ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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久し振りに土曜のこんな時間に投稿です。

ラブ対ケイのたわわ対決も本格的な戦闘に突入です♪


第三十八話   Black Magic Suzuka

「まあ大したダメージにはならないと思うけどちょっと驚いて貰おうじゃない。もしこれで17ポンドがポッキリ逝ったりしたら儲けものぐらいのつもりでやりましょう」

 

 

 腹黒い事を実に爽やかな笑顔で言ってのける鈴鹿だが、既にそれに慣れているのか、それとも全員同じ思考なのか誰一人表情を変える事なく次の仕掛けの算段をしている。

 コマンダーキューポラ上の鈴鹿の視線の先には元が何の為の施設かまでは解らぬが、間もなくナオミ達が進軍して来る県道脇に赤錆びた円筒形の煙突のような物が何処か所在なさ気に直立しており、鈴鹿はそれを如何にしてファイアフライの頭上に落すか思考を巡らせていた。

 

 

「ちょっと状況確認して来るわ」

 

 

 鈴鹿はそういうとブラックハーツから飛び降り、破壊対象となる物体の現状を確認に行った。

 そして素早く確認を終えると即撤収し、コマンダーキューポラから車内に戻り自分の目で確認した事実をブラック・ハーツの搭乗員達に告げるのだった。

 

 

「前言撤回、あれは相当頑丈そうだわ。ちょっとこの子の50㎜じゃ一発でポッキリは難しそうよ。だからここはプランを変更しましょう、榴弾で吹っ飛ばして細かな破片の雨あられで浴びせて警戒心を上げさせてやればこの後の行動は確実に鈍るわ」

 

「ならタイミング計るのに観測員が要るね、私が出るわ」

 

「ん、お願い」

 

 

 そう言った時には既に通信手の芹香は小型無線機片手に、スルリと(実際には素敵な胸のたわわが一瞬引っ掛かっている。AP-Girlsのメンバーは全員戦車への乗降時に必ずたわわが引っ掛かるのが仕様だ。尚、約一名引っ掛かるというより完全につっかえて渋滞を発生させる者もいる)サイドハッチから抜け出て県道が見渡せるポジションに向け走り去っていた。

 そして芹香が敷地から出て県道が見えるポジションに付いた時、ナオミ指揮するファイアフライと随伴のシャーマンが4両待ち受けるトラップに気付く事なく坂道を登って来る。

 

 

「ひい、ふうみぃ…っと別働隊は5両か……良かった、ファイアフライが先頭にいるわ」

 

 

 県道に目標を落とすのに最適と判断した場所にブラック・ハーツを停車させた鈴鹿は茉莉にエンジンをカットさせると、雅と瑠奈には何時でも撃てる体制で待機を命じた。

 

 

『鈴鹿、来たよ……良かったねファイアフライが先頭よ』

 

 

 ヘッドセットから観測に出た芹香の声が響く。

 

 

「雅、榴弾装填!」

 

 

 待ち兼ねたように雅が榴弾を押し込み閉鎖機が閉じる。

 照準を覗き込む瑠奈は彫像の如く射撃姿勢でピクリとも動かずその時を待っている。

 

 

『後10秒…カウント5から行くよ……』

 

 

 芹香の声に集中する鈴鹿の怜悧な表情はぞくりとする程に美しい。

 

 

『それじゃ行くよ…5、4、3、2、1!』

 

「撃て!」

 

 

 一切ずれる事なくピッタリのタイミングで撃ち出された榴弾は、赤錆の塊のような鉄製の筒を見事粉砕すると、その直下に到達していたファイアフライに大小様々な金属片を大量に雨あられと降り注がせる事に成功していた。

 

 

「チッ!トラップか!?」

 

 

 急停車した車内で車体を叩く不快な金属音の連続に舌打ちの後に思わずそう毒づいた。

 

 

『鈴鹿!標的基礎部分に榴弾をもう一発!面白い事になるよ!』

 

 

 観測員役の芹香からの更なる砲撃要請に鈴鹿も素早く反応した。

 

 

「瑠奈、砲を下げ!標的基礎部分を照準!雅、榴弾再装填!」

 

「装填完了!」

 

