ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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極稀に横須賀弁とか言われる事があるけど、
横須賀の人間としていまいちピンと来ません。

ラブの奇策を考えるのは大変です、この話も何回書き直した事か……。


第十九話   歌う戦車砲

「さ~て、それじゃあ行こっかね~」

 

 

 試合開始を告げる信号弾が上がり、コマンダーキューポラ上でそれを待っていたラブは、にっこりと実に嬉しそうにそう言うといつもの号令を掛ける。

 

 

「AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 しっかり暖気も終わったエンジンが低い唸りを上げその瞬間を待っている。

 

 

「Tanks move forward!」

 

 

 ラブが進発の命令を下しLove Gunを先頭に5両のⅢ号J型は、一列縦隊で大洗海浜公園の駐車場からサンビーチ通りを大洗わくわく科学館を右手に見ながら進んで行く。

 

 

「よ~し、それじゃあパンツァーカイル組むよ~♪」

 

 気の抜けたラブの号令と同時に先頭のLove Gunを頂点にして、後続の四両が左右に分かれると素早くコンパクトな楔形を形成する。

 

「たった5両でな~にがパンツァーカイルだってんだ」

 

 ブルー・ハーツ車長の夏妃はコマンダーキューポラ上で沿道の観戦客に向い、可愛らしい笑顔で手を振ったり投げキスをしたりとファンサービスをしながらも、その口ではラブの出した指示にいつものはすっぱなもの言いで悪態を付いている。

 

 

「それラブ姉に直接言えってば」

 

「言って聞くかよあのおっぱいが」

 

 

 まぜっ返して来るニュアンスロングのダークグリーンの髪に赤い瞳の通信手、涼音結衣(すずねゆい)に言い返すが結衣はそれを聞いてもケラケラ笑っているだけだ。

 本来なら装甲の厚さと数にものを言わせた装甲戦術がパンツァーカイルだが、AP-Girlsが使用するのはⅢ号J型でしかもその総数はたったの5両、これでは夏妃が悪態を付くのも無理はない。

 確かにその隊形は上空から見れば楔形を形成しているが、その車両間隔は道路二車線分に収まる程極端に狭くLove Gunを先頭に走り行く姿は鋭い槍の穂先の様に見える。

 観戦客達も接触ギリギリで隊列を組みその間隔を乱す事無く、しかも搭乗する美少女達は愛想を振り撒きながらその隊列を維持しており、皆AP-Girlsの操縦技術を驚きの目で見送っていた。

 

 

「別に何だっていいじゃん、ラブ姉がそう言ってんならそれでいいじゃん」

 

「出たよ」

 

「何が?」

 

「稲穂の横須賀弁」

 

「は?」

 

 

 AP-Girlsのメンバー中ラブ以外で唯一横須賀出身の少女、操縦手の海藤稲穂(かいどういなほ)は癖のある黒のセミショートを揺らして振り向くと明るめのアンバーの瞳で夏妃を睨み付けた。

 

 

「わぁバカヤロ!前見ろ前!ぶつかるだろ~が!」

 

「うっせぇよ、うちがそんなヘマするワケね~だろ!けっぱぐん(蹴っ飛ばす)ぞ!」

 

「思いっ切り横須賀弁だよな?」

 

「じゃんじゃん煩いんだよ」

 

 

 夏妃と稲穂のやり取りにそう言って頷き合うのは、ハイトーンアッシュブラウンの髪をボブにした暗めの青い瞳の装填手である葉山栞(はやましおり)と、紫がかったピンクのロングストレートを無造作にバレッタで纏めた、瞳が緑の砲手剣崎奏音(けんざきかのん)のコンビだ。

 

 

「いちいちうっせぇなぁ、大体じゃん位今時普通だしラブ姉だって使ってんべよ」

 

「いや、私らべよとかけっぱぐるなんて言い方知らないし」

 

 

 稲穂に向い栞が追い打ちを掛けるが、どうにも相対的に見てこのブルー・ハーツの搭乗員達は何と言うか非常にガラの悪い印象が強かった。

 その見た目だけはAP-Girlsに所属するだけあって、夏妃を筆頭にブルー・ハーツの搭乗員はとても優しい顔立ちの少女が揃っているのだが、どういう訳か口を開くと揃いも揃って言葉使いが悪いのだ。

