ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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最近仕事の影響で生活パターンが若干変わった為、
火曜と土曜の投稿はこれ位の時間が続きそうです。

さて、今回もメグミさんは色々と大変です♪


第三十六話   Megumi Hard Day's Night

「ラ、ラブ!?」

 

 

 あまりに突然過ぎるラブの変化に、さすがのケイもすぐには対応出来ない。

 傍でそれを目の当たりにしたメグミにしてもそれは同様で、只戸惑うばかりであった。

 

 

『この不安定さはなに…?でもこれがケイが言っていた事なのか……』

 

 

 そしてそのラブの様子に、悲壮感漂う顔で何も言えなくなっているAP-Girlsの少女達。

 それまでの間彼女達は自信に満ち、その年齢にそぐわぬオーラのようなものを全身から放っていたのだが、今はそれが嘘のように消え去り打ちひしがれた表情で俯いている。

 剥がれ落ちた仮面の下から現れたのは、年相応、或いはそれ以上に幼さすら感じさせる酷く自信なさ気な顔であり、それこそが彼女達の素顔なのかと思わせるものであった。

 

 

「何で今更そんな事を言うの……?それじゃあダメなのよ…私達は足りないのよ……」

 

 

 尚もうわ言のように続けるラブにハッとしたメグミが、ラブの元に駆け寄り落ち着かせるように背中をさすりながら刺激せぬようそっと声を掛ける。

 

 

「大丈夫よ、落ち着いて。ケイには厳島さんの思うようにさせるから……ね?」

 

 

 メグミはそう言ってラブを落ち着かせながらも視線をケイに奔らせると、そのケイもやってしまったと言わんばかりの表情で唇を噛んでいた。

 

 

「さあ、ゆっくりと息を吸って……吐いて…そう、ゆっくりとね……」

 

 

 絶対の厳島の女王が一転して壊れ易い十代の少女へ。

 メグミはラブと呼ばれる少女が、実に危ういバランスで精神の均衡を保っている事を思い知った。

 

 

「私達…この子達は圧倒的に足りないのよ……文科省のせいで出遅れたAP-Girlsは高校戦車道での実戦経験が少な過ぎるって言ったでしょ……それを補うにはこれ位のハードルが必要なのよ……だから約束通りにしてよ…お願い…お願いだから……」

 

 

 今日はこれまでずっとケイ達からメグミを庇護する立場だったラブが、今はメグミの袖に縋り付いて、きつく閉じた瞳からはポロポロと涙が零れ落ち続けている。

 そのラブの頭を撫でてやりながらメグミはケイにそっと目配せすると、やっと冷静さを取り戻したらしいケイもラブを落ち着かせるような口調で、自身の非を詫びるように話し掛けた。

 

 

「その…ラブ、ごめんね。私もついあなたとはイーブンな立場で戦いたくて余計な事を言っちゃったわ……この6連戦は私達がAP-Girlsの叩き台になるって決めてたのにホントごめんなさい……」

 

「ありがとうケイ…私こそ我が儘ばかり言ってごめんなさい……」

 

 

 メグミはラブが自分を慕うAP-Girlsの為であれば、どんな苦労も厭わず躊躇する事なくその身を捧げる様子に心を打たれると同時に恐ろしさも感じていた。

 そしてケイに対してもそのフェアプレイを追及する真っ直ぐさは好ましく、それが彼女の強みでもあり弱点でもあると感じていた。

 いずれにしても来年ケイが大学に進んだら選抜チームに招聘されるのは確実であり、その時は彼女を自分の手元に置きたいとメグミは考えていた。

 一時はどうなるかと思われたが、店のおごりの山盛りのアイスを平らげた頃にはどうにか皆落ち着きを取り戻し、マスターに頼まれて用意された星条旗にAP-Girls全員がサインを入れ、記念撮影後にアイスのお礼に彼女達が一曲歌うともう完全にいつもの彼女達に戻っていた。