「照準ヨシ!」

 

「撃て!」

 

 

 再び轟く砲撃音の後にもたらされた破壊は、芹香の言う通り鈴鹿にとっては面白い、充分満足の行く結果を導き出していた。

 鈴鹿の予想以上に脆くなっていた工場設備は、上部構造部とを吹き飛ばされた瞬間その基礎部分も大きく傾き今にも転げ落ちそうになっていた。

 そこに芹香の指示で撃ち込まれた二発目の榴弾により、どうにか基礎部分を支えていた周辺の土砂が吹き飛ばされた為、その支えを失った巨大なコンクリートの塊は急斜面を転がり落ちてファイアフライの側面からもろに直撃していた。

 

 

「うわぁ!何だ!?今度は何が起きた!?」

 

 

 それまで金属片が車体を叩いていた以上の激しい衝撃に襲われたファイアフライ車内では、日頃クールなイケメン砲手ナオミもパニック気味に声を上げている。

 そして土煙が収まり見えて来た光景は、鈴鹿の当初予想を遥かに上回る戦果を上げていたのだ。

 土砂とコンクリート塊に右側面から襲われたファイアフライは強い力で横方向に押された結果、右側の履帯が外れいくつかの転輪にも破損が見られ、更にこれは履帯修復後発覚した事であるが旋回砲塔のターレットにも歪みが生じ、砲塔の旋回が出来なくなり固定砲身の自走砲状態で戦う破目に陥っており、それが発覚した際にナオミは放送禁止用語を乱発する程怒り狂う事になっていた。

 

 

「あらら、これは予想以上の戦果だわ♪」

 

 

 その惨状を双眼鏡で確認した芹香は中継映像を意識しているのかスキップにダンスステップを交え、軽やかに踊るようにブラックハーツに戻って行った。

 そして観戦エリアでは、その可愛さと揺れるたわわにお約束の黄色い歓声が上がっていた。

 

 

「やっほ~戻ったよ~♪いやあ思った以上に上手く行ったわ。ファイアフライは右の履帯が完全に外れて多分足回りにも何がしかのダメージ負ってると見ていいわ」

 

「ナイスアシストよ芹香♡」

 

「うふん♡」

 

 

 戦果を報告する芹香の頬の満足気に軽くキスをする鈴鹿と、満更でもなさそうな芹香。

 

 

「あの状態だと後続の4両も、元来た道を戻って本隊と合流するしかなさそうね。でもファイアフライの支援に、人員考えても最低でも2両は残ると私は思うよ」

 

 

 芹香の報告に更に満足気な笑みを浮かべる鈴鹿であった。

 一方ファイアフライの方でも一瞬目を回したナオミ達が外に出ると自車の惨状に言葉を失い、次いで怒りに任せコンクリート片を蹴り上げたが、相当痛い思いをしたらしく蹴った脚を抱え飛び跳ねる醜態を晒す事になってしまっていた。

 

 

「何をやっとるんだアイツは……?」

 

 

 ナオミが片脚抱えて飛び跳ねる姿を見たアンチョビが眉を寄せながらそう言う。

 

 

「全く…相変わらず下品でガサツなんだから……」

 

 

 紙コップなのにやたら優雅に紅茶を飲むダージリンは、どうやら初戦でラブの仕掛けと挑発に醜態を晒した事は都合よく忘れているらしい。

 

 

「白旗は揚がっていませんが、これで当分ファイアフライは使い物にならないでしょう。この戦力ダウンは無視出来ないものがありますね」

 

プラウダ(ウチ)とやった時も真っ先にKVタンを潰しに来たものね」

 

 

 脅威度の高い相手から倒せずとも確実に足止めして来るやり口は、火力面で大幅に劣る現在のAP-Girlsにとっては最早常套手段になりつつあり、その方法も状況に合わせ瞬時に考えて実行して来る辺りはそれ自体が相手にとっては脅威になりつつあった。

 実際にそれでしてやられたカチューシャとノンナは、早々にファイアフライをやられてしまったサンダースが、自分達の教訓を生かす事が出来ていない事に少々苛立ちも覚えているようだ。

 

 

「ケイとナオミ、二人揃って少々迂闊でしたね……」

 

