しかしこの大洗戦はシリーズ最大の難産回となりました。
ほんと何回書き直したか自分でも解りません。
みほの目の前をLove Gunのコマンダーキューポラ上で深紅の髪を颯爽と靡かせラブが行く。
ラブの計略により一時は戦線離脱を余儀なくされたレオポンとそのヘルプに回っていたカモさんも戦線に復帰し、再び足場の悪い砂浜にレオポンを入れる事への不安はあったが、今は無事大洗海岸でAP-Girlsを迎え撃つべくハルダウンしている。
後は仲間と作戦の成功を信じ、AP-Girlsをキルゾーンに設定した大洗海岸に誘い込むのみだ。
「会長さん!間も無くAP-Girlsが大洗鳥居下の交差点に到達します!迎撃準備いいですか!?」
『こっちはいつでも行けるよ!』
「了解、宜しくお願いします!梓さん、右折後即AP-Girlsが大洗海岸に入る様牽制の射撃を開始、射撃タイミングは任意にそれぞれの判断で行います!行けますか?」
『大丈夫です!』
無線交信を終え前方に目をやると大洗鳥居下交差点はもう直ぐそこだが、本来なら見えてくるはずの大鳥居の姿は無く、無事杏達が倒壊させて大洗海岸通りへと続く道を封鎖した事が確認出来た。
『よ~し来たねぇ…攻撃開始!』
そしていよいよAP-Girlsが交差点に到達する直前無線から杏の声で攻撃命令が響き、それと同時に交差点に飛び込む先頭のLove Gunの足元狙いで砲撃を開始したカメさんとカバさんとアリクイさんが連続して発砲し砲声が轟くと、5両のⅢ号J型はドリフトで右折し大洗海岸の入り口に向かって行く。
更にその後方から交差点に入ったあんこうとウサギさんによる絶妙なタイミングの牽制射撃が決まった結果、AP-Girlsは車止めを薙ぎ倒し大洗海岸に雪崩れ込んで行くのだった。
「よし!このままAP-Girlsをキルゾーンに押し込みます!」
みほの号令と共にAP-Girlsの追撃を再開する大洗チーム。
海岸の砂浜に突入すると同時に大洗チームはAP-Girlsに対し背後からの砲撃を開始、遮蔽物の無い砂浜で次々とAP-Girlsに徹甲弾が襲い掛かる。
「あれ?今までとは本気度が違うわねぇ」
直近に次々と弾着し砂柱が立つ中、ラブはチラリと背後を確認するとみほの集中力がそれまでとは違う事を直感的に感じ取っていた。
「ん~、これはちょっとお相手しておかないとマズいかしら?」
海岸に入った直後再び一列縦隊を組もうとしたが、たて続けの砲撃に隊列を組むのが難しくラブもここで一度反撃に転じる事を考えざるを得なかった。
「お~い、ここでちょっとみほ達のお相手するよ~みんな自由にやっていいからね~♪」
ラブからの無線の声に各車の車長が一斉にニヤリと笑い、それを見回したラブもクスリと笑う。
「みんなお待ちかねだったんだねぇ…それじゃあ行くよ!踊れGirls!」
『Yeaaaah!』
絶叫と共に一斉にお得意の単騎駆けを始めたAP-Girlsだが、みほもまたここが決戦の場と覚悟を決めており冷静に無線でチーム全体に檄を飛ばす。
「皆さん落ち着いて相手をよく見て下さい!今まで以上に足場も悪く例えAP-Girlsでも機動性が落ちます!少しずつでいいから彼女達をキルゾーンに押し込みましょう!」
みほの気迫に呼応し大洗の各車の砲撃にも熱が入りジワジワとAP-Girlsを押し始めた。
実際砂浜ではさしものAP-Girlsでもその機動性が大幅にダウンする事は否めず、巧みに『食事時』の角度を取り有効打になる事は防いでいるが命中弾も出始めている。
「押されてるわね、ここらでそろそろウサギさんを狩っておいた方が良さそうだわ。展開的にうさぎさんが何かやらかす状況になって来てるもの」
「でもその前にヘッツァーが集中的にこっち狙って来てるけど?」
