アンツィオ編は登場人物とマニアックなメカが多くて大変です。
「アンチョビ姐さ~ん!全車給油終わったっス!」
そう叫びながら駆け寄って来るぺパロニの背後を、給油を終え軽くなったドラム缶を荷台に積んだアンツィオ所有のFiat-SPA 38Rが交戦エリアから退去する為走り去って行く。
「いやあ、いよいよっスねぇ♪アンチョビ姐さんとラブ姐さんどっちが策士か決める頂上決戦!」
「…あのなぺパロニよ、そのラブ姐さんってのは止めてくれんか?何というか違うんだわ……」
「えぇ~?何でっスか~?だってラブ姐さんはアンチョビ姐さんの
「ば、馬鹿もん!オマエ昨夜私が言った事何も聞いていなかったのか!?訳の解らん事を言っとらんでサッサと持ち場に戻れ!」
恐るべきは天然のぺパロニ、野生の感でそれを見抜いているもそれが何であるかは解っていないようで、アンチョビにどやされ転げるように自車に戻って行く。
唯一事情を知っているカルパッチョは野生恐るべしとぺパロニを目で追っていた。
一方アンツィオより先に給油を終えていたAP-Girlsのメンバー達は、Love Gunの周りに集まり試合前最後のブリーフィングを行なっていた。
「う~ん、ゾロターンの20㎜は意外だったけど予想しておくべき事だったわねぇ…ウチにとっては充分な脅威になり得る代物だもの……あぁ…でもさすが千代美だわ、私を潰す為なら可能な限り最良の手を打って来る…コレよ、コレなのよ……♡」
ラブはLove Gunの砲塔に腰掛け、頬を上気させ我が身を抱き恍惚の表情を浮かべている。
『こんなにエロい雌の顔って見た事ない……』
Love Gunの周りに集まっていたAP-Girlsの少女達は、アンチョビとの対決を前に興奮の極にあるラブが放出するフェロモンに中てられ生唾を飲み込んでいた。
一見すると凡そこれから戦車で戦う者の様子ではなかったが、よく見ればその瞳は非常に危険な光を放っており、その狂気を孕んだ光がこの一戦に対するラブの入れ込み具合を物語っている。
「さて……千代美は一体どんな初手を取るのかしら?千代美だけはホント読めない…あぁ堪らない……ゾクゾクするわぁ♡」
『筋金入りの変態だ……』
砲塔に腰掛けたままラブが身をよじる姿は艶めかしく、下から見上げるAP-Girlsの少女達はほぼ被り付き状態になっており今にも鼻血を噴出しそうだ。
「な、なあ、ストリップってこんな感じなのかなぁ……?」
「なんで私に聞くのよ!?知る訳ないでしょ!」
首の後ろをトントンしながら夏妃がアホな質問をすると、凜々子は速攻で怒鳴り返したがその顔は真っ赤になっている。
このまま放っておくと放送禁止な事を始めそうな勢いのラブに堪り兼ねた鈴鹿が、砲塔に駆け上がると羽交い絞めにして止めさせようとするも、アハト・アハトなたわわが邪魔で背後からそのたわわを鷲掴みする形になってしまう。
「あぁん♡鈴鹿大胆♪」
「うわ、しまった!ホラ!アンタ達もボケッと見てないで手伝う!」
鈴鹿の声で我に返ったメンバー達が、取り敢えずはとラブを砲塔から引き摺り下ろしに掛かる。
しかしテンションの高いラブ相手を大人しくさせるのは中々に至難の業のようであった。
「え?あ?な~に?みんなしてイヤンそんなトコ♪あぁ~ん♡」
「やかましい!誤解を招くような声を出すな!」
クネクネと色っぽく身をよじり抵抗するラブを、どうにか引き摺り下ろした一同は試合前から疲れた様子で肩で息をしている。
「まったく…アンチョビ隊長相手だとここまで色ボケが酷くなるとは思わなかったわ……」
心底めんどくさそうな顔をしている鈴鹿が視線を向けると、地面に降ろされて尚ラブはその身を抱き締めクネクネしており今日はこの先の事が思いやられた。
「でもさ、愛にはちょっといい刺激というか薬になるんじゃない?」
