ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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予定外にサービス回になってしまいました♪

R-15指定に収まってると思うけど……。


第三十二話   眠り姫の起こし方

 激しい吹雪の中、吹き付けた雪に飲まれ埋まりつつある五つの異形の影がある。

 フラッグ車でありあらゆる意味でAP-Girlsの要であるLove Gunを中心に、五色のハートが寄り添って互いに励まし合うようにひたすら襲い掛かる白い脅威に耐えていた。

 

 

「う…ん……」

 

「あ、お目覚めかな……?」

 

「いや、まだ暫くは朦朧としてると思う。一番強い痛み止め飲ませたから……」

 

「そう……」

 

 

 Love Gunの車内、狭い砲塔バスケットの床面に毛布を重ねて敷き詰めた上で、痛み止めを服用後眠りに落ちたラブを辛い姿勢にもかかわらず泣き言一つ言わず支え続けてきたLove Gun砲手の瑠伽は、心配げに様子を窺う通信手の花楓にそっと答えた。

 腕の中で今も眠り続けるラブは何か夢でも見ているのか時折微かに声を漏らしている。

 

 

「どんな夢見てるのかな……?」

 

「もう悪夢だけは見せたくないね」

 

「うん……」

 

 

 アンチョビを始め嘗ての仲間達の力を借り、事故以降苛まれ続けた悪夢から解放されたラブ。

 しかしそれで抱える後遺障害からも解放される訳ではなく、実際こうして不規則に顔を出す様々な症状に今も苦しみ続けているのが現実であり、それならばせめてもう二度とラブが悪夢で苦しむ事がないようにと願うAP-Girlsの少女達であった。

 

 

「…あ……い……」

 

「え?ナニ?」

 

「寝言だね……」

 

「何だって?」

 

「あ…い……あい…愛……」

 

『愛!?』

 

 

 思わず顔を見合わせる瑠伽と花楓、更に美衣子と香子も反応してラブの寝顔に見入っている。

 一同の視線を集めた瞬間ぽろりと一粒の涙が閉じられたラブの目から零れ落ちた。

 それで全てを察したらしい一同が、小声ながら一斉に愛に対する糾弾の言葉を吐き出し始めた。

 

 

「あの馬鹿結局あれっきりラブ姉のアピールをスルーし続けてるんだろ?」

 

 

 観閲式の後にみほとエリカに梓とオレンジペコ、更にまほとラブにとっては初恋の相手であったと思われるアンチョビとの間を、えげつない手段で取り持ちカップルを成立させたラブであったのだが、自身の愛への想いは非常階段での一件以降も様々なアピールを試みて来たものの、尽く巧みにスルーされここに至るまで二人の関係は何の進展も無かったのだ。

 

 

「愛のヤツあれだけラブ姉に愛されているのにさ…さすがにちょっとムカ付いて来たわ……」

 

 

 人の恋路に関してはアレコレ画策し活動的過ぎるのに対し、自身の恋愛感情にはむしろ奥手過ぎる程に相手の気持ちを重視して強引な手をラブは一切取らなかった。

 それを解っているはずの愛は日頃献身的にラブに尽くしていながらも、その雰囲気を敏感に察知すると微妙な立ち回りでそれを躱し続けていたのだ。

 結果ここまでの処、ラブにとっては生殺しの日々が続いて来たといってもいいだろう。

 

 

「自分にはその資格がないとか何とかほざいてさ……」

 

 

 実際に愛は自分とラブとではとても釣り合わぬと云う思い込みが強く、ここまでの処は生来の頑固な性格を発揮して、周囲のそれとない助言のような言葉にも耳を傾けずにいた。

 

 

「さすがにこれじゃあラブ姉が可哀想だよ、帰ったら愛のヤツちょっとシメようか?」

 

 

 最後に瑠伽の放った言葉に一同無言で頷き、ここに愛の欠席裁判は終了した。

 しかしその間もラブは覚醒する事無く微睡みの底を漂っている。

 

 

