ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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え~、やっと大洗編もこれで終わりです。
入れるの忘れてたり新たに思い付いたりで、
気が付けば一話としては過去最高に長いお話しになりました。
尤も初期の頃は勝手が解らずやたら短かったんですが……。


第二十五話   アンコウナベ・ウォー!

「わ、私なんかでいいのかな?」

 

 突然会長室に現れ思いもよらない願いを口にしたラブに、嬉しさのあまり言葉が震えるのを懸命に堪えながら杏は敢えてそう聞いてみた。

 

 

「はい…もちろんです!あのね…私には対等な立場の友達って少ないんです。まほとみほに関しては、遠縁とはいえやっぱり身内だし姉妹同然に育って来ましたから友達というのとはちょっと違いますよね。同期で普通に接してくれるのはいつも一緒に居たダージリン達位で、同じ同期でも他の子達って…その…どうしても家名のせいで一歩引いた様にしか接して貰えないんです。あからさまな子は媚びたりへつらったりで私そんな関係は本当に嫌なんです……だから杏みたいな人と友達になれたらなって…ダメですか?」

 

 

 涙目で上目使いに見つめて来るラブの瞳を見たら、杏はもうダメだった。

 

 

「厳島ちゃんってホンっと可愛いなぁ♡私なんかでよければ喜んで友達にならせて貰うよ♪」

 

「ホント!?ありがとう杏♪だったら私の事はラブって呼んで!親しい人はみんなそう呼ぶから!」

 

「わかったよ、ラブ♪」

 

 

 にっこりと笑った杏はそう言った後に湧いた悪戯心から、ラブの左の頬に軽くキスをして耳元にそのロリボイスでそっと『これからも宜しくね』と囁いた。

 その声を聴いた瞬間ラブはビクッと硬直した後、空気が抜ける様にソファーの上に崩れてしまい慌てた杏は自分より遥かに大柄なラブを必死で助け起こした。

 

 

「ちょ!ラブ!お~い!」

 

「ご、ごめん杏…嬉し過ぎてつい……」

 

 

 助け起こし直ぐ目の前に来たラブの顔をよく見れば、さっき土下座をした時に額に付いた埃がそのままになっており、それに気付いた杏はハンカチを取り出しそっとそれを掃ってやる。

 

 

「も~、しょうがないなぁ…もうあんな真似は止めてよね~」

 

「ご、ごめん…もうしないから……」

 

 

 恐縮するラブの額の埃を掃う際、ラブの右目に掛かる前髪も揺れその右目が露わになった。

 

 

「……!間違ってたらごめん…ラブの右目はもしかして……」

 

「あぁ、気付いちゃった?うん、殆ど見えていないわ」

 

 

 その光を宿さぬラブの右目に気付いた瞬間、杏はラブの深い傷痕の残る右頬にそっと手を添え居た堪れない表情になったが、更にある事に気付きハッとした表情になった。

 

 

「ひょっとして今日の試合でも、最後にああも呆気なくやられたのは……」

 

「ええ、そうよ。M3が飛び跳ねた瞬間私の死角に入っちゃって見失ったの。でもね、あの瞬間に砲撃を行なえたのは間違い無くあの子達の実力よ。私は負けるべくして負けたの」

 

 

 ラブのその言葉に杏の方は唇を噛み言葉を発する事が出来ない。

 

 

「杏、お願いがあるの。これはみほも気付いている事だし厳命もしてあるけど、杏もこの事は絶対に他言しないで欲しいのよ。これは私の為ではなく梓の為なの。いずれ戦車道の世界にそれが知れてそこを突かれ負ける事があってもそれは私は一向に構わない、これもみほには言ってある事よ。でも梓はこれからどんどん伸びる子よ、あの子にはその素質と才能がある。だけど今この事実を知ればその芽を摘みかねないし、それだけは何としても避けなければいけないわ。だからお願い、この事は絶対に誰にも言わないと約束して欲しいの」

 

『西住ちゃんから聞いてはいたけどこの(ひと)はこれ程多くの物を背負わされて尚、本当に心の底から戦車道を愛していて、後に続く者にはその身を惜しまず捧げる事を全く厭わないんだな…まるでその身を焦がしながらも羽ばたき続ける火の鳥みたいじゃないか……』

 

「……杏?」

 

「あ…ああ、ゴメンよ。解った、絶対誰にも言わないよ」

 

「ありがとう…杏……」

 

 

 どちらからともなくソファーで更に寄り添いそれ以上言葉を交わす事無く座る二人。

 互いの温もりが伝わりそれだけで幸せな時間が過ぎて行くが、そういう時間はえてして長く続く事は無く、桃のけたたましい声がそれを破った。

 

 

「かいちょ~!〆の雑炊用のご飯炊き上がりました~!」

 

 

 両手に特大の飯炊き釜を提げ赤い顔で息を切らし桃が会長室に転がり込んで来た。

 

 

「か、かいちょ…?く、くおら~!貴様会長にそんなにくっ付いて何をやっておるか~!?」

 

「あ~、賑やかなのが帰って来ちゃったねぇ~」

 

