ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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いよいよチョビ子が奥の手を使うようです。


第五十一話   Squadra(三角定規)

『アンチョビ姐さん!AP-Girlsが単騎駆けで動き回ってます!』

 

「なにぃ!?そりゃあ何処だ!」

 

『三保郵便局前を抜けて三保北を造船所の方に曲がって行きました!』

 

「誰か解るか?」

 

『一瞬しか見えなかったけどブラック・ハーツだったと思います』

 

「そうか、お前は見付かってないな!?」

 

『はい、タンケッテは隠して徒歩で偵察に出てたんで大丈夫です!』

 

「よし!上出来だ、だがくれぐれも無茶はするんじゃないぞ!」

 

『は~い!』

 

 

 偵察に出ていたCV33の1両からもたらされた報告に、アンチョビもラブがいよいよ本格に動き出したと察し、方針の修正を余儀なくされる。

 

 

「う~む、とうとうと云うか遂にと云うか動き始めたかぁ……こりゃあ増々マカロニの使い処を間違えると目も当てられん事になるぞぉ」

 

 

 再びP40を引き連れ次に罠を張る予定のポイントに移動中であったが、AP-Girlsが単騎駆けを始めたとなると作戦に若干のアレンジが必要になり、アンチョビは腕を組み考え込んでいた。

 

 

「ここは取り敢えずマカロニは一旦中止してこちらも遊撃戦に切り替えるのが得策か…イヤイヤ、それではみすみすラブの手に乗るようなもんだ……ヨシ決めた!もう一度集結して部隊の編成を変えよう、単体の最大火力はこちらの方が上なんだ、それを活かしてダメージを蓄積させてやろう」

 

 

 アンチョビは地図を片手に再集結ポイントを決めると、無線を手に取り再集結の命令を下す。

 

 

「ape reginaより全車に通達!部隊の再編成を行う、至急水族館前の駐車場に集結せよ!但し途中遭遇戦にはくれぐれも注意せよ、万が一AP-Girlsに出くわしたら今はやり合おうとか考えず全力で逃げろ!それとape operaia unoとape operaia dueのマカロニは外してそのまま潜伏場所に隠しておけ!まだ後で使う可能性があるから壊すんじゃないぞ!」

 

 

 Ⅲ号相手にやり合ってしまえばでは8mm重機関銃2挺のCV33ではとても勝ち目はない。

 しかしそれも使い方次第でそのノウハウを持っているアンチョビにとって貴重な戦力である事に変わりはなく、今の段階で1両でも失う事は何としても避けたかった。

 

 

「それじゃあ我々も集結ポイントに向かうぞ、もうAP-Girlsがうろついてるから用心しろよ!」

 

 

 アンチョビ自身も箱乗りで周囲に鋭く警戒の目を奔らせL3 ccを進ませる。

 寒さだけではない緊張感で空気が張りつめているのを、アンチョビは走行風から敏感に感じ取り一層険しい目付きとなっていた。

 

 

『こちらブラック・ハーツ、時々視線は感じたけどまだ何も仕掛けて来ないわね~』

 

 

 造船所前を通り過ぎ、三保半島内でも工場の集まる区画を単騎哨戒するブラック・ハーツの鈴鹿から無線で届いた報告の声はアンチョビとは対照的に緊張感のない力の抜けたものであった。

 

 

『こちらブルー・ハーツ、今飛行場脇の直線にいるけどよ、多分偵察車両だろうけどさぁタンケッテが1両こっちの姿を見た瞬間凄い勢いで半島の突端の方に逃げてったわ』

 

 

 鈴鹿に続き夏妃からも報告が来たが昼食前とは一変、どちらも戦闘に突入する処か接触を回避するような行動を取っている。

 

 

「イエロー・ハーツ凜々子よ、最初に襲撃受けたフットサルコート近くにいたけどこっちも似たような感じね、多分ぺパロニ先輩だと思うけどセモヴェンテ連れてるのにスモーク焚いてやっぱり同じ方向に離脱して行ったわ」

 

 

 更には凜々子からの報告も似たようなものだ。

 

 

「ん~、どういうんだろコレ?」

 

 

