リトルアーモリー 明日への弾丸 作:Matilda_6489
こんな言葉を自分が言っている、なんて聞いたら、きっと前世の私は笑っているだろう。
しかし、イクシスのせいで常に生命の危機を感じるせいか、それとも右も左も分からない平行世界に来てしまったせいか、…寂しい。
…友達が欲しい。
唐突にそんな願望をし始めたのは他でもない、本当に…友達が少ないのだ。
豊崎教官から「知り合いでもいいから作りなさい」と指示されているレベルで。
防衛校の正式マニュアルにはこう示されている。“防衛校生徒は、周辺民間防衛組織、特に指定防衛高等学校生徒との連携が推奨されている。”
つまり、日頃から他の防衛校生徒とも連携する必要がある。
戦闘時に自己紹介、なんて暇はないのだ。知らない人物に背中を任せるより、お互いを知っている人物と連携すれば、恐らく戦闘効率は上がる。
前回の人生では平和な世界だったので、そんなに他人と関わらずとも生きていけた。
しかし、この世界では全地域が戦時。安全な場所なんて、どこにもない。こんな世界を1人で戦い抜くのは、絶対無理だ。1人の歩兵より、5人・10人の歩兵のほうが強いのだ。戦いは数だよ兄貴…。
今、私が知り合いと呼べるのは2人。豊崎教官。伽鳥先輩。
豊崎教官は優秀な上司だし、伽鳥先輩は頼りになる先輩だ。
確かに、この世界の人たちは皆、優しい。とても優しい…。
…が、何十年と生きてきた対人恐怖症の塊と言ってもいいこの性格は、どうしても…コミュニケーション能力が…大変、低い。
そもそも、人間関係構築が苦手なのだ。
こっちは友達と思っていても、向こうは何とも思ってないこと。前世でもそんなことがあったなぁ。
…があぁぁ…。トラウマを思い出して、思わず銃で自分の頭をぶち抜きたくなった。
まず、相手が何を考えているか分からない。もうここで怖い。
次、何を言っていいのか分からない。ここも怖い。
よく関わる相手だと、今後の関係に支障が出ないように、慎重に言葉を選んで発言しなければならない。口は災いの元、だ。
仕事の打合せ、みたいな事務的な内容は、何ら問題はなく会話できるが…私的な会話だと、完全に狼狽えて、会話にならなくなる。
――『バレルはよく磨いておけ、手を抜かずにな』
『了解です』
『…お前って休日、何してるんだ?』
『……えっ。……え? えっ、あっ…いえ、あの』
『あぁ、いや…言いたくないならいい』
数日前、伽鳥先輩と私の会話だ。
銃の整備という退屈で眠くなる作業に、気を利かせて会話を挟んでくれた先輩だが、全く返答出来てない私の図。
私の会話能力を即座に察して引いてくれた伽鳥先輩、優しい…ありがたい…。
『えっ。』でいきなりの私的な質問への困惑。次に何と言葉を返そうか迷う。そして未だ答えられていない自分に狼狽え、話そうとする、『いえ、あの』…である。
…ひどい。会話ですらない。Speechスキルが低すぎる。某核戦争後の世界だったら説得する前に撃たれているに違いない。望みが絶たれた…!
これが逆に関わりがない相手だと楽だ、何も考えず適当に話せるので、負担が少ない。
あぁ、面倒。億劫だ。いっそ…好感度と会話選択肢が欲しい。
そして、問題は更にもう1つ。
ブラウンカラーの上品そうな雰囲気があるブレザー。城宗女子高…私立 城宗統合学院の制服だ。未だ、返せていない。
…言い訳すると、戦いを決意したあの日、あの駅から、ずっと返す時間が無かった。この世界に適応するために、必死だったのだ。
―――『DDA城宗、特1-A 椎名』
彼女から聞けた、簡潔な自己紹介。
あれから色々調べたのだが、DDAというのは、
つまり、そのまま “指定防衛校” だ。
特 は…多分、特殊科 とか 特戦科 とか、特殊部隊みたいな学科だろう。
普通科なら 普 の一文字だろうし。
実は特科、砲兵部隊でした。なんてオチもないだろう。砲兵なら、野砲の近くに居るのが基本だ。
MP7で武装して、町中を巡回警備するのは野砲隊の仕事ではない。
というか、いくら防衛校でも野砲がある高校はないはず。…ないよね?
防衛校 城宗。特殊科の一年生 Aクラス、椎名さん。まさか特殊部隊員だったとは。いわゆる精鋭歩兵、という立場なのだろうか?
彼女がどんな人なのか、全く知らない。関わりもないし。
だが、これだけの長い時間、上着を返さずにいたというのは…流石にまずいだろう。きっと怒っているに違いない。
問題の服は、一応自分で洗濯したものの、更にクリーニング屋に出し、ビニールが被せられている。こうしておけば、見た目でも高い清潔感を保てるからだ。
音沙汰なしで長い時間待たせてしまったお詫びに、せめて衣服は清潔に保ったままお返しします、アピールだ。これで許してくれることを期待したい。
この引っ込み思案の性格を直さなければならないし、知り合いは作らなければならないし、上着は返さなければならない。
…問題だらけだ。頭を切り替えよう。
こういう時は鏡を見るに限る。
鏡を見るたび、やはり…どうしても現実味がなくなる。VRゲームでもやっているような感覚になるのだ。
自分の顔や、この世界の街並み。高校生が小銃で武装しているのを見ると、…転生したんだなぁ、と再確認させられる。
今更だが、本当に自分が転生するとは、思いもしなかった。
よく考えると、日本人はちょっと転生しすぎではないだろうか。日本国は世界有数の転生人派遣国だった…?
