ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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遂に大洗戦に突入ですが今回の犠牲者はアンジ―♡

まあ今回は…今回もか…ラブの手口がエグいですがその辺をお楽しみ下さい。

でも何気に一番酷いのはみほ♪


第十七話   会長さん♡

「ウソ…本当にもう来た……」

 

 

 大洗港の桟橋に係留されている大洗女子学園艦の隣には、現在純白の学園艦が接岸作業を行なっているが、タグボートに頼る事無く自力で苦も無く桟橋に寄せるその光景は、老朽艦故操艦する船舶科と受け入れる港湾関係者にとって日頃の苦労を考えると実に驚異的なものであった。

 横浜を出港後、実質通常の学園艦の2/3程の航海時間で大洗にやって来た私立三笠女子学園のおおすみ型学園艦は、大洗女子学園艦と轡を並べるべく係留作業に入っていた。

 

 

「ええと横浜から大洗までの航行時間は……」

 

 

 最近ではみほの参謀役がすっかり板に付いて来た優花里が指折り数えながら大きく目を見開く。

 

 

「凄い…凄いであります西住殿!笠女学園艦はとんでもない高速艦であります!」

 

「う、うん…逆に大洗(ウチ)は遅過ぎだもんね…でも私もまさか本当にこんな早く来るとは思いもしなかったよ……」

 

「ハイ、いくら最新鋭とはいえこれは本当に驚異的であります。自分も増々興味をそそられてしまいますねぇ♪あのS-LCACだけでも凄かったでありますが、この学園艦自体の能力も相当なものの様であります。まずパッと見で目を引くのはあの艦橋部分でありますね、本来のおおすみ型と比べて比率的に言うと随分と艦橋が小さいのですがその形状が大きく異なります。あの形状は恐らくフェイズドアレイレーダーを搭載していると見て間違いないでしょう」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 興奮気味に語る優花里の陸戦兵器に留まらぬ軍事オタク知識に、全く付いて行けぬみほはそう答えるのがやっとだった。

 

 

「おお、もう舷梯を展開し始めた処を見ると、直ぐに皆さん下艦されて来るかもしれません」

 

「じゃ、じゃあ私達も迎えに行こうか」

 

「ハイ!」

 

 

 舷側の展望デッキを離れたみほと優花里は、大洗戦車隊の各チームを引き連れラブ達を出迎える為に桟橋に降り立ったが、AP-Girlsのメンバー達は全員いるものの、肝心のラブだけがその姿が見えずみほは首を捻りつつAP-Girlsに声を掛けた。

 

 

「あ、あの、ようこそ大洗へ。それであの…ラブお姉ちゃんは 一体何処に?」

 

「おはようございます西住隊長、今回は宜しくお願い致します」

 

 

 声を掛けたみほに対し爽やかな笑みと共に対応して来たのは、ブラック・ハーツの車長である艶やかなロングの黒髪も美しい美少女の鈴鹿であった。

 

 

「あ…こ、こちらこそ宜しくお願いします…それでそのラブお姉ちゃんは……?」

 

 

 自分より年下でありながら上背もあり、更にラブには及ばぬもののパンツァージャケットを大きく突き上げる鈴鹿の立派なたわわにドギマギしつつ、みほは再度姿の見えぬラブの行方を聞いた。

 

 

「ああ、ラブ姉ですか?何か入港するなり大洗の会長さんにご挨拶に行って来るって言いながら一人でサッサとそちらの学園艦に乗艦したみたいですけど、西住隊長はお会いになっていなかったんですか?」

 

「へ?ウチの学園艦に?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 

 みほは鈴鹿の言う事に首を捻り独り言が口を突いて出る。

 

 

「ラブお姉ちゃんがウチの会長さんに挨拶……いけない!」

 

 

 何かに思い当ったのか独り言の後に大声を上げたみほは、顔色を変えたと思うと大洗の学園艦に向かって突然走り出したのであった。

 

 

「ど、どうしたのでありますか西住どの~!?」

 

 

 突然の事に驚きつつも後を追いながら優花里はみほに向かって呼び掛ける。

 

 

「ラブお姉ちゃんは…ラブお姉ちゃんは昔から小さくて可愛いモノが大好きなヘンタイなんです!そんなラブお姉ちゃんにとってはウチの会長さんはまさにストライクゾーンのど真ん中!急がないと会長さんが危ないんです!」