「これでやっと500m前進か…やはり八甲田の雪は一筋縄じゃ行かないわね……」

 

 

 亜美が搭乗する施設作業車と2両の75式ドーザが連携して除雪を続けているが、それまでに積もった雪と今も猛吹雪が続き視界も悪く中々前に進む事が出来ずにいた。

 後方では引き続きプラウダの車両が走り回り除雪部分の圧雪を続け、T-34/85の車内では隊長であるカチューシャ自らが無線に向かい今もラブ達に向かい呼び掛けを続けていた。

 

 

「これだけ近付いてもまだタブレットの影響を受けてるのね……」

 

 

 やはり応答がない事に思わず天を仰ぐカチューシャの声は、無線に独り語り続けかすれ気味だ。

 思い出したように傍らのペットボトルを手にしたカチューシャは、ひと口水で喉を潤すと再び無線機に向かい諦める事無く呼び掛けを再開した。

 虚しく思える程の努力を続けるカチューシャだが、無線とは別の理由で状況の変化に気付く者がAP-Girlsの中にも表れた。

 イエローハーツの通信手である高御堂寧(たかみどうねい)は、ほんの微かではあるがそれまでの吹き付ける猛吹雪とは明らかに違う振動が伝わって来る事に気が付いていた。

 

 

「ねえ凜々子……解る?」

 

「え…!?寧、何の事よ?」

 

 

 突然寧に話を振られた凜々子は意味が解らず目を白黒させるが、寧はそれを無視するように人差し指を唇の前に立てて静かにするよう仕草で示すと、今度は耳元に掌を添えよく聞けとでもいった風に目を閉じるとそのまま何も言わなくなった。

 

 

「何よ全く……」

 

 

 ぶつくさ言いつつも凜々子も外の様子に集中すると、最初は吹き荒れる吹雪の音しか感じなかったものの、暫くすると確かにほんの微かにではあるがそれ以外の振動が伝わって来る事に気が付いた。

 

 

「え?何これ…ひょっとして戦車の駆動音……プラウダが近くに居るの!?」

 

 

 やっと訪れた状況の変化に凜々子は大きく目を見開き声を上げると、通信手の寧に僚車とのコンタクトを取るよう命じた。

 寧の表情は気だるげなままだが、手早く無線を操作してノイズと戦いながらも連絡を始めた。

 しかし暫くするとヘッドホンを両手で押さえたままピクリとも動かなくなった。

 

 

「寧、どうしたのよ?」

 

 

 寧は再び口元で人差し指を立てて静かにしろと無言で訴える。

 凜々子は少しムッとした表情になりながらもそれに従い様子を見ていたが、暫くすると寧がタイミングを計ったように無線のトークボタンを押して、中々に色気のある声でお決まりの無線チェックの定型文をコールする。

 

 

「Bravo, This is Yellow Heart, radio check how do you read? over.」

 

 

 待つ事暫し、再び同じ内容で交信を試みた寧は、スピーカーでも聞けるよう操作して相手からの応答を辛抱強く待ち続ける。

 他の搭乗員達も通信の妨げにならぬように息を殺す。

 

 

『こ…ウダ……応…タブ…無線……破……』

 

 

 ノイズ雑じりながら微かに聴こえる人の声に、思わず歓声を上げそうになった一同は寸での処で堪えると、一言一句聞き漏らすまいと更に耳を傾ける。

 

 

『…ちらプラウ……カチューシャ…応答……』

 

「カチューシャ隊長!」

 

 

 遂に聴き取ることが出来た決定的なキーワードに思わず凜々子が歓声を上げる。

 

 

「あ!ごめん……」

 

 

 その瞬間には寧に無言で睨まれ慌てて両手で口元を押える凜々子。

 凜々子の子供っぽい仕草に口元だけ微かに笑って見せた寧は、相手の送信が終わった後に一呼吸おいてから応答を始めた。

 

 