 その後は再びサンダースのスクールバスで佐世保基地に戻ると、メグミはケイ達と別れ宿泊する事になった笠女学園艦内の宿舎に戻った。

 熱いシャワーを浴びベッドに倒れ込むと、今日一日の事が一気に頭の中で巡り始めた。

 何やらいきなり深入りし過ぎてしまった気がしたが、彼女の為なら何としてでも力になりたい、そう考えてしまう程に、既にメグミはラブと云う少女の魅力の虜になっていた。

 そうこうするうちにさすがに疲れたのか、瞼が重くなりメグミは夢の中へと落ちて行く。

 明日になればいよいよケイとラブが激しく激突する事になる。

 しかし今はその感覚に身を任せ、深い眠りに付くメグミであった。

 

 

「こ…これがS-LCACなの!?」

 

 

 目の前で轟音を上げ離艦する態勢になったS-LCACをメグミはただ唖然と見つめていた。

 ここ笠女学園艦後部に位置するウェルドックでは、笠女とサンダース両校の戦車並びに支援車両と連盟の戦車回収車まで収容したS-LCACが試合会場となる小島に向かうべくエンジンを始動し、そのイヤーマフを付けて尚耳を弄する轟音にメグミは思わず顔をしかめてしまう。

 

 

「それにしてもなんて音なの…しかもこのサイズ…なんか色々あり得ない……」

 

 

 今メグミが居るのはウェルドック内の一種の管制室のような場所であるが、そこから見下ろすウェルドックはあまりにも現実離れしており、まるで自分がSF映画か特撮の撮影現場のセットの中にでも迷い込んだような錯覚に陥る程であった。

 実はメグミは今日、朝食後早々にケイのシャーマンに同乗し桟橋に向け展開されたランプドアより笠女学園艦に乗艦すると、そのまま艦内格納庫を自走して専用巨大リフトでウェルドックに降下、そして最後はS-LCACに積載されるまでを体験していたのだ。

 高度に自動化されているとはいえ、運用に携わる生徒達の練度は非常に高くとても一年生しかいない学園艦とは思えずメグミは内心舌を巻いていた。

 

 

『サンダースだって学園艦としては近代的な艦だけど、この笠女のおおすみ型学園艦は最早異次元の域ね……これが次の世代の学園艦の姿なのかしら……?』

 

 

 メグミはふとそんな事を考えたが、艦単体でも通常の学園艦に比べ造艦コストが非常に高額になる上に、S-LCACを始め特殊装備満載なこの艦を維持運営出来るのは厳島グループ以外では到底無理であろう事まではすぐには想像出来なかった。

 

 

「あ……うふふ♪」

 

 

 視界の隅に何かを感じてそちらに視線を向けると、1号艇に積載されたLove Gunの上で、ラブがぴょこぴょこ飛び跳ねながら自分に向かって手を振っているのが見え、メグミもそれに応え微笑みながら手を振り返した。

 自分より年下なのにその容姿は遥かに大人っぽく、自分が幼く思える程の美人であるラブ。

 しかしその内面は年相応、或いは誰よりも子供っぽく思え、今見せたような行動も凡そその見た目と一致しないのだがそんなギャップも魅力的に見えた。

 

 

『可愛い(ひと)ねぇ……♡』

 

 

 メグミがそんな想いを抱き頬を赤らめたその時、それまでとは異なる機械の駆動音が振動と共に伝わって来ると、艦尾門扉が開き始めそれまで薄暗かったウェルドックに外光が射し込んで、その薄暗さに慣れていた目には眩しさを感じる程だ。

 そのまぶしさに慣れた時にはラブも既にS-LCACのキャビンに収まっており、それと同時にS-LCACの上げる咆哮も一層激しくなりいよいよ離艦の時が来たようである。

 今回搬送任務に当る1号艇から3号艇を離艦させる為、まず後列の4号艇から6号艇までが同時に後進でウェルドックから滑るように出て行く。

 