 

『い゛ぃ゛ぃ゛~!』

 

 

 ダッシュしながら叫ぶみほに釣られて大洗の面々もそれを追って走り出す。

 後に残されたAP-Girlsのメンバー達は呆気に取られつつも、ラブの奇行にはすっかり慣れっこなのか動じた様子も無く、それを見送った後も呑気に会話をしていた。

 

 

「あ~あ、行っちまったよ。アタイらはど~すんのさ?」

 

「どうするも何も乗艦手続しなきゃ入れないから慌てたってしょうがないじゃない」

 

「そりゃそうだ」

 

 

 夏妃と凜々子がそんな事を話す間にAP-Girlsのメンバー達も、辿り着いた舷梯前の仮設テントの受付で特に急ぐでもなしに乗艦の手続きをするのであった。

 但し既に有名人である彼女達の事、メンバー全員乗船名簿以外にも受付の船舶科の生徒達にサインをせがまれるオマケも付いていたのはまた別の話し。

 その一方で当のラブは一体どうしているのかが疑問であるが、それを解くにはほんの少しだけ時間を遡る事になる。

 それはみほ達が展望デッキを離れて直ぐの事、笠女学園艦の舷側から舷梯が桟橋に降ろされるや否や、ラブは一緒に待機していたAP-Girlsのメンバー達に『ちょっと先に行って大洗の会長さんに挨拶して来るわ』と言い残すと、一人サッサとステップを踏む様に舷梯を降りて行ってしまい、AP-Girlsのメンバー達同様乗船名簿に記名時に船舶科の生徒にサインをねだられ、それに応えて全員にサインをしても尚余裕でみほ達が現れる前に大洗の学園艦に乗艦を果たしてしまっていたのだ。

 更に乗艦後も既に有名人であり、学園のヒロインであるみほと親戚関係にある事も知れ渡っていた為に誰に咎められる事も無く、むしろ道順を聞けば頬を赤らめた大洗の生徒達に積極的に案内されて、さして苦も無く杏の居城たる生徒会長室に辿り着いていたのであった。

 

 

「おはようございます…確か桃ちゃん先輩でしたね、会長さんはいらっしゃるかしら?」

 

「どぅわれが桃ちゃんだぁ!って貴様…いや、あなたは笠女の厳島隊長…何故あなたがここに!?」

 

 

 何かのファイルを束ねたクリップボード片手に桃が生徒会長室に入り掛けた時、丁度そこに最早鈴生り状態の大洗の生徒達に案内されたラブが辿り着いたのであった。

 

 

「うふふ♡何故って試合前のご挨拶に決まってますわ♪それで会長さんは?」

 

 

 意味有り気な表情で上から見下ろされ思わずキッとなった桃は、それでもどうにか生徒会役員の体面を保とうと虚勢を張る様に声を上げた。

 

 

「…クッ!ちょっとそこで待っていろ、今会長にお伺いを立てる…って、くおら~!貴様達は何時までそうしておるか~!?サッサと解散せんか~!」

 

 

 ラブをここまで案内して来た生徒達に目を吊り上げ声を荒げる桃であったが、目をハートにした生徒達からは一斉にブーイングの声が上がり、たった独りの桃は極めて旗色が悪かった。

 

 

「きっ、きっ、貴様ら──」

 

「皆さん案内して頂いて本当にありがとう♪お礼はライブでうんと頑張るからそれで許してね♡」

 

 

 再び声を荒げかけた桃を制する様にラブはそう言うと、案内して来た生徒達に向かいチャーミングにウィンクをすると同時に投げキスをして見せた。

 

 

『きゃ~♡』

 

 

 それで納得してくれたのか案内役の生徒達は目をハートにしたまま、両の拳で口元を覆いつつ小走りにそれぞれの教室に散って行くのだった。

 

 

「ま、ま、全くヤツらは何を考えているのだ…と、とにかくそこで待っていて貰おう」

 

 

 桃は怒りで顔を真っ赤にしつつもラブにそう言い置き会長室に入って行き、例の椅子に座りながら干し芋を齧っているであろう杏にラブの来訪を告げいた。

 

 

『会長!』

 

『お~、ど~した、か~しま~?』

 

『たった今外に笠女の厳島隊長が試合前の挨拶にと来ているのですが如何しましょう?』

 

『へ?厳島ちゃんが?ん~、い~よい~よ~、通してあげて~』

 

