食べさせてもらうしかなさそうねぇ……」

 

 

 ポツリとラブがそう呟いた時、意外な処から救いの手が差し伸べられて来たのだった。

 

 

「ああ、やっと追い付いた。厳島隊長、たった今聖グロのダージリン様がお見えになられましたのでアリーナの楽屋の方にお戻り下さい」

 

 

 声を掛けて来たのはアリーナの運営を担当する生徒の一人で、ラブ達がアリーナを離れて暫くしてからここまで追い掛けて来たらしい。

 

 

「え?ダージリンが?」

 

 

 きょとんとしつつも促されるままアリーナに戻るラブ達。

 戻ったアリーナの楽屋には大小様々な飲茶の蒸籠や皿が大量に並び湯気を上げており、その背後にはチャイナドレスに身を包んだダージリンとアッサム以下聖グロ戦車隊の隊員達が整列していた。

 

 

「わあすご~い♪でもどうして?」

 

「ふふ♪ちょっとしたサプライズといった処かしら?最近はあなたに驚かされてばかりいますからね、少しは私からもお返ししないと釣り合いが取れませんわ」

 

 

 意味有り気にそう言ってほほ笑むダージリンは艶のある濃紺のロングのチャイナを身に纏い、大胆に入ったスリットからはスラリと形の良いふくらはぎが見え隠れしている。

 隣で同様に微笑むアッサムもこちらは濃緑色のロングチャイナが良く似合っており、ラブも二人の美しさに思わずぽ~っと見惚れてしまっていた。

 

 

「さあ、冷めてしまう前に召し上がって。お腹空いてるでしょ?」

 

 

 アッサムがほほえみを浮かべたまま椅子を引きラブに座る様促す。

 

 

「う、うん…でも今日はあんなに混んでて用意するの大変だったでしょ?」

 

「あら?ここ横浜は私達の母港よ?笠女が横須賀で色々融通が利くのと同じ様に、聖グロだって横浜ならこの程度の事は造作も無い事でしてよ?」

 

「あ…そっか、そうだよね。でも本当に助かっちゃったわ、これぞ天の助けだわ」

 

「それはどういう事かしら?」

 

 

 ラブが自分達の置かれた状況を説明すると、驚いた顔の後に今度は気遣わしげな表情で言った。

 

 

「有名になるって大変ですわね…くれぐれも身体だけは壊さない様に気を付けるのですよ」

 

「ん、ありがとダージリン」

 

「さあ、お話はこれ位で食べて食べて、あなた達はこの後が大変なんですから」

 

 

 そう言うとアッサムと二人ラブの皿に様々な飲茶を取り分け始める。

 周りを見ればAP-Girlsのメンバー達にも聖グロの隊員達が取り付き、甲斐甲斐しく給仕をしており中には嬉しそうに頬を染めている子もおり、既に聖グロ内でもAP-Girlsの人気は相当高い様だった。

 

 

「そう言えば昨日のアレは本当に驚きましたわ。何時の間にあんな事出来る様になりましたの?」

 

 

 旺盛な食欲を見せるラブ達を満足げに眺めつつ、ダージリンはふと思い出した事を口にする。

 

 

「ん?ああ、アレってThe British Grenadiersの事かな?」

 

「ええ、本当に人を喜ばせるのがお上手ですこと」

 

 

 口にしていた叉焼包を飲み込み茉莉花茶で喉を潤したラブは少し考えつつ答えた。

 

 

「えっとね~、先週末辺りだったかな~?どうせならもうちょっと何かやりたいね~ってステージ練習の後に話してたのよ。それでダージリン達が帰投する時、沿道でThe British Grenadiersを演奏すればカッコいいねって話しになったのよ。でも普通のリコーダーじゃちょっと締まらないよね~何て言ってたら、偶々機材のメンテに来てたメーカーの人がこんなのあるよってファイフリコーダーの事教えてくれたんだ」

 

「ファイフリコーダー?」

 

