ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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今回でサンダース編も終了となりますが、
このシリーズはなんかタイトルが酷かったなぁ……


第四十四話   長崎ラブラブ節

「何故そうお考えですか?」

 

 

 メグミの手元のカップにコーヒーを注ぐ所作には淀みがなく、その言葉にも戸惑いなどといった感情は微塵も感じさせずそれまでと何等変わらぬ笑みを浮かべたまま、注ぎ終えたコーヒーのポットをテーブルに戻しながら、結依はメグミに逆に質問を返した。

 

 

「ええとそれは……」

 

 

 メグミは慎重に言葉を選びながら結依に対し確認するような口調で再度口を開く。

 

 

「あのケッテンクラートの事なんだけどね──」

 

「とらちゃんですか?とらちゃんが何か?」

 

「とらちゃんて……」

 

「ええ、とらちゃんです♪その方が可愛いでしょ?」

 

 

 その気の抜けた結依の茶トラケッテンクラートの愛称らしき呼び名に、脱力してこけそうになったメグミだがどうにか堪え質問を続ける。

 

 

「その…とらちゃんの事だけど結依ちゃん、アナタ随分と扱いに慣れてるわよね」

 

「そりゃまあ入学早々から乗らせて貰ってますからね~♪」

 

「ううん、そういう事じゃないわ。いっぱい走り回っている他のケッテンクラートと比較しても、アナタの運転は根本的に違うのよ」

 

「はい?」

 

 

 あくまで笑みを絶やさず答えた結依の返事を、即座に遮る形でメグミは否定した。

 

 

「結依ちゃんのとらちゃんの扱い方はね…とらちゃんは半装軌車だけど、あの扱い方は無限軌道の扱いに長けた人のそれよ。自慢する訳じゃないけど私だって戦車道選手としてはそれなりのポジションにいる自覚はあるし、見る目もある方だと思う。それに何よりね、私の戦車乗りとしての勘がアナタは強いって私の耳元に告げて来るのよ」

 

 

 嫌味を言う訳ではなく勤めて真摯な表情と声で結依に対し自分の思った処を伝えたメグミであったが、それでも尚一切の表情と感情の変化を見せずにこやかなままで結依はとぼけ続ける。

 

 

「さあ?それはどうでしょうねぇ?メグミお姉さまの買い被り過ぎだと思いますよ~?」

 

「私は別に責めている訳ではないのよ?」

 

「ええ、解ってますよ~」

 

 

 結依も特に不快に思っている風でもなく実にさらりと受け流す。

 

 

「それじゃあ……」

 

「そうですねぇ…もしそんなに気になるのでしたら私の事を調べて頂いても一向に構いませんよ?」

 

「え?」

 

「但しご自分の力でお願いしますね…尤も私も一応は笠女情報処理学科に属する人間なのでそう簡単には行かないとは思いますけど。それでもし何か解ったら私にも教えに来て下さいね♪」

 

 

 それまで以上にパワーアップさせた笑顔をメグミに向けサラッと提案するように言う結依であったが、最後にはちゃっかりと再び会う口実が付け加えられていた。

 

 

「あぅ……」

 

 

 その飛び切りの笑顔と言われた事に、メグミは対戦車地雷を踏み抜きパーシングごと引っ繰り返されたような心境になり、やはり大学生では現役女子高生には勝てないのだと悟るのであった。

 

 

「さあメグミお姉さま、お時間ですのでこちらへどうぞ」

 

「へ?」

 

 

 立ち上り結依が手招きする背後には、いつの間にか背中に校章であるZ旗を背負ったパーカーの生徒が数名立っており、腕にアームピンクッションを巻いている処を見るとどうやら被服科の生徒らしく、何が起こったのか理解出来ないメグミは独り硬直していた。

 

 

「え!?ちょっとこんな…大胆過ぎ!聞いてない!結依ちゃん!?」

 

 

 訳が解らず固まっているうちに、メグミがカフェから連行された小部屋はどうやらドレッサールームのようであり、あっと言う間に身包み剥がされガウン姿にされると、椅子に座らされメイク部隊に派手なメイクを施され髪は綺麗に夜会巻にされていた。

 そして今我に返り悲鳴を上げるメグミの目の前には、トルソーに掛けられた胸から肩にかけての露出とサイドスリットも大胆な、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出すワインレッドのサテン生地で仕立てられたイブニングドレスがあった。

 

 

「いえいえ、これでも素敵なメグミお姉さまには控えめな位ですわ♡」

 

「結依ちゃ‥って、えぇぇ~!?」

 

 

 結依の嬉しそうな声のする方にメグミが目を向けると、トルソーに掛かるメグミのイブニングドレスとデザインは同じながら、淡いパールピンクのイブニングドレスを身に纏った結依が立っていた。

 そこにそれまでの優等生生徒会長結依の姿は欠片もなく、豪奢に結い上げられた藤色の髪とそれ以上に目を惹く大胆に過ぎるたわわの露出にメグミの目は釘付けになっていた。

 

 

「似合いませんか~?」

 

「いや、その…とっても似合ってるけどそういう事じゃなくて……でもマヨチューブ体型のルミが見たら泣いて逃走しそうねぇ……」

 

 

 結依のパーフェクトなプロポーションを見たメグミは何気に酷い事を言っている。

 

 

「そんな事より早く着替えないと時間がなくなってしまいますよ?それに今夜は素直に着替えておいた方がメグミさんの為にもなると思います」

 

 

 訳が解らぬメグミであったが結依とスタッフの生徒に迫られ、また身包み剥がされる前に諦めて自分から試着室のようなカーテンの中に飛び込み用意されたドレスに着替えるのであった。

 驚くべき事に用意されていたドレスも、その他の装身具やヒールなどの一切がどれもサイズはメグミにぴったりと合っておりいつの間に情報収集されたのかすら解らず呆然とする。