というか、どうせ二次元に転生したのなら、もっとなんか…こう…、特殊な能力とかあると思ったが。
…ない。本当にない。
手から糸なんて出ないし、かっこいい高性能な鋼鉄アーマーもない。自由の星条旗シールドもなければ、魔力で空も飛べない。
いや、こういうのでありがちな話として、偉い人が色んな物をくれるんじゃないの…?
無限の体力とか。凄い戦闘力とか。それで、世界を救う旅に出て。あぁ勇者様、さすがです! さすゆう…みたいなさ…。
だが。
私は…本当に…、普通だ。残念だが。せいぜい、前世の記憶があるくらいだ。
そうだ、何も特殊な能力はないが…顔だけはいい。今のところ…これが唯一、自分が知っている長所だろうか。
うんうん、今日もいい顔だ。腹立たしいほどの…爽やかな面である。きっと今まで、沢山の異性を泣かせてきたに違いない。…中身が私じゃなければ、の話だが。
初めて見た時より、より引き締まった表情になっている。防衛校で経験した訓練のおかげだろうか。
しかし、相変わらずこの世界でも無表情だ。
もう少し…この年代の青年は生き生きしているぞ。まるで感情を感じない。
…ちょっと笑顔でも作ってみようか。
笑顔は人を和ませ癒すだけでなく、話しかけやすい雰囲気を醸し出す。そこから会話が生まれ、共感や協調を導き、チームでの仕事では団結力を高める。笑顔は、相手のやる気を引き出す役割も果たす。
…意識高いビジネス書に、そんなことが書いてあったのを何となく覚えている。本当かどうかは知らない。
まぁ、美少女の笑顔を見ると嬉しいのは確かだけど。
「…」
上手く笑えているだろうか。少し不自然だろうか。前世でも営業スマイルは苦手だった。
笑顔なんて、笑うなんて、誰でも出来るもん!…なんて嘆いている某アイドルも居たが、私には笑顔すら難しい。
完全な笑顔は無理だな。微笑むぐらいが限界か。
…ちょっと待ってほしい。確かに悪くない顔だが、この世界での私の顔ってどのくらいの品質なんだろうか。
案外、普通の顔だったりするのか。
ちなみにMFDAなんて用語は存在しない。今、私が考えた。
…なんかテンション上がってきた。
よし。
作戦第一段階、MFDA。この効果が良好なら友達を作ろう。…そう努力しよう。
そもそも。この世界はあべこべだ。自分には
実を言うと、前世では美少女に転生して、かわいい制服着たい…とか少しだけ願望があった。
美少女にはなれなかったが…あべこべのおかげで、私は美少女もとい、美男子みたいな立場だ。
そして何より。せっかく二次元に来たというのに、他人と関わらないというのは余りにも…もったいない。
そろそろ時間も頃合いだし…登校中に早速、作戦を実行しよう。
“完璧な計画を来週、実行するぐらいなら、次善の計画を今、断固として実行すべきだ。”
第二次大戦、米軍のパットン将軍も、そう言っていたではないか。
よし、やるぞ…。私はやる! 断固たる意志を持って、顔と同じくらい爽やかな性格になってやるぞ。
私は高揚した気分と、謎の勢いで外へ。
たまに、だが…こうして勢いだけで実行してしまうことが、しばしばある。
勿論、普段はよく考えて行動しているし、どうすべきか、も予想しながら行動しているけど…。たまには、勢いだけで突っ込むことも必要だと思うのだ。男という生き物は、バカになるべき時があるのだ…!
・・・
・・
・
いつも通りの清々しい朝。
小鳥のさえずり。慌ただしく動く車。自転車の音。
通勤・通学している人々に、疲れた顔をした人は、夜勤上がりだろうか。ある人は箒で通りの清掃をしている。
ふと、ベンチに座っている女性と目が合う。ベンチにコーヒーと新聞が置いてあることから、スーツ姿の彼女は通勤中に休憩しながら、朝食をとっているようだ。おしゃれな通勤である。
……ど、どうしようか。作戦を実行すべきか。
…いや、やるべきだ。千里の道も一歩から、と言うし。
彼女は名前も知らぬ民間人。きっと今後の人生でも関わることはないだろう。つまり、失敗してもノーダメージ…!
せっかく目が合ったのだ。これも何かの縁だろう。よし、やるぞ…。…緊張してきた。
軽く微笑み、手を挙げる。
…対象は少しの間、フリーズして、小さな動きで、ぎこちなく手を振り返してくれた。顔が紅潮しているのは、きっと寒さのせいだけではないハズだ。
…掴みはよし。いい感じだ。そんなに悪くない結果だと思う。
客観的に今の局地戦を分析。私が元居た世界に当てはまると、無表情の美少女が、自分を見て微笑んだ。
なるほどこれは…クールな子がデレる…。クーデレ…!
