ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回はキャプテンが陥落♡


第二十一話   女帝円舞曲

「あ……じゃありません!こんな処で二人して何をやっているんですか!?」

 

 

 大洗対笠女の試合を観戦中妙に騒がしい観戦客が気になったまほは、立ち上がりその騒がしい方を見てみれば、その騒がしさの元凶が西住流家元であり己が母親でもある西住しほと、西住家にまほとみほの幼少期から仕える女中頭の菊代である事に気付いてしまった。

 

 

「まほ、何をやっているとはご挨拶ですね。西住流家元として西住流対厳島流の試合を見届けるのは当然の事でしょう?」

 

『一時はみほを破門&勘当しようとしてたのは誰やねん?』

 

 

 思わず全員が心の中でそう突っ込む。

 

 

「大体その恥かしい恰好は何ですか?悪目立ちするにも程があります。菊代さんも菊代さんです、あまり面白がってお母様を焚き付けて野放しにしないで頂きたい」

 

「まあそんな人の事を悪の黒幕みたいに、ほっほっほ♪」

 

『違うのか?』

 

「菊代さん!とにかくお二人共そんな怪しい恰好でそこで騒がれたら周りにも迷惑ですから早くこちらに来て下さい…という訳で済まない、みんな少しずつ詰めて二人がこっちに座れる様にしてくれないだろうか?」

 

 

 幸い強豪校の隊長格クラスがズラッと揃っていた為、周りも気後れしてスペースに余裕があったので、しほと菊代の二人を座らせてもさほど狭苦しい状態にはならなかった。

 

 

「家元、先日は御世話になりました」

 

「隊長服を着ていると見違えるわね千代美さん、とても凛々しく見えるわ」

 

「いえ、それ程でも」

 

「だから何で当然の様に安斎の隣に座るのですかお母様!」

 

『何だこの展開は?』

 

 

 全員の心の突っ込みは止まらない。

 

 

「まほ、いつまでそうして突っ立っているのですか?周りにもご迷惑でしょう。ほら、みほ達が動き始めましたよ?早く座りなさい」

 

「全く!一体誰のせいで……」

 

 

 ブツブツと文句を言いながらしほの座る反対隣りを空けて貰い、どうにかアンチョビの隣に座ったまほだが、すっかり打ち解けて会話を交わすアンチョビとしほに内心気が気ではない。

 周囲の者が生温い視線でまほ達を見守る中も試合は再び動き始める。

 レオポンチームのアシストをカモさんチームに任せたみほ達が、ラブを追うべくゴルフ場を出ようとしていた頃そのラブもまたAP-Girlsに合流していた。

 

 

「さ~て虎狩りはまずまずの成果を上げたから次はどうするかねぇ?」

 

「また行き当たりばったりかよ」

 

「失礼ね~、そんな訳無いじゃない」

 

「違うのかよ?」

 

「Booo!」

 

 

 仏頂面の夏妃に突っ込まれ頬を膨らますラブ。

 ゴルフ場を出た後のAP-Girlsが集結しているのは、エキシビジョンマッチの際にもみほ達が市街地に雪崩れ込んだポイントのスーパーがある東光台南の交差点で、ラブの指示で今もゴルフ場から僅か300m程のその場でみほ達が追い掛けて来るのを待つという図々しさを発揮していた。

 

 

「私だってちゃんと考えてあるわよ。厄介さの順番で言ったらやっぱりアヒルさんを狩るべきね、あの暴れっぷりは最初に叩いておかないと後々後悔する事になるわ」

 

 

 対戦前に可能な限りの映像資料を徹底的に検証した結論として、試合が大きく動く切っ掛けを作る事が多いアヒルさんチームをラブも当初から危険視しており、倒す相手の優先順位の中でもアヒルさんチームは最初からその上位にランクされていたのだ。

 ラブ達の様な経験者からしてみれば、素人集団である大洗の中に在ってなおかつ低スペックな八九式などという凡そ最も乗りたくないシロモノで、あれだけの戦果を残しているアヒルさんの様なチームは一番厄介な存在といえるだろう。