 キャンプ場の松林を出た後温室が立ち並ぶ区画を進んでいるLove Gunのコマンダーキューポラ上で、アンチョビの意図を掴み兼ねるラブは腕組みしたまま首を捻っている。

 

 

「状況的には完全にすれ違いになってるよねぇ……」

 

「どうする、戻るかい?」

 

「…やっぱり私と千代美って縁がないのかしら……?」

 

「お~いラブ姉!」

 

「え!?あゴメン……ナニ?」

 

「聞いてなかったんか…戻るかって聞いたんだけどね……」

 

 

 何処かまだ上の空な感じのラブに、瑠伽が疑わしげな視線を向けると慌てて手を振って誤魔化す。

 

 

「えっとね…暫くはこのまま単独行動続けるよ。多分千代美の動きも偵察から報告が行っての事だと思うし、私達の単騎駆けに呼応して手を打って来るでしょうからそれまではこのまま行くわ」

 

「ならいいわ」

 

 

 ラブの返答に一応納得したらしい瑠伽はその後は何も言わず、そのまま開け放ったサイドハッチから外の景色を眺めている。

 

 

「よし揃ったな……」

 

 

 海洋科学博物館手前にある広めの駐車場には、変則的な編成で分散していたアンツィオの戦車達が続々と集結中であり、今も最も遠くまで足を延ばしていた偵察任務のCV33が軽快なエンジン音を轟かせながら駆け込んで来た。

 

 

「姐さ~ん一体どうしたんスか?せっかくマカロニの準備も出来てたのに戻って来いって?」

 

「まあそう言うな、後でまだ使う可能性もあるからな…それよりちゃんと隠して来ただろうなぁ?」

 

「そりゃあもうバッチリっすよ♪」

 

『何でだろう…いつもコイツが自信たっぷりに言うと途轍もなく不安な気持ちになるのは……』

 

 

 さすがのアンチョビも最後に感じた事は口に出さなかったが、これに関してはぺパロニの実績が多過ぎてアンチョビにとっては一種の条件反射なのだろう。

 

 

「ようし!いいか、よく聞け!AP-Girlsが単騎駆けを始めたのは無線で聞いていただろう、我々もそれに合わせ部隊編成を変える!まずセモヴェンテだがここからは3両で纏めて運用するぞ、それに合わせてCV33は挑発部隊としてセモヴェンテと一緒に行動せよ!」

 

「ドゥーチェ!まさか……」

 

「ああそうだ、もう少し消耗させてからとも思ったが彼女達が分散した以上こちらも勝負に出る時が来たという事だ、お前達もここからは一緒に行動しろ」

 

「それじゃあ……」

 

「うむ、これより三角定規作戦を発動する!練習の成果見せて貰うぞ!」

 

 

 アンチョビの檄にドゥーチェコールが巻き起こり、アンツィオの隊員達が拳を天に突き上げる。

 

 

「アンチョビ姐さん最高っスよ!」

 

「そう逸るなぺパロニ、もう練習の時のようにやり直しはきかないんだぞ?解ってるのかぁ?」

 

「大丈夫っス!任せて下さい姐さん!」

 

 

 観戦エリアのスタンド上でもまほと英子がモニターに映るアンツィオの隊員達と一緒に、拳を突き上げながらドゥーチェコールを繰り返している。

 

 

『色々溜め込み過ぎて拗らせるとこうなるのか……』

 

 

 周囲の痛い視線に気付く事もなく一種病的な盛り上がりを見せる二人は、みほと絹代が力に訴えた説得をするまで止まる事を知らなかった。

 

 

「フ~ム、単純に車種毎に分けたように見えてこの隊列はどういう意図だろうねぇ……」

 

 

 力業で大人しくさせられた割に大して堪えた風もなく、モニターの中を進むアンツィオの隊列を見た英子も不思議そうに首を捻っている。

 隊列の先頭にはCV33が群れているがその動きは無秩序であり、いつ飛び出そうかとウズウズしているような印象がある。

 そしてその後方には3両のセモヴェンテが極端に間隔の狭い三角形を形成し続き、その影に隠れるようにアンチョビが搭乗しフラッグ車でもあるL3 ccを頂点とした3両が、こちらもセモヴェンテと同様の隊形を組み続いている。