「それとこれとは話が別よ…試合中こんなだったらどうするつもり……?」
ワクテカしている凜々子に鈴鹿が疲れた声で釘を射す。
個々のスキルが高いといってもやはりチームリーダーのラブがこの有様では話にならない。
「瑠伽、試合中あなた達でラブ姉の事頼むわよ……」
「あ、コイツ私らLove Gunの乗員に丸投げする気ね!」
「だって試合始まっちゃった私らじゃどうする事も出来ないでしょ?」
「多分試合始まっちまえば大丈夫じゃねぇかな~?」
『はぁ!?アンタ何言ってんのよ?』
軽い言い合いをする鈴鹿と瑠伽の間に、突然夏妃が口を挟んだ。
「あのヘンタイの事だから、全力でアンチョビ隊長にしばかれたくてアレコレ画策するんじゃね?」
『……』
あまりに馬鹿過ぎる意見だが今のラブの状態からすると、鈴鹿と瑠伽の二人にはそれを否定するだけの要素を見い出す事が出来なかった。
アンツィオとAP-Girls、双方様々な事情を抱えつつ信号弾が上がるのを待っている。
「なんかどっちもドタバタやってるわね」
「昔からあの二人が対戦する時はいつもそうだったと思いますが」
「…確かにそうだったわね……」
モニターに映る両校の様子を見たカチューシャが少し呆れながらそう言ったが、ノンナが即言い添えるとカチューシャも思い出したらしく面倒そうに答えた。
ラブチョビの試合は騒々しい、それが当時を知る者達の共通の見解であり、事実奇策の応酬で収拾が付かなくなるような試合も多く長丁場になると審判まで涙目になるとかもザラであったのだ。
全員が当時を思い出し果たして今日はどれだけ時間が掛かるかと少し憂鬱になり掛けた時、そんな気持ちを打ち破るような野太く鋭いエキゾーストが辺り一帯に響き渡った。
「まあ!あれは!」
歓喜の色の混じった声を発し思わず立ち上がったダージリンの視線の先を、ライムグリーンのモンスターが駐輪場目指して駆け抜けて行く。
Godier Genoud 1135R、現れたのはカワサキZ1000Jをベースにフランスのチューナーゴディエ・ジュヌーによりカスタマイズされたモンスターマシンである。
「すっごい爆音だったねぇ」
「Wow!あれ絹代のバイクじゃん」
「絹代ってあの知波単の?」
「そう、あの絹代のバイクよ」
「そうなんだ~」
今がバカップルの盛りな杏とケイは他愛のない会話の一部として流したが、条件反射的に立ち上がってしまったダージリンは突如現れた欲求不満の源にもうそわそわと落ち着きがない。
「来るとは聞いていたがまさか単車でご登場とはなぁ…どれ……」
挙動がおサルさんのように落ち着きがなくなったダージリンを見て、ニヤリと笑った英子は携帯を取り出しアドレスを開くと早々に電話を掛け始めた。
「…おお、絹代か?私だ…ウム、解っておる……そう、そうだ解るか?ウムそれはいいから早く来い、お前の愛しい茶坊主も首を長くして待っておるぞ」
「ちゃ、茶坊主ぅ!?」
『ぶっ!』
思い切り声が裏返るダージリンと一斉に噴き出す一同。
ダージリンはあまりの言われように目をシロクロさせているが、言った当人は至って涼しい顔で平然としてしている。
「敷島殿、御無沙汰致しております、横須賀以来でありますな」
「そうなるかな…?まあ堅苦しい挨拶はいらん、楽にしろ。しかしまた単車で来るとはな……」
「いやあ、当初は三連(三式指揮連絡機)で来る予定だったのでありますが、三保飛行場が試合会場に含まれておりましたので止む無くウラヌスで来る事になりました」
「おい、ジャイロはどうした?カ号があっただろう?」
「あ~、カ号観測機は分解整備を始めたら要交換の部品だらけになっておりましてな、如何せん需要が少ない機体ですので部品の確保に難儀しておりましてまだ当分は飛べません」
「う~む、あれも相当古い機体だからなぁ……」
「まあ気長にやります」