「うふふ♪」

 

 

 頭のてっぺんから湯気を噴き癇癪を起す桃に、苦笑しながら杏が言った事にラブも笑う。

 

 

「それじゃまあ今はここまでという事で、そろそろみんなも来るだろうから本格的に準備するか」

 

「ええ、手伝うわ」

 

「さ~んきゅ~♪」

 

「かいちょ……」

 

 

 いい雰囲気で立ち上がり作業を始めた二人に、桃は完全に置いてけぼりにされてしまうのだった。

 

 

「さ~て、ぼちぼち良い塩梅だね~♪それじゃ始めよっか!」

 

 

 会長室に所狭しと並んだ炬燵の上ではあんこう鍋が美味しそうな湯気を上げており、集まった大洗と笠女双方の隊員達は待ち兼ねたという感じで鍋を覗き込み生唾を飲み込んでいる。

 

 

「それでは…せ~の!」

 

『いただきま~す♪』

 

 

 杏の掛け声に続き声を上げた少女達が一斉に鍋に箸を伸ばす。

 今夜は学校や搭乗する車両に関係無く混ぜこぜで座り鍋を囲み賑やかな事この上ない。

 

 

「美味しい!杏!これとっても美味しいよ♪」

 

『杏!?』

 

「きしし♪だろ?ほらラブ、こっちの唐揚げも試してみてよ」

 

『ラブ!?』

 

「ホント!これも美味しいよ♪凄いなぁ、杏はお料理も本当に上手なんだね~!」

 

「そりゃ良かった♪でも腕の方はそんな大した事無いんだよ」

 

 

 仲良く当然の様に同じ炬燵に並んで座り盛り上がるラブと杏に、皆箸をすすめつつも呆然とその様子を見つめており、特にみほなどは杏に戦車道の履修を強要された時のあの顔になっている。

 

 

『ラブお姉ちゃん…?会長さん…?一体何があったの!?そんな仲良く寄り添って!』

 

 

 同じ炬燵に入っていた為その対面で繰り広げられる仲睦まじい光景に、みほは自分の中で自分自身にもよく解らない感情がドロドロと渦巻いている事に困惑していた。

 

 

「お~いみほ~!何ぼけ~っとしてんのよ~?折角のあんこうが冷めちゃうじゃないよ~!」

 

 

 みほがハッとして声のする方を見れば、杏が甲斐甲斐しく器に盛り付けてくれたあんこう鍋のお替りを、満面の笑みで受け取りながらラブが声を掛けて来ていたのだ。

 

 

「ほえ!?あ…うん、食べるよ……」

 

 

 そう言ったみほは慌ててあんこうを口に放り込み思い切り咽こんでラブ達の失笑を誘う。

 その後はみほも何とか平静を装い箸を進めようとするものの、やはり二人の突然の仲の良さが気になってしまい器のあんこうを食べきると意を決して二人に質問をぶつけた。

 

 

「あ、あのねラブお姉ちゃん…その…会長さんといつの間にそんなに仲良くなったの?」

 

「ん~?あ~、何よみほ、そんな事でさっきからぼけ~っとしてた訳~?」

 

「え、いや別にそういう訳じゃ……」

 

 

 何かラブが見透かした表情で面白そうに言うのでみほは更に狼狽えてしまうが、ラブはそんなみほの様子などお構い無しに楽しそうに杏と視線を合わせた後心底嬉しそうな声で答えた。

 

 

「さっきよ♪」

 

「え?」

 

「ついさっき友達になったのよ~♡ね~、杏♪」

 

「ね~♪」

 

 

 二人仲良く飛び切りの笑顔で微笑みながら、上背のあるラブが前屈みになりながらも互いに小首を傾げこつんと頭を合わせたりする様を見せられみほの目は完全にに点になり、どうにか隣りの炬燵に席を確保していた桃は涙目でひたすらオロオロしている。

 

 

「まあまあ西住ちゃん、細かい事は後にして今はとにかく食べようよ。みんなもジャンジャン食べとくれよ、お替りもたんと用意してあるからさ!」

 

『は~い!』

 

 

 それを潮に暫くは皆食べる事に集中し、少ししてお腹が落ち着いて着た頃に話にも花が咲き始め、両校入り混じり様々な会話が飛び交い始めた。

 各車の砲手が集まった一画では砲術論が熱を帯び、また別の場所ではAP-Girls各車の操縦手達が麻子を取り囲みその操縦技術を褒め称えていたが、たわわに包囲された麻子はちょっと涙目になって対応しておりこれは少々気の毒に見える。

 ウサギさんチームなどは本物を前に振り付けまで入れてAP-Girlsの曲を歌い始め、彼女達から拍手喝采を浴びていた。

 

 

「あはは♪凄い凄い!もう振付まで覚えてくれたんだ!今度一緒にステージ上がろ~か?」

 

『えぇ~!』

 

 

 ウサギさんチームが仰天し周りからも笑いが起きたが、梓は後日それで洒落にならない目に遭うがそれはまた別の機会に紹介する事になろう。

 