『よ、宜しいのですか!?アポイントも取らずいきなり押しかけて来るなど──』

 

『ま~い~からい~から通してあげてよ』

 

『は、はぁ……』

 

 

 一応扉の外で待っているものの、桃がその扉を閉めていなかったので会話は全てダダ漏れだった。

 

 

『あの桃ちゃんって子も面白い子ねぇ……』

 

 

 ラブがそんな益体も無い事を考えていると、その桃から入室を認める声が掛かる。

 それを受けてラブも背筋を伸ばすと、外交用の笑みを湛えながら会長室に入って行く。

 

 

「失礼致します……」

 

 

 入室したラブが歩を進める度、その豊かなたわわとポニーに結われた深紅のロングヘアーが揺れ、圧倒的な色気が今にも杏と桃を飲み込まんとしていた。

 そしてラブが杏のデスクの前に辿り着いた時には、桃が思わずゴクリと唾を飲み込んだ音が思いのほか大きく会長室に響いたのであった。

 

 

「やぁやぁ厳島ちゃん、態々挨拶に来てくれるなんて気を遣わせてしまって済まなかったねぇ」

 

「おはようございます角谷会長、こちらこそ()()()()()()()()申し訳御座いません」

 

 

 相変わらず営業スマイルのまま深々と頭を下げるラブ。

 互いに初手から腹の探り合いの様な展開に、既にこの場に居る桃は蚊帳の外に置かれていた。

 

 

「イヤイヤぁ、私にゃそんな堅苦しい事は無用だよ…っと、オイか~しま~、何か用があって来たんだろ?一体何の用だ~?」

 

「……ハッ!本日の歓迎会の会長挨拶の草稿をお持ち致しました」

 

「あ~、それはか~しまに任せるから適当にやっといてよ」

 

「ハッ…ですがしかし……」

 

「か~しま?」

 

「……畏まりました」

 

 

 腹に逸物ある顔で不承不承であるが頭を下げた桃は、一瞬ではあるがラブに鋭い視線を送りつつもトボトボと会長室を後にして行く。

 後で思えばここで桃を下がらせた事が杏にとってこの日最大の失敗であったが、この後何が起こるか知らぬ杏にとってはそれに気付かぬのは無理なからぬ事ではあった。

 

 

『やっぱりあの桃ちゃんって面白い子ねぇ……』

 

 

 そんな事を考えつつラブが桃の背中を見送っていると、仕切り直す様に杏が話し始めた。

 

 

「いやぁ、御見苦しい処をお見せしちゃって済まなかったねぇ。ま、ま、立ち話も何だからそっちのソファーに掛けてよ、今コーヒーでも淹れるからさ」

 

 

 そう言うと杏は立ち上がり会長室にあるミニキッチンに向かおうとするが、ラブはそれを止める様に杏に向かい声を掛けた。

 

 

「角谷会長、どうかお気遣い無く。私も用件が済みましたら即お暇致しますので」

 

「…そうかい?それじゃあその要件とやらをお伺いするかねぇ……」

 

 

 ミニキッチンに行き掛けていた杏が、踵を返すとソファーの方に戻って来た。

 

 

「それじゃまぁ、厳島ちゃんも取り敢えずそちらにでも掛けてよ」

 

 

 手振りでラブにソファーを勧めつつ自身もまた対面に腰を下ろし掛けた瞬間、ダンスステップを踏む様な軽やかさで、ラブがするりと杏の隣に腰を落とした。

 

 

「んん?厳島ちゃん何で隣なのかな……?」

 

 

 不意に言い様の無い危機感に囚われた杏であったが、時既に遅くラブは更に距離を詰めピッタリと密着する様に座り直すと、杏の手を取りその小さな膝の上に重ねる様に互いの手を置くのだった。

 

 

()()()()

 

「な、何かな厳島ちゃん……」

 

 

 その早業と距離に更に危機感を強めつつも、務めて平静を装う様に杏はラブの呼び掛けに応えたが、どうしてもその語尾は強張ったものになってしまう。

 

 

「今日はね、私はあなたにお礼を言いたくてここに来たのよ?」

 

「お礼?」

 

「ええ、そうよ。みほをこの世界に戻してくれてありがとうってね」

 

「え?あ…ああ、そういう事…そりゃまたご丁寧に──」

 