 どんな世界にもアヒルさんチームの様にやたら引きの強い者は存在するが、経験値の少なさ故に何をするか読めない分、余計にラブの様なその道のエキスパートにとっては恐ろしい相手なのだ。

 

 

「とにかくここから大洗駅経由で海に出るルートで、引き摺り回して一枚ずつ戦力を削ぎ落として行くからね。その間は今回の課題をこなすようみんな頑張るんだよ、期待してるからね。私に最高のパフォーマンスを見せてよ♪」

 

 

 実に魅力的な笑みを浮かべながらラブにそう言われると、例えどんなに疲れていようがその状況が窮地であろうがAP-Girlsの少女達は実力以上の力を発揮する。

 彼女達にとってその笑顔は一種の魔法の呪文であり何にも変え難い宝物なのだ。

 

 

「ラブ姉、みほさん達出て来たわよ」

 

「お~、やっと出て来たかぁ。それじゃ早速歓迎しなきゃね~♪」

 

 

 嬉しそうにそう言うと、ラブは例によって校名入り拡声器をその手に取る。

 

 

「こういう時は普通一発お見舞いするもんじゃないの?って、聞いちゃいないわね」

 

 

 サイドハッチから顔を出し、嬉々として手にした拡声器を構えたラブを見上げながらLove Gun砲手である瑠伽が突っ込んだその瞬間──。

 

 

 

 

 

 ズドン!

 

 

 

 

 

 あんこうから撃ち出された徹甲弾がLove Gunを掠め、その先にある東光台南の表示の付いた信号機の柱を真っ二つにへし折った。

 300m離れた場所からラブが拡声器を構えたのを目敏く見付けたみほは、再び華を砲手席から押し退けると速攻でラブ目掛けて徹甲弾をぶっ放したらしい。

 

 

「うっは~♪あの子どんな視力してるのよ~?」

 

「だから徹甲弾撃ち込まれて喜ぶなこの変態!」

 

「いやあ──」

 

「だから褒めてない」

 

 

 徹甲弾が飛んで来る状況下でも一向に緊張感の欠片も無いラブだが、もう一方のあんこう車内にはみほから放出された殺気が満ち溢れていた。

 

 

「フーッ、フーッ……」

 

「みほさん……」

 

「……メだ…一刻も早くあの邪悪なおっぱいの息の根を止めねば私の将来が…エリカさんとのラブラブな未来がダメにされてしまう……」

 

 

 照準器を覗き込んだまま、狂気に瞳を輝かせながらブツブツと呪文の様に何やら呟き続けるみほ。

 

 

「五十鈴殿、西住殿は厳島殿に一体どんな弱みを握られているのでありましょう?」

 

「さ、さあ……」

 

「私に弱みなんて何も無いもん!」

 

『ひぃ!』

 

「あ……と、とにかくAP-Girlsの追撃を再開します!パンツァー・フォー!」

 

 

 一瞬我を見失い掛けたものの、みほがすぐさま追撃の命令を下しAP-Girlsの追撃を始める大洗チームだったが、追われる側のラブはと云えば相変わらず能天気な口調でのんびり号令を出していた。

 

 

「それじゃみんな逃げるよ~♪取り敢えずは一列縦隊で行ってみよ~」

 

 

 ラブの号令は気が抜けているがAP-Girlsが組んだ一列縦隊は美しく、磯浜さくら坂通りを大洗駅方向に向け一斉に走り出し、大洗もあんこうを先頭にそれを追って走り出した。

 

 

「各車AP-Girlsの隊列の前方に榴弾で砲撃して下さい、向こうはこちらよりトップスピードが上なのでその行き脚を鈍らせます。華さんは速度が落ちた処で最後尾の車両に徹甲弾で砲撃を加えて下さい…攻撃開始!」

 

 

