その内容もどうかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも物語的に外せないしあくまでも物語の中の話という事で、
まほが悪い子でない事はみなさんも御存じの事ですしどうかひとつ。
更に今回は西住と厳島の関係性も少し垣間見えます。
それと英子さんの新たな一面とそれに絡む亜美さんも。
「それで今後の事なのですが、これだけお骨折り頂きながら大変申し訳ないのですがICUに入って居る事もありまだ当分家族以外の面会が出来ません。それに手術もこれで終わりではなくまだ何回かに分けて行わなけねばならないそうで」
改めて亜梨亜さんから聞かされたラブに課された現実はとても重いものだった。
戦車に乗る事はおろか学校への復学すら年内には叶わないであろうとの事。
それが何を意味するか誰にだって解る。
現実、突き付けられた現実…こんなにも理不尽な現実。
中学最後の全国大会、みんな揃って笑って泣いて。
でもそこにラブは居ない。
秋が来て冬が来て、そして春が来てその先に広がる新しい世界。
そこに果してラブの姿は無い。
こんな現実は…こんな現実なんてあんまりじゃないか…。
「千代美さん、これ程ご尽力頂きながら面会も叶わずごめんなさいね、恋の意識が回復し容体が安定してから改めて会いに来てやって頂けますか?」
「勿論です、その日が一日でも早く訪れる事を祈ります」
でも、それが叶う事が無いなどと誰もこの時思いもしなかった。
「それでは申し訳ございませんが入院手続きに必要な物を、自宅に一度取りに戻らねばなりませんので、本日の所はこれにて失礼いたします」
「そうですか、私達もこれ以上ここに留まる訳にはいきませんので下までご一緒致します」
英子さんがそう言うと私達も荷物を纏め控室を後にする。
エレベーターを降りた所で亜梨亜さんと別れの挨拶をし、英子さんは一度署に電話をすると病院の外に出て行った。
私はといえば英子さんが戻る前に、少しすっきりしたくて顔を洗おうと化粧室に行く。
顔を洗いタオルハンカチで拭う、そして鏡に映る顔を見やる。
酷い顔だ、憔悴という言葉が頭に浮かぶ。
日曜の昼過ぎまで呑気に過ごしていた自分と同じ顔だとはとても思えない顔だ。
思わず頬を両の掌で叩いてしまう。
取り敢えず無理矢理それで気持ちを切り替えた事にして、ロビーに行き電話をしに外に出た英子さんを待っていたその時。
「安斎!」
不意に私を呼ぶ声がする。
その声のした方を見やれば見知った顔が揃っていた。
「あ……に、西住…」
声の主西住まほを始め他の面々が私の元に足早にやって来る。
「おまえ何時から此処に!?お前だけ全然携帯が繋がらなかったんだぞ?」
「あ、あぁ、すまない…ずっとその電源を切ったままになっていて…それよりそのお前達はどうしてここに…?」
「私達もニュースを見て、でも詳しい事が何も報道されなくて、それでラブに電話しても全然繋がらないし。それで臨中の副長に電話したら最初言葉を濁してたけど、ニュースに出てたのはラブの事だとやっと答えてくれてそれでみんな待ち合わせてここに来たんだぞ」
「そ、そうか…そうだよな」
「…おい安斎」
「なんだよ…」
「もう一度聞くがお前いつから此処に居たんだ?」
「その…事故のあった日の夜には……」
「おい!ふざけるなよ安斎!知っていたなら何故直ぐに連絡寄こさなかったんだ!?」
不意に西住のヤツが私の胸ぐらを掴んで強引に立たせる。
「お姉ちゃん!?」
「まほさん!あなた一体なんのつもりですの!?」
そんな声も無視して西住は続ける。
「答えろ安斎!西住と厳島が親戚筋だってのは、お前だって知らない訳じゃ無いだろう!?それなのにお前だけ知っていて何故直ぐ教えなかったんだ!?」
「く、苦しいよ、その手を離せよ…」
「答えになってない!どういう事なんだ!答えろ安斎!」
「仕方…仕方なかったんだよ……わ、私だって直ぐに…知らせたかったんだよ…だ、だけど出来なくて…勘弁してくれよぅ…も、もう許してくれよぅ……」
「オイッ!貴様!そこで何をやっている!」
低く鋭く英子さんの声がする。
視界の隅に見えたその表情は凛々しくも優しさを湛えた英子さんではなく、見る者を凍らせる鋭い抜き身の刃の如き表情だった。
「千代美に何をする!その手を離さんか!」
英子さんが私の胸ぐらを掴む西住の手を握ると西住の手が私をやっと離した。
そしてそのまま後ろ手に西住を捻り上げる。
中学生とはいえ日頃鍛えている西住を苦も無くあっさりと屈服させた。
私はといえばその場に崩れ落ちへたり込んでいた。
「う…ゲホッ!ゲホッ!」
「oh!千代美!しっかり!」
「な!?貴様は誰だ!離せ!」
「騒ぐな小娘!ここを何処だと思っている?病院ぞ、場をわきまえよ!」
「これは一体何の騒ぎ!?」
そこへ不意に新たな声が加わる。
それは千代美からの急報に対応し、やっと一段落付き駆け付けた蝶野亜美であった。
「亜美か、スマンが千代美の事を頼む」
亜美を一瞥すると一言そう言った英子。
「ちょっと!英子!?何であんたがここに!?」
「事情は後で説明する、私はこの小娘に用がある」
「ちょ!英子!って千代美さんしっかり!」
亜美が手を差し伸べ千代美を立たせようとする。
「わ、私だって…必死だったんだよ…だけど…ラブが…りゅ、榴弾が…出血が酷いって…だから必死に、必死に……う…うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「きゃあ!千代美お姉ちゃん!」
「お、お医者さんを!看護師さんを!」
私は…私はもう……。
限界だ。
今回もチョビ子を悲しませてしまいました。
チョビ子が一番のお気に入りなんだけどなぁ…。