「そうか…まあいい、座れ座れ」
「はっ!それでは失礼致します」
英子に向かい一部の隙もない敬礼を決めると、クルリとダージリンの方に向き直り実に良い笑顔を見せよく通る声でその名を呼んだ。
「ダージリン殿、お待たせ致しました!」
「べ、別に私あなたの事など待っておりませんわ!」
絹代が自分ではなく先に英子に声を掛けた事が気に入らず拗ねているのか、ダージリンはそっぽを向いて目を合わせず素っ気ない態度を見せてはいるが、いきなり噛んでいるしぷくっとさせたほっぺがやたら可愛く絵に描いたようなツンデレぶりを披露していた。
『ヤバい!今日はダージリンが面白いぞ!しかも妙に可愛い!』
あまりの解り易さに全員自分の腿をつねって必死に噴出するのを堪えている。
「おぉ、なんとつれないお言葉…私などは夜毎いつダージリン殿とお会い出来るかと悶々と過ごしておりましたのに……」
『ぶふっ!』
天然ジゴロ絹代の天然な攻撃にあっさり撃破され全員一斉に噴き出してしまう。
英子などは一切遠慮する事なくゲラゲラと笑いダージリンは真っ赤になりプルプルしていた。
「そ、そんな殊勝な事を仰るけど、私の試合は見に来て下さらなかったではありませんか」
「それを言われると返す言葉も御座いませんが、最近どういう訳か練習試合の申し込みが殺到しておりまして、あの日は知波単も試合の為に遠征に出ておりましたのでご容赦願いたい。ですがこの絹代、一分一秒たりともダージリン殿の事を忘れた事はありませぬ」
大学選抜戦以降人気急上昇中の絹代目当てで知波単に練習試合の依頼急増中らしく、実際今日まで観たいと思いつつもこの6連戦も観戦に来られなかった理由がそれであった。
狭いスタンド上で背を向けるダージリンの前に絹代は器用に回り込むと、腰に手を回し拒もうとする手を取り真っ直ぐに瞳を見つめて来た。
「あ、あああアナタねぇ!こんな時に何を言っているの!?」
「私は何時でも本気です」
どうにもいつも以上に天然度が高い絹代もまた、つまる処は欲求不満という事らしい。
『ヤバい!絹代が面白過ぎるわ!』
『あの子こんなキャラだった!?』
『もう試合処じゃないよね!』
『ラブと安斎も運がないな、こんな面白い場面を見逃すとは……』
『大丈夫よお姉ちゃん!』
『ナニ?』
『みほと私で最初から録画してます』
『おお!ナイスだエリカ!』
もう間もなく試合も始まろうという時に、とことん救いようのないケダモノ達であった。
思いがけず始まった寸劇に一同が盛り上がる頃、給油車両が漸く交戦エリアから離脱完了し無線の共用回線でその旨両校に通達がなされ、双方隊員達が戦車に乗り込み始めた。
再びエンジンに火が入りそれまでの緩い空気が一変し、俄かに少女達がその瞳に好戦的な光を宿し始めるとそれが引き金となったように信号弾が打ち上げられ破裂音が響き渡った。
『Tanks move forward!』
『Avante!』
観戦エリアのモニターの分割画面の中、ラブとアンチョビが同時に前進の命を下す。
エンジンが唸りを上げ、履帯が大地を削り鋼の野獣は獲物を求め奔り出す。
「始まったわ!あぁ♪やっぱり千代美ちゃんは戦車に乗っている時が一番可愛いわね~♡」
『この人は一体人格がいくつあるんだ?』
試合も気になるが、いつも以上にころころ変わる英子のキャラもかなり気になる一同であった。
「さあ行け~!この試合スピードがモノを言うぞ!生半可では我々に付いて来られないという事を見せ付けてやれ!アンツィオの恐ろしさ、たっぷりと味あわせてやるのだぁ!」
これぞアンツィオなノリと勢いで、アンチョビに煽られ歓声と共に拳を突き上げ飛び出して行く豆戦車達と、その後方からこちらはきっちり隊列を組み進発するP40とセモヴェンテが続く。
「うふふふ♪ついに始まったのね……あぁ…千代美、早く私を蹂躙しに来てぇ♡」