 だがそれで仲が悪いなどという事は全く無く、むしろその搭乗員の結束力は高く聖グロ戦で見せた格闘戦での圧倒的な強さはそれ無くしては成し得ないものである。

 

 

「もういい加減にしやがれ!ちゃんと愛想振り撒かないと後でラブ姉にどやされるぞ!」

 

「大体最初に言いだしたのは夏妃じゃね~か……」

 

 

 笑顔を振り撒きながらも、稲穂はブツクサ文句を言いつつブルー・ハーツを操り続ける。

 夏妃達が笑顔を振り撒きながら毒を吐くという器用な事をやっているうちに、隊列はマリンタワー南の交差点を通過し、発砲禁止エリアである知波単の福ちゃんがエスカレーターで無茶をしたのでお馴染みの、まいわい市場前に到達していた。

 

 

「Why?あの子何考えてんのよ?」

 

「私が知る訳ないじゃない!」

 

 

 目の前をLove Gunを先頭に珍妙な隊形を組み通過して行くAP-Girlsを見て出たケイの呟きに、即刻カチューシャが噛み付く。

 

 

「まさかとは思うがあれでパンツァーカイルとか言わんだろうなぁ」

 

「いくらラブでもさすがにそれはないだろう」

 

『あははははははは♪』

 

 

 アンチョビが面白そうに言ってまほが真面目に答えると皆が一斉に笑ったが、やはり思考が近いのかアンチョビはものの見事に事実を言い当てていたのだが、その事実は小説より奇なりだった。

 そして彼女達が笑っている間もラブ達は真っ直ぐサンビーチ通りを進んで行く。

 

 

「桂利奈スピード落として!索敵にならないよ!もういつ何処から厳島先輩が現れてもおかしくないんだから慎重に行かないとダメだよ!」

 

 

 梓の叫びで減速する桂利奈操るM3は試合開始後大洗の商店街を一気に走り抜けると、エキシビジョンの際、知波単の隊長の絹代が無線の調子が悪い上に盛大な勘違いから吶喊した挙句、『あいた~!』っと叫んで玉砕したOY防衛ラインこと大洗町役場近くまで到達していた。

 これまでに搔い潜って来た修羅場の数とやれば出来る子の桂利奈の努力の甲斐もあり、凄まじい快速ぶりを発揮してここまで来たのはいいが、索敵任務としては些か飛ばし過ぎなのは確かだった。

 

 

「でもここまで来ても影も形も見えないし~」

 

 

 あやが至ってお気楽に言うが、梓は即咎める様に即答する。

 

 

「あや!油断しちゃダメって西住隊長に言われたばかりじゃない!」

 

「でも本当にAP-Girlsは今何処に居るんだろうね?」

 

 

 あゆみが頬に指を当てつつ疑問を口にしたその時、それまでいつもの様に外を見ながら見えない蝶々探していた紗希が梓のパンツァージャケットの裾を引っ張った。

 

 

「え?紗希、何?」

 

「あっち……」

 

 

 紗希はそう言ったきり後は無言でサンビーチ通りの方を指差すのみ。

 

 

「あっちにAP-Girlsが居るの…?桂利奈!文化センターの駐車場に入って、あまりエンジンを吹かさない様に注意してね!」

 

 

 梓の指示によりさすがに紗希も慎重に大洗文化センターの駐車場にM3を乗り入れる。

 そして梓が降車して様子を見に行こうとしたまさにその時、梓達の直ぐ目の前のサンビーチ通りをLove Gunを先頭にAP-GirlsのⅢ号J型が通過して行くのが街路樹の松並木越しに見えた。

 

 

「えぇ!?単騎駆けじゃない!?優季!西住隊長に無線開いて!西住隊長、こちらウサギさん!AP-Girlsは全車揃って文化センター前のサンビーチ通りを真っ直ぐ大洗海岸方向に向かって進行中!」

 

 

 梓が無線連絡する間にもラブ達は堂々と目の前を通り過ぎて行く。

 

 

「市街地に入らない!?しかも隊列行動?どういうつもりラブお姉ちゃん……?」

 

 

