ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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ごっぢみでるぞお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛♪

しほさんが出て来てそれっぽく戦訓やら語ってくれると、
話もそれっぽくなるので結構楽かも♪
戦闘の方もいよいよ佳境に入ったかな?


第五十四話   う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!

「お母様!菊代さんもまたですか!?」

 

「んも~!そんな恰好で何やってるのよ恥かしい!大洗の時後でみんなに笑われたんだからね!」

 

 

 大学選抜戦最終局面の時のような姉妹の連携を見せ、西住流家元であり母である西住しほにまほとみほが詰め寄るが、しほに動じる様子はなく寧ろこの娘達は何を言っているのだといった表情をしており、背後に控える()()の菊代は例によって真面目に面白そうな顔をしていた。

 

 

「菊代さん!お願いですからお母様を焚き付けて楽しまないで下さい!」

 

「あらそんな人を黒幕のように仰らないで下さいまし♪」

 

「事実でしょう!」

 

 

 相変わらずの話の通じなさに、まほは髪を掻き毟りながらドスドスと脚を踏み鳴らしている。

 

 

「全くもって騒がしい……大事な娘二人の試合、母が見ずして誰が見るのです?」

 

「うがががががぁ!だから誰が娘二人だ誰がぁ!」

 

 

 幼少期に一時的とはいえ母親代わりを務めたラブはともかく、既にアンチョビまで平然と娘扱いするしほにいよいよまほがぶちギレる。

 しかしそんなまほを余所にその背後で面白そうにしている英子に気付いたしほが、そちらに視線を向けると英子も面白そうな顔を隠そうともせずしほに挨拶を始めた。

 

 

「家元様、先日は御世話になりました。今日は二人の応援に?」

 

「ええ、()()()娘二人の対戦ですから。敷島様も千代美さんの応援に?」

 

「ええ、()()()妹の試合ですから」

 

 

 実に和やかに会話を弾ませる二人とその傍らで取り澄ました表情で状況を楽しむ菊代。

 おまけに終始にこやかな空気の読めない天然少女の絹代と、これ以上はない野次馬根性丸出しな顔のダージリンに、怒りに震えるまほが何度も指を突き付けるがキレ過ぎて言葉が出ないようだ。

 その隣にいるみほは過呼吸気味のまほを落ち着かせようとしているが、例によってあわあわするのみであまり効果は上がっていない。

 

 

「と、とにかく!そんな悪目立ちする姿でうろつかれたら迷惑です!我々と一緒に来て頂きます!」

 

 

 それから少しして漸く呼吸の落ち着いたまほが、しほと菊代に叱りつけるような感じで言い渡しスタンドに連行しようとすると英子に引き止められ当初予定のピザの荷物持ちにされていた。

 

 

「すまないなエリカ……」

 

「いえ……」

 

 

 人数が人数なのとしほも資金提供した為に、カットではなくホールで何枚も注文したので量が多く見かねたエリカも手伝いに降りて来ていた。

 

 

「申し訳ありません、家元にまで資金提供して頂いてしまって」

 

「食べ盛りの戦車道選手が揃っていますからね、これでも足りるかどうか……」

 

 

 しほと英子の前を行くまほ達は、手分けして積み上がったピザの箱を抱えスタンドを登って行く。

 太っ腹な大人二人が用意したピザの量に単純な女子高生達は大喜びだが、またしても大恥をかいたまほはイライラが止まらずヤケ食い気味にピザに噛り付いていた。

 

 

「ええい!来るなら来るで普通に来ればよいものを!お母様!試合終了までそこで大人しくして貰いますよ?だから菊代さん!あなたもです!大阪のおばちゃんじゃないんですからアメちゃん配ったりとか止めて下さい!」

 

 

 念の為に二人を自分とみほの間に座らせたまほは、遠慮なくゲラゲラと笑う英子が腹立たしいが面と向かって本人にそれが言えない自分が更に腹立たしいのであった。

 

 

「それとダージリン!オマエもいつまで笑ってるつもりだ!?」

 

 

 しかしそれがダメを押す形となり、ダージリンは膝をバシバシと叩きながら笑っている。

 朝から英子のせいでストレスが溜まり放題だったまほだが、どうも今がそのピークなようだ。

 

 

『今日は最後まで腹筋が持つだろうか……?』

 

