八幡の短編集   作:天・プラ子

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今更ですが氷菓のネタバレ含みます


その漫画は誰のため 2

昨日はあの後は特にすることもなく、ベストプレイスでくつろいでいたら一日が終わっていた

そして文化祭二日目。

校内ではどうやら十文字事件というものが発生しているらしい。何やら複数の部活から物がなくなっているらしい。それの犯人が怪盗十文字だという。最近のリア充は本当に祭り好きだ。どうでもいいことではしゃぎ我を主張する。今回もそういった類かも知らん。まぁ特に部活にも入っていない俺には関係のない事なんだが…

 

「あの時、あの時お玉があったら完璧なかき揚げができてたのに!」

 

隣の魔女っ娘はカンカンの様だ。

 

「優勝できたんだからいいじゃねぇか」

 

「よくないです。不完全燃焼で余計にもやもやするんですよ」

 

「てか、なんで俺に言うんだよ。福部に愚痴れ。福部に」

 

「福ちゃんは、忙しそうだから…」

 

「さいですか」

 

恋する少女はたいへんだな…。そういえば

 

「それより昨日なんで河内ともめていたんだ?」

 

「それは…」

 

「言い辛いなら別にいいが。昨日湯浅に2人が言い合いしてるって聞いたから気になっただけだし」

 

「湯浅先輩が…。その、言い辛いってわけじゃないんですけど、なんだか情けなくて」

 

「……」

 

「昨日河内先輩が名作なんて物はなく漫画の面白さは皆平等で、読み手の主観で評価が左右されるだけだといったんです。私そうだとは思わなくて…。名作は最初から名作として生まれてくるものだと思うんです。絶対にどこか才能や技術の差は出てくると思うんです」

 

「なるほどな」

 

「それで私が名作だと思った去年この学校の文化祭で売られていた漫画をもってくるから読んでくださいって言ったんですけど、家に帰ったら見つからなくて…」

 

「それって夕べには骸にって本か?」

 

「え?比企谷先輩知ってるんですか?!」

 

「ああ。知ってるぞ」

 

「ほんとですか?!」

 

伊原が前のめりになりながら問いただしてくる・

 

「あ、ああ。ほんとうだが」

 

「その本持ってたりしませんか?」

 

「確かまだ捨ててなかったと思うが…」

 

「あの!できたら貸してもらえませんか?」

 

「構わんが。んじゃ明日持ってくるわ」

 

「ありがとうございます!」

 

「あ、こんな時間。比企谷先輩。明日忘れないでくださいね」

 

「ああ、それと一つ。河内は夕べには骸にについてなんか言ってたか?」

 

「え?知らないと言ってましたが」

 

「……そうか。すまん。ありがとう。行っていいぞ」

 

魔女っ娘はそう言うと走っていった。

 

「………知らないか。あの本伊原に渡していいのだろうか…」

 

はぁ、と口から洩れた溜息は文化祭の喧騒の中に消えた。

 

 

 

 

あれから30分後に八幡も動き始めた。動き始めたと言っても特にやる事もなくただブラブラと歩き回っているだけだが。

構内を歩きまわっていると聞こえてくるのは談笑も多いがその中の半数が十文字事件だったりする。あの事件も進んでいき、ついには7つもの部活から物がなくなっているというのだ。始まりはアカペラ部からジュース基、アップルジュースを。囲碁部から碁石、もとい石を。占い研からはタロットカード、もとい運命の輪を。園芸部から水鉄砲、もといAKを。お料理研からはお玉を。壁新聞部カッターナイフを。そして奇術部からはキャンドルを。少し考えればわかると思うが、全てが『あ・い・う・え・お』の順番になっている。それはまるでかの有名な作家、アガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティこと、「アガサ・クリスティ」が書いた『ABC殺人事件』のようだ。

そしてこの事件を解く鍵がさっきのあから始まる文字の順番に事件が起きているという事こと。犯人が残すメッセージカード。そこには盗まれたものと『失われた』の文字。そして十文字。最初は『じゅうもんじ』と騒がれていたが、今では文字が続いていることから『じゅうもじ』と呼ばれている。このままいけば名前の如く『あ』から10文字目の『こ』が付く部活が被害にあうまで犯行は続くだろう。

残りの鍵はメッセージカードとともに全員に配布されている『カンヤ祭の歩き方』が、あるページを開いた状態で置かれていることだろう。そしておそらくこの開かれてあったページ。これがこの事件の被害者リストなのだろう。被害にあった部活動の名前がすべてこのページに乗ってあった事からおそらく間違いではないだろう。そしてこのしおりを操作する事が出来るのが。

『総務委員会』

おそらくこの犯行に及んだ犯人はこの総務委員会のうちの誰かだろう。後は動機さえわかれば犯人を絞る事が出来るのだが、その動機を知るすべがない。よって今は手詰まり状態だ。

まぁこういうのは古典部の名探偵の仕事だ。いつの間にか犯人も捕まえているだろう。

そこまで考えたところで渡り廊下で湯浅と伊原が話しているのを見つけた。何やら話し込んでいるようだ。湯浅は何時もどうり穏やかな表情だが伊原の表情はうかがえない。

少ししたら話は終わったのか湯浅がこっちに歩いてきた。

 

「……比企谷君」

 

「よお」

 

「どうしたの?こんなところで」

 

「いや。ただすることがなかったから、適当にぶらついてたら二人を見つけてな。二人は何の話をしてたんだ?」

 

「ちょっとね…」

 

「まぁ二人で話してたんだ。また漫研で何かあったんだろ?」

 

