メグミの瞳からひと筋、光るものが流れ落ちる。
ラブが待っている為に短い時間内ではあったがケイとナオミが語って聞かせた内容は、厳島恋という美しい少女が如何に過酷な人生を歩まねばならなくなったかを物語っており、自分の浅はかな行動がそのラブに負担を掛けぬよう務めて来たケイとナオミ、更に言えばその仲間達が払っていた努力を無にする行為であった事に気付きひたすら恥じ入っているのであった。
「この先ラブと接していればそれを目にする事もあると思う…けれどもしそれでラブを腫れ物を扱うようにしたり嫌ったりするような事があれば、さっきも言ったように私達はアナタがこれ以上ラブに近付く事を許す事は出来ないの」
ケイとナオミ、二人のラブへの想い──。
もう苦しませたくない……。
もう悲しませたくない……。
もう独りにしたくない……。
そしてもう二度と失いたくない……。
「3年間一人で苦しみ続け、やっとラブは私達の元に戻って来てくれた…それでもまだあの子はとても不安定だわ……だから私達は今のラブにとって危険な要素があれば全力で排除するつもりよ。これは私達当時からの仲間達の総意と思ってもらって構わない。それを理解した上でラブに接して貰えるなら私達もとやかく言わないわ……解って貰えるかしら?」
「ごめんなさい…とても軽く考えて行動していたわ……でも厳島さんを…AP-Girlsを応援する気持ちは軽いものじゃないわ、彼女達はホンモノよ!」
ケイとナオミの話にメグミも誠意をもって答えた。
彼女もAP-Girlsに関するネット上に流れる噂などは目にしている。
ラブの傷痕も完全に隠せるものではないので、それに纏わる噂話もネット上で飛び交ってはいるのだが、やはり厳島の強大な力を恐れてかマスコミ等の間では一種最大のタブー扱いされているらしく、表立ってそれに触れる者は今の処出てはいない。
「解った、メグミを信じる。これからもラブを応援してくれると嬉しいわ……けどね…今日みたいな事は二度とゴメンよ!次にやったら17ポンドの標的にするからね!」
「うぅ…解ってるわよぅ……」
「これ以上待たせてラブが不審に思う前に行くぞ」
ケイに釘を刺され、ナオミに催促されたメグミは部屋を出ようとしたが、部屋のクローゼットの扉に付いている姿見に映った自分の顔を見た瞬間、泣いた為に目が真っ赤になっている事に気付いた。
「うあぁ…どうしよう目が真っ赤だよ……」
鏡に向かってあかんべしながらそう言ったメグミに二人は同時に溜め息を吐いた。
「ラブに何か言われたら、私ら二人にシバかれたとでも言っときなさい……」
「うぅ…重ね重ねゴメン……」
案の定フロントで待っていたラブは、メグミの真っ赤な目を見てそれを言うまでもなく二人が何かやったと決めつけ、メグミを庇うように二人に文句を言い始めたがケイとナオミはめんどくさそうに手をヒラヒラと振りながらそれを躱していた。
『うぅ…二人共ほんとゴメン……』
その二人の様子にメグミが良心の呵責で、ペチャンコになっている事にラブは気付いていない。
逆に今度はメグミが何とかラブを諌めて落ち着いた処で、サンダースの学園艦に笠女学園艦開放の挨拶に向かうべくAP-Girlsと合流したが、会うなり凜々子の叱責の声が飛んで来た。
「あ~!ラブ姉ご挨拶に伺うってのにまだ制服に着替えてないの!?」
「あ…しまった!」
朝練後そのまますっ飛んでケイ達の処に行ってしまった為、パンツァージャケットのままであったラブは自身の出で立ちを見下ろして困ったような顔で笑っていた。
「どうしよっか?」
「着替える!早く!」