 先手を取るべくみほが攻撃命令を下し、あんこうを追走する後続車両が一斉に砲撃を始めた。

 放たれた5発の榴弾が先頭を走るLove Gunの前方に降り注ぐと、回避運動の為に隊列の行き脚がほんの一瞬だが鈍り、その一瞬を逃さずみほが華に砲撃命令を下す。

 

 

「今です!」

 

 

 華必殺の一撃が放たれ、隊列最後尾を走る鈴鹿が車長を務めるブラック・ハーツを背後から貫く。

 完璧に決まった、誰もがそう思う程の一撃であった。

 だがしかし吸い込まれる様にブラック・ハーツ目掛け襲い掛かった徹甲弾は、まさに直撃するその瞬間に獲物を見失いその先にあるC●c●'sに飛び込み店舗を半壊させてしまう。

 

 

「そんな!?」

 

 

 驚愕の表情で目を見開く華にもこれは仕留めたとの自信があった。

 だが目の前の現実がそれを脆くも突き崩す。

 

 

「ああ、アレだよ。アレが笠女学園艦でのペイント弾戦のDVDで何度か見た光景だ。あの理不尽なまでに突発的な加速力、あれ無くしてあの状況での回避はあり得ない。ラブも認める様に相当高いレベルでのチューンが施されているのだろうが、私が映像で見ていてそうでなければ辻褄が合わないと感じた部分だよ。多分スコープの狭い視界だと、瞬時にターゲットが消えた様にしか見えないんじゃないかな?そうだ、アッサムは体感したばかりだろう、実際どんな感じだったんだ?」

 

「ええ…消えるわね、アンチョビの言う通りよ」

 

 

 多くは語らないがアッサムはアンチョビの言う事を肯定する。

 確実に仕留めたと思う場面であっさりと躱されるのは砲手とすれば堪ったものではないだろう。

 

 

「やはりそう感じるか、だがあの加速力とトップスピードも常にそれを維持してる訳じゃない。見てれば解るがここ一番という時にしか使わないんだ。いくらハイレベルなチューンがなされているといってもやはり限界はある、おそらくは通常時は使用制限を掛けているんだろうな。それでああいう場面のみ、云わばレッドゾーンに叩き込んで難を逃れたり相手に肉薄したりするんだろう。ほら、アレだ、ダージリンのトコのローズヒップが得意なリミッター外しちゃいますわよってヤツだな」

 

 

 アンチョビはそこでダージリンの方を見てニヤリと笑うが、ダージリンは面白くなさそうにフンっと鼻を鳴らしそっぽを向いてしまう。

 

 

「しかしあのⅢ号は所謂リミッター外しが無くても速いのに変わりはないけどなぁ…ラブのヤツは昔から車両に求めるクオリティが恐ろしく高かったけど、あのⅢ号はあの頃の比じゃないな。あれはもうバケモノと言っていいレベルにあると思うよ。全体のセッティングが相当ピーキーな様だから、乗れと言われてハイ分かりましたで乗れるシロモノじゃないと思うぞ。少なくとも昨日今日始めたレベルの人間じゃ真っ直ぐ走るのもままならないんじゃないかな?」

 

「千代美さん、実に素晴らしいわ、あなたは本当によく見ていますね」

 

 

 しほは娘達にも滅多に見せた事が無い様な笑みを浮かべながら、アンチョビの艶のある緑髪を慈しむ様にいい子いい子する様に撫で始めた。

 

 

「お、お褒めに預かり恐縮です……」

 

「ああ!何をやっているんですかお母様!?」

 

 

 まほはアンチョビの髪を撫でるしほの手を払い除けると、親子で火花を散らしながら無言の掴み合いを始め間に挟まれたアンチョビは両側から胸部重装甲の挟撃を受ける事になった。

 

 

「うひゃあぁぁぁ!」

 

『馬鹿親子……』

 

 