 

 他の者達も無駄に腹筋に試練を課されながら、その馬鹿親子のやり取りを見ていた。

 

 

「隊長、大丈夫ですか?」

 

「あ?ああ…度々済まないなエリカ……」

 

 

 今はまほの様子を案じて隣に座ってくれているエリカが、湯気と共に良い香りの立ち昇るコーヒーが淹れられたカップを差し出して来た。

 その馥郁たる香りからそれは直ぐにダルマイヤーの逸品と解り、どうやらエリカがまほとしほがやり合ううちに彼女の為に笠女の出店から調達して来た物らしかった。

 

 

「ふう…全く何をやっているんだ……」

 

 

 香りの良いダルマイヤーを一口啜るだけでも随分と気持ちが落ち着くのが解る。

 ひとつ小さく息を吐いたまほは自分の為に甲斐甲斐しく動いてくれたエリカに礼を言った後、視線をモニターに向け改めて戦況を確認した。

 両校共に今も点検整備を続けており、特にクローズアップで映されているAP-Girls側のブラック・ハーツはゲペックカステン(荷物箱)を吹き飛ばされた事もあり砲塔周辺の点検を念入りに行なっている。

 

 

「どう?大丈夫そう?」

 

「そうね、一通り確認したけど砲塔自体には問題ないわ…ただ工具やら食料やら根こそぎやられたのが痛いと云えば痛いわね……」

 

 

 心配げな表情のラブに問われた鈴鹿は砲塔の目視点検と簡単な打音検査を終えると、車体から飛び降りラブの傍に歩み寄りながら報告を行なっていた。

 新清水火力発電所の跡地を脱出したラブ達は、そこからそれ程遠くない旧国鉄の清水港線三保駅跡地に作られた公園内に潜伏していた。

 園内には嘗て貨車を引くのに活躍したであろう黄色い小さなディーゼル機関車と、それだけでは寂しかろうとでも云うようにタンク車がお供のように展示されている。

 合流した二人が見上げるブラック・ハーツの砲塔はゲペックカステンを失い後部の張り出しがないせいか妙にバランスが悪く見え、おまけにただの荷物箱でしかないゲペックカステンなのに何故かそれがないだけでとても頼りなく見えてしまうのであった。

 

 

「食料は今常温で大丈夫な物を各車から少しづつ集めてるからそれで凌いでくれる?」

 

「まあそれを口にする前に試合を終わらせられればそれに越した事はないんだけどね」

 

「うん、そうね……でもここまでお互い一本も白旗が揚がらないとは予想もしなかったわ」

 

「タンケッテが大洗戦の頃より受け身が上手くなってるわよね、フラッグ車も仕留めたと思ったんだけどなぁ…まさか飛び蹴りで元に戻すなんて思いもしなかったわ……」

 

「千代美ぃ……」

 

 

 女の子らしからぬ豪快な飛び蹴りの一撃で、横転した戦車をアンチョビが元に戻した事を鈴鹿に言われたラブは、涙目の下がり眉毛で困った顔をしていた。

 

 

「それにしてもよくもまあこれだけ小傷だらけになったもんねぇ…ブラック・ハーツに関しちゃゲペックカステンより最初にやられた正面装甲の方が問題かな?次に同じ事やられたら結構ヤバいかもね……夏妃!ブルー・ハーツの足回りは大丈夫?」

 

 

 鈴鹿は序盤に転輪と履帯をやられなんとか修理をして戦線復帰を果たした夏妃に、ブルー・ハーツの現状を確認する。

 

 

「普通にやる分には問題はない……ただ徐々にパフォーマンスは落ちてる。まだ暫くは何ともないように見せかける事は出来るが、berserkerとか仕掛けるのは無理だな、まず1分と持たねぇよ」

 

 

 対大洗戦で見せた戦闘機動術の名を出した夏妃だが、通常の運用なら何とかなるものがberserkerを発動すると耐えられないと言い切った。

 通常の機動でも他校に比べ遥かに激しいAP-Girlsだが、例えそれに耐えられてもberserkerは無理という事はそれ程までに負担の大きい技という事なのか。

 AP-Girlsが使用するⅢ号J型は徹底的に無駄を排するチューンが施され、同じⅢ号でも対抗しうる車両は恐らく何処にもいないと思われるが、ピーキー且つギリギリのセッティングの代償として各部にかかる負担が大きくナーバスな側面も併せ持つマシンなのであった。