「うん、ダージリンとアッサムも小学生の頃リコーダーは習ったよね?それの横笛版と思ってもらえばいいわ。フルートやピッコロみたいな管楽器の入門編みたいな横笛でね、樹脂製でコストも安いし子供の鼓笛隊なんかでも使われてたりするのよ。でね、メーカーの人がファイフなら直ぐ用意出来るし、私達なら直ぐ吹ける様になるって言うからお願いしたのよ」

 

「そんな簡単なものなのかしら?」

 

 

 これにはさすがにアッサムも首を捻るが、ラブは指を振りつつ大袈裟に答える。

 

 

「ねえ、私達を誰だと思ってるの?AP-Girlsよ?」

 

「そうでしたわね」

 

 

 言われたアッサムもクスクスと笑いながら肯定の言葉を口にした。

 

 

「まあ冗談はともかく、翌日にはドラムまで一緒に用意して来たのには笑っちゃったけど、直ぐに練習始めて曲自体シンプルだったから割と直ぐに形にはなったのよ。それで一応編成として車長がファイフ担当してドラムは他のメンバーで割り振って一週間でどうにかあそこまでは出来る様になったわ。ドラムはね元々AP-Girls全員必須で叩ける様になってたから大して問題無かったし」

 

 

 そうは言ってもやはりこの短期間であれだけの事を見事やってのけるラブ達の努力と集中力に、ダージリンとアッサムだけではなく聖グロの隊員達も尊敬の念を抱くのだった。

 

 

「でもね、このファイフリコーダーって奥が深いわ。私達すっかりはまっちゃって最近は暇さえあれば吹いてる感じよ、これはもうちょっと追及してみようと思うの」

 

「そう、それは楽しそうね」

 

 

 こんな話をする時のラブの表情はとても生き生きとしていて、ダージリンとアッサムは昔からそれを好ましく思いこの表情が見られる事を嬉しく思っていた。

 

 

「ふう、美味しかったぁ♪今日は本当に何てお礼を言ったらいいか解らないわ!」

 

「うふふ、またそんな大袈裟な」

 

「ううん、ホントよホント!もう今夜のステージは絶対退屈させないわ!」

 

「そう?では楽しみに待たせて頂くとしましょうか」

 

 

 ラブとダージリンとアッサムの三人は笑みを交わし、丁度用意された飲茶も綺麗に食べきった事もありそれを合図に聖グロの隊員達が皿を下げ始めた。

 

 

「処でこの後はあなた達はまだリハーサルなのかしら?」

 

「ううん、この後はミーティングしたら3時からの取材入りのトークショーとビンゴゲーム大会まで私達は少し仮眠を取るわ、とにかく体力勝負だから休める時に休まないと最後まで持たないもの」

 

「大丈夫なの?」

 

 

 それを聞いてダージリンとアッサムも心配げな表情になった。

 

 

「うん、大丈夫よ。なんか最近私もよく眠れてるみたいだし」

 

 

 よく眠れている。

 ラブの口から出たその言葉に安堵の表情を浮かべる二人。

 笠女滞在時の一件以降ラブが榴弾暴発事故以来苛まれ続けた悪夢を見なくなった事に、二人もまたやっと安心出来る言葉を聞く事が出来たのであった。

 

 

「それではまた後程、トークショーとライブを楽しみにしていますわ」

 

 

 ダージリンの言葉と共に退出して行く聖グロの隊員達。

 

 

「あ、あの!お願いがあるの!」

 

「はい?」

 

 

 不意に呼び止めたラブに振り向き首を傾げるダージリンに、ラブは少し頬を赤らめつつモジモジとしながら可愛いお願いを口にした。

 

 

「あ、あのね今日のライブはそのチャイナドレスのまま来てくれないかな?その…二人共とっても似合っていて素敵だから…その…ダメかな……?」

 

 

 ダージリンとアッサムは顔を見合わせた後クスクスと笑いながらそれを了承した。

 

 

「分かりましたわ。それでは隊員一同、本日のライブにはこの姿でお邪魔させて頂きますわ」

 

「ホント!?ありがとダージリン♪」

 

 