私は笑顔になれる、相手も笑顔になれる。Win-Winですね。
あぁ、いい気分だ。晴れ晴れとした気分である。他人に好意を示し、それに答えてくれる人が居る。素晴らしきこの世界。
こんなに喜びが胸から溢れそうな感覚は初めてだ。コミュニケーションって大事だったんだな…。
しばらく通学路を歩いていると、婦警さんが職務を遂行している。駐車違反に法の裁きを下しているようだ。
婦警さんもこちらに気が付いたようで、お互いに目が合う。
「おはようございます」
朝の挨拶と共に、笑顔で先制。
……しまった。笑顔になってしまった。ぎこちない顔になっていないだろうか。
どうやら、初戦が上手くいったために舞い上がっていたようだ。
しかし、そんな心配は杞憂であった。
「はうっ」
そんなかわいらしく短い悲鳴を上げ、彼女は胸を押さえながらしゃがみ込んでしまう。
上機嫌で出した私の笑顔は作り笑いにならず、本心からの…全火力での笑顔だったのだ。
「だ、大丈夫ですか…!?」
だが、この反応は予想外だった。困惑しながら、彼女の安否を確かめる。
「あ、ありがとうございます…これで10年は戦えます…」
「そんなに」
婦警さんは、赤く恍惚の表情で荒い呼吸をして、充足感に満ち溢れ、やり切ったと言わんばかりの…大往生のような雰囲気だった。
…堕ちたな…。
しかし、これ以上ない…凄まじい効果だ。自分にこのような力があるとは――素晴らしい。
大して関わりのない相手で、これだ。
もし、普段から会話している相手に不意に笑顔を見せたら。恐ろしい効果を発揮する…ハズだ。
普段無表情の美少女が、急に笑顔になる。クーデレ最高かよ…。
そもそも。前世でオタクガン振りだったのだ。そしてここは、二次元。
アニメやラノベ、恋愛ゲームやらのセリフとシチュエーションを駆使すれば、一瞬にして攻略完了だ。
真面目なあの子から、元気な子まで前世の知識を活かして無双!
伽鳥先輩に『銃だけでなく、恋愛のことも知り…たいです…』とか。
豊崎教官に『人生の教官もお願いします…!』…なんて言ったら、好感度カンストってすんぽーよ!
いざ、古流高校へ前進だ。もう何も怖くない。
待ってろよ、私のばら色の人生…!
さぁ、明るい未来へ! セッション・ゴー!
・・・
・・
・
「――それじゃ、ここはこの訓練メニューでね」
「はい、了解しました」
豊崎教官と私。お互いにクリップボードを見ながら予定を確認している。
古流高校。校庭。いつも通りの風景と、いつも通りの会話。日常。
…いや…ね、そんなすぐに、知り合いに馴れ馴れしくできるわけないじゃないですか。
もし、失敗したら。高校生活3年間、気まずい思いをするのだ。リスクが高すぎる。
…つまり、ヘタレたのだ。
臆病者と罵られても何も言い返せない。いや、私は慎重派なのだ…今この現状で一番、安定・安全な生き方をしているだけだ。
「それで…水本くん、誰か友達はできた?」
「うっ…」
言葉に詰まる。できてない。
しかし、ここで何と返すのがいいのだろうか。相手は上司だ。失望させず今後も努力するという意思表示が必要だろう。
私が頭を回転させ、弁解の言葉を考えていると、教官からアドバイスから頂いた。
「そんなに難しく考えなくていいわ」
「…え?」
「友達っていうのは…自然とできるものよ。お互い、いつの間にか仲良くなるの。…恋と一緒よ、本心でぶつかって行きなさい」
うぅむ…。そういうものなんだろうか。そういった経験が無いので、全然想像できない。
まぁ確かに…計算した上でとか、無理やり作った友達は…友達とは呼べないだろう。お互いに苦痛な関係だ。
「…参考になりました、ありがとうございます」
未だ複合装甲の様なカッチカチの態度で返答する私を見て、豊崎さんは小さく呆れのため息。
「…まるで私の妹みたいね」
「えっ…教官、妹さん居るんですか?」
「えぇ。今年から防衛校生徒よ」
ほぉー。姉妹で防衛要員とは。教官と同じく、真面目でおしとやかな子なんだろうか。
もっと色々、妹さんのことを聞きたかったが…「今はあなたの話をしているのよ」と話題を戻されてしまった。
「何か…壁を感じるのよね…。もっと笑ったり…年相応に振舞っていいのよ?」
「そう言われましても。これが私です」
面識のある相手に笑うのはまだ、まだ難易度が高い。ついでに私は常に無表情なので、笑顔はいちいち意識する必要がある。
彼女のアドバイスは確かにその通りだ。しかし、実行できるかどうかは、また別の問題である。
というか、やはり…まだ人は怖い。問題の先送りだが、知り合いを作るのはもっと後とか、別の日にしていいんじゃないかな…。
