ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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久し振りに発動するまほの朴念仁、アンチョビのナイショも気になる処。

そして禁断の……。




第二十三話   Dance With Anglerfish

「梓さん!」

 

 

 ラブが梓達を横転し海水が流れ込んだM3から引き摺りだし、全員が砂浜に上がり一息ついた処にみほを始め大洗の選手達も駆け寄って来た。

 

 

「みほ遅いぞ!黒森峰での自分の教訓を忘れたか!?」

 

「ご、ご免なさいラブお姉ちゃん…でもみんなの身体を拭く物を用意してたから……」

 

「まあいい…なら早く梓達を拭いてやれ、このままでは風邪をひく。愛!スーパースタリオンを緊急発進させろ!梓達の着替えの用意も忘れるな!」

 

「もう出させたわ、直ぐにここに来る……」

 

 

 いつもの無表情に抑揚の無い声でぶっきらぼうに愛がそう答えた瞬間には、爆音と共に笠女所有の大型輸送ヘリCH-53Eスーパースタリオンが、超低空で海面にダウンウォッシュ叩き付け水煙を立てながらラブ達の頭上に飛来し、パイロットは不安定な砂浜に大型ヘリのスーパースタリオンを苦も無く着陸させると乗員が即ウサギさんチームのメンバー達を手際良く搭乗させて行く。

 

 

「それじゃあ宜しく頼むわね!」

 

 

 梓達の搭乗が完了するとラブは機長にそう言い帰投させようとするが、愛がラブの手を無言で掴みスーパースタリオンまで引っ張って行くとそのまま機内に押し込もうとした。

 

 

「ちょっと愛!何のつもりよ?」

 

「……あなたも乗るの、自分の状態をよく見て。恋が風邪をひいたら周りが、特に私が大変なのよ」

 

 

 そう言うと愛はその小柄さからは想像も付かない様な押しの強さで、ラブを機内に向け更に押す。

 

 

「解ったわよ!解ったからそんな押さないで、って愛も来るの!?」

 

「恋一人じゃ着替えられないでしょうに」

 

 

 ラブが搭乗したのに続き愛もスルリと機内に滑り込んで来たのを見て、ラブは驚いて愛にそう言ったが返された言葉にグウの音も出ず仕方なく鈴鹿に向かい声を張り上げた。

 

 

「鈴鹿!悪いけど後を任せるわ!」

 

「解ってるからサッサと行きなさいよ!コッチももう迎えが来てるから!」

 

 

 鈴鹿が言う様に沖合には既に2艇のS-LCACが海上でゆっくりと旋回しながら待機しており、ラブもそれを見て溜め息をひとつ吐くと大人しく機内に引っ込んだ。

 ユルユルと回転していたスーパースタリオンのローターが、再び高まるエンジン音と共に激しく回転を始め砂浜の砂を巻き上げながら浮き上がるとあっと言う間に帰投して行く。

 その姿を見送った後に鈴鹿は無線でS-LCACに収容を指示すると、急展開に付いて行けないみほ達に向き直り涼しい笑顔で声を掛けた。

 

 

「西住隊長、お騒がせして申し訳ありません。澤さん達は取り敢えず笠女学園艦で着替えた後観戦エリアに向かいますので、他の方達は私達とS-LCACでひと足先に観戦エリアに向かう事になりますがそれで宜しいでしょうか?」

 

「え?ええ、それで構いませんが私達も収容してもらえるんですか?」

 

「はい、その方が早いですから。私達は観戦エリアに行ってライブの準備もありますし、その前にラブ姉達が戻って試合後の挨拶まで繋ぎもやらなければなりませんから、御一緒に戻って頂ければこちらとしても助かります」

 

「解りました、そういう事ならばお世話になります」

 

 

 鈴鹿の指示により大洗海岸に揚陸した2艇の超弩級強襲揚陸艇S-LCACは、即座に作業に入り擱座して動けない車両は強化改良型の90式戦車回収車が次々と回収しS-LCACに収容して行く。

 

 

「AP-GirlsのⅢ号は1号艇で大洗の車両と人員は2号艇よ!収容が終わったら1号艇は艦に帰投して全車即工廠に回してちょうだい、これは最優先事項よ!2号艇はサンビーチに揚陸、大洗の車両と人員を降ろした後に艦に帰投し明日の体験乗船に備える事!」

