ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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ラブのブラのカップのサイズは一体どれ位あるんだろう…?


第二十話   AP-Girlsの虎退治

「あっはっはっはっはっはっ!やっとみほが覚醒したわ~♪」

 

「聖グロの時といい、ほんっとこういう時のラブ姉って最低人間よね」

 

 

 大洗の囮部隊からの攻撃を受けAP-Girlsも道の両側に散開し、ホテルの駐車場と磯前神社へと続く道から出たり入ったりしつつ反撃を開始していた。

 ブラック・ハーツの車長である鈴鹿が砲撃を行いホテル駐車場に戻ると、ラブがLove Gunのコマンダーキューポラ上で砲塔をバシバシ叩いてみほのキレっぷりに受けており、そのゲスさ加減に冷たい目線で嫌味を言ったがラブにこういった嫌味や皮肉は一切通用しない。

 

 

「いやあ♪それ程でも~」

 

「だから褒めてないんだよ、この規格外おっぱい女」

 

「あ~!また鈴鹿が酷い事言った~!」

 

「事実でしょ!私はラブ姉以外ブラを特注する人間なんて知らないわよ!」

 

 

 徹甲弾飛び交う最中こんな会話をするのは、戦車道の世界でもこのAP-Girlsだけだろう。

 しかしこのAP-Girlsのメンバー達に共通しているのは、戦闘が余程の極限状態にならない限りは緊張感というものを見せる事が無く、かといってそこに油断があるかというとそれも無い。

 あるのは絶対の自信とそれを裏打ちするだけの圧倒的な実力であり、どんな状況にあっても断じて目標を完遂しようとする鉄の意志である。

 だが、そうは言っても現状交わされている会話の内容は人に聞かせられるものではない。

 

 

「あ、ホラ!みほ達が動き出したわ!」

 

「また誤魔化したな…まあいいわ。それでどうするの?そのまま追う?」

 

「そうね、折角ご招待下さるんだし付き合わなきゃ悪いわよね。それにアレももうちょっと試したいし、どれだけ行けるか試すにしても本命がここに居ないんじゃ話にならないもの」

 

「了解、それじゃあ付かず離れずって感じで追えばいいのね?」

 

「そだね、目的地までは隊列組まず成り行きでって感じかな?」

 

「はいよ…よし、みんな追撃戦に入るからそのつもりでね」

 

 

 鈴鹿はラブとの会話を終えブラックハーツのメンバー達に指示を出し始めた。

 再び駐車場から少し前進して先を見れば大洗の囮部隊は砲撃をしつつ後方に居る車両から順次後退を始め、それを見て取ったAP-Girlsも応戦しつつ追撃を開始した。

 その後も散発的に撃ち合いを続け、大洗の囮部隊が大洗海岸通りからゴルフ場への分岐点に差し掛かると、みほは部隊に全速での後退を指示し一気に松林の中を駆け抜けて行く。

 

 

「ふんふんなるほど~、退路の中でここだけ遮蔽物がないもんね~。でもこっちが追わなかったらどうすんの?自分がフラッグ車だから絶対付いて来ると踏んでの行動かしら?って言ってる傍からまた曲がっちゃったわ。これは管理事務所の方からゴルフ場に入るって事かな?う~んこの辺の動きが今後のみほの課題よね~」

 

 

 砲撃が止まり再び隊列を組んだAP-Girlsを引き連れ進む先頭で、ラブは腕を組みまるでみほの教官でも務める様な口ぶりでこの後の指導方針の様な事を口にする。

 

 

「ラブ姉は一体何処の隊長なのよ?」

 

 

 サイドハッチを開き顔を出したLove Gun砲手の瑠伽が呆れた顔でラブに向かって言い放つ。

 

 

「え~?だってみほは私にとっちゃ可愛い()()()()みたいなものだもの♪」

 

 

 蠱惑的な笑みを浮かべ瑠伽に向かいラブがそう言った瞬間、あんこうのコマンダーキューポラ上で指示を飛ばしていたみほの背中に嘗て経験した事の無い様な寒気が奔り抜けた。

 

 

「ふえぇぇぇ──────っ!?」

 

「ど、どうしたのでありますか西住どのぉ!?」

 

「い…今何か強烈な寒気が背中を奔ったの……」

 