きっと先生から見たら、心を閉ざしていると見られているに違いない。しかも記憶喪失。戦闘地域に居た、たった1人の幼い少年。傍から見れば、孤独な惨劇の生存者。
すみません、ただのコミュニケーション障害なだけです…。
その内、メンタル診断でも受けさせられそうだ。何とかしなければな…。
そんなことを考えていたからか、先生が小声で荒療治という小声の呟きに、私は気が付くことはなかった。
・・・
・・
・
「……ふッ!」
64式小銃に銃剣を付け、紙の標的へ一突き。今日の自主訓練では近接戦に集中している。
銃剣。射撃武器が発展した今の時代では、剣なんて無用なものであるが、防衛校は市街地戦が多いので、至近距離戦闘が多くなる。
だから、白兵戦の訓練は必須といえるだろう。――ってそうじゃない。
「あのー、すみません」
これでは今までと同じではないか。やはり、新しいことをするというのは難しい。
しかし、現状のままでは良くないのも確か。頭では分かっていても、実行できない自分の性格に呆れるばかりだ。
「あのっ」
「はい!?」
深い思考に浸っていた私の意識は、聞いたことのない声によって引き戻された。
急いで銃剣を外し、銃剣カバーへ収納。安全管理を徹底。
振り向くと、セーラー服の女子中学生が2人。
パープルカラーのショートボブ。髪と同じく、鮮やかな紫色をした瞳。
上から下まで、よく手入れされた髪の毛や服。恐らく、かなり気を使っているんじゃないだろうか。おしゃれ好きか。
もう1人は、黒色の髪。セミロング…いやロングヘアーだろうか。背中の半ばまで綺麗な髪の毛が伸びている。
しかし、その目つきは鋭く、少し薄い赤みを帯びた、黒目。澄み切った瞳は、凛とした――勇敢そうな顔つきが、強く印象に残る。
そして2人とも、落ち着きのあるクールな顔だ。きっと静かなグループなんだろう。
個人的に、静かな連中は好きだ。私も話すのは苦手だし。
それにしても女子中学生と会話とは緊張するな…。何と返せばいいのだろうか。
というか中学生と会話って事案では…と思ったが、今の私は男子高校生。セーフだな。…高校生。ああ、なんといい響きか。高校生…。
…して、このような美少女中学生が、何用だろうか。
防衛校生徒の家族さんとかだろうか? 姉がここに通ってて…みたいな。
ならば恐らく今後、私とは関係のない者だ。愛嬌でも振りまいておくか。
「どうされましたか?」
穏やかな声で、小さく微笑み。
完璧だ。接客業ならばかなりの高得点に違いない。しかし。
相手は紫ショートボブの子が嬉しそうに笑い返してくれて、黒髪の子は相変わらず無表情。
うーん。そう何度も上手くいくわけないか。
「急にすみません。今日、ここの見学に来たんですが…」
「あー、なるほど」
もうそんな時期なんだなぁ、と昔を思い出して黙々と考える。
しかし、見学。……うん?
「ええと…ここに進学を?」
「はい、古流高校です」
何て…こった…っ! つまり彼女らは…今後の同級生、つまり同僚ではないか。
これは今後の関係のために、慎重に会話する必要がある。
と、ここで黒髪ちゃんから意味不明な発言。
「それで先生から、ここに居る水本さんって人が案内してくれると聞いたんですが」
「えっっっ」
ちょっと待って聞いてない。どういう事なの…。
確認します…、とだけ言い残し、少し離れて小型無線機を使用する。
「DDA古流、水本。豊崎教官、今、よろしいでしょうか」
『水本、こちら豊崎。個人回線だから無線規定と用語は必要ないわよ』
「そ、そうですか…。ええと、あのですね…。……見学に来た女子中学生が居まして、何故か案内人が私なんですよ…」
控えめに言って意味不明な状況だったので、しどろもどろな状況説明になってしまった。
この後、更に意味不明な返答を頂くのだが。
『あなたで間違いないわ。ちょっと強引だけど…荒療治、よ』
「…な、なんてことを……」
『せっかく同年代の子と会えたんだから、可能な範囲で話してみなさい。おわり』
おわり…通信終了という意味を持つ用語と共に、無線が切れる。
会話しろって…。ふええぇ…、難易度高すぎだよぉ。
…しかし、遅かれ早かれ、初対面の人と話す必要があったし、彼女らはもうすぐ入学するのだから、逃げという選択肢は元々なかったとも言える。
これも指導の1つか。いざという時、言いたい事があっても言えません、じゃ困るしな…。
…私のために気を回してくれたのだ。どんな結果になろうとも、ベストを尽くそう。
「…すみません、お待たせしました。水本 要です、本日はよろしくお願いします」
覚悟を決め、彼女らの位置に戻り、丁寧に挨拶。
物静かな顔をした2人だ。きっと、同じような挨拶が返ってくるに違いない。これなら何とかなりそうだ。
…なんて、思っていたのだが。
「初めまして!