 

 

 収容作業に入るに当り鈴鹿はS-LCACの搭乗員と回収作業班に的確に指示を出しており、その姿は凛々しくAP-Girlsきってのクールビューティーと呼ばれるのも納得の姿であった。

 

 

「何やら鈴鹿殿は随分と急いでおられる様ですがどうしたのでしょうねぇ?」

 

「うん…そうだね、でも何でだろうね?」

 

 

 優花里の言う通り確かに鈴鹿はやたら急いでAP-GirlsのⅢ号を回収させている様に見える。

 今回AP-Girlsの中で走行不能になったのはLove Gunのみであり、回収車による作業も大洗の方が横転車両も出ているのでそちらの方が大変そうなのに、AP-GirlsのⅢ号の回収作業にあたる作業班の生徒達の方が妙に忙しく走り回っている様に見え、みほもそれが不思議に思えるのであった。

 

 

「西住隊長お待たせしました、後は作業班に任せ我々は2号艇に乗り込んで出発を待ちましょう」

 

「おおおぉ~!まさかまたS-LCACに乗る機会が巡って来るとは夢の様でありますぅ!」

 

「優花里さぁん……」

 

 

 みほは困った顔で優花里を見るが、既に優花里はS-LCACに乗れる事で頭が一杯だった。

 鈴鹿に促され乗り込んだS-LCAC2号艇のキャビンは、まだ収容作業が続いておりエンジンを始動していないので静かだが、一度エンジンに火が入りS-LCACが動き出せば専用のイヤーマフをしていないととてもではないが耐えられない程の轟音を辺り一帯に轟かせる。

 キャビン内の座席に乗り込んだ者達が落ち着き一息付くと、現地に残ったAP-Girlsのメンバーのうち鈴鹿と夏妃に凜々子、3人の車長だけが立ち上がり何やら相談していた。

 

 

「どう考えても聖グロの時程時間は無いと思うのよね、それ考えるとウチは無理か……」

 

「愛のトコと鈴鹿のトコは何だかんだで大掛かりになるものねぇ…でもそれ言っちゃうとウチもあまり変わらないわね……」

 

「そうなると自動的に今回はアタイらの出番になるけどそれでいいのか?」

 

「ええ、夏妃が構わないなら今回はあなた達に任せるわ」

 

「それじゃ決まりだな」

 

「そうね私も異存ないわ」

 

「あの…何か問題でもあるんですか?」

 

 

 目の前で交わされる意味不明な会話に思わず口を挟んでしまったみほだが、これには鈴鹿が直ぐに笑いながら疑問を解いてくれた。

 

 

「ああ、西住隊長騒がしくしてすみません。いえね、この後観戦エリアに行ってからラブ姉達が戻るまでの繋ぎをどのグループがやるか相談してただけなんですよ」

 

「え…?あ、この間の聖グロ戦の時の愛さんのバンドみたいに?」

 

「ええ、そうです。それぞれ準備時間も必要なので、その時間によって出るバンドをその場で決めるようにしています。それで今回は一番時間の掛からない夏妃のブルー・クリスタルに決めたんですよ」

 

「ブルー・クリスタル?」

 

「はい、夏妃のブルー・ハーツのメンバーで構成するグループの名前です」

 

 

 前回の愛が率いるピンク・スラッシュの予想外に激しいステージを思い出したみほは、はすっぱな口調の夏妃のバンドが、果たしてどれ程過激な演奏をするのか想像も付かない様子だ。

 

 

「うふふ♡予想外過ぎて驚くと思いますよ、楽しみにしていて下さい」

 

「オイ!そりゃ~どういう意味だよ!」

 

「そのまんまよ!私達だって始めて見た時は驚き過ぎて言葉が出なかったんだから」

 

「けっ!」

 

 

 鈴鹿と凜々子の散々な言い様に夏妃がふてくされた顔をするが、AP-Girlsの中でもブルー・ハーツのメンバーは、その言動と裏腹に優しい顔立ちの美少女が揃っておりそのギャップはとても激しい。