自分達の寮を指差し声を荒げる凜々子。
その口調はどちらかというとペットに向かいハウスと言うような口調だ。
「扱いが荒いわ……悪いけどちょっと待っててね」
「急ぐ!時間ない!」
ケイ達にそう言う傍から凜々子に急かされラブは着替える為目の前の寮に向かう。
その後ろには当然のように愛が付き従い、二人はそのまま寮の中に消えて行った。
「ふう…皆さん申し訳ありませんけど少しお待ち頂けますか?」
「それは構わないけどラブのせいじゃないからそんなに怒らないであげて」
完全に自分達のせいなのでケイがフォローすれば、凜々子も恐縮して頭を下げた。
「ここじゃなんですから取り敢えず私達も寮に行ってロビーで待ちましょう」
鈴鹿の提案で全員揃ってラブを追う形で、AP-Girlsの寮に向かう。
招き入れられた寮もまた、華美ではないとはいえちょっとしたマンション風であった。
「はぁ…この辺もやっぱ厳島って感じよねぇ……」
広めのロビーにあるソファーに座り、ラブが着替えて降りて来るのを待ちながら、出されたコーラを飲みつつケイが見上げた天井は三階辺りまで吹き抜けになっており開放感があった。
「ふうん…コークは本国のクラシックなんだ…ベース経由で入れてるのかしら?」
ケイが愚にも付かない事を考えているうちに、着替えを終え笠女の制服姿のラブが愛を伴いエレベーターから降りて来た。
「ごめんね、お待たせ……」
エレベーターを降りた瞬間、自分の脚に集中するメグミとケイとナオミの視線に溜め息を吐く。
ラブの日本人離れした比率のスラリと長く美しい脚に黒のオーバーニーソックス。
マリンブルーを基調としたチェックのミニとの組み合わせは視線を釘付けにしてしまう。
『絶対領域!』
ラブが全てにおいて規格外過ぎるのを頭では解っていても、つい比較してしまうケイは頭の中からそれを吹き払うよう残っていたコーラを一気飲みした。
「げぷ…苦しい……」
「アホか……」
当然の結果を招いたケイに突っ込みつつも、何となく気持ちも分かるナオミであった。
「……さあ、それじゃあ今度こそ本当に行きましょうか」
気を取り直したように言うラブを先頭に、寮を出てサンダースの学園艦へ向け歩き出す。
「寮ひとつとってもやっぱ厳島って感じね、それに比べりゃ私達のトコなんて何だかんだ言っても絵に描いたよな学生寮って感じだもんねぇ」
「プライバシーもへったくれもないもんな」
「そうそう、現に朝っぱらからOGが奇襲仕掛けられる位だしね」
「ぐっ……」
「も~、それ位にしておきなよ~!メグミさん可哀想じゃない!」
サンダースに向かう道すがら、さり気なく嫌味をかますケイからメグミを庇うラブ。
「お姫さま優しい……」
涙目でラブの腕に、母猫に甘える仔猫のようにきゅっと縋り付くメグミ。
「だから!つけあがるからそれ以上甘やかさないの!」
「も~、しょうがないなぁ……」
そんな会話を繰り返しながらも一行はサンダースの学園艦に乗艦し、両校の戦車道選手の顔合わせの後は明日の試合会場に関する合同ミーティングが行われた。
会場となったのは嘗て大洗の優花里が潜入した際に作戦会議が行われていたあそこである。
「Hey!girls!それじゃあ合同ミーティングを始めるわよ!」
壇上にはサンダース側からケイとナオミ、笠女側からはラブと愛が上がっており、これから明日の試合で会場として使われる事となるある小島に関する説明が行われようとしていた。
背後にある巨大スクリーンには上空から撮影されたその島の画像が映し出されており、その画像を背景にしてケイは両校の隊員達に島の詳細の説明を始めた。