 

 

「ごめん夏妃……」

 

「別にあれはラブ姉のせいじゃねぇよ、あの状況は○×ゲームみてぇなもんだからそんな事気にしてたら砲戦なんざ出来ねぇよ。それより問題はやっぱりあの豆戦車だな、引っ繰り返ったフラッグ車が生き返るなんて今まで見た事も聞いた事もねぇよ」

 

 

 大洗のあひるさんでも何とかなる豆戦車だが、その大洗戦の頃より更に受け身が上達し被弾直前に微妙に姿勢制御を入れて勢いを殺すので、例え何度転がっても平気で復活しこれまでの処AP-Girlsが行なった攻撃は実質全て無駄弾となっていた。

 

 

「とにかくアレを何とかしないとこっちが一方的に消耗するだけだわ」

 

 

 各車から分けて貰った物資の中で、アンツィオからの差し入れのフォカッチャを口に運ぶ鈴鹿の視線の先にはすっかりみすぼらしくなってしまったブラック・ハーツがあり、戦果と損害を天秤に掛けるとその収支は完全にマイナスであり、故に鈴鹿の表情も非常に渋くなっていた。

 だが鈴鹿のブラック・ハーツに限らず他の車両達も、CV33の徹底した足回り狙いの攻撃で既に何度となく8㎜弾を履帯と転輪や駆動輪の間に噛み込んでおり、微細なダメージを蓄積しつつあった。

 

 

「ラブ姉ちょっといい?」

 

 

 改めてアンツィオの豆戦車対策を論じている処へ、イエロー・ハーツの点検を終えた凜々子が駆け寄ると午前中と同様にラブの首筋から胸元にかけ鼻を這わせた。

 

 

「きゃ!?ちょっと凜々子!」

 

「うん、大丈夫そうね。もう熱も平熱に下がってるわ」

 

 

 再び凜々子に健康診断を行なわれたラブは、真っ赤になりながら凜々子を引き剥がしている。

 

 

「だから何であの子はアレでそんな事が解るワケ?」

 

「アタイに言われても知らねぇよ!だけどアイツあれで脈やら血圧も解るんだよ……」

 

「ねえ夏妃、アナタもなんでそれを知ってるの……?」

 

「う、うるせぇ!なんだっていいだろうがぁ!」

 

「やって貰ったんだ…やって貰ったのね?凜々子にああやってお熱計って貰ったのね?」

 

 

 人の悪い表情になった鈴鹿が、小柄な夏妃に合わせるように屈み込んでその顔を覗き込みながら実に嬉しそうに夏妃を弄り始めた。

 

 

「ば、馬鹿野郎!そんな訳あるかぁ!」

 

「別にそんな必死に誤魔化さなくてもいいじゃない♪この鈴鹿お姉さんにもどんな感じだったのか詳しく教えなさいよ♡」

 

 

 しつこく絡む鈴鹿の追求から逃れようとする夏妃だが、腰に回された手はそれを許さない。

 

 

「いい加減にしやがれ!今はそれ処じゃねぇだろうが!」

 

「うふふ♡つれないわねぇ、まあいいわ、今夜にでも改めてじっくりと聞かせて貰うから♪」

 

 

 厄介なヤツに目を付けられた、そんな表情の夏妃は肩で息をしている。

 状況的に考えれば不利であるにも拘らず、彼女達にとってこの程度の事はピンチのうちに入らないのか至ってのんきに振る舞う姿がそのタフさを表していた。

 

 

「あの金髪を編み込んだお嬢さんが恋の良い人なのかしら?」

 

 

 それまでは大人しくモニターに映るラブ達の様子を見ていたしほだったが、凜々子がラブの()()()()を行ない黄色い歓声を耳にして何の捻りもない感想を漏らした瞬間、スタンドに陣取っていた者達は一斉に雪崩のように座席からずり落ちた。

 

 

『家元直球過ぎだろう!?』

 

 

 危うくスタンドから転がり落ちそうになった者達が、口には出さぬがそう突っ込みつつ打ち付けた腰やらをさすったりしながら座席に戻ると、不思議そうな顔のしほがダメ押しのボケをかます。