 

 

『収容作業終了。まもなく離岸します、各員着席の上シートベルトとイヤーマフの装着願います』

 

「あ、いよいよですね。話はまた後程」

 

 

 鈴鹿がそう言うと夏妃と凜々子も席に着き離岸に備えベルトとイヤーマフを装着し始めた。

 それから程無くしてエンジンに火が入りイヤーマフをして尚耳を弄する轟音が轟き、エアクッションが膨らむと独特の浮遊感が生まれ滑る様にS-LCACは大洗海岸から離岸し、そのまま滑らかな動きでサンビーチを目指し大洗の海を飛ぶ様に進んで行く。

 

 

「まあ何と言うか予想外の結末と言うか大洗らしいと言うか……」

 

「Yes!またラビットがやってくれたわ!」

 

 

 眉をへの字にして苦笑するアンチョビに対しケイが妙に嬉しそうにしているのが対照的だが、この展開を予想しろと言う方が無理な話であり、実際こんな風に予想だにしない展開で敗れた者達にとって、この場合は苦笑するのが一番正しい反応かもしれない。

 

 

「やってくれたと言うよりまたやらかしたって感じだけどな、しかしまたこれでひとつ大洗の首狩り兎の武勇伝が増えた訳だ」

 

 

 アンチョビのやらかしたという表現が一番しっくり来るらしく、やられた当事者達もこれにはもう笑うしかない様であちこちでクスクスと笑う声が起きていた。

 

 

「それにしても笠女はやけに急いでⅢ号を回収していたわね。手際が良いのは解っていたけど今回はなんだか慌てて作業してる様に見えたわ」

 

 

 試合終了後も現地のライブ映像はそのまま観戦エリアに流れており、収容作業の様子も指揮官としては参考になるので見逃せない場面であった。

 カチューシャの指摘は他の者達も感じていた事で、問題はその理由が何かという事である。

 

 

「う~ん、これはあくまでも私の憶測だが多分カチューシャが関係して来ると思うぞ」

 

「私が?どういう事よ!?」

 

 

 アンチョビの突然の振りにカチューシャも困惑気味に声を上げた。

 

 

「いやな、カチューシャというより次のプラウダ戦の為って辺りかなぁ?聖グロ戦の後も実質中三日でやられたⅢ号直して来てるけど、あの慌て様を見るとプラウダ戦までの時間的な問題が何かあるんだろうな。それには多分あの嵐櫻が関係しているんだとは思うんだけどなぁ……」

 

「千代美さん、やはりあなたはよく見ていますね。指摘の通り嵐櫻は限界を無視した機動を行なうので、戦車への負担は無視出来ないものがあります。よって嵐櫻を発動した場合は試合後に完全なオーバーホール整備を義務付けていると聞きました」

 

「プラウダ戦までにまた実質中三日でオーバーホールか…あまり考えたくない事態だな……」

 

 

 まほもしほの話を聞き難しい顔で腕を組み、黒森峰の整備班で果たしてそれが可能か考察する。

 

 

「ただ気になったのは、あれは私の知る嵐櫻とはかなり違ったものであるという事です」

 

「え?お母様、それはどういう事ですか?」

 

「単純に言えば私の見せて頂いた嵐櫻より数段動きが激しいのです、本来嵐櫻は最終局面において単騎駆けで複数の相手に一気に決着を付ける技であり、僚車と同時に仕掛けるという話を私は聞いた覚えがありません。これは恋が独自に考えて実行した事なのかそれとも元々存在したものなのかが気になりますね。見て分かる様に下手をすれば味方をも巻き込みかねない程激しい機動戦法ですから」

 

 

 改めて説明を聞かされ浮き彫りになるラブの底の知れなさに、背筋に冷たいものが奔る一同。

 これから対戦する者達にとっては頭の痛い問題がまた一つ増えた様である。

 

 

「あ、戻って来ましたね……」

 

 

 遠く聴こえていたS-LCACの立てる轟音が一気に近付いて来た事を指摘したエリカの表情は、みほが勝利した事への安堵と、これからラブと戦う事への不安感が綯交ぜになった複雑な表情だ。