「ただ、そのやり口には少々()()付いたのも事実なんですけどね」

 

「ウグっ……」

 

 

 この時瞬間的にラブが重ねた手に力が入り、杏も思わずその身を硬直させた。

 

 

「でもまあそれはいいの、感謝している気持ちに変わりはないから」

 

「あ…ああああ、そうそりゃあどうも……」

 

 

 ここでラブが重ねていた手を離し、杏もまたやっと解放されるかと思ったその瞬間、再び電光の速さでラブは杏を抱き締めるとそのまま自分の膝の上に乗せていた。

 

 

「い、厳島ちゃん一体何を……!?」

 

「みほを戦車道の世界に引き戻してくれて本当にありがとう…()()さん♡」

 

 

 膝の上に乗せた杏の耳元で囁く様にそう言うと、その耳裏に熱い吐息をほわっと吹きかけた。

 

 

「うひゃあああああ~!」

 

 

 思わず悲鳴を上げ身悶える杏だがそれでラブの抱擁から逃れる事は出来ず、その声が却ってラブを刺激してしまい更なる攻めの言葉が杏の耳を捉えて離さない。

 

 

「うふふ、いいわぁ♪私ね、可愛くて小さなものが大好きなのよ~♡」

 

 

 ギリギリと首を回し涙目でラブの顔を見た瞬間、杏はラブの瞳の妖しい光に完全に飲まれた。

 そしてラブの手は耳元で攻めの言葉を囁くと同時に、杏の全身の敏感なポイントをピアノを弾く様な繊細なタッチで弄り始め、杏は既に抗う事も出来ずされるがままになりつつあった。

 そして丁度その頃桟橋からチームのメンバーを引き連れ戻って来たみほは、会長室に続く廊下を全速力で疾走しており、それに続く者達は既に相当息が上がっている様に見える。

 

 

「あら、西住さんそんなに急いでどうしたの?」

 

 

 ちょうど会長室に向かう途中に柚子と出くわしたみほは、その手を掴むと同時に引っ張りながら一緒にダッシュをさせる。

 

 

「ちょっと西住さん一体どうしたの!?」

 

 

 走りながらもみほの只事ではない様子に柚子は声を上げた。

 

 

「会長さんが危ないんです!」

 

「ええ!どういうこと!?」

 

「とにかく急いで!」

 

 

 尚もダッシュを続けるみほ達の前方に、今度は肩をいからせ憤懣やるかたない表情の桃が何やら大声で愚痴を言いながら歩いて来るのが見えた。

 

 

「全くなんなんだあの女は!大体会長も会長だ…って、くおら貴様ら廊下を走るなぁ!」

 

「河嶋先輩!会長さんは!?ラブお姉ちゃんは!?」

 

「ひえっ!?」

 

 

 鬼気迫る表情で突進して来るみほに思わず悲鳴を上げて怯む桃。

 

 

「会長と厳島隊長なら会長室に…うぐっ!」

 

 

 みほは柚子の手を引くのと反対の手で桃の襟首を掴み、そのまま引きずりながら走って行く。

 

 

「に、西住…ぐ、ぐるぢぃ゛~!」

 

「そんな事言ってる場合じゃありません!会長さんが危ないんです!」

 

 

 柚子と桃の二人を引きずりながらダッシュで会長室前に辿り着いたみほは、文字通り扉を蹴破るとそのままの勢いで会長室に飛び込んだ。

 

 

「会長さん!…って遅かったぁぁぁ!」

 

「あら?みほじゃな~い♪」

 

「みほじゃな~い♪じゃない!ラブお姉ちゃんここで何をやっているの!?」

 

「にしずみちゃ~ん……」

 

「あら?ご挨拶ねぇ、何って言われても見ての通り二人で親睦を深めあってるだけよぉ♪」

 

 

 肩で息をしながら会長室に飛び込んだ一同の前に広がる光景、それはどう見てもラブという名の大蛇が、獲物にその身を巻き付けその長い舌をチロチロさせている風にしか見えないものであった。

 

 

「きっきっ貴様ぁ!会長に何をやっておるかぁ!」

 

 

 最初のショックから立ち直った桃がラブに対して怒声を上げたものの、ラブの方はどこ吹く風で膝の上にのせた杏をいい子いい子しながら桃の方に熱の籠った視線を向ける。

 

 

「あら~?桃ちゃん先輩もご一緒します~?」

 