 

 

「あら違うの?それじゃあ2号さんかしら?」

 

 

 身も蓋もない発言に新喜劇並のリアクションでコケた一同の視線が自然と西住姉妹に向かうと、二人は物騒な目付きで母であるしほを睨んでいるが一向に動じる様子は感じられない。

 

 

「エリカ…箒の柄(モーゼル)か何か持って来てないか……?」

 

 

 ブルームハンドル(箒の柄)とあだ名される、独特なグリップ形状を持ったドイツ生まれの軍用拳銃の名を上げたまほのこめかみには特大のバッテン皺が浮かんでいる。

 

 

「隊長……」

 

 

 エリカは何処か疲れた様子でそう言うのがやっとであったが、反対側ではみほがイギリスの将兵からポテトマッシャー(じゃがいも潰し器)とあだ名された、M24型柄付手榴弾のピンを抜こうとしていて周りの者が青い顔で抑え込んでいるのが見えた。

 

 

「あ!アンチョビが動き出したわよ!」

 

 

 暴れるみほを抑え込むのに巻き添えで潰されかかっていたカチューシャが、どさくさでみほの可愛いたわわに押し付けられているのを良い事に、その感触を堪能しながらもアンツィオが再び動き出したのに気付きモニターを指差している。

 皆が視線をモニターに向けるとやはりCV33が猟犬役として先行し、潜伏するAP-Girlsを狩り立てアンチョビ達が仕留めに掛かる方針に変わりはないようであった。

 

 

「千代美さんもゾロターンの20㎜とは考えたものですね、自分達の事が本当に良く解っているようです。しかも大洗で恋の戦車の運用方法を見て自己流にアレンジを加え、しっかりと自分のものにしている。本当に将来が楽しみなお嬢さんだわ」

 

 

 しほのアンチョビに対する高評価に、まほは当然だといわんばかりにドヤ顔で鼻をフフンとならし、英子もまた腕を組み何度も頷いている。

 それを知ってか知らずかアンチョビは、再びノリと勢いで隊員達のモチベーションを上げていた。

 

 

「いいかぁ、AP-Girlsが逃げたという事は我々が押していたという証拠だぁ!この調子で戦い続ければ必ず勝てる!だが油断はするな、僅かでも隙を見せればあっと言う間に足元をすくわれるからな!それさえ気を付ければ大丈夫だ、お前達は弱くない…イヤ強い!勝って勝利のパスタをみなで分かち合うのだぁ!ラブの性格からすればそう遠くには行ってないはずだ!近場の纏って休めそうな場所から探せ!ヤツは絶対近くにいるぞぉ!」

 

 

 さすがアンチョビの読みは正しく僅か数分後には先行したCV33の1両からAP-Girls発見の報が入り、アンチョビは即座に部隊を進発させていた。

 

 

「三保駅跡地の公園にいたか…昔からアイツは缶ケリで隠れずに、オニの直ぐ後ろで数え終わるの待つようなヤツだったからな!」

 

 

 それが果して例え話なのか実体験なのかは解らぬが、ラブが如何にふざけたヤツかをアンチョビが伝えたいらしい事はカルパッチョにも解ったが、彼女は下がり眉毛の困り顔で返答に窮している。

 

 

「どうしますかドゥーチェ、我々も三保駅跡地に向かいますか?」

 

「いや、行くだけ無駄だろう。それよりこうしてまた市街地に出たならマカロニを再開するとしよう、カルパッチョとぺパロニは分散したCV33も呼び戻して、隠しておいたマカロニのポイントに戻って罠を張れ!」

 

「了解です」

 

「今度こそマカロニで仕留めて見せるっスよ!」

 

 

 カルパッチョとぺパロニは、それぞれの部隊を率いてマカロニ作戦を再開すべく本体から別れそれぞれの持ち場に散って行った。

 

 

「フ~ム…まだ隊列行動しているか…ラブを一本釣りするには、下手にセモヴェンテとP40を連れ歩くよりかいっそ単騎駆けの方がいいか……よし!セモヴェンテはマカロニのバックアップに回れ、P40も一緒に行ってバレないように隠れていろ!」

 

 