 ラブの意図する処を掴めずほんの一時考え込むみほだったが、そうしている間にもラブ達は隊列を組んだまま進軍を続けているのでそう悩んでいる時間も無い。

 

 

「こちらあんこう、囮部隊は全車大至急ゴルフ場突入ポイントに集結して下さい!」

 

『了解!』

 

『西住隊長、AP-Girlsは現在めんたいパーク前を通過中です!』

 

「梓さん、ウサギさんの現在位置は何処ですか!?」

 

『文化センターの駐車場を出て、距離を取りながらサンビーチ通りの側道をAP-Girlsを監視ししつつ追跡中です。でも西住隊長おかしいんです、私達の事気付いてない訳無いのに無視する様にそのまま進み続けてるんです!』

 

「…解りました、そのまま監視を継続出来ますか?」

 

『ハイ!大丈夫です』

 

「それではそのまま監視をしながらこちらに戻って来て下さい、でも絶対無理はしないで危険だと感じたら即監視は中止してその場を離脱する様に」

 

『了解しました』

 

 

 市街地に展開していた囮部隊はAP-Girlsを追尾中のウサギさんを除き、各車全速力でゴルフ場の突入ポイント目指し元来た道を戻りつつある。

 あんこうもまた同じく麻子の繰り出す超絶テクニックにより、信じられないペースでゴルフ場目指し商店街を疾走して行く。

 

 

『西住ちゃ~ん、カメさんはこのまま大鳥居下の交差点まで出て厳島ちゃんを引っ張るよ』

 

「会長さん危険です!間も無く合流出来るのでそれまで待って下さい!」

 

『でもそう悠長な事言ってらんないっしょ?』

 

「ですが!」

 

『だいじょぶ、だいじょぶ、ヤバくなったら直ぐケツまくるからさ』

 

 

 この状況を想定でもしていたのか杏は分散後ヘッツァーを前進させておらず、いち早くスタート地点近くまで戻って来ており、それはラブ達の頭を押さえられる事を意味していた。

 

 

「かいちょぉ!」

 

 

 桃はあのAP-Girls相手に単騎で立ち向かう事に狼狽えているが、杏はそれには構わず無線の向こうのみほに向かい話を続ける。

 

 

「もしこのままクラブハウスの方に行かれたら待ち伏せ組が背後を取られる可能性があるし、アクアワールドの方に行かれても作戦そのものが成り立たなくなるから困るっしょ?」

 

 

 無線機に向かい諭す様に語る杏の声を聴きながら柚子は無言でヘッツァーを前進させる。

 

 

「ありがとよ…小山……」

 

 

 その柚子の背中に杏は極小さな声で感謝の言葉を述べる。

 

 

『会長さん!直ぐに行くので絶対に無理はしないで下さい!』

 

「ハイハ~イ♪」

 

 

 無線から聴こえるみほの悲痛なまでの声に杏は至ってお気楽に返事を返した。

 その間にもラブ達は相変わらず奇妙な楔形の隊形のまま、速度も変える事無くサンビーチ通りを進み続けている為現在位置は大洗町漁協卸売市場前に到達したばかりだった。

 

 

「あの厳島先輩ってすっごい美人だけど一体何考えてるんだろ~ね~?」

 

 

 ゆっくりと前進を続けるAP-Girlsの少し後方、サンビーチ通り沿いにある漁村広場越しにそれを監視しつつ追尾しているM3の車内では、手持無沙汰なあやが思わずそう呟いた。

 

 

「ちょっとあや!」

 

 

 再び緩い事を言い出すあやに梓は鋭い声を上げるが、視線はAP-Girlsから離さずにいる。

 ちょっとでも目を離せばその瞬間にやられる、そんなプレッシャーを梓は追尾を始めてからずっと感じ続けていて、大分寒くなっているのにも拘わらず気が付けば掌にぐっしょり汗を掻いていた。

 自分が相手の間合いの中にいる、なのにこちらを気にする様子も無く好きにさせている事に言い様の無い恐怖感が梓に圧し掛かっているのだった。

 梓がその重圧から自分を解放すべくひとつ小さく溜め息を吐いたその瞬間──。

 

 

「え?ナニ!?」

 

 