 ドレスを身に付けオペラ・グローブに袖を通すと、その肌触りの良さにうっとりする程であったが用意されたヒールを見るとそれは厳島系列のブランドの物であり、学生の身分では手が出せる代物ではない事は解っているので一瞬で目が覚めたメグミは、おっかなびっくりヒールに足を入れると傷付けないよう慎重な足取りでカーテンの外に歩を進めた。

尚、余談ではあるがメグミがこの日身に付けた物は、全てプレゼントとして帰り際に手渡され、メグミが危うく腰をぬかしそうになる一幕もあった。

 

 

「うわぁ♡やっぱりとても良くお似合いですわ♪」

 

「いや…あのね……」

 

「さあ!本当にもう時間がありませんわ、席の方に行きましょう!」

 

 

 流されるままに結依に導かれアリーナの関係者招待席に向かったメグミだが、その周囲の席とは隔離されたちょっとしたパーティ会場のような空間にLOVE'S VIPとして入場したメグミは、そこに集う者達を見て着替える前に結依が言っていたメグミの為になるという言葉の意味を理解した。

 そこには礼装に身を包んだ佐世保基地の日米双方の高官やその婦人を始め、地元財界人や著名人などが多数おり、凡そ遊び回る為にラフな格好をした女子大生ごときが入り込める空間ではなかった。

 しかし今の二人は何処に出ても恥ずかしくない完璧な淑女としてその場におり、その二人を見止めた米軍高官お付きの者と思われる若い将校が二人、エスコートするべく早速手を差し出して来た。

 二人は顔を見合わせクスリと笑うと、それに任せその空間に入って行くのであった。

 一方ほぼ時を同じくしてアリーナに来ていたサンダースの一行の中で、ケイと杏もまた被服科の生徒に拉致されドレッサールームに連れ込まれていた。

 その際ナオミ達はニヤニヤとしながら見送っていた処を見ると、ケイと杏以外には事前に何をするか知らされていたのかもしれない。

 

 

「what!?これは一体どういう事よ!」

 

 

 連れ込まれたドレッサールームも杏とは別々で、ケイは包囲して身包み剥がさんとする被服科の生徒達に抵抗する様に声を上げていた。

 

 

「うるさいなぁ、見苦しいわよ~?これからアンジーをエスコートするのに肝心のアンタがそんな事でどうするのよ~?仮にもケイはサンダースの隊長さんでしょ~?シャキッとしなさいよ~」

 

「ラブ!?あんたこそ一体こんなトコで何やってんのよ!それにエスコートって何!?」

 

 

 もうライブ開始までいくらも時間がないはずなのに、突如目の前に現れたラブにケイは驚き声を上げたが、ラブはそれを無視し更に畳み掛けるようにケイに言い募った。

 

「とぼけた事言ってないで自分に正直になりなさい!私はケイがずっとアンジーの為に頑張って来たのを知ってるわ。全ては後から知った事だけど生半可な気持ちじゃあんな事は出来ないわよ、それ程の想いがあるならきちんと伝えるべきだわ。アンジー…杏だってちゃんと真正面から向き合えば誠意を以って答えてくれるはずよ。だからケイ、あなたらしく真っ直ぐに想いを伝えるの!」

 

 

 そう言いながらラブもケイの瞳を真っ直ぐに見つめて来る。

 こんな時のラブの直向きさはケイもよく知っている、純粋に只々真っ直ぐなのだ。

 それをよく知っているだけに、ケイは小さく息を吐くとひとつ頷き短く答えた。

 

 

「解ったわ……」

 

「さすがケイだわ♪そうと決まったら後はこの子達に任せて!決して悪い様にはしないわ、私達が最高の舞台を創って見せるからケイは思いの丈を杏に誠心誠意伝えて頂戴ね!」

 

 

 拳を握りしめそう言うと、ラブはドレッサールームから駆け出して行きあっと言う間にその姿は見えなくなり、後に残されたケイは若干早まったかもといった表情になった。

 そして振り返り用意されている衣装を見たケイは頭を抱え悪態を吐く。

 

 

「Goddamn!あんのお馬鹿ぁ!アタシら戦車乗りなのに何で海軍のディナードレスなのよ!?しかもこれ夏用のホワイトメスジャケットじゃないのよ~!」

 

 

 ラブが被服科にそのメスジャケットを作らせたのは、別に自分達笠女とサンダースがベースの世話になっているからとかそういった意図はなく、単にその方がカッコ良くて絵になるからという実に解り易い理由からであったが、実際にホワイトメスジャケットを身に纏い、メイク班が少し前髪を落としたオールバック風に仕上げた髪型のケイはやたら漢前(おとこまえ)に過ぎ、一目見て撃沈される者が続出する程であった。

 

 

「うひゃあ!コレはいくら何でも私にゃアダルトに過ぎるっしょ~?」

 

 

 ケイとは別のドレッサールームに連れ込まれ入念にメイクを施され髪型もトレードマークのツインテではなく、ストレートに降ろされて髪留め代わりのティアラが目を惹いている。

 その杏が驚いているのはメグミ達とはデザインが異なるものの、やはり露出度の高い深い蒼のサテンのイブニングドレスであり、そのアダルト度の高さに大洗のロリ会長は大いに困惑していた。

 

 

「大丈夫よ!アンジーは素敵な(ひと)ですもの絶対に似合うわ♪私が保証する!」

 

「ほえ?ラブ?なんでここに?てかもうライブ始まるんじゃ!?」

 

 

 驚く杏の前に立ったラブは真剣な表情と声で言い含めるように語り掛ける。

 

 

「ねえ杏、ケイはとても真っ直ぐでいい子よ。曲がった事は大嫌い、だから大洗に対する仕打ちが許せず率先して動いていたわ。でもね、それだけであそこまでリスクを冒す事はそうそう出来る事ではないわ……杏なら私の言っている事の意味は解るわよね?」