「この佐世保の沖合にある小島は、つい最近廃坑になった海底鉱床の出入り口兼作業員の住居になっていた周囲4km程の小さな島よ。実は少し前にこの島を所有して採掘を行なっていた企業から、廃坑後に島の再開発するにあたりここで戦車道の試合をやらないかと打診を受けていたのよ。ここは軍艦島や池島ほど施設も古くなくて歴史的価値はないに等しいらしく、どうせ壊すなら地元サンダースの試合で派手に壊して貰えないかと…まあ云わば白羽の矢が立ったってワケよ」
ケイが説明する間も脇に控えるアリサがPCを操作し、スクリーン上の画像は地図と島内の様子が合わせて表示され続け、その画像から小島とはいえ島内は立派な街が形成されていた事が窺える。
「まだ最近まで人が住んでた雰囲気が残ってるわねぇ……」
ラブの指摘は正しく全住民が退去したのは今年に入ってからの事であり、画像からもそれを匂わせる痕跡が其処此処に見受けられ、それが何とも言えない一抹の侘しさを醸し出していた。
「まあね…さっきも言ったように約4kmの外周のこの島内には、鉄筋の団地だった建築物が大小合わせて約100棟に商業施設や学校、更に医療機関やら様々な施設の建屋が存在するわ」
ケイが映し出される画像をレーザーポインターで指し示しながら説明を続ける。
外周約4kmの小島とはいえ開けた場所も存在する上に起伏もあり、近代的に整備された都市部も合わせ様々な条件での戦闘が想定出来、戦車道の試合会場としてラブの目にはとても魅力的に見えた。
「この島って戦車道には理想的な環境よねぇ、これ一回限りとか惜しいわ~」
「まあその気持ちはよく解るわ」
ケイもへにょりと下がり眉毛で苦笑しながらラブの発言に同意する。
話が舞い込んで来た時には、ケイも泊まり込みでキャンプ演習場に使えないかと考えた程であったのだが、所有する企業としては鉱山開発の衰退後の事業転換で、再開発に当っての話題作りとしての話であるので使わせてもらう側としては文句は言えなかった。
とは云え島ひとつ貸し切りで壊し放題は悪い話ではなく、たった一戦の事とはいえども戦術及び戦略の両面で様々な試みが出来る意義は非常に大きい。
「う~ん、でもホント勿体無いわよねぇ…
「怖い事言うの止めてくれない?ラブが言うと洒落にならないんだけど?」
ケイはそう言ったがラブの表情が本気っぽくて怖かったのは事実だ。
実際に後日ラブは、母であり厳島のグループCEOである亜梨亜にこの小島の購入を打診したのだが、それはあっさりと却下されているのだ。
しかしその理由が事業的に取引もある企業相手におかしな波風を立てたくないからであって、決して金銭的な問題ではない辺りは確かに恐ろしいものがある。
そしてラブという少女のこの辺りの感覚を見ると、やはり一般的な人間とは大きくかけ離れた感覚の持ち主である事が垣間見えた一瞬であった。
「えっと、どこまで話したっけ……?ってそうそう、基本壊し放題だけどこの赤枠で囲まれたエリアが島内に何ヵ所かあるでしょ?ここは海底坑道への入り口で崩れたりすると危険なので、この指定エリアへの立ち入り及び砲撃は禁止されているわ。もしその禁を犯した場合は即失格になるから注意する事!いいわね?」
『Yes,ma'am!』
ケイの問いにサンダースの隊員達が一斉に了解の意を示し、AP-Girlsのメンバー達もそれに倣い同時に声を上げ、それを受けてケイも軽く手を上げ話を次に進める。
「さて、今回は云わば離島での試合という事で、戦車の運搬に関して問題が生じているのはみんなも知っての通りよ。何しろ港の開口部も結構な狭さで一度に出入り出来る船の数も限られているわ」