 指示を出し終えたアンチョビは、自らラブを誘き出す餌となるべく本隊と別れ単騎駆けを始めた。

 偵察車両から報告された情報を元に三保駅跡地を離脱したAP-Girlsの進路に当りを付け、箱乗りで指示を出しながらⅢ号では通れないような狭い路地をすっ飛んで行く。

 

 

「少しスピードを落とせ!もう何処で遭遇してもおかしくないはずだからな!」

 

 

 ハイスピードで路地をすり抜けて行く豆戦車から身を乗り出し、アンチョビは頻りにキョロキョロと辺りを警戒している。

 

 

「ん…?止めろ止めろ!エンジンもだ!」

 

 

 軽快に鳴り響いていたエンジン音が止まり通常であれば生活音で満ちているであろう住宅街に奇妙な静寂が訪れたが、アンチョビが聞き耳を立て首を左右に振る度にそれに合わせてリボンとツインテも揺れている。

 

 

「こっちか!一本裏の通りを進んでいるな…よし、頭を押さえるぞ!全速で回り込め!」

 

 

 再び狭い路地を走りだした豆戦車は、両側の家々の軒を掠めるように駆け抜けて行く。

 アンチョビとしてはカルパッチョとぺパロニが待ち受けるキルゾーンにラブを引き摺り込み、マカロニを活用して彼女に隙が出来た瞬間を突き決着を付けたいと考えているが、同時に自分達の絶対的な火力不足も自覚しているので、例えそこでラブを討ち取る事が出来なくても多少なりともダメージを蓄積させる事が出来ればいいとも考えていた。

 

 

「そこだ!その角を右に曲がれ!」

 

 

 アンチョビのナビに従い狭い路地を何処にもぶつける事もなく、ハイスピードのまま鮮やかに豆戦車は直角コーナーをクリアして行き、観戦エリアでも感嘆の声が上がる。

 

 

「よし、この先のスーパーに裏の搬入口から潜り込め!表をLove Gunが通過した瞬間に対戦車ライフルをおみまいしてやるぞぉ!」

 

 

 全国チェーンの大型スーパーの裏手にある商品搬入口を、豆戦車がいともあっさりバキバキと破壊し店内に侵入して行く。

 今時の安普請の量販店の建屋では、いくら豆とはいえ戦車相手では到底太刀打ち出来なかった。

 

 

「アレ!?オイオイこのスーパーはソサルトの塩を扱ってるじゃないか!今度買いに…って違うそうじゃな~い!試合に集中せねば!」

 

 

 店内の陳列棚を薙ぎ倒しながら進んでいた豆戦車の上に、イタリア産の塩が落ちて来てすかさずそれに反応してしまったアンチョビは、慌てて首を左右に振り気合を入れ直した。

 

 

「アンチョビ姐さん見えました!」

 

「ふっふっふ♪蜂の巣にしてやるぞぉ~!いいか?掃射を終えたらそのタイミングで正面の扉をぶち破ってAP-Girlsの前に飛び出すんだ!ヤツらをキルゾーンまで引っ張って行くぞ!」

 

「了解!」

 

 

 AP-Girlsを引き連れ一列縦隊でスーパーの前を通過するLove Gunに向けアンチョビがトリガーを引き絞ると、鋭く腹を撃つ発射音と共に自動ドアのガラスを粉砕しながら大口径20㎜のライフル弾が次々と襲い掛かり車体側面を叩いて行く。

 

 

「くっ……!千代美か!?」

 

 

 ラブが反撃に転じようとした時、既にアンチョビの駆るL3 ccは残っていた自動ドアの枠を突き破り、駐車場に飛び出しAP-Girlsの隊列に肉薄していた。

 

 

「今だ!そのままLove Gunの前に割り込め!」

 

 

 奇襲に成功したアンチョビはそのまま店舗の前の駐車場を駆け抜けて、今度は自ら囮としてラブをキルゾーンに引き摺り込むべくLove Gunの前に躍り出た。

 AP-Girlsの使用するⅢ号戦車にはその余裕がないが豆戦車であるL3 ccには充分な道幅であり、アンチョビは蛇行するよう指示を出すと、自身は再び身を乗り出し振り向いて不敵な笑みでラブを挑発していた。

 

 

「あからさまに罠だよね…でもこれ追わないと話にならない訳だし……でもドゥーチェ自らが単騎で囮役やるってどうよ?まあウチの隊長も似たようなもんだけどさ~」

 