 

 

 ラブのその言葉を聞いた瞬間杏の頬にポッと朱が燈る、杏も時折ケイが向けて来る熱のこもった視線に気付かぬ程鈍くはないしその視線が意味する処もある程度解ってはいた。

 結局この二人に必要なのはちょっとした切っ掛けだけなのかもしれないが、それでもまだ杏の中にはどこか躊躇するものがあるのようだ。

 

 

「うん…でもね、あんなに真っ直ぐで眩しい(ひと)に私みたいな腹黒女は相応しくない気がするんだよ……もっとこう裏がない人の方がいいんじゃないかってね……」

 

「そんな事ない!」

 

「え?」

 

「学校を…仲間を守りたい……その為にあそこまで出来る杏だからこそ、ケイもあれだけの事をやったんだよ?もし杏にその気持ちがないとしても、ケイの想いには真摯に応えて欲しいの」

 

「うん、うん…ありがとうラブ……」

 

 

 控えめに頷く杏の表情を見ると、その答えは既に出ているようだ。

 それを見て取ったラブもまた一つ頷くと穏やかな声で杏に声援を送る。

 

 

「それじゃあ私は行くわね。大丈夫きっと上手く行く、私もその為に目一杯頑張るわ♪」

 

 

 その言葉を残しラブは杏のドレッサールームを後にして脱兎の勢いで走り去って行く。

 実際開演時間まではもう本当にギリギリで、楽屋に飛び込むなりAP-Girlsのメンバー達からは遅いの声が飛び、取り掛かったメイク班と被服科の生徒達に凄まじい速さでラブは変身させられて行き、その勢いのまま舞台の袖に移動するといつもの円陣を組み気合を入れて出番に備えていた。

 そして丁度ラブ達が気合を入れていたその頃、海軍の青年将校風に仕立て上げられたケイにエスコートされた杏が、案内役の生徒に誘導されアリーナの関係者招待席の中でも豪華列車のコンパートメント風に仕切られたボックス席に着こうとしていた。

 二人が場内に現れた時あちこちからその二人の様子に溜め息と歓声が上がったが、既に二人の世界が出来上がっているらしくそれらは耳に届いていないようであった。

 

 

「まあ!まあ♪まあ♡このシチュエーション、嫌いじゃありませんわ!むしろ大好物ですわぁ!」

 

「もちつけダージリン!」

 

 

 常軌を逸したハイテンションのダージリンの後頭部に、アンチョビが空手チョップを入れたがそのテンションは下がる事なく興奮したまま騒ぎ続けている。

 こうなった時のダージリンは手の施しようがない事を全員長年の経験から知っていた。

 

 

ダージリン(コレ)はいつもの事だからまあいいわ……それより問題なのは私達のこの扱いよ!コレは一体何なのよ!?」

 

 

 今ケダモノ一同が押し込められているのは、舞台から見て側面にあって中二階にあたるような階層の横長な部屋であり、視界の方もまるでガンポートのようなスリットが空いているのみで、どうやらその空間は実況席や放送席あるいは記者席といった用途の部屋らしかった。

 

 

「まあそう言うなカチューシャよ、実際此処は二人の様子を観察するのには最適だぞ?」

 

 

 確かにその空間からはケイと杏の様子は良く見えるが、逆に二人からはこちらの様子は見え難くなっており安心して野次馬する事に専念出来る作りになっていた。

 しかもそれぞれの座席の前には、専用台座と雲台に据えられた明るい大口径双眼鏡も用意されておりその備えはこれ以上はない程に万全の体制が敷かれていた。

 そう指摘しながらもアンチョビは双眼鏡を覗き込んでおり、手はメモ帳に高速で何かを書き込むという相変わらずな器用さを発揮していた。

 

 

「わ、解ってるわよそんな事は!ちょっと言ってみただけよ!」

 

 

 そんな反論をしつつカチューシャもまた双眼鏡を覗き込む事に専念する。

 全く揃いも揃って呆れた野次馬根性ではあるが、全力で二人の仲を取り持ちながらも裏ではこんな準備をしている辺りは、やはりラブもこのケダモノ達の立派なお仲間という事か。

 それぞれの想いが交錯する中会場内に開演を告げるアナウンスが流れ、照明が落ち一瞬の暗闇にアリーナが包まれそれまでのざわめきも潮が引くように静まって行く。

 

 

「いよいよね!プラウダ(ウチ)の時も凄かったけど、一体ラブは今回はどんな要素を取りれて来るのかしら?」

 

 

 暗闇の中カチューシャの期待のこもった声が響く。

 AP-Girlsのライブは対戦校とその地元の特色をステージに取り込むのが売りになっており、既にそれが知れ渡り注目されるようにもなっていた。

 皆の期待が高まる中その耳に一斉に唸りを上げるシャーマンのエンジン音が飛び込んで来る。

 

 

「え?何!?」

 

 

 アリーナ中の観客の頭に疑問符が浮かんだその瞬間、今度はいつものケイの出撃命令を下す声が高らかに場内に轟いた。

 

「Go ahead!」

 

「は?な、何よ!?」

 

 

 突如響く自分の声にケイが戸惑い思わずキョロキョロしたその時、派手な花火と共に今度はラブの絶叫に続きAP-Girlsの黄色い嬌声が響き渡り、メンバー全員がアメリカ野砲隊マーチをBGMにステージに雪崩れ込んで来る。

 

 

「Let's Go Saunders!」

 

『Yeaaaah!』

 

「やっぱりそう来たか~♪」

 

「まあやるとは思いましたけど」

 

「でもスカート短過ぎなんじゃ……」

 

 