「カチューシャ隊長、こちらイエロー・ハーツ、通信手の高御堂です。現在かなり聞き取り難い状況ですがカチューシャ隊長の声は届いています、送れ」

 

 

 寧は応答を待つほんの少しの空白の時間が、今のイエロー・ハーツの搭乗員達にはとても長く感じられたが、無線のスピーカーからはノイズに乗りながらも待ち望んだ答えが返って来た。

 

 

『イエローハーツ!こち…カチュー……よく聞き…非常…タブレ……無…妨害……破壊…』

 

「なんだろう?何か壊せと言ってるようだけど……」

 

 

 ノイズの中から必死に言葉を拾い上げる寧は、再びカチューシャに同じ内容を聞き取れるまで再送するように依頼を数度行いやっとカチューシャにもその意図が伝わると、カチューシャも意識してキーワードを区切りながら数度に亘り送信を続けた。

 

 

「う~ん、どうもこの非常用タブレットが無線に干渉してるから壊せって言ってるみたいね……」

 

「うん、言ってる事総合するとそうなるわね」

 

「どういう事かしら?電源入ってないわよね?」

 

「まあ壊せって言うんだからその通りにしましょう」

 

「でもどうやって?リチウムバッテリー車内で壊すとか怖いんだけど」

 

「ようは本体からバッテリー取り外せばいいんでしょ?でもどうやら専用工具が要りそうだから車載工具でこじって取り出すのが手っ取り早いかもね」

 

 

 寧は工具箱の中からマイナスドライバーとプラハンを取り出すと、タブレットからバッテリーを引き剥がす準備を始めたが、ふと思い出したように他の者達に警告を出した。

 

 

「まあ大丈夫だと思うけどさ、念の為に毛布でも被って飛散に備えててくれる?」

 

「寧はどうするのよ!?」

 

「まあ大丈夫よ、あくまでも念の為って事よ」

 

「でも!」

 

「ねえ凜々子、心配してくれるのは嬉しいけどあまり時間ないと思うよ?一刻も早く無線回復させないとラブ姉の事もあるでしょ?」

 

 

 そう言われると何も言えない凜々子が無言で毛布をかぶったのを見て、薄っすらと笑みを浮かべた寧は自身も作業用グローブと雪対策で支給されていたゴーグルを掛け、問題の非常用タブレットの分解に取り掛かった。

 最初はバキバキと精神衛生上あまり宜しくない音がしていたが、暫くしてそれが収まると寧の色っぽい声が作業が終了を宣言した。

 

 

「さて、取り敢えずこれでカチューシャ隊長と交信出来るかな?他車からの影響をどの程度受けるか解らないけど一度試してみよう」

 

 

 寧は再び無線機に向かいカチューシャの呼び出しに掛る。

 

 

「カチューシャ隊長、こちらイエロー・ハーツ、通信手の高御堂です。指示通り非常用タブレットは破壊しました。こちらの声聞こえますか?送れ」

 

 

 無線交信のセオリーに則り一瞬の間が空くが、それが今はとても長く感じられる。

 

 

『イエロー・ハーツ、こちらプラウダのカチューシャ!まだ少しノイズが雑じるけど問題無く交信出来るわ!送れ!』

 

「来た!」

 

「繋がった!」

 

「ウソ!?マジでこれが妨害してたの!?」

 

 

 やっとまともに交信が出来るようなった事に沸き返るイエロー・ハーツの車内だが、寧は冷静にそれを制するとカチューシャから簡単にここまでの状況説明を受け、その後に各車に向け非常用タブレットの破壊を指示を無線で数回繰り返し、それから数分後に漸く全車の無線が完全に回復した。

 

 

『処でさっきから全然ラブの声が聞こえないけど何かあったの?』

 

 

 真っ先に反応して当然の人間の声がしなければ不審に思われるのも無理の無い事で、一瞬イエロー・ハーツ内に緊張が奔ったが、通信手の寧が淀み無い口調で実にスラスラとはったりを口にした。

 

 