 

「いやあ今日は本当に驚いたよ、まさかあんな攻撃方法があったとはねぇ」

 

「それでもやっぱりレオポンは倒せなかったですからね、まだまだ改良の余地ありです」

 

 

 ラブの元に自動車部のメンツが現れ、今日のピンポイント砲撃について話し合っている。

 

 

「しかし笠女のⅢ号は本当に凄いね、一体どんなチューンを施しているのかエンジニアの端くれとしては非常に興味があるよ」

 

 

 ナカジマが率直な感想を口にすると、ラブもまたそれに対しあまりにもあっさりと驚くべき提案を口にして自動車部を驚かせた。

 

 

「あら?それでしたら明日の朝早い時間帯になるけど工廠の見学に来られますか?」

 

「えぇ!?いいの?」

 

「ええ、一向に構いませんよ。尤も今頃は既に全車バラバラにされて整備中ですけど」

 

「えぇ────!?」

 

 

 更に驚きの声を上げた自動車部だが、ラブの説明を聞きさすがエンジニアらしく納得した様だ。

 

 

「今日最後に私達が行なった高機動戦術は、カリカリにチューンしてるのもあって車両への負担がとても大きいの。だからあれを実行した時は完全オーバーホールを義務付けてるのよ。そうしないと、とてもじゃないけど次に乗る時危険過ぎるからね。普通ならこんな大急ぎでやる事は無いけど次のプラウダ戦まで時間無いでしょ?だから今日も大急ぎで回収して即工廠送りにしたのよ」

 

「成る程ね~、それで何故あんな大急ぎで回収してたのか納得行ったよ」

 

「うん、そういう事なの。それでそんな状態でも良ければ明日の朝、朝食が終わった位の時間なら私もまだ時間に余裕があるから工廠の案内位は出来ると思うわ。その頃来てくれれば乗艦出来る様手配しておくからそれでいいかしら?」

 

「モチロンだよ!いやあ嬉しいなあ♪明日が楽しみだねぇ」

 

 

 自動車部の面々は最新の学園艦の工廠を見学出来るとあって目を輝かせはしゃいでいるが、みほはそこまで見せてしまっていいものかと心配げな面持ちになっている。

 しかしラブはそんなみほの心情を見透かした様に、優しい笑顔で安心させる様語り掛けた。

 

 

「みほ、心配しなくても大丈夫よ。この程度の事はウチじゃ秘密でも何でもない事だから。今はまだ学校全体のシステムが試行錯誤中だけど、落ち着いて来れば工廠なんかも一般の見学コースにも入れる事になってるから何も問題ないわよ」

 

「え?そうなんだ…でもやっぱりあれは車両への負担が大きいんだね」

 

「まあね、なんか工廠の子達は中継を見てて一斉にやりやがったって絶叫してたらしいわ~」

 

 

 苦笑しながら言うラブに、これはみほも苦笑で返すしか他は無い話であった。

 

 

「そういえばさ、ラブお姉ちゃん今日はずっとエキシビジョンの時のルートをトレースしてたよね?最後はアクアワールドに行こうとしてたんでしょ、アレは何でかな?」

 

「ん?何でってペンギンに会いたかったんだもん」

 

「へ?」

 

「だって最後にアクアワールド撃てば、ペンギンがよちよち歩きで出て来てくれるんでしょ?」

 

「そ、そんな訳ないでしょ!?あれはたまたま…まさかラブお姉ちゃん本気でそんな事考えて作戦立ててそれを実行したとか言わないよね!?」

 

「うん!だって私ペンギン大好きだもん♪」

 

 

 そのあまりに子供じみたと云うか子供そのままなラブの思考に、みほは思わず頭を抱え炬燵にそのまま突っ伏してしまった。

 みほもラブがそういう行動を平気で取る人間である事をすっかり失念していたが為に、今日も試合中散々振り回された事に思い至り今更ながらに後悔する事になった。

 そんなみほにお構いなく、皆はあんこう鍋を頂きつつ、あっちでこっちで話はどんどん盛り上がりを見せていて、すっかり乗ってしまったアヒルさんチームが遂にあの禁断のモノマネを始めた時にその盛り上がりはピークに達し、妙子と忍がダージリンとオレンジペコのモノマネをした時には、火の付いたラブが乱入しダージンが二人とオレンジペコ一人という極めてシュールなコントを展開し、いちいちラブが決め顔で視線を飛ばして来る為に、みほは一時過呼吸状態に陥り笑い地獄を味わう事にもなった。

 

 

「ラブお姉ちゃ…ホントやめ……またすぐプラウダ戦で会うんだ…ぶははははは!」

 

「うひゃひゃひゃひゃ♪ラブもやるもんだねぇ、こりゃ確かに次に会ったら笑っちゃいそうだよ」

 

 