 ある程度予想されていたようではあるが、それでも皆一様に興奮した様子で登場したAP-Girlsの姿に歓声を上げ大喜びでそれを迎えていた。

 ラブ達はAP-Girlsオリジナルのチアリーディングの衣装に身を包み、派手なアクションで登場するや縦横にステージ中を跳ね回り観客を圧倒する。

 ただラブだけはその抱えるハンデの為出来る事も限られるが、夏妃の暴れっぷりが凄まじくそれらの問題を全て見事に覆い隠していた。

 特に20回転はしたであろう超高速の連続バック転は、完全に観客を飲む程の出来だ。

 

 

「すご……」

 

「うふふ♪まだまだこれからですよ~」

 

 

 初めて専用アリーナで見る生のAP-Girlsのライブに、初っ端から圧倒されたメグミのその短い第一声には心の底から驚いた者のリアルな感想が集約されていた。

 ド派手なチアリーディングパフォーマンスでスタートしたステージは、結依の言う通りまだ上があるのかと観客に言わせる演出の連続で大いに盛り上がっている。

 地元サンダースの要素を多く取り込んだ第一部に続き、AP-Girlsオリジナル色の強い第二部では途中で登場するLove Gunのレプリカが人気であり、それを稼働させるソフトもバージョンアップしているらしく動きは一層リアルなものになっていた。

 大いに盛り上がり迎えたラストパートは、それまでとは打って変わって甘いラブソングやバラード中心の構成になっており、これは明らかにラブが狙って仕掛けた事であるがやはりこれだけ盛り上がっていればその狙いはほぼ間違いなく成功しているといえよう。

 

 

「ケイ…ありがとう……」

 

「え……?」

 

「あなたの力添えがなかったら、私達(大洗)は持ちこたえる事が出来なかった。あの日舞い降りて来たスーパーギャラクシーは私達には本物の大天使だったよ……私は酷く無力で誰かに助けられてばっかりだ…そのくせ裏でゴソゴソ動き回って腹黒いったらありゃしないよね……その、こんな私でいいのかな?最初に私がやった事なんて許し難い事なはずなのに…私で……」

 

 

 ステージもほぼ終盤、静かで少しイントロの長い曲が始まった直後、杏は隣に座るケイに少し躊躇いがちではあったがその胸にある想いを口にする事が出来た。

 最後は消え入りそうな声ではあったがその想いはケイに伝わったらしく、凛々しい海軍の青年将校姿のケイは優しく杏の手に自身の手を重ねるとその耳元に唇を寄せ短く、しかし力強くその偽りのない真っ直ぐな想いを告げるのであった。

 

 

「私はそんなあなたが好き」

 

「ケイ……!ありがとう…私もあなたが好き」

 

 

 周りから仕切られたボックス席の二人のシルエットがひとつに重なったその時、長いイントロが終わりステージ上のラブ達の衣装が歌舞伎の引き抜きのように25人全員一瞬で純白のドレスにチェンジすると、客席からはその美しさに一斉に溜め息が漏れた。

 そして歌い始めると同時にセンターにいるラブの背中に衣装同様の純白の翼が広がった。

 

 

「え…本物……?」

 

 

 メグミが思わずそう呟く程に精巧に作られた翼が大きく極自然に羽ばたくと、ふわりとラブの身体が舞い上がりそのままアリーナ中を天使の如く歌いながら飛び回っている。

 その夢のような光景に観客は言葉を失い飛翔するラブを目で追っていたが、ワイヤーで吊っているはずなのにとてもそうは見えず、そのうち観客達の口からは天使だという囁きが漏れ始める程だ。

 しかしドーム球場と大して変わらない高さの天井近くまで上昇したり、そこから一気に客席ギリギリまで下降したしているにも拘らず、一切怯える事なく笑みを湛え歌い踊りながら飛び続けるラブの度胸もまた大したものであった。

 そしてもう一つの演出も凝っていて歌い舞うラブが投げキスの身振りをする度に、一体どういう仕組みになっているのか手元から薔薇の花びらが舞い散るのであった。

 更にこの演出で驚くべきなのは舞い散る花びらが本物の薔薇の物であり、一体どれ程の薔薇が使用されているのか不明だがこれはもうさすが厳島と言う他はないだろう。

 

 

「凄い…やっぱり本物にしか見えない……」

 

 

 再び呆然と呟くメグミと、そのメグミに寄り添い微笑む結依の前に羽ばたきながら浮かぶラブが、二人に祝福するようにキスを投げるとその指先から二人に薔薇の花びらのシャワーが降り注ぐ。

 それにしてもこのワイヤーアクションの制御プログラムの出来は凄まじいものがあり、ラブの背中の翼が羽ばたく度にラブの身体は微妙に上下するので、メグミでなくともラブが本当に自分の翼で飛んでいるのでは思うのも無理はない程の出来といえよう。

 ゆっくりと羽ばたくラブが再び上空に舞い上がったと思うと、今度はアリーナの外周に沿って場内を飛行しケダモノ一行が潜む中二階の席の前に来ると、投げキスと花びらの嵐をお見舞いし始めそれに慌てたアンチョビがその美しさに真っ赤になりながらも、居る事がバレたらどうするとばかりに手を振って必死にラブを追い払おうとしていた。

 そのアンチョビの様子に笑ったラブは空中で身を翻すと、曲の最後のパートの部分でケイと杏の前に舞い降りて、その場でまたホバリングしながら二人に向かい祝福の投げキスと今までで一番の量の薔薇の花びらのシャワーを降らせたのであった。

 二人身を寄せ微笑みながらそれを浴びる姿を確認したラブは、一際大きく羽ばたくとゆっくりと高く舞い上がり、聖歌隊のようにラブの飛翔に花を添えていたAP-Girlsの元へと戻って行った。

 そしてステージ上に舞い降りた大天使を少女達が取り囲み曲の最後を皆で歌い上げると、それまで呼吸すら忘れていたような観客達から一拍の間をおいた後に万雷の拍手が巻き起こった。

