出だしから何やら波乱含みの展開です。
津軽弁はアレコレ調べたけどやはり難しいですね。
間違いがあったらごめんなさいです。
「Love Gun応答せよ!ラブ!聞こえる!?返事をしなさい!」
無線のトークボタンから指を離しても返って来るのはノイズのみで、呼び出し相手からの応答は一切なく、T-34/85のコマンダーキューポラ上で吹雪の中に身を晒しながら、カチューシャが何度となく無線で呼び掛けているが、先程からこの繰り返しでラブからの応答は未だにない。
「ピンク・ハーツの愛でもいいわ!応答しなさい!鈴鹿!夏妃!凜々子!誰でもいい応えなさい!」
AP-Girlsの副長である愛を始め、各車長の名を無線に向かって叫ぶがやはり反応がない。
「ちょっとノンナ!緊急用GPSの方はどうなっているの!?」
「駄目です…基地局がダウンしたままでタブレットには何の反応もありません」
カチューシャのT-34/85の隣に並ぶIS-2上で、カチューシャ同様コマンダーキューポラから身を晒すノンナに向かい、吹雪に負けぬよう声を張り上げ呼び掛けたものの、ノンナの返事は芳しいものではなくカチューシャはそれを聞いて思わずギリっと歯を軋ませる。
ノンナの方も珍しくその顔にそれとはっきり分かる程に焦燥の色が浮かんでおり、それが一層状況が一切予断を許さぬものである事を感じさせた。
何故?どうしてこんな事になった?カチューシャの脳裏をそんな考えが激しく駆け巡る。
連盟は問題なしとして試合のGOサインを出し、確かにその時点では試合が可能な天候であったのは間違いはなかった。
だが、その後の天候の急変は気象関係者全ての予想を遥かに超えた大暴風雪となり今に至る。
あの時自分が当事者として試合の中止を判断していればこんな事には──。
そんな後悔の念と共に、カチューシャは吹き荒れる白い闇の向こうにいるはずの相手を探しその青い瞳を凝らすのだった。
「ラブ!あなた何処にいるの!?」
「来たわね……」
「はい、遂に……」
「それにしてもなんて速さなのかしら、最初はあんな無茶なスケジュール組んで何考えてんのって思ったけど、通達して来た予定より更に早く来るなんて一体あの学園艦はどうなってんのよ?」
「基本的なスペックは学園ホームページで公開されていますが、それ以上の事は一切不明です。各校の情報部も当初は調査に乗り気でしたが、相手が相手ですので全情報部申し合わせの上一斉にその調査からは手を引いたそうです。所詮は高校生のやる事で、世界規模の企業は到底太刀打ち出来るような相手ではありませんからね。尤も彼女に聞けば案外あっさり何でも答えてくれそうな気もしますが、例ののらりくらりで躱される可能性もあるのであまり聞く気もしませんね」
「ほんっとつくづく厄介な女よ!それにしても……何で今日になってこんなに吹雪くのよ!?私聞いてないわよ!」
「私に言われても困ります」
その時期にしては強過ぎる大寒波の襲来により、その日青森県全域が大暴風雪にみまわれていた。
強風と共に吹き付ける雪の中、視程も極めて悪いにもかかわらずそれをものともせず平館海峡を突き進む巨大な白い影がある。
吹雪の中ぼんやりと見えるその姿は、まるでその白い影がこの大暴風雪を引き連れて来たモンスターなのではと思わせるような錯覚を引き起こす。
現在就航中の学園艦の中に在って最新鋭中の最新鋭、それまでの既存の学園艦とは設計思想からして大きく異なるその艦は、海上自衛隊が誇るおおすみ型輸送艦を原型とする学園艦であり、運用する私立三笠女子学園の母体である厳島の系列にある造船部門で造艦され、就役からまだ日は浅いもののそれまでのありとあらゆる航路記録を尽く打ち破りながら、対プラウダ高校の戦車道練習試合に挑む為に青森港へもう間もなく入港しようとしていた。