操縦手の香子が言う通り先程からカメさんが執拗にLove Gunに狙いを絞って砲撃を繰り返しており、既に2発程弾きはしたが命中弾が発生していた。
「うふふ♡会長さん約束守ってくれて嬉しいな♪」
「だから当てられて喜ぶな!このドMおっぱい!」
「なんか瑠伽って最近どんどん私に容赦無くなってない?」
「状況考えろって言ってんの!で、どーすんのよ?」
砲撃の合間に瑠伽がラブに対応をせっつくが、その間にも大洗の攻勢は続いている。
「そうね、まずは会長さんのヘッツァーからお相手しましょう。折角これだけ熱烈にラブコールしてくれてるのにお返事しないのは失礼だものね」
ラブがカメさんに狙いを定め攻撃に転じようとするも、やはり大洗側も全体でフラッグ車狙いの攻撃を行なう為、回避運動を取りつつの攻撃にならざるを得ずどうしても積極性には欠けている。
一方でみほの方も愛と鈴鹿の連携攻撃により中々ラブに対して攻撃を集中できず、双方フラッグ車が現状では決め手に欠く状況が続いていた。
それでも尚どうにか大洗が押しているのは、足場が悪くAP-Girlsの機動力が落ちている事と火力面で大洗側にアドバンテージがあるというのが大きかった。
本来アクアワールド方面へ進もうとしてはいたものの、反撃に転じてからはジリジリと押される形でレオポンとカモさんの待ち構えるキルゾーンへと近付いて行く。
「次にヘッツァーが撃ったら一気に接近して近接戦闘に持ち込むよ!相手は固定砲身、懐に入れば即座には対応出来ない!横槍に注意しつつ速攻で行くよ!」
そう言った傍からカメさんがLove Gun目掛け撃ち込んで来て、これは寸での処で香子が反応し回避したので飛来した徹甲弾も虚しく砂柱を立てただけであったが、その狙いはラブ曰くノーコン片眼鏡とは違い極めて正確なものだ。
「ヨシ今よ!突っ込め香子!」
ラブの命と同時にカメさん目掛け突撃を敢行するLove Gunに対し、大洗側は不意を突かれ誰も即座には反応出来ず、その間に砲撃を加えつつ一気にその距離を詰められて行く。
「ありゃりゃ!?厳島ちゃん狙いをこっちに絞って来た!?か~しま~、装填急げ~!」
その間にも接近して来るLove Gunから放たれた徹甲弾が、カメさんの傾斜装甲を叩き斜めに跳弾した弾がエキシビジョンの際にKVたんが最初に破壊したホテルに再び直撃し、KVたんの152㎜程ではないにせよそれなりの穴を空けている。
弾いたとはいえ激しく揺さぶられた上派手な戦闘機動で接近して来るLove Gunに、お約束通りに桃が錯乱しお約束通りに悲鳴を上げた。
「うわぁぁ!かいちょ~!もうダメです!」
「か~しま、
「会長……」
いつもとは違う真面目な表情と諭す様な杏の口調に、桃もそれで口をつぐみ装填作業に没頭し始めると杏ふっと小さく笑い次の砲撃に備えスコープを覗きこむ。
「済まないね…一応約束だからね……それ!」
肉薄するLove Gun目掛け杏の掛け声と共にヘッツァーの75㎜が火を噴く。
襲い掛かる徹甲弾に操縦手の香子が右に微妙に車体をスライドさせると、砲塔左側面にヒットした徹甲弾は弾かれ海に飛び込み高く水柱を上げた。
ここでカメさんの援護にアリクイさんからの連続砲撃が加わり、ラブはやむなくLove Gunをドリフト旋回させるとカメさんに砂を浴びせつつ一旦距離を取るべく後退する。
「いいねぇ、会長さんの本気、確かに受け取ったわ♪」
ラブは振り返りつつ満面の笑みでカメさんに向け投げキスを送った。
「しかしあの三式の装填速度…ありゃ一体ナニ?」
最早鍛え過ぎて体力バカと化しているアリクイさんチームの実態をよく知らぬラブは、徹甲弾が飛び交い砂柱が次々立つ只中で腕組みしながら何か理不尽な気がして首を捻っている。