 この拍手はこれまでの彼女達のライブの中で最大級の拍手と言われ、ここにまたひとつAP-Girlsの伝説が生まれた瞬間なのであった。

 

 

「あれ…あれ……あれ?」

 

 

 メグミの瞳からぽろぽろと涙の粒がいくつも零れ落ちる。

 これ程感動しての涙などメグミも人生初めての事で、自分でもどうしてよいか解らぬようだ。

 

 

「メグミお姉さまこれをお使い下さいな」

 

 

 結依がすっとさり気なく差し出したハンカチで咄嗟にメグミは目元を拭った。

 

 

「返すのは後日洗濯してからで結構ですよ~♪」

 

「うぐっ……」

 

 

 またしてもまんまと再び会う口実を作られてしまったメグミが言葉に詰まると、左手の甲で口元を隠しどこぞの紅茶女のようにコロコロと笑うと、メグミもからかわれている事に気付き苦笑する。

 そしてこの結依という少女とのちょっとした他愛のないやり取りや、彼女が見せる表情の変化を堪らなく愛おしく感じている自分に気が付いた。

 鳴り止まぬ拍手の中舞台袖に下がる事なくカーテンコールに応じるAP-Girlsは、そのまま続けて2曲歌った後にスタンディングオーベションに送られながらステージを後にした。

 

 

「ケイと角谷はどうやら上手い事行ったようだなぁ」

 

 

 感慨深げにまほが腕を組み何度も頷いている。

 他の者達もそれぞれ満足の行く結果となったようで喜び合っているが、そんな中何とも妙に難しい顔をしていたカチューシャがおかしな事を言いだした。

 

 

「ねえ、あの子はいつワイヤーで吊るされたのかしら?」

 

「えぇ?カチューシャ、あなた一体何を言っているの?」

 

 

 何を言い出すかと思えばといった表情でカチューシャを見るダージリンであったが、当のカチューシャの方は声も表情も至って真剣だった。

 

 

「一瞬で衣装が変わった後には突然背中に翼が生えて飛び上がっていたじゃない!あんな短時間でそんな事って出来るの?それにラブが目の前に来た時ワイヤーって見えた!?飛び去る時に見えた背中も直接背中に翼が生えてるように見えて何も機械なんて見えなかったわ!舞台に降りた後も何かを外す素振りなんか見せなかったしそのまま袖に引っ込んだじゃない!」

 

「ま、待てカチューシャ!オマエ自分で何を言っているか解ってるのか!?」

 

 

 一気に捲し立て肩で息をするカチューシャを落ち着かせようとしたまほであったが、鼻息荒いカチューシャはその程度で収まらずダメを押すように声を荒げた。

 

 

「だからそういう事よ!」

 

 

 硬直する一同の頭の中に『ラブ天使説』なるアホなキーワードが浮かぶ。

 

 

「ばばば馬鹿を言うなぁ!そんな事がある訳なかろう!」

 

「だ、だってぇ……」

 

「ちょっと信じそうになるから止めてくれ~!」

 

 

 狼狽えて否定するまほに涙目になるカチューシャ、そして頭を抱え声を上げるアンチョビとその狭い空間は訳の解らぬカオスと化していた。

 ケダモノ達がアホな論争を繰り広げるうちに、ケイと杏は良い雰囲気のまま用意されたかぼちゃの馬車ならぬとても小さな車、ミニと然程変わらぬサイズながらショーファードリブンカーでありベビーロールスなどとも呼ばれるバンデン・プラ・プリンセスに乗せられ、そのまま杏の宿泊する宿舎に送られて、まほ達も使った例の部屋に寄り添い消えて行ったという。

 

 

「本当に素敵で私涙が止まりませんでした……」

 

 

 実際まだ少し赤い目をしたメグミは、ラブに自分が如何にAP-Girlsのステージに感動したかを一刻も早く伝えたくて、結依に頼み彼女達の楽屋を訪れていた。

 

 

「うふふ♪そんな風に言って頂けると、私達も頑張った甲斐がありましたわ」

 

 

 ラブがそう言うと同意とばかりにAP-Girlsのメンバー達も最高の笑顔を見せる。

 実際今日のライブは演出の効果もあり過去最高の観客の盛り上がりであり、彼女達も未だテンションが高いままで上気した頬がその興奮を物語っていた。

 

 

「それにしてもその翼…本当に厳島さんの背中に生えているようにしか見えないわ……」

 

「ああ、これですか?」

 

 

 楽屋に戻ったばかりで衣装を脱いでいなかったラブは、背中に背負ったままの翼をふわりと大きく広げて見せたが、一体どうやって操作しているのかラブが何かスイッチ等を触ったようには見えず、まるで意識しただけで翼が広がったようにしか見えなかった。

 

 

「うわあ!こんな所で広げるなぁ!」

 

「何考えてんのよ!」

 

「大迷惑だバカヤロウ!」

 

 

 考え無しでラブが楽屋で翼を広げた為、直撃を受けた者達から口々にラブを非難する声が上がるが、ヘラヘラと謝るラブの口調にはまるっきり誠意は感じられない。

 

 

「一体どうなってるの…?何もしてないのに翼が開いたとしか思えないわ……」

 

「うふ♪それはナイショ、企業機密ですよ♡」

 

 

 悪戯っぽく笑いウィンクすると同時に投げキスを決めたラブの手元から、ステージでも散々振り撒いた薔薇の花びらが再びメグミに降り注いだ。

 

 

「ホント魔法にしか見えないわ…でもこんなにも楽しい思いをさせて頂いて、何とお礼を言ったらいいか解らないわ……ただ月並みなありがとうって言葉しか浮かばないなんて……」

 

「私にお礼なんて無用ですよ、だって大事な友達の先輩だしそれにねぇ……」

 

 

 ラブの視線の先にいた結依が、その視線を受けて嬉しそうにメグミの腕に張り付いた。

 