「全くよ!アレを見なさいよ、援護と修理のヘルプに2両も残ってるんじゃ増々ラブを楽にしてるじゃない!テンパってその辺の判断力まで落ちてるわ!」

 

 

 崩落と言っていいレベルで崩れた土砂とコンクリートのお蔭で、修理作業前に土方仕事をしなければならずその後の作業と合わせると相当体力を消耗するのは確実だった。

 鈴鹿が与えたダメージは当人達が考える以上のもので大戦果と言っても過言ではないだろう。

 だがこれはまだ序の口に過ぎず、鈴鹿やりたい放題のサンダースにとっては悪夢のような時間の幕開けでしかない事をケイ達はこれから思い知る事になる。

 芹香の報告を受けた鈴鹿は再びブラック・ハーツを発進させ、戦果をチーム全体に無線で連絡しながら工場建屋の間に消えて行った。

 

「あら~履帯外れたんだ、ナオミぶちキレてるだろうな~♪」

 

 

 ブラック・ハーツ通信手の芹香による報告を受けたラブは、笑っちゃ悪いと云うような表情で聞いていたがその目は笑っているし声もいつも以上に浮かれていた。

 そのラブが騎乗しフラッグ車であるLove Gunは、神社の急階段からアリサのM4A1にノックを敢行した後に最早お馴染みの図々しさを発揮し、現在は周辺で唯一見通しの利く小学校の校庭のど真ん中に堂々と居座っていた。

 

 

『そこまでは私も観察してないよ。でもまあそんな訳で当分県道の海沿いルートは通行止めよ』

 

「これでケイとナオミが頭沸騰してくれると色々やり易いんだけどね~」

 

『ほんとラブ姉もいい性格してるよね』

 

「なによ~」

 

『まあいいや、取り敢えずブラック・ハーツはまだ暫くは好きにやらせて貰うわ』

 

「了解よ、私も当分はここにいる予定だから」

 

 

 今回ラブはAP-Girlsに対し、厳島流の基本である単騎駆けによる作戦行動を行なわせているが、それに当り無線でLove Gunの動向を逐一各車に伝えていた。

 これにより全車がLove Gunのポジションを把握している事になり、当然今現在校庭に居座っている事も知っている訳である。

 それが何を意味するかといえば今回の課題のひとつ、味方をも利用する事でありこの場合は如何にラブという特大の餌を、何処までAP-Girlsが利用出来るかに掛かっていた。

 AP-Girlsを鍛える為とはいいながらこの大胆を通り越した行動にラブをよく知る者は呆れ、そうでない者達の間にはどよめきが起こっていた。

 

 

「相変わらず図々しいな……」

 

「でもこんな大きい釣り針に釣られるお馬鹿さんがいるかしら?」

 

「だが釣られざるをえんだろう、この状況では……」

 

「全く!人を踊らせるのは本当に上手よね!」

 

「私達も結局最後はいいように踊らされちゃうんですよね……」

 

『……』

 

 

 色々言ってはいたが、最後のみほの言葉で全員言葉を失い恥かしそうに俯いてしまう。

 

 

「あ…みんな散々やられたんだ……」

 

 

 その様子にメグミも過去何があったか察したようだが、その隣にエスコートの名目で座る笠女生徒会長の木幡結依に、甲斐甲斐しく『はい、あ~ん♡』などとお手製らしきスイーツなど口に入れられて、こちらもまた着々と結依の術中に陥っているようである。

 

 

「それでそっちの被害状況は!?」

 

 

 自身も襲撃を受け隊全体がパニックになり掛けた後に、今度は別働のファイアフライが狙われ被害が出た旨の無線連絡を受けたケイは、その様子からイラついているのが見て取れ既にラブの手の平で踊らされ始めているのが明らかだった。

 

 

『右の履帯が完全に外れやがった…転輪にもダメージが出てそうだ。だが修理の前に土砂に埋まってるから今総出で掘り出してる処だ……その、すまない…いきなりやられてしまって』

 

 

 珍しく最後は気落ちしたように声のトーンが下がってしまったナオミに対し、今はとにかく全力で戦線復帰を目指すよう伝え、白旗が揚がらなかった事で良しとして自分を納得させていた。