 みほの試合そっちのけで始まった西住流の内紛を一同は只々呆れた目で見る。

 そんなスタンドの静かなバカ騒ぎを余所に試合の方は更にハイスピード化しているのだった。

 C●c●'s前で華の一撃を躱した後も、AP-Girlsは大洗からの砲撃を余裕で躱しながら大洗駅に向う直線道路を一気に走り抜け、大洗駅入口交差点に到達すると左折してようこそ通りを進んで行く。

 

 

「さて、みほもどの辺で気付くかしらねぇ?」

 

 

 先頭を走るLove Gunのコマンダーキューポラ上で、美しい深紅の髪を走行風に靡かせながらラブは時々振り返り自分を睨み追走して来るみほの様子を確認している。

 

 

「次辺りで気付くかしら…?よし、見えて来たね、ゆっくら健康館北の交差点を左だよ!」

 

 

 ラブは咽頭マイクを押えて後続各車に指示を出すと、5両のⅢ号J型は再び大洗を引き離す様に増速し、その勢いのまま次々に目当ての交差点を左折して行く。

 それを猛追するあんこうの車内で操縦手の麻子が淡々と操縦しながらも、さっきから気になっていた事をみほに聞いて来た。

 

 

「西住さん、私はこのルートはつい最近走った気がするのだが気のせいだろうか?」

 

「うん…エキシビジョンの時に通ったよね…ラブお姉ちゃんどういうつもり?エキシビジョンの時のルートをトレースして一体何をしようとしているの?」

 

 

 ここに来るまでも双方散発的に撃ち合っているが撃っても躱される大洗に対し、AP-Girlsの方は明らかに威嚇程度の砲撃に留めている様で、結局双方共に行進間射撃で周囲の家屋を破壊しながら走り回っているのに近い状態であった。

 しかもトップスピードにバラつきのある大洗側は隊列が伸び始め、一番足の遅いアヒルさんチームは隊列から徐々に引き離され始めている。

 

 

「このまま行くとこの先左に曲がって元来た方角に戻った後、もう一度曲がって磯前神社から大洗海岸に向かうはず…こちらあんこう、カメさんとカバさんとアリクイさんはこのまま大洗鳥居下の交差点に向かって包囲陣を構築して下さい!現在AP-Girlsはエキシビジョンで使ったルートをトレースしています、先回りして飛び出して来た処を叩いて下さい!」

 

『了解!』

 

「みぽりん!AP-Girlsが左に曲がったよ!」

 

 

 AP-Girlsの5両はエキシビジョンの際ローズヒップが『形勢逆転ですわ』と叫んだポイントを隊列を維持したまま一気に左折して行く。

 

 

「やっぱり…磯辺さん!アヒルさんは先回りして割烹旅館の手前で待機、Love Gunが目の前に来たら、その足元狙いで攻撃して下さい!おそらくあのポイントはドリフトで一気に抜けようとするでしょうから、先頭のLove Gunのバランスを崩せれば後続も巻き込んで相当ダメージを与えられるはずです!」

 

『了解!行くぞ!バレー部ファイト~!』

 

 

 典子の掛け声に合わせ雄叫びを上げるとアヒルさんも隊列を離れ走り去って行った。

 

 

「うん、みほもやっと気が付いて動き出したみたいねぇ…お~い鈴鹿、大洗は今付いて来てるの何両になってるか解る~?」

 

『なんか一気に減ってⅣ号とM3だけになってるわ』

 

「おっけ~解った~!みほが気付いたとなるとそうだねぇ…会長さんのカメさんとたかちゃんのカバさんにアリクイさんを大洗海岸の辺りで待ち伏せさせるのが順当よねぇ……それでアヒルさんも消えたとなるとう~ん…ここまでよく付いて来たけどあの足の遅さを考えると一番近い待ち伏せポイントはあそこか…狙いが解ってれば躱せるけど丁度いい、逆に利用させて貰ってあの厄介な空飛ぶアヒルさんを撃ち落とすとするか。と、なるとやっぱり敬意を表して私がお相手しなくちゃね♪」

 