 

 Love Gun操縦手の香子は目の前をチョロチョロ蛇行しながら逃げる豆戦車を追いながら、誰に言うともなしにぼやきながら操縦桿を握っている。

 しかしながらⅢ号では何かやろうにも道幅が狭く、一列縦隊の先頭を走っている為我慢の走行を強いられているのだった。

 そしてそのもどかしい現状を嘲笑うかのように突然目の前の豆戦車がスピンしたと思うと、こちら向きになりその凶悪な銃口をLove Gunに向けて来た。

 

 

「少し脅かしも入れるか…オイ、何発か撃ち込むから()()()くれ!」

 

 

 アンチョビが車内に引っ込むと、豆戦車が走りながらクルリと綺麗に180度のターンを決める。

 アンツィオのお家芸ナポリターンが見事に決まりゾロターンの20㎜がLove Gunを指向した。

 

 

「あ、ヤバいわ……」

 

 

 避けようのない状況で至近距離からライフル弾が次々と撃ち込まれる。

 

 

「瑠伽行ける?」

 

「この状況だと無駄弾になるだけね、取り敢えず機銃で牽制するしかないわ」

 

 

 付かず離れずLove Gunの反撃し難い距離を保ちながら挑発行動を続ける豆戦車に、何とか反撃を試みようとするラブだったが砲手の瑠伽からは色よい返事は返って来なかった。

 そうこうするうちにもライフル弾を撃ち込まれ続け、遂にブラックハーツ同様正面装甲に装着されている増加装甲代わりの予備履帯が脱落してしまった。

 

 

「ふはははは!行ける!やっぱり行けるぞこの対戦車ライフルは!いやぁ、ちょっと無理したけどこれはホント買って良かったなぁ♪」

 

 

 ナポリターンで通常走行に戻ったL3 ccの中でアンチョビは拳を握りしめ、Love Gun相手に導入したゾロターンS-18/1100全自動対戦車ライフルがもたらした成果を噛締めていた。

 思わずハッチから身を乗り出し振り向いて腕組みでドヤ顔をするアンチョビだった。

 

 

「うん…ウチもその気持ちはよく解るんだけどね……」

 

 

 火力面で苦労の多いラブ達もこれまで散々苦労しながら運用して来た豆戦車で、初めて戦果らしきものを上げつつある事を喜ぶアンチョビに、何処か痛々しいものを見る視線を向けるのであった。

 

 

「それはともかくこれはちょっと笑えないわ、あの破壊力はやっぱり馬鹿に出来ないよ!」

 

 

 操縦手の香子は逃げ場のない状況でやられ放題な事に歯噛みしながら背中越しにラブに言った。

 

 

「後ちょっとで三保街道に出るからそこまで何とか頑張って!」

 

「頑張って何とかなるもんでもないけどねぇ…ってまた来るよ!」

 

 

 効果ありとすっかり気を良くしたアンチョビが再びナポリターンで攻撃態勢に入り、ニヤリと笑うと車内に引っ込んで行った。

 一撃毎に衝撃が鳩尾に響き、次いで鋭いライフル弾が車体を叩き抉って行く。

 

 

「うわっ!」

 

 

 砲塔側面を激しい擦過音と共に火花を散らし20㎜弾が掠めた。

 

 

「うそぉ……」

 

 

 コマンダーキューポラ上のラブが思わず身を乗り出し被弾ヵ所を覗き込むと、砲塔側面に描かれたLove Gunの象徴であるパーソナルマークの深紅のハートが、掠めたライフル弾によりざっくりと上下に切り裂かれていた。

 

 

「ちょっと!ラブ姉大丈夫!?」

 

 

 すぐ後ろを走っていたイエロー・ハーツの凜々子にもその光景は見えていたらしく、相当インパクトがあったのか血相を変えている。

 

 

「……」

 

 

 名を呼ばれ顔を上げたラブだが蒼い顔で引き攣った笑顔を浮かべていた。

 ジワジワと削ぎ取るようにダメージを与えて来るアンチョビのL3 ccだが、ここまでの間に足回りを狙って来ないのは、あくまでもキルゾーンに引き摺り込んでの撃破狙いという事なのか。