 ウケた事にハイタッチをするラブと妙子と忍の三人を見ながら、杏も目じりの涙を拭いつつ大笑いしており、先に戻って来たラブを頭の上で拍手をして迎えるのだった。

 更にその後あけびの柚子&桃ちゃん、典子の一人あんこうチームを見たラブもあまりのクオリティの高さに大ウケして杏同様に目じりに涙を浮かべながら笑っていた。

 しかしその後に盛り上がりに便乗しゲームネタをやろうとしたアリクイさんチームは、立ち上がった瞬間速攻で退場を命じられ、いまは隅っこでピコピコ何やらゲームをやっている。

 

 

「あの子達もよく解らないんだけど、何か異様に装填速度速かったわねぇ……」

 

 

 試合中のアリクイさんチームの事を思い出したラブが腕を組んでそう言うと、杏も困った様な顔でラブの疑問に答えている。

 

 

「あ~、アレねぇ…あの短期間で何をどう鍛えりゃそうなるのか解んないんだけど、二度目の廃校騒動で学園艦追い出された後、大学選抜戦までの間に筋トレしてああなったんだよね。尤もそれで試合中に操縦桿根元からボッキリやってりゃ世話ないわ」

 

「げ!?なによソレ!?」

 

 

 どうやったら操縦桿が折れるのかラブには想像も付かず、隅っこに固まっているアリクイさんチームを異界の生物を見る様な目で見ている。

 

 

「いやあそれにしてもバレー部の芸も更に磨きが掛かってて私もびっくりだよ」

 

「そうなんだ~♪身内でよく知ってるだけに典子ちゃんのみほの真似なんて感動ものだわ!これはまほやしほママにも見せたら大ウケ間違いなしよ!」

 

「んもー!止めてよラブお姉ちゃん!」

 

 

 みほは真っ赤になって抗議するがラブはケラケラ笑ってそれを受け流す。

 

 

「家元には大学選抜戦でお世話になったけど、まだろくにお礼も出来てないからいずれちゃんとご挨拶に伺わなきゃいけないよなぁ……」

 

「ん~?しほママならとっても優しいからそんなに慌てなくても大丈夫よ」

 

「へぇ?そうなのかい?」

 

「そうよ~♪しほママは綺麗で素敵なお母さんよ」

 

「お母さんが優しい……」

 

 

 みほはまたしてもあの顔になって何かブツブツ言っているが、ラブはそんなみほに呆れお小言めいた口調で諭す様に言った。

 

 

「みほ、あなた本当に解ってないわね。子供の頃の事をよく思い出してごらん、これからはもっとちゃんとしほママの事をよく見て話し合わなきゃダメよ」

 

「う、うん…解ったよラブお姉ちゃん……」

 

 

 そんな会話の間にも各炬燵を〆の雑炊を作って回っていた杏が戻って来て、ラブにも出来上がった雑炊をよそった器を笑顔で差し出した。

 

 

「ほらラブ、熱いから気を付けて食べな」

 

「ありがと杏……ん~!出汁が良く出てて美味し~♪」

 

 

 みほも再度唖然とする程親密な様子のラブと杏の二人は、とうとう互いに『あ~ん♡』などとフウフウした後の雑炊を交互にお互いの口に運んだりし始め、他の者達もさすがに信じられないといった目でその光景を呆然と見ていた。

 

 

「かいちょぉぉぉ……」

 

「ヨシヨシ…桃ちゃん、今日だけは我慢しようね」

 

「も、桃ちゃんと言うなぁ……」

 

 

 柚子に頭を撫でられながらもいつものセリフを言う桃だが、それにいつもの勢いは欠片も無い。

 

 

「ね、ねえ愛さん、あれいいの……?」

 

 

 あまりのラブラブな雰囲気のラブと杏の様子に、背後の炬燵でカモさんチームの風紀委員相手に笠女の校則について質問を受けていた愛に戸惑いながら声を掛けてみた。

 

 

「別に……」

 

 

 いつも通りの無表情と素っ気無さにみほは更に戸惑うが、答えた愛の口元にはほんの微かに笑みが浮かんでいるのだがみほはそれには気付いていない様だ。

 

 

「──それでね御条さん、一番の疑問なんだけどあなた達AP-Girlsは普段からお化粧しているけど、それって校則違反にならないのかしら?」

 

「芸能科の生徒、特に私達AP-Girlsは日常からのメイクが校則で義務付けられています。特にこうして戦車道もやっていると、突発的なメディア対応に迫られる事もありますから」

 

「えぇ~!それホント!?」

 

「はい、ここに……」

 

 

 みほの質問も素っ気無く躱し、そど子達相手に今度は制服の内ポケットから生徒手帳を取り出し呈示する愛に、みほは釈然としないものを感じながらもこれ以上追及しても無駄かと悟るのだった。

 

 

「ほ、ほんとだわ……」

 

 

 そど子達は開いて見せられた生徒手帳を凝視して驚きに目を見開き唸り声を上げている。

 それは確かに公立の普通校の生徒である者からしてみれば、俄かには信じ難い事であるかもしれないが、私学であり芸能科という特殊な学科に身を置く愛達からすればそれは当然の事であり、既にそんな事を気にする者は一人もいない様だ。

 

 

「でも毎日となると化粧品に掛かる金額も大変でしょ?」

 