「ヒィィィっ!」

 

 

 その視線と声音にあっさりと腰砕けになる桃であった。

 みほを始め他の者もなんとかしようと思うものの、その目には一様に『これはもうどうしようもない』とか『完全に手遅れ』などといった言葉が浮かんでいる様に見えた。

 

 

「こやま~、か~しま~、なんとかしろ~」

 

 

 杏が力の無い声で助けを求めたが、当の柚子の目にも『何時かこうなると思った』とか『私を巻き込まないで』といった感じが見て取れ、その表情も諦めの様な微妙な笑みが浮かんでおりそれを見た杏の顔にも絶望の色が浮かんで見えた。

 

 

「私……」

 

「こやま!」

 

 

 口を開いた柚子に一瞬杏の顔に期待の色が浮かんだが、次の一言でそれも再び絶望の色に変わる。

 

 

「歓迎会の準備の進捗を確認しに行って来ますね」

 

『あっ!』

 

 

 微笑みながらそう告げた柚子はフェードアウトする様に会長室から立ち去って行った。

 

 

「あぁ!待って柚子ちゃん置いて行かないでぇ~!」

 

『見捨てた!』

 

 

 柚子を追ってわたわたと走って行く桃を、皆呆然と見送る。

 

 

「ねぇみほ~♪大洗って小っちゃくて可愛い子がいっぱい居るのね~♡」

 

 

 ラブの言葉にギクりとしたみほがラブに顔を向けると、二人の逃亡により白化してしまった杏を相変わらずいい子いい子したまま、そのギラギラとした視線をみほを始め梓やウサギさんチーム、麻子やアヒルさんの典子達に巡らせており、止めに唇の端から端に舌を這わせてみたりなんかもする。

 

 

「うぅ…みなさん!急いで小さくて可愛い子達を、ラブお姉ちゃんには解らない手の届かない安全な場所に隠して下さい!」

 

『そんな急に言われてもぉ……』

 

 

 一斉に困惑の声が上がるも、それをみほの言葉が瞬く間に一蹴した。

 

 

「急いで!時間がありません!みんな会長さんの様な目に遭いたいんですか!?」

 

『うへぁ……』

 

「一刻も早く行動を開始して下さい!更にコソコソ作戦を開始します!パンツァー・フォー!」

 

 

 みほの号令と共にスイッチが入った様に駆け出す大洗のチームメンバー達。

 

 

「あぁぁ~!オマエらおぼえてろよ~!」

 

 

 虚しく響く杏の断末魔の声。

 

 

『会長さんゴメンナサイ!私も自分が()()()んです!』

 

 

 心の中でそう謝罪しつつも、みほは振り返る事無く会長室から走り去って行くのであった。

 そしてそれから暫くのち『小さくて可愛い子達』を隠し終えたみほ達が、恐る恐る戻ってみた会長室には、やる事やって満足顔のラブの膝の上でエジプト壁画の様な妙なポーズをした杏が、頭の上に見えない白旗を揚げ口から白煙を吹き無残に撃破された姿を晒していた。

 

 

「さて、冗談はこれ位にするとしてそろそろお暇させて頂くわね」

 

『あれが冗談!?』

 

 

 死んだような目で見守る一同の前で杏をそっとソファーの上に降ろしたラブは、立ち上がりみほの肩をひとつ叩いて立ち去り掛けたが、大事な事を言い忘れていたかの様に、杏の元に戻るとその耳元でそっと何かを囁く様に話し掛ける。

 

 

「そうそう会長さん、大事な事を伝え忘れていたわ♪」

 

「ま、まだ何か……」

 

「ええ、とっても大事な事よ。明日の試合、ヘッツァーの砲手は最初から最後まで会長さんが務めてね♪桃ちゃん先輩は楽しい人だけど、私達との試合でノーコン片眼鏡は困るのよ。私ね、実力のある人に試合で手を抜かれるのがとても嫌いなの。私、会長さんの実力認めてるのよ?それにね、あなたには責任があると思うの。みほだけじゃない、他の子達にも夢を見せてしまった責任が。解る?だから明日は全力でお願いね、どうか私の期待を裏切らないで欲しいの」

 

「……解ったよ」

 

「そう?ありがとう()()さん」

 

 

 ここでラブは杏に対し、今日初めて真摯な表情と言葉で礼を述べると一礼をした。

 

 