 はしゃぐラブに聖グロの隊員達も苦笑しつつ退出して行き、思わぬピンチを迎えた昼休みもダージリン達のサプライズにより無事切り抜ける事が出来た。

 その後仮眠を取ったラブ達が行ったトークショーでは、月刊戦車道の記者が司会を務め地元局始め複数のテレビ取材も入り盛り上がりはしたが、やはり厳島の力を恐れてかあまり馬鹿な質問が飛び出す事も無く、続くビンゴゲーム大会もかなり豪華な賞品が用意された為大盛況の内に終了した。

 そしていよいよ目玉であるAP-Girlsのライブ開始までもう僅かの頃、メインの専用アリーナは立ち見も含め収容限界まで観客が入っており、用意したパブリックビューイングと急遽増設した会場共人で溢れており、その人気ぶりが伺える光景であった。

 また専用アリーナではメインゲストである聖グロの隊員達が、ラブのたっての希望でチャイナドレスで席を埋めておりライブに花を添えている。

 

 

「よ~し!それじゃみんな行くよ!私達の最高のパフォーマンスを披露しようね!」

 

 

 円陣を組むメンバー達の顔は気合充分でラブもそれを見て満足気な様子だ。

 

 

「いいねいいね♪みんないい顔だ!そのまま行こう!AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 円陣が解かれそれぞれが装備を身に付けステージに上がる準備が整うと、開演のアナウンスが流れ会場の照明が落ちざわめきも潮が引く様に消えて行く。

 闇の中特徴的なバグパイプの音色が会場に響き渡り、スコットランドにおいては非公式ながら国歌として扱われるScotland the Braveの旋律が流れ、スクリーンにはCGによるユニオンジャックと聖グロリアーナの校旗がはためき、そこに合成で事前に聖グロから提供して貰った動画を編集した、ダージリン達のこれまでの戦車戦の名場面が映し出されている。

 

 

「まあこれは!」

 

 

 思わず歓喜の声を上げるダージリンと、またしてもやられたわと言った風に微笑むアッサム。

 そのほかの聖グロの隊員達も感動し興奮する中映像と音楽は終わったが、畳み込む様に更なるサプライズが待ち受けていた。

 

 

Atten Hut!(気をつけ!)Horns Up!(構え!)

 

 

 前日の凱旋の際と同様に響くラブの号令とホイッスルに続き、AP-Girlsの少女達がファイフとドラムによるThe British Grenadiersを演奏しながら行進入場して来る。

 

 

「まあ!まあ!まあ♡」

 

 

 ダージリンはすっかり紅潮した両の頬に手を当て更なる歓喜の声を上げた。

 前日に引き続き演奏するのはThe British Grenadiers。

 演奏しながら入場して来たラブ達は、前日の試合直後の煤塗れの時とは違い被服科の生徒達がたった一晩で制作したという衣装を身に纏っていた。

 その衣装は聖グロをイメージしたと思われるタータンのキルトであり、細部まで拘った作りはダージリンを興奮させるのに充分な仕上がりであった。

 ステージの第一パートには衣装そのままに突入、ダンス等も可愛らしさを強調した演出で聖グロの隊員達始め来場した観客を魅了し、映像で間を繋ぐ間の電撃の衣装チェンジ後に始まった第二パートからはいつも通りの激しい演出のステージとなった。

 そしてラストパートになると既に名物となりつつあるLove Gunのレプリカも登場し、その盛り上がりは最高潮となり、最後の25人横並びのギターオーケストラでは全員が投げるギターピックをゲットしようとジャンプする者続出であった。

 カーテンコールに応えそのラストをバラードで締めると、ここにAP-Girls初の対外試合とライブは鳴り止まぬ拍手の中無事終了を迎えたのであった。

 学園艦開放も横浜という立地も幸いし、最終的な来艦者の数も軽く8万人を数え、この結果には関係者も嬉しい悲鳴を上げ実に幸先の良い船出といえるであろう。

 

 

「もう♪あなたと言う子はどれ程私を喜ばせれば気が済むのかしら!?」

 

 