 前方を進むLove Gunから、突如AP-Girlsのデビュー曲のイントロが大音響で流れ始めた。

 思わず呆気に取られる梓の前で激しいリズムのイントロが終わると、隊列を組むⅢ号J型に乗り込むAP-Girlsのメンバー達が曲に合わせ一斉に歌い始めたのであった。

 

 

「えぇ?歌ってる?試合中に!?」

 

 

 完全に目が点になった梓の前をAP-Girlsが歌いながら進軍して行く。

 戦車道の試合中でありながら、あまりに現実離れした光景に梓の思考は完全に停止してしまう。

 

 

「梓…お~い、あずさ~!」

 

「きゃあ!」

 

 

 コマンダーキューポラから乗り出した状態で固まって反応の無い梓のスカートをあやが捲る。

 

 

「あや!何するのよ!?」

 

「あ、やっと反応した」

 

「…そ、そうだ!西住隊長に連絡しなきゃ!西住隊長、こちらウサギさん……」

 

 

 咽頭マイクを押え無線通信を始めたものの、そこでこの状況をみほにどう伝えればいいか解らなくなった梓は言葉に詰まってしまう。

 

 

『梓さんどうしたの?』

 

「それがええと、厳島先輩が…AP-Girlsが…その、歌いながら進軍を始めたんです……」

 

『え…?』

 

 

 無線越しの梓の言葉にみほもそこで言葉を失ったが、その交信に杏の声が割り込んだ。

 

 

『あ~、コッチにも聴こえて来たねぇ』

 

『会長さん!?現在位置は何処ですか?』

 

『あ~、鳥居下の交差点からだと様子が分からないから、大洗岬のカーブの所まで出て来たけど厳島ちゃん達見えて来たよ、距離にして300mってトコかな?ぴ~ったりくっ付いてまるで1両の戦車みたいだねぇ。厳島ちゃんとは初めて向き合ったけどなんつ~のかな?オーラとでも言うのかねぇ?まるでマウスと対峙してる様な迫力があるよ~』

 

 

 割り込んで来た杏の言葉に一瞬考え込むみほは頭の中に何かが引っ掛かっている様だ。

 

 

「密集隊形…1両の戦車…マウス…マウス……いけない!会長さんそこから下がって!全力後退!」

 

『へ?』

 

 

 みほがそう叫んだまさにその瞬間、5両のⅢ号J型の長砲身50㎜が一斉に火を噴き辺り一帯にまるで一発の砲声の様な砲撃音が轟き5発の徹甲弾が狙い違わず一気に襲い掛かる。

 観戦エリアで見守る者達もこれがこの戦闘最初の白旗かと思ったその瞬間、カメの二つ名を与えられたヘッツァーはその名に似合わぬ俊敏さを発揮して後退しその一撃を回避していた。

 無線越しのみほの叫びに杏が反応するより早く柚子がヘッツァーを全力後退させていたのだ。

 

 

「ヒィィィ~!」

 

「な、何今の……?」

 

 

 たった今までヘッツァーが居た場所に大穴が空き、それを見た桃が悲鳴を上げた。

 

 

『会長さん無事ですか!?』

 

「あ?ああ、西住ちゃんおかげさんで無事だよ~、でも今のナニ?」

 

『説明は後でします!今は後退して合流する事だけ考えて下さい!』

 

「りょ、了解……」

 

 

 みほの勢いに押され杏もそう答えるのがやっとだ。

 

 

「こやま~」

 

「はい、後退してみんなと合流しましょう」

 

「こやま……」

 

「はい?」

 

「ありがと、助かったよ……」

 

 

 杏の言葉に無言で頷いた柚子は、ヘッツァーを転進させるとみほ達と合流すべく走り出した。

 

 

「あの変な密集隊形と歌はそういう意味があったかぁ」

 

「隊形はともかく歌とはどういう意味ですの?」

 

 

 観戦エリアのスタンド最上段に陣取り成り行きを見守っていた一行の中で、アンチョビもラブ達が歌い始めた時には皆と同様に呆気に取られていたものの、一斉砲撃を行なった瞬間その意図を即座に見破ると同時に感心した様な表情で話し始めた。