 サンビーチに揚陸したS-LCACから即降ろされ、先に連盟差し回しの回収車によって運ばれていたアヒルさんと共に並べられた大洗チームの車両を見た者達はそこでまた息を飲む事になった。

 撃破された車両も自走可能な車両も、双方ともにその区別が付かぬ程に表面装甲はボコボコにされており、如何にAP-Girlsの攻撃が苛烈であったかを物語っている。

 

 

「お帰りなさい、お疲れ様だったわね」

 

「遅くなりました蝶野教官、見ての通りアクシデントがありましたのでウチの隊長と副長に大洗のウサギさんチームがまだ戻っておりません。ですから両校挨拶までの間、前座ライブで繋ぎをさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「ええ、そうして頂けるとこちらとしても助かるわ」

 

「ありがとうございます、では早速始めさせて頂きます」

 

 

 隊長であるラブと副長の愛が不在の中、ブラック・ハーツ車長の鈴鹿がテキパキと審判長の亜美と交渉し段取りを整え指示を出している。

 今回ステージを任されたブルー・ハーツのメンバー達は、既に仮設ステージの袖でスタンバイしておりいつでもステージに上がれる様であるが、そのステージにはマイクスタンド以外何も用意されておらず、前回ピンク・スラッシュのステージで度肝を抜かれた者達は不思議そうな顔をしている。

 

 

「フム、今回は何をやる気なんだろう…?お、出て来たな…今回は夏妃君達の出番か、彼女の闘志も凄いぞ、彼女との一騎打ちは実に胸躍るものだったからこれは期待出来そうだ♪」

 

 

 ペイント弾戦で夏妃と一騎打ちを演じたまほは、その戦いぶりからも夏妃の事を気に入っている様でステージに上がって来た夏妃の事を見つめていた。

 黙っていれば愛らしい美少女5人で編成されたブルー・クリスタル。

 ステージに上がった彼女達はマイクスタンドの前に立つと、伴奏も無しに歌い始めその澄んだ鈴の音の様な美声が観戦エリアとなっている港中央公園一帯に響き渡る。

 五人の美少女によるアカペラコーラスグループ、それがAP-Girlsきってのパワーファイターである夏妃率いるブルー・ハーツのもう一つの顔であるブルー・クリスタルの意外過ぎる正体であった。

 ポピュラーソングからミュージカル曲や童謡、果てはクラシック曲やオペラ曲までメドレーで次々と歌う夏妃達に、一般観戦者達はうっとりと聴き入り恋人連れの者などは良い雰囲気になってしまったりしているが、その言動を知る者達はその美声に酔いしれながらもあまりのギャップに顔の方は一様に呆気に取られたぽかんとした顔になっている。

 

 

「え?え?え?あれが夏妃さん?」

 

 

 鈴鹿達の傍で聴いていたみほは驚きのあまりクエスチョンマークを連発し、他の大洗のメンバー達もつい先程まで自分達をボコボコにしていた相手の変わり様に言葉を失っている。

 

 

「ええ、そうですよ。あれが夏妃のアカペラコーラスグループのブルー・クリスタルです。まあ驚くのも無理ないですよね、普段が普段ですから。でもボーカルユニットのAP-Girlsとしても、あの子達のクリスタルボイスはとても貴重な戦力なんですよ」

 

 

 鈴鹿が驚くみほ達に笑いながら説明すると耳慣れない言葉にみほは首を捻る。

 

 

「クリスタルボイス…ですか?」

 

「はい、水晶の様に透き通った透明感のある声をそう呼ぶんですよ」

 

「ほんとあの子達は口の利き方は全くなっていないクセに、あんな声が出るんですから腹が立つ事この上なしですわ」

 

「あはははは……」

 

 

 鈴鹿の説明に続き凜々子が容赦無い事を言うのでみほも反応に困ってしまう。

 そして観戦スタンド上では同様にまほ達が衝撃を受け、口々に感嘆の声とため息を漏らしており、中でもまほは頬を上気させ頻りに可愛いを連発しその美声に酔いしれている様だ。

 

 

「そんなに可愛いか?」

 

「ああ……」

 

「そんなに夏妃君がお気に入りなのか?」

 

「ああ……」

 

 