 

「凄い…あんなに大きな揚陸艇が3艇同時に動き出すなんて……」

 

 

 驚愕するメグミの眼前では続けて1号艇から3号艇が一気に離艦して行き、一時的にドックが空になったと思うと、今度は先に離艦していた3艇がピッタリと横並びであっと言う間にドック内に戻って来て、その速度の速さにメグミは思わず悲鳴を上げてしまった。

 

 

「え?ちょ、早過ぎ…えぇ~っ!」

 

 

 しかし3艇のS-LCACは何事もなかったように停止すると、エンジンもカットされウェルドック内は先程までの喧騒がうそのように静かになった。

 

 

「……」

 

「ビックリしました?」

 

「え?えぇ……そうね」

 

 

 声を掛けて来たのは、この管制室に当るボックスで全体の作業の指揮統括の任に当たっていた生徒であり、御多分に漏れず胸のたわわな美少女である。

 

 

「ここはS-LCACが出入りする時は特等席なんですよ♪」

 

 

 この笠女の生徒達の度胸の良さは何だろうなどと思いつつ、メグミは引き攣りながらも笑顔を返して見学させて貰った事の礼を述べ管制室を後にしようとした。

 

 

「あ、今迎えの車両が来ますから下に降りてお待ち下さい」

 

「え?でも観戦エリアに向かうだけだし……」

 

「艦内含めて結構な距離がありますよ、それにLOVE'S VIPのゲストにそのような不便を強いる事は許されません。どうか遠慮せずに何なりとお申し付け下さい」

 

「え…そんな……」

 

 

 メグミは改めて自分に与えられたLOVE'S VIPのゲストパスの力の強大さを思い知った。

 

 

「お待たせしました、どうぞお乗り下さい」

 

「あら!?ケッテンクラートじゃない♪」

 

 

 管制室から降りたメグミの前に現れたのはドイツ生まれの小さな半装軌車で、戦後になっても生産され続けていたオートバイ型のハーフトラックとでも言うべき車両であった。

 

 

「うふふ♪使い勝手が良いので校内で使う生徒も多く、何両艦内にあるか解らない位なんですよ。何しろ申請すれば個人で占有する事も出来るんですから」

 

 

 かく言う迎えに来た生徒の乗るケッテンクラートもどうやら彼女が占有する車両らしく、自分で塗ったのか軍用の塗色ではなく、コミカルな茶トラ柄に塗られていた。

 

 

「…さすが厳島って事かしら……?」

 

 

 再びその太っ腹にショックを受けながらもメグミは目の前のケッテンクラートに乗り込んだ。

 

 

「それじゃあ出しますね?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 

 バタバタとエンジン音を轟かせて走り出したケッテンクラートだが、そのコミカルな茶トラ柄の塗色のせいか乗っていても何やら遊園地のアトラクションのような印象を受ける。

 

 

「ふふ…これは楽しいわねぇ♪」

 

「気に入って頂けました?この子可愛いでしょう?」

 

 

 まるでペットか何かのように可愛がるその様子にメグミの顔からも笑みがこぼれる。

 藤色の髪をローポニーの三つ編にして、青い瞳が印象的なその美少女もまた立派なたわわを実らせており、もしかするとこの学校にはそれが入学基準なのではなどとメグミは考えていた。

 上層に向かうリフトにケッテンクラートを乗せ、リフトの起動を確認したドライバーの美少女は振り向いて改めてメグミに挨拶をした。

 

 

「改めましてこんにちわ♪今日と明日の2日間、メグミさんのエスコート役を仰せつかっている木幡結依(こはたゆい)と申します。情報処理学科の1年ですどうぞ宜しく」

 

「あ、こちらこそ……」

 

 

 メグミは慌てて手を差し出し振り向いている結依と握手を交わした。

 

 

「ふう…それにしてもホント色々と凄い学校ね……」

 

 