 だがそこでナオミとの交信を終えひとつ息を吐いたケイの元へ、徒歩による偵察に出していた隊員の一人からLove Gunが小学校の校庭に居座っているとの報告が入った。

 

 

「Shit!そう…そういうつもりなのね……随分となめられたもんだわ!」

 

 

 それが罠である事は、例えそれが馬鹿でも解るマニュアルにすら載っていなくとも解る事だ。

 しかしそれでもそれに乗らざるを得ない状況を作るのがラブが最も得意とする処であり、そしてそれに乗った結果例え勝利したとしても、そこに至るまでに発生した損害の大きさに勝者側は全く勝った気がしないというのがラブと戦うとよく感じさせられる事であった。

 

 

「偵察隊は全員戻りなさい!これよりラブを包囲してヒイヒイ言わせるわよ!」

 

 

 何かがぶちっと切れたようにケイがそう叫んだ瞬間ドン引きする下級生達の前で、ラブとも面識のある3年生達がそれをぶった切って通信に割って入った。

 

 

『ダメよ!隊長、いやケイ!少し落ち着け!今回フラッグ車に乗るアンタがまんまとラブの手に乗ってどうするのよ?』

 

『そうね、行かざる得ないのは解るけどそれはフラッグ車の役目じゃないわ』

 

『例えⅢ号J型が相手と言ってもそこはやっぱりラブだしAP-Girlsも伏せてるだろ?』

 

「な!?だけど!」

 

 

 たて続けに舞い込む3年生チームからの苦言に対し、ケイもろくな反論は出来ない。

 

 

『だからここは私ら3年生主体のチームで行くからさ、ケイは後方から見極めて全体の指揮を執れ、それが隊長の役目だろ?』

 

 

 最後は諭すように言われるとケイも完全に反論が出来なくなった。

 

 

「Ok…解ったわ、あなた達に任せる……」

 

 

 口を尖らせているものの、同期達の進言を受け入れたケイは今声を上げた3名に校庭への突入を任せ、自分は背後から指示を出す事に徹する事とした。

 

 

「先輩!それなら私達に裏手からの突入を任せて貰えませんか?」

 

 

 声の方を見ればそこには来年は主力となる2年生中心のチームが集まっていた。

 

 

「解った、でもスペース的に2チームがいいトコよ。それに位置的に私達が突入してからの移動になるからね、当然丸見えだし注意するのよ」

 

『Yes,ma'am!』

 

「ほらね?こうしてちゃんと後に続く者も育ってるのよ?なのにアンタがそんなでどうすんだ?」

 

 

 そう言いながら同期の一人がケイのお尻を景気良く音を立てて叩いて来た。

 

 

「痛っ!ってナニすんのよ!…まあ悪かったわ……でも私達とナオミに奇襲を掛けて来たのは誰なのかしら?これだけやられて姿を確認出来てないって気持ち悪いわ……まあラブじゃないのは確実だと私は思うんだけどね……」

 

「何でそう言い切れるのよ?」

 

「拡声器……」

 

『あぁ……』

 

 

 奇襲を仕掛けて来たのがラブであれば、必ずそうと解るよう拡声器による挑発パフォーマンスも忘れずやって来るであろう事をケイが指摘すると、同期で中学時代に散々やられた経験のある者達は、当時を思い出したのかげんなりとした表情になり嫌そうに溜め息を一斉に吐くのだった。

 

 

「くちっ!」

 

「今のナニ?」

 

「ラブ姉のくしゃみ」

 

「……変なの」

 

「う、うるさいわね~!誰かが噂してるのよ私の事が可愛いって!」

 

『図々しい……』

 

 

 コマンダーキューポラから身を晒しケイ達を待ち受けるラブが、クシャミをした瞬間に好き勝手な事を言うLove Gunのメンバー達に、ラブも言い返すのに必死だが大概はラブが何か言い返すとその発言に全員が呆れてそこで終わりとなるのがお約束だった。

 しかし状況を考えれば、こんな時でもそんな事を言い合う彼女達全員が図々しいと云えるだろう。

 

 