 まほの隣に座るアンチョビがそんなまほの様子に質問を投げ掛けるが、まほの口からは完全に上の空な返答しか帰って来ず、アンチョビの眉間に薄っすら縦皺が入っている事にも気付いていない。

 

 

「……お持ち帰りしたいくらい可愛いか?」

 

「ああ……」

 

 

 アンチョビの質問にまほが上の空のまま再び答えた瞬間、まほのお尻に電撃が奔った。

 

 

「痛っ…!って、いきなり何をするんだ安斎!それにお母様まで!?」

 

 

 大事な人の前でボンクラぶりを発揮したまほのお尻を、その大事な人であるアンチョビがつねり上げるのと同時にしほも同じ様につねり上げていたのだ。

 

 

「全く我が娘ながら…千代美さん本当にいいのですかこんなポンコツ娘で?」

 

 

 しほの言葉にアンチョビは静かに大きな溜め息を吐く。

 

 

「な、何なんですか二人して!?」

 

 

 立ち上りつねられた両のお尻のほっぺをさすりながら抗議するまほはまだ状況が解っていない。

 

 

『この超絶朴念仁が……』

 

 

 完全に呆れた周りの者が白い目でまほを見るが、当のまほは未だにつねられた理由が解らず何かブチブチ不平を言いながら元の場所に座り直している。

 そんなアホな騒ぎを余所にステージ上のブルー・クリスタルは聴き入る者達を魅了し続け、前座でやるには勿体無さ過ぎる美声を披露していた。

 

 

「でも本当に綺麗な声……」

 

 

 そう言葉を漏らしたみほもまた頬をピンクに染めており、AP-Girlsメンバー達をニコリとさせる。

 

 

「あの声はね、ラブ姉がとても羨ましがっているんですよ」

 

「え?」

 

「ホラ、ラブ姉の声って独特でしょ?私達から言わせれば奇跡のハスキーボイスなんですけど、ラブ姉からするとやっぱり夏妃達みたいな声の方がいいみたいなんですよね」

 

「そうなんだ……」

 

 

 苦笑しながら語る鈴鹿の言葉に、自分からすれば何でもこなす超絶美人のスーパーガールラブにそんなコンプレックスがある事がとても意外に思えるみほであった。

 

 

「ん~♪やっぱり夏妃達の声は何度聴いても素敵よね~♡」

 

「ああ、ラブ姉丁度噂してたのよ」

 

「えぇ~?なによ~?」

 

「ラブお姉ちゃん!ウサギさんチームを助けてくれてありがとう」

 

 

 みほがラブにもコンプレックスがある事に驚いていた処に、ラブが梓達を引き連れ戻って来た。

 

 

「西住隊長!ご心配お掛けしてすみませんでした!」

 

 

 戻って来た梓達は全員ずぶ濡れになったパンツァージャケットから、笠女のイメージカラーであるマリンブルーを基調にした校名入りのジャージに着替えており、どうやらシャワーも浴びさせて貰ったらしくほんのりシャンプーの香りも漂わせていた。

 

 

「梓さん、それに皆さんも怪我は無かったですか?」

 

「はい!私達全員どこも怪我はしてません…それよりも一緒に濡れたのに厳島先輩だけシャワー浴びてなくて本当に大丈夫なんですか?」

 

「ああ、私は問題無いわ。この後直ぐステージで汗を掻くし、下手にシャワー浴びると却って冷えてその方が怖いわよ。しっかり拭いて着替えたし大丈夫よ、ありがと心配してくれて」

 

 

 言われてみればパンツァージャケットは着替えて来ているものの、その自慢の深紅のロングヘアーは何処かバサ付いた様に見え、梓達は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

「さて、それじゃあ最後の大事な両校挨拶を済ませないといけないわね。鈴鹿、悪いけどステージの方もキリのいい処で終わる様夏妃達に伝えて」

 

「大丈夫よ、ラブ姉たちが来るのは見えてたからこの曲でラストになると思うわ」

 

「おっけ~♪」

 

 