「!?」
紫ショートボブの子から、笑顔で元気に挨拶。
…面喰ってしまった。
何というか、とてもクール系な顔だったので、こんなテンションで挨拶されるとは、予想外だ。明るいキャラに見えない。ギャップが凄い。
「…
黒髪の子は顔と同じく、クール系みたいだな。安心した。
これで元気な挨拶2連続、とかだったら、私の指揮統制率は0になって戦闘不可能になっていたと思う。
「それにしても、本当にみんな、銃を持ってるんですねぇ…」
「当たり前でしょ、防衛校なんだから」
朝戸さんが関心しながら周りを見渡し、白根さんが突っ込みを入れる。
確かに、高校生が銃を持っているなんて…こんな風景、そうそうないよな。
現に、私も肩から
「…持ってみますか」
「い、いいんですか?」
正直、民間人に銃火器を渡すのは問題かもしれないが…。数か月もすれば、彼女らもここに入学して、戦うことになる。早くライフルに慣れたほうがいいのかもしれない。
手早く槓桿を引き、薬室を確認。実弾なし、安全だ。安全装置を再確認。
それらの動作を見て、おぉ…と小さな賞賛の声が2人から上がる。
「随分手馴れてるんですね」
「安全確認は一番大切なことですから…入学したら毎日のように言われますよ」
安全のため引き金には決して触らないように、とだけ伝え、小銃を彼女に渡す。
最初に受け取った朝戸さんは、すぐ渋い顔になった。
「け、結構重いです…!」
「4,300gですからね…」
「これが…銃…」
白根さんも同じような反応だったが、銃の重さより、初めて触る武器に緊張しているようだ。うっすらと汗が流れている。
…彼女らはまだ中学・高校生。本来なら、武器なんて持たなくていい世代。こんな反応になるのも当たり前か。時間をかけて適応していくしかあるまい。
「えっと…水本さんは今、何年生なんですか?」
2人から小銃を返してもらい、校庭を案内している時、私に質問事項が。
…また答えずらい質問だ。何と言うのが正解なんだろうか。
「…何というか、ちょっと説明できません。入学はしましたが、まだ正規の生徒ではないというか」
「じゃあ…私たちと同年齢なんですか?」
「そうですね…」
「でも先に防衛校に入学してるし、…ちょっとだけ先輩ですねっ」
「はうっ」
先輩という言葉を聞いて無事撃沈する私。…ここだけの話、私は先輩・後輩という言葉に大変弱い。好き。
二次元の萌えワードの定番の1つである。一度も言われたことが無かったので、尚更のこと、あこがれが強かった。
まさかこんな形で言ってもらえるとは。
「先輩って言葉、好きですか?」
「…否定はしません」
「ふふふふ、そうですか」
何というか、朝戸さんは…とても会話が上手な人だ。コロコロと表情や話題を変え、上手に場を盛り上げてくれる。
コミュニケーション能力が大変高い。おかげで私は、先ほどから掌で踊らされているような気分だ。翻弄されている。
つまり、口数が多くなってしまっている。このままではボロを出しかねない。さっさと退却せねば…。
「ん……おー、後輩。どうした」
「伽鳥先輩…! ナイスタイミングです!」
「…?」
この声は伽鳥先輩。まさに渡りに船、だ。
ありがたい…! 最初から面倒見のいい先輩に任せれば万事解決だったではないか。
そもそも私は校内を知らない。さっさと引き継ぎをして、後をお願いする。
「じゃ、未来の後輩ってわけか。めんどくせーなぁ…またひよっこが増えるのか」
そんなことを言っても、頬を染めている伽鳥先輩。やはり、後輩が増えるというのは嬉しいものなんだろうか。
先輩と見学2人が挨拶を交わしているのを見守る。
……しかし、この2人は…、どうして防衛校に来たのだろうか。
ここに入学するということは、民間防衛の最前線に立つのだ。
どうしても他の人が戦う理由が聞きたくて、私は言葉を発した。
「…2人はどうして防衛校に?」
「ええと、…色々と理由はあるんですけど、その…イクシスと――」
「未世」
ためらって、はっきり言わない朝戸さんに、白根さんが声をかける。会話の途中だったが、愛想笑いで誤魔化されてしまった。
…言いずらいことなら、別に強要する気はない。そもそも、我々は知り合ったばかりなのだ。
次に目線を白根さんに移し、無言で彼女の回答を待つ。
「優遇制度とか目的はあるけど…」
優遇制度。
防衛校生徒は敵勢力との交戦、そして民間人保護という役割、義務がある。
これら義務の対価として、指定防衛高等学校進学者は、在学中から卒業後に至るまで、各種社会保障の優遇措置を受ける。
これを目当てに進学する生徒も少なからずおり、優遇措置は効果を上げているといえるだろう。
これらの制度だが、非常に給料がいい。
こんなご時世、命を張る仕事の地位は高いようで、軍人はなるべくお金に不自由しないよう配慮がなされている。
私も実戦任務こそ経験したことはないが、数回だけ歩哨任務を受けたことがあった。
歩哨、つまり突っ立っているだけ。警備員みたいなものだが、それでも給料が出て驚いた。
これが戦闘任務だとか危険な作戦になれば、特殊勤務手当だとか、危険手当みたいなもので、更に多めの給料が支払われる。
それらの給料を使って自腹で装備を買って、更に戦闘効率を高める生徒も居るそうだ。