 ステージ終了後、抱える程の薔薇の花束を持って楽屋を訪れた聖グロ戦車隊の隊員達。

 それぞれがお目当てのAP-Girlsのメンバーに花束を渡す中、ダージリンとアッサムの二人は丁度椅子に腰かけスポーツドリンクを一気に飲み干したラブを両側から抱き締めると、その両の頬に二人掛かりでキスの雨を降らせていた。

 

 

「ちょ、ちょっと二人共私まだ汗も流してないってば~」

 

「構うものですか♪ああ、もう嬉しくてこのまま身も心も捧げてしまいたい心境ですわ♡」

 

「きゃ~♡」

 

 

 興奮したダージリンの言葉に楽屋中が笑いに包まれる。

 それだけでもラブにとっては充分過ぎる成功報酬であり、苦労が報われる瞬間でもあった。

 

 

「本当に驚きの連続でしたけど、これからあなた達は毎回こんな事を続けて行くのかしら?」

 

「そうね、そうなるわ。これが私達にとっての日常になるのよ。でもその為に鍛えて来たから大丈夫。私達AP-Girlsはこのタフさが売りなんですもの」

 

 

 喜びつつもアッサムはやや心配げな表情で質問して来たので、ラブもここは努めてにこやかに答え心配いらないといった風に胸を張った。

 

 

「そう、ならばいいけどくれぐれも無理は禁物よ」

 

「うん、ありがとう気を付けるわ」

 

 

 アッサムの気遣いに感謝しつつ元気に答えるラブだが、ダージリンも今回の日程にはさすがに無理があるのではないかとアッサム同様に心配げな顔をしている。

 

 

「でもさすがにこの六連戦の日程も対戦順も少し無理があるのではなくて?」

 

「う~ん私達も戦車も大丈夫よ。ウチは車両毎の専属の整備班が付いてて問題は無いの。既に破損個所の修理はほぼ終わってて余裕がある位だし、私達も休む時間は確保出来てるわ。移動の方もね、ウチの学園艦の船足の速さはハッキリ言ってみんなの学園艦とは別次元よ。何処に行くにも大雑把だけど他に比べて2/3位の時間で済むと思ってくれていいわね」

 

『エェ!?』

 

 

 そのとんでもない発言に一同唖然とするが、ラブは平然と続けるのだった。

 

 

「まあそんな訳で私達にも色々と時間的余裕はあるのよ。むしろ問題になったのは人が来過ぎて飲食物の供給が追い付かなくなり掛けた事ね。ここだけの話、今日の売り上げだけで蔵が建ちそうな勢いよ。でもこれでまたサービス体制の増強が出来るし、来て頂いた方達に不自由な思いをさせずに済む様になるわ。そう言う意味でも今回は色々と経験値を積ませてもらって心から感謝してる」

 

 

 笠女学園艦の飛び抜けたスペックと、ラブが戦車道と芸能活動のみならず全体の運営面まで考えている事に驚きながらも、厳島家が商才に長けていると云われる一端が垣間見えた事に、ダージリン達もこういう事かと妙に納得してしまう。

 

 

「ふふっ…私達も今回は貴重な体験と共に、とても有意義な時間を過させて頂きましたわ。さて、次の大洗戦からは私達も今度は観客として大いに楽しませて頂くと致しましょう。それでは私達はこの辺でお暇させて頂きますわ。御機嫌ようラブ、そしてAP-Girlsのみなさん」

 

 

 ダージリンは優雅に腰を落とし淑女らしく挨拶をした後、思い出した様にラブの頬に口付けをすると悪戯っぽい笑みを浮かべ立ち去って行くが、その際愛に向かい一つ目配せをした。

 それを受けた愛もまた心得ているとばかりに頷くと、少し間を開けスッと楽屋から出てダージリンの後を追い関係者出入り口で待ち構えていたダージリンとアッサムの前に立つ。

 

 

「ありがとう愛さん、その様子だと私達が何を言いたいか解っていらっしゃる様ね」

 

「はい……」

 

「それでも敢えて言わせて頂くわ。これを頼めるのは、AP-Girlsの中でも一番ラブの身近にいるあなたにしか頼めませんから」

 

 

 ダージリンがそう言うと共にアッサムと並び揃って愛に向かい頭を下げる。

 