「ちょっとぉ!大丈夫みぽり~ん?」

 

「う、うん大丈夫…でも今のは一体何だったんだろ……?」

 

「危うく舵を切り損なうトコだったぞ……」

 

「ご、ごめんね麻子さん」

 

「でも本当に大丈夫ですか?お顔の色が冴えませんよ」

 

「うん…本当にもう大丈夫だから」

 

 

 みほの突然の絶叫にあんこうのメンバーも心配して声を掛けるが、取り敢えずみほも落ち着いた様なので、訝しげな顔をしつつもそれぞれが自分の仕事に戻って行く。

 

 

「西住たいちょー!」

 

「梓さん!」

 

 

 AP-Girlsを追尾していたウサギさんチームのM3がみほ達とは反対の方向からすっ飛んで来る。

 戦闘が始まって直ぐ迂回ルートでこちらに向かった様で、ゴルフ場突入前に合流を果たす事が出来て、梓の顔にもホッとした様子が伺えた。

 

 

「梓さんお疲れ様、ゴルフ場に入る前に合流出来て良かったぁ」

 

「はい!でも厳島先輩達凄かったです……」

 

「そうだね…ちょっとあれはそうそう真似出来ないと思う……」

 

「西住さん!AP-Girlsが見えたわよ!」

 

 

 ゴルフ場の反対側にあるテニスコートの入り口で様子を窺っていた、カモさんチームのそど子から注意喚起の声が飛び、みほは梓との会話を打ち切り再び戦闘に備える。

 

 

「やっぱりラブお姉ちゃんもこちらが何を考えているか解ってて、それでも来るって事か…各車攻撃用意!弾種榴弾!AP-Girls後方に三斉射後にゴルフ場内に後退!こちら囮部隊あんこう、待ち伏せ部隊状況知らせて下さい!」

 

『こちら待ち伏せ部隊レオポンチーム、いつでもい~よ~』

 

「了解……攻撃開始…撃て!」

 

 

 大洗囮チームによる砲撃が始まりAP-Girlsの後方に榴弾が降り注ぐと、激しい爆炎と共にアスファルトが沸き立ちラブ達を追い立てる。

 

 

「全車ゴルフ場に突入!各車1番ホール最深部、待ち伏せ部隊の包囲網の両翼に展開!」

 

 

 入り口のネットフェンス薙ぎ倒しながら管理事務所の脇から続々とゴルフ場に突入して行く囮部隊は、コースに侵入後は全速力で一番ホールの奥まで進むと左右に分散し包囲網を構築して行く。

 

 

「麻子さん、あんこうは中央部で囮としてAP-Girlsを引き付けて下さい」

 

「おうよ」

 

「西住隊長!AP-Girlsが来ました!」

 

 

 梓の無線越しの叫びと共に、一列縦隊でAP-Girlsが整然とコースに侵入して来るのが見えた。

 

 

「陣地は構築し終わってる様ね、距離は500…は無いか、450mってとこね。みほが真ん中で頑張ってるとこ見るとその背後の林の中にポルシェティーガーが居るって事か……」

 

 

 内ポケットから取り出した直進ズーム式の単眼スコープを覗きながら目測で大凡の距離を測り、その周辺に展開しているであろう待ち伏せ部隊を探していた。

 

 

「ああ、あれがそうかな?結構巧く擬装してるじゃない、でもこちら側の方が若干標高が高いからよく見れば解っちゃうわね。ねぇ花楓、ゴルフ場のコースマップちょうだい」

 

「はいよ」

 

 

 通信手の花楓から受け取ったマップと実際のコースの状況を見比べ一瞬考えた後、再び単眼スコープを覗きブツブツ言いながら何かを確認している。

 

 

「ここからだと約150mか…向こうの方が低いのは()()()()だから当たり前よねぇ…う~ん先に耕してから水撒きした方が効果的よねぇ……ヨシ!これで行くかぁ」

 

 

 ラブはコースマップを花楓に戻すと咽頭マイクを押えAP-Girlsに指示を出し始めた。

 

 

「それじゃあねぇ、虎狩りの準備するよ…でもレオポンってライオンだよね?この場合虎狩りになるのかな?それともライオン狩り?どっちかな?」

 