なるほど。お金目当てか。将来のためとか理由は色々あるだろうが、お金はいくらあってもよい。政府が機能している限り、役に立つからな。
しかし、白根さんはまだ理由があったのか、やっぱり―――、と言葉を続ける。
「
「り、凛ちゃん……!!」
うるうると涙があふれそうな顔をして、朝戸さんが抱き着く。白根さんも嬉しそうで、まんざらでもない感じだ。
尊い…。
くっ…視界が滲む。もらい泣きしてしまったようだ。
…この2人にもきっとここまで、様々な困難があったんだろう。
しかし、イクシスという厳しい時代の波に飲まれても、彼女らの絆は揺らぐことなく、強く結びついているようだ。私もこんな友達が欲しかった…。
戦う理由は人それぞれだろうが、私はこんな光景を…こんな景色を守れる男になりたい…。
伽鳥先輩も、このひよっこ2人が気に入ったようで、嬉しそうに校内案内を始めるのだった。
・・・
・・
・
校内の案内を伽鳥先輩に任せ、付近に誰もいなくなり――私の周りには静寂が残った。
未来の同僚と友達にこそなれなかったものの、ああいう戦う理由もあるのかと、感動していた。何故か、清々しい気分だった。
「上機嫌ね、上手くいった?」
「豊崎教官」
後ろからゆっくりと豊崎さんが近づいてきた。先ほどの件の報告を聞きに来てくれたみたいだ。
「私、もっと強くなって…多くのものを、守れるようになります」
「…ええと、友達を作った…のよね?」
「いえ! 友達にはなれませんでしたが、知り合いにはなったと思います!」
「どういうことなのよ…」
どうやら荒療治は失敗したようで、教官はよろよろとうろたえる。この新人に友達ができるのは、まだ…もう少し、時間が要るようだった。
・・・
・・
・
「ごきげんよう。…んんっ、まだ声が低いかな…」
鏡に映る長い髪。整えられた眉毛や目。
放課後。声の音高を調整しながら、私は女装していた。
いきなりとんでもない…インパクトのある言葉で申し訳ない。待ってくれ、聞いてほしい。これには事情があるのだ。
自分のカバン内部に丁寧に入っているブレザー。城宗高の制服だ、これを返却しに行こうと思っていたのだが。
城宗は女子高…女子高等学校なのだ。つまりその…、女性しか居ないのだ。しかも、かなりお堅い感じの、お嬢様学校らしい。
そして私は男、男性だ。目立ちまくる。…ので、女装をする。
いや、普通に行けばいいだろ…と言われたら、そのとおりなんだが。
この時の私は、余程目立ちたくなかったのか。久々に多くの人と会話をしたせいで、思考能力が落ちていたのか―――本気で、女装を考えていた。
髪はかつら。ロングタイプを着用して、顔が隠れるのを期待する。
顔は元々の出来がいいので、少し整えて、このままでも行けるかも。化粧はさすがにやり方を知らない。無理だ。
声はもう仕方ない、そこは上手く臨機応変で行くとして。
「学生ズボンは…まずいか」
男性用の学生ズボンを着ている女子高生は、多分居ないと思う。下は…ジャージでカバーできるか…? 上半身も制服の上にジャージだな。もう上下ジャージでいいだろう。
これなら陸上部とかの運動系の恰好に見えるな、よしよし。
…結構アリだな。行けるんじゃないだろうか。
運動部のクール系お姉さんって感じになった。ロングの髪というのも中々いい。豊崎さんや白根さんのようだ。
きっと今まで、多くの異性を泣かせてきたに違いない。…中身が私じゃなければ、の話だが。…この下り、今朝もやったような…。
ともあれ、自信が湧いてきた。こう見えても潜入は得意だ。そもそも、私は影が薄い――存在感のない男だからな。
誠心誠意、謝罪して、素早く離脱。簡単な任務になりそうだ。
・・・
・・
・
私立 城宗統合学院 前。
来たはいいが、椎名さんがどこに居るかなんて、全く見当もつかない。残念ながら、現実にはミニMAPもマーカーもないのだ。
通学路でたむろしている女子高生たちに聞いて、情報収集する。
「し、失礼…1年の椎名さんはどちらに」
た、頼む…。上手くいってくれ。ここでバレたら変態どころではない。
私は決して、決して――やましいことをしに来たのではないのだ。
「今日は誰かと帰るって話でしたよね?」
「うーん、待ち合わせなら校門だと思いますが…」
待ち合わせ。つまり、時間が無いということだな。迅速に行動し、素早く作戦目標を達成する必要がある。
「その、あなた…声低いけど大丈夫ですか…?」
「あぁっー…、ええっと、元からこんな感じです、はい…」
怪しい言い訳すぎるだろ…。しかし、もはや長居は無用。前進する。
情報提供者に静かに頭を下げて会釈。圧倒的感謝。…極力声は出さないほうがいいかも。
去り際、何か小声で言われているような気がしたが…時間がないので、素早く移動する。
・・
・
…その人が立ち去った後、すぐひそひそと。女子高生たちの、話の種になった。
「い、今の人…結構…かっこよくなかった?」
「え、女の人じゃないの?」「声は男の人っぽいけど」
「古流の生徒みたいだったよ?」
その後、しばらく長髪クール系生徒の噂が話題になり、古流高校に探しに来る他校女子生徒が増えるが――、それはまた、別の話。
・
・・
ふらふらと校門に近づいていくと…居た。
忘れもしない、綺麗な白水色のセミショート。
端のほうで、ぽつんと突っ立っている。好機だ、人目が少ない今こそ、突撃の時…!