「こんな時に何やってんのよ、更に大洗の圧力上がってるよ!」
反撃の砲撃を行ないながら瑠伽がラブをどやし付けた。
ラブ達は未だ気付いていないが一進一退を繰り返しながらも、徐々にAP-Girlsはキルゾーンに向かって押し込まれつつあり大洗の攻勢は更に勢いを増している。
「フム、どうしたもんかねぇ?」
この期に及んでも尚のんきな事を言っているラブであるが、その思考は常に高速で回転しており全ての感覚を総動員で状況の把握は怠ってはいない。
「まあ確かに戦車道に関しちゃ恐ろしいまでに素人集団だけど、よくもまあこれだけ厄介な人材が揃ったものねぇ…しかも本当の強さは実際戦わなきゃ解んないんだからホント厄介だわぁ」
その戦いぶりはドタバタしていながらも、天然で要所を押えているので結果として収支が合っている大洗の様な存在は、戦車道を長くやっている者程対峙した時には苦労する事になる。
現に今もラブは凡そ一般的な戦車道の動きとはかけ離れた大洗の各車の動きに苦労しており、そういう意味では聖グロのダージリン相手の方が遥かに楽だと感じていた。
手をこまねいている訳ではないが決め手にも欠ける、そんな状況のまま戦闘エリアは遂にみほが設定したレオポンの88㎜が待ち受けるキルゾーンに到達する。
「今です!各車両翼に展開してAP-Girls後方に集中砲火!撃て!」
満を持して下されたみほの号令と共にレオポンの射線上を避けて左右に分かれた大洗チームから、AP-Girlsの退路を断つ様に後方に向け砲撃が始まると、それまでとは格が違う砲声が轟き撃ち出された必殺の88㎜がLove Gunに襲い掛かった。
だが砲声が轟いた瞬間のラブの反応も尋常ではなく、即下していた指示に操縦手の香子が回避機動を取っておりギリギリの処で飛来した徹甲弾は砲塔右側面を掠め、後方の砂浜に突き刺さり盛大に砂柱を立てるに留まっていた。
それでもLove Gunが受けた衝撃は凄まじく、ヒットした際には車内の搭乗員を激しくシェイクして、Love Gunの象徴でもある深紅のハートのパーソナルマークをごっそり削ぎ落としている。
「…クッ!……ポルシェティーガーが復活していたか…やるわね…みほ、即戦列に加えないで海岸に伏せさせるとは今日一番の出来じゃない。入口に履帯痕が無いからって油断した私のミスね」
レオポンの登場にAP-Girlsも即応し攻撃を仕掛けようとするが、88㎜を再装填する間の空白はカモさんチームが砲撃してフォローするので容易には近付く事が叶わない。
一気に形勢が不利になったと悟ったラブは、それでも尚口角を吊り上げると瞳に恐ろしいまでの好戦的な強い光を宿し、そのいっそ淫靡とも云える唇を開いた。
「今日はやる予定は無かったけど仕方ないわねぇ……Hey, girls! 」
それまでのぼやきの様な呟きから一転して鋭い声を上げるラブ。
「
ラブの様子が変わった事にみほに言い様の無い恐怖が芽生えた瞬間、ラブの口からAP-Girlsの最後の戒めを解く呪文が放たれる。
「
ラブの叫びにAP-Girlsのメンバー全員の目付きが豹変し、これまでの戦闘で見せた表情などとは比べ物にならぬ程の猛々しい表情となる。
各車のエンジンの回転数が狂った様に跳ね上がり、排気管から時折火を噴き弾かれた様に走り出す5両のⅢ号J型は文字通り箍が外れた様に暴れ出し大洗にとっては地獄の3分が始まった。
「クっ…!ラブお姉ちゃん一体何を始めたの!?」
突如暴れ始めたAP-Girlsにより防戦一方に追いやられ、肉薄して来たピンク・ハーツの砲撃により砲塔左側面のシュルツェンを吹き飛ばされた衝撃を堪えつつ、狂気の笑みを浮かべLove Gunで交戦エリアを蹂躙するかの様に駆け巡るラブに視線を向ける。