『ラブ姉!下らない事で時間無駄にしない!』

 

 

 実にどうでもいい事を言い始めたラブにすかさず凜々子の厳しい声が飛ぶ。

 

 

「みんな私に優しくない……」

 

『ラブ姉!』

 

「解ったわよ…各車一列横隊でグリーン上に展開せよ」

 

 

 ラブの指示が出ると周囲の松の間に散開していたAP-Girlsが、グリーン上に綺麗に横一線で並び一列横隊を形成する。

 

 

「第一攻撃目標は150m前方のフェアウェイ、弾種榴弾装填せよ!」

 

 

 全車から装填完了のコールが入るとラブは即砲撃の命を下した。

 

 

「撃て!」

 

 

 鋭く空気を震わせ5発の榴弾が撃ち出され150m先のフェアウェイが抉られ土塊が飛び散る。

 弾着を確認したラブは再び榴弾の装填を指示し数メートル先に向け砲撃を行なった。

 その後もその前後に同様の砲撃を行ない爆炎が晴れると、フェアウェイ上のその辺りだけ冬枯れの芝が吹き飛ばされ黒々とした土がむき出しになっていた。

 

 

「ん~、耕すのはこれ位でいいか…じゃあ次は水撒きをするよ~。今度は装填速度がモノを言うから装填手は頑張るんだよ。砲撃ポイントは10時方向のウォーターハザードのこちらから見て奥側の岸の方ね、耕した辺りに水撒きするイメージで行くよ…各車装填用意、弾種同じく榴弾!連続五斉射!砲撃用意…撃て!」

 

 

 驚異的なスピードで次々榴弾が装填されては撃ち出され、その砲撃の連続音が雷の様に轟く。

 

 

「西住殿、厳島殿はさっきから一体何を撃ってるのでありましょう?」

 

「解らない…でもラブお姉ちゃんは無駄弾を打つ様な事はしないから何か意味があるとは思うけど……」

 

「あ!またですね…なんという速さの連続装填!私ではあの速さは無理かもしれません……」

 

「一体何が狙いなの……?」

 

 

 みほと優花里が頭を悩ます目の前で計25発の榴弾を撃ち込まれた池の水が、コースより低い位置にあるにもかかわらず爆発の衝撃で一気に溢れ、コース上の同じく榴弾によって耕された部分に大量に流れ込み雨となって降り注いでいる。

 

 

「よ~し、いいね♪それじゃ前進するよ、みんな上手い事進むんだよ?ここが肝心だからね~」

 

 

 一列横隊のまま前進を始めたAP-Girlsが自ら作り出した泥濘を超えると、履帯があっと言う間に泥塗れになり互いに跳ね上げた泥で車体にも泥跳ねが目立つ様になる。

 

 

「うふふ、大分箔が付いたねぇ♪さあそれじゃあやるよ、みんないいね?」

 

 

 そう言いながらラブが両翼に並ぶ僚車に視線を走らせると、それぞれの車長が了解とばかりに親指を立てて見せ、それを見たラブも満足げに頷くと前方にいるみほに向け右手を銃を突きつける様に構え、飛び切りの笑みを浮かべ声を限りに突撃の指示を出した。

 

 

「Go!AP-Girls!Let's Rock 'n' Roll! 」

 

『Yeaaaah!』

 

 

 手綱を解かれ歓喜の表情を浮かべると共に絶叫するAP-Girlsの少女達。

 Love Gunの外付けスピーカーから再び激しいリズムが流れ出すと同時に、今日これまでの隊列行動とは一変し、好き勝手てんでんばらばらに突撃を始めるのであった。

 

 

「来た…各車攻撃開始!激しい動きに惑わされず落ち着いて砲撃して下さい!」

 

『了解!』

 

 

 構築した包囲網に向かって突撃して来るAP-Girlsに対し、遂に大洗の砲列が一斉に火を噴く。

 その中にあって、やはりレオポンことポルシェティーガーの88㎜の破壊力は飛び抜けており、初弾が弾着した場所は深く抉られ大穴が空いていた。

 

 

「うっは~♪すげ~!やっぱアハト・アハトの威力はハンパないわ~!」

 

 

