ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

72 / 309
え~と、一週間の御無沙汰です。

ちょっと色々重なって多忙を極めた為、先週は丸々投稿お休みしてしまいました。


また今週から宜しくです。




第二十九話   Thundersnow

「解っているわね緋色?全てはあなたの装填速度にかかっているのよ?」

 

「うん、凜々子の夏妃への愛が目一杯籠ってるのがよく解るわ♡」

 

『あははははははは~♪』

 

 

 緋色のおちゃらけた一言でイエロー・ハーツ車内は笑いが溢れる。

 

 

「おほほほほ、まあ面白い♪緋色、アナタ装填時間1秒短縮&2発増のノルマ追加ね」

 

「出来るかこのドS女!」

 

「まあ、お下品だこと」

 

 

 こめかみに怒り皺を浮かべながらも微笑んで制裁を課す凜々子に緋色も言い返すが、凜々子はそのまま容赦なく作戦第二段階の開始を告げる。

 

 

「それじゃあ牽制が効いてるうちにさっさとやるわよ!緋色、榴弾装填5連射行くよ!」

 

 

 緋色の表情からもふざけた雰囲気が消え、装填手用グローブの手首の部分をグイッ引き上げ連続装填に備え気を引き締める。

 

 

「林檎、最終調整KV-2の右側面履帯ギリギリ狙うからね…仰角そのままで右に2度…いいね、それで行こう……撃ち方用意……撃て!」

 

 

 初弾が高弾道で撃ち出された瞬間凜々子は即次弾装填の指示を出し、装填手の緋色も電光の手業で装填を繰り返し怒涛の5連続高弾道砲撃をいともあっさりとやってのけた。

 

 

「完璧よ、さすがイエロー・ハーツの搭乗員は違うわ♪」

 

 

 プラウダの隊列の右側面に移動した愛のピンク・ハーツと、姿は見せずとも正確に当てて来る鈴鹿のブラック・ハーツ連携により足止めされ、応戦するKV-2の右の履帯ギリギリに降り注いだ5発の榴弾は、雪の中に飛び込み爆発しちょっとしたクレーターをそこに出現させた。

 

 

『さあ夏妃あなたの番よ!決めて見せなさい!』

 

 

 凜々子が心の中でそう叫ぶのと同時に、イエロー・ハーツ同様雪の吹き溜まりの陰に潜伏し、チャンスを窺っていた夏妃が指揮を執るブルー・ハーツの主砲が火を噴くと、撃ち出された徹甲弾が狙い違わずKV-2の砲塔に背後から直撃し、その直前までのイエロー・ハーツの攻撃により足元をグズグズにされていた頭の重いKV-2は、バランスを崩しゆっくりと土下座をする様にクレーターの中に倒れ込んで行くのであった。

 

 

「カ、KVたん!?」

 

 

 カチューシャがそれに気付いた時、既にKV-2は砲身から雪原に突っ伏すように横転し、加熱した砲身が雪を蒸発させ盛大に湯気を上げながら更にズブズブと雪の中に埋もれて行く最中だった。

 

 

「ニーナ!アリーナ!ちょっと大丈夫なの!?返事しなさい!」

 

 

 まさかの事態に愕然としながらもカチューシャが無線に向かって叫ぶ。

 

 

『いだだだだ……一体何…起ぎだんだびょん?(一体何が起きたんだろう)

 

「ニーナ!?」

 

「カチューシャ様?」

 

「怪我は無い?全員無事ね!?」

 

 

 無線から返って来たニーナの津軽弁にホッとしたカチューシャだが、この近距離でであるにも拘らず酷くノイズが雑じる無線に思わず顔をしかめた。

 KV-2が横転させられた直後にはAP-Girlsからの攻撃はピタリと止み、再び目晦ましのスモークを焚くとあっと言う間に全車揃って逃走しており、その良過ぎる引き際にはクラーラも呆れる程だった。

 

 

「KV-2に白旗を揚げさせる事無く行動不能にする…狙ってやったのであれば恐ろしいですね、殺傷力の低い地雷でも踏んだような心境です」

 