「カチューシャ隊長、宜しいか?」
「何かしら艦長?」
笠女学園艦入港の様子を、よせばいいのにその方が良く見えるからという理由だけで、キエフ級航空母艦を原型とするプラウダの学園艦でも最上部になる艦橋の上まで登り、吹きっ曝しの中鼻を垂らして強がっていたカチューシャに艦長職にある少女がきびきびとした身のこなしで声を掛けて来た。
「この強風で波高が上がり、たった今接岸作業を一時停止する旨港湾管理局から通達が来ました」
「えぇ!?それホント!?この青森港で!?」
陸奥湾の最も奥にあり内湾である青森湾内に位置する青森港は、波浪の影響を受け難い良港であり、その青森港に入港出来ないという事は相当な事態である事は想像に難くない。
「はい、これは現在こちらに向かっている笠女学園艦にも連絡は行っておりまして、取り敢えずこのままでは邪魔になるので、夏泊半島沖に錨を降ろし沖止めで待機するとの連絡が笠女の艦長の黒姫殿から私宛に入りました」
「あっちゃー!ついてないわね、それでその後はどうするって?」
舞い込んだ知らせにカチューシャは思わず右の手の平で顔を覆い、ノンナは天を仰いだ。
「それなんですが念の為にひと足先に戦車だけ揚陸させて、本艦で預かって貰えないかと打診がありまして、その為のS-LCACの揚陸ポイントとして、合浦海水浴場を使いたいので許可を取って欲しい旨要請を受けております」
「艦長、お願いしてもいい?」
「はい、既に手配済みですが、このままでは試合そのものが中止になる可能性もありますね」
艦長の指摘は尤もな話で、カチューシャ達は慣れっこだが全国大会の大洗戦の雪など可愛く思える程の吹雪に、連盟から派遣される審判団が中止の判断を下す可能性が高く、その経験が乏しいラブに是非雪原戦闘の機会を与えたいと思っていたカチューシャとノンナは渋い顔になった。
「参ったわね、観戦客の交通の便も考えて大湊じゃなく青森側にしたのに、コレじゃ本末転倒もいいトコじゃない!」
「私達との試合はともかく、ラブ達のライブは既にチケットも販売済みですからそちらの問題の方が大きいかもしれませんね」
ノンナの指摘にカチューシャはあ~っと言った表情になり、思わずノンナのように天を仰いだ。
とにかく今はAP-GirlsのⅢ号J型の受け入れ準備と、天候の回復を祈る以外出来る事はなかった。
「着いた早々災難だったわね、でも歓迎するわ!ようこそ青森へ!」
吹雪の中雷鳴のような轟音を轟かせ合浦海水浴場に揚陸した、笠女所有の超弩級強襲揚陸艇S-LCACを歓迎の言葉と共に出迎えたカチューシャとノンナは、Love Gunを先頭に降りて来たAP-GirlsのⅢ号J型の姿を見て二人揃ってその目を丸くするのだった。
「あら?冬季迷彩にして来たのね、やるじゃない!」
「やっほ~♪来た早々手間掛けて悪かったわねカチューシャ」
S-LCACから降ろされたⅢ号J型は全車いつものサンドイエローではなく、くすんだ白に塗り替えられておりそれはカチューシャとノンナの目にも新鮮に映った。
更にラブ達はパンツァージャケットの上からグレートコートを着用しているが、デザインは厳めしいもののカラーがジャケットと同様桜色なせいかやたらと可愛らしく見える。
「時間なくてさ、パーソナルマークだけマスキングして薄く上から吹いただけでボロ出まくりよね~。でもやる以上は勝ちに行きたいじゃない?だから履帯もちゃんと
「良い心掛けね、嫌いじゃないわ!それにしても何か可愛いの着てるわね…ちょっといいかも」
急場凌ぎのやっつけ仕事と自嘲気味に笑うラブに、カチューシャも腕を組み胸を反らし不敵に笑いながらそう答えた後に少し羨ましそうに付け足す。
