ですが色々とややこしい事態が起きそうですねぇ♡
「ダメだダメだダメだ!そんな事では直ぐに連携の隙を突かれて総崩れになるぞぉ!」
未完に終わったアクイラ型空母を原型とするアンツィオ高校学園艦上にある戦車道演習場を、イタリア生まれの豆戦車達が土煙を上げながら走り回っている。
「もう一度手本を見せる!よく見ておけよ!そして実践して体で覚えろ!」
その中に在って1両だけ明らかに桁違いな速さと機動を見せる車両があった。
アンツィオ高校戦車隊隊長、
「さすがアンチョビ姐さん凄いっス!」
「久し振りにドゥーチェの本気の走りを見たわ……」
『コラぁ!ぺパロニにカルパッチョ!お前達も感心している場合ではないぞぉ!もっと間隔を詰めろ!後3㎝は詰められるはずだ、もう一度やって見せろ!』
「ま、マジっスかぁ!?」
「す、すみませんドゥーチェ!」
ぺパロニとカルパッチョは無線で飛んで来たアンチョビの叱責に、文字通り蹴飛ばされるように走り去り与えられた課題の反復練習を続けるのであった。
「いいか!?相手はあの厳島だ、オマエ達もその破壊力は見ただろう?確かに彼女達は手強い、だが私達だって弱くない、いや強い!だから恐れるな、恐れた瞬間に飲まれてそこで終わる!冷静に相手をよく見ろ、そして素早く的確に動け!さすればその手にパスタを勝ち取る事が出来よう!」
アンチョビのアジ演説に豆戦車達は一層激しく走り回り濛々と土煙を上げるのであった。
「もちつけラブ姉!サルか!?」
AP-Girls専用メイクルームに、こめかみに怒りのバッテンを浮かべた夏妃の怒声がこだまする。
佐世保を出港しアンツィオの母港である清水が近付くにつれ、ラブは加速的に落ち着きを失って行き、いよいよ後数時間で清水に入港する処まで艦が到達すると、起床後朝食もそこそこにメイクルームに入りあれこれメイクを試しては落としを繰り返し、今もルージュの上にグロスを付け過ぎ唇をテッカテカにしてしまい、その落ち着きのなさに夏妃が爆発し怒声を上げたのであった。
「ステージメイクでもそこまでコテコテにしないだろうが!大人しくメイク班が来るの待て!」
ソワソワと落ち着きなく今度はチークブラシを手に取ると、頬にグリグリとチークを塗り重ね始めその様子に夏妃が完全にキレた。
「人の話を聞けこの無駄乳女ぁ!」
「ひっど!だって千代美と試合するのよ!?最初の印象が大事じゃない!」
「今まで何度も会ってる相手だろうがぁ!」
怒鳴り返した夏妃だがラブの目付きは尋常ではなく、嘗ての想い人相手の試合で完全に舞い上がっているらしく自分でも何をやっているか解らなくなっているようであった。
全く言う事を聞かないラブに夏妃はすっかり頭に血が上り、更に荒れた口調で吐き捨てる。
「ダメだこの脳乳女は!オイ凜々子!ラブ姉の脚持てや!」
「何する気よ夏妃?」
面倒そうな凜々子が嫌そうに言うと、夏妃はラブのコテコテメイクの顔を指差して怒りに任せて怒鳴り散らすように言い放った。
「頭っから冷水浴びせてこの塗り絵顔洗い流すんだよ!」
「私嫌よ!この寒いのにそんなメンドクサイ事に拘わるのは!」
「やっかましい!てかオメ~らも遠巻きにしてねぇで全員手伝いやがれ!」
結局夏妃はAP-Girls全員を巻き込みラブをシャワールームに放り込むと、初っ端に本当に冷水を浴びせた後に顔だけでなく
最初は逃げようとしていたAP-Girlsのメンバー達であったが、夏妃がラブを手荒くひん剥いた瞬間ケダモノに火が付いたらしく瞬く間にその魔の手をラブに伸ばしていた。
その後シャワールームから解放されたラブは、どうも
AP-Girlsのメンバー達も成り行きでシャワーを浴びてしまった為、全員ラブと同様バスローブ姿であったが、その表情はまたやってしまったという顔をしていた。
だがこの騒ぎの中にあっても愛だけがシャワールームでも傍観を決め込むように手を出そうとはせず、相変わらずの無表情でその光景を見つめていたのであった。