 注意喚起の黄色の回転灯を回しながら上昇するリフト上で、その上を見上げながら溜め息を吐いた後にメグミが言った言葉に結依も笑いながら答えた。

 

 

「まあ確かに色々アバウト過ぎて笑っちゃいますよね~♪でもすっかりそれになれちゃってる自分達も何だかな~って感じですけどね~」

 

 

 屈託なく笑う結依に釣られメグミも笑った処でリフトが停止し、転落防止の為の柵が格納されるとそれに合わせ回転灯も止まった。

 

 

「あ、会長おはよ~♪」

 

「ほい、おはよ~♪」

 

 

 入れ替わるようにリフトに乗って来たのはやはりケッテンクラートであったが、こちらは何やら資材を積んだカートを牽引しており、結依の言う通り艦内で便利使いされているようだ。

 

 

「え?会長?」

 

「あはは♪なんか成り行きで生徒会長なんかやらされてますけど只の雑用係ですよね~」

 

「せ、生徒会長!?」

 

「いやあ、だから只の雑用係ですってば」

 

「いやいやいや!生徒会長でしょ!?全校生徒の頂点に立つ存在でしょ!?」

 

「いえいえいえ、この学校で生徒の頂点は厳島隊長ですし、その厳島隊長が務めるなら確かに生徒の頂点ですけどね~♪でも戦車隊の隊長にAP-Girlsのリーダーもやって、これ以上はやってらんないって気が付いたら押し付けられたお飾り会長で、その実態はホント只の雑用係ですから~」

 

 

 そう言いながらケラケラとお気楽に笑う結依は、慣れた様子で茶トラケッテンクラートをリフトから発進させるが、横向きにシートに腰掛け結依の背中を見るメグミは思わず頭を抱えたくなった。

 いくら遥かに年下の高校生とはいえ、生徒会長ともなればそれなりに忙しい立場あろう事は間違いないはずで、まして笠女のような特殊極まりない学校ともなれば通常の学園艦の生徒会長などより多忙であろう事は想像に難くない。

 そしてこの笠女で生徒会長を務めるという事は相当に優秀な生徒である事も間違いないはずで、そのような子に自分のような一介の女子大生の案内役を2日間もさせるのはメグミとしても心苦しく、何とか辞退して本来の生徒会長の職務に戻るよう説得しようと考えた。

 

 

「あ、説得してエスコート役止めさせようとか考えないで下さいね~。誰がメグミさんをエスコートするかの勝負で勝ち抜いてゲットした大役なんですから~♪」

 

「え…?それってどういう事なのかしら……?」

 

 

 訳が解らんといった表情になったメグミが疑問の声を上げるが、結依の方は逆に何故そんな当たり前の事を聞くのかといった表情になった。

 

 

「え?そんな事も判らないんですか~?素敵な現役女子大生のお姉さまとお近付きになれる機会なんてそうそうある事ではないですからね、こんな美味しい役回り逃す手はありませんって♪」

 

「い゛?」

 

 

 結依の直球過ぎるモノ言いにメグミは絶句させられてしまう。

 しかし結依はそれに構わず嬉しそうに更に続けた。

 

 

「ええ、話が回って来た時は真っ先に名乗りを上げさせて頂きましたとも♪だってねぇ……」

 

 

 ここで結依はちらりと振り返ってメグミに意味有り気な視線を送った。

 

 

「う゛…だって何……?」

 

 

 嫌な予感に囚われつつも敢えて質問するメグミだが、答えは大凡予想が付いていた。

 

 

「えぇ~?言わせるんですかぁ~?」

 

 

 何を今更な事をといつつも結依は嬉しそうに続けるのだった。

 

 

「だってぇ、メグミさんって私のストライクゾーンのど真ん中なんですもの♡」

 

 