 明らかにLove Gunを狙って飛んで来た88㎜を解っていたかの様に躱した後、コース上に出来た大穴を振り返って確認したラブは嬉々とした表情でそう叫ぶ。

 

 

「だから狙われてるのに嬉しそうにするなこの変態!あんなん当ったらひとたまりもないわ!」

 

 

 曲に合わせてLove Gunを振り回しながら操縦手の香子が怒鳴る。

 大洗はポルシェティーガー以外も火力面ではⅢ号のみのAP-Girlsを尽く上回っており、その破壊力は無視出来ないものである為各車操縦手の負担は相当大きいのであった。

 しかし一見出鱈目に走り回っている様に見えて、今までもあわや衝突かという場面が何度となくあったが、それらは全てギリギリの処ですれ違っており彼女達の操縦技術の高さが窺われた。

 実際攻撃を仕掛ける大洗側からも敵の事ながら衝突ギリギリですり抜ける度に悲鳴が上がっており、しかもそれが自分達の攻撃を尽く躱しながら且つカウンターで撃ち返しながらの事なので、少々パニック気味なのも無理はなかった。

 

 

「何で当らないの?って腕だよね……」

 

「外~れ~た~!」

 

「ぶつかるのが怖くないの!?」

 

「いやあ、あれは衝突防止装置でも付けてるのかねぇ?」

 

 

 撃つ弾は当たらず撃ち返される弾は有効打にならずとも確実に当たる状況に焦る大洗。

 好き勝手に走り回っている様に見えているが決して深入りはせず、避けられない距離まで接近する事はないAP-Girlsの動きは冷静な目で見れば実に統制が取れているものであり、現在の段階ではこの戦闘のイニシアチブはAP-Girls側が握っているのは明らかだ。

 焦りや動揺といった感情は伝染し易くそこにつけ込まれれば、どんな万全な態勢であっても崩壊するのは一瞬であり、それが解っているみほも思わず爪を噛むのであった。

 みほが改めて注意喚起を促すべく咽頭マイクを押えたその時、状況に再び変化が訪れる。

 Love Gunから流れる曲が変わるとAP-Girlsの少女達が再び歌い始め、それまで好き勝手に走り回っていた5両のⅢ号J型が一瞬にしてまたあの変則的な楔形隊形を組むや一気に突撃を開始した。

 

 

「来る!麻子さん!」

 

 

 唯一コース上に出て前後左右に動きつつ機動戦闘を行なっていたあんこう目掛け、楔形隊形を組んだAP-Girlsが突撃して来るのを見たみほは麻子に回避行動を取るよう促したが、5両のⅢ号J型から同時に放たれた徹甲弾はあんこうに向かう事無く、その背後の松林の中から砲撃を行なっていたレオポンに向かい飛んで行きピンポイントで見事に正面装甲に直撃していた。

 

 

「しまった!狙いは私達じゃなかった!レオポンチーム大丈夫ですか!?」

 

 

 盛大に上がった爆炎が晴れ、姿が見えたレオポンは健在ながらもその正面装甲は焼け焦げてパッと見でも大きく凹みが出来ているのが分かった。

 レオポンの重装甲がそれ程のダメージを受けていれば中の者も只では済まず、全員が目を回し直ぐにはみほの問い掛けに反応する事など出来はしない。

 

 

「あいたたた…今のナニ……?」

 

『レオポンチーム応答して下さい!無事ですか!?』

 

 

 戦闘指揮を執るみほから引き継いだ通信手の沙織の声が無線から響く。

 

 

「こちらレオポン、ちょっと目を回したけど全員大丈夫…でも今のは何が起こったのかな?」

 

『良かった!怪我してないのね!?みぽりん!レオポンチームみんな大丈夫だって!』

 

 

 無線越しに沙織がみほにレオポンのメンバーの無事を伝える声が聞こえる。

 その間にもAP-Girlsに反撃すべくみほは矢継ぎ早に指示を出しているものの、強烈な一撃を放った直後には一瞬いつものピンクのスモークを焚いて目晦ましを行なうと、あっと言う間に分散し再び好き勝手に走り回りその狙いを容易には定めさせてはくれない。

 今のこの一瞬の出来事は観戦エリアにも大きな衝撃をもたらしており、撃破には及ばなかったものの、レオポンの正面装甲が受けたダメージにはまほ達も大きく目を見開き言葉を失っていた。