 いずれにしても広い街道に出るまでは、Love Gunには我慢の走行が続くのであった。

 

 

「やっぱりアンチョビさんはあくまでもマカロニに拘るんだね……」

 

 

 みほは少し困った顔で頬を掻いている。

 モニターの分割画面ではカルパッチョとぺパロニの両隊が、AP-Girlsを討ち取るべく再びCV33にP40のハリボテを被せて迎撃準備を整えている姿が映っている。

 

 

「Good grief!どうせまた余計な事してバレるんじゃないの?」

 

「あはは……」

 

 

 大袈裟にヤレヤレのポーズをするケイにみほも乾いた笑いしか出ない。

 

 

「ですがエル・アラメインのジャスパー・マスケリンの例もあります、欺瞞作戦も馬鹿に出来ませんよ。現に午前中は恋も騙され未だ気付いていませんからね」

 

 

 しほは笑う子供達に対し、第二次大戦中マジックギャングを率いて数々の欺瞞作戦でイギリス軍に貢献した奇術師ジャスパー・マスケリンが、最後に参加した第二次エル・アラメイン会戦の前哨戦となるバートラム作戦において、2000台の戦車のハリボテと様々なダミーやギミックを駆使して砂漠の狐ことロンメルを見事出し抜いた故事を引き合いに出し、その有効性を説いていた。

 

 

「常に少ない手駒で戦い続けて来た千代美さんのような存在には、恵まれた環境で戦って来た者にこそにこそ学ぶべき点が多いでしょうね……」

 

 

 マカロニを展開する部隊と囮としてAP-Girlsを牽引するアンチョビの姿を、交互に見ながらしほが語って聞かせた事とその語り口は、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。

 

 

「あ…マカロニの展開も終わったみたい……」

 

 

 しほの話の後を継ぐようにみほが指摘した通り、ハリボテの再装備を終えたカルパッチョとぺパロニの両部隊が、それぞれハリボテのP40とセモヴェンテを遮蔽物の影に隠し始めた。

 

 

『ドゥーチェ、こちらape operaia due、マカロニの展開完了です』

 

『ape operaia unoも準備完了っス!』

 

 

 無線からたて続けに飛び込んで来た報告に、アンチョビは大きく一つ頷くと操縦手に指示を出す。

 

 

「よし、通常走行に戻れ!もう街道に出るからな、連中も一気に仕掛けて来るぞ気を抜くなよ!」

 

「了解ですアンチョビ姐さん!」

 

 

 クルリとナポリターンを決め前進を始めたL3 ccは、三保街道に出てから想定されるAP-Girlsの攻勢に備え増速して少しAP-Girlsを引き離し始めた。

 

 

「こちらape reginaアンチョビだ!もう間もなく街道に出る、直ぐにそっちに行くからタイミングを外さないように気を付けろよ!」

 

『了解!』

 

 

 ハッチから身を乗り出したアンチョビが背後を振り返り目測でLove Gunとの距離を測る。

 微妙に蛇行して狙いを逸らしているが、そろそろ気を付けないと一撃を喰らう可能性があるので微妙な車間距離を保つよう細心の注意を払わねばならない。

 

 

「待て待て!引き離し過ぎだ!もう少し車間を詰めておかないと…右ぃ!」

 

 

 言っている傍から狙い易い距離になったと見るやLove Gunの長砲身50㎜から徹甲弾が撃ち出され、アンチョビの回避指示でギリギリ躱したものの、逸れた徹甲弾が鼻先の路面を抉りその衝撃で浮き上がって片輪走行に陥った豆戦車上で、アンチョビは横転せぬようサイドカーレースのパッセンジャーよろしく必死にバランスを取っている。

 

 

「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!落っごぢるぞお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!」

 

 

 片輪でフラフラと蛇行を繰り返しながらも横転する事なく走り続ける豆戦車の上で、涙目で絶叫しながら器用にバランスを取るアンチョビにラブは目が点になっていた。

 

 

「あれを躱すのもビックリなんだけどさ……アンチョビ隊長って昔っからああなの?」

 

「ええと……」

 

 

 渾身の一撃を躱されその後披露されている曲芸に、呆れたような表情で見上げる砲手の瑠伽にラブは直ぐに答える事が出来ない。

 

 