「ああコレ?滅多に着る機会ないけど作っておいて良かったわ。しっかし凄い雪ね、ビックリだわ。吹雪いて来たと思ったらあっと言う間に艦全体に積もっちゃって、元が白だから気が付いたらでっかい雪ダルマになっちゃってたわ」
「この時期にここまで降るなんて滅多にない事なのよ、さすがに私達も驚いたわ。まあとにかくいつまでもここに居るのも何だからウチの艦に行きましょ、熱いお茶を用意してあるから!そのまま市街地を通る許可も取り付けてあるわ、案内するから付いて来てちょうだい!」
カチューシャとノンナは、一面雪に覆われた砂浜に乗り入れていたT-34/85を転進させると、AP-Girlsを引き連れ港で待つプラウダの学園艦へと戻って行った。
「さあもっと火の近くに集まって暖まりなさい、今熱いお茶を用意させているから」
「済まないわねカチューシャ、戦車の収容といい何から何までお世話になっちゃって」
「全くこの寒気は予想外でした、よりにもよってこのタイミングで来なくてもいいものを」
「ホントよ、なんか天気予報も全部大外れらしいわね~」
「ええ、こんなの全く聞いてないわ!」
カチューシャに促され集まったペチカの前で漸く一息ついたAP-Girlsの少女達も、口々にこの大雪に対して驚きの言葉を口にしているが、地元の人間でも驚く程の降雪ではそれも無理はない。
しかし現実問題として笠女学園艦がこのまま青森港に入港出来ないと、戦車は降ろす事が出来たので最悪試合のみは行なえたとしても、それに付随して行うイベントとメインのライブが行なえない可能性があり、彼女達にしては珍しく焦りがその表情に現れていた。
「お待たせ致しましたカチューシャ様、お茶の用意が整いました」
現状打つ手なしな状況に会話が少し途切れたタイミングで、クラーラがニーナとアリーナを伴いティータイムの支度をしてカチューシャの隊長室に現れた。
「あら?あなたがクラーラさんね?」
「そうだったわ、あなた達直接会うのは初めてだったわね」
「ラブ、彼女がクラーラよ。以前言ったように短期留学という形での留学だったけど、今は本留学になって卒業するまでこのプラウダに居る事になったわ」
「始めまして厳島様、私がクラーラです。以後お見知りおきを」
「こちらこそ。私が厳島恋です、どうかラブとお呼び下さい」
「恋…ラブ?ああ、恋という字の意味は英語ではラブでしたね」
「クラーラさん凄いわ、日本語の発音だけじゃなくて漢字の意味まで理解しているのね。日本人なのに変な日本語の私とは大違いだわ!」
「ラブ、聞いての通りクラーラは日本語がとても堪能です」
「それだけ話せるんだから普段から日本語で話しなさいよ!」
二人の自己紹介の後のお約束の展開に一斉に笑いが起こった。
「さあ!難しい事は後にして、今は熱いお茶で暖まりましょ!」
クラーラ達が給仕を始め皆に紅茶が行き渡った頃には隊長室も紅茶の良い香りで満たされ、それだけでも切羽詰った感があった心に少し余裕が生まれ会話も落ち着いたものになって来た。
「い~い?ロシアの正しい紅茶の飲み方はね、スプーンでジャムを口に含みながら飲むのが正しい飲み方なのよ!」
「うん♪解ったわ!」
ラブはカチューシャと一緒に、口の周りをジャムでベタベタにしてニコニコと紅茶を飲む。
「ラブ……そこまでカチューシャ様の真似をしなくても結構です」
カチューシャの口元のジャムを拭き取りながら、同様に口の周りにジャムを付けたラブを見たノンナは、軽い頭痛を覚えカチューシャの口元を拭う手とは反対の手でこめかみを押さえた。
「え?そうなの~?」
相変わらずのラブの天然ぶりに、ノンナは溜め息を吐くが他の者はクスクスと笑っている。
「全くあなたという人は……さあ、ジャムはそれ位にしてシャルロートカも召し上がれ」
「シャルロートカはリンゴを使ったロシアのケーキよ!この使っているリンゴはね、本艦のリンゴ園で私達が収穫したものなのよ♪」