 

 

「CV33が無秩序なのはいつもの事として、問題は後ろのセモヴェンテとL3 ccですわね。P40の一歩引いたような位置取りも意味が解りませんわ」

 

Jagdhund(ヤークトハウンド)……」

 

「え?なにか仰って?」

 

「あ、いえ先頭のCV33が解き放たれる前の猟犬みたいに見えたもので……」

 

 

 英子同様にアンチョビの意図を計りかねていたダージリンに続き、エリカが呟いたドイツ語で猟犬を意味する一言をダージリンは聞き逃してはおらず、その意味する処を興味深げに問うていた。

 しかしこのエリカの初見は的を得ている事はこの後直ぐ立証される事になるのだった。

 

 

『ラブ姉、アンツィオが全車揃って隊列組んで行動してるわ』

 

「え?凜々子今何処にいるの?」

 

『灯台入口交差点近くの造船クラブの建物の裏よ、アンツィオはCV33を先頭にセモヴェンテ、L3 cc少し距離置いてP40の順番で変則的な隊列組んで清水市街地方向に進行中』

 

「またすれ違いだわ…今からそっちに行くから!」

 

 

 立ち並ぶ温室の間を抜けLove Gunは今、凜々子のいる交差点信号の名前の元である半島の外海側にある灯台近くを走行中であった。

 

 

『待って!アンチョビ隊長の意図が読めないわ、暫く様子を見るか私が少し仕掛けて…チッ!見付かったわ!でもこれで何を考えてるかある程度解る!ラブ姉はまだこっち来ちゃダメよ!』

 

「凜々子!?凜々子!」

 

 

 それ以上凜々子は応えず代わりに砲声がラブの耳にも聴こえて来た。

 

 

「香子、転進!凜々子の救援に行くよ!」

 

「ラブ姉?」

 

「隊長は私!」

 

「解った……」

 

 

 一応瑠伽が引き止めるよう声を掛けたが毅然と言い切ったラブの目を見て、いつもの戦闘中の目付きになっていたのでそれ以上はもう何も言わなかった。

 

 

Assalto(突撃)cane da caccia(猟犬)共ぉ!」

 

 

 イエロー・ハーツの存在に気付いたアンチョビの号令と共に、一斉にナポリターンで転進してイエロー・ハーツに襲い掛かる豆戦車の群れは、まさに獲物を追い立てる猟犬そのものであった。

 

 

「行けぇ!Segugio Italiano(セグージョ・イタリアーノ)の優秀さを見せ付けてやるのだぁ!」

 

 

 イタリア生まれの猟犬の名を叫び突撃して行くCV33にアンチョビは檄を飛ばす。

 しかし凜々子もCV33が一斉にナポリターンを決めた瞬間には、狭い裏道にいるのは危険と判断し全力の後進からドリフトターンで三保街道のアンツィオの隊列の後方に飛び出すと、CV33の群れ相手に得意の一対多数の格闘戦に突入していた。

 

 

「紗英!まだちょっとアンツィオの狙いが解らないけど足回り狙いに気を付けて!」

 

 

 確証はないが纏わり付き始めた豆戦車達が執拗に側面に回り込もうとするするのを見て取った凜々子は、それが明確な意図を持った行動であると踏んで、仕掛けて来そうな攻撃の中でも一番実行性の高い足回りの破壊を警戒し操縦手の紗英(さえ)注意喚起を促した。

 

 

「履帯っていうより駆動系狙いかねぇ……よっと!」

 

 

 凜々子の推測に答えながらもブレーキングのフェイントを入れ側面を突こうとした1両を躱した紗英は、反対側から突っ込んで来たもう1両にはカウンターを当て弾き飛ばそうとしたが、これは相手が寸での処で気付き回避したので不発に終わってしまった。

 

 

「林檎!緋色!行ける!?」

 

「砲塔回してたら追い付かないから紗英に振り回して貰った方がいいわ」

 

「だね~」

 

 

 回避指示を出し続ける合間の凜々子の問いに、砲手の林檎(りんご)と装填手の緋色(ひいろ)のコンビは即結論を述べた。

 