 

 互いに手の内を読み合ううちに、隊列はようこそ通りと並走する短い直線を抜け若見屋交差点に到達し、右折すると大洗初の練習試合での聖グロのマチルダやエキシビジョンの際にはプラウダのクラーラと聖グロのローズヒップが突っ込んだ、あの割烹旅館に向かう直線道路に侵入した。

 

 

「お~い愛、割烹旅館のドリフトポイント手前の交差点の辺りでピンク・ハーツと先頭変わるよ~。Love Gunは殿に付いて隠れてるアヒルさんを狩るからね、各車ドリフト移行直後に割烹旅館手前右角の店舗を徹甲弾で一斉砲撃、隠れてるアヒルさんに牽制入れるよ~♪」

 

 

 ラブが指示を出し暫くすると目標とする交差点が近付いて来る。

 

 

「よ~し、行くよ~♪鈴鹿、スモーク!」

 

 

 最後尾のブラック・ハーツから噴き出したいつものピンクのスモークが、瞬間的に追走するあんこうとウサギさんの視界を奪う。

 

 

「え?ラブお姉ちゃん何をする気!?」

 

「うおぅ、西住さん何も見えんぞ」

 

「西住隊長!?」

 

 

 スモークが視界を奪ったのはほんの一瞬であったが、ラブにとってはその一瞬で充分だった。

 

 

「ポジションチェンジ!瑠伽!砲塔旋回!」

 

 

 隊列からLove Gunが横にスライドするとあっと言う間に後続が追い越し、愛のピンク・ハーツが先頭に立ちLove Gunが最後尾に付ける。

 そしてピンクのスモークからあんこうとウサギさんが抜け出た頃にはLove Gunの砲塔も180度旋回を終えコマンダーキューポラ上でラブが不敵な笑みを浮かべみほを見据えていた。

 

 

「ケホケホ…Love Gunが最後尾にいる!?」

 

 

 みほがそれに気付いた瞬間5両のⅢ号J型はそのハイスピードを維持したままドリフトの体勢に移行、アスファルト上に一斉に火花を散らしながらコーナーに突入して行く。

 そしてドリフト状態にありながらも、砲塔はラブの指定した割烹旅館手前右角の店舗を指向しておりラブの号令と同時に4門の長砲身50㎜が火を噴き建物を貫きアヒルさんチームに襲い掛かる。

 

 

「うわぁ!?なんだなんだぁ!?」

 

 

 突如降り掛かる瓦礫にアヒルさんの車長である典子が驚きの声を上げ、その眼前に一気にAP-Girlsがピタリと張り付いた状態で滑り込んで来た。

 

 

「いやったぁー!ってアレ?」

 

「またかよ、ってアレ?」

 

「オマエの所ばかり羨ましい、ってアレ?」

 

 

 いつもの3人がいつもの展開を期待した目の前で、観戦エリアの大型モニターの中をAP-Girlsが驚異的なスピードのドリフト5重連で鮮やかにコーナーを駆け抜けて行く。

 

 

「え?何でLove Gunが最後尾に!?う、撃てぇ!」

 

「ハイ!」

 

 

 典子の命令に砲手のあけびが即座に反応、九〇式57㎜が火を噴く。

 受けた攻撃の揺れが収まらぬ中、咄嗟に撃った砲撃ながら驚いた事にこの一撃はLove Gunの砲塔に直撃したのだが、これは防盾が弾き砲弾はあさっての方向に飛んで家屋を破壊して終わった。

 逆にあけびが一撃を放つのと同時にLove Gun砲手の瑠伽が放った一撃は、あっさりと八九式の正面装甲を貫通、この一撃でアヒルさんチームの対笠女戦が終了した。

 だがLove Gunが徹甲弾を放つその瞬間、攻撃命令と同時にラブが典子に向け放ったウィンクと投げキスが典子のハートも貫通しており、砲塔上の典子は走り去るLove Gunを頬を染め瞳をハートにしてぽ~っと蕩けた表情になって見つめている。