「あの、突然すみません」
声をかけると、彼女の肩がビクッと跳ねる。誰かに話しかけられるのは、予想外だったのだろうか。
私の姿を見て、一言。
「…誰」
ですよね。そりゃそうだ。髪も服装も違うし、身元を隠蔽しようと、必死に顔まで隠している自分は、完全に不審者である。
むしろ気づいてくれたら運命感じるレベル。
正体を明かしてお礼と謝罪をしたいので、もっと物陰に来てほしいのだが…。
「六花さん、お待たせしましたわ。…こちらの方はお知り合いですの?」
穏やかで、品があるような優しい声。
後ろ髪を左右に分け、サンドベージュのような落ち着いた髪色。
何より、美しい緑の瞳。やや日本人離れした…外国人のような美少女。…がこちらに来た。
その問いに、もちろん椎名さんは首を振って拒否する。
んんー? ここでまさかの第三者。そういえば誰かと帰る、とかなんとか情報提供者が言ってたけど。早すぎない?
つまり、増援部隊である。……撤退したい。
いやいや。…駄目だ、ここで退いたら、それこそ完全に不審者である。
年貢の納め時、だな…。幸い、周りの人もそんなに多くない。真実を知るのも、目の前の2人だけだろう。
観念してかつらを取り、変装を解く。さすがに気づいてもらえたようだ。
「…あの時の」
「あら、あの時のって…彼ですの?」
その問いに椎名さんは静かに頷く。それらの会話の後、上品そうなお友達がくすくすと笑う。
不審者扱いから逃れたのはいいが、どうしてこんなに笑われているんだろうか。おろおろと困惑する私。
「うふふふ、ごめんなさい。駅寝していた面白い子って聞いてましたわ。
女装して来るなんて、噂通りの人ですね…ふふふっ」
「いや、違うんですよ…女子高って聞きましたし、その、私なりの配慮といいますか…」
我ながら見苦しい弁解だった。笑いのツボにはまったのか、彼女はまだくすくす、とお上品に笑っている。
上品そうに見える彼女だが、どこか、いたずらっ子のような…そんな雰囲気も感じられた。この状況、楽しんでますよね…?
というか、駅寝してしまった件…そんな風に言われてたのか…恥ずかしい。
あぁーっ…、本気で恥ずかしい。帰りたい。こんな辱めを受けるとは。くっころ…。マジノ線まで後退して引き籠りたい。なお迂回される模様。
もういい、十分だ。早く上着を返して帰ろう。さっさと脱出するんだ…!
「ええと、遅くなって申し訳ありません…ありがとうございました」
丁寧に、ビニールで包まれたブレザーを手渡す。
その際、腕を前に出すので上着の袖についている、古流高校の校章が目立つ。どうやら、彼女もこれに気が付いたようだ。
「…古流の生徒だったんだ」
「あぁ、いえ…最近入学したといいますか…」
「…ふぅん…」
上から下まで、装備の1つ1つさえ、品定めするようにじっくり見られている。
そんなに見られると、何だか恥ずかしい。
「…辞めたほうがいい。向いてない」
「う…」
辛辣ぅ…。こうも包み隠さず、直球で言われるとつらい。どんよりと落ち込む。
やはり、顔や装備、雰囲気を見ただけでそういうの、…経験不足、は分かるものらしい。
「言いすぎですわ、椎名さん。…ごめんなさい、これでも心配しているんですの」
言い方がキツイだけで、私の身を案じての発言だったらしい。死にたくなければ、さっさと辞めておけ…そういう事か。
優しい人だ。その気持ちはありがたいが、私にも意志と意地くらいある。
「自分だけ物陰に隠れているなんて、嫌です。…私も戦います」
「…なら、強くなって」
戦いたければ強くなれ…ということか。いいだろう、受けて立つ。
つい面子を気にして、大きく出て言い返してしまう。私はただの女装男子ではない。ここで威厳を回復させるのだ…!
「ええ、すぐに追いついて――いえ、追い抜かして…強くなりますよ」
「あらあら、まさかのライバル出現ですわね。しかも異性の。関東圏最強の椎名さん?」
……うん? 関東圏、最強?
何その通り名みたいなの。…かっこいい。
そうじゃない。最強ってどういうことだ…。そ、そんなに実力のある人なの…?
そもそも、彼女が特殊戦みたいな兵科に居ることは予想してあったハズだ。迂闊だった。
思った以上に、とんでもない失言をしてしまった。ヤバいのでは…?