 

 

「……観閲式で見せた集団機動と同時砲撃のパフォーマンスはこれの副産物という事か…オイ、カチューシャとノンナよ、次に当たるプラウダも用心した方がいいぞ。ポルシェティーガーの重装甲でもあの有様だ、例え一撃目で抜けなくてもあのAP-Girlsの命中率の高さなら、二撃三撃とピンポイントで撃ち込むなぞ容易いだろうからな」

 

「な……!」

 

 

 アンチョビの忠告にカチューシャの顔も一瞬にして青くなる。

 だがこれは数多く重戦車を保有する黒森峰にも言える事であり、まほも腕を組み押し黙ってしまう辺りにこのAP-Girlsが見せた戦法の恐ろしさが垣間見えた。

 

 

「もうラブの前には重装甲が通用しないのは明らかだ…それとな、最初にラブのヤツがやっていた小細工の意味がまだ解らん、果してアレに一体どんな意味があるのかが気になるよ……さてみほよ、ここからラブ相手にどう戦うつもりだ?」

 

 

 アンチョビはひとり冷静なる観察者の目で先を見通す様にモニターを見据える。

 

 

「皆さんこんな時こそ落ち着いて!両翼に展開する車両はコース両側面に牽制の砲撃を行なってAP-Girlsの行動範囲を狭めて下さい!カバさんとアリクイさんはAP-Girlsの後方に火力を集中、その退路を断って下さい!レオポンはあんこうが陽動を掛けるのでLove Gunに絞って砲撃を行なって下さい!これはフラッグ戦です、フラッグ車を討ち取ればそこで勝負は決まるんです!もう一度冷静になって作戦を実行して下さい!攻撃開始!」

 

 

 みほの指示に従って攻撃を再開する大洗チームだが、それをあざ笑うかの様に再び一斉にピンクのスモークを焚いたAP-Girlsは、一気に後退しその間合いを広げてしまうのであった。

 

 

「クっ…さすがだねラブお姉ちゃん、中々こちらの思惑には乗ってくれない……ナカジマさんレオポンの被害状況はどうなっていますか?」

 

『こちらレオポン、ホシノだけど今丁度ナカジマが正面装甲の確認してるからちょっと待って…ああ、今戻って来た……え?ああ解った…ええとね、思った程酷くは無いから今の処問題無しだって。でもまたアレを何発か喰らったらちょっと保証は出来ないってさ』

 

「分かりました、怪我が無かったのが何よりです」

 

 

 致命傷ではない事に安心したがあの攻撃方法が有効である事は立証されたも同然であり、これではいざという時にレオポンを前面に押し立てる作戦も取り辛くなる。

 みほは自分の思考が消極的になっている事を自覚しつつも、今の処あの突撃に対抗する有効な手立てを思い付けず焦燥感ばかりが強まって行く。

 しかしだからといってこのまま手をこまねいていれば、増々ラブのいい様にやられてしまうのは火を見るより明らかであり、みほもそれだけは何としても避けたい状況だった。

 今もAP-Girlsは彼女達の実力なら、砲撃を余裕で回避出来る距離から再度突撃を敢行する機会を窺っている様に見え、これ以上こうしている訳にはいかずみほも覚悟を決めねばならなかった。

 

 

「攻撃を再開します、全車コース上に集結。砲撃を加えつつ前進しディフェンスラインを押し上げてAP-Girlsが自由に動き回れる空間を潰します。レオポンとカバさんはLove Gunに火力を集中、あの攻撃陣形を取らせない様にして下さい」

 

 

 みほの無線による指示を聞いてレオポンとカバとアリクイが松林から抜け出して来る。

 改めて見た見たレオポンの正面装甲は黒い焦げ跡も生々しく、凹みもはっきり確認出来るが今はナカジマの判断を信じるより他は無い。

 両翼に展開していた車両も集結するとみほは前進を命令し大洗が攻勢に転じて行く。

 

 

「そろそろ潮時だね~、ここからはいよいよ虎狩りの最終段階に入るよ~♪」

 

 

ラブの指示が飛ぶと5両のⅢ号J型は散発的な応射をしつつも大洗の圧力に押される様ジリジリとに後退を始め、最初の砲撃で作った泥濘近くまで到達していた。

 