「ねぇ……?」

 

 

 これはパゾ美がごも代と顔を見合わせつつ窺う様に聞いて来た。

 

 

「いえ、私達が使う物は今日皆さんにお配りしたシャンプーなどと同様に、全て学校から支給されますので金額まではちょっと……」

 

「え…そうなの?」

 

「はい、シャンプーなどと同じ厳島のブランドの物が、それぞれの肌質や似合う色をコーディネーターが選び支給してくれています」

 

「厳島ブランドの化粧品と言ったら最高級品じゃない……」

 

 

 日頃口煩い風紀委員とはいえそこはやっぱり女の子、厳島のグループで出している化粧品は凡そ高校生が手を出せる価格の物ではない事位知っているので、そど子達はもう呆然とするしかない。

 ぼけっとそんな様子を見ていたみほが、ふと周りを見回せばどの炬燵でも大洗の隊員達がAP-Girlsを質問攻めにしたりしているが、彼女達は嫌な顔一つせず気さくにそれに応じており、ウサギさんチームなどは相手が既に全国で売れ始めている芸能人であるとはいえ、同じ一年生同士というせいかすっかり馴染んで相当に盛り上がっていた。

 

 

「お~い、ラブ姉~、そろそろやる~?」

 

 

 AP-Girlsきってのクールビューティーと言われ、同じ一年どうしながらウサギさんチームにお姉さまと慕われハーレムを築いていた鈴鹿が、チラリと時計を目にした後ラブにそう問い掛けた。

 

 

「あ~、そうだねぇ、腹ごなしにそろそろやろっか~♪」

 

「ほえ?やるって何をやるんだいラブ?」

 

「きしし♪御馳走になりっぱなしじゃ悪いっしょ?ちょっとした余興ってトコかねぇ」

 

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべたラブが杏の口調を真似てそう言うと、杏も下がり眉毛で困った様な表情をしながらケラケラと笑った。

 

 

「いやあ何か却って気を使わせちゃったみたいだねぇ」

 

「そんな気にしないでよ、私達って歌うのが好きで音楽が好きで、暇さえあれば歌ったり楽器鳴らしたりしてる人種だからさ。こんなの日常の一齣に過ぎないのよ」

 

「そうかい?」

 

「そ~よ♪」

 

 

 ラブが立ち上がり会長室の隅に寄せられたソファーに移ると、夏妃が横長なショルダーバックの様な物をラブの元に持ってやって来た。

 

 

「ほらよラブ姉」

 

「夏妃さんきゅ~♪」

 

 

 バックのファスナーを開くと、中からは膝に乗る様なサイズのキーボードが姿を現し、実際ラブは膝の上にキーボードを乗せると夏妃と共にやって来た凜々子が延長コードを繋ぎ、キーボードの電源を確保するとラブが試しに音を出し始めた。

 

 

「ん、おっけ~ね。凜々子もさんきゅ~♪」

 

 

 準備が出来たと見るや他のAP-Girlsのメンバー達もラブの元に集まり始め、床やらソファーの端など思い思いの場所に楽なスタイルで腰を下ろし軽い発声練習を始めるのだった。

 

 

「今日はね~、試合も楽しかったしこんなに美味しいあんこう鍋も頂いちゃったしね、まあお礼にもならないけどちょこっと歌うから楽しんでね~♪あ、そうそう、みんなも歌いたかったらどんどん一緒に歌っちゃっていいからね。それじゃいくよ~♪」

 

 

 ラブのキーボードの伴奏に合わせAP-Girlsの少女達が歌い始める。

 座って歌うからか、彼女達の曲の中でもバラードやラブソングなど比較的大人し目の曲やポップスなどを次々と歌って行くが、ソファーに座りキーボードを弾くラブを中心に他のメンバー達も座り込んで歌うその光景は、どこかミュージカル映画の一場面を思わせるものがあった。

 大洗の隊員達もAP-Girlsの曲はCDを聴き込んで全員覚えている上に、他の曲も知っているものばかりで自然と皆歌い始め、昼間の激戦とは裏腹にその日の夜は和やかな雰囲気の中ゆっくりと更けて行くのだった。

 

 

「みほ、それじゃあまた明日ね」

 

「うん、ラブお姉ちゃん今日はお疲れ様でした」

 

「ありがとみほ、でも今日は一日ホント楽しかったわ♪」

 

「私もだよラブお姉ちゃん」

 

 

 あんこう鍋パーティーも無事終わり笠女の学園艦に引き上げるラブ達を、みほは舷梯を降りた桟橋まで見送りに来ていた。

 

 

「杏もほんとありがとね、お蔭でとっても良い一日になったわ」

 

「そりゃ良かった♪」

 

「うん、それに大洗ってとても良い所ね、私すっかり気に入っちゃった♪」

 

「おぉ~ラブ♪嬉しい事言ってくれるねぇ~!」

 

「うふふ♪それじゃあ二人共お休みなさい、明日は全開で行くから目一杯楽しんでね」

 

「うん、解ったよ♪」

 