「あぅ……」

 

「本当に結依ちゃんは良い子でしょ?可愛がってあげて下さいね~♪」

 

「あうぅ……」

 

 

 呻くメグミだが、もう既に結依が可愛過ぎて一切否定が出来なくなっていた。

 

 

「私は別に急ぎません、私の卒業式の日に迎えに来て頂ければ大丈夫です♡」

 

「あうぅぅ……」

 

「さすがだわ結依ちゃん!私にはあんなセリフ思い付かないわ!」

 

「お姉さまを殺すナントカか?」

 

「それ違うでしょ?」

 

「何が?」

 

「言えるか!」

 

「お姉さまキラー参上とか?」

 

「それ重戦車」

 

「大洗のお姉さま狩りウサギか」

 

「それは首!」

 

 

 AP-Girlsの頭の悪い言葉のキャッチボールにメグミはどんどん型にはめられて行くような感覚に囚われるが、にっこりと極上の笑顔で自分の腕にぶら下がり見上げて来る結依の存在に、それが錯覚ではないと自覚するが同時にもう手遅れな事も自覚した。

 

 

「その頃には私はもうおばちゃんな気がするけど……」

 

 

 それでも一応形ばかりの抵抗をして見せるメグミだが無駄な抵抗である事は解っていた。

 

 

「またまたぁ♪その頃には更に素敵なお姉さまになっているに決まってるじゃないですか~♡」

 

 

 やはり女子大生では現役女子高生には歯が立たない。

 結依の返しにそんな事を考えていると、止めとばかりにメグミは追い打ちを掛けられた。

 

 

「まあ今日の処はこれ位にして、()()()()()に帰って()()()()()()()()()()()♪」

 

「あうぅぅぅ…さっき急がないって言ってたのにぃ……」

 

「おほほ♪そこは臨機応変にそれはそれ、これはこれですわ♡」

 

 

 ゆるゆると手を振るAP-Girlsに見送られ、再びとらちゃんこと茶トラケッテンクラートに乗せられたメグミは、脳内でドナドナを再生しながら宿舎に連行されて行くのであった。

 それをニコニコと見ているラブは天使というより堕天使といった方が正解かもしれない。

 騒ぎがひと段落しラブが衣装と翼を外そうとしたその時、再び楽屋の外が騒がしくなったと思うと係の生徒に誘導されケダモノ御一行が雪崩れ込んで来たのだが、どうにもアンチョビの騒ぎ方が只事ではなくラブもその顔に困惑の色を浮かべる。

 

 

「一体どうしたのよ千代美~!?」

 

「うわぁ~!マズいぞぉ~!このままじゃホントに間に合わなくなるぞぉ~!」

 

 

 半べそのアンチョビをダージリンとアッサムの二人が下がり眉毛で慰めているが、半ばパニック状態のアンチョビはその程度ではもう収拾が付かなくなっていた。

 本来であれば前日に撤収していたのであるがケイと杏の中を見届けさせる為にラブが引き止め、本人もノリノリで参加していたのだが、祭りが終わり現実に立ち返ればまだ終わっていないラブを迎え撃つ準備があるのに、母港の清水にいる学園艦への帰りの脚を確保していなかった事に気付いたアンチョビは完全にテンパってしまったのだ。

 時間に余裕のある他の者達は翌日撤収の予定で迎えもそれに合わせている為に、黒森峰のドラッヘですらここにおらず送ろうと考えたまほもオロオロするだけだった。

 

 

「あぁ~!ゴメンね千代美~!私が引き止めちゃったから~!」

 

 

 ラブも慰めようとしたが、本格的にべそをかき始めたアンチョビの耳には届いていない。

 苦労人のアンチョビが泣くと何か自分が悪い事をしているようで、全員居た堪れない気持ちになるらしく、中でもつい最近P40でやらかしたばかりのダージリンは酢でも飲んだような顔をしている。

 

 

「ええと…ほんとゴメンね千代美……」

 

 

 アンチョビを優しく抱き寄せ髪を撫でヨシヨシするラブであったが、それに合わせ付けっ放しの翼までアンチョビをそっと包み込むのを見た一同は、その自然な動きに先程のラブ天使説が頭を過り再び軽いパニックを起こした。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

「その翼一体どうなっていますの!?」

 

「まさか本当に本物!?」

 

 

 エグエグしてるアンチョビを慰めるラブ周囲に鋭い視線を投げる。

 

 

「ちょっとぉ!こんな時に何を言ってるのよぉ!」

 

「いや、だってオマエ……」

 

 

 訳が解らぬとラブが声を上げたが、そのやり取りを見ていた夏妃が実に不思議そうにしながらアンチョビを抱いて慰めているラブに疑問を投げかけた。

 

 

「なあラブ姉、そんな急ぐってんならItsukushima Oneを使えばいいんじゃね?アレなら速いしさ」

 

「あっ!夏妃それよ!」

 

「ぶわっ!」

 

「ラブ姉!」

 

「いい加減にして!」

 

 

 ラブが夏妃の言った事に顔を輝かせ声を上げた瞬間、それに合わせて翼もバサッと大きく開きまたしても巻き添えを喰らったAP-Girlsのメンバー達が声を荒げた。

 

 

「あ…ごめん……」

 

『ホントにあの翼はどうなってるんだろう……』

 

 

 呆然とする一同をしり目に、ラブはアンチョビの肩に手を添え励ますよう声を掛ける。

 

 

「千代美安心して!今日中にアンツィオの学園艦に送ってあげるわ!」

 

「うぇぇ…ラブ……それは本当かぁ?」

 

 

 しゃくり上げながら聞くアンチョビに安心しろと言うように大きく頷くと、早速手配しようとするが翼を背負ったままで直ぐにどうこう出来る状況ではない。

 

 

