夏休みに入った。
テレビではあかつき大附属高校の活躍しているところがニュースに取り上げられている。
[一年生の怪物 猪狩守]とスポーツ新聞に乗るほど、俺が戦ったあの投手はこの世界で腕の立つ高校球児だったようだ。
パワプロ高校の熱血監督のお陰で夏休みは毎日毎日、一日練習の予定が入っていた。
練習から帰れば夜の空いた時間に昼間やっていた甲子園の結果等を見ながら宿題を消化する。こんな生活が続いている。熱血監督のせいなのか、今年の夏は非常に暑く感じる。
と言っても、俺はその程度でプレーに影響が出るような二流選手ではない。
問題はチームメイトである。
気合いだけは一人前の山道は、午前に投げ込み午後にノックとバッティング、帰る一時間前に筋トレのメニューを最後までやりきっている。やりきるのはいいのだがこなすのに必死で一つ一つから得るものが少ないように感じる。これは、元の頭の良さも関係するのだろうが…
俺や矢部達の練習はマラソンから始まり、ノック、実践形式のバッティング、そしてトンボ掛けで終わる。
こいつらは根性ややる気すら足りてないようでマラソンではよく手を抜いて走るし、ノックも積極的ではない。バッティングだけはやる気を出しているのだが……
そして次の日、また朝から学校へ向かう。
「はぁーはやく練習終わんねーかなー」
「オイラも早く帰ってゲームをしたいでやんす」
こいつらのモチベーションは日に日に落ちていっているな……休憩の時に少し注意するか。
「お前ら!もっとやる気を出せ!」
「ひぃ!日向君、朝から大声でその野太い声を聞かせないで欲しいでやんす」
「そうだぜ、お前まで監督の熱さが移ったのか?」
「真面目にやってれば、監督みたいな熱血タイプじゃなくてもお前らに怒鳴りたくなる」
「俺らまだ一年だぜ?来年頑張ればいいじゃねーかよ」
「お前多分来年の夏も同じこと言うぞ?」
「言わねーよ」
「それにオイラ達は日向君と違って才能も肉体も恵まれてないでやんす。おいら達みたいな負け組はそこそこ楽しく野球が出来ればいいでやんす」
「……矢部、お前50mのタイムいくつだ?」
「6.9でやんすが?」
「俺のタイムは7.4だ。矢部、お前にはその足があるじゃないか。誰にだって取り柄はある。頑張れ」
「じゃあ俺らには何があるんだよ?お前みたいな筋肉もないし技術もねーぞ?」
「お前ら勘違いしてるようだが、俺は打つときに力なんてほとんど入れてないぞ?」
「はぁ?嘘つけ」
「俺は普段50%の力でしかボールを打っていない」
「なんだよ、自慢かよ」
周りの連中から野次が飛んでくる
「考えろ!何故そんなに力を入れてなくても飛ぶのかを!」
「そりゃ、お前が50%の力でもかっ飛ばせる力があるからだろ?」
「違う!まったく違う!」
「じゃあなんだよ!」
「芯だ!俺はバットの真芯でボールを捉えるようにしているからしっかりと打ち返せるんだ。つまり、何が言いたいかと言うとだな、しっかりと真芯で捉えれば長打は打てるんだ。だからお前ら、バッティング楽しいな~で終わらせず、しっかりと真芯で捉える練習をするように。他の練習もしっかりと目的をもってやるようにしろ」
「お、おう…わかった……」
「俺は監督に呼ばれてこれから山道の相手をしなきゃならん。しっかりやっとけよ!」
「ひゅ、日向君なりの励ましかたなんでやんすかね?と、とりあえず練習するでやんす!」
ブルペンで投げ込みをしている山道の元に訪れた。
「調子はどうだ山道!」
「おう、今日は絶好調だぜ!」
「出来れば調子の波は無くして欲しいのだがな」
「まあそう言わずに俺の球を受けてくれよ」
「わかった。しかし、構えたところからボールひとつ以上ずれるようなら俺は容赦なく午後のノックでシゴいてもらうよう監督に伝えるからな」
「へっ!鬼ノックだってどんとこい!」
「いや、そうならないように努力するところだろ……」
山道のストレートは要求したインローギリギリのところから約ボール半個文中に入ってきた。他の球もだいたい似たような誤差だった。
「ストレートは良いようだな!次、変化球投げてみろ!」
変化球は全体的にボール一個分以上ずれていた。
特にカーブのコントロールは荒く、失投も目立った。
「山道、コントロールもそうなんだが、出来れば投げ方も全球種近いものにしてくれないか?」
「俺、そんなにフォーム違うか?」
「全然違うぞ、変化球を投げるときは腕の振りが遅いし足の動きもコンパクトだ。ストレートみたいに思いっきり投げろ!」
「お、おう。意識するぜ」
山道、俺はお前のその気合いを買っているんだ。期待に応えてくれよ。