 

「いいわ、あなた達のやり易いようにやって…左気を付けろ!」

 

 

 凜々子も即答しつつ更に迫るCV33に対し注意するよう声を張り上げる。

 そして紗英がそれに反応し車体をハーフスピンさせて回避するのに合わせ、緋色と林檎が阿吽の呼吸で撃ち出した徹甲弾が見事車体側面を晒したCV33に直撃し横転させた。

 

 

「よしいいわ!次行くよ…って、え!?」

 

 

 凜々子の目の前で横転したCV33から転がり出た搭乗員が、即座に車体を押して立て直したと思うと飛び乗って何事もなかったように走り出した。

 

 

「大洗戦のアレか!しかもあの時よりやられ方が上手くなってる!?」

 

 

 研究の為に見た全国大会2回戦の映像で、アヒルさんが苦労した不死身の豆戦車を目の当たりにした凜々子は、実際に見る詐欺のような光景に思わず頭を抱えそうになった。

 そうこうするうちに格闘戦を繰り広げていた灯台入口交差点と隣接するコンビニの駐車場では、スペース的に苦しく追い詰められ始め不利を悟った凜々子は即撤退を決断、スモークを焚くとあっと言う間に交戦エリアから離脱して行った。

 

 

「参ったわ、あれじゃいくら弾があってもキリがないわね……」

 

 

 コマンダーキューポラから追撃を警戒していた凜々子がため息交じりにそう言ったが、イエロー・ハーツのメンバー達も、実際に目の前で被弾横転した戦車を乗員が押し戻して再び走り出すなどという光景を生で見ると、さすがに言葉を失い呆気に取られたのであった。

 

 

「映像では何度も見たけどね、リアルで見ると一層シュールだわ」

 

 

 日頃は常に気だるげで滅多に物事に動じる事のない通信手の高御堂寧(たかみどうねい)が、彼女にしては珍しく感情のこもった声音で感想を述べる。

 

 

「あけびちゃんよくあんなにたて続けに撃破出来たもんよね……」

 

「あの子命中率高いけどアレは特に凄いよ」

 

 

 林檎と緋色もさすがに豆戦車の馬鹿げたリカバリー力に呆れた様子だ。

 

 

「それはともかくさ、やっぱり足回り狙って来てるね。側面突かれた時ウチら並のカニ走りで掃射して来たじゃない?例え8㎜でも起動輪と履帯の間に噛み込むとかあまり考えたくないわね」

 

 

 紗英も操縦桿を操りながら凜々子と自分の推測が当たっていた事に渋い顔をしている。

 

 

笠女(ウチ)と一緒で火力に難ありだから、その辺よく解ってるアンチョビ隊長の狙いもはっきりしてるわよね…でもそれだけじゃないのは確かよ、あの隊列何を狙ってるのか……」

 

 

 凜々子も周囲に警戒の視線を巡らせながら紗英と同様の表情を浮かべる。

 

 

「とりあえず寧はここまでの状況の報告頼むわ」

 

「ん、了解……」

 

 

 凜々子達が包囲網から離脱後深追いしなかったアンツィオは再度隊列を整えていたが、アンチョビは横転した車両の乗員に声を掛ける事を忘れてはいなかった。

 

 

「大丈夫か?怪我はしてないな!?」

 

「はいドゥーチェ、大丈夫です!」

 

「そうか良かった、でも無理だけはするんじゃないぞ。それで感触はどうだった?」

 

「それも大丈夫、着いて行けました!」

 

「うんそうか♪その調子で頼むぞ!」

 

「はい♪」

 

 

 やはりこの部下思いな処が、アンチョビがドゥーチェとして慕われる一番の理由だろう。

 そんな様子をスタンド上のまほは腕を組みうんうんと感慨深げに頷いていた。

 その表情は誇らしいような羨ましいようなもので、おそらくは自分には出来ない縁のない世界への憧れとかそんな感情からなのだろうが、もしまほがそんな行動を取ろうものならやられた隊員はよくて白目、最悪失神辺りが容易に予想出来る。

 

 