「え?プラウダの学園艦にはリンゴ園があるの?凄い!それじゃ早速頂いてみるわ♪」
目を輝かせシャルロートカを口にしたラブは、その味が口いっぱいに広がった瞬間その目を更に輝かせ頬を両手で押さえると脚を子供のようにパタパタさせる。
「美味しい!これとっても美味しいよ♪」
ラブの些かオーバーとも取れる感情表現にクラーラ達は驚いているが、付き合いが長くそのリアクションに一切嘘が無い事を知っているカチューシャとノンナは、顔を見合わせ微笑んでいる。
「その様子だと気に入って貰えたみたいね!」
カチューシャは会心の笑みを浮かべながら満足げに何度も頷き、ノンナも穏やかな笑みで黙々とシャルロートカを口に運び続けるラブを見つめ、それがラブの偽りの無い姿だと理解したクラーラ達もクスクスと笑いながらその様子を見ていた。
「ふうっ!ごちそうさま!大満足よ♪」
「それは良かったわ!さて、ここらで少し真面目な話もしておきましょうか。さっき艦橋の方に確認してみたけど、幾分収まって来たけどまだ波高が高くて入港許可は下りないそうなのよ。連盟の方は今の処試合を行う予定でいるみたいだけど、例えやれたとしても交通機関次第で最悪無観客試合になる可能性も考えておいた方が良さそうね。試合会場は山間部でも観戦エリアは一応市街地だから大丈夫だとは思うけど、何しろ自然相手の事だから絶対はないからね」
一転して真剣な隊長の顔になったカチューシャに合わせ、ラブもまた隊長の顔になりその話を聞いており、そこには既に先程までの緩い雰囲気は微塵も感じられない。
「そうね、私達は勿論の事、観戦に来て下さる方達も安全が第一だものね」
安全という事に関しては、やはりあれだけの事故を経験しているラブが言うと非常に重みがあり、全員が顔を見合わせ無言で頷きあっている。
「ただね、試合は仕方がないとして問題はやっぱりライブイベントの方になるわねぇ…もしこのまま最悪入港出来ない場合、S-LCACでウチの艦までピストン輸送も考えないでもないけど来場者数考えると限界があるし、何より揚陸ポイントの問題もあるしねぇ……あ~、これはホント計算が甘かったわぁ…次がいつ来られるかも解らないし中止だけは避けたいけど頭痛いわぁ……」
AP-Girlsのライブチケットも回を追う毎にその売れ行きは加速しており、中止となると例え返金したとしてもチケット購入者に申し訳ないという想いと、リーダーとして安全性の考慮との板挟みで現在のラブは非常に苦しい状況に追いやられていた。
「ラブ、あなたの気持ちも解りますがこればかりは仕方ありません。あなた達のファンもそれはきっと理解してくれるはず、ですから焦ってはいけません。私達も卒業までにまだ多少時間がありますから例え中止になっても再戦の機会はあるでしょう…いえ、そうなれば私達は何としてでもその機会を設けます。ですからそんなに悩んではいけませんよ」
「ありがとう…ノンナ……」
ノンナの言葉にカチューシャたちも頷いており、ラブもまたその気遣いが嬉しかった。
「処であなた達今夜はどうするの?連絡受けてから念の為、戦車だけじゃなくあなた達も受け入れられるよう私達の寮に部屋は用意しておいたけど」
「S-LCACはタフだから余程の事がない限り大丈夫だけど、離艦する時結構ヤバかったのよね。一度艦に戻らせたけど収容するのが結構大変だったみたいなのよ。一応艦に戻るつもりでいたけど、ちょっと無理があるかなぁ…?う~ん、面倒掛けるけど一晩御厄介になってもいい?」
「勿論よ!そうと決まれば今夜は前哨戦でパ~っとやるわよ♪本格的なロシア料理を味あわせてあげるから楽しみにしてなさい!」
「ありがとうカチューシャ♪でもあんま無理はしないでね」