『オイオイ……』
一列縦隊を組みマリーナ前から三保街道を海水浴場方面に向け進発したAP-Girlsであったが、動き出して早々に無線から流れたラブの第一声に全員そのまま帰りたくなった。
「もういっそ瑠伽にラブ姉縛り上げさせて鈴鹿が指揮執れば?」
試合開始早々に飛び込んで来たラブの戯言にウンザリしたブラック・ハーツの通信手、
「面倒事を私に振らないで……」
砲塔サイドハッチを開け放ち外の様子を眺めていたブラック・ハーツの砲手、
しかしその鈴鹿もさすがにこれ以上放ってもおけないので何か言おうと咽頭マイクを押えた瞬間、それまでとは違う様子で再びラブが話し始めた。
『みんないい?千代美は行動が速いからね、今までみたいなつもりで掛かると痛い目見るよ!指示があるまでは単騎駆けで行くけど分散し過ぎないように注意して。タンケッテに振り回されて無駄に燃料と砲弾を消費しないようにね!欺瞞作戦も絶対に仕掛けて来るから連携して立体的にモノを見る事、気が付いたら踊らされてましたなんて事のないように!いいわね?』
「だってさ……」
砲塔内に目を向け鈴鹿がそう言うと、車内の者達は全員肩を竦めている。
浮かれていても戦車道には一切影響がないのがラブの凄い処かもしれないと鈴鹿は思ったが、この一戦が終わったら愛との問題もはっきりさせないと、いつまでも不安定なままでこちらの身が持たぬと考えを新たにしていた。
『姐さ~ん!こちら
「こちら
『大丈夫っス!バッチリ問題ないっス!』
「ホントかなぁ……」
自信満々なぺパロニの様子に何処か言いようのない不安を覚えるアンチョビであった。
今回用意された3両のCV33改造型のL3contro carroには蜂に纏わるコールサインが使われ、車体側面には小さくではあるが図案化された蜂のパーソナルマークが描かれており、よく見るとアンチョビの乗機の女王蜂は凝った事に触角の代わりにツインテが描かれていた。
「よ~しテメエらマカロニ展開だ!」
ぺパロニの威勢の良い号令と共に、随伴していたCV33の乗員達が背負って来た資材を降ろすと総出で組み立て始め、完成した物をCV33に被せ始めた。
『
「了解だ、どうにか間に合ったな!各隊油断するなよ、ラブ達はもう直ぐにも現れるからな!」
『了解!』
作戦行動に入ったアンツィオの様子は観戦エリアのモニターにも映っており、それを見た者達もそれに対する反応は様々であった。
「あっはっはっはっはっ♪さすがだわ千代美ちゃん!やっぱりあなたは最高よ!」
「うひゃひゃひゃひゃ♪進化してるメッチャ進化してる~!立体になってる~!チョビ子まだアレ続けてたのか~!」
「西住先輩あれって……」
「梓さん…うん……」
「ひなちゃんもか、これぞ本家本元だな」
「カエサルさん……」
モニターの分割画面には、それぞれ別の場所で展開しているぺパロニとカルパッチョの部隊が映っているが、その両隊が何故か現在はP40を植え込みの陰などに配し部隊を展開させていた。
マカロニ作戦
「うわ!ちゃんと砲塔が旋回してるぞ!?」
「また無駄にクオリティの高い物を造って……」
「でも本物に見えるから侮れないわ!」
「あの労力他に使った方が絶対よさそう……」
「しかし大学選抜相手に戦果上げてるからなぁ……」
口々に言いたい放題ではあるがそのリアクションを見れば、ダミーとしての役割は充分に果たせるだけの完成度は確保しているようである。
「ふっふっふ…さあ来いラブよ、歓迎の準備は整っているぞぉ!」
L3contro carroの上で仁王立ちで腕組みするアンチョビは、これ以上ない程に機嫌が良い。
多忙ではあったが、こうして全ての準備を整えた上でラブと戦える事が嬉しいのだろう。
『各車全方位警戒!もうどこから来てもおかしくないからね、足回り狙って来るよ気を付けて!』