「しっかっし固定砲身だから仕方ないけどあのCV33ターンとかよくやるわよね!」

 

「あれはナポリターンじゃないですよ」

 

「え!?」

 

 

 一斉にイエローハーツに襲い掛かり、クルクルと狭いスペースで器用に回っていた豆洗車に呆れたような口ぶりのカチューシャに、それまでひたすらカルパッチョの動向だけを見守っていたカエサルがさり気なく指摘した。

 

 

「どういう事よ?」

 

「カチューシャ隊長も言っていたようにナポリターンは固定砲身の車両が射角の外を砲撃する為に編み出した技…と云うより苦肉の策って言った方が正しいか……とにかく基本的には後方の敵を撃つ為の高速の180度ターンがナポリターンであって、あんな横に滑りながら攻撃するなんて私達はひなちゃ…カルパッチョからは教わってません。アレってどっちかって言うと、厳島先輩が…AP-Girlsがやる技に近いんじゃないですか?」

 

 

 カエサルの解説で改めてその違いに気付いた者達は腕組みをして考え込んだ。

 ずっと掴みかねて来たアンチョビの意図する処が、今カエサルが言った事の中にそのヒントが隠されているような気がするのだが、まだそれを全て解き明かすにはパズルのピースが足りないらしい。

 しかしおぼろげながら何かが見えて来たのも確かであった。

 

 

「いずれにしてもアンチョビが、この試合の為に相当仕込みをしているのは間違いないですわね」

 

 

 ダージリンの視線の先、モニターの中ではアンツィオの隊列が再び獲物を求め動き始め、その姿はまさに猟犬を従えたハンターそのものであった。

 

 

『ラブ姉今どこにいるの?』

 

 

 イエロー・ハーツの救援に向かうと断言し住宅街の中を移動していたラブであったが、Love Gunが辿り着く前に小競り合いは終了し凜々子達は包囲網を突破し脱出した為に直接アンチョビの手の内を窺う機会を逸し、一瞬所在なげな表情になったラブの元へブラック・ハーツ車長の鈴鹿から居場所を問う無線が入った。

 

 

「え!?どこって……」

 

『どうせ凜々子の救援に行こうとしてたんでしょ?』

 

「……」

 

『まあいいわ、それより寧の報告は聞いてたわよね?』

 

「ええ、それは勿論」

 

『さっきの戦闘ね、私達ギリギリ最後の方直接目視してたのよ』

 

「えぇ!?」

 

『ナイス鈴鹿!』

 

 

 まるで合いの手のように凜々子が無線に割り込んで来た。

 

 

『で?何か気付いた事があったんでしょ!?』

 

『あの程度じゃ確証は得られなかったんだけどね…まあそれで確認の意味もこめて次は私達が仕掛けてみるからラブ姉はもうちょっと待機してて』

 

『そうね、それがいいわ。今度は私が観察に回ろうか?』

 

『ああ、それならいいわ、ちょうど今愛と合流したから』

 

「ちょっと!勝手に話進めないでよ!」

 

 

 ラブが堪り兼ねたように声を上げたが、二人はそれを無視してサクサクと話を進めて行く。

 

 

『じゃあ私は夏妃と合流して次に仕掛けようかしら?』

 

『おう、こっちはいつでもかまわねぇぜ…つ~か凜々子、おめぇら今何処にいんだ?』

 

『え~っとねぇ…伯良神社って云う小っちゃな神社の前よ』

 

『なんだ近ぇな、そこで待ってろすぐ行くわ』

 

『了解よ』

 

「アンタ達私の話聞きなさいよ!」

 

 

 夏妃まで加わり完全にラブ抜きで進む話に遂に爆発するが、彼女達は一向に堪えた風もない。

 

 

「聞いてるの?ねえ!?」

 

『聞いてるわ…でも今は私達に任せてくれる?』

 

 

 ここまで勝手に話を進めては来たが、拗ね気味のラブの声に鈴鹿が少し優しく諭して来る。

 

 