 

 クラーラの表現は中々に正鵠を得ておりノンナも不本意ながら同意せざるをえなかった。

 横転したものの白旗の揚がっていないKV-2は、地雷を踏んで負傷した兵士同様進軍速度を鈍らせる存在でしかない。

 これがもし可愛いKVたんを見捨てる事が出来ないカチューシャの心理を突いた作戦であればそれは実に見事としか言いようがなく、現実問題カチューシャはKVたんを引き起こす為の策はないかそちらに意識を奪われ、ノンナは再襲撃の可能性も捨てきれずどう現状を乗り切るかで頭が痛かった。

 

 

「それにしても…試合開始まもなくから気になっていたのですが、今日は無線の電波状況がやたら悪過ぎませんか?これ以上悪くなると試合運びにも支障をきたすのではないかと心配です」

 

 

 確かにクラーラの指摘の通り今日の通信の状態は原因は解らぬが芳しいものではなく、二度三度と聞き直す事も多くそれも結構なストレスになりつつあった。

 

 

「撃ち抜けなければ引っ繰り返すか…よく考えるものだ」

 

「最後の一撃は夏妃君か、実に見事な……い。いや連携が実に見事だなぁ!」

 

 

 前回大洗での大失態に続き、またしてもやらかしそうになったまほは慌てて言葉を途中で引っ込め誤魔化すのに必死だが、アンチョビはそれもスルーして話を続ける。

 

 

「連携というがアレは本当に最初から狙ってやったものなのか?私にはどうもそうは思えんのだがなぁ…何というかな、ウチじゃないがノリと勢いとかそんな感じがするんだよ」

 

「Why?その根拠は何なのよ?」

 

「それを言われると困るんだがな、一つにはラブが積極的に絡んで来なかっただろ?好きにやらせてるような感じがしたんだよ」

 

 

 何も根拠はないがそう感じる程度、それでもその答えにはケイもしっくり来るものがあった。

 

 

「しかしだな…さっきから気になってるんだが、中継の映像がやたらノイズだらけなのはどういう事だろう?今までこんな事ってあったかぁ?」

 

 

 観戦エリアに数面用意されている大型モニターに映る映像には試合が始まって暫くしてからやたらとノイズが乗るようになり、それが通常の事態でない事は忙しなく動き回る中継関係者の様子からも明らかで、アンチョビは何とも言いようがない漠然とした不安を感じているのだった。

 そしてその不安感は後に最悪な形で現実のものとなるが、この時はまだ誰もそれは予想だにせず、漸く動き始めた試合のこの先の展開に思考を巡らせる方に頭を使っていた。

 

 

「うん♪やっぱり凜々子と夏妃の連携ってラブラブよね~♡」

 

「馬鹿言ってないで私らもどう動くか早く決めなさいよ。こんなトコでジッとしてたら冷える一方じゃない、寒くて堪ったもんじゃないのよ!」

 

 

 展開するAP-Girlsの各車から離れた場所に陣取ったLove Gunは、先程援護射撃した以外は動く事無く戦況を見守っており、まるで観戦武官でも気取っているようにも見える。

 

 

「もうちょっとあの子らが何やるか見たいんだけどな~」

 

「ラブ姉はそれでいいかもしれないけど、私らはそれじゃここに来た意味ないでしょうが!」

 

「そんな怒らなくても……」

 

「大体ラブ姉だって雪上戦闘はそんなに経験ないんでしょ?だったら高みの見物の前にもっと前に出て積極的に動くべきなんじゃない?そうじゃなきゃこれだけの舞台用意して下さったカチューシャ隊長にも失礼だと思うんだけど!?」

 

「うぅ…解ったわよぅ……」

 

 

 瑠伽に尻をけ飛ばされるようにしてやっと動き始めたラブは、ここでAP-Girlsを再集結させる事に決めると通信手の花楓にその旨伝達するよう指示を出したが、無線の電波状況は更に悪化しているらしく先程まで以上に無線通信でのやり取りに支障が出始めているようだ。