 解っていた答えであったが今度こそメグミは頭を抱えてしまう。

 それは別にそっちの趣味がないというからという事ではなく、むしろこんなに可愛い現役女子高生でしかも相当に頭もよく性格も明るいとなれば、それはむしろ喜んでと言いたい処ではあるのだが、これでもしそう言う既成事実が出来上がってそれが万が一アズミとルミにバレたら、更には隊長の愛里寿が知る処となった場合、自分がどんな風に弄られるか想像も付かず、メグミは背中に冷たいものが流れるのを感じるのだった。

 

 

「あ…そうなんだ……」

 

「ええ、楽しい2日間になりそうですわ♪宜しくお願いしますね、()()()()()()()♡」

 

 

 頭の中が真っ白になったメグミは、積極的で可愛過ぎる生徒会長、木幡結依相手に今日と明日の2日間を無事何事もなくやり過ごす自身は全くなかった。

 そしてメグミが頭を抱える間にも、茶トラケッテンクラートはトコトコと艦内を進み続け、程無く桟橋に出るランプドアの近くまで辿り着いていた。

 途中かなりの台数のケッテンクラートとともすれ違ったが、その殆どが独自の塗装に塗り替えられておりなるほど確かに占有して使っている生徒も多いようだ。

 それらのケッテンクラートとすれ違ったりする際は、どの生徒も結依に向かい手を振ったり声を掛けたりと、彼女自身の人気の程も窺う事が出来た。

 それは単に結依が生徒会長だからという訳ではなく、おそらくは彼女の人柄や会長としての実力、そういったものが他の生徒から高く評価されているからだろうとメグミは推察していた。

 

 

「とても信望が厚い会長さんなんだろうね……」

 

「え?なんですか?」

 

「なんでもないわ……」

 

 

 メグミの呟きに結依が一瞬振り向いたが、メグミは微笑んで受け流した。

 

 

「もうすぐ桟橋に付きますけど、どの観戦会場に向かえばいいですか?」

 

 

 ケッテンクラートを操りながら、背後のメグミに結依は行き先の確認をする。

 今回のサンダース対笠女の練習試合の会場は貸し切りの企業所有の小島という事もあり、観戦エリアはサンダースが母港とする米海軍佐世保基地内のスペースを借りているのであった。

 これに関しては海軍上層部も佐世保対横須賀の対決と大乗り気になっており、更に海上自衛隊佐世保地方総監部同様で、結果日米協力の下、試合日と翌日のAP-Girlsのライブに合わせ2日間を臨時のオープンベースとする熱の入れようであった。

 そして観戦エリアとして基地内でも商業施設の集まるメインベース周辺が割り当てられ、同エリア内のニミッツパークの各グラウンドに特設スタンドを構築し、これは翌日のAP-Girlsのライブの際にもパブリックビューイングの会場に使われる事になっていた。

 

 

「えっと…ニミッツパークって解る?」

 

「はい、佐世保基地の地図は頭に入れてあるので大丈夫ですよ~♪」

 

「やっぱりアナタも凄いのね……」

 

「いえいえ、それじゃあニミッツパークに向かいますね~」

 

 

 辿り着いたサイドランプの開け放たれた巨大なランプドアは、それだけでもちょっとしたグラウンドのようなサイズであり、他の学園艦が結構車両や物資の搬入などに四苦八苦あの手この手なのを考えると、この笠女の学園艦は原型がおおすみ型輸送艦である事を差し引いても、実によく考えて造られており、それはこれから先造られるであろう学園艦あるべき姿を表しているようにも見えた。

 しかしそこにはコストと云う問題も存在しているのも事実であった。

 桟橋に降り立つと、観戦エリアの方からはマーチングバンドの演奏する音が風に乗って聴こえており、それはおそらくサンダースのもので一緒にチアリーディング部も会場を盛り上げるのに一役買っているであろう事が想像出来た。

 

 

「あ…あそこに戻るのか……」

 

 

 今日の朝サンダースの車両をS-LCACに積載後、両校挨拶の為に向かった観戦エリアでケイとラブの手で引き会わされた一同は、メグミとしては少々顔を合わせ辛い一団であった。