『気持ちは解るけどここは堪えてくれる?今日のラブ姉ははっきり言えば100%じゃないわ、それは自分でも解ってるでしょ?その状態じゃラブ姉にとって一番の難敵であるアンチョビ隊長相手にいつも通りの対応は無理。でもラブ姉には私達がいる、ここは私達を信じてその後に備えてくれる?』

 

「ラブ姉、私達もここ一番で全力で行くから今は鈴鹿達に任せよう、ね?」

 

 

 サイドハッチから抜け出た瑠伽が、砲塔に上りラブの肩を抱く。

 

 

「…わかった……鈴鹿お願いしていい?」

 

『ええ、少しだけどアンチョビ隊長の目論見が見えて来たからそれが正しいかどうか試してみる』

 

「無理だけはダメよ」

 

『了解』

 

 

 交信を終えたラブの頬に、瑠伽は良く出来ましたとばかりにキスをして車内に戻った。

 そして鈴鹿も先程までイエローハーツが格闘戦をしていた現場である灯台入口の交差点にブラックハーツを止め周囲の惨状を観察していた。

 交差点の角にあるコンビニは豆戦車の8㎜の流れ弾でウィンドウが真っ白になっている。

 

 

「ふ~ん、綺麗に横に流れてるわね……」

 

 

 ブラックハーツから降りて弾痕を興味深げに見ていた鈴鹿だが、何やら呟きながら他の場所の弾痕も確認した後にぐるりと周囲を見渡しひとつ息を吐くと再びコマンダーキューポラに収まった。

 

 

「ちょっと厄介な事になるかな……?」

 

「何よ?いつになく歯切れ悪いんじゃない?」

 

「まだ何が起きようとしているか断定するには不確定要素が多過ぎるのよ……」

 

 

 戻るなり難しい顔で呟く鈴鹿にサイドハッチから顔を出したブラック・ハーツ砲手の雪村瑠奈(ゆきむらるな)がその様子にらしくないと指摘したが、鈴鹿の方も只事実を答えるしかなかった。

 

 

「まあだからこそ仕掛けてみて答えを引き出すしかないのよ……」

 

 

 彼女にしては珍しいどこか自虐的な笑みを浮かべ肩を竦める姿に、瑠奈は片眉を上げ何か考えるような表情をした後、何も言わずにそのまま車内に引っ込んだ。

 

 

「そう、それが一番確実なのよ……愛!自分の役目…解ってるわね?」

 

 

 自分に言い含めるように呟いた後、鈴鹿は愛に向かい確認するように声を上げた。

 一方の声を掛けられた方の愛は、声を出す事なくひとつ小さく頷くのみだが鈴鹿はそれでよしとしたのかそれ以上は何も言わず、進発の号令を下した。

 

 

「Tanks move forward!アンツィオを追うよ!任務は情報を持ち帰る事、いいね!?」

 

 

 動き出した自車と並走するピンク・ハーツに目をやれば、ブラックハーツ同様開け放った砲塔のサイドハッチから車内の様子が見え、ピンクハーツの砲手である澤嶺彩華(さわみねあやか)がこちらの事は任せておけとばかりに小さく手を上げているのが見え、鈴鹿もそれを確認すると軽く頷いた後に視線を前に戻した。

 

 

「そうか、隊列を崩さなかったか……」

 

「ええ、豆戦車が襲い掛かってきた後本隊も素早く転進してこちらに向かって来たわ。でも本隊の方は様子見って感じで直接手を出そうって雰囲気じゃなかったわね」

 

 

 凜々子のイエローハーツは豆戦車の包囲網から脱出後、住宅街に紛れ込み小さな神社の境内で念の為車体に損傷がないか確認していた。

 そこに無線通信後ブルーハーツが夏妃の言った通り直ぐに到着し、二人揃ってイエロー・ハーツの被弾状況を目視点検しながら作戦会議を開いていた。

 

 

「本当に足回りに狙いが集中してやがるなぁ……」

 

「駆動系に噛み込まないかヒヤヒヤものだったわ」

 

「弾痕が綺麗に一直線だな……」

 

 

 凜々子は返事をしなかったが、夏妃もそれを見て何があったか実感したようだ。

 

 

「そういや林檎、直撃させたんだろ?」

 

「ええ、きっちり当てたわ…普通ならあれで終わりなのに……」

 

