「
猟犬を解き放つ呪文と共に一斉に履帯から火花を散らし豆戦車が突撃を開始する。
『
無線機からアンチョビの檄が飛ぶ。
『行けぇ!アンツィオは温くない事を見せ付けてやれぇ!』
双方トップスピードでの突撃に彼我の距離はコマ落としのように縮まって行く。
ブラック・ハーツのコマンダーキューポラに収まる鈴鹿も矢継ぎ早に指示を出している。
「CV33とセモヴェンテは云わば目晦ましだから惑わされないで、本命はアンチョビ隊長のL3 ccだから……
正面衝突するような勢いで突っ込んで来たCV33の群れはギリギリの処で二手に分かれると、全車カニ走りでブラックハーツの両側面を足元目掛け機銃を乱射しながらすり抜けて行き、続くセモヴェンテ3両がブラック・ハーツの鼻先を砲撃しその行き脚を鈍らせる。
「来るよ!」
砲撃と共にCV33同様左右に分かれたセモヴェンテの背後から、アンチョビの乗機を先頭に接触ギリギリの間隔で楔形を形成したL3 ccが現れ、それを見た瞬間操縦手の
「やっぱりそういう事か」
「鈴鹿あれって……」
「そうよ……徹甲弾装填!撃て!」
轟音と共に徹甲弾が撃ち出されたがアンチョビも同時に砲撃命令を下しており、それに呼応した3両のL3 ccに搭載されたゾロターンS-18/1100全自動対戦車ライフルが同時に火を噴いた。
「くっ……!さすがドゥーチェって処かしら…?左!」
ピンポイントで3両同時に撃ち込まれた対戦車ライフルは、ブラックハーツの正面装甲に増加装甲代わりに吊るされていた予備の履帯を取り付け金具ごと撃ち砕いている。
その一方ブラックハーツが放った徹甲弾は、アンチョビの乗機の左側面の校章を削ぎ落としはしたものの有効打には程遠くギリギリで躱されていた。
そしてアンツィオの攻撃はそれだけに止まらず、最後方に位置していたP40から止めとばかりに砲撃があったが、これはどうにか回避する事に成功していた。
「さすがにこれはやられたわ……」
「マジで……」
「ええ、私達の
対大洗戦でAP-Girlsが初めて披露した隊列行動からのピンポイント同時砲撃はその破壊力で見る者を騒然とさせたが、火力面で他校に大きく劣るアンツィオを率いるアンチョビにとっては大いに興味を惹かれるものであり、結果としてそれはカルロ・ベローチェの対戦車型であるL3
しかしほぼ曲芸に近い戦法をこの短期間で修得したのは脅威に値する事ではあるが、これに関しては元々ナポリターンなどを多用し戦車を振り回す事には慣れっこなアンツィオの隊員達にとってさして難しい事ではなかったらしく、驚く程あっさりとモノにして行ったとアンチョビは後述している。
「この短期間でか……」
「そうね…でも只のコピーじゃなさそうよ、あの陣形はいくつか攻撃バリエーションがあると見た方がいいと思うわ。でもそれを全部試させる程私もお人好しじゃあないけどね……」
互いにすれ違い距離を置いた処でドリフト反転し、再び正対した隊列中団にいるアンチョビと鈴鹿の視線は激しい火花を散らしていた。
「安斎…オマエ……」
「お株を奪うとはこの事ねぇ…さすが千代美ちゃんだわぁ♡」
大洗戦以降アンチョビが何やら画策しているのを把握してはいたが、それがまさかAP-Girlsのピンポイント同時砲撃のコピーだとは思いもしなかったまほはその顔に困惑の色を浮かべている。
「絶対的な火力のないアンツィオにとってこれ程有効な手はないわね。しかも千代美ちゃんは相当アレンジを加えてより自分達向きに改良したようじゃない」
そう指摘する英子の表情は実に嬉しそうで、それは自分の見込んだ少女がその才を存分に発揮している事に喜びを感じているのが解るものだった。
「絹代、この一戦を最後までよく見ておけよ。必ずお前の糧になるはずだからな」
「はっ!心得ております!」
英子は優しい表情のまま慈しむように絹代の頭をひと撫でする。