 しかし他の者達はその意図を掴み兼ね、一同の気持ちを代弁する形でダージリンが質問をした。

 

 

「歌、と言うかこの場合は曲だな。ラブ達は曲に合わせて砲撃タイミングを計っているんだよ。あれは観閲式の時にもやってたのを覚えているだろ?尤も今回は微妙に砲撃タイミングをずらしてたけどな、Ⅲ号の全長が約6mその分コンマ秒単位で時間差砲撃してピンポイントで同時弾着させたんだよ、そのコントロールを歌う事でタイミングを合わせて実現していると思うんだ。あの大穴見たろ?多分足元狙いで撃ったんだろうが50㎜でも一点に同時弾着すると凄いモノがあるな、あれがもし履帯に当っていたら転輪から根こそぎやられていただろうなぁ…それにしても角谷のヤツも大したものだ、よくあれを回避出来たものだと思うよ、もし喰らっていたら一発白旗は確実だったはずだ」

 

 

 アンチョビもいつもながらの観察力を発揮し一同に今起こった事を解説すると、全員揃って会場の大型モニターとアンチョビを交互に驚異の視線で見比べる。

 

 

「聖グロ戦の時英子姉さんが努力を怠らない天才は恐ろしいと言っていたが、一体どんな訓練をすればあんな芸当が出来る様になるのか私にゃ想像も付かないや。最初は掴み合いのケンカもしたとラブのヤツが言ってたが、あの温厚なラブがそこまでするっていうのはやっぱり並大抵じゃないよなぁ。いずれにしても前回の単騎駆けから一転して今回は隊列組んでの集団戦闘、やっぱりラブは私ら相手に色々試す気らしいな、こりゃあ事前に対策立てるとか無駄な努力になりそうだよ」

 

 

 策士であるアンチョビがここまで言うからには、自分達も相当心して掛からねば痛い目を見るであろう事は想像に難くなく、それぞれが自分とラブが相対する時、果たしてどんな手で仕掛けて来るかと思うと気が重くなるのであった。

 

 

「お、みほ達もやっと合流し始めた様だが、さてこれからどう動く?」

 

 

 大型モニターの空撮映像は反転離脱したカメさんが市街地から戻って来たあんこうや他の仲間達と、どうにか合流を果たした様子を映し出している。

 現在はAP-Girlsを追尾しているウサギさんチーム以外の囮部隊は全車集結し、スタート地点である町営駐車場と向かい側のホテルの建物の陰に展開し防衛ラインを構築していた。

 

 

「いやあ、助かったよ西住ちゃん。で、さっきのあれはナニ?」

 

「会長さんが1両の戦車、マウスみたいな迫力だと言った時に気が付いたんです。密集状態からの一点同時砲撃なら例え相手が重装甲でも無視できないダメージを与えられるんじゃないかって…当たって欲しくない勘でしたけど当たっちゃいましたね……」

 

「そういう事かぁ、ホント小山が西住ちゃんの声に反応してくれなかったらヤバかったよ。それにしても厳島ちゃんも凄い事考えるねぇ」

 

 

 あんこうと並んでホテル前に隠れるカメさんから顔を出した杏はみほから説明を受けつつ腕を組みウンウンと頷きながら感心した様に言うのだった。

 

 

「かいちょぉ!感心している場合ではありません!」

 

 

 さっきの一撃で完全にテンパってしまった桃が車内で声を上げるが、杏はそれを聞き流しながらみほにこれからどうするか聞いて来る。

 

 

「ここからはAP-Girlsが視界に入ったら、砲撃を加えつつゴルフ場までひたすら後退する事になります。ラブお姉ちゃんもフラッグ車のあんこうが目の前にいれば、さすがに他に回る事は無いでしょうから何としてでも当初予定通りキルゾーンまで引っ張って行きたいですね」

 

「そっか、了解だよ西住ちゃん」

 

『西住隊長!こちらウサギさん、もう間も無くAP-Girlsがそちらから見えるはずです!』

 

 

 みほと杏が会話を終えた丁度そのタイミングで追尾中の梓から無線連絡が飛び込んで来た。

 

 

「了解!各車戦闘用意!砲撃開始後は遮蔽物を利用しつつ順次後退開始、待ち伏せ部隊の待つゴルフ場までAP-Girlsを何としてでも誘導します!」

 