「それより!さっきチョロチョロ影が見えたからね、ぼちぼちお客さんが来るよ!」

 

「はいはい、解ってるわよ。それより暗躍しまくりの鈴鹿はともかく他の連中はここまで音無しで何やってるのよ?まあその辺に潜んでLove Gunをダシにして何かやるつもりなのは解ってるけどさ」

 

 

 いつもの事と云えばそれまでだが、今回も忙しくなるのが確定しているLove Gun操縦手の香子は、ラブの無茶振りとその結果被る自分の負担を考えると楽しい顔は出来なかった。

 

 

「そう言わないでよ~、香子の頑張りにはいつも感謝してるんだからさ…ね?」

 

「またそうやって可愛い子ぶって誤魔化そうとしやがって……」

 

 

 実際ラブのそういう仕草や言い方が可愛いので余計腹立たしい香子であった。

 しかしそんな事を言っているうちに複数の履帯がアスファルトを削る音と、エンジン音がラブ達の耳に届き始め遂にサンダースが攻勢に出た事を知らせていた。

 

 

「来たね…香子ちゃんエンジン始動」

 

「気持ち悪いからちゃん付けとかヤメロ!」

 

 

 イラっとしながらもエンジンを始動する香子。

 Love Gunのエンジンが目を覚ましたタイミングで、校庭に3両のシャーマンが間隔を詰め一列縦隊で一気に雪崩れ込んで来たが、その3両の車長の顔を見とめたラブはニヤリと笑い、その意図を見抜いたかのように嬉しそうにしている。

 

 

「あらあら♪どこかで見たようなお顔ばかり、これはアレかしら?ケイと戦いたかったら私達を倒してからだということかしら~?」

 

 

 中学時代何度となくやり合った経験のある顔が並んだ事に、ラブは懐かしげな表情をしながらもいつもの拡声器を取り出し3両のシャーマンの車長に向かいそう叫んでいた。

 

 

「久し振りに相対したかと思えばいきなりソレ!?」

 

 

 言い返しながら距離を詰めて来るシャーマンに対し、急発進したLove Gunも自らそちらに向かって突っ込んで行くが、やはりラブを知っている世代はその程度では狼狽えたりはしなかった。

 最初は互いに示し合わせたように反時計回りで旋回しながら双方相手の出方を窺っていたが、そのタイミングで2両のシャーマンが全速力で校門の前を通り過ぎ校庭裏手に向かう緩い坂を駆け昇って行くのが見えた。

 

 

「あらあら、Love Gun1両相手に念の入った事ねぇ♪」

 

「私らも自分達の実力は解っているつもりよ!」

 

 

 いよいよ頃合いと見たサンダースの三年生チームの3両は、一列縦隊での円運動から一転して今度は一列横隊となると牽制の砲撃を入れつつLove Gunに対し圧力を掛け始めた。

 その背後を取って挟撃するべく坂を駆け上がり、その先を右折して体育館裏に差し掛かったシャーマン2両に対し、その体育館の中から突如徹甲弾が襲い掛かって来た。

 

 

「うふふ♪姿は見えずとも音で充分狙い撃ちに出来る距離よ。次、仰角そのまま左に2度修正!徹甲弾装填、用意…撃て!」

 

 

 道路側からは見えない体育館正面入り口をぶち破り、内部に侵入後はその重量で床を踏み抜いて回り自由に動き回れる空間を確保していた凜々子は、当初はそこからラブを餌に近付く車両を狙撃する目論見であったが接近する2両に気付き予定を変え、そこでその2両を足止めしあわよくば討ち取る事を目的として砲撃を開始した。

 2両共壁越しの砲撃で損傷はせずとも直撃を受けた事に動揺し、一旦後退すると様子を見つつ再度前進しようと試みたが、その度に的確に砲撃を受ける為迂闊に動けなくなっていた。

 

 

『どうする?このままじゃ埒が明かないよ!?』

 

 

 僚車からの無線の声は既に焦りの色が混じっており、ここは自分が冷静にならねばともう一方のシャーマンの車長は意識して落ち着いた声で応答する事を心掛けた。

 

 

「ここで浮足立っちゃダメよ、それこそ相手の思う壺だわ」

 