 そしてこの電波障害はラブ達だけではなく連盟派遣の審判団の運営面でも影響が出始めていた。

 まず最初の異変は交戦エリア上空で直接試合を監視する任に当たっている、連盟観測機の銀河との情報通信の途絶であった。

 

 

「こ…ら篠川……こえてますか?現在交戦エリア上空に…無かった気流の乱れ…しています。これ以上悪化……銀河では当該空域…不能になります。運営本部に試合続行…願います……」

 

 

 第一報は観測機の銀河に搭乗し交戦エリア上空に滞空しながら試合の行方を見守っていた審判員の一人、メガネも可愛い篠川香音からの無線連絡であったがその交信もノイズ雑じりの上に途切れがちであり、審判長の亜美も意思疎通に苦労し送られて来るはずのデジタル化されたデータが来ないとあっては試合中止も視野に入れなければならなかった。

 何より篠川からの連絡内容から判断すれば、試合開始前の気象情報には存在しなかった新たな雪雲が発生し、その規模は前日に笠女学園艦の青森港入港を阻んだ大暴風雪と同等と予想され、これ以上銀河を当該空域に滞空させる事は安全確保の観点からも責任者としては認めらず、亜美は即決で現時刻を以って練習試合の中止を決定しその旨の両校への通達をするよう指示を出した。

 亜美のこの辺りの判断の速さはさすがであったのだが、それでも状況の急変に追い付く事は出来ず、関係者全ての予想を超える勢いで事態は悪化して行くのだった。

 

 

『お~い…ちょ…もう一度集まろ……集結ポイント……』

 

 

 増々通信状況が悪化する無線から途切れ途切れに聴こえるラブの指示を、何度となく聴き直し繋ぎ合わせた情報からAP-Girlsはどうにか再集結を果たしていたが、その間に風は強まり空の色はあっと言う間にどんよりと重い鈍色になりつつあった。

 

 

「ハイ♪みんなお疲れ、KVたんは見事に仕留めたみたいね。アドリブから即興の連携も問題無さそうだわ、でもカチューシャとノンナ相手にそうそう同じ手は通用しないからね。ここからはちょっと集団行動も交えつつ、個々の力を活かした機動戦闘も試してみようか」

 

 

 八甲田育成牧場の最深部に再集結したAP-Girlsの5両のⅢ号J型は、今は圧雪されていなかった場所をを共同で地均しをして風を避けられる即席の野営地を造成すると、身を寄せ合うように集まって作戦会議という名のおやつタイムに突入していた。

 

 

「それはいいけどラブ姉、私ら通信手全員でチェックしたけどいよいよ無線は完全に使えないよ。これだけくっ付いた状態でメリ2じゃあね、戦闘機動に入ったらもう使用不能だと思ってちょうだい」

 

 

 気だるげな瞳はそのままながらも、更に悪化してしまった通信障害に関して各車通信手の意見をまとめたイエロー・ハーツ通信手の高御堂寧(たかみどうねい)はきっぱりと言い切った。

 

 

「そこまで酷い?理由は何なの~?」

 

「それも解らないわ、気象条件でここまで悪くなる事もそうある事じゃないし…アレコレみんなで検討したけど本当に不明よ」

 

「そう……」

 

 

 ラブも寧の返答に腕を組むと難しい顔に顔になってしまう。

 敵集団に飛び込み近接戦闘を行う際に、各車の連携プレイをより高度なレベルで実行するには通信手による緻密な情報伝達が欠かせず、AP-Girlsの戦闘機動には通信手は非常に重要なポジションにあり、その彼女らがそう言うという事は相当に事態は深刻と言えるのだった。

 

 

「共用回線も当然使えなくなってるから最悪試合中止もあり得るわね」

 

「ダメよ!それだけは!私とカチューシャとノンナの大事な試合にそれだけは許されないわ!」

 

「ラブ姉?」

 

「…ごめんなさい……」

 

 