 

 

「カッコいい……♡」

 

「ぐぬぬ…おのれラブお姉ちゃん、とうとう磯辺さんまで毒牙に掛けて!」

 

 

 追走するあんこう上から一部始終を目撃したみほが、ギリギリと歯噛みをしながら前方を疾走するLove Gun上で、砲塔をこちらに向けたまま挑発的に微笑むラブに向け絞り出す様にそう呟く。

 

 

「西住どのぉ……」

 

「さすがにそれは少し違うのでは?」

 

 

 優花里と華がそうは言ったものの、みほの耳にはどうやら届いていない様だ。

 観戦エリアでもこの試合最初の白旗が地元大洗のアヒルさんとなった事に落胆の声が上がる。

 だがアヒルさんを撃破しみほの目の前を笑みを浮かべ疾走するラブは、歯噛みするみほとは大きく異なった感想をその心の中で呟いていた。

 

 

『いやぁ驚いたわぁ、アヒルさんの砲手はあけびちゃんって言ったっけ?あの状況からよく当てて来たもんねぇ、後々の事考えたらやっぱりあそこでアヒルさん撃ち落とせたのは大きいわぁ』

 

 

 そんなラブの胸中など知らぬみほはラブを睨み付けながら必死の追走を続けている。

 

 

「みぽりんアヒルさんチーム全員無事だって!」

 

「……!アヒルさん誰も怪我しなかったですね!?」

 

『西住隊長ゴメン!指示通りに出来なかった!』

 

「いえ!私こそごめんなさい!完全に手を読まれていました!」

 

 

 リタイアこそしていないものの未だ戦線復帰出来ないレオポンと、そのバックアップに回り足止めされているカモさん、そして遂にラブの策略にまんまと嵌りアヒルさんを撃破されてしまう。

 ここまではほぼラブの思惑通りに戦力を削ぎ落とされ、現状数の上では同数となり火力面ではAP-Girlsを上回っているが相手がラブである事を考えるとみほは不安を拭う事が出来ない。

 しかも元々身内のみ少人数で構成されていた特性上、少数精鋭の単騎駆けが基本の厳島流であるのだが、今回に限ってはラブが戦力を分散させる事無く隊列行動を取り続けるので、みほもその作戦意図を掴み兼ね焦りばかりが先に立っているのだった。

 

 

『ここまでの動きは大体エキシビジョンマッチの流れをなぞっている、それは解る…でもそれに何の意味があるの?そして何故隊列行動を続けるのかそれが解らない……私達が分散した今単騎駆けに出られたら対応し切れないのも解っているはずなのにそれもせず…何故なの?ラブお姉ちゃん……』

 

「みぽりん!また厳島さんが先頭に出るみたいだよ!」

 

 

 ほんの一瞬自身の思考の中に沈んでいたみほも沙織の声で我に返る。

 みほの目の前でLove Gunが隊列から外れると前の4両が一瞬同時に減速し、その間に一気にLove Gunが加速し何事も無かった様に隊列の先頭に戻っていた。

 ゴルフ場でのピンポイント砲撃の際もそうであったが、AP-Girlsが隊形を組み替える速度は恐ろしく速く気が付いた時には既に隊形が変わっている。

 こうした一つ一つの積み重ねが今のみほにはプレッシャーの蓄積にしかならず、その重圧を振り払う様に思わずみほは大きく首を左右に振ってしまう。

 しかしみほのこの苦しい状況を払拭する明るい知らせが無線から舞い込んで来た。

 

 

『西住さん、待たせたわね。レオポンの修理も終わって泥濘からの脱出にも成功したわ』

 

 

 レオポンを牽引すべくゴルフ場に留まっていたカモさんチームのそど子が、レオポンとカモさんの戦線復帰の知らせを無線でもたらしたのだ。

 

 

「良かった!それでレオポンとカモさんは今何処にいますか?」

 