「何だ愛のヤツ、結局あれからず~っとあのままなのかよ?」
「そ、ず~っとあのまんまよ」
「ホント何時までああしているつもりなのかしら?」
「素直じゃないにも程ってものがあるわよね……」
「つくづく面倒くさい子よね~」
騒ぎの輪から外れ皆と同じバスローブ姿ながら独りぽつんと佇む愛に、背中越しに視線を向け口々に言いたい事を言っているが当の愛は聞こえていないように表情も変える事はない。
プラウダ戦の一件以降も平たく言えば拗ねたままの愛が、ラブとの間に一定の線引きをしたような態度で居続ける為にラブの愛への日々重ねる健気な努力は全て不発に終わっており、AP-Girlsのメンバー達も愛に対して呆れると同時に若干の怒りの感情も溜め込み始めていた。
「は~いお待たせ~♪」
能天気な声と共に微妙な空気が漂っていたメイクルームに、メイク班の生徒達がゾロゾロと現れラブ達を変身させる準備を整えて行く。
「今聞きましたけどダメですよ変なコトしちゃ~。厳島隊長は美人さんなんですからね、ステージ以外じゃそんな極端な事する必要ないんです。普段は軽くその美しさを引き立てる程度で充分なんですよ?ハイ、コッチ向いて顎上げて~」
ラブに取り付いた生徒がにこやかにそう言いながらベースメイクを施し始める。
彼女が言うように掘りも深く元の顔立ちが派手で何処にいても目立つ美人であるラブにとっては、本来それ程濃いメイクは必要がなかったのであるが、事故で負った深い傷痕隠す為自分でメイクをするとラブ自身も無意識のうちにメイクが濃くなる傾向にあった。
その点メイク班の生徒はその勉強をしているだけあり、全てを覆い隠す事は出来ないにしても極自然な仕上がりでその傷痕を少しでも目立たぬよう仕上げてくれている。
「でもでもぉ!千代美に会うのよ!?変な処は見せられないわ!」
また興奮し始めたラブを落ち着かせるように両の肩に手を添えたメイク担当の生徒は、再びラブに顎を上げさせ手際よく作業を続けあっと言う間にラブのメイクを仕上げてしまう。
そして待ち構えていたヘアメイク担当の生徒とハイタッチで引き継ぎをすると、即大雑把に結い上げていた髪を解きいつものポニテにするべくブラッシングを開始した。
そして後頭部で髪を束ねる準備を始めた時不意にラブがそれにストップを掛けるのだった。
「待って!ちょっと待って!今日はこれでお願い!」
ラブがそう言いながら自前のポーチから取り出したのは2本の黒いリボンであった。
「コレ……ですか?」
受け取ったヘアメイク担当者は不思議そうな顔でリボンを見ながら首を傾げた。
「うん!今日はそれでツインテに仕上げて欲しいの!」
「はぁ……」
ヘアメイク担当者はツインテにすべく、一度束ねかけた髪を梳かし直している。
『なあ、アレってアンチョビ隊長から貰ったっていう例のリボンか……?』
『私に聞かれたって知らないわよ…でも多分そうだと思うわ……』
それまでその様子を見守っていた夏妃が凜々子にヒソヒソと尋ねたが、凜々子も実物を見たのは初めてでそう答える他はないのであった。
頭の両サイドで高々と黒いリボンで髪を結われたラブの姿は、AP-Girlsの少女達にとってもとても新鮮なものであったのだが鏡に映る自分を見つめてうっとりとするラブの表情を見た彼女達は、一斉に顔色を変えゲンナリとした表情になってしまった。
『うわぁ…完全に雌の顔になってるわぁ……』
恋する乙女、今のラブの表情を表現するのにそれではソフト過ぎるだろうか。
自分自身でまほとアンチョビ二人を結び付け頭では納得してはいても、そこはやはり人間には感情というものがあり簡単には割り切れるものではないだろう。
まして愛との間が思うにまかせぬ状況にあり、性格的に決して相手に無理強いする事の出来ないラブは最近少々精神的均衡を崩し気味であったのだ。
そこに初恋の人であり最強のライバル、そして命の恩人であるアンチョビとの試合を前にテンションが上がり過ぎた結果、佐世保を出港して以降落ち着きのない行動を繰り返すようになっていた。