 

「後少しだよ~、そのままのペースを維持してね~」

 

 

 ラブが緊張感にそぐわぬお気楽な調子で無線で指示を出す中、AP-Girlsの5両が泥濘を何事も無い様にゆっくりと越えて行く。

 大洗もレオポンとカバさんを中心に火力の差を活かす様に更に前進して来る。

 

 

「もうちょいだよ~、各車榴弾装填…そうそうそのまま寄っといで~♪」

 

 

 AP-Girlsが超えた泥濘に大洗の中軸を固めるレオポンとカバさんが完全に進入したその瞬間、ラブが会心の笑みを浮かべると同時に砲撃命令を下す。

 

 

「今よ!撃て!」

 

 

 5両のⅢ号J型から放たれた榴弾は前進する大洗の鼻先に弾着し、盛大に撒き散らした土塊がレオポンとカバさんに降り掛かった。

 

 

「うわっとぉ!」

 

 

 驚きの声と共にツチヤはレオポンを急停車させ、隣にいたカバさんも同様に停車して反撃体勢を取ろうとしているが、降り注ぐ土砂がその視界を塞ぐ。

 

 

「うお!どうなってる?前が見えんぜよ!」

 

 

 降り積もった土砂でバイザーを塞がれたおりょうが焦って声を上げる。

 その後ろにいてコマンダーキューポラから身を晒していたみほだけが、もろに土塊の洗礼を受け泥に塗れたが視線を逸らす事無くLove Gun上で笑みを浮かべるラブを睨み付けていた。

 しかし睨み付けられているラブもそれで視線を逸らす処か、増々嬉しそうな顔になるとみほに向かいたわわな胸に右手を当てると大仰に一礼しついでとばかりに投げキスまで決めて見せると、そのまま一気にAP-Girlsを引き連れゴルフ場から逃走して行った。

 

 

「いい様にやられてしまいましたね西住殿……」

 

「ああいう時のラブお姉ちゃんの笑顔ってホント腹立つのよ……とにかく態勢を立て直して追撃を再開します。ここではもう仕掛けて来ないと思うけど警戒しつつ前進を開始して下さい」

 

「その前に泥を落とさないと前が全然見えないぜよ……」

 

 

 おりょうがⅢ突の操縦手席のバイザーの前に降り積もった泥をぶつくさ言いながら払い除け、更にバイザー自体にこびり付いた泥を手拭いで拭っている。

 その間に他の車両も被害状況を確認したものの、幸いピンポイント砲撃を受けて凹んだレオポンの正面装甲以外はさしたる損害も無く追撃には問題が無い様だった。

 

 

「で?どんな様子なのよラブ姉?」

 

「ん~、まだ動かないからわかんな~い」

 

 

 逃走したと見せ掛けてゴルフ場を出て直ぐにLove Gunを止めたラブは、図々しくも徒歩でゴルフ場に舞い戻り、今は柵の外から単眼スコープでみほ達の様子を窺っていた。

 一人だと余計な事をしそうなのでお目付け役として同行して来た瑠伽は、相変わらずな図々しさを発揮しているラブを呆れた目で見ながら一応はラブに様子を聞いてはみたものの、返って来る返事は凡そ偵察行動の結果を報告するものとは思えない。

 

 

「わかんな~いって子供じゃないんだからさ…子供か…おっぱい以外は……」

 

「ど~いう意味よ~?」

 

「そのまんまよ」

 

「Boooo!あ、動いた……上手く行くかな?」

 

 

 点検を終えたみほ達はAP-Girlsの追撃を再開すべく再び各車に乗り込んだが、この段階で未だラブの仕掛けた最初のトラップの真の意味には気付いてはいないのだった。

 

 

「それでは追撃を開始します!パンツァー・フォー!」

 

 

 各車のエンジンが唸りを上げまずカバさんチームが動きだしその隣のレオポンも動き出すかに見えたが、ここで遂にラブの仕掛けたトラップが発動する事となる。

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 ツチヤの操縦で動き出し掛けたレオポンだったが突然履帯が虚しく空転し、その場から動く事なくズブズブと沈みながら泥を後方に撒き散らすだけであった。

 

 