撫でられた絹代もほんの一瞬くすぐったげな屈託のない少女らしい表情を見せ、チラチラとその様子を横目で盗み見ていたダージリンをドキリとさせる。
『こ…こんな表情今まで一度も…反則よ……』
少し怒ったような表情で俯くダージリンは耳まで赤くなっており、一連の様子をその隣で見ていたアッサムはその口元に実に人の悪い笑みを張り付けていた。
「第2ラウンドが始まるみたいね」
再びモニターに向けられた英子の視線は、既に上総の大猪に戻っている。
「ちょっと処か恐ろしく厄介な事になったわね、あっちは速射が出来る分脅威度も高いわ」
「で?どうするのよ?」
「取り敢えずもう一度だけ手合せして一旦引くのが無難かな……?さっき喰らった一撃がどの程度破壊力あるか確認したいしね」
『鈴鹿、援護入れようか?』
「ああ凜々子か、見てたのね?大丈夫、もう一回手合せしたら私もケツ捲らせてもらうから。愛にもしっかり観察させてるしその後合流して対策立てましょう」
『了解……手を引く瞬間だけ状況次第で介入するからね』
「ええ、それはお願いするわ……さて、もう一勝負ね」
鈴鹿のその一言を待っていたかのようなタイミングで、先鋒を務める豆戦車達のエンジンが唸りを上げ履帯から火花を散らしながら再び突撃を開始した。
「雅、連続装填行くよ徹甲弾と榴弾の順で最短でお願いね!瑠奈、初弾の獲物は真ん中のセモヴェンテよ!……よーし、初弾装填弾種徹甲!」
「装填完了!」
「撃て!次弾装填弾種榴弾!」
CV33の群れが最初の攻撃時と同様左右に分かれた瞬間を狙い、先制の一撃をセモヴェンテに浴びせ陽動の砲撃のタイミングを封じ込めると、距離が詰まる間に次弾装填を完了させた。
「まだよまだよ…撃て!」
攻撃タイミングを逸したセモヴェンテは、若干挙動を乱しそれがL3 ccとの連携にも影響が出た。
結果としてズレたタイミングで飛び出した3両の鼻先で榴弾が炸裂し、密集隊形を取っていただけに一撃で視界を奪われ、大量の榴弾の破片と抉られたアスファルトと土塊を浴びる事となった。
「う゛わ゛ぁ゛!しまったぁ!」
思わぬカウンターを喰らったアンチョビが慌てる隙に鈴鹿はスモークをぶちまけると、フル加速でアンツィオの隊列の間を駆け抜けて行った。
「お見事♪さあ、それじゃあ一旦下がって鈴鹿と合流しましょ」
「だな…っとそうだ、そろそろラブ姉も相手しないとな。これ以上拗ねると厄介だぜ」
「あう…そうだったわね……」
鈴鹿対アンチョビの対決を見守った凜々子と夏妃は、自分達のヘルプなしで最後まで乗り切った鈴鹿が無事に逃走するのを見届けると自分達も見つかる前にその場を後にした。
『フグ提灯……』
一度は納得して鈴鹿に任せはしたものの、そこは人間やはり感情と云うものがあり、合流したAP-Girlsがラブの下に戻った頃には頬を盛大に膨らませわざとらしく腕を組みソッポを向いていた。
『マジで拗ねてやがるし……』
『ほんっとメンドクサイ……』
『今時子供でもあんな態度取らないわよね……』
『……』
戻る早々面倒な事になっていてさすがの鈴鹿達も、思わずLove Gunのメンバーに抗議の視線を向けてしまったのだが、そのLove Gunのメンバー達も瑠伽を筆頭に全員が私達に言うなと反論の視線を投げ返していた。
「全くもう……ホラ、ラブ姉!いつまでも拗ねてないでコレを見て!ドゥーチェが何を企んでいたか一目瞭然よ、私達が身体を張って証拠を持ち帰って来たんだから自分の目で確認なさいな」
それでも暫くはLove Gunのコマンダーキューポラ上で膨れっ面で拗ねたふりを続けていたが、いつまでもそんな事をしていると、アンチョビと戦う時間がどんどん短くなるぞと瑠伽が呟くと如何にも渋々といった風に重い腰を上げた。
「見なさい、アナタならコレを見れば何が起こったか解るはずよ」
「…何よコレ……」