『無線はずっと聞いていたから会長達のいる大洗鳥居下の交差点に向かっているわ』

 

「了解しました!」

 

 

 もたらされた朗報にみほの表情も明るさをを取り戻し、その思考にも余裕が出来この後の展開を考えられる様にもなって来る。

 

 

『ここまでの動きから最終的にアクアワールドまで行くつもりなのは私にも解る…幸いまだラブお姉ちゃんにはレオポンとカモさんが戦線復帰したのは知られていない……ならば!』

 

 

 みほは思い付いた手を実行すべく咽頭マイクに手を当てた。

 

 

「レオポンチームとカモさんチームは待ち伏せ部隊に加わらずに、そのまま大洗海岸通りをアクアワールド方向に進んで下さい!」

 

『西住さんどういう事?』

 

 

 即座にそど子から帰って来た質問にみほも即座に応答した。

 

 

「ハイ、幸いAP-Girlsはまだレオポンとカモさんが戦線に復帰した事を知りません。そしてその行動は明らかにエキシビジョンのルートをトレースしています。なのでレオポンとカモさんには先行して罠を張って貰いたいと思います」

 

『成る程、それで具体的にはどうすればいいのかしら?』

 

「大洗海岸通りをアクアワールド方向に行くと町の観光情報センターがあって、その向かいの駐車場から海岸に進入出来ます。履帯痕で待ち伏せの存在を気取られない様にそちらから侵入して下さい。海岸に入ったら神磯の岩場にハルダウンして、AP-Girlsに対して待ち伏せ攻撃をお願いします。あそこなら手前が狭くなるのであの攻撃陣形も取り難く、いくらAP-Girlsでもそうそう自由には動けなくなると思いますから」

 

『分かったわ!レオポンとカモさんはこのまま神磯に急行するわね!』

 

「お願いします!」

 

 

 アヒルさんを失ってしまったのは痛かったが、レオポンとカモさんが復帰した事でみほの表情から硬さが消え、とっさの作戦立案も普段通りのみほに戻った様だ。

 

 

「でも一番の問題は如何に確実にラブお姉ちゃん達を、大洗海岸のキルゾーンに向かわせるかがポイントになるか…会長さん!レオポンとカモさんはもう大洗鳥居下の交差点を通過しましたか?」

 

『あ~、西住ちゃんちょっと前にもう目の前すっ飛んで行ったよ~』

 

「分かりました、そうしたら私がさっき撃ち抜いた大鳥居を完全に破壊して、念の為に大洗海岸通りへのルートを封鎖して下さい。それが終わったらカメさんとカバさんとアリクイさんは磯浜さくら坂通り側で待機、AP-Girlsが現れたら大洗海岸側に行く様牽制の攻撃をお願いします!」

 

『ハイハイ~♪了解だよ』

 

「梓さん!」

 

『はい、何でしょう西住隊長?』

 

「ウサギさんチームはあんこうと一緒に大洗鳥居下の交差点を右折したら、AP-Girlsがサンビーチ通り方向へ逃げない様牽制の砲撃を加えて確実に海岸に向かう様にして下さい!」

 

『了解しました!』

 

 

 打つべき手を打ったみほはエキシビジョンマッチで通ったルートをなぞる様に、そのまま深紅の髪を靡かせ疾走するラブの背中を見据える。

 

 

『西住さん、レオポンとカモさんは配置に付いたわよ!』

 

『あ~、こっちも鳥居を倒して封鎖完了、3両共今配置に付いたからね~』

 

「了解しました!それではそのままAP-Girls到達まで待機して下さい!」

 

 

 無線交信を終えたみほは再びラブの背中を見ながら心の中で呟く。

 

 

『ラブお姉ちゃん、これで決着を付けるからね……』

 

 

 




戦闘は熱を帯びて来るのに冒頭からいきなりポンコツ回、
いくらAP-Girlsがカッコ良く決めても家元がそれを台無しにするこの展開…。
戦闘は次回が最大の山場になると思います。

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