ここでケイが講堂を見渡すと、隊員達は今更勿体ぶるなといった表情で目を輝かせており、ケイもそれを見てしょうがない奴らだといった風に肩を竦め話を続けた。
「そこで今回戦車と人員その他の搬送は笠女に一任し、島の港の裏の砂浜に笠女のS-LCACで一気に揚陸して貰う事に決定したわ」
『Yeaaaah!』
ケイがそう発表した瞬間、講堂を揺るがす音量で一斉に歓声が上がり、壇上にいる者達は耳を塞ぎ全員が苦笑しているのであった。
笠女所有の超弩級強襲揚陸艇S-LCACは戦車道観閲式以降経験者の間では大変な人気を誇っており、今回こうして再び搭乗出来る機会が巡って来た者達は興奮を抑える事が出来ないようであった。
「全くしょうがないわねぇ」
苦笑したままケイはそう言うが自身も楽しみにしている事を隠そうとはせず、ラブもこの隊員達ですらこの様子では最終日の一般開放時の体験搭乗も凄い事になるだろうな、などと考えていた。
今回の一般開放は佐世保駐留米軍と海上自衛隊の協力なくしては成り立たない部分が多く、これにはサンダースと笠女の両校が米軍及び海自と強力なパイプを持っている事が幸いしていたのだった。
試合当日などもS-LCACが姿を表すと、見物に集まっていた手隙の米軍関係者からも拍手喝采となる程の人気ぶりで、既にS-LCACも笠女のもう一つの象徴のような存在になりつつあった。
「まあ事前に説明しておくのはこんな処ね、細部に関しては配布した資料を各自目を通して確認しておく事、私からは以上よ。尚、生徒関係者のみの両校合同の学園艦開放は1時間後にスタートよ、明日の試合に差支えない程度に大いに楽しみなさい♪解散!」
『Hurrah!』
歓声を上げ講堂から出て行くサンダースの隊員達を見送りながら、ラブもケイ達と雑談をしつつステージから降りると、それまで一応は部外者になるのでそれまで隅の方で大人しくしていたメグミがラブ達の元へとやって来て途中から気になっていた事を質問した。
「ねえ、あの子ら大騒ぎしてたけどさ、そのS-LCACだっけ?そんなに凄いの?」
「あぁ、あのバケモンは直接見たり実際に乗らないと解らないかもなぁ」
メグミの質問には頭の後ろで手を組んだナオミが、天を見上げるような姿勢でそう答える。
「学園艦開放最終日には、朝から一般の体験搭乗もありますよ。朝食後の時間の第一便が一番待たず乗れると思うので手配しておきましょう……っと、これでよし…当日は案内の者が付きますので安心して待っていて下さいね~♪」
携帯を操作しメールで何やら指示を出したラブは、にこやかにメグミに向かってそう言った。
「この人はきっと女神さまなんだ……」
メグミにはもうラブの事が本当に女神に見えているようである。
例によって何か言いたそうであったが、ラブにとっては実質3年間途絶えていた人との交わりが復活した事が、何より嬉しい事であるのを思い出したケイは口を開くのを止め、解っているだろうなと云った表情でメグミの肩をポンとひとつ叩くのだった。
「さて、開催宣言は桟橋の特設ステージだっけ?」
「そうよ~、ご挨拶して3曲ばかり歌わせて貰うわ。尤も衣装はこの制服のままだけどね~」
「時間半端だけどどうする?」
「ん~、そうねぇ、もう桟橋に降りておいても良さそうね。一応ステージ横にケータリングも用意してあるからそこでお茶でも飲んで時間まで待ちましょ」