「…楽しみにしてる」
楽しみにされてしまった。されても困る。こちらとら、まだ正式
ま、まぁ多分…彼女も本気にしてないだろう。新兵の戯れ言だ。
…とりあえず自己紹介だけでも、済ましておこうか。
「ええと、古流の水本です。水本 要。よろしくお願いします」
「…城宗 1年、
今度はフルネームで教えてくれた。相変わらず、無表情だが。
「私立丹下高校 1年、
以後お見知りおきを、って挨拶使う人初めて見た。いや、初めて…は言い過ぎかもしれないが、珍しい挨拶だ。私の世界じゃ死語とか、瀕死語なんて扱いを受けている、影の薄い挨拶であった。
本当のお嬢様ってわけか。ごきげんよう、とか使ってたりするのかな…。
次の言葉を待っていると、彼女はじっ、と返したブレザーを眺めている。何か問題があっただろうか。
「…ドーナツみたいな色。久々に食べたいな」
「…え?」
「いいですわね、行きましょうか」
「え? え?」
ちょっと何言ってるか分からない。そういう話と雰囲気でしたっけ。何で蓮星さんも普通に会話してんの。私が変なの…?
「い、いつも、こんな感じ…なんですか?」
「えぇ、そうですわね。 ……ところで、水本さんもご一緒します? 色々お話してみたいですわ」
「よ、よろしいのでしょうか…?」
私の不安げな問いに、蓮星さんは笑顔で、椎名さんは無表情だが――2人して頷く。
「で、では…失礼します」
「そんなに緊張なさらず。それでは…今日はミスドーナツにでも行きましょうか」
ミスドーナツって。女性敬称なのはあべこべ世界だからか。略称だと前世と一緒の呼び方になってしまうけど。
というか、放課後にドーナツ屋さんって女子高生かよ。…女子高生だったわ。私がこんな青春っぽいことに参加していいのか。
その後、色々聞いたが――蓮星さんの丹下高校は「航空管制」をカリキュラムに組み込んだ全国でも珍しい指定防衛校の生徒。現代戦の要である、航空戦力と前線地上戦力を円滑に結びつけることができる人材の育成を教育目的としている防衛校に在校しているとか。
彼女が属する特殊戦科は、前線部隊に同行して綿密な航空支援を要請・管制できる「統合火力支援管制員」の資格を卒業までに取得を目指す学科であるが、その門は狭く険しい。…らしい。
つまり、軍で言うと…
または、
某防衛軍に例えて言うなら、エアレイダー。分かりやすく言うと、空爆要請兵。
もっと簡単に言うなら、地上から軍の飛行機を誘導する人。
…意味が分からない。将来的には資格さえ取得できれば、彼女の指示で輸送ヘリが飛んできたり、場合によっては戦闘機が空爆するということだろうか。
高校生が航空管制に空爆指示とか、とんでもない世界だな…。
椎名さんは統合特殊作戦科。
「特殊部隊」開発・育成を目的に設立された指定防衛校、私立城宗統合学院の生徒。
エリート校として名を馳せる城宗統合学院で――更に精鋭の、特殊戦科に所属している。
物静かで大人しい性格。だが、鋭い観察眼と身体能力を持っている、らしい。
だが、戦闘から離れると、途端に物事に鈍感になる。反応も鈍い。ちなみに蓮星さん曰く「昔からそんな感じ」だと。
恐らく、戦闘モードでのスイッチオン、オフがあるのだ。切り替え上手な兵士のようだ。
ちなみに、これらを話してくれたのは、ほぼ蓮星さんである。
椎名さんも、会話に参加しているものの――頷いたり、それは言わなくていい…とか、少し照れながら小声を挟む程度。あまり話さない。
今のように、無口で大人しい人だが…戦闘になると、恐ろしい戦闘力を発揮する、らしい。…ええー?ほんとにござるかぁ?
…ともあれ。つまり、この2人は…特殊戦科と統合特殊作戦科。精鋭コンビ。
お、おかしい…。おまえらのような高校生がいるか。
少々…いや、かなり…私の知っている女子高生とは、かけ離れている彼女らだが…
そんな2人も、好きな食べ物の話もするし、明日の課題の愚痴だってする。
…何だかんだ言っても、やはり年頃の女の子なのだ。
不思議な子たちだけど、その前に、普通の子なんだ、と再認識させられた。
…自分は一体、何を恐れていたのだろうか?
拒絶されること、だろうか。
豊崎教官。伽鳥先輩。今日、そして今まで出会った人たち。私が彼女たちに、一度でも突き放された時が、あっただろうか。
時代、状況が違っても同じ人間だ。
人と話すのが怖くて、言い訳して、壁を作って、逃げていたのは、私のほうではないか。
…恐れなくていい。彼女らは普通の女子高生で。そして、彼女たちは共に戦う仲間だ。
そんな…簡単なことだったのだ。
「とてもいい表情ですわ。何かありました?」
「……ええ、気持ちの整理がつきました」
…そうだな。
次からは――もう少しだけ、自分から…人に歩み寄ってみようと思う。