ここまでは一列縦隊で真っ直ぐに三保街道を進み続けて来たAP-Girlsであったが、隊列が三保北の交差点に到達する辺りでラブは警戒レベルを更に上げるよう全車に通達した。
「足回り狙い限定?」
『まだP40とセモヴェンテでは仕掛けて来ないはずよ、L3ccの20㎜で履帯斬り仕掛けて来る可能性が一番高いと思うわ。勿論それ以外でも狙い処によっては充分抜かれる可能性があるから気を付けて。でもこの予想も全然アテにはならないわ、だって相手はあの千代美なんですからね』
決め打ちな予想に凜々子が疑問を口にしたが、それに対する答えはいつものラブを考えれば酷く曖昧な答えであり、AP-Girlsのメンバーにしてもこれまで彼女と一緒にやって来た中でもこんな事は初めてで、ある意味ではとても新鮮な感覚を味わっていた。
そしてそこからはラブの指示により若干進行速度を落とし、緩やかに蛇行する県道の側面からの攻撃を警戒しつつ隊列はそのまま崩す事なく進んで行く。
今辺りに響くのは自分達のエンジン音と履帯がアスファルトを削る音のみで、それ以外は不気味なまでに静まり返り敵の位置情報に繋がるような音は一切聴こえない。
それから暫くは何事もなく進み、やがて道路の両側にサッカーコートとフットサルコートが現れ若干周囲への見通しがそれまでより良くなった。
「もう少し早く仕掛けて来るかと思ったんだけどな……」
左に緩やかに曲がって行く先にラブが意識を向けたその瞬間、今日は2両目に付けていたイエロー・ハーツの凜々子が無線ではなく直接大声で注意喚起の声を上げた。
「ラブ姉!2時方向温室の陰にP40発見!距離約100m!」
「ウソ!?先にP40で仕掛けて来た!?」
自分でアテならないとは言いつつも、その予想に反しアンチョビが初手から虎の子のP40を投入して来た事にラブは相当に驚いたらしく大きく目を見開いている。
「P40の砲塔がこちらを指向!」
再び凜々子の叫びで我に返ったラブが即座に回避行動を指示出した。
「マズい!全車スモーク放出の上全速後退!」
5両のⅢ号J型から既にお馴染みになりつつあるピンクスモークを放出すると、AP-Girlsらしからぬ慌てぶりで後退を始めスモークに紛れどうにかP40の射角から離脱する事が出来た。
しかしラブ達はまだ気付いてはいないが、今ラブ達を狙ったのはぺパロニの部隊のハリボテP40であり攻撃能力など皆無なのだが、見事ラブを騙す事には成功していた。
『こちらape operaia uno、姐さんやったっス!ラブ姐さん引っ掛かって慌てて後退して行ったっスよ!こっちはこのまま次のポイントに移動するっス!』
「こちらape regina了解だ。上手く行ったか、バレてないな?」
『ハイそれはもう、砲塔回してやったら大慌てでスモーク焚いて下がって行ったっス!』
「よし解った、次のポイントでもくれぐれも余計な事はするなよ?」
『大丈夫解ってますって!』
交信を終えたアンチョビは取り敢えず第一段階が上手く行った事に安堵の息を吐くと、造るのは大変だったがハリボテP40が上手く機能している事に満足気に頷くのであった。
サイズはほぼP40と同じだがその中身は豆戦車であり一人は操縦せねばならぬので、砲塔の旋回は軽いハリボテとはいえ一人でやらねばならずそれなりに大変ではあったのだが、あのラブが騙されたのであればこれはもう成功と言って間違いはないとアンチョビも満足げな顔になった。
「よぉ~し、この調子で次に行くぞ!警戒心を上げさせつつも深みにはめてやれ!」
左右ともにサッカーコートで視界は開けているものの、そのコートと道路の間には高さのある防球ネットが張り巡らされており、もしそちらに回避した場合フェンス等は難なく突き破れたとしても万が一ネットが履帯や砲身に絡み付いた時、どんなトラブルが発生するか解らずそのリスクを考えるとラブの即後退の判断は正しいのかもしれない。