それまでのフグ提灯が一変して見る間に険しい目付きとなったラブの口から洩れた言葉に、鈴鹿は極めて冷静且つ短く答えを返す。
「見たまんまよ」
二人の視線の先、ブラック・ハーツの正面装甲に増加装甲代わりの予備の履帯の姿はなく、その代り装甲のど真ん中にはかなり深めのえくぼが刻み付けられていた。
「もう解ってるんでしょ?見事にやられたわ。単発でコレだもの、もし速射でやられてたらどうなってたか解ったもんじゃないわね」
「だってそんな……」
「固定砲身が殆どで振り回すのに慣れてるもの、この程度の事はお手の物だったんじゃない?」
「私も
「速射だと集弾率落ちるだろうがそれでもヤベぇだろうなぁ……オイ、引いた場所から見てたお前ならもっと色々解ったんじゃねえのか?どうなんだ愛?」
「……少なくとも瞬間的に入れ替えられる攻撃手順は三つ、フェイントを交えればその倍はあると思う…アンチョビ隊長はウチのミニカイルを完璧にコピーして更にアレンジを加えて運用してる……」
「…さすがは千代美って事か……」
ラブはブラックハーツに刻み付けられた現実を凝視したまま短く呟く。
「大洗戦でお披露目してからこの短期間っでよくもまあって感じよね。で?どうするのラブ姉?あれだけハムスターみたいに頬膨らませてたんだ、今更後宜しくとかはナシよ?」
「愛、この時P40がどうしていたか教えて」
鈴鹿のおふざけ混じりの挑発とも取れるような物言いには答えず、ラブは相変わらず弾痕を凝視したまま無機的な声で愛に質問を投げた。
「……ブラック・ハーツがダッシュしてギリギリ届かない距離を常に保ってた…あの距離なら懐に飛び込む前にギリギリで横槍を入れて回避出来ると思う……」
このやり取りを見ていた鈴鹿は独り静かにほくそ笑む。
『やっとアイドリングも終わったか、この様子なら大丈夫そうね……さてどうする、厳島恋?』
ここでやっと弾痕から視線を外し立ち上がったラブは、周囲に集まるAP-Girlsの少女達を見回す。
その表情は完全にAP-Girlsのリーダー、笠女戦車隊の隊長の顔になっていた。
「フィニッシュブローの本命はやはりP40よ、千代美は目を自分に引きつけておいて最後はP40で仕留めに来る。聞いた限りじゃ向こうは余裕でこちらを仕留められる距離をキープしてるわね。やっぱり千代美は喰えないわ、堂々と自分を餌にして一本釣り狙いで仕掛けて来るんですもの、ホント図々しいったらないわよね~」
「いや…それラブ姉にだけはアンチョビ隊長も言われたくないと思うよ……?」
「それどういう意味よ~?随分な言い草じゃな~い」
「そのまんまだけど?」
ラブの我を省みぬ発言に即座に鈴鹿が突っ込みを入れたが、彼女には本気で皮肉が通じていないからタチが悪かった。
しかし一見ラブとアンチョビ同様行動が図々しく見えて全てが計算ずくな鈴鹿からすれば、この二人の行動は完全に理解の範疇を超えるものが多い。
だがそんなラブだからこそアンチョビの仕込の裏も読み取れるのかもしれないと、鈴鹿は口を尖らすラブを見ながらふと思うのであった。
「ふぇ…ふぇ……ックシっ!」
「大丈夫ですかドゥーチェ?冷えたんじゃないですか?」
「わ…解らん、なんか急に鼻がムズムズした……」
「風邪っスかぁ?姐さんが風邪とか変っスねぇ?」
「だからオマエだけには絶対言われたくないわ!」
鈴鹿に噂された頃盛大にクシャミをしたアンチョビに、ぺパロニが最早ルーティーンないらん事を言って怒らせていた。
「ったく…コイツは……いいか!この手が有効な事は証明出来た、このまま隊列行動でAP-Girlsを追うぞ!だが連中も馬鹿じゃない、次は必ず隊列を組んで仕掛けて来るぞ!そしてそこからが本当の勝負だ、決して気を抜くんじゃないぞ!」
「いやあ馬鹿なのは──」
「黙れ!オイ、カルパッチョ!この気の抜けた