「さて、今度こそ本当にお暇するはわ。それじゃあまた後でね、みほ♪」

 

「ラブお姉ちゃん!?」

 

 

 背後からのみほの声にもラブは振り返る事無く、ただ後ろ手にひらひらと手を振りそのまま会長室を立ち去って行き、残された者は呆然とその背中を見送ってしまうのであった。

 そして見送られたラブは鼻歌交じりで階段を降りて行き、昇降口まで来た処でやっとここまでやって来た愛達と遭遇した。

 

 

「あれ?ラブ姉もう挨拶終わったの?」

 

「ん?みんなも来たんだ~」

 

 

 鈴鹿の問いにのんきに答えるラブであったが、即凜々子が突っ込みを入れた。

 

 

「あのねぇ!歓迎会開いて頂く時に、その場で歌う前に体育館のステージの確認をするって言ったのはラブ姉でしょうが!もう忘れたの!?この脳みそおっぱい女!」

 

「凜々子それどういう意味よ~」

 

「そのまんまよ!」

 

 

 下がり眉毛で抗議の声を上げたものの、即座に凜々子に切り捨てられる。

 

 

「うぅ……」

 

「ほら!サッサと行くわよ!」

 

 

 こういう時は凜々子も含めAP-Girlsの少女達はラブに対して一切容赦が無い。

 

 

「みんな私に優しくない……」

 

「やかましい!とっとと歩け!」

 

「私の方がお姉さんなのに……」

 

「都合よく年上と同級生を使い分けるな!」

 

「うぅ……」

 

 

 散歩を嫌がる犬を引き摺る様に、凜々子はずんずんと進みだしラブも渋々歩き出す。

 歩き出して暫くすると愛がすっとラブの隣に並び、いつも通りの無表情プラス抑揚に欠ける声でラブに向かい結果報告をするように促した。

 

 

「で?上手く行ったの?」

 

「ん~?あ~、まあね~。少々エグい手使わせて貰ったけど、これで大洗も最初からベストの態勢で来てくれると思うわ。もしそうでなかったらそれはそれであの会長さんは凄いと思うけど」

 

「そう…何も自分から悪役になりに行かなくてもいいのに……」

 

「うふふ……♡」

 

 

 会話の様子からすると、どうやらラブは翌日の練習試合のハードルを自ら上げるべく、杏に対して追い込みを仕掛けた様である。

 真偽の程は定かではないが、これはAP-Girlsの実戦経験の少なさを、より高難度の試合を経験させる事でフォローしようという意図が働いているのかもしれないが、いずれにしてもそのやり口がえげつない事には変わりが無かった。

 そして体育館の下見の後にまず大洗女子の生徒達に対しての笠女学園艦の開放が行われたが、これは聖グロ戦の際の学園艦開放に於いて、あまりの来艦者の数の多さに一時オーバーフロー状態に陥った為、それらの反省点から対戦校と一般来艦者を分ける事でそれを緩和する目的の措置だった。

 未だ運営面では手探り状態であり、自動化された部分が多い学園艦とは違ってこういった部分では人が考え動かなければ解決出来ない問題だが、それもまた笠女の生徒達に取っては実習の中のスキルアップに繋がる大事な実地の場に他ならないのだろう。

 笠女学園艦の開放が終了すると今度はその舞台を大洗学園艦に移し、みほ率いる大洗戦車隊主催のAP-Girls歓迎会が開催され、そのお礼に行われたAP-Girlsのミニライブも大変好評であり、無事大洗訪問の初日を終了する事が出来たのだった。

 そしていよいよ明日は大洗との対決の日を迎えるが、果してラブ対みほの戦いの結末がどうなるかはまだ誰にも解らない。

 だがその内容がとても激しいものになるであろう事だけは決定事項であり、ラブとみほの事をよく知る者達の間では唯一はっきりしている事であった。

 嵐の前の静けさ、その言葉通りにその日の夜は不気味な程静かに更けて行った。

 

 

 




会長がラブにおもちゃにされるネタは、
構想を思い付いた極初期の段階から存在していましたがやっと出せました。
この大洗編は過去一番の難産状態で一番最初の物と、
現在直しを入れている物では話がまるっきり違います。
予想はしてましたがみほの相手させるのが一番難しいですねぇ…。
もう面倒になって連休は何処にも行かない事にしたので、
その間に原稿が進むといいのですが。


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