『じゃあどうするのよ!?』

 

「落ち着いて!まずは2両で榴弾を使って体育館の壁を崩して行こう。壁が崩れれば相手が視認出来るようになるだろうし、上手くすれば体育館そのものが崩落して、相手を瓦礫で埋めて行動不能に出来るかもしれないから」

 

『わ、解った……』

 

 

 そこから2両のシャーマンは、イエロー・ハーツからの砲撃を警戒しながら協力して体育館の壁を崩しにかかったが、お互いの姿を視認出来る様になるとイエロー・ハーツからの砲撃精度も俄然上がり、一進一退の攻防が続くようになっていた。

 結果Love Gun対シャーマン3両もその図式は変わらず、ラブは余裕の大立ち回りを演じ始めており状況的には明らかにシャーマン3両が手玉に取られいいようにやられている。

 そしてここでそれまで鳴りを潜めていたピンク・ハーツとブルー・ハーツの2両が、イエロー・ハーツ同様ラブを餌に狩りをする予定を変更し、擬装を施し潜伏していた場所から大幅に数の減っているサンダース本隊を襲撃すべく、校庭から飛び出して行った。

 

 

「しまった!ケイ気を付けろ!2両そっちへ行ったぞ!」

 

 

 ラブ相手に必死で戦うシャーマンのうち、ケイを諌めた車長が無線にそう叫ぶ。

 

 

「あの子らも薄情よね~、私を援護しようとかそういう気が更々無いんじゃないの~?」

 

「何を今更言ってんのよ!」

 

「そう仕向けたのは誰よ!?」

 

「また眠くなる薬でも飲んだ!?」

 

「寝言なら聞かないよ!」

 

「みんな酷い……」

 

 

 次々指示を出しLove Gunを振り回す間に、呑気な事を言うラブに一斉に突っ込みを入れるが全員その手を休める事はなくLove Gunもまた大暴れを続けていた。

 無線連絡を受け迎撃態勢を取っていたケイとアリサのいる本隊であったが、襲い掛かって来るであろう2両に意識を向けたその隙を再び鈴鹿のブラック・ハーツに背後より襲われ、小学校手前の数件の店舗跡の前の緩い曲線の一本道に一列縦隊で待機していた為逃げ場もなく、最後尾の一両だけが後部を晒したまま砲塔のみ旋回させて応戦する破目になっていた。

 

 

「転回急げ!尻に喰らったらただじゃ済まないよ!」

 

 

 何とかしようにもさして広くない道で停止状態からではその動きは極めて遅い。

 しかもいくらシャーマンとはいえ、最終的に肉薄されてしまえばⅢ号J型の50㎜でも後部に喰らえば無事では済まず、エンジンをやられ炎と黒煙と共に白旗を揚げ、この日の最初の戦線離脱車両はサンダース側から出る事となった。

 

 

「サンダース大付属、シャーマン走行不能!」

 

 

 観戦エリアにそのアナウンスが響き悲鳴と歓声が上がったが、ケイの苦境はまだ終わってはおらず今度は正面からやって来たピンク・ハーツとブルー・ハーツの2両が攻撃に加わり、最後尾の一両が撃破されて動けない為に退路を断たれたケイは最大の危機を迎える事になった。

 ここで背後のブラックハーツも再度攻撃を始め、完全に挟撃のドツボにはまったサンダースの本隊は何とか形勢を逆転すべく必死の反撃を試みたがそれも思うようには行かず、フラッグ車の前にいる車両は盾として防戦を続けているので既に満身創痍であった。

 そしてここでケイにとっては不運としか言いようがないが、後続の2両目がまたしても鈴鹿の餌食となりサンダースはたて続けにリタイアを出す破目になった。

 だがここに来てギリギリのタイミングでナオミの別働隊から離脱した2両が、援護射撃を加えつつケイの下へと猛進して来るのであった。

 しかしそれに気付いた瞬間にはブラックハーツはスモークを焚き、それに合わせピンクハーツとブルーハーツもそこから即撤退しており、どんな場面でもその行動の速さにアンチョビなどは感嘆の声を上げる程で、このまま行けば今日のMVPは間違いなく鈴鹿となるであろう働き振りであった。