「ああ、カチューシャ隊長申し訳ありません。さっきまで交代で仮眠を取っていて、ちょうどラブ姉は寝てる処だったのですが、最近のラブ姉は一度寝ると()()()()で中々起きなくなっちゃってるんですよ。Love Gunでもこの無線聴いてるはずですから起こしに掛かってると思いますよ」

 

『ああ、それならいいわ!そのまま寝かせておきなさい!』

 

 

 ラブがぐっすり眠れるという事に反応したカチューシャが、機嫌の良さそうな声で返して来た。

 

 

「ありがとうございますカチューシャ隊長」

 

 

 無線の向こうのカチューシャに礼を述べる寧に向かい、イエロー・ハーツのメンバー達が声に出さずにナイスと言いながら機転を利かせた寧に向って親指を立てていた。

 そして問題のLove Gunの車内では瑠伽達が、今も薬の副作用で起こしても朦朧としたままのラブを覚醒させるべく苦労をしていた。

 

 

「濃い目のコーヒーでも淹れてブラックで飲ませる?」

 

「いや、まだ薬効いてる時にカフェインはまずいんじゃないかなぁ?」

 

「お~い、ラブ姉起きようよ~」

 

「それで起きりゃ苦労しないって……」

 

 

 瑠伽の腕の中のラブは力無くその身を瑠伽にしなだれかからせて、未だ寝惚けたその目はトロンとして非常に色っぽく、傍から見たその光景は極めて倒錯的で見る者は全員ドキドキが止まらない。

 

 

「うぅん……♡」

 

「ちょ!ラブ姉!?」

 

 

 抱かれたまま伝わって来る温もりが心地良いのか、寝惚けたままのラブが瑠伽の頬に頬擦りを始め、Love Gunの中は空気が一気にピンク色になり気のせいか車内温度も急上昇したように感じる。

 

 

「ラブ姉ホントに寝惚けてるの!?そういう事は愛とやれって!コレ完全に欲求不満だろ!?あのバカヤロ、愛のヤツ帰ったらマジでシメる!」

 

 

 もはや朦朧というより酩酊といった方が的確な状態のラブには何を言っても通じないようで、匂い付けに夢中な猫のように瑠伽に頬擦りを続け、鼻腔の奥をラブの発する甘い匂いが刺激して理性を保つのに苦労する中、狭くて逃げ場の無い瑠伽はラブに好き放題され放題いいようにされている。

 

 

「だからおまえらも写メ撮るな!動画もだ!」

 

 

 瑠伽の言う事など端っから無視して使える照明を全て点灯し、瑠伽にじゃれつくラブの姿を撮りまくる花楓と美衣子と香子の三人の目は、爛々とケダモノの光を放っていた。

 

 

「いやいやいや♪鈴鹿と双璧を成すAP-Girlsきってのクールビューティ瑠伽と、厳島の姫君の秘め事なんて貴重な場面撮り逃せませんって」

 

「淫ら姫♡」

 

「あの逝っちゃってる目がヤバい♪」

 

 

 好き勝手言いながら撮影を止めない彼女達に向かい、ラブを押えるのに必死だった瑠伽がここで遂に切れて、視線も鋭く睨み付けると語気も鋭く言い放った。

 

 

「そうかそんなに撮りたいか!?ならばしっかり撮っておけ!」

 

 

 そう言った直後に瑠伽の表情は一変し、淫靡な笑みを浮かべると毛布を剥ぎ取りラブを無理矢理身体の正面に抱き込むと、その首筋に舌を這わせながら両のたわわを荒々しく揉みしだく。

 それでもまだ完全に目の覚めていないラブはその快楽に身を委ね瑠伽に身体を任せている。

 

 

「あうぅん……♡」

 

 

 ラブの口から何とも色っぽい声が漏れる。

 

 

「うおぉ…マジか!?」

 

「スゲェ……」

 

「これは何杯でもおかわり行けるわ……」

 

 

