その漫画は誰のため 1
文化祭。
それは、大学や高校・中学などで学生・生徒が主体となって、模擬店・展示・講演・音楽・演劇などを催す行事である。しかしこの学校『神山高校』では模擬店は伝統的に禁止されているらしい。理由は忘れたが。まぁ模擬店がなくても、バンドやダンス。料理対決にクイズ大会。他にもイベントがあり大いに盛り上がっている。そんな中俺はクラスの出し物が展示で、尚且つ帰宅部という事もあり、ただ今やることもなくブラブラと校内を回っていた。
そして何時の間にやら人通りの少ない特別棟にまで来ていた。
「……古典部?」
そこには地学講義室に『古典部』と書かれた部屋があった
古典部は確か入須の奴が世話になったとかゆう。
俺は気になり中をのぞくことにした。
そこにはこちらに背を向け窓から外を眺める男子生徒が一人いた。その男子生徒は俺の足音に気付きこちらを見る。
「…氷菓一冊200円です。一冊どうですか」
気だるげな表情のまま商売文句を言ってくる。
こいつが入須と沢木口が言っていた名探偵か…
そいつの横には山積みになった本が置いてあった。
「文集の数多くないか?これすべて売るつもりか?」
「それが発注するときに桁を間違えていたみたいで。だから困っているんですよ。」
なるほどな。それでこの数か。
「それじゃ一部もらうわ。ほら200円」
「ありがとうございます」
目の前の男子生徒から表紙に『氷菓』と書かれた文集を受け取る。それには犬と兎が噛み付きあっている絵がのってあった。
ペラペラと少し流し読みしたがカンヤ祭と呼ばれる所以などなかなか面白い内容が書いてあった。
「また、家で読ましてもらう」
そう告げて踵を返し教室から出ようとすると、身長の低い女の子が教室に入ってきた。
「……比企谷先輩。どうしてこんなところに居るんですか。」
「え?比企谷先輩?本当だ、比企谷先輩じゃないですか!珍しいですね。奉太郎と同じで省エネ主義の比企谷先輩がこんなところに来るなんて」
部室に入ってきたのは伊原摩耶花と福部里志だった
「ん?里志たちの知り合いか?」
「ああ。比企谷先輩は図書室の常連でね。そこでよく話すようになったんだよ」
「伊原もか?」
「まぁそんな感じ。比企谷先輩は無駄に文系の成績がいいし、絵も上手だから偶に漫画を見てもらってるの」
「そうなのか」
「それで比企谷先輩はどうしてここに居るんですか?てっきり今日はサボってると思ってました」
「最初はサボろうと思ったんだが、妹に怒られたからしかたなくだ。でも、やる事が無いんでな。ちょっとブラブラしてたらここに着いた」
「シスコン…」
「シスコンじゃねぇよ。そういや伊原はコスプレしてるのか。それは………フロルか?」
「よくわかりましたね。」
「おやじがそのマンガを読んでいたからな。てかお前もよくそんな漫画しってるな…」
「別にいいじゃないですか」
「まぁそうなんだが」
伊原と話していたら福部が「摩耶花」と話しかけてきた
「どうしたの福ちゃん」
「漫研の方はいいのかい?」
「あ、やば!」
伊原は何かを思い出したように慌て出し教室の隅に置いてあった荷物を取ると足早に出て行った。
「んじゃ、俺も行くとするわ。そういや名探偵君、入須と沢木口の奴が感謝してたぞ」
そう言って俺は地学講義室を出た。
場所は変わって漫画研究部のクラス前。そこで看板を片付けている湯浅がいた。
「必見。ただ今決戦中。乙女の戦いin漫研。漫画論激論中。巫女VS両生体?なんだこれ。なんかのイベントか?」
「うん。亜也子と伊原の二人が言い合いしてて。明日もするから見に来てね」
「明日もするのかよ…。相変わらずもめているんだな。河内の気持ちはわからんでもないが…」
「そうだね…」
それじゃあ仕事があるからと言って湯浅は教室に戻って行った。代わりに教室から河内が出てきた。
「あれ、比企谷?なんでこんなところに居るの?」
「いや、俺がどこにいたっていいだろ…」
「てっきり今日はサボってると思ってたから」
そう言って河内は笑顔を見せた。
「小町に駆り出されたんだよ。それに漫画やら文集やらは読んでていい暇つぶしにはなるからな」
『夕べには骸に』という本はなかなかに面白かった。こいつの書いた『ボディトーク』もなかなかに面白かった。だからちょっと気になったのも確かだ。
「あんたらしいわね」
「それより皆コスプレしてるのか?」
「そうよ?どう、似合ってる?」
「ま、まあ、悪くねぇんじゃねぇの…」
顔が赤くなるのがよくわかる。それを見た河内は心底楽しそうだ
「あはは。そう照れないでよ。比企谷ってホント素直に褒めないよね」
「うるせぇ」
「じゃあ私もいくね」
「ああ。あんまり後輩をいじめるなよ」
「…わかってる」
「…そうか。ならいい。それじゃあな」
そこで見た河内の顔はどこか憂いを帯びていた