 両校の挨拶が終われば観戦客お待ちかねのもう一つのお楽しみ、AP-Girlsのミニライブが待っており観戦エリアから立ち去る者は誰一人いなかった。

 仮設ステージ脇の楽屋代わりの大型テント内では、みほ達が差し入れのみつだんご持って訪れた時にはAP-Girlsのメンバー達が本番前の肩慣らしのストレッチを行なっており、それを見た大洗のメンバー達はその身体の柔軟さに仰天するのであった。

 

 

「え!?ウソ!あんなに身体柔らかいの!?」

 

「う~ん、是非バレー部に来て欲しい……」

 

「おっぱいが床にぴったりと……」

 

「あら?あなた達どうしたの?」

 

 

 愛に手伝って貰い可動範囲制限のある左肩のストレッチを行なっていたラブが、顔をしかめながらも現れたみほ達に気付き声を掛けた。

 

 

「あ、ラブお姉ちゃん…これ差し入れなんだけどもし良かったら温かいうちに食べて」

 

「あ~!もしかしてみつだんご!?これ食べてみたかったのよ~♪」

 

「うん、ラブお姉ちゃんこういうの好きだもんね」

 

「嬉しいなぁ♪でも結構行列で買うの大変なんでしょ?」

 

「事前に注文しておいたんだ、それにウチの場合最優先で用意して貰えるから」

 

「あはは♪みほ達は大洗活性化の立役者だもんねぇ」

 

「も~!ラブお姉ちゃんったらぁ」

 

「うふふ♡それじゃあ早速遠慮なく頂くわ!ホント、まだ温かいのね~♪みんな!みほ達からの差し入れよ、冷めないうちに頂きましょ!」

 

 

 あっと言う間に群がりみつだんごを口にするAP-Girlsの少女達。

 どうやらステージ前の軽い腹ごしらえに丁度良かったらしく嬉しそうにみつだんごをたいらげて行き、差し入れた側のみほ達も好評であった事にホッとした顔を見せた。

 

 

「ふぅ、美味しかったわ~♪みんなありがとう、これでステージも全開で行けるから楽しんでね!」

 

「うん、でもラブお姉ちゃん無理はしないでね」

 

「大丈夫よ、でもありがとうね」

 

「それじゃあ私達も席に行ってるからね」

 

 

 みほがそう言ったのを合図に大洗のメンバー達も楽屋代わりのテントを出て行くと、ラブ達もステージに上がる準備を始めその声がテント越しに漏れ聞こえて来る。

 

 

「それじゃあみんな着替えるよ!」

 

「マジでコレ着なきゃいけないのかよラブ姉!?」

 

「そうよ、大洗じゃ敗者はコレ着て踊るのが決まりなのよ!」

 

「そんな決まり聞いた事がねえぞ!」

 

 

 漏れ聞こえて来たキーワードに何か嫌な予感を覚えたみほは歩きかけた脚を止める。

 

 

「ん?どうしたのでありますか西住殿?」

 

 

 急に立ち止まってしまったみほに優花里が声を掛けるが、何やら考え込んで反応しない。

 

 

「敗者…?着る…?踊る……?ハッ!まさか…まさか……まさか!?」

 

 

 何やらブツブツ呟いていたかと思うと、急に何かに思い当ったのか血相を変えたみほは突然踵を返し出て来たばかりの仮設テントの楽屋に飛び込んで行った。

 

 

「ラブお姉ちゃん!」

 

「うわ!みほ!?ってヤバ!」

 

「今後ろに隠したピンク色の物は何!?」

 

「な、何でもないわよ!」

 

「ウソ!見せなさい!」

 

「何よ!何でもないって言ってるでしょ!」

 

「往生際悪い…ていっ!」

 

「あっ!?」

 

 

 みほがテントに飛び込んで来た瞬間ラブが慌てて後ろに隠した物を、みほは電光の速さで背後に回り込みラブの手から掠め取るとその目の前でその物体を広げて見せた。

 

 

「やっぱり!何考えてるのよラブお姉ちゃん!?こんな物ラブお姉ちゃんが着て踊ったら、それこそR-18指定処か放送禁止になっちゃうでしょ!」

 

「酷っ!それどういう意味よ!」

 

「そのまんまよ!その無駄にでっかいおっぱいの事に決まってるじゃない!」

 

「みほ!?」

 