全然懲りてないぺパロニをこめかみにバッテン浮かべて怒鳴り付けたアンチョビは、肩で息をしながら頭を掻き毟っていた。
「ふ~ん…AP-Girlsも隊列行動に移ったか、お姫さまもやっとエンジンが掛かったって処かねぇ?」
「成る程、アンツィオの攻撃陣形は厳島殿の与一の陣の亜流という事だったのですなぁ」
「与一の陣?何だそれは?」
やっと動き出したAP-Girlsを見た英子の口から洩れた言葉に続き、絹代の口からも聞き慣れぬ言葉が零れ落ちて、その瞬間絹代は周りの注目を一斉に集める事になった。
「え?ああいや、別に大した事ではありませんよ。ほら、あのAP-Girlsが組んだ極端に間隔の狭い楔形の陣形の事でありますが、私共と訓練していた頃にその精密さと破壊力から知波単では那須与一の弓に準えて、与一の陣と呼んでおっただけの事です。まあ初期の頃は練兵場の荒れ地であれをやって最高速で接触して横転とか色々ありましたなぁ」
「What's!?何よソレ!危なっ!」
ケイが驚きの声を上げているが隣でずっと腕を絡めているダージリンは、その相手であり黒髪も美しい少女の顔をマジマジと見上げていた。
『この子は一体どの程度AP-Girlsに関わっているのかしら……?』
常に屈託なく快活に笑うこの少女は、自分とは違い裏表などのない只々愚直なまでに真っ直ぐな人間だと思っていたが、ある意味では聖グロ以上の政治的伏魔殿な知波単で隊長を務めるからには無能であるはずもなく、更迭人事と噂はあるが2年にしてその職にあるという事はむしろ相当な傑物と考えた方が妥当な評価といえるであろう事にダージリンは思い至った。
考えてみれば名門中の名門西家の御令嬢であり、知波単自体も学校としてのレベルは高くただお金を積んで名前が書ければ入れるような学校ではない。
そこで隊長を務めるとなれば只者でないのは当然であり、なぜ今までそんな当たり前の事に気付かなかったのかと面には出さぬもののダージリンは内心愕然としていた。
考えてみればヒントも其処此処に転がっていた訳であり、中でも最大の物は自分も中学時代にラブの榴弾暴発事件以降面識がある元知波単の隊長敷島英子であった。
後に彼女とアッサムが調査した処この敷島英子なる人物は、隊長としては間違いなく怪物クラスの存在であり、その英子がこれ程までに目を掛ける絹代が確かに天然ではあるものの凡庸な指揮官であるはずもなかったのだ。
「絹代さん、あなたは一体……?」
「ん?如何されましたかなダージリン殿?」
「……!な、何でもありませんわ!」
内心の呟きがつい口から洩れたダージリンの声に絹代が即座に反応し、完全に油断していたダージリンはその真っ直ぐな瞳に些か捻くれ過ぎなハートをいともあっさり撃ち抜かれて、慌てて顔を背けたがまたしても耳まで見事に赤くなっていた。
『またちょっとダージリンが面白いぞ……』
一同の温い視線がダージリンに集中する中、まほがふと視線をみほとエリカに向けると二人揃って携帯で動画を撮っており、空いている手で同時に親指を立てていた。
「まあそんなこんなで編み出した与一の陣を、ああして体得して来たアンチョビ殿もやはり只者ではないのですなぁ、いや恐れ入りました」
アンチョビを褒められ途端にまほが上機嫌なドヤ顔になる。
『仮にも黒森峰の隊長がそんなに解り易くていいのか?』
全員にクスクスと笑われているがまほは全く気付いてはいなかった。
「お、双方とも増速しましたな、これはいよいよ勝負に出たという処ですかな?」
絹代の聡明な瞳に好奇の光が宿る。
それは間違いなく彼女が戦車乗りである証ともいえる輝きであろう。
「面白い……面白いわ千代美!さすがにそう来るとは思わなかったわよ、でもいいわ全力で相手してあげる!だから千代美も本気で私を蹂躙しに来るのよ!」