この状況の激変に観戦エリアの地元客からも悲鳴にも似た声が上がっていた。
「ラブにはまだこんな上があったのか……どうも全てのリミッターを解除したといった感じだな、戦車も…そして人も……」
「あれは
『え!?』
追い詰められた状況から一転して、ともすれば破れかぶれの様な攻勢に転じたラブを見たアンチョビの口から洩れた言葉にしほが静かに反応した。
その耳慣れない響きの言葉に全員がしほに顔を向け続く言葉に注目する。
「元来多勢に無勢、一対多数が基本の厳島流。その戦術の多くは相手に肉薄しての近接戦闘で相手の喉笛に喰らい付く様な激しいものです。その中に在ってあの嵐櫻は最も激しい戦闘機動と言えるでしょう、その機動の激しさから春の嵐に舞い散る桜に例え嵐櫻と名付けられたと聞き及びます。しかしこの嵐櫻は云わば諸刃の剣、絶対に諦める事をせぬ百折不撓を掲げる厳島に在って唯一後先考えぬ大技中の大技、恋が家元を襲名した以上いつか目にする日も来るかとは思っていましたが、今日ここで目にするとは夢にも思いませんでした。さてみほ、完全に本気の厳島相手にどう戦いますか?」
しほの目が全てを見定める家元の目になり一同揃って息を飲む。
「みほ……」
今日ここまで一言も発する事無く、みほの一挙手一投足に見入っていたエリカの口から初めて言葉が漏れその手は指先が白くなる程に握りしめられている。
「でも家元、あの限界までチューンされているⅢ号であれ程激しい機動を続けたら、そう長くは持たないのは目に見えていると思うのですが、その嵐櫻という戦法は短時間で追い詰められた戦況をどうにか出来る程のものなのでしょうか?」
アンチョビが誰もが一様に思った疑問をしほにぶつけた。
「私が見せて頂いた嵐櫻は、僅か5分の間にティーガーⅠが2両にパンターG型3両が葬り去られました。尤も最後はフラッグ車であるティーガーⅠと刺し違える形になりましたが」
「な…ティーガーⅠとパンターが!?お母様!ま、まさかその相手は!?」
「ええ、そうです西住流門下生のチームでした。あれは云わば厳島流による西住流への教導試合といってもいいでしょう、思考の硬直状態を感じた西住が厳島に依頼しての試合と後で聞きました」
「しかしお母様、そんな短時間にティーガーⅠを2両も倒してしまうとは、当時の家元様は一体何に乗っておられたのでしょう?」
「何を言っているのですかまほ、厳島の家元といえばパンターG型に決まっているでしょう?あなたも知っているはずですよ、高速機動が大前提の厳島にとって足の遅い重戦車は足枷以外の何ものでもなく、端からその選択肢に含まれない事を。それにそのパンターG型はあなたも…いえ、あなた達もよく知っている個体ですよ」
「え?何ですって──」
「Love Gun」
まほが問い返すのを遮る様に出たその名前に、まほの頭の中が一瞬空白になる。
「えぇ?Love Gunて…パンター……Love Gun…あ!」
「そう、恋が麻梨亜様の形見として受け継いだあのパンターです」
「そうだ!お母様!あのパンターは、あのLove Gunはあの後どうなったのでしょう?ラブもその事は何も言わなかったし、私達もラブと再会した事で頭がいっぱいで忘れていました」
「それは私にも解りません、亜梨亜様もそれに関しては何も話してはおられませんから」
「そうですか……」
まほ達がそう話す間も試合は急展開を見せ大洗が一気に窮地に立たされていた。
今の処みほの指示により互いにフォローし合い辛うじてAP-Girlsの苛烈に過ぎる攻撃を凌いではいるものの、それもいつまで持つか解らぬ程に大洗は追い詰められてしまっている。
そして遂に奮戦虚しくラブの発動した嵐櫻の前に最初の犠牲者が出る瞬間が訪れた。