一同が痛いモノを見る目をする中、鏡に映る自分のツインテを揺らしては悦に入った表情になり、その後も暫く髪を揺らしては頬を上気させ身をよじりクスクスと笑ったりと不気味な行動を繰り返し、いつ果てるともしれないそのラブの奇行にAP-Girlsのメンバー達は軽い頭痛を覚えるのであった。
『どうすんだコレ?』
『だから何で私に聞くのよ?』
『そもそも私らにどうにか出来る問題じゃないわよ?』
『愛も頑固だし……』
『アンチョビ隊長も西住隊長とすっかりイイ感じになっちゃてるしねぇ……』
『あ…ソレだ、ソレで何とかなるかもしれねぇ』
『はあ?アンタ突然何言いだすのよ?』
額を寄せ合ってヒソヒソやっていた彼女達だったが、アンチョビの名で夏妃が何か思い付いたらしいが凜々子は酷く疑わしげな表情で夏妃の顔をまじまじと見ている。
『まあとにかく話は清水に入港してからだ』
『何よソレ?』
他のメンバーの疑問を凜々子が代弁する形で口にしたが、夏妃はそれ以上何も言わなかった。
そして何やら複雑に過ぎる事情を満載した笠女学園艦は、もう間もなくドゥーチェ・アンチョビ率いるアンツィオ高校が待ち受ける清水の港に入港するべく遠州灘を突き進んで行く。
「いそげ!湯を沸かせ釜を炊け~!時間はないぞ、あの最新鋭艦はあっと言う間に入港して来るからな!歓迎準備を怠るな、冷めたピッツァや伸びたパスタなど言語道断だ!」
ラブ率いるAP-Girlsの為に歓迎の宴の準備を陣頭指揮を執るアンチョビは、愛用の乗馬鞭を振るい檄を飛ばしている。
「姐さ~ん!
「おおそうか!こりゃいよいよのんびりしてはいられないぞ、あの艦は姿が見えたらもう入港したも同然だからな!おいカルパッチョ、迎えに出るから
「はいドゥーチェ!」
現在就航中の学園艦の中でも最新鋭中の最新鋭である笠女学園艦は、それまでの学園艦とは一線を画する性能を誇り、サイズは最小クラスとはいえそこは学園艦でありそれなりの巨体である。
にも拘らず出入港に際しこの学園艦はタグボート等の支援を一切必要とせず、身に付けた装備を総動員して全てを自力でこなす云わば究極の自己完結型の学園艦なのであった。
それに対しアンツィオ高校は学校自体がそれなりに歴史を誇る高校であり、学園艦の方も歴史、即ち老朽艦という事で財政面の問題もあり動かせば常に何がしかの問題を抱え苦労も多い。
しかしその分鍛えられている船舶科の生徒達により運用されるアンツィオの学園艦は、これまでに大きなトラブルで問題を起こした事は一度もない辺りはさすがと云えよう。
「相変わらずデタラメな学園艦だなぁ…
アンツィオ学園艦の艦首付近で笠女学園艦が入港して来るのを見物していたアンチョビだが、これまでに何度かその驚異的な性能は目にして来たものの、目の前で単独で180度回頭後、後進入港してくる白亜の巨体を呆れ口調で向えていた。
「ドゥーチェ、そろそろ桟橋に降りないと間に合わないんじゃないですか?」
「お?おおそうだな!頼む!」
カルパッチョの声に我に返ったようなアンチョビは、返事をするなり身軽に傍らの止めらていたフィアット508CMに飛び乗った。
ステアリングを握るカルパッチョがエンジンに火を入れ、軽快に走り出したフィアットの車上で淡い緑のツインテを風に揺らし、腕組みしたアンチョビの表情は実に嬉しそうに見える。
「な、何だ?何が可笑しい?」
そのアンチョビの様子にクスクスするカルパッチョに対し、アンチョビは少し頬を赤らめながら虚勢を張るように胸を反らし偉そうに言ったのだが、絵に掻いたようなツンデレぶりに自分でも可笑しいらしくその語尾は震えていた。
「あの日…あの日止まった時計が再び動き始めてやっと今日と言う日が来た……不思議ですね、当時直接面識のなかった私とドゥーチェ…それがここアンツィオで出会い今日まで共に戦って……私には二人の共通点のラブ先輩が全てを引き結んだとしか思えません」
「…あぁ、そうだな……」