 常に安全を最優先するラブらしからぬ発言に会話を交わしていた寧を始め、AP-Girlsのメンバー達も少し驚いた目でラブを見ると、ハッとした表情になったラブは消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にしたが、カチューシャ達の卒業までの残り時間を考えるとやはり焦りが出るだろう事は容易に予想が出来る事だった。

 

 

「ラブ姉が謝る必要はないわ、私達だってラブ姉の気持ちは解っているつもりだから…でもちょっとこの天候状況を考えると少し行動を速めた方が良さそうね」

 

「ありがと…鈴鹿……」

 

 

 ラブ程ではないが上背のある鈴鹿が傍に来てラブの腰に手を回し抱き寄せると、ラブの気持ちを落ち着かせるように落ち着いた声で語り掛け、それで少しラブの感情の昂ぶりも落ち着きを見せた。

 

 

「さあ、それじゃあこれからどう動くか決めましょ♪まあそうは言ってもいつもの私達らしくやるしかないとは思うけどね、短期決戦ならいくらでもやり様はあるものね」

 

 

 鈴鹿の悪戯っぽい笑みにラブの表情にも明るさが戻り、淹れて貰ったコーヒーを口に含むと身体が温まると共に思考も回り始めいつものラブらしくなって来た。

 ラブ達がそうして気持ちを切り替えていた頃、それとは裏腹に事態は悪い方へ一気に舵を取り進行し始めて最早試合処ではない状況になりつつあった。

 

 

「オイオイ、コイツはいよいよおかしいぞ…さっきから映像が固まったりブラックアウトしたりだし、何より観測機からの映像が無くなってるじゃないか…蝶野教官達の動きもおかしいし、これはもしかして試合中止の判断が出てるんじゃないのか?」

 

「ウム…だがまだ何もアナウンスされないというのはどうなんだろう?審議中って辺りかな?」

 

 

 アンチョビとまほは観戦スタンドから見える運営本部テント周辺の動きが明らかにおかしい事に不審を抱き、その様子を探るように観察しているがそこからでは当然詳しい事など解らなかった。

 

 

「少し前からあらゆる通信デバイスに障害が出ている様ですね」

 

「ナニ……?」

 

 

 アッサムが珍しく不快さを隠さず自身の携帯や膝の上のノートPCを指差した後、それぞれに自分の携帯を確認するよう促す。

 

 

「アレ?何時の間に…アンテナ何にも立ってないぞ……」

 

 

 全員が確認すると全ての携帯端末が使用不能になっており、皆一様にどういう事だと顔を見合わせたがそれで原因が分かるはずもなくただ首を捻るだけであった。

 

 

「もしかすると無線も使えなくなっているのかもしれませんね…現地と一切連絡が着かなくなってるのでは?しかしここからでは何も解らないですね……」

 

 

 アッサムも確証を掴んでいる訳ではないのではっきりとした事は言えず、どうしても奥歯に物の挟まったようなもの言いになり、それが一層その表情の不快さを色濃くしているかに見えた。

 

 

「いずれにしてもここじゃ何にも解らんな…蝶野教官の所へ行ってみるか……」

 

「しかし我々部外者が行ってもだなぁ……」

 

「この6連戦、我々を部外者扱いする方がおかしいと思うのは私だけか?」

 

 

 アンチョビの言う事は強引過ぎる気がしたが、このままでは埒が明かないのも確かなのでまほもアンチョビの提案に賛同すると観戦スタンドをから降りるべく立ち上がった。

 

 

「無線呼び出しは続行して!それ以外の通信手段も試せる物は全て試してちょうだい!」

 

 

 訪れた運営本部では審判長の亜美が陣頭指揮を執り、何とか現地に居る者達と連絡を取ろうと試みておりそれだけでアンチョビ達は自分達の推測が正しかった事を知る事が出来た。

 

 

「ビンゴか…それにしてもこの混乱ぶりは一体どういう訳だろう?」

 

 

 今もアンチョビの目の前で無線機に向かい、試合中止を告げる文面を読み上げては反応を窺っているが無線機から返答は一切なく虚しくノイズが返って来るのみだ。

 

 