 

「どうかくれぐれもラブの事を宜しくお願い致します」

 

「…心得ておりますのでお二人共頭をお上げ下さい」

 

「本当にありがとう、あなたが居れば私達も安心です。改めて宜しくお願いしますね」

 

「……畏まりましたダージリン様、アッサム様」

 

 

 愛は少し考えた後、優雅に腰を落とすと完璧な所作で二人に一礼して見せた。

 それを見た二人は大きく目を見開いた後一本取られたとばかりに笑い出した。

 

 

「ねえ愛さん…あなた達は本当に人を驚かすのがお上手ね」

 

 

 漸く笑い止んだダージリンがそう言うと、愛にしては珍しくはにかんだ様な笑みをその顔に浮かべ、その笑みに二人も満足そうに頷くと一礼して立ち去って行った。

 そしてその日の深夜、浦賀水道の混雑を回避する為に笠女学園艦は横浜の岸を離れた。

 向かうは大洗、待ち受けるはみほ率いる大洗女子。

 その戦いが如何なるものになるか、それはまだ誰にも解らない。

 だが、その戦いが激しいものになる事だけが唯一の決定事項であるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 笠女学園艦が大洗に向け出港した翌日の夕刻、ダージリンとアッサムの二人はとある人物の来訪というか急襲を受け大いに閉口する羽目になっていた。

 それはまだ戦車が修理中である為、対AP-Girls戦の戦譜と映像による講評を隊員達に行い、その後は紅茶の園にて憩いのひと時を過ごしていた時の事。

 外の廊下を足早な靴音が近付いて来たと思うと、優雅さを尊ぶ聖グロに相応しくない荒々しい音と共に扉が開かれ、その問題の人物は険しい表情でダージリン達の元にやって来た。

 

 

「ダージリン!アッサム!」

 

 

 二人のティーネームを少々剣のある声音で呼ぶその女性は、癖の無いブロンドを背中まで延ばし仕立ての良いワインレッドのワンピースがとても良く似合っていた。

 

 

「これはアールグレイ様…今日は一体?お見えになるとは窺っておりませんでしたが?」

 

 

 現れたのは先代聖グロ戦車隊隊長アールグレイその人であった。

 つかつかと歩み寄って来たアールグレイに対し、突然の来訪に驚きはしたもののダージリンとアッサムもそれを顔に出す様な事はせず、穏やかな表情のまま問い掛けるのだった。

 

 

「はん!この私にスカした口利くんじゃないわよダージリン!それより二人共あのAP-Girlsの厳島恋と友達だったってホント!?何で私に教えてくれなかったのよ!私昨日のライブのチケット手に入らなかったのにあなた達だけズルいじゃない!」

 

「そ、それは……」

 

 

 それ以上続かず口をパクつかせるダージリンにアールグレイは更に畳み掛ける。

 

 

「私AP-Girlsがデビューした時からファンなのよ…ねぇ!私にも厳島さんを紹介しなさいよ!お願いよ!ああ♪あの厳島恋のお姉さまって雰囲気が堪らないわぁ♡」

 

「お、お姉さまってラブはアールグレイ様より年下で──」

 

「何か言った!?それよりホントお願いよ!聞けばあなた達は小学生の頃からの友達だって言うじゃない?あなた達なら出来るでしょ!?だからお願いよぅ、私をあのお姫様に会わせてよぅ!」

 

 

 ダージリンの両肩を掴みガクガクと揺さぶりながら、懇願というより脅迫する様に強請るアールグレイ、その様子にアッサムは右手で顔を覆い揺さぶられるダージリンの目は完全に死んでいる。

 

 

『またラブ絡みで厄介事が増えた……』

 

 

 アールグレイの声を何処か遠くに聞きながら、ダージリンとアッサムの二人は実に暗澹たる気分でその日を終える事になるのであった。

 

 

 




作中では12月なのでダー様達が卒業するまでの間に、
考えているネタを如何にして消化させるかでホント悩みますわ。

やっとアールグレイ様を登場させる事が出来ましたが、
今後も登場する度にダー様を振り回して欲しいですなぁ♪

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