笑顔のままながら声だけは真面目なトーンに戻ったカルパッチョが語った事に、アンチョビは極簡素に答えるのみでその事について深くは言及しなかった。
「ラブ先輩…厳島恋と所縁のあった者は、随分後になってからですが漏れ伝わった話で何が起こり誰がその為に奔走していたかを知っています……ありがとうドゥーチェ」
「ば、ばかもん!しっかり前を見て運転せんかぁ……」
「はい、ドゥーチェ……」
アンチョビとカルパッチョを乗せたフィアット508CM型の連絡車は、桟橋へと続く長い長い車両専用舷梯をゆっくりと下って行くのであった。
「おかしくない?ねえ、どこもおかしくないよね!?」
笠女の制服に身を包み、アンチョビから貰った宝物のリボンで髪をツインテに結ったラブは、今日一番の落ち着きのなさでソワソワうろうろを繰り返し、イライラがピークに達している夏妃などはこめかみに青筋浮かべて歯をギリギリと云わせながらその状況に耐えていたが、もう何度目になるか解らぬラブの問いにとうとう怒りの臨界点に達し怒声を上げてしまう。
「だぁ~!いい加減うっせぇぞラブ姉!」
「うるさいのはアンタよ夏妃……」
耳元で喚く夏妃を白い目で見る凜々子がため息交じりにそう言いはしたが、凜々子もさすがに延々と自分の身なりを気にして同じ質問を繰り返すラブにはうんざりとしていた。
ラブ達は今、接岸作業も終わり下艦するべく舷梯が展開されるのを舷側で待っていたのだが、ご覧の有様で彼女達にしては珍しく顔に疲れが滲んでいた。
「お、それはあの時のやつか?ラブ、良く似合ってるぞぉ♪」
「ホント?ホントに!?ホントに似合ってる!?可愛い!?」
「ああ本当に決まってる、可愛いぞぉ♪」
「ありがとう千代美ぃ♪」
「うわぁ!やめんかばかもの~!」
会うなりアンチョビがラブのリボンに付いて言及すると、喜んだラブはアンチョビを熱烈にハグしてその場でクルクルとスピンを始め、二人のツインテもそれに合わせ一緒に回り、いきなりの事にアンチョビが悲鳴を上げたがテンションの高いラブは止まる事なく回り続けた。
「まったく…オマエは相変わらずしょうがないヤツだなぁ……」
「えへへ、ゴメンね~♪」
漸く解放されたアンチョビが小言めいた口調でラブにそう言ったが、言われたラブの方は反省した様子はなく、むしろ嬉しそうにしており呆れたアンチョビも肩を竦めるしかなかった。
「オマエ全然反省してないだろぉ~?ん……?どうした?珍しいな、オマエらが揃いも揃ってやたら疲れた顔してるってのは……何かあったのか?」
やっとラブから解放されたアンチョビが、AP-Girlsのメンバー達の様子がいつもと違う事に気付き声を掛けたがその反応ははっきりせず、泳ぎ気味の視線が時折ラブを痛々しげに見ておりアンチョビもそれでラブに何か問題ありと判断し愛に目をやったのだが、その肝心の愛があからさまにアンチョビから視線を逸らし背中を向けてしまった。
「ん~?」
異変を察知したアンチョビであったが理由が分からず首を捻っていると、意外な事にこういう時に声を掛けて来そうな鈴鹿や凜々子ではなく夏妃が何やら言い難そうに話し掛けて来た。
「アンチョビ隊長…その、何と云えばいいか…う~ん…う────ん……」
「オイオイ……」
言いあぐね言い淀み放っておくと知恵熱でも出しそうな雰囲気の夏妃の様子に、アンチョビも少々声を掛け辛そうにしている。
『…チェ、ドゥーチェ!』
『お、おうなんだカルパッチョ!?』
少し小声ながらも鋭くアンチョビに声を掛けていたが、夏妃に気を取られその反応は鈍かった。
『夏妃さん達の話は私が聞いておきますので、ドゥーチェはラブ先輩をひと足先に
『そ、そうか…そうだな、任せていいか?』
『ええ、ここはお任せ下さい。ドーチェはコロニアーレでラブ先輩と先に戻っていて下さいね』
『解った、スマンな……』