「問題ないわ!でもその前にもうじきお昼だからソッチをまず考えないとね」
腕を組み思案し始めたカチューシャにノンナが即自分のプランを提案する。
「それでしたら定番ですが乗っけに行くのはどうでしょう?」
「ああそうね、それがあったわ!」
「乗っける?何を?」
二人の会話に要領を得ないラブは首を捻るが、カチューシャとノンナはいいからいいからといった感じで外出の準備を始め、それでラブもお昼は外食になる事を悟ったが一体何処で何を食べるのかは教えてくれず、取り敢えずは付いて行ってのお楽しみという事で納得する事とした。
「さあ着いたわよ!」
プラウダ側は隊員数も多いので隊長であるカチューシャに副隊長のノンナ、それにクラーラとニーナとアリーナのみが参加し連れて来られたのは港からほど近い一見して市場みたいな場所だった。
「市場……?」
「まあそのものズバリね、取り敢えず入ってチケットを買うわよ」
「チケット?」
「いいから付いてらっしゃい」
カチューシャ達に付いてゾロゾロと市場に入ったAP-Girlsの一同は、中の案内所でカチューシャの言うチケットを買い求めたがその際スタッフが話す津軽弁に大いに戸惑ったのだが、即座に標準語に切り替え対応するのは観光客向けのそういう仕様であるらしい。
「さあ、今度はチケットでご飯を買ってその後は色々お店を回って好きな具を乗せてもらうのよ」
ここで漸くシステムを理解したラブ達も、ご飯を丼ぶりによそって貰うと場内の店舗を巡り様々な魚介を乗せた海鮮丼を完成させて行った。
「なるほど~、だからのっけ丼なのね~♪」
「そういう事、ちょっとこの人数だと狭いけど一応一番広い部屋を確保したわ。椅子だけ増やして貰ったからみんなで食べましょ!」
ちょっとギュウギュウ詰めな感はあったが、新鮮な海鮮丼を前に文句が出るはずもなく皆大満足であっと言う間に完食すると、AP-Girlsの来店に気付いた市場の為に色紙にサインをして記念写真を撮った後に、市場総出で見送られプラウダの学園艦に帰投したのだった。
帰投後もまだ港の入港許可は下りずそれ処か更に波高が高くなっており、状況は増々悪化してせっかく美味しい海鮮丼で上がったラブ達のモチベーションも、その報に再び下降線をたどってしまう。
「うぅ…胃が痛くなりそう……」
この状況にはさすがのノンナも声を掛け辛そうにしており、ラブを中心にして集まっているAP-Girlsのメンバー達の表情は深刻さが露わになりつつあった。
「う~ん、ちょっと洒落にならなくなって来たわねぇ…こんな時は……!そうだ!ねえラブ!アンタ達KVたんに乗ってみない?人間の力でどうにもならない事に、いつまでも頭を悩ませ続けても何も良い事はないわ!ここはKVたんの152㎜をぶっ放してスッキリするのが一番よ!」
「え?」
「カチューシャ様、それは素晴らしいアイディアです。早速準備をさせましょう、ニーナ、アリーナ、聞いての通りです、宜しいですね」
「
ニーナとアリーナは立ち上がり即行動に移る。
「
頷くノンナを見たラブは驚いた表情で質問の声を上げた。
「え?ノンナ達さっきの市場にしてもニーナさん達にしても何言ってるか解るの?」
「まあ何となく雰囲気で……」
若干困った顔をするノンナだが、日本一難解な方言と言われる津軽弁相手では無理もない。
「でも…いいの?試合前にそんな事して?」
「私がいいと言えばいいのよ!グズグズしてないで行くわよ!」
半ば強引にカチューシャに連れられ演習場に赴いたラブ達は、吹雪いて視程は悪いもののKVたんの152㎜を生まれて初めてぶっ放し、その破壊力に酔いしれたのであった。