接触寸前の間隔で楔形の隊形を組む5両のⅢ号J型の先頭を疾走するLove Gun上のラブは、いつものポニーテールと違い、アンチョビのプレゼントである黒のリボンで彼女と同じツインテールに結った深紅の長い髪を走行風に踊らせている。
そして熱に浮かされたような狂喜の光を瞳に宿し進む姿は、嘗てダージリンをして魔女と言わしめたそれであり、見た者を狂わせるのではと思わせる程の妖気を放っている。
『まあこの調子ならもう大丈夫だとは思うけどねぇ…ラブ姉はどうしてこう一度火が付くと変態度が上がるんだろ……?』
Love Gun砲手の瑠伽は砲塔サイドハッチを開き、そこからコマンダーキューポラ上で髪を風にうねらせているラブを見上げる瑠伽は、微妙な表情を浮かべそんな事を思っていた。
『しっかしまるでメデューサだねどうも……』
走行風に髪をうねらせるラブをギリシア神話に登場する毒蛇の髪を持ち、見た者を石に変えてしまう怪物であるメデューサに例えていた。
『そういやメデューサは女王って意味もあったんだっけ……』
「ん?何よ瑠伽?」
「何でもない……」
別にラブと目を合わせたからと言って石にされる訳ではないが、瑠伽は視線を逸らすとサイドハッチを閉じ砲塔内に引っ込んで行った。
別にラブの狂気に怖気付いた訳ではない。
瑠伽もまたその肌で時が来た事を感じ取っていたのだ。
「ラブ姉!履帯音接近!来やがるぞ!」
今回は凜々子のイエローハーツと共に二列目に入っているブルー・ハーツの夏妃が、地獄耳を発揮しアンツィオの接近を告げる叫びを上げる。
「ええ、聴こえているわ…でももう街道を行ったり来たりのすれ違いにも飽きたわね。私はもっと広い場所で千代美と熱い抱擁を交わしたいの……」
コマンダーキューポラ上のラブは情熱的な声でぎゅっと我が身を抱き締めた。
無線から聴こえたそのラブの艶めかしい声にAP-Girlsの少女達は全員ゾクリとその身を震わせた。
『オイ凜々子!ヤベぇって!ラブ姉もうフェロモン出始めてるだろぉ!?』
『毎回症状が違うんだもの把握しきれないわ!』
接触ギリギリで併走しているとはいえ直接会話するとなれば大声になるので、会話をラブに聞かれたくない夏妃と凜々子は声を出さず唇の動きを読み合い会話していた。
『アタイらはともかく瑠伽達が最後まで持つかぁ!?』
『私にも解らないわよ!』
夏妃と凜々子が振り返ると、鈴鹿は肩を竦めふるふると左右に細かく首を振り、愛も無言且ついつもと変わらぬ無表情ながらその顔色はそれと分かる程青ざめている。
そもそもが夏妃の言うフェロモンとは何なのか?
月に一度の女性特有の苦しみの期間、これはさすがラブと云うべきなのか、彼女はこの時期だけ美女や美少女のみを惹き付ける謎のフェロモンを大量に放出し始めて、あまり傍にいると完全に中てられ骨抜きにされたり歯止めが効かなくなったり何かと大変なのであった。
『アレは安定したんじゃなくて単に熱に浮かされてテンションが高いだけなのか……』
凜々子は疲れの色の浮かんだ座った目付きで、我が身を抱き締め妄想全開の独り芝居を続けるラブの背中を見ている。
その動きは異常なまでに艶めかしく、観戦エリアでモニターに見入る観戦客の間にも戦車道の観戦では聞く事の無い種類のどよめきが起こっていた。
「アイツは一体何をやっているんだ……?」
呆然と呟くまほであるが頬には朱が奔り、鼻の奥にツーンと熱いものを感じるらしく鼻を押え首の後ろをトントンとやっているが、それは周りの者も同じらしくまほと同様にしていた。
「そうだわ……工場区画に閉鎖された火力発電所の跡地があったわね。あそこに千代美を引き摺り込みましょう、あそこならどんなステップでも踊れるわ♪」
妖艶な独り芝居を続けていたラブの動きが止まったと思うと、突如として思い付いた戦闘プランをゾクゾクする程熱の籠ったハスキーボイスで歌うように無線で指示を始めた。
どうやら身を捩る間も頭の中の立体地図で、何処で戦うのが最適かシュミレートしていたらしい。