 生唾を飲み込みかぶり付きの三人の前で、瑠伽の攻めは更にエスカレートする。

 大仰な仕草で右手の中指に舌を這わせると、その右手はラブのミニスカートの中に滑り込んで行き更にその下の薄布の中に潜り込んで行く。

 

 

「えぇ!?」

 

「そ、それは!」

 

「おぉぉぉ……」

 

 

 ラブの身体か一瞬びくりと震え、瑠伽は左手でラブの顔を三人が構える携帯に向け蕩けた顔が良く写るように仕向けた。

 そして今度はラブの左手を取るとすらりと長い薬指を根元からしゃぶり始め、ちゅぷちゅぷと淫らな音をLove Gunの内部に響かせた。

 最初はその快楽に身を任せていたラブであったが、襲い来る強い刺激に再び大きく身を震わせた後、やっとその意識も覚醒した様であった。

 

 

「え……?ナニ?る、瑠伽…?ちょ、ちょっと何を…あぁん♡ダ、ダメぇ!そ…ソコはぁ……!」

 

「ダメよ…止まらないわ♡ラブ姉が悪いんだからね……」

 

 

 瑠伽のラブへの攻めは、既に完全に歯止めが効かなくなっている。

 

 

「そんな…ゆ、指がこんなに気持ちいいなんて……」

 

 

 瑠伽がラブの指をしゃぶる度にラブはその快楽にその身をぴくりと反応させる。

 

 

「もうやめ…あぁ…だから入れちゃ……そんなにしゃぶっちゃダメ…だから先っちょは……ソコはもうホントやめて……ダメ、し、神聖な戦車の中でこんな……あぁ~ん♡」

 

 

 瑠伽の腕の中で力尽きぐったりとするラブの耳元で、瑠伽はそれまでと打って変わってクールなLove Gun砲手の声でラブに問い質した。

 

 

「ラブ姉、目は覚めたか?」

 

「る…瑠伽?」

 

「まだ足りないの?もう一回やる?」

 

「い、いえもう充分!」

 

「ならば結構」

 

「うぅ…何で私がこんな目に……」

 

 

 後に花楓と美衣子と香子から動画を見せられて、何故そうなったか知ったラブは盛大に凹む事になるが、今は直ぐ目の前まで来ている救助隊への対応を迫られていた。

 

 

「ホラ、ラブ姉、蝶野教官やカチューシャ隊長がすぐそこまで来てるわよ」

 

「う、うん解ってる…でもこれが原因だったなんてねぇ……」

 

 

 既に破壊され沈黙している非常用タブレットをしげしげと見つめながら、自分が眠っていた間の経緯を聞きこんな物の為により事態が悪化していた事に只々驚くのであった。

 

 

「こちらLove Gun、厳島です。AP-Girlsは全車健在、大変ご心配をお掛けしました」

 

『ラブ!無事なのね?体調おかしかったりしないのね!?』

 

「ありがとうカチューシャ。私ちょうど()()取ってたらウチの子らが変に気を利かせて起こしてくれなかったから連絡が遅れちゃったわ。ごめんなさいね」

 

『それは別に構わないわ、よく眠れるのは良い事よ』

 

 

 お昼寝大事なカチューシャは実にその辺には理解力があり、それが幸いしてどうにかこの場は誤魔化す事が出来たようだ。

 

 

『それよりあなた達の正確な位置を知りたいの、こちらでもある程度は絞り込んでるけど、掘り起こすのにより正確な位置が分かると助かるわ』

 

『それなら手っ取り早い手があるわ』

 

「蝶野教官!?」

 

『恋さんお待たせしちゃってごめんなさいね。そしてまたしても連盟の試験導入の結果ご迷惑をお掛けしてしまった事、本当に申し訳なく思います』

 

「いえ、誰一人怪我もしていませんし気になさらないで下さい」

 

『ありがとうございます…それでですねカチューシャさんが言った通り、われわれも大凡の位置は把握しています。ですからその場で榴弾で構わないから発砲出来ませんか?方向的に多分砲塔はこちら方向を指向してると思うので、私達は一端軸線上から退避しますので一斉に3発程撃ってみて下さい。そうすればある程度積もった雪も吹き飛ばして見付け易くなると思うわ』