ラブの右目に対する配慮からカチューシャとノンナの二人が装填を行ない、AP-Girlsのメンバー達は代わる代わる砲撃をし、最後には余興でラブがKVたんによる超長距離予測射撃を披露し、終了後にターゲットの確認に行ったニーナ達は木端微塵になったダミー戦車を見て仰天したのだった。
「凄い!凄いわKVたんは!私クセになりそうよ♪」
「でしょ♪気分もスッキリしたんじゃない?」
「うん!ありがとカチューシャ!」
152㎜をぶっ放すうちに、気持ちの切り替えが出来たらしくラブ達の表情も明るくなった。
とにかく今は天候の回復を待つのみで、思いがけない休息の時間と割り切りカチューシャ達との貴重な時間を楽しむ事としたようだ。
他愛も無いお喋りに興じ、ラブ達が歌いだせば既にAP-Girlsの曲を覚えていてくれたクラーラが、バラライカで伴奏してくれた時にはすっかりその音色の虜になった。
「ふう!何だか久し振りでのんびりした気がするわ!」
「だって聖グロと大洗とたて続けに見に来てるんだもの~、そりゃ忙しいでしょうに」
「自分達の試合以外だって一戦たりとも見逃せるもんですか!ノンナだってそう思うでしょ?」
「はいカチューシャ様、例え一戦でも見逃したら一生後悔する事は間違いありません」
「全くどんだけ好きなのよ?でもまあ私でもそうなるかもねぇ……」
「そうよ!そうに決まってるわ!」
カチューシャが立ち上り拳を握りしめそう言い切った瞬間、自分でも可笑しかったのか笑い出すと、釣られてその場にいた者全員が笑いだしさっきまで悩んでいたのが嘘のようであった。
「カチューシャ様、夕食まで今少し時間がありますから皆でバーニャに入るのは如何でしょう?」
「そうね、それもいいわね。今日の冷え込みは厳しいしその方が食事もおいしくなるわね!」
「バーニャ……ってナニ?」
「ああ、バーニャはね、云わば蒸し風呂よ。サウナみたいなものと思ってもらえばいいわ」
「お風呂…嫌な予感しかしない……」
「大丈夫よ、バーニャでそういう行為は自殺行為だから安心しなさい…尤も本国のバーニャでは…ううん、何でもないわ、大丈夫よ!」
「今の最後の間は何よ~?余計嫌な予感しかしないんだけど!?」
「いいからいいから♪さあ行くわよ!」
カチューシャとノンナに押される様に連れ出されるラブに続き、一同は揃ってロシア式サウナのバーニャに入るべくカチューシャの隊長室を後にする。
「ふぅ…確かに気持ちが良いけど最初に水を浴びるとかビックリ過ぎなんだけど?」
「でも気持ちが良いでしょう?私達は訓練後にこのバーニャで汗を流すのが楽しみなのですよ」
「確かに気持ちいいわね、訓練後の楽しみなのも頷けるわ」
入る前は大洗の温泉の時と同様にクラーラやニーナやアリーナに対し、自分の傷痕で不快な思いをさせるのではないかとためらったラブであったが、やはり今回も皆がそんなラブの気持ちを理解しそれでも一緒にと促されこうしてバーニャを楽しんでいた。
尤もカチューシャは既に熱さで顔が赤くなり、出たそうにしているのもお約束だ。
「ラブ、この白樺の葉で身体を叩いて身を清めるのよ。ホラ、こうやって」
「え?こう……いやん♡」
ノンナが自身の身で実演して見せた通りにラブもやってみたが、初めての経験であり白樺の葉がそのラブの胸のたわわなKVたんを撫でた瞬間、くすぐったさから思わず色っぽい声を上げその身をよじってしまった為に、たわわなKVたんがプルンプルンと盛大に揺れた。
「うわっぷ!」
「ちょ!そんな不意討ちは卑怯!」
「メディック!」
「街道上の怪物!」
それまでもたわわの谷間に流れ落ちる汗に目が釘付けになっていた処に、強烈なカウンターを喰らった為に一斉に鼻血を噴出させた一同は、慌てて鼻を押さえながら全員バーニャからラブだけを残し我先に飛び出して行ってしまった。
「ちょっとぉ……」
独り残されたラブは立場がなく口を尖らせるぐらいしか出来る事はなさそうであった。