「みんないいかしら?もう間もなく会敵するけどCV33が突撃して来る直前のタイミングで、隊列そのまま180度のスピンターンを敢行するわよ。そしてそのまま全速力で新清水火力発電所の跡地に突入よ…大丈夫、アンツィオの脚ならついて来るわ、それに千代美なら喰らい付いて絶対に離さないから遠慮せずぶっ飛ばすのよ♪後はもう解るわよね?何か指示を出すまでは好きに暴れなさい、厳島の本領を千代美にたっぷりと味あわせてあげましょう♡」
それは一種の催眠術といってもいいだろうか、ラブの歌うような指示を聞くうちにAP-Girlsの少女達の表情が獰猛な肉食獣のそれへと変わって行く。
しかも今日に限って言えばラブの発するフェロモンのせいか、いつも以上に変化が激しいようだ。
そしてそれに伴いラブの表情も妖しくも美しい、そして恐怖すら覚える程の魔女の顔になる。
『姐さん!見えました!』
先陣を切る豆戦車群からアンチョビに向けAP-Girls視認の無線連絡が入る。
このアンチョビが編み出した攻撃陣形は、目の前でセモヴェンテが鋼鉄の壁を築く為に3両のL3 ccはほぼ視界を奪われていた。
だがこの状況で速度を落とさず隊列も乱さぬアンチョビ達の技量と度胸は称賛に値するものだ。
観測車役の車両から詰まって行く彼我の距離の報告が続き、アンチョビは目を閉じ猟犬を突撃させるタイミングを読んでいる。
そしてトップスピードに乗せワンダッシュで届く距離に到達する直前、アンチョビが大きく目を見開き突撃命令を下そうとした。
「よぉ~し…assal──」
『ア────ッ!』
「とぉ~って、どうしたぁ!」
しかしまさにその突撃命令を声高に叫ぼうとした瞬間、観測員が絶叫を上げ機先を制されたアンチョビは些か間の抜けた声で状況の報告を求めた。
『AP-Girlsが高速でスピンターンして逃げましたぁ!』
「なんだとぉ!?追え!ここで逃がすなぁ!」
アンツィオの隊列が視界に入りその距離がどんどんと狭まる中、ラブは腕組みをしたまま妖艶な笑みを浮かべセモヴェンテの壁の向こうにいるアンチョビに視線を据えていた。
そしてそのアンチョビが先陣の豆戦車達に攻撃命令を下そうとした直前、先手を取るようにラブがAP-Girlsに転進の指示を下し、隊列を崩す事なく全車が一斉にフルブレーキングからの荷重移動でそのまま履帯から火花を散らしながら180度のスピンターンを敢行、ターンを終えると更に激しい火花を上げながらの急発進で一気に走り去って行くのであった。
「くっそぉ、ラブのヤツ突撃タイミングを読みやがったなぁ…大方スペースのある場所に逃げ込んで格闘戦に持ち込むつもりなんだろう。まあいい、ここは乗ってやるさ……オイ!AP-Girlsはどっちに向かっている!?」
『あ、姐さん!AP-Girlsは今三保北の交差点を右折しましたぁ!』
アンチョビも頭の中でその先に何があるかを考え、即座にラブの目的地を特定すると無線で全車に向いそれを伝え追撃の指示を下す。
「いいかよく聞け!AP-Girlsの目的地は火力発電所の跡地だ、そこでスペースを確保して格闘戦を仕掛けて来るぞ!だが恐れるな!教えた通り、練習した通りにやればいいだけだ!いいな!?」
アンチョビの檄に全車から歓声が上がりAP-Girlsを追う脚に更に鞭が入った。
「ラブ…一気に決着を付ける気か……?」
いよいよ策士同士の本格的な手の内の読み合いが始まったのか、アンチョビの口角も吊り上がり牙を剥き、いつもは優しい瞳も目の前の者を射殺しそうな程に鋭くなっている。
「うふふ♪必死に喰らい付いて来てるわね、さすが千代美だわ♡」
チラリと背後に目をやったラブは、獲物を追い詰めようと疾走する猟犬の群れにほくそ笑むと、視線を戻し見えて来た目的地への侵入ポイントを見繕い始めた。