 

 砲塔サイドハッチから顔だけ出している林檎は、これ以上はない位に渋い顔をしている。

 彼女とてAP-Girlsで砲手を務める以上は絶対の自信と高い技術持っているし、事実これまでの試合でも凄まじい戦果を上げて来ているのは周知の事実だ。

 

 

「アレは実際目の前でやられると腹立つわぁ…ほんと詐欺みたいよ……」

 

「全国大会の大洗戦のDVD見ても冗談みてぇだもんなぁ……」

 

「やっぱりいつも以上にピンポイントで狙わないとダメって事ね」

 

 

 夏妃と林檎のやり取りに凜々子そう結論付け、その為にも次はもっと自分が的確に指示を出さねばと気合を入れ直す凜々子であった。

 

 

「でもよぅ、それ考えると大洗のアヒルさんチームのあけびってスゲぇな」

 

「ぷっ!」

 

「な、なんだよ!何が可笑しいんだよ!?」

 

「あはは♪ゴメン、夏妃ったら私達と同じ事言うんだもん」

 

 

 突如笑い出した凜々子に夏妃が噛み付きかけたが、理由を言われ彼女も笑い出した。

 

「なんだそうだったか…でもよあけびだったらAP-Girls(ウチ)でも余裕で通用すると思わねえか?スタイルは文句なしだし運動神経も相当良さそうだしよ」

 

「あ~!言えてる~♪」

 

「それとよ…磯辺先輩ってヤバくね……?ラブ姉じゃねえけどドキドキするっつ~かちょっとお持ち帰りしてナデナデしたくなるつ~かさ……」

 

「わ…解るわ……」

 

 

 突然の夏妃のお馬鹿な発言に赤くなりながら同意してしまう凜々子。

 同時刻、普通に授業を受けていたあけびと典子は寒気と共にくしゃみを連発していたという。

 

 

「と…とにかくだ、鈴鹿がああして仕掛ける以上は必ず何か結果を出すだろうからよ。それに続いてアタイらも仕掛けるかどうかを見極める為にも後を追った方がいいだろ」

 

「そうね、でももしやるとしたら仕掛けるのは私達イエローハーツがやるわ。修理したとはいえやっぱり今のブルー・ハーツは完調とは言い難いもの、今の段階で戦線離脱だけは避けたいからここは私の言う事に従って欲しいの」

 

「解った、ここは凜々子に任せる」

 

「サンクス、それじゃあ私達も行きましょうか」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 小さな神社の境内を出て狭い路地をすり抜けるように進むイエロー・ハーツとブルー・ハーツは、鈴鹿と連絡を取りつつアンチョビの狙いを探るべく追撃を始めた。

 

 

「動き出したか…だが彼女達は何かがいつもと違う気がするのだが……」

 

「そうね、それは決して気のせいではないと思いますわ」

 

「…してその根拠は……?」

 

 

 まほの呟きにダージリンが含みを持たせた物言いをした事に、彼女は即質問を重ねた。

 しかしダージリンはそんな事も解らぬのかといった感じにまほの顔をまじまじと見た後に、極めて簡素に得意の上から目線で言ってのけた。

 

 

()()()の勘よ」

 

「あのなぁ……」

 

 

 訳が解らぬといった風にまほが力なく言ったが取り澄ました表情のダージリンは、それを素っ気なく受け流し短く付け足しのように言うのだった。

 

 

「まほさん、もう少し女を磨きなさいな」

 

「なんなんだ全く……」

 

 

 試合を此処まで観戦したダージリンはそこまでのラブの様子と過去の記憶が一致したらしく、大凡ラブに何が起こっているかを理解しているようであった。

 これは付き合いも古く、過去互いにそんな場面に行き会った経験があったればこそ解る事であり、声を大にして言う事も憚られるのでダージリンも敢えてそんな物言いで受け流したのである。

 そしてアッサムもほぼ同時に気付いたようであり、互いに目配せで通じたようだ。

 

 

「Hey!鈴鹿がアンツィオに仕掛けるみたいよ!」

 

 