 

 みほはその手に握りしめたピンク色の全身タイツ、自身最大の黒歴史の元であるあんこうスーツを振り回しこめかみに特大の怒り皺を作りながらラブを罵倒した。

 

 

「んもー!あんこう踊りなんかやったら絶対ダメなんだからね!とにかくこのあんこうスーツは全部没収するよ!何でラブお姉ちゃんはこんなバカな事次から次へとやろうとするのよー!」

 

 

 怒りの勢いそのままにみほはAP-Girlsのメンバー達の間を駆け抜けると、その手から全てのあんこうスーツを奪い取ると、後を追って来た優花里にそれを押し付け戦車道の試合中でも使った事の無い命令口調で優花里にそのあんこうスーツの処分を命じた。

 

 

「優花里さん!これを直ぐに焼却処分しなさい!最優先事項です!」

 

「に、西住殿!?」

 

「早くしなさい!」

 

「は、はいぃぃ!」

 

 

 優花里は一抱えもあるあんこうスーツと共に転げる様にテントから飛び出して行った。

 

 

「焼却なんて酷いじゃない!せっかく被服科の子達に作らせたのに~!」

 

「やかましい!もしこれでもあんこう踊りなんか踊ったら、その瞬間にステージごとあんこうの主砲で吹き飛ばしてやるんだからね!」

 

 

 ラブに最後通牒を叩き付け肩をいからせみほがテントを出ようとした時、すれ違いざまに凜々子が心底嫌そうな顔で声を掛けた。

 

 

「西住隊長、本当に助かりましたわ」

 

 

 見れば他のメンバー達も一様に超ウンザリ顔をしており、彼女達AP-Girlsのメンバー達も日々ラブに振り回されて辟易としている事を理解した。

 みほが寸での処でラブの暴挙を察知した甲斐もあり、AP-Girlsのあんこう踊りなどという危険極まりないイベントは無事回避され、その後のミニライブの方も滞り無く好評のうちに終了し、比較的早く試合が終わった事もありその後も大洗観光を楽しむ観戦者も多く地元も大いに潤い、やはりみほ達は学園のみならず大洗の街全体の救世主となっている様だ。

 

 

「さて!試合もライブも無事終了した事だし早々だが私はこれで失礼させて貰うよ」

 

「え?おい、いくら何でも早過ぎやしないか?」

 

 

 ライブが終わったと見るや、すっくと立ち上がりそう宣言したアンチョビに、まほが驚いた顔で声を掛けたがアンチョビはそれを軽く手で制すると続けて言った。

 

 

「出店の撤収もあるし今日の試合でちょっとしたヒントも貰ったんでな、早速帰ってその準備というか手配をしたいんだよ。そんな訳で今日の所はこれで失礼するよ」

 

「ヒント?それは一体どんな?」

 

「ふはははは!それはナイショだ!」

 

「ナイショってオマエ……」

 

「それでは諸君失礼する」

 

「千代美さん、道中気を付けて帰るのですよ」

 

 

 不敵に笑いながらひらひらと手を振りつつ立ち去り掛けたアンチョビに、しほが実の娘のまほがムッとするくらい優しい声と表情で見送りの声を掛けた。

 

 

「ありがとうございます()()()

 

 

 アンチョビもそれを受けてニコリと微笑みお母様などと返したので、しほは一層嬉しそうにアンチョビを抱き寄せいい子いい子しながらまた熊本に来るようになどと言ってまほを挑発すると、解り易いまほがあっさりそれに引っ掛かり周囲の失笑を誘っていた。

 

 

「ええと…ラブお姉ちゃん……」

 

 

 ステージを降り楽屋代わりのテントに戻ったラブの元に、先程とは打って変わっておずおずとした態度のみほが訪れ気後れした様子で話し掛ける姿があった。

 

 

「あら、みほどうしたのよ?」

 

「うん…その、お疲れ様…ライブとっても素敵だったよ」

 

「そお?ありがとみほ♪」

 

 

 ステージの汗をタオルで拭いつつスポーツドリンクを口にするラブに、みほはまだ話がある様だが何やら言い難そうな素振りであわあわしている。

 

 