またその命令に即応出来るAP-Girlsの技量も並々ならぬものであると言えよう。
しかしその彼女達の実力からすれば今の瞬間的な後退は些か過敏な行動に見え、それは観戦エリアにいる者達にとっても奇異なものに見えたようだ。
「あの子達の試合にしちゃ何だか随分大人しい立ち上がりね!それに何よ今のラブの後退は?全然あの子らしくないじゃない?いつもなら逆に一気に懐に飛び込む位するわよ?」
確かにカチューシャの指摘通り過去の二人の対戦から考えれば、試合開始直後から試合終了まで馬鹿騒ぎが続くような試合展開が普通であり、今回みたいな事は記憶なく皆一様に訝しんでいた。
「う~む、安斎の方はいつも通りだと思うのだが、やはり何処かおかしいのはラブの方か……オイ、誰か安斎なりAP-Girlsから何か聞いてないか?」
「まほさんの耳に入っていないのなら、他の者の耳にも入っていないと思いますけど?みほさんはどうかしら、何か聞いていらっしゃるかしら?」
「ふぇ!?私ですか!?その…私も何も聞いてません……」
まほの疑問に対してダージリンがそう指摘し、更にみほに話を振ると当のみほも慌てて否定した。
現段階において前日の出来事はまだ左程拡散してはおらず、上の者達の耳に届くのはまだ少し先の事になる為、ラブの様子がおかしい原因は誰にも解らないのであった。
「う~ん、あれは一気に行く場面だったとも思うんだけど…なんかラブ姉もテンション高い割に行動が消極的になってるわね……やっぱり昨日に事が影響してるのかしら?」
P40を発見後にラブが下した判断に対し凜々子は大いに違和感を感じていた。
いつものラブであればあそこで引くのは考えられず、凜々子としてはやはり前日の事を考慮せざるを得ず、この先の試合展開を思うとそれは決して小さくない不安要素であった。
「これはやっぱり鈴鹿に指揮執らせた方が良かったかも……大体愛もセカンドポジションに入らず最後尾にいるのにラブ姉何も言わないしちょっと本格的にマズいわよ」
目の前で前方の様子を窺っているラブの背中が、凜々子の目には今日はとても頼りなく映る。
これまで全く隙のない一枚岩と思われて来たAP-Girlsだが、ここに来て不協和音を生じさせその原因がラブであるのは明らかなのだが、メンバー達も手を拱いているのが現実だ。
『こちらape operaia due、AP-Girlsを視認しました。間もなくアチラも仕掛けに気付くはずです』
「こちらape regina、進行速度はどうだ?」
『かなり落ちてます、必要以上に警戒している感じですね』
「そうか……まあいい、予定通りに仕掛けろ!」
『了解!』
「…自分達より小回りの利くタンケッテ相手に手探り段階で狭い道で勝負したくないのは解る……だがなラブよ、今のお前の行動は私の思う壺だぞ?解っているのか……?」
アンチョビもまた伝わって来るラブの動きに凜々子と同様前日の影響を考慮に入れ考えているが、それが果たして愛との問題なのか水族館での出来事が原因なのかは判断が付きかねていた。
「あるいはその両方かなぁ……」
但しそこに自分も問題の一部として含まれている事は、アンチョビの知らぬ処であった。
「……イカン!ここで私まで思考を鈍らせてどうする!?今は試合に集中だ!」
アンチョビは己が頬を両手でピシャリとやると、再度気合を入れ直した。
そしてちょうどそのタイミングで再び進撃を再開したAP-Girlsは先程のサッカーコート前を通過し、後少しで発砲禁止エリアである海洋科学博物館も見えて来る場所まで到達していたが、進路右手にあるキャンプ場が並木で目隠しされ見通しが悪くそれまで以上に警戒心が強くなっていた。