驚異的な装填速度で応戦していたアリクイさんに、それまで別々に暴れていたイエロー・ハーツとブルーハーツが瞬間的に連携すると、一瞬の早業で側面に回り込み2両によるピンポイントの同時砲撃を敢行し、砲塔部に直撃を受けた三式はその受けた衝撃そのままに横転させられてしまった。
「に゛ゃ゛────!」
「アリクイさん!」
ねこにゃーの絶叫と共に横転した三式から白旗が揚がり、それを見てみほは叫んだ後に唇を噛締めイエロー・ハーツとブルーハーツに視線を奔らせるも、両車は既に次の獲物に襲い掛からんと別々に違う方向へと走り去っているのだった。
「まずいな~、この状況じゃここからは迂闊に撃てないよ」
岩場にハルダウンした状態でカモさんの援護を受けつつ砲撃を行なっていたレオポンチームだったが、突如暴れ出したAP-Girlsにより混戦状態になった為、自慢の88㎜も下手に撃てばフレンドリーファイアを引き起こしかねず、レオポンの車長であるナカジマも手を拱いていた。
『ナカジマさん、このままじゃ埒が明かないわ!私達も前進して隊長の援護をするわよ!』
カモさんチームも同様の状況に業を煮やし、そど子が前進して戦列に加わる事を提案して来た。
「そうだね~、このままじゃ確かにどうしようも無いもんねぇ…よし行こう」
ナカジマもそど子の提案に同意し、神磯の岩場の陰からまずカモさんが先行して交戦エリアに向かうべく姿を表すと、それを待っていたかの様に鈴鹿のブラック・ハーツが突如急襲し砲撃を加え始め、狭い岩場の間を通過中であったカモさんはろくな反撃も出来ぬうちに両の履帯を切られその場で擱座してしまい、後続のレオポンの進路を塞ぐ形になってしまった。
大洗チームの中ではレオポンに次ぐ正面装甲の厚さを誇るカモさんことルノーB1bis相手に、地形状況も考慮し即座に左右の履帯切りをする辺りは鈴鹿も相当に狡猾であると言えよう。
進路を塞がれてしまったレオポンもまた何とか神磯の岩場を乗り越えようとするも、元々足回りに難のあるポルシェティーガーにはリスクが高いとナカジマは判断し、元いたポジションに戻ると援護射撃に徹する事にしたが、敵味方が入り乱れた状況ではその援護射撃も極めて散発的なものとなり大洗側にとっては大幅な戦力ダウンとなってしまっていた。
この防戦一方且つ確実に戦力を削ぎ落とされる状況下に、みほも必死にLove Gunを倒そうと攻撃を試みるも、それは全て執拗なまでに絡んで来る愛のピンク・ハーツに尽く阻止されていた。
そしてそのラブはといえば現在はウサギさんとカバさんを翻弄しつつ、カメさんに狙いを絞り痛打を浴びせ続けヘッツァーの正面傾斜装甲をボコボコにしつつあり、何とかカメさんの援護しようと試みるウサギさんとカバさんもイエロー・ハーツとブルー・ハーツに邪魔をされ、このままではカメさんが撃破されてしまうのも時間の問題に思える状態にまで追い詰められている。
「厳島ちゃん容赦無いねぇ、わたしゃこれがいっぱいいっぱいだよ……」
杏も必死に応射を繰り返し桃も杏の様子に何かを感じ取ったのか、今は珍しく黙々と装填を続け柚子もまた致命弾を浴びぬ様操縦桿を動かし続け何とかラブの攻撃に耐え続けていた。
「いかんぜよ!完全にジリ貧ぜよ!」
「ううむ…確かにこのままではイギリス・ザンジバル戦争の酋長セイドの様に、一方的にやられて終わってしまう……」
『それだ!』
「えぇ!?いきなり!?」
おりょうに続きエルヴィンの口から洩れた呟きに、おりょうとカエサルと左衛門佐の三人は即座に同意の声を上げ、いつもの様にアレコレ意見が出ると思っていたエルヴィンも困惑する。