 

「了解しました、退避が完了したらご連絡ください。一斉砲撃を行ないます」

 

『了解』

 

 

 それから数分後、作業車とプラウダの各車の退避が完了し、ラブの指揮の下5両のⅢ号J型が榴弾を3連射すると、上に積もっていた雪が陥没してその辺りだけ窪地が出来上がり、車体部分はまだ埋まっているが砲塔部分は雪の上に顔を覗かせていた。

 砲撃終了の連絡を受けた救助隊が再び除雪作業に戻り掘り進む事約一時間、遂に吹雪の中でも互いの姿を認識出来る距離まで到達した。

 

 

 「ラブ!」

 

 

 数時間ぶりにその姿を確認したカチューシャが声を限りにその名を呼ぶと、ラブもまた笑顔で声のする方向に大きく右手を振って応えた。

 ここまで黙々と作業にあたっていた笠女の生徒達もやっと安堵の表情を見せ、指揮に当っていた亜美もまた、ひとつ大きく息を吐くと笑顔になった。

 そこからは笠女の作業班の独壇場となり、怒涛の勢いでAP-Girlsを掘り出すと90式戦車回収車が穴の底から次々とラブ達を釣り上げ救助を完了させた。

 そしてその後はもののついでという訳ではないが、引っ繰り返されて埋まっていたKVたんも助け出し、積雪量が朝より更に増えていた為両校の全車両と救助隊が隊列を組み自力で下山した後、市街地を行進する姿は実に壮観であり道行く人達から大いに喝采を浴びたのだった。

 残念ながら試合はノーゲームとなりスケジュール的に両校共に当面は再戦の予定は立てられず、両校隊長始め全隊員が大いに残念がりはしたが、今回両校の間に生まれた絆は強くいずれ必ずと誓い合い今回の練習試合は終了となった。

 だが試合が中止になった事よりもその後の事でラブが大いに嘆き悲しみ、AP-Girlsのみならずカチューシャやノンナ達を大いに慌てさせる事となったのだ。

 それは早い段階で試合中止が決まった為、観戦客も早々に撤収してしまった結果本来試合終了後に行うミニライブが開催出来なくなっていて、それを知ったラブがその瞬間にぽろぽろと大粒の涙を零し手が付けられない程泣き出して、基本みんなラブの涙に弱い為に慰めるのに必死であった。

 今までに誰も見た事のないまでのカチューシャとノンナの狼狽え様と、その二人が献身的にラブを慰めあやす姿にみな驚きで目を見開き信じられないモノを見たといった表情になっていた。

 

 

「うむ、これは我々の出番かもしれんな」

 

「Why?それどういう意味よ?」

 

 

 少し離れた場所から返って来たラブ達の様子を見守っていたアンチョビ達だったが、突如泣き出したラブとその理由を知った瞬間アンチョビが何を思い付いたのかそいうと、ケイはどういう意味か想像も付かないらしく不思議そうな顔で聞くのだった。

 

 

「オイオイ、簡単な事だろう?見た処公園内やアスパムに観戦客がまだ結構残ってるからな、我々がAP-Girlsのライブがある事を知らせて回れば皆あっと言う間に戻って来るんじゃないか?」

 

「えぇ!?それ本気?」

 

 

 ケイは驚いているが、悲しむラブの姿を自身も涙を浮かべ見守っていた杏がアンチョビのアイディア聞いた瞬間力強く声を上げた。

 

 

「やる!私はやるよ!ラブが悲しむ姿なんて私は見たくないよ!」

 

「アンジーあなた……」

 

 

 友の為に必死な杏の姿にケイは感動で言葉が続かない。

 

 

「そうと決まれば行動あるのみだ。早い方が良いだろう、ラブ達にライブの準備をさせてその間に私達が公園内に触れて回るぞ。私がラブに伝えて来る間に準備しておいてくれ……おい角谷!オマエも一緒にラブの処に行くか?」