「……うん」

 

「はぁ。河内の奴も漫研続けてるから、気持ちの整理はついていると思ったんだがな」

 

「本当に漫画が好きな亜也子にとって辛いことだったと思うから」

 

「まぁそうなんだがな。……前まではあいつも伊原と似たような奴だったが。あんな現実見せられたら努力してたあいつは逃げたくもなるわな。よく漫画を描き続けてると思うよ」

 

「うん。亜也子も伊原も根っこは同じだから。ただ亜也子の場合は近くの人に見せつけられる形になっちゃって」

 

「遊び感覚で描いたものってところがなおさら河内を苦しめたんだろうな…」

 

「春菜たちも悪気があった訳じゃないんだけどね」

 

「悪戯であんな出来のいい漫画出す奴はいないだろ」

 

「遊びだったけど3人とも真剣だったもんね」

 

夕べには骸には3人の合作で作られたものだった。一人は生徒会長の陸山宗芳。総務委員会委員長の田名辺治郎。そして引っ越してしまった、安城春菜の3人。その3人はそれぞれの名前の最初の文字を取り『安心院鐸波』と名乗り、『夕べには骸に』を描きあげた。そしてそれはあの小うるさい伊原が手放しで称賛するほどの出来栄えだった。そして河内が目を背けたくなるほどの……

 

「まぁ今は無理でもあいつもいつかは向き合うだろ。それまではお前が見守っていてやれ。友達なんだろ?」

 

「比企谷君は友達じゃないの?」

 

何を当たり前の事を聞いてきてるんだ?

 

「ボッチに友達がいるわけないだろ」

 

「でも、亜也子と仲いいでしょ」

 

「それはあいつがからかって楽しんでるだけだろ」

 

「そうなの」

 

「そうだ」

 

「相変わらず捻くれてるね」

 

湯浅は微笑みながら言ってくる

 

「事実を言ったまでだ」

 

「そういうところを言ってるんだよ」

 

湯浅はそういうと振り返り歩き出した。

 

「あ、また漫研に来てね?歓迎するよ」

 

立ち止まりそんなことを言ってくる

 

「時間があったらな」

 

「ボッチなのに忙しいの?」

 

痛いところをついてくるな…

 

「また今度顔だす…」

 

「ふふ、お願いね」

 

そう言うと今度こそ湯浅は漫研のほうに歩いて行った。

渡り廊下の方を見るとすでに伊原の姿はなかった。

 

 

 

カンヤ祭二日目を終え家に帰ってきた。

 

「どこにやったか…」

 

俺は今夕べには骸にを探していた。

伊原に渡すか迷ったが伊原なら講師のいい刺激にもなるだろうと判断し渡すことにした。決して伊原に怒られるのが怖いからではない。断じて違う。

まぁそれは置いといて。たしかこの中に置いておいたはずなんだけどな。…………ないな。一体どこにやったか。

 

「お兄ちゃん、さっきからドンドンドンドンうるさいんだけど。勉強に集中できないじゃん」

 

どうやら五月蝿かったようで今年受験の小町が起こってきた。

 

「すまん」

 

小町はずいぶん呆れた顔をしている

 

「はぁ、それで何探してるの?」

 

「いや、去年の文化祭で売ってた漫画なんだが、どこにもなくてな」

 

「漫画?」

 

「ああ。夕べには骸にってやつなんだが」

 

名前を言うと小町は私考えてますという顔を作って唸っている

 

「う~~~ん。………あ!!!」

 

何かを閃いたのかどたどたと俺の部屋から出て行った。そして数分後に戻ってきた小町の手には例の漫画があった。

 

「ごめんごめん、お兄ちゃん。読んだ後戻すのめんどくさくて小町の部屋に置きっぱなしだった」

 

小町は手を顔の前で合して片眼をつむり謝ってくる。それ可愛いな。

 

「別に見つかったなら大丈夫だ」

 

「ありがと!お兄ちゃん!それにしてもなんで今その本なの?」

 

「ああ。この本を貸してほしいって奴がいてな」

 

「その本って確か恋愛ものだったよね?もしかして相手は女の子!」

 

「恋愛ものだけではないはずだが…。まぁ相手は女子だが」

 

「お兄ちゃんにもついに春が!」

 

「馬鹿。そいつにはすでに好きな奴がいるんだよ」

 

「ちぇー。つまんない」

 

「まず、おもしさを求めていない」

 

「まぁお兄ちゃんに学校での話相手がいる事を知れて小町は一安心なのです!あ、今の小町的にポイント高い」

 

「最後のがなければな。……なぁ小町」

 

「どしたのお兄ちゃん」

 

「もし自分の好きな事を初めての人が遊び感覚で自分より上手くできてたらどう思う?それを知って好きなことを好きで居続けることができるか?」

 

「ん~。好きなことには変わりないんじゃないかな。そりゃやっぱり嫌な気分にはなると思うよ?なんでってなると思う。でもさ、結局好きな事をするのって誰のためでもないじゃん。好きな事をするのは結局は自己満足で、周りの評価なんてその副産物でしかないわけだし。それにそれぐらいで嫌いになるんだったら、結局はその好きな事への気持ちもそれぐらいのものだったってことでしょ?だから本当に好きなもの事は変わらないと思う」

 

「……そうか」

 

「お兄ちゃんが今何に悩んでるのかわからないけど、小町はお兄ちゃんの味方だからね」

 

そう言って小町は部屋を出て行った。

あした河内と話してみるか…

八幡はそう考えて久しぶりに夕べには骸にを読み始めた。

 

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