「全く…危うく失血死するトコだったわ……」
「完全に油断してました……」
「……」
どうにか鼻血も収まり仕切り直して汗を流した一同が服を着る中、ラブはいつものように愛の介助でブラのホックを留めて貰っていると、例によってそのブラのサイズでニーナ達がヒソヒソし始めるがラブはもう諦めの境地なのか何も言わない。
因みに相変わらずの無表情で何も言わずラブの介助をする愛だが、しっかりその鼻には鼻血止めのティッシュが詰まっている事も忘れずに記しておかねばなるまい。
そして夕食の時間となると多くのプラウダの隊員達と共に、本格的なロシア料理を囲み楽しいひと時を過す事になった。
文字通り歌い踊りながらの晩餐にラブ達も今日一番の笑顔を見せており、その様子にカチューシャ達もまた大いに満足している様子だ。
「御馳走さま、とても美味しかったし楽しかったわ♪教わったコサックダンスは私達AP-Girlsのステージにも取り入れようかしら?バラライカの音色も挑戦してみたいわ!」
「そこまで喜んで貰えると私達も嬉しいわ!明日の事はもう考えず今日はとにかくよく休んで頂戴、例え試合が出来なくてもこうして一緒に過ごせただけでもいい思い出が出来たというものよ!」
「ありがとうカチューシャ、それじゃあ私達は休ませて貰うわ」
「お休みなさい、
「ええ、お休みなさい
カチューシャに続き挨拶を交わしたノンナとラブの言葉に含まれた、微妙な雰囲気とほんの一瞬だが二人の瞳に浮かんだ鋭い光をカチューシャは見逃してはいなかった。
『今の一瞬のアイコンタクトはナニよ……二人して私に隠し事?』
気付かぬフリをしながらもカチューシャは心の中になんとも言えない不安を覚える。
しかしその一瞬だけで後は何事もなかった様にそれぞれの部屋に戻って行くが、カチューシャの中に芽生えた不信感は、それが自分にとっては何か危険な事であると警報を鳴らしていたのだ。
部屋に戻りノンナに寝かしつけられたフリをして、枕元で自分を見下ろすノンナの様子を窺う事暫し、どうやらカチューシャが眠りに付いたと判断したらしいノンナは一切音を立てず静かに退出して行き、それでもカチューシャは用心深く1分程寝たふりを続けてからそっと目を開けた。
『さっきのアレは一体ナニ?あれだけで通じる何かが二人の間にはあるっていうの?』
その一見何でもないように見えた光景の中に、何とも言えない不気味な何かを感じたカチューシャはそれが何かは解らないが、独り悶々とベッドの中で思考を巡らせていた。
丁度その頃、既にメインの明かりも落とされ常夜灯のみが燈る寮の廊下を、足音一つ立てずに進む背の高い一つの影があった。
シルエットだけでもユサユサと揺れるたわわで誰だか丸解りなその影は、迷う事無く一つの扉の前に辿り着くと極控えめにその扉をノックした。
『どうぞ……』
扉の中からもそのノックに合わせたように抑えた声で答えが返り、その影はそっと扉を開けるとスルリと滑り込むように部屋の中に消えて行く。
「
「こんばんわ、
そう意味有り気に挨拶した瞬間部屋の中のもう一人の存在に気付いたラブは、その存在に向かって抜き身の刀の様な鋭い殺気を手加減なしに叩き付けた。
「安心なさいラブ、彼女もまた
ノンナに促されたクラーラ部屋の隅より進み出ると、やはり意味有り気な笑みを浮かべるとラブに向かい一礼しノンナの隣に腰を下ろした。
「さっきは御免なさいね
「いえ、それは当然の事ですわ
互いに意味有り気に同志と呼び合うこの三人、果してそれにどんな意味があるのか?
カチューシャが感じた危機感の正体は一体何なのか?
何か不穏なものを感じさせる夜はまだ始まったばかりだ。
少しサービス回にしつつも最後はちょっと怖い感じに……。
何やら鉄のカーテンの予感がしますねぇ。