「あまり無理すんなよ~」

 

「ありがと、それじゃあね」

 

 

 ラブは手を振りながらAP-Girlsを引き連れ、隣に係留されている笠女学園艦に引き上げて行く。

 手を振り返した後もその背中を見送っていたみほに、隣で同様にしていた杏が極自然な感じでありながらも、極めて真摯な声で話し掛けてきた。

 

 

「西住ちゃん、今日は最後にラブを独り占めする様な形になってごめんよ」

 

「会長さん?」

 

 

 その声の様子にみほが杏に向き直ると、杏の視線はまだラブの背中を見送りながらも、独白する様に独り訥々と語り続ける。

 

 

「ラブがね…言ってたんだよ、私には対等に付き合ってくれる友達が少ないってさ……」

 

「あ……」

 

 

 その事実はみほも、そして姉であるまほもよく知る処であり、戦車道で実力を認め合った旧友以外ではラブのその家柄目当てにすり寄る者や、同い年や目上の者ですらラブを上の立場の者として接し終始敬語を使われ、ともすれば腫れ物扱いで凡そ友人関係といえる様な間柄の者は極めて少なくそれが幼少期よりラブにとっては最大の悩みであったのかもしれない。

 いくら厳島のお嬢様として丁重に扱われても、ラブが自分からそんな事を求める少女ではない事をよく知るみほ達もその事で嘆き悲しむ姿に長年胸を痛めて来たのだ。

 

 

「彼女は西住ちゃんから聞いた通りの凄い(ひと)だね。自分を慕う者の為には平気で自分を犠牲にして悪役になって、それでいて事が済めば全責任を独りで引っ被って頭を下げる…今の世の中安い土下座が溢れ返ってるけどさ、私はあれ程価値のある土下座は知らないよ……私と同い年なのにさ、どれだけ大きなものを背負わされているんだろう?あんなに器の大きな人間を私は今まで見た事が無いや。右目の事も聞いたよ、私なんかにゃ想像も付かない辛い思いをして来て更にそれが原因であんな事になったのにさ…それなのにこれから先も戦う相手であるウチの澤ちゃんの将来まで気に掛けてくれるなんてね……そんな(ひと)がさ、私みたいな中身も器もちっぽけな一介の高校生に友達になって下さいなんて言うんだよ…信じられるかい?こんな私なんかにだよ?」

 

 

 ポツポツと燈る照明の薄闇の中で、徐々に小さくなって行くラブの背中を見送る杏の頬をその照明の光を受けてひと筋輝く物が伝い落ちて行く。

 

 

「会長さん……!」

 

「あの宝石みたいに綺麗な瞳を潤ませてさ、頬まで赤らめて見つめられたらもうダメだったよ。私にゃケイやダージリン達みたいに戦車道の相談なんかにゃ乗れないけどさ、恋バナしたりショッピング行ったりね、何て言うのかな…ラブと普通の友達で居たいって、こんな可愛い子と友達で居たいってその瞬間思っちゃったんだよ。それに自慢じゃないけどさ、私も友達らしい友達なんてそんなに居ないしさ…そんな私を選んでくれたのが嬉しくて嬉しくてね……ダメだ、わたしゃ一体何言ってんだろうねぇ?とにかくそんな感じなんだけどいいかな?西住ちゃん……?」

 

 

 杏がそこまで語ってやっとみほに視線を向ければ、みほは俯いて両の手で口元を覆いその肩は小刻みに震えており時々照明に照らされ光るものがその足元に向かい落ちて行くのが見えた。

 

 

「西住ちゃん?」

 

「……とう…ありがとうございます会長さん!」

 

 

 顔を上げたと思うと涙声でそう言いながら杏に力強くみほは抱き付く。

 

 

「うひゃあ!に、西住ちゃん!?」

 

「ラブお姉ちゃんを、ラブお姉ちゃんを宜しくお願いします!」

 

 

 驚き声を上げる杏の事などお構い無しに感極まったみほは渾身の力で杏を抱き締める。

 

 

「苦しい!苦しいって西住ちゃ~ん!解ってる!解ってるから落ち着こう!」

 

「あ…!ごめんなさい会長さん!」

 

「ゼェゼェ……あぁ苦しかった、ちょっと一瞬違う世界が見えかけたよ……」

 

 

 胸を押え呼吸を整える杏に向かい、みほはあわあわしながらペコペコ頭を何度も下げている。

 

 

「ま、まあそんな訳なんで一応西住ちゃんにも報告しておこうと思ってね。あぁ、ラブの右目の件は私も絶対誰にも言わないから安心してくれていいから」

 

「ありがとうございます…でも本当に良かった……」

 

 

 目じりの涙を拭いながらも喜びの言葉を口にするみほ。

 

 

「さあ、今日はもう遅いし明日の事もあるから、今日はもう帰って休むとしようよ」

 

「はい!」

 

 

 笠女対大洗女子の激しい戦車戦から一夜明け、前夜の約束通り朝食もそこそこに笠女学園艦を訪れた自動車部の面々はラブの案内で工廠を見学し、文字通りネジ一本に至るまで完全にバラバラにされて整備されている5両のⅢ号J型に仰天する事になった。