巨大な学園艦内の移動にはそれなりの時間を要し、うっかり道順など間違えようものならそれだけで大幅な時間のロスになりかねず、ラブ達はケイ達に従いサンダースの学園艦から最短ルートで桟橋に降り立つと、桟橋に構築された交流イベント用のステージ横に設けられたケータリングサービスを利用し、思い思いの飲み物を手に短時間とはいえ何をするでもなく息抜きを楽しんでいた。
「AP-Girlsとして本格的に活動始めてからさ、こういう時間がホント貴重になったのよね~」
ボケ~っと空を見上げながら誰に言うでもなしにラブが言った言葉に、ケイは不思議そうに首を捻ったがメグミは理解出来るようで、気遣わし気な表情をしている。
「Why?どういう事よ?」
「ん~?まあ大した事じゃないんだけどね~。ホラ、どうしても芸能活動始めちゃうとスケジュールが分単位や極端な時は秒単位だったりするのよ。そうなって来るとさ、何て言うのかなぁ?普通の高校生が授業の合間にダベったりするような他愛も無い時間がさ、途轍もなく大事に思えるのよね~」
戦車道の有力校で隊長を務めるケイもそれなりに多忙な立場ではあるが、それプラス芸能活動が付いて回るラブの忙しさはケイには凡そ想像も付かない。
それにラブの場合は厳島のお嬢様としての立場もあり、その忙しさは下手をすれば売れっ子の芸能人ですら裸足で逃げ出す程のものであるかもしれなかったが、今のラブにとってみれば悪夢そのものの3年間を考えれば例え忙しくとも至福の時間でもあった。
「無理…すんなよ……」
「ん……」
今はそのナオミのぶっきらぼうな物言いがラブには嬉しかった。
「あなた達って中学からの付き合いなのよね……?」
「え?ああ、そうですね…厳密には小学6年からですね。ホラ、小学戦車道が全国展開するのって卒業間近の1年位じゃないですか。大体小学生が全国意識するのって高学年にになってからで、その頃に何となくお互い知ってるって感じでしたね~」
二人のそんなさり気ないやり取りに、メグミがした質問にラブは懐かしそうに答えた。
「まあ初めて会った時はさ、何で年が全然上のお姉さんが居るんだろって思ったわよね……」
「同い年だって知って更にビックリだよな……」
途端に微妙な表情になった二人だが、そんな話にもメグミは興味津々でAP-Girlsもそれは同様らしく全員が露骨に聞き耳を立てていた。
しかし二人の言い草に微妙な表情になっているのはラブも同様である。
「そ、その頃からそんなにお姉さまだったの……?」
微妙な空気に腰が引けるものの、聞かずにはいられないメグミは更に追及してしまう。
「私らより付き合いの長いダージリンとアッサムがそれ以前からだって言ってたわ……」
「ダージリンとアッサムって聖グロの……?」
「そうよ、あの二人が親戚のまほとみほを除いて一番付き合いが長いもの…4年位からだっけ?」
「そうね…日本に戻ったのが4年になる直前だったから丁度その頃ね。横須賀と横浜、地区が近いから対戦する機会も多かったから自然と仲良くなったわ…だけどあの二人だってあの頃から本当にお人形さんみたいで規格外の可愛さだったのよ♡」
当時のダージリンとアッサムの可愛らしさを思い出したラブが、口元をだらしなく緩めにへら~っと笑うのを見た者達が若干引いていたが、ラブはお構いなしで思い出に浸っている。
しかしケイは少し前にラブが言ったのはこういう事かと突然に理解した。
仲間達とのちょっとした他愛も無いやり取りと時間、そんな一見何でもないひと時が後々かけがえのない思い出になるという事を。
そしてそれを既に理解しているラブが見た目同様に中身まで大人に思えて、そんなラブがケイにとってはとても眩しく見えるのであった。