 まほがぶつくさ言っている処にケイが指差す先のモニターには、追跡したアンツィオの隊列に追い付き、脇道に飛び込み側面から襲い掛かろうとするブラックハーツが映っていた。

 

 

「あら?追走していたピンクハーツが離れたわね!?」

 

 

 カチューシャが指摘する通りピンク・ハーツは云わば一歩引いたポジションで、援護するようなそぶりは見せず様子を窺うように速度を落とし始めている。

 

 

「どうやら一歩引いて情報収集といった感じですわね」

 

 

 さすがこの辺はアッサムの観察眼は鋭く、鈴鹿が仕掛け愛が見切るという役回りを見抜いていた。

 

 

「あ、行くよ!」

 

 

 みほの叫びと共に鈴鹿がトップスピードのブラック・ハーツでアンツィオの隊列の中団を、ぶった切るように一気に駆け抜ける。

 

 

「うっひゃあ!す、鈴鹿かぁ!?」

 

 

 不意討ちで目の前を電光の勢いで通過されては、さすがに警戒していても即応するのは難しい。

 一方アンチョビの鼻っ面を掠めるように三保街道を横断したブラックハーツは、そのまま対面の砂利敷きの駐車場に飛び込み砂埃を巻き上げての凄まじいドリフトターンを決めて見せると、その勢いを殺す事なく再度アンツィオの隊列に襲い掛かろうとしていた。

 P40以外は固定砲身の車両で構成されるアンツィオにとって、側面からの攻撃は最も対応に遅れが出る場面であった。

 

 

「全速前進だぁ!」

 

 

 しかし意表を突かれたとはいえアンチョビもその先を読み、再度側面を突かれる前に部隊を急加速で前進させその危機を乗り切った。

 

 

「さすがに読まれたか!茉莉(まつり)!このまま道路と並走してアンツィオの隊列の前に出られる?」

 

「ちょっと揺れるわよ!」

 

 

 ブラック・ハーツ操縦手の藍坂茉莉(あいさかまつり)はそう叫ぶや激しく車体を振り回し、駐車場内を激走するとアンツィオの隊列をごぼう抜きにして先頭の豆戦車の群れの前に躍り出た。

 

 

「よし!このまま正面から突っ込め!」

 

「忙しいねぇ♪」

 

 

 茉莉は何処か楽しげに歌うように答えると、8mm重機関銃を掃射し始めたCV33の間に切り込んだ。

 

 

「突き抜けろ!」

 

 

 鈴鹿の号令と共に今度は縦にアンツィオの隊列を黒の大太刀(ブラック・ハーツ)が切り裂いた。

 

 

「鈴鹿のヤツめぇ無茶しやがる!」

 

 

 すれ違う瞬間鈴鹿とガンの飛ばし合いをしたアンチョビは、突き抜けた先でブラック・ハーツがドリフトターンを決めているのを見て、再び一直線に突っ込んで来る事を確信した。

 

 

「そうかそういうつもりか!ならば相手をしてやる!」

 

 

 アンツィオもまたアンチョビのハンドサインで隊列を組んだままドリフトターンを決めると、速攻で前後の隊列を入れ替え再び鈴鹿と正面から対峙する隊形を組んだ。

 

 

「ぺパロニ!カルパッチョ!三角定規を使うぞ!」

 

『了解!』

 

 

 日頃は人当たりの良い優しい光を湛えるアンチョビの瞳に強い光が宿る。

 それはスタンドにいるまほがこの三年の間欲し続けたものであり、そのアンチョビの姿が大写しになった瞬間まほは声にならない声を上げぽろぽろと大粒の涙を零していた。

 

 

『ふっ…この姫さんにゃ敵わんねぇ……』

 

 

 隣にいる英子はそんなまほに苦笑いを浮かべるしかない様子だ。

 

 

「さあドゥーチェ、出し惜しみしないでそろそろ手の内を晒して下さいませんか?」

 

 

 距離があろうともその剥き出しになった闘気は確実に肌に突き刺さって来る。

 それを感じ取った鈴鹿もまたその瞳に危険な光を宿しアンチョビを見据えていた。

 

 

 




う~ん三角定規作戦ってどんなんでしょうねぇ?
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