「何でアレで引っ繰り返らないのよ!?」

 

「品のない…本当に喧しいですわ……」

 

 

 観戦エリアのモニターには涙目で絶叫するアンチョビのどアップが映っている。

 そのふざけきった展開にカチューシャがキレ、ダージリンは蔑むように言うが二人共過去何度もラブ相手に同じようなドタバタを演じているので実の処それを言う資格はない。

 

 

「うんうん♪懐かしい展開ねぇ、やっぱり千代美ちゃんは何やっても可愛いわぁ♡」

 

「……」

 

 

 腕組みをして至福の笑みで何度も頷く英子だが、トラウマの元にそんな風に言われてもまほは素直に喜べなかった。

 

 

「う゛お゛ぉ゛!ソコだソコを左だぁ!」

 

 

 相変わらず片輪走行のままの豆戦車の上でジタバタとバランスを取り続けるアンチョビは、器用に片手で指揮用の鞭を振り三保街道に出る角を左折するよう指示を出した。

 

 

「ホント器用ね……」

 

「ちょっと違うような気もするけど……」

 

 

 この状況で撃っても当らないような気がして来たラブは砲撃命令を出しておらず、砲手の瑠伽もサイドハッチを開き目の前の光景を傍観していた。

 

 

「ほらラブ姉、街道に出るよ?」

 

 

 操縦手の香子もどこか馬鹿馬鹿し気な声でラブに指示を出すよう促す。

 

 

「う、うん……各車三保街道に出たらミニカイルに移行、千代美を討ち取るよ!」

 

 

 ラブが指示を出す目の前でバイクのようなコーナリングワークで豆戦車が交差点を曲がって行くが、その間もアンチョビはやはり指示を出しながら横転せぬようバランスを取り続けていた。

 

 

「ハングオンだねまるで……」

 

 

 操縦桿を握る香子はその様子を呆れるを通り越して、最早感心するような声でそう評した。

 そして曲芸走行を続ける豆戦車に続き街道に飛び出したAP-Girlsも即座に隊列を一列縦隊からコンパクトな楔形に移行すると、それまで一方的にやられたお返しとばかりに攻撃を開始した。

 

 

「モード・ショットガン行くよ!全車榴弾装填!‥‥…撃て!」

 

 

 仕切り直しの挨拶代わりの一撃をAP-Girlsが放つ。

 その一撃はそれまでのピンポイント砲撃と異なりショットガンの名の通りに、等間隔で榴弾を撃ち込む事で散弾のように広範囲をカバーするものだった。

 ほぼ道幅いっぱいに拡散する爆発に、通常走行に戻っていたとはいえ蛇行で逃げる余地は残されていなかったが、アンチョビもまた砲口を見切っており砲撃の瞬間に回避指示を下していた。

 

 

「ブレーキ!ってうっひゃあぁぁぁ!」

 

 

 つんのめるようなブレーキングで飛来した榴弾をやり過ごすと、目の前で火球が開く。

 

 

「ダッシュだぁ!」

 

 

 間髪入れずに次の指示を出し、火球の後に残る煙の中に躊躇せず飛び込んで行く。

 

 

「今のも避けるのかよ!?」

 

 

 思わず声を上げる夏妃を制しラブは即座にデビュー曲を流しAP-Girlsの集中力を高めると、次の攻撃に備えメンバー達の全神経を集中させた。

 

 

「うわぁ…また歌い始めたぁ!気を付けろよぉ!」

 

 

 曲に合わせ飛来する砲弾を必死に躱すアンチョビも、砲撃の間隙を突きナポリターンを駆使して反撃を行ない双方息吐く暇もない程激しい戦闘を繰り広げている。

 観戦客達もそのあまりに激しい攻防から目を離す事が出来ない。

 そして両者一歩も譲らぬ撃ち合いを繰り広げながら、隊列はどんどんアンチョビが設定したキルゾーンに向け突き進んで行く。

 

 

「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!ごっぢ来てるぞお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!」

 

 

 そして遂にこの日何度目かも解らぬアンチョビの絶叫が、マカロニを展開し待ち伏せをしているカルパッチョとぺパロニの耳にも直接届いたのであった。

 




ここから先戦闘はノンストップになると思います。
ただあくまでも次回投稿までに加筆しなければの話ですがw

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