二人が密談をする間も申し訳なさそうな顔をするAP-Girlsのメンバー達に対し、それまでのおかしな気配に気付く事なくアンチョビに可愛いと言われた事で舞い上がり、独り更にハイテンションで鼻歌を歌いながらクルクルと踊るラブの様子に、アンチョビもやっとどこかおかしい事に気付いたのだが、その原因の一端が自分にある事は全く気が付いていなかった。
「お~いラブ!いつまでそうしてクルクル回ってる気だ?イベントの前にアンツィオの艦内案内してやるから早く来~い!」
「え?ほんと~?行く~♪」
クルクル回りながら戻って来たラブは再びアンチョビに抱き付いた。
「いい加減にせんかぁ!置いてくぞぉ!?」
「いや~ん♪」
「何がいや~んだ、今更かわい子ぶるな~!」
「千代美のいじわる~!でも千代美の制服姿って可愛いね~♡」
「何を訳の解らん事を…ホラ!行くぞ!」
「は~い、うふふ♪私コロニアーレって始めてよ~」
大騒ぎをしながら二人が乗り込んだフィアット508CMがパタパタと走り去ると、緊張感から解き放たれたかのようにAP-Girlsのメンバーが一斉に溜め息を吐きガックリと項垂れた。
カルパッチョはその様子に少し困ったような顔をしたが、気を取り直してまず夏妃に声を掛ける。
「夏妃さんもドーチェには話し辛くても私になら話せるんじゃない?」
優しく微笑みながらカルパッチョが声を掛けてやると、夏妃は真っ赤になり口から出る言葉もしどろもどろで何を言っているのかよく解らなかった。
『夏妃って優しいお姉さんに弱いのか!?』
夏妃の反応に驚きながらも、AP-Girlsの面々は今まで見た事のない夏妃に一面に興味津々だ。
一方カルパッチョの方もそんな夏妃に亜麻色の髪を揺らしクスリと笑った後、夏妃を落ち着かせるように敢えて軽い調子で胸を叩きながら請け負うように言うのだった。
「大丈夫、ここはお姉さんにど~んと任せて話してみよっか?」
しかしそれは却って夏妃のツボだったらしくその化学反応的表情の変化に全員衝撃を受けている。
『夏妃ってこんな顔するんだ!?』
問題そっちのけでその夏妃の表情を写メする事に夢中な彼女達だが、その中で凜々子だけが写メしながらも何処か面白くなさそうな微妙な表情をしているのが非常に興味深い処だ。
「さて、お話するにしてもここじゃなんだから、ウチの艦の何処か落ち着く場所に行きましょう」
カルパッチョに促されアンツィオの学園艦に乗艦すべく移動を始めたが、その時になってその一団の中に愛の姿がない事に凜々子が気付いた。
「あら…?愛の姿が見えないわ……」
全員がデレる夏妃に気を取られ写メを撮るのに夢中になっているうちに、いつの間にか愛はその輪から外れ何処かへ行方を晦ませており、それでまた夏妃が沸騰した。
「もういい!アイツの事は放っておけ!この話はその方がし易いからな!」
いつも以上にテンションの高かったラブとAP-Girlsの様子からするとこれは結構問題の根が深いと察したカルパッチョは、自分がアンチョビからこの話を引き継いだのは正解だと確信した。
「さあ、ここならいいわ、一応人払いもお願いしてあるから何を話しても大丈夫よ」
「すんませんカルパッチョ先輩……」
「夏妃!言葉使い!」
アンツィオの学園艦に乗艦後カルパッチョに先導され辿り着いたのは。イタリア風の落ち着いた街並みの中に在る一軒の古びた石造りのカフェであった。
その店の店内を通り抜け中庭に出るとそこに並べられたテーブルに着き思い思いに飲み物を頼んだが、やはり皆注文したのはアンツィオならではのイタリアンコーヒーの類であった。
良く晴れて比較的暖かいせいか屋外でも然程寒さは感じないが、それでも手元に届いた熱いカッフェ・マッキアートを口に含み心を落ち着けたカルパッチョが一同にも飲み物を進めながら安心させるように言うと、漸く落ち着いた夏妃が口を開いたもののそのいつも通りの言葉使いにすかさず凜々子からの叱責の声が飛んだ。
「うふふ♪大丈夫よ、
「そうは行きませんわ!先輩に対してこの粗忽者は!」
先程からの凜々子の態度に落ち着きを取り戻したAP-Girlsのメンバーの表情は、完全に笑いを堪えている顔であるが凜々子はそれにすら気付いていないようだ。