「ん!?ラブ姉!11時方向ホテルの植え込みの陰にP40!距離約50m!」
「えぇ!?」
右手のキャンプ場に注意が行っておりまたしても気付かなかったラブに向け、先に気付いたLove Gun操縦手の香子が注意喚起の声を上げた。
「チッ!ラブ姉、豆戦車も出て来たよ!」
ラブがまたしても現れたP40に驚いている目の前に、チョロチョロとタンケッテが湧いて出るという表現が相応しい勢いで次々と姿を現した。
「
カルパッチョの命令と共に集まって来たCV33の8mm重機関銃が火を噴き、先頭にいるLove Gunに向かい激しい銃弾の雨を浴びせ始めた。
その中で一際鋭い発射音を轟かせL3ccの20㎜も火を噴き、それまでとは明らかに違う衝撃が車体を叩き、ここで遂にLove Gunは進撃の脚を止めてしまった。
「今よ!」
その瞬間を待っていたとばかりにカルパッチョが無線に向かって鋭く叫ぶと、脚が止まったAP-Girlsの無防備な側面を突くように激しい砲撃が始まった。
「なっ!?」
完全に不意を突かれたラブは驚愕の表情で言葉も出なくなっている。
やたら低い位置からの砲撃がAP-Girlsに襲い掛かり、状況が掴めない彼女達は防戦もままならず一方的な攻撃に晒されていた。
反撃を試みようとするが正面に展開する豆戦車達はちょこまかと走り回り的を絞らせず、側面からの攻撃も吹き飛んだ立木の間からは敵の姿を発見する事が出来なかった。
「全車3時方向に砲塔旋回!弾種榴弾装填せよ!俯角を目一杯取れ!撃て!」
「な!凜々子!?」
完全に出し抜かれたラブに代わり凜々子が出した応戦指示に従いAP-Girlsが反撃を始める。
撃ち放った榴弾が視界を遮る立木を薙ぎ払うと、それまで姿の見えなかった謎の砲撃の主の正体とその理由が明らかになった。
「あれは……!全車徹甲弾装填!目標プール内のセモヴェンテ2両!」
視界が開けその先に見えたのは、冬となり水を落とされ空堀となったプール内に潜伏し砲撃を加えて来る2両のセモヴェンテの姿であった。
「どうりで姿は見えないし弾道も低い訳ね、巧い事ハルダウンしてるわ……各車任意で反撃せよ!但し先頭のLove GunのみP40に対応する事!」
ラブがオロオロする間に、そのラブのお株を奪うような迅速さで指示を出し続ける凜々子だが、その命令を下した直後にLove Gun通信手の花楓から報告が飛び込んで来た。
『お~い凜々子!P40の姿が消えたって香子が言ってるよ!』
「なんですって……!?ヨシ!Love Gunは機銃でタンケッテに牽制を入れよ!それと同時に残り4両でセモヴェンテを攻撃、隙を突いてキルゾーンから脱出する!ぶっ放したらスモーク焚いて10時方向の駐車場に突入、そのままその脇から砂浜に飛び込め!」
どちらかと云えば聖グロ枠な清楚でお嬢様系の容姿をした凜々子だが、今その外見からは想像も付かぬ口調と表情で矢継ぎ早に指示を飛ばしている。
「各車榴弾装填、照準はプールサイド!セモヴェンテに目晦ましを仕掛ける!Love Gunも用意はいいか!?それでは行くぞ、タイミングを外すなよ!……ヨシ、撃てぇ!」
ラブを押し退けるように突然指揮を執り始めた凜々子とそれに何一つ反論する事なく従うAP-Girlsのメンバー達、しかもそれで機能不全に陥る様子もなく的確に行動している。
試合開始早々陥った窮地から果して彼女達は脱する事が出来るのか?
多くの問題と謎を抱えたままAP-Girlsの脱出劇が今始まった。
懲りずにマカロニ♪杏がやたら喜んでますねぇ……。
チョビ子と杏の関係性も書いてみたいけどまだネタが思い付きません。
因みに今回の作中で登場する三保飛行場は一般の航空機は使えない空港ですが、
そこはガルパンワールドという事でどうかひとつ。
久し振りの絹代さんの登場でダー様のネタ度もパワーアップです♪