 

 

「……後方の警戒を怠った私のミスよ…今のはブラック・ハーツよね……でもこれではっきりしたわ、最初に私に奇襲を掛けたのもナオミのファイアフライをやったのもあのブラックハーツ、鈴鹿って子の仕業に間違いないわ……」

 

 

 試合開始から一時間と経たないこの短時間の間に、ブラック・ハーツったった1両にこれだけいいようにやられた事にケイはギリリと歯噛みする程悔しさを露わにしていた。

 それと同時にAP-Girlsのレベルの高さ、特にラブを除いた24人全員が正真正銘の一年生である事を考えると背中に薄ら寒いものが奔り、ケイはそれを明確に恐怖心と自覚していた。

 

 

「チッ!また外れた!あの状態から躱すってどういう事よ!?」

 

「あの頃とはメンバーだって違うのに!」

 

「って、そこで撃つ!?」

 

 

 3両のシャーマンに包囲されながらも、その攻撃をそれこそAP-Girlsのダンスステップそのままに踊るように躱し続けるLove Gunに対し、解っていたはずなのに焦る気持ちばかり強くなっていた。

 何しろいくら撃っても当らずカウンターで撃ち返される弾は尽く当る。

 これがもしⅢ号ではなく嘗てのラブの乗機のパンターであったなら、自分達はとっくの昔に返り討ちにあっていただろうなどとマイナスな発想ばかりが頭に浮かび、それが一層行動に影響を及ぼして3対1で戦っていながら押される一方でジリ貧なのは彼女達の方なのであった。

 そして遂に1両が完全に虚を突かれる形でLove Gunに討ち取られる事態が発生してしまう。

 3両のうち2両が囮となり、例えその2両がやられたとしても残りの1両がLove Gunを仕留める、それは大戦中ティーガーを倒す為に連合軍が取った手口そのもので、決して褒められたものではないが数に物を言わせるのは普通に戦う上では有効な手段である事は事実である。

 しかし相手は厳島、それが通用しない相手である事は解っていたはずなのに、その手を使ってしまったのはそれ程まで精神的に追い詰められていた事の表れという事か。

 結果としてそれが裏目に出てしまう事になったのだ。

 2両が攻勢に出てLove Gunがそれを受け流しカウンターを返したその瞬間、トラップは完全に決まり背後を取る事に成功した1両が無防備なLove Gunの尻に一撃を放つ。

 それが弾着し全てが決まると思ったその時、ふらりと車体を揺らしたLove Gunはそのままドリフトに移行すると、砲撃を終えまだ砲身から煙をたなびかせるシャーマンの後ろにピタリと張り付いた。

 

 

「しまった!」

 

「うふ♡」

 

 

 ラブがにっこりと微笑み投げキスを決めるのと同時に、Love Gunの長砲身50㎜が火を噴きシャーマンは機関部を貫かれ爆炎と共に白旗を揚げたのだった。

 だがこれは決してサンダースのレベルが低いという訳ではなく、彼女達もまた非情に高い次元で戦いを繰り広げていたのは間違いのない事だ。

 しかしラブのそれが彼女達をはるかに上回っていた、ただそれだけの事であったのだ。

 

 

「うそっ!?」

 

「今のはいったい……!?」

 

 

 突然の事に激しく動揺する彼女達の前で、Love Gunが激しくコマのようにスピンをしながら盛大にピンクのスモークをぶちまけて、彼女達の視界を奪いその隙にさっさと校庭から姿を消していた。

 更にLove Gun逃走に続き体育館の壁が吹き飛んだと思うと、出来た穴からイエローハーツが言葉通りにすっ飛び出し、ダメ押しのピンクスモークを噴射しながら走り去って行った。

 

 

「…何て言うか相変わらずだったね……」

 

「うん…そうだね……」

 

「うん…相変わらずよく揺れてた……」

 

『そっちかい!』

 

 

 こんな時でもラブのたわわは強烈な印象を残しているのであった。

 最後は戦車戦とは関係ない部分で相手を恐れさせ、最初の攻防は終了した。

 

 

 




履帯って結構あっさり外れちゃうんですよね。
そう、例えそれが最新の10式でも……。

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