『解りやす過ぎるぞ凜々子……』
そんな凜々子から若干視線を逸らしつつ、彼女達もまたそれぞれのカップを手に取り喉を潤す。
「ここ、素敵ですね」
「そうね、ここでこうしてお茶を頂きながら、日が暮れるまでチェスを指すとか悪くないわ」
鈴鹿と瑠伽、AP-Girlsのクールビューティーの双璧が一息吐くと同時にそんな感想を口にしたが、それを聞いたカルパッチョも嬉しそうに微笑んだ。
「気に入って貰えて嬉しいわ♪ここは私もお気に入りの空間なのよ……さて、それじゃあそろそろ本題に入ってもいいかな?夏妃さんはさっき何を言おうとしてたのかしら?」
話を振られた夏妃はまたしてもしどろもどろになり掛けたが、凜々子に睨まれると解ってるよと云わんばかりにキッと牙を剥いた後、ひとつわざとらしく咳払いをして自分を落ち着かせるとカルパッチョにここ数日のラブの状態の説明を始めた。
「成る程ねぇ…それで愛さんが意固地になっちゃってると……でもそうなると説得って難しいと思うし、ある程度時間が必要だと思うけどなぁ」
聞かされた話自体は単純に言えば恋愛相談、しかも他人事なのではあるがラブと愛の状態を見るにつけ、下手に口を挟めば却って自体が拗れるのが目に見えているのでカルパッチョとしても慎重にそう言う他はなかった。
「それで夏妃さんには何か考えがあるみたいだけれど、それにドゥーチェが関係あるの?」
夏妃もここからが話の核心らしく、試合中でも見せた事のない緊張した面持ちで再び口を開く。
「は、はい!それであの…ら、ラブ姉とアンチョビ隊長をデートさせて、それを愛のヤツに見せ付けてやりたいんです!」
「え……!?」
噛みながらも大きな声で一気に夏妃が言い切った瞬間カルパッチョは目が点になり思考が停止し、少し身を乗り出し聞いていたAP-Girlsのメンバーはそのまま椅子から転がり落ちた。
「あいたたた……」
「何を言い出すかと思えば……」
「夏妃ぃ!もしかして何とかなるって言ってたのがソレ!?やっぱアンタ馬鹿よ!花丸付きの大馬鹿よ!それに期待してノコノコ着いて来た私も救いようのないお馬鹿さんよ!」
「んだとぉ!?凜々子てめぇ!もういっぺん言ってみやがれ!」
「何度だって言ってやるわよ!このびっくりバカ!アンタみたいな馬鹿今まで見た事ないわ!底無しとはこの事よ!ホント信じらんない!それで何とかなると本気で思ってんの!?」
「コノヤロウ!言わせておけば調子に乗りやがってぇ!」
沸騰した夏妃と凜々子の二人が掴み合いのキャットファイトになる寸前、メンバー総出で抑え込まれよく見ていると両名ともかなり際どい所にも手を突っ込まれたりしながら強制的にクールダウンさせられて、落ち着いた頃には揃って肩で息をしていた。
「落ち着いた?」
「は、はぁ……」
「ええとつまりアレかな?愛さんにやきもちを焼かせて自分に素直にさせたい……そういう事?」
「はい!そういう事です!」
下がり眉毛の困り顔だったカルパッチョが、どうにか持ち直して夏妃に問うと嬉しそうに夏妃は首を上下に勢いよく何度も振っている。
狙いは解らないでもない、単純過ぎるが意外に上手く行くような気もする。
だがカルパッチョにはひとつ、どうしても腑に落ちない点がありその答えを求め質問を重ねた。
「あのね、シンプルだけど意外とその手が上手く行くような気もするわ……ただね、どうしても一点気になるんだけどいいかな?その…何でその相手がウチのドゥーチェなのかしら?」
『え……?』
双方が思いもよらぬ反応だったらしく、鳩が7.92mm機関銃を食ったような顔で固まっていた。
そしてこれによりこの後驚きの事実が次々と明らかになるのであった。
冒頭の様子からチョビ子は何やら秘策がありそうですが、
果して試合はどんな展開になりますやら。
まあ試合だけではなくそれ以外も何やら予想外の事態になりつつあるようで……。
ひなちゃんはアノ優しいお姉さんな感じがいいですなぁ♡