「まったくぅ!相変わらず小さくて可愛いモノが好きなヘンタイのままなんだから!」
ケイは内心の想いをそんな事を言って誤魔化す。
そしてその一言で膨れたラブを見て周りも笑い、ちょっとした楽しい思い出が出来上がった。
「聖グロかぁ…私も何度対戦したかなぁ?あの頃は横浜での練習試合だと試合以上に上陸してショッピングとかが楽しみでねぇ…やっぱ横浜ってその辺が他所と違うのよねぇ……」
メグミが当時を思い出ししみじみとした口調で思い出を語ると、現役であるケイ達も思い当たる節があるのかその笑いは苦笑いである。
「艦が浦賀水道に入ると変な方向でテンション上がったりね」
「そうそう、そうなのよ♪試合の事考えないでお財布の中確認したりね」
これには周りの者も一斉に噴き出すが、その表情は何処か共感するものがあるようだ。
「浦賀水道っていえばさぁ、観音崎だっけ?灯台の後ろの山の上にすっごいお城あるよね?なんていうかドイツ風の凄い立派なお城…懐かしいな、大学進んで艦を降りると視野が一気に狭くなる感じがするんだよね~」
「あ……」
「ん?どうかしたの?」
「あのお城…ラブの家よ……」
「は……?」
「その…あれは私の実家なんです……」
「え……?」
「無駄に広いだけなんですけど……」
「うそ……」
「ほんとです…恥ずかしながら……」
「え…え?…えぇ~!?」
ムンクの叫び状態になって驚くメグミの前で恥ずかしそうに俯くラブだが、以前仲間達もリゾートホテルなんかと勘違いしていたりした程で、凡そ個人所有の建築物に見えない山城はそれ程に巨大でありメグミがそうなるのも無理はなかった。
「まあ普通驚くわな……」
「個人の家には見えないわよね……」
「私が建てた訳じゃないわよ……」
視線が集まりラブはモジモジと恥ずかしそうにしている。
「本当に…正真正銘の御姫様だったんだ……」
驚いた顔のまま口を開いたメグミだがそう言うのがやっとであった。
「そんな大袈裟な……」
「なあラブ、子供の頃家の中で迷子になったりしなかったか?」
「…何度かなったけど……」
ふと思い付いたようにナオミが聞いた事におずおずと答えるラブだったが、盛大に溜め息を吐いたケイが肩を竦めた後にラブを指差し言い放った。
「それがもう普通じゃないのよ!普通の家の子供は自宅で迷子にならないわ!」
「だから私が建てた訳じゃないし、実際無駄に広くて未だによく解らない所もあるんだもの……」
「その分だと地下に戦車くらい埋まっててもおかしくなさそうだな」
「いくらなんでもそんなバカな事ある訳ないじゃない」
ナオミにからかうように言われてラブもそう言い返し皆一斉に笑ったが、後日それに近い事実が判明しラブは頭を抱える事になるがそれはまだ少し先の話になる。
それから今暫く他愛のない会話を楽しんだ後、運営スタッフである生徒達に促されステージに上がった二人の隊長により、両校の交流開放の開始が宣言された。
その頃には既に桟橋も並んで係留される両艦の舷側にも両校の生徒が溢れており、引き続き挨拶がてらAP-Girlsがミニライブを行なうと盛り上がりは一気に最高潮に達し、その勢いのまま両校の生徒達は活発に双方の学園艦を行き来し始めた。
メグミもまたラブ達と行動を共にし、その日一日を大いに楽しむ事が出来たようであった。
「Are you ready?それじゃ行くわよ、覚悟しなさい!」
「え~?何よ急に~?」
日もすっかり暮れて双方の学園艦を存分に楽しんだ後に、ケイは腰に手を当て思わせぶりにラブ達に向かってそう言ったが、ラブは訳が解らないといった顔で疑問の声を上げた。
「前に言ったろ?