 全員揃っている訳ではないものの、そこには大洗の存続を掛けた戦いで手合せをした面子が勢揃いをしており、世間の耳目からすれば自分達大学選抜チームは云わば悪の枢軸でその中に在って中隊長の立場であるメグミは、ある程度の理解は得られているとはいえ彼女達とこうして顔を合わせるのは少々気まずいものがあるのだった。

 中でも一連の騒動で一番苦労したであろう大洗の生徒会長とラブがかなり親密な様子で、その経緯を知らぬメグミは何とも言えぬ微妙な立ち位置でその集団の中にいた。

 また彼女達からしても、何故メグミがLOVE'S VIPとしてその場にいるのか疑問であるはずだが、妙にフレンドリーに迎え入れられそれが一層何とも言えない居心地を醸し出していた。

 そしてやはりその状況を、前日早朝文字通りメグミに叩き起こされたケイとナオミは、面白そうな顔を隠そうともせず見ていたのだ。

 

 

「うぅ…これってやっぱり身から出たサビかしら……」

 

「はい?」

 

「ううん、何でもないわ……」

 

「そうですか…あら?もう随分観戦客も来てるんですねぇ」

 

 

 基地内を車道をバタバタとのんきなエンジン音を立ててで進む茶トラケッテンクラートに、観戦に訪れた一般の来場者達の視線が一斉に集まる。

 可愛いだとか小さな子供達からは親達にアレに乗りたいなどと言った声が上がっているのが聴こえて来ると、そんな声がする方に向かい結依がにこやかに実に可愛らしく手を振りながら茶トラケッテンクラートを進めており、そんな姿が彼女もまたアイドルに見える程様になっていた。

 

 

「この学校の入学の選考基準ってやっぱり……」

 

 

 ラブ達AP-Girlsが飛び抜けた存在に思えるが、笠女と云う学校は普通の生徒達も美少女揃いであり、メグミがそう考えてしまうのも無理はないが、それだけで入れる程甘い学校ではない事も理解はしているが、それでもそう考えずにはいられない可愛さとおっぱいなのであった。

 

 

「さ、着きましたよ~」

 

 

 警備に付いている佐世保基地のMPに関係者車両として駐車許可を貰い、結依とメグミは揃って観戦スタンドに向かうが、その途中では既に笠女学園艦カレーの出店が営業を始めており、早くもかなりの客が集まりその味を堪能しているのだが、その隣には当然のようにアンツィオのイタリアンの出店も展開していて、両校挨拶の際にそれに気が付いたケイが、一体どうやって基地内での営業許可を取り付けたのかアンチョビに問い質したのだが、当のアンチョビは不敵に笑いながら一言『ナイショだ!』と言うのみで、アンツィオの食に関する行動力とコネの広さの謎は深まるばかりだ。

 

 

「あら?木幡会長ごきげんよう、でも何故あなたがここに?」

 

「お早う御座いますダージリン隊長♪私、今日明日と厳島隊長よりメグミさんのエスコートの大役をを仰せつかっているんですよ~♡」

 

「あらまあ♪」

 

 

 笠女滞在時から面識のある結依に対しダージリンが優雅に声を掛け、それに嬉しそうに答えた結依の言葉に、ダージリンは意味深に微笑みながらその目をスッと細めた。

 それは明らかに獲物を見付けた捕食者の目であり、メグミは思わずダージリンから目を逸らすが、突き刺さる視線に容赦はなくメグミは酷く居心地が悪そうだ。

 いっそそこから逃亡しサンダースの応援スタンドにでも転がり込もうかと考えたその時、結依がメグミの腕に自分の腕を絡めると特大の爆弾を放り込んだ。

 

 

「お願いですからこれ以上私のメグミお姉さまを苛めるのは止めて下さいませ♡」

 

『あらまあ♡』

 