「あ~、ハイハイ、手配は私達がやっとくからラブ姉はそのはた迷惑なシロモノとっとと外す!」

 

 

 一瞬途方に暮れた顔になったラブを見て、溜め息を吐いた凜々子が手を叩きながら進み出て苛立たしげな声でラブを急き立てるが、2回もラブの翼に頭を叩かれていればそれも当然だろう。

 凜々子と夏妃が手配の為に楽屋を退出し、ラブもまた衣装を脱ぐ為に被服科の生徒に促され楽屋の奥のパーテーションの陰に消える。

 

 

「な、なあ?さっき言ってたItsukushima Oneとは一体……!?」

 

「何言ってんのよ~、私が熊本行く時に乗って行ったじゃな~い」

 

 

 まほの疑問の声にパーテーションの向こうのラブが声を上げた。

 

 

「あ!あのオスプレイの事なのか!?」

 

 

 Bell Boeing V-22 Osprey、それを初の民間機としてフルオーダーで改造しメーカーからは厳島カスタムの愛称で呼ばれるその機体は、現在ではItsukushima Oneのコールサインを与えられ厳島のイメージカラーのマリンブルーの機体色と共に航空機マニアの間でも注目を集めつつあった。

 

 

「おお、成る程そういう事だったのか」

 

 

 ラブの説明に納得し頷くまほと、搭乗経験があるアンチョビもあの機体なら確かに速く帰れると安心したのか漸く泣き止み、それでやっと一同もホッとした表情になった。

 

 

『なんでこうこの子の泣き顔は心臓に悪いんだろう……?』

 

 

 一同がそんな思いに駆られている処に再びパーテーションの向こうからラブの声が降って来る。

 

 

「そっか、あの時はコールサインまでは教えてなかったか……まあ厳島の名前が前面に出ちゃってるのは社用機としての仕事の方が多いから仕方ないんだけどね~。でも困った時は言ってくれれば飛ばすから遠慮せず言ってね~」

 

「いやそれはさすがになぁ……」

 

 

 相変わらず飛び抜けた太っ腹さを見せるラブに皆顔を見合わせ困った顔をする。

 

 

「何言ってるのよ~?ウチの利用価値なんてそれ位しかないじゃ…あぁ~ん♡」

 

 

 パーテーションの向こう、ラブの着替える衣擦れの音と共に聞こえていたラブの声が突然お色気ボイスになり、意味不明な不意討ちに全員その場に倒れ込んだ。

 

 

「あ…そんな…ソコはちょっとぉ…いや…も、もうホント……ら、らめぇぇぇ♡」

 

 

 倒れ込んだまま硬直しパーテーションを凝視する一同の前で、ラブの色っぽ過ぎるハスキーボイスが楽屋中に響き渡っている。

 

 

『あ…あの向こうで一体何が起こっているんだ……?』

 

 

 硬直し悶々と様子を見守っている一同の前、まず被服科の生徒が何食わぬ顔でラブから取り外した翼をを持って現れたが、その装着部分はカバーで覆われ果たしてどのようにして取り付けらていたのかは確認する事が出来なかった。

 その後やっとパーテーションの陰からラブが出て来たのだが、その頬は朱に染まっており表情の方も少し恥ずかしげで何が起こったか絶対語らぬといった風である。

 だがその表情以上に皆の視線を集めてしまっているのは、やはり例によってバルンバルンなその胸のたわわなアハトアハトであった。

 まだメイクも落としておらず、シャワー前という事で校名入りのスェットの上下を着用して現れたラブであったがデザインが少々というかかなりタイトになっており、ラブのメリハリの効き過ぎたボディーラインが一層強調されそのフィット感がエロさを倍増させている。

 そして突き出たたわわの先端はくっきりとポッチが浮き出ており、それはつまり現在のラブがその下には何も身に付けていない事の表れであった。

 

 

「の…ノーラブ、いやノーブラかぁ!?」

 

「ま、まほのえっちぃ!バカぁ!こんな時ばっかボケるなぁ!」

 

 

 真っ赤になって胸元を手で覆いクルッと皆に背を向けたラブであったが、今度は露わになったヒップラインに在るべきラインが見当たらず、ラブが下の方もインナーをを付けていない事が発覚する。

 

 

「み、見事だ…二段構えの攻撃とは……」

 

 

 全員揃って全弾被弾し鼻血を噴出すると、一斉に頭上に見えない白旗を揚げるのであった。

 その後はどうにかへそを曲げたラブのご機嫌を取り戻った凜々子と夏妃も合わせシャワーを浴び、アンチョビを送り出す前に皆で学食に赴き夕食を共にし、そこでケイと杏の為、更にメグミと結依の為に細やかながら祝杯を挙げる一同であった。

 そして夜空に『準備万端待ってるからな!』という叫びを残し、アンチョビを乗せたマリンブルーのItsukushima Oneの姿が溶け込んで行くと、佐世保での全てのイベントが終了した。

 明けて翌朝朝食を取り終えるとスーパースタリオンで大洗に帰投する杏をケイが見送り、そのケイもまたメグミと共にラブと結依に見送られ笠女学園艦から下艦したが、降り立った桟橋にはナオミと何故か一緒にアリサが待っており、二人の姿を見とめると抑揚のない声でクールにのたまった。

 

 

「これはアレ?反省会ってヤツが必要な事態かしら?」

 

「ああそうだな、どうやらその必要がありそうだ」

 

『くっ……』

 

 

 アリサと比較すると明らかにナオミの声は面白がっているが、ケイとメグミの二人は状況的に何も言い返す事が出来ず、特にケイの方は隊長という立場的に悔しそうに唇を噛んでいる。

 ニコニコと天然のふりをした笑みでラブと結依がその様子を見ているのがまたタチが悪いが、その背後降りて来た舷梯の陰で居残ったケダモノの残党達が、声を殺して床をバシバシ叩いて受けているのが更にタチが悪いといえよう。