「あ♪」
指を振りながら補足したナオミの言葉に、約束を思い出したラブの顔も輝く。
サンダース側からはケイとナオミにアリサ、そして中学時代にラブと面識があった者達とメグミが乗り込み、笠女側からはAP-Girlsの全員が乗り込んでほぼ満席となっているいかにもアメリカンなサンダースのスクールバスは佐世保市内に向け走り出した。
程なくして辿り着いた一軒のレストランはその大人数でも余裕で迎え入れる事が出来る規模であり、アメリカンダイナー風の店内の雰囲気はサンダースの気風と良くマッチしていた。
「Hi!こんばんわ~♪」
「やあケイちゃん待ってたよ~♪」
気さくにケイを出迎えたその店のマスターと思しき人物は、にこやかに一同を見回し両手を広げ歓迎の意を示すと、そのまま皆を店内に招き入れるのだった。
「あれ?今日はメグミちゃんもいるのかい?久しぶりだねぇ♪」
「うふふ♪お久し振りマスター、今日はお世話になります」
互いに気心の知れた関係らしく和やかな雰囲気で会話を交わしている。
「ここはケイ達がよく来るお店なのね~」
店内を見回しながらラブが問うと、ケイが得意げに頷くのであった。
「まあね、ウチも大所帯でしょ?ここは打ち上げなんかでよく使わせて貰うのよ♪」
「や!こちらのお嬢さん達はもしや!?」
「ええそうよ、リーダーのラブと私とナオミは古い付き合いなのよ」
「そうだったのか、そりゃ凄いなあ…こりゃあ今日は腕によりを掛けないとね~!」
「その…宜しくお願いします……」
張り切って厨房に向かうマスターを照れたようにラブ達は見送った。
通された席では料理が運ばれて来るまでの間にも話に花が咲き、AP-Girlsの少女達は嘗てのラブを知る者達に当時の話を聞きたがり、ケイ達もまた笠女でのラブの様子を知りたがるので自然と話題の中心はラブになり、それを見ていたメグミはラブと云う少女が如何に皆に愛されているかを目の当たりにし、今日一日一緒に居た事で何故そうなるかも理解していた。
「わあ♪これは本当に美味しそうだわ♡」
運ばれて来たレモンステーキを前に上げたラブの第一声は、AP-Girlsのメンバー全員の声を代弁しており、戦車道とアイドル活動に忙しい彼女達は紛れも無い肉食女子なのだろう。
ケイもどうだと云わんばかりに得意げであり、マスターも自信たっぷりな顔をしていて味の方にも俄然期待が高まりもう待ちきれないといった雰囲気で溢れている。
「それじゃ頂きましょうか!」
『頂きます!』
言うが早いか一斉に旺盛な食欲を示す少女達。
やはり体力勝負な戦車道選手の食は太いようであった。
「これでご飯が進むあたり、私もやっぱり日本人よね~♪」
そう言いながらご飯を頬張るラブは、既にお肉でご飯を巻く技をマスターしていた。
「それを言ったら
同じ様に巻いていたナオミが突っ込むとサンダースの選手達が一斉に笑う。
しかし実際お肉にはご飯が一番というような食べっぷりであった。
「でもさぁ、これだけ食べても太らないって戦車道ってどんだけ過酷な訳よ?」
「いや、特定の場所だけ成長してるヤツはいるぞ…少なくともそういうヤツを二人知ってるし」
ケイのぼやきのようなセリフにすかさずナオミが突っ込みを入れ、視線はラブとケイのたわわな18ポンドに注がれていた。
「ぐっ…な、ナオミ!?」
「わ、私も!?」
「オマエだって充分規格外だ……」
そう言いながらレモンステーキでご飯を頬張るナオミは何処か悔しそうだった。
そんなこんなで賑やかに食事を終え食後のコーヒーを楽しんでいると、ケイがラブに対し真剣な表情と声で何やら話し掛けていた。
「そのね、明日の試合なんだけどね……やっぱりさぁ、5対5のイコールコンディションでやる訳にはいかないのかな?私としてはやっぱりこの戦力差はどうかと思うのよね……」
「ダメよ!それだけは絶対……お願いよ!」
それまで楽しげにしていたラブの瞳から突如として零れ落ちる大粒の涙。
メグミはこの瞬間、ケイの言っていたラブの不安定さの一端を見る事になるのであった。
厳島の桁外れぶりを書くのが結構楽しくなって来ました。
ただ同時にラブの不安定さを書かなければならないのも大変です。
今回試合会場になる小島のモデルは池島をモデルとしていますので、
この先そのつもりで読んで頂くと解り易いと思います。