「ん~?どうしたのよみほ?何かまだあるの?」

 

「えっと…あのね!その…会長さんがね、ウサギさんが横転した後直ぐに交渉してくれたらしくてね、この後30分位したら温泉に貸し切りで入れるんだよ。それでラブお姉ちゃんが良ければみんなで一緒にどうかなと思って……」

 

「え?温泉?」

 

「うん、直ぐそこにあるでしょ?私達エキシビジョンの後ダージリンさんやカチューシャさん、それに西さん達と一緒に入ったんだよ。化石海水の温泉で血行にも良くてラブお姉ちゃんの身体にもきっと良いと思うの……で、どうかな…?」

 

 

 ラブもみほが何を気にしているかは直ぐに解ったが、ラブとしては自身で割り切る事が出来たものの、その全身の惨たらしい傷が大洗のメンバー達に戦車道に対する恐怖心、そして気分を悪くさせるのではないかとそれが気になり返事をする事を鈍らせていた。

 

 

「あ、あのね!ラブお姉ちゃんの怪我…傷痕の事はみんなには話してあるの……それが原因で今までお風呂も自由に入れなかったんだって、だからみんな理解しているから…その──」

 

「ちょっとまって!…まさか目の事も話したの?」

 

「そ、それはまだ……」

 

「ダメよ!それだけは絶対!特に梓にだけは絶対ダメ!みほ、あなたはさっきの試合で何があったかもう気付いているんでしょ?」

 

「う、うん……」

 

 

 みほも試合が終わった直後ではあるが、さすがに何故ラブがあの場面でああもあっさりとウサギさんの一撃を受けたかその理由を解ってはいた。

 

 

「もし梓がそれを知れば後ろめたさを抱えて萎縮し自分を責めてしまうわ、だからそれだけは梓に知られるのだけは絶対に避けなければいけないの。梓は将来有望な子よ、みほもあなたが引退した後の隊長は梓に決めているんでしょ?私は後2年梓とは戦うの、もしその時梓がそれを知ってしまっていたら気後れして無意識に()()を加えてしまうわ。私それだけは嫌よ、私は梓と対等なライバルとして戦いたいの…これは梓だけじゃない、他の戦車道選手も同じ事なの。あなたやまほ達は解った上で一切手を抜かずに戦ってくれる、でも他の戦車道選手も同じとは限らないわ。弱点としてそこを突かれるのは一向に構わない、でも同情されて手心を加えられるのだけは私御免よ、そんな事をされる位なら私はもう戦車には乗らない。千代美程の観察力のある者ならいつか気付く者も出て来るかもしれない。でもせめてそれまではこれは誰にも知られる訳にはいかないのよ」

 

「うん、解ったよラブお姉ちゃん…勝手な事してごめんなさい…でも……」

 

「ううんみほ、私こそごめんね…それにね、自分で言うのもなんだけどやっぱり私の傷って本当に酷いと思うの。それで大洗の子達に変なトラウマでも出来たらと思うとそれが不安なのよ……」

 

「それは大丈夫!私からみんなにはラブお姉ちゃんがどんなに酷い目に遭って、どれだけ辛い思いをして来たかはちゃんと説明してあるから!みんなもラブお姉ちゃんやAP-Girlsの皆さんと一緒に温泉に入りたいって言ってるんだよ!」

 

「……解ったわ。ありがとうみほ、それじゃあお言葉に甘えさせて貰うわ」

 

「ラブお姉ちゃんホントに!?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 

 ラブの返事にみほは笑顔で顔を輝かせ安堵した様に大きく息を吐いた。

 

 

「よかったぁ!温泉に入ったらね、ウチの学園艦に来て会長さんのあんこう鍋を食べようね!会長さんのあんこう鍋は本当に美味しいんだよ♪」

 

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

「それじゃあ私は会長さんにこの事伝えに行くからラブお姉ちゃん達も直ぐに来てね!」

 

 

 言うが早いかみほは楽屋のテントから出て走り去って行った。

 

 

 




不発に終わったラブのあんこう踊りですが、
もし本当に踊ってたらエライ事になってたでしょうねぇ……。
あんこうって英語だとAnglerfishだったのね。

大洗編は後もう一回あります。
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