 

「行くよ!」

 

 

 それまで涙目だった杏も笑顔になるとアンチョビに付いて行く。

 ラブの事となるとそれまでの大洗のやり手の生徒会長の面影が皆無になり、純粋に友達を想う健気な女子高生の姿を見せる杏に全員萌え死にしそうになっている。

 

 

『可愛過ぎにも程があるだろ角谷!』

 

 

 特にケイなどは既に鼻血がひとすじ流れ出しており、ロリ高生杏の破壊力は絶大だ。

 

 

「え?本気で言ってるの……?」

 

「ああ、勿論だ。我々が客寄せしてくるからその間にオマエ達は急いでライブの準備をするんだ。今もここに来るまでの間にちらちらオマエ達の様子を窺ってる人達がいたから、もしかしたらと残っていた観戦客も多いんじゃないか?人気急上昇中のAP-Girlsがライブをやるとなれば、あっと言う間にみんな戻って来るさ。さあ、急げ急げ!私達ももうアピールしに行くからな!」

 

「で、でもそれじゃ……」

 

 

 アンチョビの提案に戸惑うラブだが、杏も更に加わりラブを励ますように言葉を重ねた。

 

 

「みんなラブの悲しむ姿を見たくないんだよ、ステージで輝く姿を見せておくれよ」

 

「杏…千代美……いいの本当に?」

 

 

 大好きな人達からの想いにまたもラブの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 

 

「だ~か~ら~!全くオマエは直ぐそうやって泣くな~!オマエの涙は破壊力がハンパないんだから!とにかく後は我々に任せてオマエ逹は急いでライブの準備をするんだ」

 

「うん…うん!解った♪」

 

 

 やっと笑顔を取り戻したラブがAP-Girlsのメンバー達の元に駆け戻って行き、早々にライブの準備に取り掛かるのを見届けたアンチョビと杏も、他の者達と協力して青い海公園内をもう間もなくAP-Girlsのライブが始まる事を告げながら歩き回り始めた。

 

 

「きしし、もっと盛大に行こうかねぇ♪」

 

「あ?おい、角谷何をする気だ?」

 

「まあ行けばわかるよ」

 

 

 何を思い付いたのか解らないが、この時は杏の顔が大洗の生徒会長の顔になっている事に気付いたアンチョビは、お手並み拝見とばかりに黙って杏の後を付いて行った。

 杏が向かった先は、青い海公園内最大の観光施設である青森県観光物産館アスパムであった。

 アンチョビが黙って見ていると、杏は迷わずインフォメーションに直行し何やら交渉を始め、暫くするとニヤニヤ笑いながらVサインを出しながら戻って来た。

 

 

「成る程そういう事か……」

 

 

 策士策を知るとでも言うべきか、戻って来た杏の表情を見て何をやろうとしているか悟ったアンチョビがそう呟いた直後、館内放送がAP-Girlsのライブの告知アナウンスを始めそれを聞いたアンチョビは改めて感心したように杏に称賛の言葉を掛けるのだった。

 

 

「やるじゃないか角谷」

 

「まあね…ラブの為だもの手段は択んでいられないさ」

 

 

 互いに顔を見合わせニヤッと笑うと、自分達も公園を回って客寄せをするべくアスパムから外に出て、既に呼び込みをしている仲間達と共に大きく声を上げ始めた。

 

 

「あ…雪が……!」

 

 

 客寄せの為に声を上げた杏がふと空を見上げると、それまで吹雪き続けていた雪がここに来て急激にその勢いを衰えさせ、はらはらと粉雪を舞わせる程度になっていた。

 それはまるでステージに臨むラブ達の熱気が大寒波に勝るかのような劇的な変化であった。

 

 

 




ちょっと当分の間曜日は変わらないとは思いますが、
投稿時間がばらつく事になりそうです。
なんとか週二回に投稿は維持したい思いますので宜しくです。

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