 歓迎してくれた整備学科の生徒達によれば、試合で使用した履帯はそれで廃棄され新品からの慣らしの終わっている物が装着される事や、その他の消耗部品も例え問題が無くとも試合を行った場合は全て交換される事、塗装などは軽量化の為に刷毛塗りは一切行わずエアブラシで極力薄く塗っている事などを聞かされ、その厳島の財力と徹底ぶりに只々溜め息ばかり吐くのだった。

 しかしそれでも勉強になる事も多く大いに満足した一同は、帰り際に整備学科の生徒達から通電効率の良いハイテンションケーブルの巨大なドラムを進呈されホクホク顔で笠女学園艦を後にした。

 これはポルシェティーガーなどという厄介極まりない戦車を、実戦で運用する自動車部に対して敬意を表した整備学科の生徒達からの粋な計らいであり、巨大なドラムを転がして帰艦した自動車部にみほ達の目は点になったものの、このハイテンションケーブルは後にレオポンの運用効率アップに大いに貢献する事となったのである。

 但し見学した工廠自体はナカジマ曰く『勉強になったし参考になる事も多かったが、やる事が凄過ぎてとても真似出来る事ではなく、何故あんなにオープンにして見せてくれるのかよく解った。あれは恐らくあのサンダースでも真似出来ないだろう、なぜならそれ程に掛けている予算が違うから』との事であり、実際後日工廠を見学したケイも真っ青になったと噂される程のレベルにあった。

 そして自動車部が帰艦し学園艦の一般開放が始まれば、ラブ達にとってはある意味戦車戦よりハードな一日がその幕を開ける。

 前回聖グロでの学園艦開放時に露呈した問題点を改善し解放に望んだのだが、また新たな問題も発生しまだ暫くはこの繰り返しになるものと思われた。

 一番の問題点はその来場者数に在り、前回聖グロ戦の際の来場者を上回る10万人に達する来場者が笠女学園艦に訪れており、一時は入場制限を掛けねばならぬ程の活況を呈していたのだ。

 但し運営そのものは大幅に改善されており、前回同様のイベントと前回の泊地である横浜港では叶わなかったS-LCACの体験搭乗もサンビーチを使い実現し、事前に整理券の配布と全6艇の時間差運行により日没ギリギリまで体験搭乗を実施した結果、全希望者の搭乗させる事に成功したのだった。

 また前回ラブ達が頭を抱えたランチ問題も、事前にお弁当を用意する事で難なく解決し滞りなくその活動に専念する事が出来て精神的ストレスも大幅に軽減されている。

 そして学園艦開放の一番の目玉であるAP-Girlsのライブでは杏という新たな友を得たラブが、愛を始めとするAP-Girlsのメンバー達がハラハラする程のパワーを発揮した為、これまでに行ったライブの中でも一番の盛り上がりを見せ、これは後々語り草となる程の出来のステージとなった。

 

 

「ラブお姉ちゃん無茶し過ぎだよ!少し自分の身体の事も考えよう!」

 

「え~?そうかな~?」

 

 

 あまりのラブのステージでの暴れっぷりに、ライブの興奮そのままにみほは杏と二人、大洗を代表して楽屋にまいわい市場で売られている干し芋アイスを差し入れに訪れたが、大汗を掻きスポーツドリンクを一気飲みする姿を見てついそんな事を言ってしまった。

 

 

「まあまあ西住ちゃん、少し落ち着こうよ。でも確かにあれは凄過ぎたねぇ、ラブも西住ちゃんの言う通り身体の事は気を付けておくれよね」

 

「うん、二人共ありがと。でも今日は最高のコンディションだったから大丈夫よ♪」

 

「さあさあ、話はそれ位にしてみんな干し芋アイスでエネルギー補給してくれたまえ♪」

 

「わあ美味しそう!ありがとう♪」

 

 

 今一番嬉しい差し入れにAP-Girlsのメンバーも一斉にアイスを手にすると、その口の中に広がる甘さに歓喜の声を上げている。

 

 

「ラブお姉ちゃん、出港は明日の朝になるんだっけ?」

 

「うん、聖グロの時は浦賀水道が空いてる夜のうちに出たけど、大洗からならそんなに慌てる必要も無いから明日の朝出港でも青森までなら問題無いわ」

 

「そっか、それなら明日の朝は全員でお見送りさせてもらうよ」

 

「ありがとね、杏♪」

 

 

 そんなやり取りの後暫し談笑し、みほと杏はAP-Girlsの楽屋を後にする。

 通用口から外に出た処で、気が付けば愛を始め24名のAP-Girlsのメンバーが横一列に整列しており、みほと杏が振り向けば全員が一斉に深々と頭を下げるのだった。

 

 

「角谷会長、恋の事をこれからも宜しくお願い致します」

 

 

 愛が皆の気持ちを代表して告げると、杏も照れながら小さく手を振りそれに答える。

 

 