しかし実際問題カバさん操縦手のおりょうも何とか相手を射角に捉えようとするも、AP-Girlsの速い動きに対応出来ずナポリターンを繰り出そうにも助走距離も無く、まだ装甲は耐えているがたて続けに砲撃を喰らい続ければそれもいつまで持つか解らなかった。
「うわぁまた来た!一年なめんなぁ!」
『なめんなぁ!』
「ちょ!みんな落ち着いて!相手も同じ一年なんだから!」
ウサギさんチームもまた追い掛け回され何発も被弾してボコボコになっているものの、最近急速にその才能を開花させつつある梓の指揮とやれば出来る子桂利奈の操縦、それとこれはまだ経験の浅さ故時々飛びだす突飛な行動により辛うじて撃破を免れ戦い続けていた。
しかし今は波打ち際に追いやられ絶体絶命な状況になり梓の焦りもピークに達している。
「あははははは♪みんな凄いわ!大洗も、そしてAP-Girlsも!」
大乱闘と言っていいこの状況下に、ラブは只独り満面の笑みを浮かべ歓喜の声を上げている。
いっそ救い難いと言った方がしっくり来る程までに戦車道に魅入られ、激しい戦いの場に身を置く事に無情の喜びを感じ官能の声を上げる戦女神は、今間違い無くその場の全てを支配していた。
「ラスト1分!持てる全てを出し切りなさい!」
無線から響くラブの声にAP-Girlsの機動は更に激しさを増す。
そして事ここに至って遂にラブがみほに向かい牙を剥き一気に襲い掛かった。
「さあみほ!踊るわよ!最高のステップを見せて頂戴!」
「ラブお姉ちゃん!」
足場の悪さをものともせず驚異的なスピードで突撃するLove Gunと、麻子の超絶技巧により紙一重の差でそれを躱すあんこうが、交錯する瞬間接触した双方の車体から火花を散らす。
すれ違った直後にはほぼ同時にドリフト旋回をし、正対した瞬間に両車の主砲が火を噴きあんこうから放たれた徹甲弾がLove Gunの砲塔左側面を叩き激しく車体を揺らせば、Love Gunから放たれた徹甲弾は愛のピンク・ハーツに吹き飛ばされたのとは反対側のシュルツェンを削ぎ落とす。
しかしそれでもLove Gunとあんこうの両車は止まる事無く巴を描く様に動き続け、互いを睨み付け必殺の一撃を放つ一瞬の隙を窺っている。
張りつめきった空気の中、その一瞬の隙を先に見つけ勝負を決めるべく動いたのはラブであり、みほもその瞬間に己が敗北を悟る程に完璧なタイミングの機動であんこうの側面を取るLove Gun。
それは素人目にも明らかな逃れようの無い状況であり、観戦エリアで試合に見入る観戦客の口からもあんこうの敗北は決まったとばかりに落胆のため息が漏れる。
だが、誰もがそう思った瞬間にそれは起こった──。
波打ち際に追い詰められ右往左往していたウサギさんが切羽詰って海に向かって真っ直ぐ突っ込んだ瞬間、浅瀬で波が巻き姿の見えない岩に左の履帯が突っ込んだ勢いそのままに乗り上げると、頭でっかちなM3故一気に車体は右に傾くと右の履帯のみの片輪走行状態になり、追い詰めていたブルー・ハーツの夏妃が呆気に取られる目の前で横転する事無く極端に小さな弧を描き急速反転するとそのまま砂浜に再上陸して行く。
それはまるで大学選抜戦において、カール攻略の際に継続のBT-42が最後に見せた片輪での突撃の再現と言える様な光景であった。
「え!?なに!?」
「うわ~!引っ繰り返る~!」
突然の事にパニックになるウサギさんチーム、コマンダーキューポラ上の梓も転落すまいと必死にしがみ付き身体を支えながらも目を見開き状況把握に努めていた。
それは梓にとっては幸運であり、ラブにとっては不運としか言い様の無い偶然の積み重ねだったかもしれないが、傾いたまま急旋回したM3の前方、梓の視界に無防備なLove Gunの右側面が映る。
「…!あゆみ撃て!」