 

 一斉に人の悪い笑みを浮かべ好奇の視線を遠慮なく向ける一同に、メグミは頭を抱えその場から速攻で逃げ出したくなっていた。

 何しろその目は既成事実の有無を確認するかのような好奇の光を放っていて、天然なのかそれともからかっているのか、結依はその視線を心地良さ気に受け止めると絡めた腕に更にその身を擦り寄せながら実に嬉しそうにしていた。

 

 

「メグミお姉さまぁ♡」

 

『あらまあ♡』

 

「…色々と終わった様な気がする……」

 

 

 悟ったのか諦めたのかメグミの呟きは微妙だった。

 

 

「そうそう、もう一つ大事なお仕事あるのを忘れていました」

 

 

 そう言うと結依は内懐からラブレターにでも使えそうな笠女の刻印入りの桜色の封筒を取り出すと、視線を巡らせ杏の名を呼ぶのであった。

 

 

「角谷会長、厳島隊長からメッセージとこちらを託されております」

 

「ほえ?ラブから?一体なんだい木幡ちゃん?」

 

 

 生徒会長同士当然面識のある杏は不思議そうに結依からその封筒を受け取った。

 

 

「明日のAP-Girlsのライブに是非お越し頂きたいとの事です」

 

 

 手渡された封筒の中身はメグミ同様LOVE'S VIPのゲストパスであった。

 

 

「へ?明日の?なんで私だけ?」

 

 

 試合終了後は当然そのまま帰る予定で泊まり支度などしておらず、困惑していると抜かりはないとばかりに結依は更に畳み込んで来る。

 

 

「今夜は本艦の宿舎を御用意しておりますので御安心を。帰りも責任を持って送らせて頂きますので、西住隊長には心配せず先にお帰り頂いて大丈夫との事です」

 

「へ?はぁ……」

 

 

 呆気に取られるみほを余所に伝えるだけ伝えた結依は、さっさとメグミの元へ戻って行った。

 この時はまだ、誰もラブの思惑を理解している者はいなかった。

 

 

「しかし今回のステージは本当に凄いな、島自体は左程大きくはないがそれでもあの団地や商店街の規模を考えると、相当凄まじい市街地戦が展開出来そうだ。正直言って私もここで試合をやってみたいと思うぞ」

 

 

 観戦エリアの巨大スクリーンにラブ達を乗せたS-LCACが、小島に揚陸し始めたのを見て取ったまほがスクリーンを指差しながら素直な感想を口にした。

 

 

「凄い……」

 

 

 メグミもまたS-LCACが3艇横並びで一気に揚陸する光景に圧倒されている。

 

 

「うふふ♪実際に乗るともっと凄いですよ~」

 

 

 結依の言葉に明日は自分も体験搭乗する事を思い出したメグミは、いつの間にか自分でも言い様のない高揚感を覚えている事に気付いた。

 

 

「そうか…そうだったわね……」

 

「私も御一緒させて頂くので宜しく♡」

 

「え…ええ、こちらこそ……」

 

 

 すっかり結依に主導権を握られている気がしたメグミだが、どうやってもそれを逆転する事が出来ない気もしてどこか流されるままになりつつあるようだ。

 

 

「あ、降りて来たぞ」

 

 

 アンチョビの言葉に我に返ったメグミがスクリーンに目をやると、3艇のS-LCACから両校と連盟の車両が続々と砂浜に履帯痕を刻み付け上陸している。

 ラブとケイが激しく火花を散らすまで後もう少しだ。

 

 

 




改めて浮き彫りになるラブの不安定さですが、
やはりその経緯を考えれば仕方のない事で、
これからも時々顔を覗かせる事になると思います。

笠女の生徒会長は初期の構想では当然ラブが務める予定でしたが、
別のキャラクターを登場させた方が面白い気がして、
結果結依が誕生しました。
今後もちょくちょく登場する予定ですのでどうか宜しく♪

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