「教官!蝶野教官!」

 

「千代美ちゃ…アンチョビさん何故ここへ?って察しは付いてるようね……」

 

 

 現れた面子を見た亜美は誤魔化すのは無駄な努力であると即理解したらしく、全員をテント内に招き入れると大雑把にではあったが現在までの状況を説明するのであった。

 

 

「やはり全通信手段が断たれてましたか……」

 

「ええ、ギリギリで銀河は帰投させたけど青森に降りられなくて三沢に降ろさせて貰ったわ……」

 

「しかし無線だけではなく中継映像や携帯まで繋がらない電波障害って……」

 

「まだ原因は解らない…ただその原因がひとつだけって感じじゃない気はするのよ」

 

 

 亜美の話では今回の練習試合から試験的に導入された緊急用GPSシステムも機能しておらず、立ち会っているメーカーサイドからの情報では、どうやら基地局がダウンしており携帯等もそれが原因で使えなくなっているようであるらしかった。

 

 

「とにかく試合中止を伝達するのが急務なんだけど、通信手段が断たれた上に銀河が現地を離れたのと同時に飛行禁止の命令が出て、仕方ないから陸路で伝令が向かってるけど時間が掛かるわ」

 

 

 亜美の説明を受けある程度の状況は解ったものの、それでどうする事も出来ぬアンチョビ達は運営本部のテントを出て席に戻ろうとしたが、この短時間の間にも空模様は激変しておりまるで夜の様な暗さに一同はギョッとするのであった。

 

 

「なんだかとんでもない事になって来たな……」

 

「あ。ああ…取り敢えずは席に戻るとするか」

 

 

 アンチョビと短く言葉を交わしたまほが歩き始めたその瞬間、片手をグイッと掴まれバランスを崩すとそのまま後ろに倒れ込みそうになり、寸での処で踏ん張ったまほは振り返るといきなりその手を掴んでいる相手に向かい大きな声を上げるのだった

 

 

「うわっと!何をするんだ角谷!危ないじゃないか!」

 

 

 まほの手を掴んだまま離さず俯いている杏に向かい、まほは思わずそう言ったのだがどこか様子がおかしい事に気付き恐る恐る杏の顔を覗き込んだ。

 

 

「角谷……?」

 

 

 まほの声にやっと顔を上げた杏は両の瞳一杯に涙を溜めており、その表情は不安感に押し潰されそうな、とても廃校阻止に奔走していたあの生徒会長と思えぬ表情だった。

 

 

「…だよね……ラブは大丈夫だよね……」

 

 

 その一途に友を想う杏の真摯な様子に全員が胸を打たれたが、少々違う感情も沸き起こっていた。

 

 

『可愛過ぎだ角谷!お持ち帰りしたい!』

 

 

 これは所詮ケダモノは何処まで行ってもケダモノという事かもしれない。

 

 

「あ…ああ、大丈夫だ!ラブは私達の中で誰よりも強いヤツだからな!」

 

 

 我に返ったまほが力強くそう言うと杏も何とかそれで納得しようとしているが、しかしそれには何処か無理矢理な感があった。

 

 

「ラブ……」

 

「とにかくここにいてもしょうがない…そうだ、アンツィオ(ウチ)の出店の方へ行こう。また冷えて来たから何か温かい物を身体に入れた方が良いだろう、それにお隣は笠女の出店だから何か情報が入って来るかもしれないからな」

 

 

 一同は揃ってアンツィオの出店に向かいアンチョビの振る舞いで温かい物を口にすると、それだけで確かに精神的に大分落ち着く事が出来た。

 今は杏のメンタル面のケアをダージリンとアッサムが受け持っており、この辺のそつのなさはさすがであると食事を提供しながらも目を配っていたアンチョビは感心し、その傍で杏の気持ちを盛り立てようと必死に明るく振る舞うケイの姿も好感をもって見ていた。

 

 

「何よコレ…何なのよこれは!雷雪じゃないの、聞いてないわよこんなのは!」

 

 