『了解!』

 

 

 

 みほが無線で指示を出し終えると同時に隊列を組んだAP-Girlsが、大洗鳥居下の交差点を右折して来るのが見え、いよいよこの日初めてラブとみほが対峙する瞬間が訪れた。

 

 

「ああ居た…ん~、みほってどうも最初は正攻法で戦おうとする傾向があるみたいねぇ…これはやっぱ根底にあるのが西住流だからなのかしらねぇ……こっちに来てるって事はやっぱりゴルフ場に高火力を待機させてそこに私達を引っ張り込みたいって辺りが妥当よね。実際ポルシェティーガーとⅢ突の姿が見えないし。まあ乗ってあげるけどもうちょっとみほらしさを見せてほしい欲しいものだわぁ」

 

 

 Love Gunのコマンダーキューポラ上でラブは独り言を呟く様にしゃべっているが、大洗の囮部隊との距離は100m程まで迫っておりⅢ号では直撃でなくとも危険な距離まで接近している。

 それでも未だみほが攻撃命令を下さない辺りでその意図を察するラブは、ここで一旦AP-Girls全車に対し停止命令を出すと車内から毎度お馴染み校名入りの拡声器を取り出し、前方にいるみほに対しいつものやっすい挑発パフォーマンスを始めるのだった。

 

 

「お~いみほ~!いつまでそんなぬるい事やってるつもりよ~!いつまでもチンタラやってるとみほが中学入る直前までフライドチキンの白ヒゲのおじさんの事──」

 

 

 

 

 

 ズドン!

 

 

 

 

 

 ラブが何かみほの過去の事をばらそうとしたその瞬間、みほは電光の速さで華を砲手席から押し退けLove Gun目掛けてあんこうの主砲をぶっ放していた。

 撃ち出された徹甲弾は、ラブの頭上を飛び越え背後にある磯前神社の鳥居に掲げられている大洗磯前神社と書かれた額の裏側に直撃し、鳥居ごと木端微塵に粉砕してしまう。

 

 

「み、みほさん!?」

 

「う、うそだからね!あんなの絶対うそだからね!」

 

 

 顔を真っ赤にしてみほは絶叫するが、肝心な部分は砲撃音で誰の耳にも届かなかったので却って皆の好奇心を刺激する形になってしまった。

 

 

『気になる…白ヒゲのおじさんが一体ナニ!?激しく気になる!』

 

 

 それは観戦エリアの一同も同様で、皆の好奇の視線は一斉にみほの姉であり一番事情を知っていそうなまほに向って集中する事になる。

 

 

「す、済まない…み、みほの名誉の為にもこれは絶対に言えないんだ……」

 

 

 まほは辛うじてそう言ったものの、その表情は明らかに思い出し笑いを堪えてヒク付いていた。

 なお、同じスタンドの反対端に座る黒ずくめの二人が、ヒーヒー言いながら笑い転げて周りから大層不気味がられていた事も忘れずに付け加えておく。

 

 

『だ、ダメだ…このままラブお姉ちゃんを野放しにしていたら私の人生が終わってしまう!』

 

 

 みほの脳内でラブに幼少期から大洗に来るまでの間の、過去の恥かしい思い出の数々を暴露された場合に起こりうる恐ろしい事態に思わずブルっとその身を振るわせた後、咽頭マイクを押えるとカッと目を見開き囮部隊に向かい攻撃命令を下す。

 

 

「各車攻撃開始!あの危険なおっぱいを一刻も早く黙らせなくてはいけません!」

 

「に、西住ちゃん!?」

 

 

 隣にいる杏が声を掛けるもみほの耳にその声は届いていない様だ。

 

 

「あ…目が完全に逝っちゃってる……」

 

「撃てぇ!」

 

「こりゃダメだ…しゃ~ないやるしかないか」

 

 

 杏もヘッツァーの車内に戻り砲撃を開始して、ここにかなりグダグダな雰囲気を引き摺りつつ戦端が開かれ本格的な砲撃戦が開始されたのであった。

 

 

 




今回ラブがばらそうとしたみほの秘密ってなんでしょうねぇ?
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