「いやいや、そんな大仰な事止めとくれよ。私こそあんなに素敵な(ひと)と友達になれた事に感激してるんだからさ」

 

 

 杏の言葉に改めて一同が頭を下げると、杏も下がり眉毛で苦笑しつつ頭を下げてそれに応えた。

 こうして長かった一日も終わり、それぞれ明日に向け深い眠りに付くのであった。

 

 

「それじゃあラブお姉ちゃん、寒くなって来てるから身体は本当に気を付けてね」

 

「うん、解ったわ」

 

「ラブ、ちょっと小さいかもしれないけどこれを持って行きなよ」

 

 

 朝の大洗港、出港間際の笠女学園艦を見送る為桟橋に集った大洗チーム。

 その中から昨夜同様みほと杏が代表してラブと話す中、杏がラブに少し大きな包みを渡した。

 

 

「え?コレはなあに杏?開けてもいい?」

 

「ああ、勿論だよ。でも大した物じゃあないからね」

 

 

 十字に掛けられたリボンを解きガサガサと包みを開くと、中から出て来たのは杏が着ていたのとお揃いの柄の暖かそうな綿入れであった。

 

 

「わあ♪うれし~♡ねえ、着てみてもいいかな?」

 

「そりゃ構わないけどここでかい?」

 

 

 またも杏は下がり眉毛で苦笑するも、ラブは構わず制服の上から杏の手を借りつつ早速綿入れに袖を通すとその場でクルリと回って見せた。

 

 

「どう?似合うかな?」

 

「ああ、とっても可愛いよ♪」

 

 

 幸い綿入れはサイズに余裕があり、上背のあるラブには多少着丈は短いものの問題無く着る事が出来て杏も胸を撫で下ろしたが、案の定というかたわわのせいで前紐は結ぶ事が出来ず、やっぱりという感じでその場にいる者全員の口元は微妙に引き攣っていた。

 それでも喜ぶラブには何も言えずしょうがないなといった感じで見守っている。

 

 

「杏ありがと♪大事にするね!」

 

「気に入って貰えた様で嬉しい…うわっぶ!」

 

 

 感極まったラブにハグされた杏は、途端にラブのたわわの谷間に埋もれてしまい呼吸もままならない状態に陥っているが、テンションがすっかり上がったラブはそれに全く気付いていない様だ。

 

 

「ちょっとラブお姉ちゃん!会長さんが呼吸出来ないから早く離して!」

 

「え~♪なによみほ~?」

 

「ラブお姉ちゃん!いいから早く会長さんを離して!」

 

「ん~?……あっ!ごめんなさい杏!大丈夫!?」

 

「ぷはっ……い、いやあ熱烈だねぇ…ちょっと素敵なお花畑に行ってたよ……」

 

 

 ラブは小さくなってみほに叱られており、その姿に爆笑する皆の声が朝の桟橋に響いている。

 

 

「杏…ほんとごめんなさい、どこも痛くない?」

 

「あ?ああ、だいじょぶだいじょぶ、それ程ラブに喜んで貰えて私も嬉しいよ」

 

「全くラブお姉ちゃんはもー!」

 

「かいちょぉ……」

 

 

 小さくなったままのラブに苦笑する杏とプンスカ怒っているみほ、そして今日も涙目の桃。

 そんなドタバタを演じている間にいよいよ笠女学園艦の出港する時間がやって来た。

 ラブ達が乗艦すると即舷梯が収容され舫も解かれれば、例によってタグボートに力を借りる事無く笠女学園艦は自力で離岸を開始する。

 大洗の学園艦が見送りの汽笛を鳴らせば笠女学園艦も答礼の汽笛を鳴らす。

 桟橋で手を振り見送る大洗の戦車道チームの隊員達に、ラブ達も力いっぱい手を振り返しそれに応え別れの挨拶をする。

 

 

「みんなバイバイ~!また会おうね~!」

 

 

 ラブの声が届いたのか杏が飛び跳ねながら両手を高く掲げ大きく振っている。

 

 

「杏ありがとう!あなたと友達に慣れて本当に良かった!」

 

 

 そう叫びラブも大きく手を振る中、再び汽笛が鳴りその声をかき消す。

 お互いそのまま姿が確認出来なくなるまで手を振り続け、やがて艦はバウスラスターを使い180度の転回を行うとそのまま太平洋に漕ぎ出して行く。

 向かうは青森、待ち受けるはカチューシャ率いる北の強豪プラウダ高校。

 激戦必至は決定事項、プラウダの高火力相手にラブはどう戦って見せるのか?

 様々な想いを乗せた白亜の艦は、昇る朝日を受け力強く鹿島灘を一路北に向い突き進んで行く。

 

 

 




エンカイ・ウォーのバレー部のモノマネは是非入れたいネタでした。
まあ他にもアレコレやった結果この長さにはなりましたが、
ナントカ大洗編も自分で納得する形で終える事が出来ました。

ラブと杏の友情はこの先長く続き、
折々に登場するエピソードになると思います。

さて、次はプラウダ編ですがこれも色々大変で書き直ししまくりです……。

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