確かにそれは偶然に出来上がった状況だが、その時咄嗟に砲撃命令を下す事が出来た梓と傾いた車内でそれに反応してあゆみが砲撃を行なったのは間違い無く二人の実力であった。
M3の主砲から撃ち出された75㎜の鋭い楔はLove Gun右側面に突き刺さると、履帯と転輪を爆炎と共に粉砕し辺りに破片を撒き散らす。
「あれは…死角に入ったな……」
『え?』
「みんな忘れたのか?ラブの右目の事を……」
『!』
スタンド上でその場面を目撃した一同の中で、アンチョビが絞り出す様に言った言葉に全員がその場で硬直しそして言葉を失った。
アンチョビの言う通り、その瞬間ラブはその狭い視界の中からウサギさんをロストしていた。
その瞬間までラブは確かに視界の隅にウサギさんを捉えていたが、薄闇の中にぼんやりとした影しか見えない右目を左目のみでフォローするラブにとって、急速に傾き旋回したウサギさんは瞬間的に視界から消失した様にしか見えず、まして正面にあんこうを捉え攻撃命令を下さんとするタイミングではウサギさんに対応する事は不可能であったのだ。
「チッ……!」
右側面からの激しい衝撃に耐えながらラブは短く舌を鳴らし、ハーフスピンしたLove Gunが海の方を向いた瞬間初めて主砲から煙をたなびかせながら片輪走行を続けるウサギさんを視界に捉えた。
「クッ……」
やっと静止したLove Gun上で瞬間唇を噛締めるラブの横に揚がる白旗。
この瞬間にそのあまりに苛烈な戦いは実に呆気なくその幕を閉じたのだった。
『三笠女子学園フラッグ車走行不能──』
観戦エリアのスピーカーと全車の無線機の共用回線から審判長の亜美の試合終了を告げるコールが聞こえた瞬間、ラブ達の耳に盛大な黄色い絶叫が鳴り響いた。
『きゃ~!誰か止めて~!』
Love Gunに徹甲弾を撃ち込んだ後も、片輪走行のウサギさんは尚も止まらず再び旋回すると元来た方へそのまま走り去り、またもや海に突入してやっと止まったと思うと遂にそのまま横転し盛大に水柱を上げそれと共に梓達の悲鳴も上がる。
『きゃ~!冷た~い!』
「な…!いけない!」
そこまでウサギさんの曲芸走行を呆然と見送ってしまっていたラブだったが、梓達の悲鳴を聞いた瞬間Love Gunから飛び降りると冷たい冬の海に自身が濡れるのも厭わず飛び込んで行く。
「ちょっと!あなた達大丈夫!?早く出て!」
浅瀬とはいえ波により車内には海水がどんどん流れ込んで行き、ウサギさんチームのメンバー全員が既にずぶ濡れになっており、ラブはまず最初にコマンダーキューポラから梓を引っ張り出すと、残りのメンバーも次々車内から救出し急いで砂浜に全員を上がらせた。
「何がどうなったの~?」
「またメガネが……」
「うえぇしょっぱ!…ってアレ?厳島先輩?」
「梓しっかりして!頭打ったりしてないでしょうね!?」
もろに海水を飲んでしまい顔をしかめていた梓も、ここで漸く自分達がラブによってM3の中から助け出された事に気が付くのであった。
「え?あ、はい大丈夫です…でもなんで?その…試合は……?」
砂浜にへたり込んだままキョトンとした顔でそう聞く梓をラブは突然抱き締めた。
「うわぁ!い、厳島先輩一体何を!?」
「もう!あまり驚かせないでちょうだい……これが大洗の首狩り兎か…試合はあなた達の……いいえ、あなたの勝ちよ、梓」
ラブは梓の耳元でそう言うと、一層力強く梓の小さな身体を抱き締めるのだった。
大洗の場合決着を付けるとしたらこんな感じもありかなと…。
ウサギさんチームがやらかして勝負が決まるのは、
初期構想の段階から決まっていた結末ですが、
それがどういう形になるかまでは決まっておらずそこが苦労しました。
何か一つくらい技に名前があってもいいかと思ってやってみたけどどうでしょう?