「うん、やっぱりあのゲートが一番手っ取り早いわね……瑠伽この先一番最初に見えるゲート吹き飛ばしちゃってくれる?」
「了解よ」
「お願いね…美衣子、榴弾装填!瑠伽行くよ……撃て!」
砲撃音が周囲の空気を揺るがすと共に、閉鎖後は閉ざされたままになっていた新清水火力発電所の鉄製のゲートが吹き飛ばされ、その直後には一切減速することなく隊列を組んだままのAP-Girlsが派手なテールスライドを決めながら発電所跡地に飛び込んで行った。
「ここで勝負がつくのかしら?」
「さあなぁ…ナニしろラブと安斎の試合はこれで決まったろうって場面から、平気で戦局覆すようなとんでもない大技を繰り出して何回でも試合の流れを引っ繰り返すからなぁ」
ダージリンの若干嫌そうなニュアンスを含んだ声に、まほの答えも何処か溜め息交じりに聞こえる語り口であり、どちらも絶対ここでは決着がつかないであろう事を予見しているらしかった。
「昔一度試合中に日付が変わった事あったわよね……」
そう言うカチューシャは酢でも飲み込んだような表情をしており、その隣のノンナですら心底嫌そうな顔で小さく首を振っている。
「あの試合は日暮れ前に双方燃料弾薬が尽きて、試合中に補給部隊が投入されたのよね……そんな話他に聞いた事がないわホントunbelievableよ!」
腕組みしたケイもその表情は相当に渋く、どうやら全員その試合を生で観戦していたらしかった。
「ああ、あの試合か……あの試合時間は昔のルールが明確に確立していなかった時代は別にして、今の時代の試合じゃ確か最長記録なはずだぞ?」
『えぇ!?』
「ん?なんだお前達知らんかったのか?まあ中学戦車道の記録はあまり表に出て来ないから無理もないか…それに公式戦じゃないから記録もよっぽど掘り下げてみないと解らんしなぁ……」
英子の口から出た驚きの事実だが、この世代は中学時代も含め過去に色々と記録を残しているが意外と本人達が気付いていない、もしくは全く気にも留めていないものが実は結構あるのだった。
「まぁあの試合は夏場だったが、さすがに今日やられたら辛いものがあるな」
いくら清水とはいえ12月も後半となればそれなりの冷え込みであり、観戦エリアに展開するアンツィオと笠女の出店でも温かい物が飛ぶように売れているのが見ているだけでもよく解る。
「あ、アンチョビさんも来たよ…ラブお姉ちゃんが何処に向かったか解ってるみたいだね……」
「あの程度の事はお二人共お互いにお見通しなんじゃないかしら」
みほの考えにエリカが補足するように言葉を添える。
その意見に全員が同意と頷く中、遂に後追いのアンチョビも発電所跡地に到着し勢いそのまま一気に雪崩れ込んで行く。
「いようラブ、今日は随分と消極的だったがどうしたぁ?」
ハッチから身を乗り出し片脚をそのハッチの縁に掛け、腕組みをしてニヤリと笑いながらアンチョビはラブに挑発のセリフを放っている。
「あら挑発?挑発なのね?私これから千代美に荒々しく蹂躙されるの?されちゃうのね!一体どんな目に遭わされるのかしら?あぁ……ゾクゾクするわぁ♡」
再びその身を抱き締めうねうねし始めたラブの流し目がアンチョビを直撃する。
まだ事情を知らぬアンチョビは真っ赤な顔で思わずわたわたとしてしまう。
「おおおおオマエ何を訳の解らん事を言っておるのだぁ!」
狼狽えたアンチョビは思わずラブを指差しながら虚勢を張るように大声を上げている。
「んふふ♡可愛いわ千代美…なんて美味しそうなのかしら……」
ラブの瞳は熱を帯び危険な光を宿している。
アンチョビはこの窮地を果たして乗り切る事が出来るのであろうか?
いよいよ策士同士が正面切って激突する瞬間がやって来た。
R指定の戦車道の試合ってどうだろう……?
遂に発動した三角定規作戦は、アンツィオっぽくしたつもりですがどうでしょう?
でもこの作戦、失敗するとしたらぺパロニがやらかす以外の要素が見付らないw