「ヤバい!お~いツチヤ!ストップストップぅ!」

 

 

 異変にいち早く気付いたナカジマが声を上げるもひと足遅く、レオポンのエンジンが鈍い音と共に煙を上げ始めてしまいエンジンカットした時には既に火も出始めていた。

 慌ててナカジマが消火し幸い白旗は揚がらなかったものの、これではいくら自動車部でも直ぐにレオポンを動かす事は出来なさそうな状態になっている。

 

 

「やってくれたわねラブお姉ちゃん…最初からこれを狙ってあんな遠回しな手を使ったんだね……」

 

 

 再び泥を浴びすっかり真っ黒になってしまったみほは、怒りに震えつつ吐き出す様にそう呟く。

 

 

「西住隊長、なんか色々ゴメンねぇ……」

 

「いいの…それもこれもラブお姉ちゃんと、それに気が付かなかった私が悪かったんだから……」

 

 

 何とか気持ちを落ち着けつつ、済まなそうに頭を掻きながら詫びるナカジマに対しそうは言ったものの、こんな下らない事を仕掛けるラブとそれに引っ掛かった自分に怒りMAXなのは明らかだ。

 

 

「ナカジマさん、修理にはどれ位時間が掛かりそうですか?」

 

「う~ん、開けてみない事には解らないけど最低で30分は掛かるかなぁ?それより問題なのは例え直っても自力でここを出るのは無理っぽいし、かといって待たせる訳にもいかないしねぇ……」

 

「それなら私達がここに残って脱出まで手伝うから、西住さんは一刻も早く厳島さん達を追って」

 

 

 悩むナカジマを前にそど子がそう進言するがみほも一瞬判断に迷う。

 

 

「議論したり悩んでいる時間は無い筈よ。これ以上時間を掛けたらまた厳島さんがどんな仕掛けをするか解らないじゃない。これ位の状態なら、修理後に私達が軽く引っ張れば出られると思うから西住さんは厳島さんを追うのよ」

 

「……解りました。それではカモさんチームにレオポンチームの援護をお任せして私達はAP-Girlsの追撃を再開します」

 

 

 ここまでの様子を柵越しに見ていたラブは満足な結果が得られたのか、にんまりと笑いながらも更に欲の深いセリフを吐いていた。

 

 

「や~♪ここまで見事に行くとは思わなかったわ。出来ればあれでレオポンがリタイアしてくれてたらもこの後楽だったのに惜しかったねぇ…それにしてもみほまで真っ黒になっちゃって、ちょっと可哀想な事しちゃったかなぁ?でもみほのあの顔見てよ、アレはマジ切れしてる顔よ~♪」

 

「ほんっとつくづく底意地の悪いおっぱいだよ…ほら!もう行くよ!折角厄介なポルシェティーガー足止めしたんだから時間無駄にしないの!」

 

「え~?もうちょっと見たい~」

 

「やかましい!見つかる前にとっとと行くの!」

 

「あ~!痛い!耳引っ張らないで~!」

 

 

 瑠伽に耳を引っ張られて文句を言いながらLove Gunに連行されるラブ。

 その姿は観戦エリアの大型モニターにも写っており、一般観戦客からは笑いも起こっている。

 

 

「アイツのあの図々しさは一体何処から来るんだ?」

 

「私に聞かれても困る…それにしてもさっきからあっちの方が妙に騒がしいな」

 

 

 毎度の事ながら戦闘中だろうがお構い無しに発揮されるラブのふざけた行動に、心底呆れたという様な声のアンチョビの言葉にまほはそう返したが、試合開始後から時々妙なテンションで騒ぐ声が聞こえており気になっていたまほは思わず立ち上がり騒ぎの元を確認すると──。

 

 

「菊代菊代!あれ見た!?みほが泥で真っ黒よ!小さな頃を思い出すわ!」

 

「ええ、左様で御座いますねぇ」

 

「お母様!?それに菊代さんまで……!?」

 

『あ……』

 

 

 その時12月の大洗にしては妙にぬる~い風が観戦スタンドを吹き抜けて行った。

 

 

 




Ⅲ号にポルシェティーガーの相手は荷が重いですね…。

それにしてもしほさんと菊代さんは大洗まで何しに来たんだ?

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