 

 

「ねぇケイ」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

「な、何よ急に!?」

 

 

 それまでのおふざけモードから一転して穏やかな笑みに変わったラブが、真っ直ぐにケイの瞳を見つめ短めに言った礼の言葉に対し、ツンデレな返しをしたケイの頬は少し赤くなっている。

 

 

「またね」

 

「…ええ…また……」

 

 

 またねの一言に込められた様々な想いに、ケイは明確に返事をする事が出来なかった。

 この先も会おうと思えばいつでも会う事は出来るだろう。

 だが高校生として、戦車道選手としての残り時間を考えると、こうして現役高校生同士として砲火を交える事はもうないであろうとケイも解っている。

 それ故にケイも曖昧な返事しか返す事が出来ず、彼女らしくなく少し俯いていた。

 

 

「ケイ」

 

「……」

 

 

 すっとケイに歩み寄ったラブは、優しく抱き締めその耳元で再び『ありがとう』と『またね』の言葉を彼女に送り、そこでケイもラブに向け『またね』の言葉を返す事が出来た。

 その言葉に明るい笑みを浮かべたラブが視線をナオミに向けると、彼女もまたラブに向かい小粋に二本指の敬礼を投げて寄こし、やはり三人の間に多くを語る必要はないのであった。

 

 

「あなた達は本当に良い友達なのね」

 

「…うん……」

 

 

 短い挨拶を交わし、ラブ達は出港に向け艦に戻って行く。

 その背中を見送りながらメグミがケイに優しく声を掛けてやると、少し複雑な感情が入り混じった返事が返って来て、メグミは軽くひとつケイの肩を叩いてやった。

 

 

「さて、私もかな……結依ちゃん!」

 

 

 突如背後から名を呼ばれ振り向いた結依に向かい、メグミは自分の中でも一番の笑顔を作ると真っ直ぐに結依の顔を見つめ自分の偽りのない気持ちを伝えるのだった。

 

 

「また会いましょう!」

 

 

 その一言で結依の顔がこれまでで一番の輝きを見せる。

 メグミはその輝きを眩しそうに見つめやっぱり現役女子高生には敵わないと認識を新たにした。

 

 

「きゃ~♡」

 

 

 黄色い歓声を上げてラブが結依を抱き上げその場で器用にクルクル回っている。

 結依もまた猫の子のように目を細めラブにされるに任せ、その様子にメグミは苦笑している。

 

 

「あ~あ、まんまとしてやられちゃったかなぁ?」

 

 

 その日、佐世保の空は何処までも蒼く深い色をしていた。

 そしてその空を震わせるように、佐世保港にいる全ての艦艇が一斉に汽笛を鳴らす。

 舫を解き離岸した笠女学園艦を送る大気の鳴動。

 それに応えるべく白亜の学園艦もひとつ、様々な想いを込め長く汽笛を鳴らす。

 遠ざかる姿を見送る者達の髪を、置土産のような風がさわさわと揺らして行った。

 

 

 

 

 

 佐世保港を笠女学園艦が出港後に大きく回頭しその姿が佐世保側から見えなくなった頃、次々と高速の連絡艇や連絡機が笠女学園艦に接近する姿があった。

 あくまでも隠密行動である為にこうして沖合に出るまで待って、居残っていたケダモノ達を各校が回収に来たのである。

 

 

「あれ?実家(ウチ)にお願いしてあったバートルが来てない?」

 

「馬鹿ねぇみほ!バートルじゃ遅くて先にスーパースタリオンで帰ったアンジーに怪しまれるでしょ!みほはこれに乗って途中アンジーをぶち抜いて帰るのよ!」

 

 

 そう言いながらラブが親指で指し示した背後の格納庫からは、STOVL能力をもった異形の機体が牽引されてのそのそと這うように引き出されて来る処であった。

 

 

「ふえぇぇぇ──!?」

 

 

 現れた機体を見たみほが仰天して大声を上げる。

 

 

「あ…あああアンタ何考えてんのよ!ホントこの学校どうなってんのよ!?」

 

 

 みほに続き怒鳴るように言ったカチューシャの顔は青ざめている。

 

 

「あ~、なんかメーカーさんから亜梨亜ママのトコに試しに使ってみませんか~?ってちょっと前に送られて来てホントに今さっき調整が終わったトコなのよ。なんか勝手にカスタムされてて複座になってるし、武装なんかないからその分軽くて燃料タンクは容量増やしてあるらしいわ。まあこの機体なら余裕でアンジーぶち抜いて先に大洗の学園艦に辿り着けるから安心しなさい♪」

 

「い、いや…そう言う問題ではなくてだな……」

 

 

 まほも何か言おうとするがそれ以上の言葉が続かない。

 見れば居残り組の全員の顔が真っ青になっている。

 

 

「さ、速いって言っても時間はないよ!急ぐ!」

 

 

 呆然としているうちに対Gスーツを着せられたみほは、そのまま後席に詰め込まれ我に返った時には機体が鋭い金属音と共に上昇を始めていた。

 

 

「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇ──────!」

 

 

 みほの絶叫を合図に飛び立ったその機体はやがて音の壁を越えみほをシートに押し付けると、一路大洗の学園艦目指しあっと言う間に飛び去って行った。

 

 

『厳島恐るべし……』

 

 

 後に残された者は絞り出すようにそう言うのがやっとであった。

 

 

 




初期の構想ではこれ程結依がストーリーに絡む予定はなく、
この活躍は嬉しい誤算でした。
う~ん、結依を中心としたまさかの生徒会チームとかあるのかな?
その予定は今の処全くないんですけど……。

そう言えばルミの体型について検索すると、
すぐにマヨネーズとか出て来て草生えます♪

しかし最後にみほが乗せられた機体は一体なんでしょうねぇ?

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