 八甲田の雪原のただ中、T-34/85のコマンダーキューポラ上でAP-Girlsの奇襲によって横転させられたKVたんを、何とか戦列に復帰させるべく陣頭指揮を執っていたカチューシャの叫びが響く。

 中々作業が思うように進まず、イライラし始めた処に突如として空が暗くなったと思うと一気に吹雪き始め、それと共に激しく空が明滅したと思うと雷鳴が轟き渡った。

 

 

「凡そ考え付く中で一番最悪の事態になりましたね……」

 

「普通こんな事態考え付かないわよ!」

 

「カチューシャ様?」

 

「解ってるわよ!作業中止!このままじゃ埋まるわ、牧場入口の道路まで後退!急ぎなさい!」

 

「カチューシャ様、この様子だともう試合自体も中止かと思いますが如何しましょう?」

 

「ラブ達はどうなってるの?あの子達かなり奥に陣取ってるんじゃないの!?無線の共用回線で呼び掛けてみなさい!」

 

「無線は大分前から使用不能になっています、お忘れですか?」

 

「クッ…もう中止なら仕方ない、携帯で呼び出すからいいわよ!」

 

 

 カチューシャは自身の携帯を取り出しラブに電話を掛けようとして、そこで初めて携帯まで圏外となっている事に気が付いた。

 

 

「あら!?どういう事よ……?」

 

「圏外ですね……」

 

「確かに……」

 

 

 カチューシャの様子から異変を感じたノンナとクラーラもそれぞれの携帯を確認すると、やはりカチューシャの携帯と同じく圏外の表示が出ていた。

 

 

「……隊長権限でこの試合の中止を宣言するわ!ノンナ、例のタブレットの封緘を解きなさい!」

 

 

 ノンナは無言でカチューシャの命に従い、即タブレットを取り出すと専用ケースに掛けられた封を解きその電源を入れたのだった。

 これにより自動的に位置情報などが発信され、また開封し電源を入れたという事は非常事態の発生を宣言するのと同様であった。

 

 

「これで審判団にも試合中止の意志が伝わったわね──」

 

「カチューシャ様」

 

「何よ!?」

 

 

 いきなりノンナに話の腰を折られたカチューシャが牙を剥いたのだが、それも再びノンナが遮ったがその表情から良からぬ事態であろう事はカチューシャにも想像は付いた。

 

 

「カチューシャ様……」

 

「何よ…まさか……」

 

「はい、そのまさかです」

 

「そんな……」

 

「この非常用タブレットも圏外表示です。これはどうやら基地局がダウンしていると見るのが正解かと思います、携帯が使えない段階で気付くべきでした」

 

 

 ノンナの掲げるタブレットだけでは納得が行かないカチューシャは、自車のタブレットも取り出し電源を入れたものの、やはり圏外の表示が出るのみで何の役にも立たないのは同じだった。

 

 

「…それじゃあ私達は……」

 

「はい、一切の通信手段が断たれた状態ですので孤立したのも同然ですね……」

 

 

 冷静さを保ってはいるもののよく見ればノンナの顔も若干青ざめており、事態の深刻さはそれで充分にカチューシャにも伝わっている。

 

 

「観測機が帰投しているので審判団でも中止の判断をしているとは思いますが、この状況ではもうヘリも飛べないでしょうから我々も即撤収という訳には行きません──」

 

「ちょっと待って!私達はそれなり耐寒訓練してるけどラブ達は違うわ…マズい…マズいわよ!」

 

 

 カチューシャの叫びにノンナもその事実に思い至り、手にしていたタブレットを取り落とした。

 今、白い悪夢が彼女達を確実に飲み込むべく急速にその勢いを増しつつあった。

 

 

 




Ⅲ号でKVたんを倒すにはどうしたらいいいか?
文字通り倒すしか思い付きませんでしたw

今回のタイトルでもある雷雪は世界的に見て珍しい気象現象の様ですが、
ちょっと無理矢理だけど話を転がすネタに使ってみました。


それにしても先週の疲れがまだ抜けません、つくづく歳を実感しますww
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。